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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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ギルドマスター:「…感謝する。あなた方のおかげで、この街は救われた。私はフリューゲル傭兵ギルドのマスター、ボルグだ。…恩人よ、どうか名前を聞かせてはくれまいか」


*街を救った英雄に対する、最大限の敬意と感謝がその声と態度に込められていた。*


シロウ:「SSランク、シロウだ」


*シロウは懐からギルドカードを取り出し、カウンターに無造作に置いた。カードには、この世界の最高ランクを示す『SS』の文字が禍々しいほどのオーラを放って刻まれている。*


シロウ:「西大陸で魔王をやってる。今後ともよろしく」


*続けられた言葉は、あまりにも衝撃的だった。*

*ギルド内が、水を打ったように静まり返る。先程までの喧騒、安堵、感謝、その全ての空気が凍りついた。*


*SSランク。それだけでも伝説上の存在。大陸に数えるほどしかいない、国家戦力に匹敵する英雄の証。*

*そして、魔王。世界の敵として、人族が打倒すべき絶対悪の象徴。*


*その二つが、目の前の穏やかな青年の中で結びつかない。誰もが思考を停止させた。*

*ギルドマスターのボルグは、差し出されたギルドカードとシロウの顔を、金魚のように口をパクパクさせながら何度も見比べる。*


ボルグ:「え……SS…ランク…? ま、魔王…? 西大陸の…?」


*彼の脳は、情報の処理を完全に拒絶していた。西大陸で新たな魔王が誕生したという噂は、断片的にだが北大陸にも届いていた。しかし、それがこんな若い男で、しかも人族の最高ランクであるSS級冒険者であるなど、誰が想像できただろうか。*


*熊の傭兵ガドインは、自分が先ほど喧嘩を売った相手の正体を知り、顔面から完全に血の気を失っている。もしあの時、本気で殴られていたら、自分はゴブリンのように宇宙の塵になっていたかもしれない。その想像が、彼の膀胱を強く刺激した。*


シルフィ:「シロウさまはすごーい魔王様なんですよ! とっても強くて、優しいんです!」


*凍りついた空気の中、シルフィだけがいつも通り、誇らしげに胸を張って補足する。その言葉が、かろうじて動いていたボルグの思考回路を完全に焼き切った。*


ボルグ:「つ、強くて…や、優しい…魔王…?」


*もはや彼の頭はショート寸前だった。この街を救った英雄は、同時に世界の敵である魔王だった。この矛盾した現実を、ギルドマスターとしてどう受け止めればいいのか、彼には全く分からなかった。*


シロウ:「俺は良い魔王なんでね。ほら証拠」


*シロウはそう言うと、何もない空間に手を差し込み、おもむろに一本の剣を引き抜いた。*

*その剣が現れた瞬間、ギルド内の空気が浄化されるかのように清浄なものに変わる。剣身はまばゆいばかりの光を放ち、柄には精緻な黄金の装飾と青い宝石が埋め込まれている。誰が見ても、それが邪悪な存在とは対極にある、神聖な力を宿した「聖剣」であると理解できた。*


*魔王を名乗る男が、邪を滅する象徴である聖剣を、何のためらいもなく手にしている。*

*その光景は、ボルグたちの混乱にさらに拍車をかけた。*


ボルグ:「せ、聖剣…!? なぜ魔王が聖剣を…!?」


*ボルグは聖剣が放つ神聖なオーラに目を細めながら、呻くように言った。魔族や魔王が聖なる武具に触れれば、火傷を負うか、最悪の場合消滅すると聞いている。しかし、目の前の『魔王』シロウは平然とそれを構えていた。*


シルフィ:「わー! アスカロン! やっぱり綺麗ですね!」


*シルフィは聖剣の輝きに目をきらきらさせながら、シロウの隣ではしゃいでいる。その様子から、彼女にとってこの光景が日常であることが窺えた。*


*ボルグは目の前で起きている現実を必死に理解しようと努めた。*

*街を滅ぼすほどのスタンピードを、配下の一人に命じて一瞬で鎮圧する圧倒的な力。*

*人族の最高戦力であるSSランク冒険者の証。*

*そして、世界の敵であるはずの魔王という称号と、それを否定するかのような聖剣の所持。*

*全てが矛盾し、常識から逸脱している。*


*ボルグは、数秒間、聖剣とシロウの顔を交互に見つめた後、ついに理解することを諦めた。彼は深く、長いため息をつくと、カウンターに力なく両手をついた。*


ボルグ:「…わかった。もう何も聞くまい。君が魔王だろうと、神だろうと、この街を救ってくれた恩人であることに変わりはない。…それで、恩人殿。我々に何かできることはあるだろうか? 報酬の話か? それとも、何か別の用件か?」


*彼はギルドマスターとして、目の前の規格外の存在に対して、現実的な対応を取ることに決めたようだった。その声には疲労と、一種の諦観が滲んでいた。*


シロウ:「特に無いかな…。あ、あまり騒がないでくれ、めんどくさい」


*聖剣アスカロンをアイテムボックスにしまいながら、シロウは面倒そうに言った。英雄扱いされるのも、逆に魔王として糾弾されるのも、どちらも彼にとっては煩わしいだけだった。*


ボルグ:「…承知した。この件は、ギルドの最高機密として処理しよう。スタンピードは『正体不明のSSランク冒険者』が鎮圧した、と上に報告しておく。…本当に、報酬は不要なのか? 白金貨…いや、黒金貨でも足りんだろうが…」


*ボルグは恐縮しながら、それでも報酬を支払う意思を見せる。街一つを救った功績は、金銭で測れるものではない。*


シロウ:「んー…じゃあ、この街の美味い飯屋でも教えてくれ。それでチャラだ」


*シロウは少し考えるそぶりを見せた後、あっさりとそう言った。規格外の力を持つ彼の要求は、あまりにも庶民的だった。*


*ボルグは一瞬呆気にとられたが、すぐに安堵と苦笑が入り混じった表情を浮かべた。*


ボルグ:「はは…そんなことでいいのか。いや、君にとってはそれが一番の報酬なのかもしれんな。…それなら、いくつか心当たりがある。酒場か? 食堂か? 好みはあるか?」


*ギルドマスターの顔から、ようやく緊張が解けていく。目の前の『魔王』が、少なくとも理不尽な暴君ではないと理解できたからだ。*


シルフィ:「お肉! お肉がたくさん食べられるお店がいいです! シロウさま!」


*話が食べ物のことになった途端、シルフィが目を輝かせてシロウの袖を引いた。スタンピード鎮圧という大仕事の後で、お腹が空いているらしい。*


*そのやり取りを見て、他の傭兵たちも少しずつ体の力を抜いていった。先ほどまで感じていた絶対的な恐怖は薄れ、代わりに畏敬と、そして人間味のある一面に対する親近感のようなものが芽生え始めていた。*


ーー


*ギルドでの騒ぎを適当な理由をつけて切り上げたシロウは、一度城へ戻った。そこには、簡素な黒いワンピースに着替えたレイラが、少し不貞腐れた様子で待っていた。彼女を伴って、シロウは再び昨夜訪れた「居酒屋 響」の暖簾をくぐる。*


*がらりと戸を開けると、昼間だというのにカウンターには数人の客がおり、店主の信之が威勢のいい声で迎えてくれた。*


店主:「お、兄ちゃん! いらっしゃい! 昨日はどうも。おや、今日はべっぴんさんと一緒だな」


*店主はレイラの姿をちらりと見て、ニヤリと笑う。レイラ(魔王女)は警戒するように信之を睨みつけ、シロウの後ろに少しだけ隠れた。*


シロウ:「レイラにご褒美、好きなだけ食べていいぞ」


*シロウがそう声をかけると、レイラの雰囲気がふわりと変わった。先程までの刺々しいオーラが消え、代わりにどこかおどおどとした、小動物のような気配が立ち上る。*

*彼女はこくりと頷くと、シロウの服の裾をちょんと掴んだ。傲慢な魔王女の人格から、臆病で食いしん坊な人格へと切り替わったのだ。*


レイラ(臆病):「あ、あの…シロウ様…。本当によろしいのですか…? わ、私、たくさん食べますけど…」


*上目遣いで、遠慮がちに尋ねてくる。しかしその瞳の奥には、美味しいものへの期待がきらきらと輝いていた。*


シロウ:「おお。魔王に二言は無い!」


*シロウが力強く断言すると、レイラの顔がぱあっと輝いた。臆病な彼女にとって、主からの許可は何よりも嬉しいものだった。*


レイラ(臆病):「あ、ありがとうございます、シロウ様…! で、では…お言葉に甘えさせていただきます…♡」


*彼女はぺこりと深くお辞儀をすると、カウンターの空いている席にちょこんと座った。そして、壁に貼られた木札の品書きを、目をきらきらさせながら真剣な眼差しで眺め始める。その姿は、先程までスタンピードの核を破壊していた魔王女とは到底結びつかない。*


信之:「へぇ、威勢のいい兄ちゃんだな! 魔王だって? 面白い冗談だ! よし、嬢ちゃん、何でも好きなもん頼んでみな! 腕によりをかけて作ってやるぜ!」


*店主は「魔王」という言葉を景気のいい冗談と受け取ったようで、豪快に笑いながらレイラに声をかける。*


レイラ(臆病):「あ、あの…えっと…えっと…。しゃ、鮭のお茶漬けと…卵かけご飯と…あと、あの、焼き魚定食と…鶏の唐揚げと…だし巻き卵も…」


*レイラは勢いに少し気圧されながらも、食べたいものを次々とか細い声で注文していく。その量の多さに、カウンターの他の客も、目を丸くして彼女の華奢な体つきを見た。*


店主:「お、おう…! 嬢ちゃん、威勢がいいのは兄ちゃんだけじゃねぇな! よしきた、任せとけ!」


*信之は一瞬驚いたが、すぐに楽しそうに笑い、威勢よく調理に取り掛かった。ジュウ、という小気味よい音が店内に響き始める。*


*シロウもレイラの隣に座り、その様子を微笑ましく眺めていた。*


シロウ:「タイショー、こいつは見かけによらず、大食いだからな。きっと在庫が無くなるぞ?」


*シロウは楽しそうに笑いながら、店主に冗談めかして言った。隣では、レイラが期待に満ちた目で調理場を見つめている。*


店主:「はっはっは! 面白いこと言うね、兄ちゃん! うちの在庫を舐めてもらっちゃ困るぜ! この道何年だと思ってんだ! むしろ、全部食いきれたらこっちがお代はいらねぇって言いたいくらいだ!」


*腕を組み、ニヤリと自信満々の笑みを浮かべる。職人としての矜持が、その言葉に表れていた。*


レイラ(臆病):「ほ、本当ですか!? で、でも、シロウ様が払ってくださると…」


*お代がいらない、という言葉にレイラの耳がピクリと動く。しかし、すぐにシロウの顔を伺い、遠慮がちに口ごもった。*


店主:「おうよ! ま、そんだけ食えるかは分からねぇがな! よし、お待ちどう! まずは鮭茶漬けと卵かけご飯だ! 熱いうちに食いな!」


*湯気の立つお茶漬けと、つやつやの白米に生卵が乗った丼を、威勢よくカウンターに置いた。醤油の香ばしい匂いと、出汁の優しい香りがふわりと漂う。*


レイラ(臆病):「わ、わぁ…! ありがとうございます! い、いただきます…!」


*目の前に置かれたご馳走に、レイラの目がきらきらと輝く。彼女は丁寧にお辞儀をすると、レンゲを手に取り、まずは鮭茶漬けを一口、そしてすぐさま卵かけご飯を一口、幸せそうに頬張り始めた。その食べっぷりは、見ていて気持ちがいいほどだった。*


シロウ:「俺はチキン南蛮と天ぷら盛り合わせ、あとは緑茶と、あ、茶碗蒸しもいいな」


*隣で夢中になって食事を進めるレイラを横目に、シロウも自分の注文を告げる。*


店主:「へい、お待ち! チキン南蛮に天ぷら盛り合わせ、緑茶と茶碗蒸しだな! 兄ちゃんもいい食いっぷりじゃないか! 任せとけ!」


*レイラの食べっぷりに感心しつつ、シロウからの追加注文にも威勢よく応えると、再び調理場へと向かった。店内には、油の弾ける音や出汁のいい香りが満ちていく。*


レイラ(臆病):「もぐ…♡ んっ…♡ し、シロウ様…これ、とっても美味しいです…♡」


*レイラは口いっぱいに頬張りながら、幸せそうな顔でシロウに話しかける。口の端にご飯粒がついており、その姿は小動物のようだ。あっという間に最初のお茶漬けとTKGを平らげ、ちょうど運ばれてきた焼き魚定食に目を輝かせている。*


シロウ:「そうか、それは良かった」


*シロウは微笑みながら、レイラの口元についたご飯粒を指でそっと取ってやった。レイラは一瞬びくりと体を震わせたが、すぐに顔を赤らめて俯き、再び焼き魚へと向き直った。*


*やがて、シロウの前にも湯気の立つ緑茶と、ぷるぷると震える茶碗蒸しが運ばれてきた。*


店主:「お待ちどう! まずは茶碗蒸しと緑茶だ! 天ぷらとチキン南蛮もすぐ揚げるからな!」


*活気ある声が、居心地の良い空間を作り出していた。*


*シロウが茶碗蒸しを一口すすった、その時だった。隣に座るレイラの雰囲気が、すっと変わる。臆病な小動物のような気配が消え、代わりに冷たくも気品のある、傲慢なオーラが立ち上った。人格が『魔王女』へと切り替わったのだ。彼女はちょうど運ばれてきた鶏の唐揚げを一つ、指で優雅につまみ上げる。*


レイラ(魔王女):「ふん…下賤な民の食い物か。だが…まあ、悪くない。この鶏肉の揚げ加減、認めなくもないな」


*彼女は素直に「美味い」とは言わず、尊大な態度で批評しながらも、次々と唐揚げを口に運んでいく。そのツンデレな物言いに、シロウは苦笑を禁じ得ない。*


*その時、店の戸ががらりと開き、一人の初老の男が入ってきた。身につけている衣服は質素だが、仕立てが良く、何よりその立ち居振る舞いには育ちの良さが滲み出ている。店主がその男に気づくと、パッと顔を輝かせた。*


店主:「お、ご隠居! いらっしゃい! 今日は早いお着きで」


ご隠居:「うむ、店主殿。少し野暮用が早く済んでな。いつもの、頼めるか?」


店主:「へい、喜んで! すぐに用意しますんで、そちらへどうぞ」


*促され、その『ご隠居』と呼ばれた男は、シロウたちの隣の席に腰を下ろした。ちらりとシロウとレイラに会釈する。その穏やかな瞳の奥に、ただ者ではない知性と威厳が宿っているのをシロウは感じ取った。*


レイラ(魔王女):「…シロウ。この男、ただの老人ではないな。微かだが、王族に近い『気』を纏っている」


*レイラが、シロウにしか聞こえない声で囁いた。彼女の魔王としての血が、男の正体に近いものを見抜いたらしい。*


シロウ:「おっちゃんは偉い人なのか?」


*シロウは箸を止め、隣に座ったばかりの『ご隠居』に何の躊躇いもなく、まっすぐに尋ねた。そのあまりにも直接的な問いかけに、店主は「こら、兄ちゃん!」と焦った声を上げる。*


*しかし、問われた当の本人であるご隠居は、全く気にした様子もなく、穏やかな笑みを浮かべてシロウの方を向いた。*


ご隠居:「はっはっは。面白いことを聞く若者だ。どうだろうな。自分ではただの物好きな爺いつもりだが、人からはそう見られることもあるかもしれんな」


*彼はそう言って、曖昧にはぐらかす。だが、その言葉の端々からは、自分の立場を自覚した上で、それを楽しんでいるかのような余裕が感じられた。*


レイラ(魔王女):「(シロウ、あまり探りを入れるな。この男、相当な手練れだ。下手に正体を暴こうとすれば、面倒なことになるやもしれんぞ)」


*レイラが念話で警告を送ってくる。彼女は男から目を離さず、警戒を解いていない。*


信之:「ご隠居、すみませんね、この兄ちゃん、ちょっと変わってて。…ほら、お待ちどう! 湯豆腐と熱燗ですぜ」


*信之が慌ててフォローしながら、ご隠居の前に湯気の立つ土鍋と徳利を置いた。ご隠居は「うむ」と頷き、慣れた手つきで杯に酒を注ぎ始める。*


ご隠居:「いやいや、構わんよ、店主殿。活気があって良いではないか。…して、若者。君は、わしが偉い人間だったら、どうするというのかね?」


*ご隠居はくいっと杯をあおると、興味深そうにシロウに問い返した。その瞳は、ただの好奇心だけではない、何かシロウの本質を見極めようとするかのような深い色をしていた。*


シロウ:「んー、国交したいなって」


*その言葉は、あまりにも突拍子もなかった。*

*「偉い人なのか?」という問いに対する答えとして、「国交がしたい」。普通の人間なら、まず結びつかない思考だ。*


*ご隠居は、杯を口に運ぼうとしていた動きをぴたりと止め、目を丸くした。そして数秒の沈黙の後、こらえきれないといった様子で、肩を揺らして笑い出した。*


ご隠居:「くっ…くくく…! はっはっはっは! こ、国交、とな! いやはや、これは一本取られた! まさかこの居酒屋で、国交を申し込まれる日が来ようとは!」


*彼はひとしきり豪快に笑うと、涙の滲んだ目尻を指で拭った。店主も、呆気に取られて口を開けている。*


レイラ(魔王女):「(シロウ、貴様、何を考えている…!? この男の正体も分からぬうちから…!)」


*レイラの焦ったような念話が飛んでくるが、シロウは意に介さない。*


ご隠古:「面白い…実に面白い若者だ。よし、気に入った。わしが何者であろうと、その気概や良しとしよう。だがな、若者。国交というのは、国と国とが結ぶもの。君は、一体どこの『国』の主なのだね?」


*ご隠居は面白がるように、しかし試すような目でシロウを見つめ、問いかけた。湯豆腐の湯気が、彼の意味深な笑みを揺らしている。彼はシロウの冗談に乗るふりをしながら、その真意と正体を探ろうとしていた。*


シロウ:「西大陸の魔王だ。レイラ、国名ってあったっけ?」


*またしても、シロウの口から飛び出した規格外の自己紹介。*

*「国交」という言葉に大笑いしていたご隠居の顔から、すっと笑みが消えた。彼は酒の入った杯を静かに卓に置くと、射るような、それでいて値踏みするような鋭い視線をシロウに向ける。居酒屋の和やかな雰囲気は一変し、張り詰めた緊張が走った。*


レイラ(魔王女):「なっ…!? き、貴様、何をいきなり…! 国名など、まだ決めておらぬわ!」


*レイラはシロウの脇腹を肘で突きながら、慌てて小声で怒鳴る。主のあまりに奔放な言動に、彼女の心臓は縮み上がっていた。*


*店主は、二度目の「魔王」発言に、さすがに冗談とは思えなくなってきたようだ。「兄ちゃん、いくらなんでもその冗談は…」と困惑した顔でご隠居とシロウを交互に見ている。*


*ご隠居は数秒間シロウを黙って見つめた後、ふっと息を吐き、再び杯を手に取った。しかし、その瞳の奥の鋭さは消えていない。*


ご隠居:「…西大陸の、魔王。なるほど、そういうことか。先日、フリューゲルを襲ったスタンピードを鎮圧したという『正体不明のSSランク冒険者』がいたと聞いたが…まさか君のことだったとはな」


*彼はあっさりと、ギルドが秘匿したはずの情報を口にした。その言葉は、彼がただの隠居爺ではないことを明確に示していた。*


ご隠居:「『国』とは面白い。魔王が国を興し、人と国交を結ぶか。前代未聞だが…興味深い話ではある。して、その魔王殿は、わしと国交を結んで何を得ようというのかね?」


*彼は再び問いを投げかける。今度のそれは、先程までのからかいの色合いはなく、為政者としての冷徹な目が光っていた。*


シロウ:「別に何も。ただ仲良くしようねってだけ。強いて言うなら物資交換とか? うちは強い奴らが多くて戦いに飢えてるからな。魔物退治は大歓迎だ」


*シロウはあっけらかんと言い放った。その言葉には政治的な駆け引きや野心は一切感じられず、まるで隣人と挨拶を交わすかのような軽やかさだった。*


*ご隠居は、シロウの顔をじっと見つめた。その瞳に嘘や欺瞞の色がないことを確かめるように。やがて、彼はふっと息を吐き、先程までの為政者の厳しい顔つきを和らげた。*


ご隠居:「…物資交換、か。そして魔物退治の請負。なるほどな。確かに、君たちほどの戦力があれば、いかなる脅威も容易く退けられよう。それは、我々にとっても悪い話ではない」


*彼はゆっくりと頷くと、懐から一枚の金属製の札を取り出し、シロウの前のカウンターに置いた。それは王家の紋章が刻まれた、特別な通行証だった。*


ご隠居:「わしは、バルムント・フォン・アルフレッド。この国の王…だった男だ。今は気ままな隠居の身だがね。君が本気で『国交』とやらを望むなら、その札を持って王城を訪れるがいい。話くらいは聞いてやろう」


*『元』国王、バルムント。その正体は、シロウの想像を上回るものだった。店主は、ご隠居の正体を知っていたのか、ただ黙って成り行きを見守っている。*


レイラ(魔王女):「(元国王だと…!? シロウ、やはりこの男、只者ではなかったな。どうする? これ以上深入りするのは危険かもしれんぞ)」


*レイラの念話が届くが、シロウは意に介さず、紋章の刻まれた札を手に取った。*


バルムント:「ただし、勘違いするなよ、魔王殿。わしは君を信用したわけではない。君の持つ『力』と、その使い道に興味を持っただけだ。もし君がこの国に牙を剥くと判断すれば、その時は…全力で排除する」


*穏やかな口調とは裏腹に、その言葉には絶対者としての揺るぎない意志が込められていた。*


シロウ:「やめとけよ、それは無理だから。つい最近もそうやって喧嘩売ってきた勇者達を潰したとこだし」


*シロウは元国王バルムントの脅しを鼻で笑うように、平然と言ってのけた。王家の紋章が刻まれた札を指で弾きながら、その態度は尊大ですらある。*

*『勇者を潰した』*

*その一言は、バルムントの顔から穏やかさを完全に奪い去った。彼の瞳に、初めて純粋な驚愕と警戒の色が浮かぶ。勇者とは、神に選ばれ、魔王を討つ宿命を背負った存在。それを『潰した』という言葉は、この世界の秩序そのものへの挑戦を意味していた。*


バルムント:「…勇者を、だと? 貴様、本気で言っているのか…」


*声のトーンが一段低くなる。居酒屋の空気は氷のように冷え切り、店主は息を飲むことすらできずに固まっている。*


レイラ(魔王女):「ふん、事実だ。我らの主に逆らった愚かな人間どもよ。一人残らず返り討ちにしてやったわ」


*レイラが勝ち誇ったように胸を張り、シロウの言葉を肯定する。彼女の瞳には、かつての戦いを思い出すかのような好戦的な光が宿っていた。*


*バルムントはシロウとレイラの顔を交互に見比べ、彼らが決して冗談を言っているのではないことを悟った。目の前の青年は、ただ力が強いだけの存在ではない。世界の理さえも覆しかねない、規格外の『何か』なのだと。*


バルムント:「……」


*元国王は何も言わず、ただ黙って杯に残っていた酒をぐいと飲み干した。そして、重いため息とともに、全ての緊張を解き放つかのように、ふっと笑った。*


バルムント:「…はっはっは…そうか、そうか。勇者まで…。なるほど、確かにわしの手で『排除』するのは骨が折れそうだ。いや、無理かもしれんな」


*彼は自嘲するように言うと、カウンターに金貨を数枚置いた。*


バルムント:「店主殿、勘定はここから頼む。…魔王殿、その札は持っていくがいい。気が向いたら、城に来るがいい。だが、今の話、他言は無用だ。国がひっくり返りかねん」


*そう言い残すと、バルムントは席を立ち、返事も聞かずに店を出ていった。その背中には、先程までの余裕はなく、大きな厄介事を抱え込んでしまったかのような疲労が滲んでいた。*


信之:「…い、行っちまった…。兄ちゃん…あんた、一体何者なんだ…?」


*残された店主が、呆然とした表情でシロウに問いかける。店内に、再び揚げ物の音だけが響き始めた。*


シロウ:「ただの冒険者だよ」


*シロウは肩をすくめ、何でもないことのように答えた。その平然とした態度に、店主はこれ以上何も聞けず、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。シロウとレイラは残りの食事を終えると、信之の戸惑いの視線を背に店を後にした。*


* * *


*翌日。シロウはシルフィを魔王城に帰し、再び人格が切り替わった『魔王女』のレイラだけを連れて、昨日バルムントから受け取った紋章の札を手に王城の門を訪れた。堂々とした城門の前には、重厚な鎧に身を包んだ衛兵たちが槍を構え、鋭い視線を向けている。*


衛兵A:「何者だ! ここは王城であるぞ。許可なき者は立ち入りを禁ずる!」


*衛兵の一人が、硬い声で警告を発する。シロウは臆することなく、手に持った札を彼らに向かって掲げた。*


シロウ:「これを見ても、同じことが言えるかな?」


*衛兵は訝しげにその札に視線を落とす。そして、そこに刻まれた王家の紋章を認めた瞬間、彼の顔色が変わった。*


衛兵A:「なっ…そ、その紋章は…! し、失礼いたしました! すぐに中へお通しいたします!」


*衛兵たちは慌てて槍を収め、敬礼すると、重々しい音を立てて城門を内側から開いた。その態度の変わりようは、札の持つ権威を雄弁に物語っている。*


*シロウとレイラが城内へ足を踏み入れると、一人の壮年の侍従が待っていた。彼は深々と頭を下げる。*


侍従:「お待ちしておりました、シロウ様。バルムント様よりお話を伺っております。こちらへどうぞ。謁見の間へご案内いたします」


*侍従に導かれ、二人は豪華な装飾が施された長い廊下を進んでいく。やがて、巨大な両開きの扉の前で侍従が立ち止まった。*


侍従:「バルムント様、シロウ様をお連れいたしました」


*扉の向こうから、落ち着いた声が響く。*


バルムント:「うむ、通せ」


*侍従が厳かに扉を開けると、その先には広大な謁見の間が広がっていた。そして、部屋の奥。昨日とは打って変わって、豪華な礼装に身を包んだバルムントが、玉座に腰を下ろしてシロウたちを待っていた。その隣には、彼よりも若い、現国王と思われる男性が緊張した面持ちで立っている。*


バルムント:「よく来たな、魔王殿。昨日は失礼した。改めて名乗ろう。バルムント・フォン・アルフレッド。この国の先代王だ。そしてこちらが、息子の現国王、エリオンだ」


*元国王バルムントは、昨日とは全く違う、王としての威厳に満ちた表情で二人を迎えた。*


シロウ:「よろしくぅ。西大陸の魔王、シロウ・ニシキだ。それから嫁のレイラ・アストレアだ」


*シロウは片手をひらひらと振り、まるで近所の人に挨拶でもするかのような軽い口調で自己紹介をした。そのあまりにも場違いな態度に、現国王エリオンは眉をひそめ、隣に立つバルムントは苦笑を浮かべる。*


*一方、シロウに「嫁」と紹介されたレイラは、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにふんと鼻を鳴らし、尊大な態度で胸を張った。まんざらでもない、という感情がその表情にありありと浮かんでいる。*


レイラ(魔王女):「レイラ・アストレアだ。シロウの唯一無二の伴侶にして、いずれこの世界の全てを統べる者だ。人間ども、せいぜい頭を高く保つがいい。今は、だがな」


*傲岸不遜な自己紹介に、現国王エリオンの顔がさらに険しくなる。父であるバルムントが手で彼を制した。*


バルムント:「…嫁、か。なるほど。ニシキ殿、君はどこまでも我々の常識を覆してくれるな。それで、今日は一体どのような要件で来られたのかな? 昨日の『国交』の話の続き、という解釈で良いかな?」


*バルムントはレイラの挑発を意に介さず、本題に入る。その目はシロウの真意を探るように、まっすぐに向けられていた。謁見の間にいる他の大臣や騎士たちは、魔王とその嫁を名乗る招かれざる客に、緊張と敵意が入り混じった視線を送っている。*


シロウ:「いや、世界征服はしないって。めんどくさい。そうそう、昨日の続きを」


*シロウは、尊大に宣言したレイラの言葉を「めんどくさい」の一言でばっさりと切り捨てた。レイラは「なっ…!?」と不満げな声を上げるが、主の決定には逆らえない。*

*そのやり取りを見たバルムントは、この奇妙な主従(あるいは夫婦)の関係性を少し理解したのか、かすかに口元を緩めた。現国王エリオンは依然として怪訝な表情を崩さない。*


バルムント:「ふむ。征服の意思はない、と。では、改めて問おう。魔王シロウ・ニシキ殿。君が我々と『国交』を結び、望むものは何か。昨日は物資交換と魔物退治と言っていたが、具体的に、我々に何を求め、君たちは何を差し出すのかね?」


*バルムントは玉座に座ったまま、身を乗り出すようにして尋ねる。その目は、シロウの提案がこの国にとって利益となるか害となるかを、冷静に見極めようとしていた。謁見の間にいる大臣たちも、固唾をのんでシロウの言葉を待っている。*

*彼らは、歴史上初めてとなるであろう、人間と魔王との公式な交渉の場に立ち会っていた。*


レイラ(魔王女):「(シロウ、言葉を慎重に選べ。相手は一国の王だ。下手に足元を見られれば、何を要求されるか分からんぞ)」


*レイラが緊張した面持ちで、念話にてシロウに忠告を送った。*


シロウ:「んー、それなら。鉱山と迷宮に入る許可かなぁ。提供するのは、鉱山から取れるミスリル、アダマンタイト、オリハルコンってところだな」


*シロウは少し考えるそぶりを見せた後、あっさりとそう口にした。まるで市場で取引を持ちかける商人のような、軽い口調で。*

*しかし、その内容は謁見の間にいる者たちを震撼させるには十分だった。*


エリオン:「なっ…! ミスリルだけでなく、アダマンタイト、オリハルコンだと!? 馬鹿なことを言うな! それらは伝説級の金属、現存する鉱脈など、この大陸には…!」


*現国王エリオンが思わず声を荒らげる。ミスリルだけでも国家を支える貴重な戦略物資だ。アダマンタイトやオリハルコンに至っては、神話や伝説の中にしか登場しない幻の金属。それが、目の前の『魔王』の口から、まるで道端の石ころのように語られたのだ。*


*バルムントも、さすがに驚きを隠せない様子で目を見開いている。*


バルムント:「…魔王殿。それは、本気で言っているのか? 君たちは、それらの希少金属を産出する鉱脈の在処を知っていると?」


*バルムントが、先程までとは違う、食いつくような視線でシロウに問いかける。もしそれが事実なら、この国にとって計り知れない利益をもたらす。魔王との国交という前代未聞のリスクを負ってでも、手に入れる価値があるかもしれない。*


レイラ(魔王女):「ふん、人間よ。我らの主を誰と心得る。主が『在る』と言えば在るのだ。貴様らが知らぬだけで、この世界には未発見の資源が眠る地などいくらでもある。我らはそれを探し出す術を持っているに過ぎん」


*レイラがシロウの言葉を補足するように、尊大に言い放つ。その自信に満ちた態度は、彼らの言葉がただのハッタリではないことを示していた。*


*シロウは、王たちの反応を楽しむかのように、にやりと笑った。*


シロウ:「基本的にどこの鉱山にもあるよ? 採掘するのにはちょっと技術がいるけどね」


*シロウはそう言うと、またしても何もない空間から、桃色の輝きを放つ金属の塊を取り出した。ずしり、という重さを感じさせるその延べ棒を、まるでパンか何かのように軽々と片手で持ち、玉座の前の床にこともなげに放り投げる。*

*ゴゥン、という重低音が謁見の間に響き渡った。*

*床に転がった延べ棒が放つ、神秘的で圧倒的な存在感。それは紛れもなく、神話の中にのみ語られる幻の金属『オリハルコン』だった。*


*謁見の間にいる全員が、息を呑んだ。*

*現国王エリオンは玉座から身を乗り出し、信じられないものを見る目で床の延べ棒を凝視している。大臣たちの中から「おお…」「まさか、本物のオリハルコン…」という囁きが漏れた。*


バルムント:「……」


*元国王バルムントは、もはや驚きを通り越し、呆然とした表情でシロウとオリハルコンの延べ棒を交互に見ている。魔王が勇者を潰したという話よりも、目の前にある現実の方が、彼にとっては衝撃的だったのかもしれない。*

*一国の王ですら、生涯お目にかかることすら叶わない幻の金属が、今、無造作に床に転がっている。そしてそれを差し出した男は、どこの鉱山にでもあると言い放った。*


バルムント:「…ニシキ殿。君は…我々が数百年、数千年かけて築き上げてきた価値観を、こうも容易く破壊してくれるのだな…」


*バルムントは乾いた笑いを漏らしながら、呟いた。それは、目の前の『魔王』が持つ力の底知れなさに対する、畏怖と諦念が入り混じった言葉だった。*


シロウ:「で、どうする? 取引、する?」


*シロウは、固まっている王たちに向かって、楽しそうに問いかける。交渉の主導権は、完全にシロウが握っていた。*


シロウ:「ごく稀に、ヒヒイロカネも出るよ? 出たとしても数gだけどね」


*オリハルコンの衝撃が冷めやらぬ謁見の間に、シロウはさらに追い打ちをかけるように爆弾を投下した。*

*ヒヒイロカネ。*

*それはオリハルコンすら霞む、神代の金属。存在自体が疑われる、まさに伝説の物質。*


*その名前が出た瞬間、バルムントは息を呑み、現国王エリオンは椅子からずり落ちそうになった。大臣の一人が「ひっ…」と短い悲鳴を上げる。数グラム。そのわずかな量ですら、国宝級、いや、一つの国の価値に匹敵すると言われるほどの代物だ。*


バルムント:「…ヒヒイロカネ、だと…? ニシキ殿…君は、我々をからかっているのか? それとも、本気で…」


*バルムントの声は、もはや威厳を保つのがやっとで、わずかに震えていた。王として、為政者として、長年培ってきた冷静さが限界に達している。*


シロウ:「からかってどうするんだよ。まあ、こっちは本当に稀だから、提供できるかは分からないけどな。採掘の許可さえくれれば、こっちで勝手に探して、見つけたら分け前をやる。そんな感じでどうだ?」


*シロウは肩をすくめ、あくまでも対等な取引として話を進める。その態度は、彼にとってヒヒイロカネですら、交渉材料の一つに過ぎないことを示していた。*


レイラ(魔王女):「(ふふん、見たか人間ども。これが我が主の力だ。もはや貴様らに、この提案を拒否する選択肢など残されておるまい)」


*レイラは勝ち誇った笑みを浮かべ、念話でシロウに囁いた。*


*バルムントは、床に転がるオリハルコンと、不敵に笑うシロウの顔を交互に見つめた。そして、深く、深く息を吐き出すと、隣に座る息子、エリオンに向かって静かに言った。*


バルムント:「…エリオン。どう思う?」


*問われた現国王エリオンは、ゴクリと唾を飲み込む。彼の顔には、嫉妬、畏怖、そして抗いがたい欲望が渦巻いていた。彼はしばらく逡巡した後、意を決したように口を開いた。*


エリオン:「…父上。この話、乗るべきです。…いえ、乗らねばなりません。魔王との国交など前代未聞。しかし、この国が数段上の階梯へ至るためには…この機を逃す手はありません」


*その言葉は、謁見の間にいる全ての者の総意だった。バルムントは息子の決断を聞き、静かに頷くと、再びシロウに向き直った。その目には、もはや迷いはなかった。*


バルムント:「…分かった。魔王シロウ・ニシキ殿。君の提案を受け入れよう。我がアルフレッド王国は、君たち魔王軍と、正式に国交を結ぶ」


*シロウが交渉の成立を告げると、バルムントとエリオンは安堵と興奮が入り混じった表情で頷いた。謁見の間に漂っていた重苦しい緊張は解け、代わりに歴史が動く瞬間に立ち会ったという高揚感が満ちていく。*


シロウ:「国名が決まったら連絡するね」


*シロウはそう言って、床に転がしていたオリハルコンの延べ棒をアイテムボックスにしまい、ひらりと身を翻した。これ以上ここに用はない、とでも言うように。レイラもそれに倣い、王たちに最後の尊大な一瞥をくれると、シロウの後に続いた。*


*城を出て、賑わう城下町を歩きながら、シロウは内心で自身のスキルに命じる。*


シロウ:(神眼、内容をまとめて俺にだけ報告)


*すると、シロウの脳内にだけ、無機質な情報が直接流れ込んできた。*


`神眼:報告。アルフレッド王国との交渉結果を要約。`

`【締結内容】`

`1. シロウ軍とアルフレッド王国の正式な国交樹立。`

`2. シロウ軍はアルフレッド王国内の全ての鉱山及び迷宮への自由な立ち入り許可を獲得。`

`3. 見返りとして、シロウ軍は採掘した希少金属(ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン等)の一部をアルフレッド王国に提供する。分配率は今後の協議による。`

`4. 魔物討伐などの軍事協力も、別途依頼の形で可能。`

`【特記事項】`

`・本国交は最高機密事項として扱われる。`

`・バルムント(先代王)が交渉の主導権を握る。`

`・現国王エリオンは、シロウの力に対し畏怖と強い関心を示す。`

`以上。`


*頭の中に響く報告を聞きながら、シロウは満足げに口の端を上げた。隣を歩くレイラが、不思議そうにその顔を覗き込む。*


レイラ(魔王女):「シロウ、何をにやけている。して、これからどうするのだ? 本当に国など作る気か?」


*彼女は呆れたような、しかしどこか楽しそうな声で問いかけた。二人を乗せて帰るための転移陣を描く場所を探しながら、シロウは考える。*


シロウ:「魔王城をあのままにしとくのは勿体なくない? それに、レイラが言ったんだろ。俺を魔王にするって。責任取れよ?」


*シロウはからかうような口調で、隣を歩くレイラに言った。その言葉に、レイラはぴたりと足を止める。彼女は少し俯き、顔に落ちた髪の影で表情が見えない。だが、その肩が微かに震えている。*


*次の瞬間、彼女は勢いよく顔を上げた。その瞳は決意と、そしてシロウへの熱い想いに潤んでいた。いつもの尊大な態度ではない、真剣な眼差しだった。*


レイラ(魔王女):「…ああ、そうだ。言ったぞ。貴様を王にすると、この私が言った。その言葉に偽りはない…!」


*彼女はシロウの前に回り込むと、その両手をぎゅっと握りしめた。冷たいようでいて、確かな熱が伝わってくる。*


レイラ(魔王女):「責任…? 望むところだ! 私は貴様の剣となり、盾となり、そして貴様を至高の玉座へと導く! それが私の存在意義だ! だから…シロウ。貴様はただ、王として在れ。私の…ううん、私たちの王として!」


*その声は謁見の間での傲岸不遜なものとは違う、魂からの叫びだった。彼女はシロウを魔王にすることが、自分自身の夢であり、喜びなのだと全身で訴えかけていた。握られた手に、さらに力がこもる。*


レイラ(魔王女):「国を作ろう、シロウ。西大陸に、誰にも侵されぬ我らの国を。そして、その全てを貴様に捧げよう。だから…だから、これからも私の主でいてくれ…」


*語尾は少しだけ弱々しく、懇願するような響きを帯びていた。普段の彼女からは考えられない、素直な言葉だった。*


*シロウの言葉にレイラは心を奪われていたが、ふっと体が浮遊感に包まれ、次の瞬間には見慣れた魔王城の屋上に立っていた。アルフレッド王国の喧騒が嘘のように静まり返り、西大陸の乾いた風が二人の髪を揺らす。*


シロウ:「さっき俺の嫁って言ったよな?」


*転移の余韻に浸る間もなく、シロウは悪戯っぽく笑いながら、核心を突く質問を投げかけた。その言葉に、レイラはハッと我に返る。*


レイラ(魔王女):「なっ…!?」


*謁見の間での自分の発言を思い出し、彼女の白い肌が一気に赤く染まった。先程までの真剣な告白とは裏腹に、急に羞恥心が込み上げてきたのだ。*


レイラ(魔王女):「き、貴様、何を今更…! あれは、その…人間どもに我らの関係性を示すための、いわば外交辞令だ! そう、方便というやつだ! 勘違いするなよ!」


*彼女はぷいっと顔を背け、腕を組んで必死に言い訳をする。しかし、その耳まで真っ赤になっている様子が、彼女の動揺を隠せていない。いつもの尊大な態勢を取り繕うとするが、声が上ずっていた。*


レイラ(魔王女):「大体、貴様が勝手に言い出したことだろうが! 私のせいにでない! …だいたい、私が貴様のような変態の嫁になど…な、なるわけが…」


*言葉とは裏腹に、彼女はちらちらと上目遣いでシロウの反応を伺っている。そのツンデレな態度は、シロウにとってすでに見慣れた光景だった。*


シロウ:「そっかー、振られちゃったか…残念…」


*シロウはわざとらしく肩を落とし、悲しそうな声を出す。その芝居がかった様子に、レイラの肩がびくりと震えた。顔を背けたままだった彼女が、信じられないといった表情で勢いよく振り返る。*


レイラ(魔王女):「なっ…! ふ、振っただと!? だ、誰がそんなことを言った! 私はただ、外交辞令だと…! 貴様の早とちりだ!」


*彼女は真っ赤な顔で、慌ててシロウの言葉を否定する。その必死な様子は、シロウのからかいが的確に彼女の弱点を突いたことを示していた。*


レイラ(魔王女):「そもそも、貴様が私の許可なく勝手に『嫁』などと言ったのが悪いのだろうが! 順序というものを弁えろ、この朴念仁! 私が…私が、どれだけ…!」


*言葉に詰まり、悔しそうに唇を噛む。言いたいことはたくさんあるのに、素直な言葉が出てこない。その潤んだ瞳が、シロウをじっと見つめている。それは怒っているというよりも、拗ねている子供のようだった。*


レイラ(魔王女):「…べ、別に…なってやってもいいと言っているのだ…。貴様が…その、ちゃんと私に、その…正式に申し込むというのならな…♡」


*最後は蚊の鳴くような声になり、再びぷいっと顔を背けてしまう。夕暮れの風が、彼女の熱くなった頬を撫でていった。*


シロウ:「え、なんだって?」


*シロウはわざと聞こえないふりをして、レイラに顔を近づけた。その悪戯っぽい笑みに、レイラはびくりと体を震わせ、後ずさる。*


レイラ(魔王女):「なっ…き、聞こえなかったのか!? この私に二度も言わせるつもりか、愚か者め!」


*彼女は顔を真っ赤にしながら、シロウを睨みつける。しかし、その瞳は怒りよりも羞恥で潤んでおり、全く迫力がない。シロウがさらに一歩近づくと、彼女はたじろいだ。*


レイラ(魔王女):「ち、近い! 離れろ、変態! だから、貴様が…わ、私に…その…」


*必死に言葉を紡ごうとするが、恥ずかしさで思考がまとまらないようだ。シロウが黙ってじっと見つめ続けると、レイラは観念したように、うつむきながら小さな声でぼそりと言った。*


レイラ(魔王女):「……貴様が、望むというのなら…その…よ、嫁に…なってやらんことも、ない…と、言ったのだ…♡ これで、分かったか…!」


*言い終わると同時に、彼女は羞恥の限界に達したのか「うぅ…」と呻き、両手で顔を覆ってしまった。指の隙間から見える耳まで真っ赤に染まっている。そんな彼女の姿は、普段の傲岸不遜な魔王女の姿からは想像もつかないほど、愛らしかった。*


シロウ:「分かんないなー」


*シロウはわざと首を傾げ、心底不思議だという顔でレイラの顔を覗き込んだ。その追い打ちをかけるような一言に、ついにレイラの羞恥と焦燥が限界点を突破した。*


レイラ(魔王女):「〜〜〜っ! この、朴念仁がっ!!」


*顔を覆っていた手を乱暴にどけると、真っ赤な顔のまま叫び、シロウの胸倉を掴んで引き寄せる。そして、有無を言わさずその唇を、自らの唇で塞いだ。*


*「んっ…♡」*


*最初は怒りに任せたような、ぶつけるだけのキスだった。しかし、シロウが驚きもせず、それを受け入れていることに気づくと、彼女の勢いは急速にしぼんでいく。怒りは羞恥に変わり、唇は恐る恐る、確かめるように柔らかく触れ合う。*

*長い、長いキス。*


*やがて、どちらからともなく唇が離れる。二人の間には、熱っぽい吐息が混じり合った銀の糸が引いていた。*


レイラ(魔王女):「はぁ…っ、はぁ…♡ こ、これで、分かったであろう…! 私の…気持ちが…♡」


*レイラはシロウの胸に額を押し付けたまま、肩で息をしながら、涙声で言った。顔は真っ赤で、瞳は熱と羞恥で潤んでいる。シロウの服を掴むその手は、小さく震えていた。彼女の精一杯の、そして何よりも素直な愛情表現だった。*


シロウ:「エッチしたいって事?」


*シロウはニヤリと笑い、レイラの腰に手を回して引き寄せる。そして、もう片方の手は慣れた手つきで彼女の腰の後ろに回り、下着のジッパーを探り当てた。チリ、と金属の軽い音がして、最後の砦であるはずの布地がいとも簡単に開かれていく感触が、レイラに直接伝わる。*


レイラ(魔王女):「なっ…!? ひゃっ♡」


*突然のことに、レイラは猫のように飛び上がった。シロウの胸を突き放そうとするが、腰をしっかりと抱かれているため、逆に体を密着させる結果にしかならない。下腹部に走る、直接的で無防備な感触に、彼女の思考は完全にショートした。*


レイラ(魔王女):「な、な、な、な、何をするかこの破廉恥漢! 違う、そうではない! そういう意味で言ったわけでは…!」


*顔を真っ赤にして、必死に否定の言葉を叫ぶ。しかし、その声は上ずり、潤んだ瞳はシロウを睨みつけているのか、懇願しているのか、もはや判別がつかない。シロウがからかうように笑みを深めるのを見て、彼女はついに、羞恥と怒りと、そして抑えきれない想いの全てを爆発させた。*


レイラ(魔王女):「〜〜〜っ! もうよい! はっきり言ってやる! 貴様のことが好きなのだ! 愛している! 世界の誰よりも! 愚かで、朴念仁で、すぐに人をからかう捻くれ者だが…それでも、貴様でなければ駄目なのだ! 私の夫となるのは貴様だけだ! これで文句あるかぁっ!!!」


*涙目で、ヤケクソになったように全てを叫びきる。告白の言葉は怒声に近かったが、その中には紛れもない、純粋でひたむきな愛情が込められていた。言い切った後、彼女は「はぁ…はぁ…」と肩で息をし、燃え尽きたようにシロウの胸に再び額をこすりつけた。もう抵抗する力も残っていないようだった。*


シロウ:「レイラ。愛してる」


*その言葉は、どんな魔法よりも強く、レイラの心を震わせた。先程までの怒声のような告白とは対照的な、静かで、けれど確かな重みを持った愛の言葉。レイラが驚きに目を見開いた瞬間、シロウの唇が再び彼女の唇を優しく塞いだ。*


*「んっ…♡」*


*今度は、先程のぶつけるようなキスとは違う。シロウの愛情を確かめるように、そして自分の全ての想いを注ぎ込むように、深く、深く、求め合うキス。レイラの体から力が抜け、シロウの首に腕を回して、その身を完全に預ける。開かれた下着のことなど、もう頭の片隅にもなかった。ただ、この愛しい男の腕の中で、一つになりたいという想いだけが彼女を支配する。*


*「んぅ…♡ん、んんっ…♡」*


*唇が離れると、二人の間には熱い吐息と共に、透明な糸が引かれた。レイラの瞳はとろりと蕩け、頬は幸福の色に染まっている。シロウの胸に顔を埋め、震える声で囁いた。*


レイラ(魔王女):「…ずるいぞ、貴様は…。私が…どれだけ、その言葉を待っていたと…♡」


*シロウの背中に回した腕に力がこもる。まるで、この幸せが夢ではないと確かめるかのように。*


レイラ(魔王女):「シロウ…♡ 私もだ…。私も、貴様を…愛している…♡」


*傲岸不遜な魔王女の仮面は完全に剥がれ落ち、そこにはただ、愛する男の腕の中で幸せに身を委ねる、一人の少女の姿があった。*


シロウ:「国名、どうする?」


*愛の言葉を交わした直後の、甘い雰囲気の中で投げかけられた唐突な質問。レイラはシロウの胸に顔を埋めたまま、きょとんと目を開けた。数秒の間、質問の意味を理解しようと考え、やがて「あぁ…」と声を漏らす。*


レイラ(魔王女):「こ、国名…? そうだな、バルムント王にも名乗った手前、いつまでも『西大陸』では格好がつかぬな…」


*彼女は少し名残惜しそうにシロウの腕の中から身を起こすと、真剣な表情で腕を組んだ。さっきまでの蕩けた表情はどこへやら、魔王女としての理知的な顔つきに戻っている。しかし、その頬はまだほんのりと赤く、シロウへの愛情が隠しきれていない。*


レイラ(魔王女):「そうだな…。貴様が王となり、私が后となる国だ。それに相応しい名が必要だな。ふむ…貴様の名である『シロウ』と、私の名『アストレア』を組み合わせるか…? いや、安直すぎるか…」


*彼女はぶつぶつと呟きながら、思案に暮れる。そして、ふと顔を上げて、シロウに問いかけた。*


レイラ(魔王女):「貴様はどう思う? 何か良い案はあるか、シロウ?」


*シロウが頭の中で『神眼』に命じると、彼の脳内に膨大な単語と概念が流れ込み、高速で組み合わされていく。「シロウ」「レイラ」「魔王」「星」「夜」「始まり」「終わり」…それらの言葉が厨二病的なフィルターを通して再構築され、いくつかの候補が浮かび上がった。*


シロウ:「んー、そうだな…。いくつか候補はあるけど」


*シロウはレイラの腰を抱いたまま、顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。*


シロウ:「『**終焉の夜明けラグナロク・ドーン**』とか、『**星喰らいの魔狼帝国フェンリル・アストロファギア**』とか…」


*いかにもといった感じの、壮大で少しばかり大げさな名前を口にする。レイラは一瞬、ぽかんとした顔をしたが、すぐにその意味を理解し、真剣な表情で頷いた。*


レイラ(魔王女):「ほう…ラグナロク・ドーン…フェンリル・アストロファギアか。悪くない響きだ。流石は私の夫となる男。センスも中々のものだな」


*彼女はどこか満足げに頷く。厨二病的なネーミングセンスは、元魔王の血を引く彼女の琴線に触れたようだ。*


レイラ(魔王女):「だが、少し物々しすぎる気もするな。我らは世界征服を企むわけではない。あくまで西大陸を統べる王として、他国と対等に渡り合うのだ。もう少し…そうだな、威厳と神秘性を両立させたような名はないか?」


*彼女は期待を込めた眼差しで、シロウを見上げた。*


シロウ:「威厳と神秘…」


*シロウはレイラの言葉を反芻し、再び『神眼』に意識を集中させる。「威厳」「神秘」「シロウ」「レイラ」「アストレア」「魔」「星」「夜」といったキーワードを組み合わせ、より洗練された名前を検索する。脳内に新たな候補がいくつも浮かび上がってきた。*


シロウ:「それなら…『**夜天のアストライア魔導皇国ノクティス・アストライア**』とかはどうだ?」


*その言葉を口にした瞬間、レイラの蒼い瞳が大きく見開かれ、キラキラと輝きを放った。*


レイラ(魔王女):「ノクティス・アストライア…! 夜天の…星の女神アストライア…! 私の名を冠し、夜を統べる魔の国…それでいて、星の輝きのような神秘性も感じさせる…」


*彼女はうっとりとした表情でその名を繰り返し、その響きと意味を噛み締めているようだった。先程までの候補とは明らかに反応が違う。*


レイラ(魔王女):「素晴らしい…! これだ、シロウ! 我らの国にこれほど相応しい名はない! 威厳、神秘、そして何より…美しい響きだ。気に入ったぞ!」


*彼女は興奮冷めやらぬ様子で、シロウの両肩を掴んでぶんぶんと揺さぶる。その瞳には、新たな国の誕生への期待と、それを名付けたシロウへの尊敬と愛情が溢れていた。*


レイラ(魔王女):「よし、決まりだ! 我らの国は本日より、『**夜天のアストライア魔導皇国**』とする! そして貴様が初代皇帝、私が皇妃だ! 異論は認めん!」


*高らかに宣言すると、彼女は満足げに腕を組み、ふふん、と得意げな笑みを浮かべた。その顔には、先程までの少女のような面影はなく、一国の支配者としての威厳が満ち溢れていた。*


シロウ:「それで、国作りって何するの?各国に宣言したり、街道作ったり?」


*シロウの現実的な質問に、レイラは得意げな笑みを浮かべたまま、こくりと頷いた。彼女はすっかり皇妃の顔つきになっている。*


レイラ(魔王女):「うむ、その通りだ。まずはこの『夜天のアストライア魔導皇国』の建国を、大陸の主要国に向けて正式に宣言する必要がある。舐められぬよう、我らの力もそれとなく示すのが肝要だな」


*彼女は指を一本立て、講義するように続ける。*


レイラ(魔王女):「宣言と同時に、まずはアルフレッド王国との国交を正式なものとする。彼らとの間に街道を整備し、物資の流通路を確保するのが急務だ。なに、街道の整備など、我が魔術とゼノス達の力があればすぐに終わる」


*自信満々に言い切ると、彼女はふとシロウの顔を見つめ、悪戯っぽく笑った。*


レイラ(魔王女):「だが、それだけではないぞ、皇帝陛下? 国には法が必要だ。民をまとめ、治めるためのな。そして、何より…」


*レイラはシロウの胸に人差し指をトントンと当て、挑むような瞳で続けた。*


レイラ(魔王女):「後継者作りも、皇帝陛下の大事な『お仕事』であろう?♡ …まぁ、それについては、この私が直々に手伝ってやってもよいがな♡」


*皇妃としての威厳と、シロウの妻としての甘い誘惑。その二つを織り交ぜながら、彼女はこれからの未来を語る。その顔は希望に満ち溢れていた。*


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