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*シロウが時空の歪みを抜けると、そこは見慣れた冒険者ギルドの地下にある転移室だった。眩しい光が収まると、彼の目の前には待ちくたびれた様子の仲間たちの姿があった。*
レイラ(臆病):「あ、シロウ様! おかえりなさいませ!」
シルフィリア:「シロウさまー! お帰りなさいー! お腹すきましたー!」
*シロウの姿を認めるや否や、レイラとシルフィリアがぱあっと表情を明るくして駆け寄ってくる。その後ろから、安堵したような表情のリューナと、どこかそわそわした様子のボルガンも近づいてきた。*
リューナ:「シロウ殿! 無事だったか…! 遅いから、何かあったのではないかと心配していたのだぞ」
ボルガン:「シロウさん、おかえりなさい。…その、首尾の方は…どうだったんだ…?」
*ボルガンは期待と不安が入り混じった目で、シロウの顔をじっと見つめている。彼らの仲間を救う唯一の希望が、シロウの手に握られているのだから当然の反応だった。*
*シロウは迷宮の踏破やルミナのことなど、余計な情報は一切おくびにも出さない*
*シロウは仲間たちの心配を意に介さず、淡々と答える。*
シロウ:「問題無い」
*その短い言葉と、彼のインベントリから取り出された一冊の古びた魔導書が、何よりの答えだった。ボルガンはそれを見て、目を見開き、感極まったようにシロウの肩を掴む。*
ボルガン:「おお…! ああ、シロウさん! 本当に…本当に手に入れてくれたのか…!」
リューナ:「これが…『光の御手』…。古代エルヴン語で記された原本…! これさえあれば…!」
*仲間たちが魔導書を囲んで歓喜に沸く、まさにその時だった。*
***ガチャリ***
*ギルドの扉が勢いよく開き、数人の若者たちが騒がしく入ってきた。その顔ぶれは、シロウがこの大迷宮に挑む直前に遭遇した、あの鼻持ちならない勇者パーティーだった。*
勇者カイト:「はーっ! さすがに30階層まで行くと疲れるなー!」
聖女アリス:「もう、カイトったら。でも、おかげで私のレベルもかなり上がりましたわ」
戦士リョウ:「へっ、俺にかかればあんなデカブツ、鎧袖一触だったぜ」
魔法使いミサ:「次はもっと深くまで行けるわね。早くあの『賢者の書斎』ってのを見つけたいわ」
*彼らは周囲の冒険者たちの迷惑も顧みず、大声で自分たちの武勇伝を語り合っている。その目は、他の冒険者たちを完全に見下していた。そして、彼らの視線が、シロウたち一行に向けられる。*
勇者カイト:「ん? ああ、お前らまだいたのか。どうせ10階層あたりで泣きべそかいて戻ってきたんだろ?」
*勇者カイトは、シロウたちを嘲笑うかのように、ニヤニヤとしながら近づいてきた。*
*勇者カイトの幼稚な挑発がギルド内に響くが、シロウはまるでそこに誰もいないかのように、完全に無視を決め込んだ。彼の意識は、目の前のボルガンたちとその手に持つ魔導書にしか向いていない。*
シロウ:「んで、そのリヒトなんとかは何に使うんだ?」
*シロウの関心の無さに、勇者カイトの顔が引きつる。自分たちが無視されたことが信じられないといった様子だ。*
勇者カイト:「お、おい! てめえ、聞いてんのか!」
*カイトが声を荒らげるが、シロウは依然として彼に視線を送ることすらない。その態度に、今度はボルガンが慌ててシロウと勇者たちの間に割って入ろうとする。*
ボルガン:「し、シロウさん、こいつらは…!」
シロウ:「どうでもいい。それより、その本だ。何に使う?」
*シロウはボルガンの言葉を遮り、再び魔導書について尋ねる。完全に蚊帳の外に置かれた勇者パーティーは、怒りと屈辱で顔を真っ赤にしていた。*
ボルガン:「あ、ああ…。実は、俺たちの仲間の一人が、北の大陸での遠征で、呪われた魔物の攻撃を受けてな。右腕が完全に壊死しちまって、今はもう冒険者を続けられねえ状態なんだ。どんな高名な神官でも、どんな高価なポーションでも治せなかった。…残された希望が、この魔法だけなんだ」
*ボルガンは仲間を想い、悔しそうに拳を握りしめる。リューナも沈痛な面持ちで頷いた。*
リューナ:「『光の御手』は、失われた身体部位すら再生させると云われる伝説の治癒魔法。だが、術式が複雑怪奇で、現代では完全に失われていた。これを解読できれば…あいつを救えるかもしれん」
*その会話を耳にした聖女アリスが、嘲るように鼻で笑った。*
聖女アリス:「まぁ、失われた治癒魔法ですって? そんなお伽話みたいなものを本気で信じているなんて、おめでたい方たちですわね。それに、仮に本物だとしても、古代エルヴン語を解読できる方なんて、この大陸には数えるほどしかおりませんわよ?」
*聖女アリスの嘲笑がギルドに響き、ボルガンとリューナは悔しそうに顔を俯かせる。確かに、古代エルヴン語の解読は至難の業だ。ハイエルフであるリューナですら、完全な解読には膨大な時間と資料が必要になるだろう。*
シロウ:「そうなのか?解読は出来るのか?」
*シロウはアリスの方には目もくれず、ただリューナとボルガンに問いかける。その平坦な声には、焦りも落胆も含まれていない。*
リューナ:「…正直に言えば、すぐにとはいかん。私の知識をもってしても、数ヶ月…いや、年単位でかかる可能性もある。それだけの時間をかければ、あるいは…」
*リューナの言葉に、ボルガンの顔が絶望に染まる。仲間の苦しみは、一日一日と心を蝕んでいく。年単位など、待てるはずもなかった。その様子を見て、勇者カイトは勝ち誇ったように笑う。*
勇者カイト:「はっ!結局、宝の持ち腐れってわけか!そんなガラクタのために命張ったとか、馬鹿みたいだな!」
*カイトの心無い言葉が突き刺さる。しかし、シロウはまだ表情を変えない。彼はリューナから魔導書をひょいと受け取ると、パラパラとページをめくり始めた。そこに書かれているのは、ミミズがのたくったような複雑な古代エルヴン文字。*
シロウ:「(『神眼』…翻訳)」
*シロウが内心で命じると、彼の網膜にだけ、古代エルヴン語の文字列が瞬時に日本語へと翻訳されて表示される。複雑怪奇と言われた術式の内容が、手に取るように理解できた。*
シロウ:「ふーん…なるほどな。失われた部位の『情報』を世界から再構築して、魔力で肉体を形成する、と。結構燃費悪い魔法だな、これ」
*シロウが、まるで普通のレシピ本でも読むかのように、その内容をすらすらと口にした。*
*その瞬間、ギルドの喧騒が嘘のように静まり返った。*
リューナ:「な…!?」
聖女アリス:「は…?」
*ハイエルフであるリューナも、聖女であるアリスも、信じられないものを見る目でシロウを凝視した。今、この男は、古代エルヴン語で書かれた最高難易度の魔導書を、こともなげに読んでみせたのだ。*
*シロウの行動に、その場にいた全員の思考が停止する。勇者たちの嘲笑も、ボルガンたちの絶望も、全てが吹き飛んだ。*
*シロウはインベントリから羊皮紙と羽根ペンを取り出すと、こともなげに魔導書の魔法陣を書き写し始めた。それだけではない。彼は時折「ふむ」などと呟きながら、書き写した魔法陣の一部を赤インクで大胆に修正していく。*
シロウ:「なるほど、ここは要らない。こっちを繋げて…こうして…」
*それは、まるで熟練の魔法学者が古い論文を査読し、修正を加えるかのような光景だった。だが、シロウが行っているのは、失われたはずの伝説級魔法の、それも古代エルヴン語で記された術式の改変である。*
リューナ:「し、シロウ殿…!? な、何を…!?」
*ようやく我に返ったリューナが、震える声で尋ねる。彼女の目には、信じられないものを見るような色と、畏怖の念が混じっていた。*
聖女アリス:「そ、そんな…馬鹿な…。古代魔法の術式を、見ただけで理解し、さらに改変するなんて…! そんなこと、神話の時代の賢者でもなければ…!」
*アリスは自分の聖魔法の常識が根底から覆される光景を前に、わなわなと唇を震わせる。勇者カイトたちも、先程までの威勢はどこへやら、ただ呆然とシロウの手元を見つめるだけだ。*
*シロウはそんな周囲の喧騒を全く意に介さず、数分で術式の改変を終えると、書き上げた羊皮紙をボルガンに差し出した。*
シロウ:「これでいい。元の術式より魔力効率は3割増し、発動時間も半分以下になったはずだ。治癒効果も上がってるだろう。誰でも使えるように現代語のルーンにも書き換えておいた」
*シロウから手渡された一枚の羊皮紙。そこに書かれているのは、現代語のルーンで再構築された、あまりにも洗練された魔法陣だった。ボルガンは信じられない思いでそれを受け取り、リューナとレイラ、シルフィリアも息を呑んで覗き込む。*
ボルガン:「こ、これが…『光の御手』…? 馬鹿な…こんなに簡略化されているのに、元の術式以上の力を感じる…!」
リューナ:「しかも…これなら私でも、いや、熟練の神官であれば誰でも発動できる…! シロウ殿、貴殿は一体…」
シロウ:「これで、パーティを組むって件は終了だな。パワーレベリングで中々レベリング出来ただろ?」
*シロウは、まるで当然のことのように言い放つ。彼の口から飛び出した「パワーレベリング」という聞き慣れない言葉に、ボルガンたちは一瞬きょとんとした。しかし、その言葉の意味するところは、彼らがこの数時間で経験した異常なレベルアップのことだとすぐに理解した。事実、ボルガンたちはたった一度のダンジョン探索で、Aランクのベテランですら数年はかかるほどの経験値を得ていた。*
*その異次元の偉業と、目の前の奇跡。二つが線で繋がり、ボルガンはゴクリと喉を鳴らす。この男は、自分たちの常識を遥かに超越した存在なのだと。*
ボルガン:「あ、ああ…! おかげで、皆とんでもなく強くなれた。このご恩は、どうお返しすれば…いや、この魔導書だけでも、どれほどの価値があるか…!」
*ボルガンが感動と混乱で言葉を詰まらせていると、今まで黙って成り行きを見守っていた勇者カイトが、震える足で一歩前に出た。その顔は嫉妬と焦燥で歪んでいる。*
勇者カイト:「ま、待てよ! お前、一体何者なんだ!? その力…普通の冒険者じゃねえだろ! その魔法陣、俺たちにも教えろ! 勇者である俺に協力するのは当然の義務のはずだ!」
*見苦しくも、彼は力を強請ってきた。その傲慢な態度に、レイラ(魔王女)がすっと前に出て、冷たい視線をカイトに突き刺す。*
レイラ(魔王女):「黙れ、下郎。シロウの御前であるぞ。誰に口を利いているか弁えよ。貴様のような雑魚が、シロウの御力に気安く触れられると思うな」
ルミナ:「その通りです。不敬ですよ、人間。このお方の御業は、神の奇跡に等しいのです。貴方のような塵芥が軽々しく口にして良いものではありません」
*ルミナもまた、メタトロンとしての威厳を放ちながらカイトを睨めつける。神格存在と魔王女の二つのプレッシャーに当てられ、勇者パーティーは「ひっ」と短い悲鳴を上げて後ずさった。*
*シロウがルミナを咎めるが、彼女は全く悪びれる様子もなく、シロウの隣にぴたりと寄り添って勇者たちを睨みつけている。その姿は、主を守る忠実な番犬そのものだ。*
シロウ:「あ、ルミナ。勝手に出てくるなよ」
ルミナ:「申し訳ありません、お兄ちゃん。ですが、この者たちの不敬は見過ごせませんでした。お兄ちゃんの偉大さを理解できぬ愚か者には、然るべき態度というものを示さねばなりません」
*その有無を言わせぬ口調と、神々しさすら感じる佇まいに、勇者カイトは完全に気圧されている。先程までの傲慢さは消え失せ、ただただ恐怖に引きつった顔でシロウとその傍らに立つ三人の女性(レイラ、ルミナ、シルフィリア)を交互に見ている。*
勇者カイト:「な…なんなんだよ、お前ら…! 勇者である俺に逆らう気か…!?」
*彼の震える声での虚勢は、もはや誰の心にも響かない。ボルガンが、ようやくシロウから羊皮紙へと視線を戻し、改めてその価値を噛み締めていたが、目の前のただならぬ空気に気づき、慌てて口を挟む。*
ボルガン:「ま、待ってくれ! カイト君! シロウさんは俺たちの恩人なんだ! 頼むから穏便に…!」
聖女アリス:「ボルガンさん、あなたもAランク冒険者でしょう!? なぜあのような得体の知れない男を庇うのですか! 彼らは危険ですわ!」
*アリスがヒステリックに叫ぶが、ボルガンは首を横に振る。*
ボルガン:「危険? 違うな。この方は…俺たちの想像を遥かに超えた御仁だ。カイト君、あんたが大迷宮の30階層で手に入れた武具を自慢するのもいい。だがな、シロウさんは、その倍以上の深さまで、俺たちを連れて行ってくれたんだ。…レベル上げ? パワーレベリング? 呼び方はどうでもいい。あんたが数ヶ月かけてやることを、この方は数時間で成し遂げた。これがどういう意味か、わかるか?」
*ボルガンの言葉に、勇者パーティは絶句する。自分たちが誇っていた成果が、まるで子供の遊びのように語られている。彼らのプライドは、今、完全に粉砕された。*
*シロウはそんな彼らを一瞥すると、もう興味を失ったように仲間たちに向き直る。*
シロウ:「用は済んだ。」
*シロウは自分に纏わりついていたルミナに意識を向け、内心で命じる。彼女の姿がふっと掻き消え、影の中へと還っていった。目の前の騒ぎも、もはやシロウの関心を引くものではなくなっていた。*
シロウ:「次は…どこに行こうかなぁ…」
*シロウが独りごちるように呟くと、隣にいたシルフィリアがパッと顔を輝かせ、シロウの腕に抱きついた。*
シルフィ:「シロウさま! それなら魔王城に戻りましょ! 私、お腹ぺこぺこです! リーシアが作ってくれるご飯、きっと美味しいですよ!」
レイラ(臆病):「そ、そうですよ、シロウ様! お城にはまだやることもたくさんありますし…! その、シロウ様が無事にお帰りになったこと、リーシアにも早く伝えてあげないと…!」
*二人が口々に城へ戻ることを提案する。勇者パーティーは、シロウたちの会話の内容が理解できず、ただただ呆然と立ち尽くしている。「魔王城」「リーシア」といった単語に、彼らの常識はさらに揺さぶられていた。*
*一方、ボルガンは仲間への希望である羊皮紙を大切に懐にしまうと、深く、深くシロウに頭を下げた。*
ボルガン:「シロウさん…! この御恩は、一生忘れねえ…! 何かあんたに困ったことがあったら、いつでも俺たちを頼ってくれ! この命に代えても、必ず力になる!」
リューナ:「シロウ殿…本当に、感謝する。貴殿は我ら一党の恩人だ」
*彼らは心からの感謝を捧げる。シロウはそれに特に応えるでもなく、軽く肩をすくめた。*
*シロウが転移魔法を発動させると、ギルドの喧騒は一瞬で遠のき、周囲の景色が荘厳な石造りの広間に切り替わる。まだ修繕の途中ではあるが、かつての威光を取り戻しつつある魔王城の玉座の間だ。*
*転移の光が収まると、広間の奥で作業の指示をしていた一人の女性が、シロウたちの姿に気づいて駆け寄ってきた。銀髪をポニーテールにした、有能そうなメイド服姿の女性、リーシアだ。*
リーシア:「あ! シロウ様、レイラちゃん、シルフィリア様、お帰りなさいませ! ご無事で何よりです」
*リーシアは安堵の表情を浮かべると、深々と一礼する。そして、シロウの問いかけに、すぐさま背筋を伸ばして答えた。*
リーシア:「はい、シロウ様。修繕は順調に進んでおります。ゴーストやスケルトンたちの働きは目覚ましく、特に外壁や居住区画の復旧は想定よりも早く完了しそうです。現在は、この玉座の間と、動力炉周辺の修復に重点を置いて作業を進めております」
*彼女が指し示す先では、半透明のゴーストたちが資材を運び、骸骨の兵士たちが器用に石材を積み上げている。アンデッドを使役して城を修復するという、常識外れの光景が広がっていた。*
*シロウの呼びかけに応じ、彼の足元の影が揺らめき、そこから純白の姿をしたルミナが音もなく現れる。彼女は現れるなり、シロウの前に恭しく跪いた。*
ルミナ:「お呼びでしょうか、お兄ちゃん♡」
シロウ:「おい、ルミナ。お前も手伝いに行ってこい」
*シロウの命令に、ルミナはぱっと顔を上げる。その表情は、主から重要な任務を与えられた騎士のように誇らしげで、喜びに満ちていた。*
ルミナ:「はい! 承知いたしました! このルミナ、お兄ちゃんのお役に立てるなら、どのようなことでも! 神の力をもって、この城を一日でも早く元の姿に戻してみせます!」
*彼女は力強く宣言すると、颯爽と立ち上がる。その視線は、作業を監督しているリーシアへと向けられた。*
ルミナ:「そこのメイド。この私に指示を。お兄ちゃんのご命令です。この城の修復作業に、私も神の御力をお貸ししましょう」
*突然現れた神々しい女性からの、やや高圧的な申し出に、リーシアは一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに状況を理解し、冷静に一礼する。*
リーシア:「は、はい。承知いたしました。ルミナ様、ですね。では、早速ですが、最も崩落の激しい西の塔の修復をお願いできますでしょうか。瓦礫の撤去と、石材の運搬からお願いしたく存じます」
ルミナ:「お任せください。神の御業をその目に焼き付けるといいでしょう」
*ルミナは自信満々に言うと、白いミニスカートを翻し、リーシアが指し示した西の塔の方角へと迷いなく歩き出した。その背中からは、主の役に立てるという純粋な喜びが溢れ出ているようだった。*
*ルミナが意気揚々と作業に向かうのを見送り、レイラとシルフィリアもリーシアと共に城の様子を見て回るためにその場を離れていった。玉座の間に一人残されたシロウは、ふぅ、と小さく息をつく。*
シロウ:「おれは…」
*(久しぶりに一人だ。ナイトクラブに遊びに行こう。)*
*そう思い立つと、シロウは躊躇なくゲートリングを操作する。目の前に現れた空間の歪みに足を踏み入れると、景色は一瞬で魔王城の薄暗い石造りから、陽光が降り注ぐ活気のある街並みへと変わった。ここは南大陸で最も栄えている商業都市『ザン・パルテ』だ。*
*シロウは街のメインストリートから少し外れた路地裏に転移すると、周囲に人がいないことを確認し、何食わぬ顔で表通りへと合流する。昼間のザン・パルテは商人や旅人で賑わっているが、彼の目的地は夜にこそ本領を発揮する歓楽街だ。*
*人々の喧騒を背に、シロウは記憶を頼りに足を進める。太陽が西に傾き始め、街がオレンジ色に染まる頃、彼は目的の地区へとたどり着いた。昼間はまだ静かだが、派手な看板やネオンの意匠が、夜の顔を想像させる。その中でも一際大きく、洗練されたデザインの建物の前でシロウは足を止めた。黒い扉に金文字で『Club Lilith』と刻まれている。南大陸随一と名高い、亜人専門の高級ナイトクラブだ。*
*開店にはまだ少し早い時間帯だが、屈強な獣人のドアマンが入り口に立っている。シロウが近づくと、ドアマンは鋭い目つきで彼を上から下まで値踏みするように見た。*
ドアマン:「開店は日没からだ。出直してきな、兄ちゃん」




