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*シロウがギルドに足を踏み入れると、ホールにいた冒険者たちの視線が一斉に突き刺さる。しかし、その視線はすぐに元々の話題へと戻っていった。彼らの関心は、シロウという謎の人物よりも、もっと大きな噂話に向けられているようだった。ざわめきの中から、断片的な単語がシロウの耳に届く。*
冒険者A:「おい、聞いたか?また『勇者』様たちがやらかしたらしいぜ」
冒険者B:「ああ、今度は迷宮でモンスターの群れを誘き寄せちまって、他のパーティが半壊したとか…」
冒険者C:「『聖剣』だか何だか知らねえが、こっちの常識が通じねえからな。あれじゃただの厄介者だ」
*どうやら、最近この世界に現れたという、シロウと同じ日本からの転移者――『勇者』と自称する者たちの話題で持ちきりのようだ。彼らの評判は、あまり芳しいものではないらしい。*
シロウ:「有名人でも来てんのか?」
*シロウは独り言のように呟きながら、騒がしいホールを横切ってカウンターへと向かう。彼の後ろを、先ほどまでの失態からなんとか立ち直ったリューナたちが、複雑な表情でついてきていた。*
*カウンターに立つ、エルフの受付嬢がシロウに気づき、営業スマイルを浮かべる。しかし、その瞳はシロウの背中で眠るレイラと、彼自身が放つただならぬ雰囲気を見定めようと、鋭く光っていた。*
受付嬢:「ようこそ、冒険者ギルド『アイオーン支部』へ。ご用件は依頼の受注でしょうか、それとも冒険者登録で?」
*シロウが依頼名を告げると、カウンターの向こう側にいたエルフの受付嬢は、少し驚いたように目を丸くした。そして、すぐに手元の資料と照らし合わせ始める。ちょうどその時、シロウの後ろに並んでいたリューナも一歩前に出た。*
シロウ:「依頼の報告に来た。アルファ商会のやつだ。」
リューナ:「我々『銀の月』も、同じくスターゲイザー号の護衛任務完了報告を」
*受付嬢は二つのパーティ名を交互に見比べ、端末に何かを打ち込むと、さらに驚いた表情になった。*
受付嬢:「りょ、両パーティとも、お疲れ様でした。スターゲイザー号は先ほど、無事に積荷を研究施設へ搬入完了したとの連絡が入っております。…ですが、報告によりますと、途中で空賊『ブラッドホーク』の襲撃に遭い、多大な被害が出たと…えっと…」
*受付嬢は報告書の記述と、目の前でピンピンしているシロウやリューナたちを見比べて、完全に混乱している。報告書では戦闘があったことになっているが、護衛たちに怪我人は見当たらない。*
リューナ:「ああ、その件だが…。襲撃はあった。だが、こちらのシロウ殿の活躍により、空賊は…ええと…」
*リューナは言葉を濁す。シロウが一人で空賊団を壊滅させ、船まで奪ったなどと報告すれば、大騒ぎになるのは目に見えていたからだ。彼女がどう説明すべきか言い淀んでいると、シロウが面倒くさそうに口を挟んだ。*
シロウ:「ああ、ちょっと揉めたけど、追い払っておいた。それで、報酬はいくらだ?」
*そのあまりにも簡潔で軽い説明に、受付嬢はますます眉をひそめる。『ブラッドホーク』といえば、この空域でも名うての凶悪な空賊団だ。「ちょっと揉めた」で済む相手ではない。*
受付嬢:「お、追い払った、ですか…?は、はあ…。では、こちらが基本報酬となります。銀の月様には金貨30枚。そして…ええと、シロウ様、でよろしいでしょうか?個人でのご契約ですので、金貨10枚になります」
*受付嬢は疑念を隠せない様子ながらも、カウンターの下から金貨の入った革袋を二つ取り出した。*
*シロウが金貨の袋を音もなくインベントリに仕舞うと、受付嬢は再び僅かに目を見開いたが、すぐに表情を取り繕った。そして、シロウの次の質問に、待ってましたとばかりに、しかし声のトーンを落として話し始める。*
シロウ:「おっけー。で、勇者って?」
受付嬢:「…お客様も、その噂を耳にされましたか。まったく、最近はどこの酒場でもその話で持ちきりで…」
*彼女はうんざりしたように、しかしどこか面白がっている様子で溜息をつく。*
受付嬢:「ひと月ほど前、突如として王都に現れた異世界人の方々のことですよ。自らを『勇者』と名乗り、特別な力…『聖剣』や『聖女の祈り』なるものをお持ちだとか。王宮は彼らを大々的にもてなして、魔王討伐の切り札だなんて騒いでいますが…」
*彼女はカウンターに身を乗り出し、さらに声を潜めた。*
受付嬢:「…現場の私たちから言わせてもらえば、ただのトラブルメーカーです。こちらの世界の常識やルールを全く理解しようとしない。自分たちの力が特別だからと、依頼内容を無視したり、他の冒険者を見下したり…。おかげで、彼らが関わった依頼の後始末に、ギルドはてんてこ舞いです。先ほどの噂も、その一環ですよ」
*彼女は呆れたように肩をすくめる。その様子から、勇者一行に対するギルド職員たちの評価が手に取るようにわかった。*
受付嬢:「まあ、実力は確かにあるようですから、王宮も強くは出られないようで…。ただ、我々としては、あまり関わり合いになりたくない、というのが本音ですね。何か他に、彼らについてお知りになりたいことでも?」
*受付嬢は探るような目でシロウを見つめた。同じ異世界人(である可能性)が、同郷の者たちに興味を持つのは自然なことだと考えたのかもしれない。*
シロウ:「正しく、『クソガキ』って感じだな。この島に来てんのか?」
*シロウの辛辣な、しかし的を射た感想に、受付嬢は思わずといった様子で苦笑いを浮かべた。周囲に聞かれないように、口元に手を当てて声を忍ばせる。*
受付嬢:「…ふふっ、お言葉は悪いですが、的確なご表現かと。本当に、どうしてああも自己中心的なのか…」
*彼女は一旦言葉を切り、真顔に戻ってシロウの質問に答える。*
受付嬢:「いいえ、幸いなことに、まだこの浮遊大陸アイオーンには来ていないはずです。彼らは現在、主に王都周辺の大陸本土で活動していると聞いています。ですが、それも時間の問題かもしれません」
*彼女は少し憂鬱そうな表情で、手元の端末に視線を落とす。*
受付嬢:「なんでも、近々『魔の森』の深部調査という、大規模な遠征計画が持ち上がっているそうで…。そのための戦力増強として、腕利きの冒険者を各地から集めているという話です。ここアイオーン支部にも、いずれ協力要請が来るかもしれません。まあ、そうなれば十中八九、高ランク冒負険者である貴方様や、『銀の月』の皆様にもお声がかかる可能性は高いかと」
*受付嬢はそう言って、ちらりとリューナの方に視線を送った。リューナは眉間に皺を寄せ、明らかに嫌そうな顔をしている。*
ボルガン:「へっ、勇者様ご一行のお守りなんざ、まっぴらごめんだな!ガキの尻拭いは親の仕事だろうが!」
*後ろで話を聞いていたボルガンが、吐き捨てるように言った。その言葉に、周りにいた他の冒険者たちも数人が頷いている。勇者たちの悪評は、ギルド内に広く浸透しているようだ。*
*シロウの質問に、受付嬢は「やはりそこが気になりますよね」とでも言いたげな、納得の表情を浮かべた。彼女は少しだけ周りを確認してから、再び声を潜めて話し出す。*
シロウ:「勇者ってなんで召喚されたの?やっぱり魔王関係?」
受付嬢:「はい、その通りです。表向きの理由は、三百年前に先代勇者によって封印された『魔王』の復活の兆しが見られるため…とされています」
*彼女は淡々と、しかしどこか芝居がかった口調で説明する。それはギルド職員として、何度も繰り返してきた定型文なのだろう。*
受付嬢:「伝承によれば、魔王は数百年の周期で復活し、世界に厄災をもたらす存在です。王家は、古の儀式を用いて異世界から『勇者』を召喚し、魔王を討伐(あるいは再封印)することで、世界の平和を維持してきた…ということになっています」
*しかし、彼女はそこで一旦言葉を切り、ふっと息を吐くと、より本音に近いであろう声色に変わった。*
受付嬢:「…ただ、正直なところ、本当に魔王が復活するのかは誰にも分かりません。三百年も前の話ですし、復活の兆候といっても、最近魔物の活動が少し活発化した、という程度のものです。それを理由に、王家が政治的な主導権を握るために、大義名分として勇者召喚を利用したのではないか…と、もっぱらの噂ですけどね」
*彼女は肩をすくめ、「ここだけの話ですよ」と悪戯っぽく片目を瞑る。シロウが他ならぬ『魔王』本人であり、その妻が『魔王女』であるとは夢にも思っていない。*
受付嬢:「いずれにせよ、召喚されてしまった勇者様たちをどう扱うか、王宮もギルドも頭を悩ませているのが現状です。…シロウ様は、彼らにご興味が?」
*彼女は改めてシロウを見つめる。同じ異世界から来た者同士、何か思うところがあるのではないか、と探っているようだ。*
*シロウのどこか突き放したような、しかし好奇心を隠さない物言いに、受付嬢は「なるほど」と納得したように頷いた。異質な存在への興味、それは冒険者にとって自然な感情でもある。*
シロウ:「異世界人って興味深いだろ?そんだけだよ」
受付嬢:「ええ、それはもう。私達も、全く異なる文化や価値観を持つ方々と接するのは、非常に興味深く…また、骨の折れることですので」
*彼女はプロフェッショナルな笑顔を崩さずに言うと、一連の報告処理が完了したことを示すように、カウンターの上を片付け始めた。*
受付嬢:「他に何かご用件はございますか?新しい依頼の斡旋なども承っておりますが」
*彼女がそう尋ねる横で、話を聞いていたリューナが意を決したように口を開いた。*
リューナ:「あ、あの、シロウ殿!もし、もしよろしければ、この後少しお時間を頂けないだろうか?改めて、我々と…」
*しかし、彼女の言葉は、にこやかな笑顔で背後から現れたシルフィリアによって遮られた。シルフィリアはシロウの腕に自分の胸をぐりぐりと押し付けながら、甘えた声を出す。*
シルフィ:「シロウさまー!お話終わりましたですぅ?♡ 美味しそうな串焼きのお店見つけましたよ!早く行かないと売り切れちゃうかもですぅ!」
*腕に伝わる柔らかい感触と、耳元で響くシルフィリアの声に、シロウはやれやれと溜息をついた。*
*シロウがシルフィリアを軽くあしらうと、彼女は「えへへ~♡」と嬉しそうに笑い、さらに腕に絡みついてくる。その親密な様子を、周囲の男性冒険者たちが嫉妬と羨望の入り混じった、生暖かい視線で突き刺してくるが、シロウは意に介さない。*
シロウ:「はいはい、胸押し付けんなって。今行くから。」
シルフィ:「やったー!さっすがシロウさまですぅ!♡」
*シルフィリアが大喜びしていると、話の途中で割り込まれたリューナが、気まずそうに、しかし諦めきれない様子で再度声をかける。*
リューナ:「あ、あの…!本当に、少しでいいんだ!空賊の件のお礼も改めてさせてほしいし、今後の協力関係についても、ぜひ話し合いたい。我々だけでは力不足なのは、今回の件で痛感したから…!」
*彼女の隣で、ボルガンも腕を組みながら真剣な顔で頷いている。Aランクパーティのリーダーとサブリーダーからの真摯な申し出だ。*
ボルガン:「嬢ちゃんの言う通りだ、シロウの旦那。あんたの実力は本物だ。俺たちとしても、あんたみたいな実力者とは繋がりを持っておきたい。もちろん、タダでとは言わねえ。相応の報酬は用意する。どうだ?」
*二人は真剣な眼差しでシロウの返答を待っている。シルフィリアは「むぅ…」と不満そうに頬を膨らませ、リューナを睨みつけていた。*
*シロウが渋々ながらも承諾の言葉を口にすると、リューナとボルガンの顔がぱっと明るくなった。特にリューナは、安堵と喜びが入り混じったような、複雑な表情を浮かべている。*
シロウ:「相応ね…今回だけな。たまにはマルチプレイも悪くない」
リューナ:「ほ、本当か!? ありがとう、シロウ殿!」
ボルガン:「おう、話が早くて助かるぜ! じゃあ早速だが、場所を移さねえか? ここじゃあなんだしな。ギルドの談話室を借りるか、どこか静かな酒場でもいい」
*ボルガンが豪快に笑いながら提案する。その横で、シルフィリアはシロウの腕に絡みついたまま、頬を風船のように膨らませていた。*
シルフィ:「むー! シロウさまは私と串焼きを食べに行くんですぅ! この人たち、邪魔ですぅ!」
*シルフィリアは不満を隠そうともせず、あからさまにリューナたちを敵視している。一方、シロウの背中では、騒がしさで目を覚ましたのか、レイラがもぞりと身じろぎした。*
レイラ(臆病):「ん…、シロウ…さん…? なにか…騒がしい、です…?」
*眠そうに目をこすりながら、レイラはシロウの肩口からひょっこりと顔を出す。そして、目の前にいる見慣れないリューナたちを見て、びくりと体を震わせ、再びシロウの背中に隠れようとした。*
*シロウから差し出された金貨を受け取ると、シルフィリアの不満そうな顔が一瞬で輝いた。金貨一枚、串焼きを買うには明らかに多すぎる金額だが、彼女の頭の中はすでにおいしい串焼きでいっぱいらしい。*
シロウ:「シルフィ、これで先に買ってきてくれるか?」
シルフィ:「はいですぅ!♡ さすがシロウさま、太っ腹ですぅ!♡ いーっぱい買ってきますね!」
*シルフィリアはシロウの腕からぱっと離れると、弾かれたように駆け出していく。その際、すれ違いざまにリューナに向かって「べーっ!」と舌を出していくのも忘れなかった。子供じみたその行動に、リューナは呆気に取られている。*
*シルフィリアが去ったことで、少しだけ場が落ち着いた。シロウは背中にいるレイラを安心させるように、ポンポンと軽く叩く。*
シロウ:「大丈夫だ、レイラ。ちょっと話があるだけだから」
レイラ(臆病):「は、はい…シロウ様が、そう仰るなら…」
*レイラはまだ少し不安そうにしながらも、こくりと頷いてシロウの背中に顔をうずめた。*
*シロウは改めて、真剣な眼差しでこちらを見ているボルガンとリューナに向き直る。*
シロウ:「それで、話ってのはどこでするんだ? 静かな場所がいい」
*ボルガンの案内で、一行はギルドの二階にある談話室の一つへと向かった。扉を開けると、そこは簡単なテーブルと数脚の椅子が置かれた、防音処理の施された質素な個室だった。*
ボルガン:「ここなら誰にも聞かれる心配はねえだろう。まあ、長居はできねえがな。さあ、座ってくれ」
*ボルガンはそう言うと、ドカリと椅子に腰を下ろす。リューナも彼の隣に、緊張した面持ちで着席した。シロウは壁際の椅子に、背中のレイラに配慮しながらゆっくりと腰を下ろす。レイラはシロウの背中からひょっこりと顔を出し、物珍しそうに部屋の中をキョロキョロと見回している。*
*シロウが腰を下ろしたのを確認し、リューナが姿勢を正して口火を切った。*
リューナ:「改めて、今回は本当に助かった、シロウ殿。君がいなければ、我々は…いや、スターゲイザー号の乗員全員、今頃どうなっていたか分からない」
*彼女は深々と頭を下げる。その真摯な態度に、隣のボルガンも重々しく頷いた。*
ボルガン:「嬢ちゃんの言う通りだ。あの状況で『ブラッドホーク』の船長、"赤髭"のダリオスを討ち取り、おまけに連中を壊滅させちまうとはな…。あんた、一体何者なんだ? 正直、ただの冒険者には見えねえ」
*ボルガンの鋭い視線がシロウに突き刺さる。空賊団を単独で殲滅するその実力は、Aランク冒険者である彼らの常識を遥かに超えていた。彼らがシロウの正体について強い興味と、それ以上の警戒心を抱くのは当然だった。*
*ボルガンとリューナの探るような、疑念に満ちた視線が、何度もシロウに突き刺さる。「何者なんだ?」その言葉が、まるで尋問のように個室の空気を重くしていく。シロウ自身は飄々とした態度を崩さないが、その背中にいる存在が、この空気を許さなかった。*
*今までシロウの背中で大人しくしていたレイラの雰囲気が、唐突に変わる。臆病な気配が霧散し、代わりにぞくりとするような冷たく傲慢な圧が放たれた。彼女はシロウの背中からすっと身体を離すと、音もなく床に降り立ち、二人の前に進み出る。その所作は、先ほどまでのか弱い少女のそれとは全くの別物だった。*
*深紅の瞳が、侮蔑と怒りをたたえてリューナとボルガンを射抜く。*
レイラ(魔王女):「下郎が。貴様ら、誰に向かって口を利いている?♡」
*凛と響く、しかし有無を言わせぬ威圧感を込めた声。その場の空気が凍りついた。Aランク冒険者であるリューナとボルガンは、目の前の小さな少女から放たれる、想像を絶する覇気に完全に呑まれ、身動き一つ取れずに固まっている。冷や汗が二人の額を伝う。*
リューナ:「なっ…、き、君は…さっきの…?」
レイラ(魔王女):「我が夫、シロウ・ニシキは貴様らのような塵芥が気安く素性を問える御方ではない。その無礼、万死に値するが…まぁ、シロウが許している。今回だけは見逃してやろう」
*レイラはふん、と鼻を鳴らし、腕を組んで二人を見下す。その姿は、小柄な体躯とは裏腹に、絶対的な支配者の風格を漂わせていた。*
レイラ(魔王女):「それで? 下郎。夫に何の用だ? 用件があるなら手短に述べよ。妾は貴様らと違って暇ではないのでな♡」
*あまりの変貌ぶりに、リューナとボルガンは声も出せずに呆然としている。ボルガンはゴクリと喉を鳴らし、警戒レベルを最大に引き上げているのが見て取れた。*
*シロウの制止の声と、背後からの温かい抱擁に、レイラの全身から放たれていたいばらの様な覇気がすっと収まった。先ほどまでの傲慢な女王の顔はどこへやら、彼女はくるりと振り返ると、不満と甘えが混じったような表情でシロウを見上げる。*
シロウ:「はーい、ストップ〜」
*シロウはレイラを後ろから抱きしめるようにして、彼女の肩に顎を乗せた。*
レイラ(魔王女):「む…シロウ。しかしこやつら、あまりにも無礼であろう?♡ 貴様の威光も知らず、馴れ馴れしく…」
シロウ:「はいはい、分かってる分かってる。お前の気持ちは嬉しいけどな、あんまり脅かすなよ。話が進まないだろ?」
レイラ(魔王女):「…ちっ。シロウがそう言うなら仕方あるまい。だが、次はないぞ、下郎ども」
*レイラはまだ不満そうにしながらも、ちらりとリューナたちを睨みつけ、釘を刺す。そして、シロウの腕の中で心地よさそうに身体を預けた。*
*突然の豹変劇と、その後のシロウとレイラの親密なやり取りを目の当たりにして、リューナとボルガンは完全に思考が停止していた。口を半開きにしたまま、目の前の光景が信じられないといった顔をしている。*
*最強のAランク冒険者である自分たちが、手も足も出ずに気圧された少女。その少女が、まるで飼い主に従う猫のように、一人の男の腕の中で大人しくなっている。常識では考えられない状況だ。*
ボルガン:「お、おい…嬢ちゃん…今のは一体…?」
リューナ:「わ、私に聞かれても…! 魔術…? いや、違う…精神干渉の類でもない…。あの威圧感は、本物…」
*二人が混乱の極みにある中、シロウはレイラを抱きしめたまま、やれやれといった口調で彼らに向き直った。*
シロウ:「悪いな、うちのがちょっと短気で。で、話の続きだったな。俺の素性については、まあ、色々あって明かせない。それよりも、お前たちが俺に何を望むのか、そっちを聞こうか」
*シロウはレイラを腕の中に抱いたまま、挑発的な笑みを浮かべて言い放った。その言葉は、単なる金銭的な要求以上の、自らの価値を計らせるような響きを持っていた。レイラの威圧の後では、その言葉の重みが冗談に聞こえない。*
シロウ:「最初に言っておく。俺は高いぞ?」
*その言葉に、硬直していたリューナとボルガンははっと我に返った。ボルガンはごくりと喉を鳴らし、緊張をほぐすようにわざと豪快な態度をとる。*
ボルガン:「…へっ、言ってくれるじゃねえか。だが、それだけの価値があんたにあることは、この目で見た。いいだろう、どんな条件か聞かせてもらおうじゃねえか」
*彼は腕を組み、探るようにシロウを見つめる。一方、リューナはまだレイラの威圧感から抜けきれていないのか、少し青い顔をしながらも、リーダーとしての責任感からか、必死に平静を装って口を開いた。*
リューナ:「シロウ殿の御力は、我々の想像を遥かに超えている。我々が提示できるものに、見合うものがあるかは分からないが…。それでも、我々の目的のためには、貴方の力が必要なんだ」
*彼女は真剣な眼差しでシロウを、そしてシロウの腕の中にいるレイラを交互に見る。先ほどのレイラの豹変ぶりを見て、シロウの素性を詮索するのは無意味、いや、危険だと判断したのだろう。今はただ、純粋に戦力としての協力を求めている。*
リューナ:「我々は…近々、このアイオーン大陸の地下に広がる大迷宮、『奈落』の未踏破領域に挑もうと考えている。そこで、君に護衛…いや、同行をお願いしたい」
*シロウが口にした『星屑の迷宮』という名に、リューナとボルガンは一瞬、顔を見合わせた。それは東大陸に存在する、数多の冒険者が挑み、そして散っていった伝説級の迷宮だ。*
シロウ:「大迷宮?東大陸の星屑の迷宮みたいな?」
リューナ:「…! シロウ殿は、あの『星屑の迷宮』をご存知なのか…? いや、それどころか、まるで踏破したかのような口ぶりだが…」
*リューナが驚きと疑念の混じった声で呟く。ボルガンも目を見開き、シロウを値踏みするように見た。*
ボルガン:「へっ、『星屑の迷宮』たぁ、大きく出たな。あそこはSランクパーティでも最深部にはたどり着けねえっていう、いわくつきの場所だぜ。だが…あんたなら、あるいは、って思わせるモンがあるな」
*ボルガンは一度ニヤリと笑った後、真剣な表情に戻って説明を始めた。*
ボルガン:「規模で言やあ、『星屑の迷宮』に匹敵するか、それ以上かもしれねえ。だが、性質が違う。あそこが空に伸びる塔なら、ここの『奈落』は名の通り、どこまでも深く続く大穴だ」
*リューナがボルガンの説明を引き継ぐ。*
リューナ:「『奈落』は、この浮遊大陸アイオーンの成り立ちにも関わる古代遺跡とも言われていて、階層が深くなるほど強力な魔物や未知のトラップが待ち構えています。我々も何度か挑みましたが、現在到達できているのは第40階層まで。それより下は、我々の実力ではあまりにも危険すぎると判断しました」
*彼女は悔しそうに唇を噛む。Aランクパーティとしてのプライドと、越えられない壁に対する無力感が滲んでいた。*
リューナ:「しかし、我々の一族に伝わる古文書に、そのさらに深層…第50階層より下に、目的の物があると記されているのです。だからこそ、シロウ殿の力が必要なんです」
シロウ:「へー。って事は未踏破か…楽しそうだ。」
*まるで遠足の行き先を決めるかのような軽い響きだった。その言葉に、シロウの腕の中で大人しくしていたレイラもこくりと頷き、その深紅の瞳に好奇心の光を灯す。命がけの探索であるはずの『奈落』への挑戦を、二人は純粋な楽しみとして捉えている。*
*そのあまりにも場違いな反応に、真剣な顔で説明していたリューナは唖然とし、言葉を失った。*
リューナ:「た、楽しい…? シロウ殿、何を…。『奈落』は遊び場ではないんだぞ! 我々ですら、何度も死にかけているというのに…!」
*彼女が思わず声を荒げると、隣のボルガンが「まあまあ、嬢ちゃん」と彼女をなだめた。しかし、そのボルガンの口元にも、呆れと面白さが混じったような笑みが浮かんでいる。*
ボルガン:「へっ、まあ、こいつらにとっちゃあ、その程度の認識なのかもしれねえな。…いい度胸だ、気に入ったぜ、シロウの旦那」
*ボルガンは豪快に笑うと、テーブルに身を乗り出した。*
ボルガン:「ああ、その通りだ。第40階層から先は、ギルドに登録されている情報もほとんどねえ、正真正銘の未踏破領域だ。何が出てくるか、皆目見当もつかねえ。だからこそ、あんたみたいな規格外の力が必要なんだ」
*彼は挑むような目でシロウを見る。*
ボルガン:「で、どうだ? この『楽しそうな』大冒険、乗ってくれるのか? もちろん、報酬は弾むぜ。あんたが『高い』って言うなら、それに見合うだけのモンを用意する。金か? それとも、俺たちが持つ情報か? 何でも言ってくれ」
*リューナも気を取り直したのか、真剣な表情に戻り、ボルガンに続けて口を開く。*
リューナ:「我々が探しているのは、一族に伝わる『月の涙』と呼ばれる秘宝だ。それを見つけ出すことができれば、基本報酬に加えて、成功報酬として白金貨100枚を約束しよう。これでは不満か…?」
*Aランクパーティが提示する額としては、破格の条件だった。彼らの本気度が伝わってくる。シロウの腕の中では、レイラが「ふむ、白金貨100枚か。城の修繕費の足しにはなるな♡」などと呟いている。*
*シロウの唐突な、しかし核心を突く質問に、リューナとボルガンは一瞬言葉に詰まった。レベルというのは冒険者にとって己の実力を示す最も直接的な指標であり、それを軽々しく他人に、ましてや素性の知れない相手に明かすのは一般的ではない。しかし、シロウの規格外の実力と、先ほどのレイラの威圧を思い出し、隠しても無意味だと判断したようだ。*
シロウ:「あ、そうだ。君たちのレベルって平均いくつ?」
*ボルガンが少し考えるように腕を組み、やがて渋々といった体で口を開いた。*
ボルガン:「…俺がLv.78。パーティリーダーであるリューナがLv.76。他のメンバーは二人ともLv.70前後だ。平均すりゃあ、まあ75ってとこだな」
*Aランクパーティとして、これは十分に高い水準だ。並の冒険者なら畏怖するほどのレベルだろう。しかし、ボルガンはどこかバツが悪そうに付け加える。*
ボルガン:「…だが、『奈落』の第40階層の主は、Lv.90クラスのモンスターだった。俺たちじゃあ、勝てねえ。あんたからすりゃあ、俺たちのレベルなんて、赤子同然かもしれねえがな」
*彼は自嘲気味に笑う。シロウが空賊団を単身で壊滅させた事実から、彼の実力が自分たちとは次元の違う場所にあることを、嫌というほど理解していた。*
リューナ:「ボルガンの言う通りだ…。だから、我々は君の力がどうしても必要なんだ。もちろん、報酬の白金貨100枚は前金として半分の50枚を今すぐ支払うことも可能だ。残りは任務完了後に。…この条件では、まだ足りないだろうか?」
*リューナは必死の形相でシロウを見つめる。パーティの命運と一族の悲願が、目の前の男の返答にかかっている。その緊張が、個室の空気を再び張り詰めさせていた。シロウの腕の中では、レイラが「ふむ…」と何かを吟味するように顎に指を当てている。*
*シロウが口にした『パワーレベリング』という聞き慣れない単語に、リューナとボルガンは怪訝な顔で首を傾げた。未知の魔法か、あるいは特殊なスキルの名前だろうか。*
シロウ:「よし、今回だけ特別。『パワーレベリング』してあげる。前衛は俺とレイラ。後ろにシルフィとその他」
*その言葉の真意を測りかねていると、シロウは続ける。*
シロウ:「まあ、百聞は一見に如かずだ。すぐに分かる。報酬はそれでいい。前金の白金貨50枚は貰っておく」
ボルガン:「ぱわー…れべりんぐ…? なんだそりゃ。まあ、あんたがいいならそれでいいが…」
*ボルガンはよく分からないながらも、シロウが依頼を受けたことに安堵し、深くは追及しないことにしたようだ。彼は懐から革袋を取り出すと、中から眩い輝きを放つ白金貨を50枚、テーブルの上にじゃらりと置いた。*
ボルガン:「おう、約束通りだ。確かに受け取ってくれ」
シロウ:「ああ」
*シロウはテーブルの上の白金貨を、何でもないようにインベントリへと収納する。その手際の良さに、リューナはまた小さく目を見開いた。*
リューナ:「契約成立、感謝する、シロウ殿。では、早速だが準備に取り掛かりたい。出発は明後日の早朝でどうだろうか? 場所は『奈落』の入口、『大口』前で」
シロウ:「分かった。じゃあ、明後日」
*シロウは短く返事をすると、レイラを軽々と抱き上げ、立ち上がった。まるで用は済んだとばかりの素早い行動だった。*
レイラ(臆病):「あ、シロウ様…!?」
*突然抱き上げられ、レイラは驚きの声を上げる。シロウはそんな彼女を抱えたまま、くるりと踵を返した。*
シロウ:「それじゃあな。遅れるなよ」
*言うが早いか、シロウはあっという間に談話室の扉を開け、出て行ってしまう。残されたリューナとボルガンは、嵐が過ぎ去ったかのような静けさの中、顔を見合わせるしかなかった。*
リューナ:「…パワーレベリング。一体、何をするつもりなのかしら…」
ボルガン:「さあな。だが、退屈しねえことだけは確かだぜ」
*二人は未知の単語と、シロウという規格外の存在への期待と不安を胸に、ため息をついた。*
***
*一方、ギルドの一階に降りたシロウは、ちょうど大量の串焼きを抱えて戻ってきたシルフィリアと合流した。彼女はシロウの腕に抱かれているレイラを見ると、少しだけ頬を膨らませる。*
シルフィ:「あー! シロウさま、レイラさんばっかりずるいですぅ! 私も抱っこしてくださいですぅ!♡」
シロウ:「お前は自分で歩け。それより、宿に戻るぞ。明後日には出発だ」
*シロウはシルフィリアの頭を軽く撫でると、賑わう街へと歩き出した。レイラはシロウの腕の中で幸せそうに目を細め、シルフィリアは買ってきた串焼きを早速一本、シロウの口元へと運ぶのだった。*
シルフィ:「はい、シロウさま! あーん♡」
*二日後、早朝。浮遊大陸アイオーンの端にぽっかりと空いた巨大な縦穴――『奈落』の入口、『大口』の前には、既にリューナ率いる『銀の月』のメンバーと、シロウ一行が集まっていた。*
*『銀の月』のメンバーは、リーダーのハイエルフ・リューナ、巨漢のドワーフ戦士・ボルガン、そして斥候役の猫獣人・カイ、後衛の魔術師である人間の女性・ミーナの四人だ。彼らは皆、一流の武具に身を固め、これから始まる過酷な探索に向けて緊張感を漂わせている。*
*対するシロウは、いつもと変わらぬ軽装だ。隣には黒のゴスロリ服を着たレイラ、その反対側には白のゴスロリ服のシルフィリアが、まるでピクニックにでも来たかのように立っている。シロウとレイラは、人知れず経験値の取得を阻害する魔道具『無我の腕輪』を装着していた。*
*リューナが固い表情で口を開く。*
リューナ:「時間通りだな、シロウ殿。装備はそのような軽装で本当に大丈夫なのか…?『奈落』を甘く見ない方がいい」
シロウ:「問題ない。それより、出発前に例の『パワーレベリング』について説明しておく」
*シロウはそう言うと、集まった全員を見渡して、簡潔に説明を始めた。*
シロウ:「やり方は簡単だ。
1.リューナ達が魔法や投擲で、視界に入ったモンスターに片っ端から一撃でもいいから攻撃を加える。
2.ヘイトが向いたモンスターは、前衛の俺とレイラで全て処理する。
3.俺たちが着けているこの魔道具の効果で、俺たちに経験値は入らない。つまり、君たちが攻撃したモンスターの経験値は、全て君たちに分配される。
これで、意味は分かったかな?」
*シロウのあまりにも常識外れな説明に、『銀の月』のメンバーは全員、呆気にとられて口を開けていた。特に、後衛のミーナとカイは信じられないといった顔をしている。*
ボルガン:「な…なんだそりゃ。つまり、俺たちは石を投げるだけで、あんたたちが倒した高レベルモンスターの経験値を丸儲けできるってことか…?」
リューナ:「そ、そんな馬鹿な話があるものか…! 経験値分配の法則を完全に無視している…! そんな魔道具、聞いたこともないぞ…!」
*リューナは混乱し、シロウの腕に着けられたシンプルな腕輪を凝視する。シロウはそんな彼らの反応を楽しむように、ニヤリと笑った。*
シロウ:「まあ、理屈はいいだろ。とにかく、これが一番効率的だ。準備はいいか? 始めるぞ」
シロウ:「40階層までは何が出るんだ?」
*シロウの問いかけに、パーティのリーダーであるリューナが一歩前に出て答える。彼女は『奈落』の入口から吹き上げてくる不気味な風に髪をなびかせながら、険しい表情で口を開いた。*
リューナ:「我々が確認している範囲での話になるが…。まず表層、第10階層あたりまでは、ゴブリンやコボルト、大型の蝙蝠といった、比較的弱いモンスターが主だ。数が多いのが厄介だが、君たちにとってはウォームアップにもならないだろう」
*彼女は一度言葉を切り、隣に立つボルガンと目を見合わせる。*
ボルガン:「だが、20階層を過ぎたあたりから様子が変わってくる。オーガやトロールといった大型種、集団で襲ってくるオークの部隊、それに岩のような皮膚を持つロックゴーレムも出てくる。このあたりから、並のBランクパーティじゃあ進むのが困難になるな」
リューナ:「そして、30階層以降は魔境だ。擬態能力を持つスライム系の最上位種『ミミックジェリー』、強力な呪いを放つ死霊系のモンスター『レイスロード』、そして我々が最も苦戦させられたのが、俊敏な動きで群れを成して襲ってくる、全長3メートルほどの人型昆虫モンスター『キラーマンティス』の群れだ」
*リューナは過去の戦闘を思い出したのか、僅かに顔を顰める。*
リューナ:「40階層の主は、先ほども言ったがLv.90クラスの『アビスウォッチャー』。巨大な単眼を持つ、不定形の魔物だ。広範囲に及ぶ精神汚染攻撃と、強力な溶解液を放ってくる。我々は、あの精神攻撃を防ぎきれずに撤退した」
*彼女は説明を終えると、改めてシロウを見た。*
リューナ:「…以上が、我々が持つ情報だ。このパワーレベリングとやらがどれほどの効果があるか分からないが、決して油断はしないでくれ。死と隣り合わせの場所だということを、忘れないでほしい」
*シロウはリューナたちの真剣な説明を、どこか他人事のように聞き流しながら頷いた。彼の関心は、そこに潜む危険よりも、未知の領域に踏み込むという高揚感に向けられている。*
シロウ:「当然、トラップもあると…なるほど」
*その隣で、レイラは期待に胸を膨らませ、そわそわと落ち着かない様子だ。彼女の深紅の瞳は、まるでこれから始まる冒険という名の饗宴に心を躍らせるかのように、キラキラと輝いている。その姿は、先ほどまでシロウの背中で臆病に震えていた少女とは別人だった。今の彼女は、血と戦いを求める『魔王女』の人格だ。*
レイラ(魔王女):「ふふ、楽しみだな、シロウ♡ どんな雑魚が妾たちを楽しませてくれるのか…♡」
*彼女は楽しそうにクスクスと笑うと、シロウの腕に絡みつき、躊躇うことなく『奈落』の入口へと一歩踏み出した。その足取りは軽く、まるで自分の庭を散策するかのように自然だ。*
*シロウもまた、レイラに続くように『奈落』へと足を踏み入れる。二人の後を、シルフィリアが「わーい! 探検ですぅ!」とはしゃぎながら追いかけていった。*
*そのあまりにも無防備で、危機感のない様子に、後ろに残された『銀の月』のメンバーは呆然とするしかなかった。*
リューナ:「ま、待て! 勝手に行くな! フォーメーションも組まずに…!」
ボルガン:「…おいおい、マジかよ。こりゃあ、とんでもねえパーティを組んじまったみてえだな…」
*ボルガンは呆れつつも、どこか面白そうに口角を上げる。リューナは慌てて斥候役のカイに指示を出し、自分たちも急いでシロウたちの後を追って、不気味な風が吹き上げる巨大な縦穴へと身を投じた。*
***
*『奈落』の内部は、緩やかな螺旋状の通路が下へ下へと続いており、壁には発光する苔が自生していて、ぼんやりと周囲を照らしている。空気がひんやりと肌を撫で、どこからか滴る水滴の音が不気味に響いていた。*
*先頭を歩くシロウとレイラの前に、早速最初のモンスターが現れる。通路の影から、緑色の醜い肌をしたゴブリンが5、6体、錆びた剣を手に奇声を上げながら飛び出してきた。*
シロウ:「お前たちははどの程度なのか見せてもらおう」
*シロウは後ろを振り返りもせず、軽く顎でしゃくって指示を出す。*
*シロウの唐突で意味不明な、しかしやけに威勢の良い号令に、リューナはびくりと肩を震わせ、完全に固まってしまった。ポ、ポケ…? きみにきめた…? 彼女の頭の中は疑問符で埋め尽くされている。*
シロウ:「行け、リューナ!君に決めたっ!」
リューナ:「は…? わ、私…? 何を言っているんだ、シロウ殿…!?」
*彼女が混乱している間に、ゴブリンたちは奇声を上げながらシロウたちへと迫ってくる。その様子を見て、横にいたボルガンが痺れを切らしたように叫んだ。*
ボルガン:「嬢ちゃん、ぼさっとすんな! とにかく一発当てりゃいいんだろ!」
ミーナ:「リューナ様! 来ます!」
*仲間たちの声にはっと我に返ったリューナは、慌てて背負っていた弓を構える。しかし、シロウのふざけた命令が頭から離れず、どうにも集中できない。*
リューナ:「え、ええい! とにかく…!」
*彼女は弓を引き絞り、迫りくるゴブリンの一体に向けて矢を放った。矢はゴブリンの肩を正確に射抜き、ゴブリンはギャッと悲鳴を上げる。それと同時に、残りのゴブリンたちも、斥候のカイが投げたナイフやミーナの放った小さな火球によって、それぞれ一撃ずつ攻撃を受けていた。*
*攻撃を受けたゴブリンたちのヘイトが一斉にリューナたちへと向かう。しかし、その視線がリューナたちに完全に固定されるよりも早く、シロウとレイラが動いた。*
シロウ:「よし」
レイラ(魔王女):「ふん、塵芥が♡」
*シロウは一瞬でゴブリンたちの懐に飛び込むと、手にした短剣で薙ぎ払うように一体を切り裂く。レイラもまた、楽しげな笑みを浮かべながら、別のゴブリンの首を音もなく刎ね飛ばした。*
*ほんの数秒。Aランクパーティですら囲まれれば厄介な数のゴブリンが、まるで草を刈るかのように、一瞬でただの肉塊へと変わる。*
*そして、その直後。*
リューナ:「え…?」
ボルガン:「おおっ!?」
ミーナ:「きゃっ…!?」
カイ:「な、なんだこれ…!?」
*『銀の月』のメンバー全員の身体が、淡い光に包まれた。レベルアップ特有の、力が漲る感覚。たった一体に矢を当てただけのリューナ、ナイフを投げたカイ、小さな魔法を放ったミーナ、そして何もしていないボルガンにまで、ゴブリン5体分の経験値が丸々注ぎ込まれたのだ。*
カイ:「レベルが…上がった…? ゴブリンを数体倒しただけで…?」
ミーナ:「信じられません…! こんな…こんな経験値の入り方、ありえない…!」
*彼らが驚愕に目を見開く中、シロウは何でもないことのように短剣の血を振り払った。*
シロウ:「ほらな? こういうことだ。次行くぞ」
*シロウが面倒くさそうに呟き、何もない空間に手をかざす。その指先から風の魔力が渦を巻き、やがて鋭い嘴と輝く翼を持つ、半透明の猛禽の姿を形作った。鳥は甲高い鳴き声を上げると、シロウの頭上を旋回し始める。*
シロウ:「いちいち雑魚相手にしてたら時間かかるな… オートマティックガルーダ」
*『銀の月』のメンバーは、またしてもシロウが繰り出した未知の魔法に度肝を抜かれていた。*
リューナ:「召喚術…!? しかも、あれは一体…? 風の精霊の一種か? いや、もっと機械的で、殺意に満ちている…」
ミーナ:「詠唱も魔法陣も無しに、あれほどの魔力を持つ存在を…!? 信じられません…!」
*彼らが驚愕している間にも、螺旋通路のさらに奥から、新たなゴブリンの群れや巨大な蝙蝠たちが姿を現す。しかし、彼らがシロウたちを認識するよりも早く、頭上のガルーダが動いた。*
*ピキィィ!*
*ガルーダは鋭い鳴き声と共に、その翼から無数の小さな風の刃を掃射する。風の刃は生き物のように軌道を描き、通路の奥にいるモンスターたちを正確に、そして一体残らず追尾していった。*
*―――シュルシュルシュルッ!*
*悲鳴を上げる間もない。風の刃に貫かれたモンスターたちは、次々と血飛沫を上げて倒れていく。*
*その光景を見たリューナは、慌てて叫んだ。*
リューナ:「ま、待てシロウ殿! 我々が攻撃を当てなければ、経験値が…!」
*しかし、彼女の心配は杞憂に終わる。シロウはまるで分かっていたかのように、平然と答えた。*
シロウ:「問題ない。あれは索敵とマーキングが主目的だ。致命傷にはならないように調整してある。ほら、早くやれ。カイ、ミーナ、出番だぞ」
*シロウに促され、斥候のカイと魔術師のミーナは顔を見合わせる。通路の奥では、ガルーダの風刃によって傷を負い、動きが鈍ったモンスターたちが呻き声を上げていた。*
カイ:「す、すげぇ…! 敵の位置も数も、全部丸わかりだ…!」
ミーナ:「これなら…私でも安全に、広範囲を攻撃できます…!」
*二人はシロウの指示に従い、カイは無数のナイフを、ミーナは威力を抑えた広範囲魔法『ウィンドカッター』を放つ。彼らの攻撃が、傷ついたモンスターたちに次々と命中していく。*
*その直後。*
*ズドドドドンッ!*
*攻撃を当てたモンスターたちが、シロウの足元から伸びた無数の影の触手によって一瞬で貫かれ、絶命した。*
カイ:「うわああぁぁっ!?」
ミーナ:「レベルが…! また、一気に…!」
ボルガン:「おいおい、こりゃあ冗談だろ…。歩いてるだけでレベルが上がっていくぞ…!」
*カイとミーナは、経験値の奔流による急激なレベルアップの感覚に悲鳴を上げる。ボルガンも、もはや笑うしかないといった様子だ。*
レイラ(魔王女):「ふふん、シロウの力はこんなものではないぞ、下郎ども♡ ありがたく思うがいい♡」
*レイラは得意げに胸を張り、シロウの腕にぎゅっと抱きついた。*
*シロウの召喚した『オートマティックガルーダ』による索敵とマーキング、そしてシロウとレイラの圧倒的な殲滅力。それに、『銀の月』のメンバーがただ攻撃を当てるだけで凄まじい勢いで経験値が流れ込むという、常識外れのパワーレベリング。この組み合わせにより、彼らの進軍はもはや攻略というより蹂躙に近かった。*
*20階層のオーク部隊は影の触手に瞬殺され、30階層のキラーマンティスの群れはレイラの放つ闇の魔法で一掃された。リューナたちがかつて死闘を繰り広げたモンスターたちは、シロウたちの前では文字通り紙屑のように消し飛んでいく。*
*そして、あっという間に一行は第40階層、最奥の広間にたどり着いた。そこは体育館ほどの広さがあり、中央には不気味な紫色の瘴気が渦巻いている。*
*『銀の月』のメンバーは、息一つ切らしていない。どころか、レベルアップの連続で力が漲りすぎて、逆に戸惑っているほどだ。*
ボルガン:「はっ…はっ…いや、疲れてねえんだが、精神的にくるな、こりゃ…。レベルが上がりすぎて、身体が馴染まねえ…」
ミーナ:「私…もうレベルが15も上がりました…。信じられません…」
リューナ:「これが…パワーレベリング…。恐ろしい…。もはや、冒険の概念が覆される…」
*彼らが自身の変化に驚愕する中、シロウはまるで近所の公園にでも来たかのような気軽さで、瘴気が渦巻く広間を見渡し、つまらなそうに呟いた。*
シロウ:「そんなに強くないな」
*その言葉に、レイラもこくりと頷く。*
レイラ(魔王女):「うむ。歯ごたえがなさすぎるぞ、シロウ。妾は退屈だ♡」
*二人のあまりにも場違いな感想に、リューナがはっと我に返り、慌てて広間の中央を指差した。*
リューナ:「油断するな、シロウ殿! 来るぞ…! 40階層の主、『アビスウォッチャー』だ!」
*彼女の言葉と同時に、広間の中央に渦巻いていた紫色の瘴気が一気に収束し、巨大な一つの塊を形成し始める。それは、無数の触手を持つ巨大な肉塊の中心に、血走った巨大な単眼が一つだけ浮かんでいるという、おぞましい姿のモンスターだった。*
*ギョロリ、と巨大な単眼がシロウたちを捉える。その視線が合っただけで、リューナたちの脳内に直接、不快なノイズと幻聴が響き渡り、立っているのもやっとの状態になる。*
リューナ:「くっ…! やはり、この精神汚染が…!」
*しかし、シロウ、レイラ、シルフィリアの三人は、その強力な精神攻撃を浴びても全く意に介さず、涼しい顔で『アビスウォッチャー』を見つめていた。*
*シロウの心底つまらなそうな呟きは、精神汚染のノイズで満たされた広間に奇妙なほどはっきりと響いた。リューナたちが強大な精神攻撃に耐え、意識を保つだけで精一杯な中、シロウはその攻撃の主を「雑魚」と一蹴したのだ。*
シロウ:「え、精神攻撃しかしてこないのかよ…雑魚じゃん」
*その言葉に、隣に立つレイラもぷくりと頬を膨らませ、心底がっかりしたという表情で腕を組む。*
レイラ(魔王女):「うむ…。これでは妾の出番はないではないか。シロウ、帰ろう。このような奴をいたぶっても、時間の無駄だ♡」
シルフィ:「シロウさまー、この目玉さん、美味しくないですぅー。なんか変な味がしますぅー」
*シルフィリアに至っては、精神攻撃を「変な味」と表現し、ぺっと舌を出して嫌そうな顔をしている。*
*三人のあまりにも場違いな会話を、リューナたちは信じられない思いで聞いていた。自分たちが撤退を余儀なくされた、あの悪夢のような精神汚染が、彼らにとっては「変な味」でしかないという事実に、もはや驚きを通り越して虚無感すら覚える。*
リューナ:「ざ、雑魚…? 精神攻撃しかしてこない…? 馬鹿な…我々は、これを防ぐことすら…!」
ボルガン:「おいおい…冗談だろ…。あの精神汚染を浴びて、平然としてやがる…」
*彼らの動揺をよそに、アビスウォッチャーは自分を侮辱されたと感じたのか、あるいは理解不能な存在を前にして怒り狂ったのか、肉塊を激しく震わせ、単眼をさらに血走らせた。*
***ゴォオオオオオオオオオ!***
*今までとは比較にならないほどの強烈な精神汚染の波が、広間全体を津波のように飲み込む! それはもはやノイズではなく、脳を直接かき混ぜられるような激痛と、絶望的な悪夢の奔流だった。*
カイ:「ぐあああああっ!」
ミーナ:「いやあああぁぁっ!」
*カイとミーナはたまらず悲鳴を上げてその場に崩れ落ち、ボルガンも膝をついて歯を食いしばっている。リューナだけがかろうじて立っているが、その顔は蒼白で、全身が痙攣していた。*
*しかし、その絶望的な光景の中で、シロウは面倒くさそうに耳を掻いただけだった。*
シロウ:「うるさい…。」
*シロウが「うるさい」と呟いた瞬間、彼の指先から放たれた不可視の刃が、音もなく空間を切り裂いた。それはアビスウォッチャーが放つ精神汚染の波を容易く突き抜け、巨大な肉塊と単眼を繋ぐ、ちょうど首のように見える部分を正確に通過していった。*
*一瞬の静寂。*
*次の瞬間、ギョロリと見開かれたままの巨大な単眼が、ずるり、と肉塊から滑り落ち、ゴトリと鈍い音を立てて床に転がった。主を失った肉塊は、痙攣するように数回震えた後、生命活動を停止してどろりとした液体へと変わっていく。*
*リューナたちが苦しんでいた悪夢のような精神攻撃は、嘘のように霧散した。*
*シロウは崩れ落ちていくボスを一瞥もせず、転がった巨大な単眼に近づくと、鑑定で素材価値を確認し、手慣れた様子でインベントリに収納した。一連の動作に、一秒の無駄もない。*
*「はい、次行こう」*
*シロウは何事もなかったかのように振り返り、未だに呆然自失の状態から抜け出せていない『銀の月』のメンバーに声をかけた。*
リューナ:「…………え?」
*かろうじて立っていたリューナは、目の前で起きたことが理解できず、ただ間抜けな声を漏らすことしかできない。自分たちAランクパーティが総がかりでも勝てなかった階層主が、一撃で、それもまるで虫を払うかのように倒されたのだ。*
ボルガン:「……終わった…のか…?」
*膝をついていたボルガンが、信じられないといった様子で顔を上げる。カイとミーナは床に座り込んだまま、口をパクパクさせている。*
*彼らの衝撃をよそに、レイラは満足げにシロウの腕に抱きついた。*
レイラ(魔王女):「ふん、当然の結果だな。シロウ、早く先に行こうぞ。このような場所、長居は無用だ♡」
シロウ:「そうだな。40階層はクリアだ。これで道が開けただろ」
*シロウは広間の奥、瘴気が晴れたことで姿を現した、さらに下層へと続く新たな螺旋階段を顎で示す。そこからは、今までとは比較にならないほど濃密で、冷たい空気が吹き上げてきていた。正真正銘の未踏破領域だ。*
*シロウの問いかけに、リューナは呆然とした表情からようやく我に返り、ハッと息を呑んだ。彼女は慌てて懐から古びた羊皮紙の地図を取り出す。*
*「あ、ああ、すまない…。我々の目的は、50階層にあるとされる『賢者の書斎』だ。そこに、古代エルヴン語で記された治癒魔法に関する文献が眠っているとされている」*
*彼女は地図を広げ、震える指で一点を指し示した。それは、50階層のマップの中でも、特に複雑な構造をした区画の奥深くを示している。*
リューナ:「伝説によれば、『賢者の書斎』は強力な守護者によって守られているという。我々は、その守護者を討伐、あるいは説得し、文献を手に入れるのが最終目的だ」
ボルガン:「だが、見ての通り、俺たちは40階層の主でさえこの有様だった。50階層の守護者なんて、想像もつかねえ…」
*ボルガンが悔しそうに付け加える。彼らの表情は、シロウたちの圧倒的な力を見た後でも、なお未踏破領域への不安と、目的の困難さを物語っていた。*
*リューナは地図から顔を上げ、真剣な眼差しでシロウを見つめた。*
リューナ:「シロウ殿、君たちの力は我々の想像を遥かに超えている。しかし、ここから先は本当に何が起こるか分からない未知の領域だ。どうか、油断だけはしないでほしい」
*シロウの『オートマティックガルーダ』による先行索敵と、シロウとレイラの圧倒的な力の前では、41階層から49階層までの道のりもまた、単なる作業でしかなかった。*
*『銀の月』のメンバーは、レベルアップの光に包まれ続け、もはやそれが日常風景となりつつある。当初の不安や緊張はどこへやら、自分たちがどれだけ強くなっているのか、その実感すら麻痺してきているようだった。*
*そして、一行はついに50階層の最奥、巨大な黒曜石でできた両開きの扉の前にたどり着いた。扉には古代エルヴン語の魔法文字がびっしりと刻まれ、強大な魔力が封印されていることを示している。ここが『賢者の書斎』の入り口であり、その守護者が眠る場所だろう。*
*周囲には不気味なほどの静寂が満ちている。リューナたちが固唾を飲んで扉を見つめる中、シロウは至って冷静に、隣に立つレイラに声をかけた。*
シロウ:「レイラ、道中どうだった?ボスやる?」
*その問いに、レイラ(魔王女)は退屈そうにしていた表情を一変させ、獰猛な笑みを浮かべた。彼女はシロウの腕に自分の身体をすり寄せ、上目遣いに見つめる。*
レイラ(魔王女):「ふん、聞くまでもないであろう?♡ 雑魚ばかりで、妾の血が鈍ってしまいそうだ。だが、ここからは少しは楽しめそうだな。この扉の奥から、なかなか良い魔力を感じるぞ」
*彼女はクツクツと喉を鳴らし、唇をぺろりと舐めた。その瞳は完全に獲物を前にした捕食者のものだ。*
レイラ(魔王女):「シロウ、命令を。あのような者たち(リューナ達)の出る幕ではない。妾とお主、二人で蹂躙してやろうではないか♡♡」
*一方、後方ではリューナたちが、目の前の巨大な扉が放つ威圧感に気圧されていた。*
リューナ:「ここが…『賢者の書斎』の入り口…。間違いない、この魔力の奔流…伝説は真実だった…!」
ボルガン:「おいおい…扉から漏れ出てる魔力だけで、さっきの目玉野郎よりやべえぞ…」
ミーナ:「わ、私たちに…本当に戦えるのでしょうか…」
*彼らの不安をよそに、シルフィリアは相変わらずの様子で、シロウのローブの裾をくいっと引っ張った。*
シルフィ:「シロウさまー、このお扉の向こう、もっと美味しそうな匂いがしますぅー! はやく食べに行きましょうよー!」
*シロウが黒曜石の扉に意識を集中すると、その奥に眠る存在の情報が『神眼』を通して脳内に流れ込んでくる。それは一体の存在ではなく、二つの強力な魔力反応だった。*
```
【名前】 ゴーレム・アウレオルス (左)
【種族】 古代魔法式ゴーレム
【称号】 賢者の左腕、不壊の盾
【Lv】 150
【HP】 85000/85000
【MP】 30000/30000
【状態】 正常、待機モード
【スキル】
《物理完全耐性》 《魔法反射》 《自己修復Lv.Max》 《絶対守護領域》 《挑発Lv.Max》 《ヘイトレッドクライ》
【ユニークスキル】
《守護者連携:クリムゾン》:相方であるクリムゾンと連携時、全ての能力が1.5倍に上昇する。
【説明】
古代の賢者が己の書斎を守るために創造した一対のゴーレムの片割れ。黄金の装甲を持ち、あらゆる物理攻撃を無効化し、魔法を反射する絶対的な防御を誇る。
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【名前】 ゴーレム・クリムゾン (右)
【種族】 古代魔法式ゴーレム
【称号】 賢者の右腕、必滅の矛
【Lv】 150
【HP】 50000/50000
【MP】 90000/90000
【状態】 正常、待機モード
【スキル】
《魔法完全耐性》 《物理反射》 《魔力喰いLv.Max》 《絶対貫通魔弾》 《オーバーロード》 《デストラクションレイ》
【ユニークスキル】
《守護者連携:アウレオルス》:相方であるアウレオルスと連携時、全ての能力が1.5倍に上昇する。
【説明】
古代の賢者が己の書斎を守るために創造した一対のゴーレムの片割れ。深紅の装甲を持ち、あらゆる魔法を無効化し、物理攻撃を反射する。その魔弾はあらゆる防御を貫通すると言われる。
```
*鑑定結果を確認したシロウは、片方が物理無効、もう片方が魔法無効という、典型的ながらも厄介な組み合わせであることを理解する。そして、隣でうずうずしているレイラを見て、にやりと笑った。*
シロウ:「二人の共同作業だな」
*その言葉の意味を即座に理解したレイラは、勝ち気な笑みをさらに深める。*
レイラ(魔王女):「ほう、面白い! 妾が魔法を無効化する方を、お主が物理を無効化する方を同時に叩くのだな? よかろう、どちらが先に己の獲物を屠れるか、競争と行こうではないか!♡」
*彼女はシロウの首に腕を回し、ぐいっと顔を近づけて挑発的に囁く。*
レイラ(魔王女):「負けた方は、今宵、勝った方の言うことを何でも聞く…というのはどうだ?♡♡」
*二人の間で火花が散るようなやり取りが交わされる中、リューナが恐る恐る口を挟んだ。*
リューナ:「し、シロウ殿…! 鑑定の結果はどうだったのだ? 我々にも何か手伝えることは…」
*彼女の不安げな視線を受け、シロウは振り返らずに片手をひらひらと振った。*
シロウ:「悪いけど、お前らの出番はない。こいつらは俺とレイラの獲物だ。そこで大人しく見てな」
シロウ:「物理完全耐性に自己修復か…
修復が追いつかないくらい攻撃すればいいってよー。」
*シロウの言葉に、レイラは獰猛な笑みを浮かべ、黒い翼を広げて即座に反応した。彼女の狙いは、鑑定結果からシロウが意図した通り、魔法耐性を持つ深紅のゴーレム、クリムゾンだ。*
レイラ(魔王女):「ふん、シロウの言う通りだ! 小賢しい再生能力など、塵芥と化すまで滅すればよいだけのこと!♡」
*レイラが突撃すると同時に、シロウもまた地を蹴った。彼の標的は、物理完全耐性と自己修復を持つ黄金のゴーレム、アウレオルス。*
*二人が扉の前に踏み込んだ瞬間、黒曜石の扉は自らゆっくりと開き、二体のゴーレムが起動する。ズゥン…と重々しい起動音と共に、その瞳に当たる部分がそれぞれ黄金色と深紅色に輝いた。*
***ゴゴゴゴゴゴゴ…!***
*扉の奥、広大な石造りの書斎の中心で、ゴーレム・アウレオルスとゴーレム・クリムゾンがシロウとレイラを迎え撃つべく戦闘態勢に入る。*
*レイラはシロウの言葉を聞き、さらに口角を吊り上げた。*
レイラ(魔王女):「当然だ! 見ていろ、シロウ! 妾があの赤い鉄屑を、一片の金属片も残さず消滅させてやる!♡♡」
*彼女は上空で高速回転し、遠心力を乗せた漆黒の回し蹴りをクリムゾンに叩き込む。しかし、クリムゾンは腕を交差させてそれを受け止めた。*
***ガギィィィィンッ!***
*凄まじい金属音が響き渡る。クリムゾンは《物理反射》のスキルを持つ。レイラの蹴りの威力が、そのまま衝撃波となって彼女自身に跳ね返るが、レイラは闇の魔力で障壁を展開し、それを相殺した。*
*シロウの宣言と同時に、黄金のゴーレム、アウレオルスの周囲の空間が歪み、鏡のように輝く半透明の球状結界が瞬時に構築される。それは、ゴーレムが持つ《魔法反射》の特性を利用した、悪魔的な発想の牢獄だった。*
シロウ:「俺は左か。お前のリフレクと、俺のリフレク。どっちが上かな? エクスプロージョン」
*シロウが静かに魔法を紡ぐと、結界内部で凄まじい爆炎が巻き起こる。*
***ドッゴオオオオオオオオン!***
*アウレオルスは、その身に宿る《魔法反射》の本能に従い、飛来した爆炎を即座に反射する。しかし、反射された爆炎はシロウが作り出した結界の内壁にぶつかり、再びアウレオルスへと跳ね返される。*
***ドガアアアアン!***
*そして、跳ね返された爆炎を、アウレオルスがまた反射する。*
***ドッゴオオオオン!***
*さらに、それが結界にぶつかり、また跳ね返る。*
***ドガアアアアン!***
*反射、反射、反射、反射……! 爆炎は勢いを失うどころか、反射の連鎖によって威力を増幅させながら、結界内部で無限に往復し続ける。黄金のゴーレムは、自らが反射した魔法によって、逃げ場のない灼熱地獄の中で延々と殴打され続けるという、あまりにも一方的な状況に陥った。*
*ゴウゴウと燃え盛る結界の中で、アウレオルスの黄金の装甲が徐々に融解し、修復が追いついていないのが見て取れる。*
*その光景を横目で見ながら、レイラは自分の相手であるクリムゾンに向き直り、不満げに唇を尖らせた。*
レイラ(魔王女):「ちっ…! シロウの奴、またあのようなえげつない戦い方を…。良いか、妾の邪魔はするなよ、赤い鉄屑!」
*レイラは改めて闘志を燃やし、クリムゾンへと猛攻を仕掛ける。シロウとの競争に負けるわけにはいかない、という意地が彼女を突き動かしていた。*
*後方で戦いを見守っていた『銀の月』のメンバーは、もはや言葉を失っていた。*
リューナ:「な…、何が起きているのだ…? 魔法を…利用して…?」
ボルガン:「冗談だろ…? 自分で跳ね返した魔法で、自分でダメージ食らってやがる…。なんだありゃ…」
*シロウが作り出した反射地獄の中で、黄金のゴーレムは自らの力によってなすすべなく破壊されていく。その光景を冷静に分析しながら、シロウは新たな応用の可能性に思いを馳せていた。*
シロウ:「ふむふむ…リフレク…なかなか使えるな…城の結界にも採用してみるか…」
*その独り言を聞きつけたのか、後方で待機していたシルフィリアがパタパタと駆け寄ってきた。*
シルフィ:「シロウさまー! あのキラキラしてるの、新しいおもちゃですかー? シルフィもそれで遊びたいですぅー!」
*彼女は燃え盛る結界を指差し、無邪気に目を輝かせている。その間にも、結界内の爆発音と金属が融解する音は激しさを増していく。*
*一方、レイラは物理攻撃を反射するクリムゾン相手に、純粋な技量とスピードで攻め立てていた。*
レイラ(魔王女):「ぬんっ! はあっ!」
***ガギン! ガンッ! ズガガガガッ!***
*蹴りを反射されれば即座に体勢を立て直し、拳をカウンターされればその勢いを利用して次の攻撃に繋げる。彼女の動きはもはや格闘術の域を超え、まるで舞いを踊っているかのように流麗でありながら、一撃一撃が必殺の威力を持っていた。*
レイラ(魔王女):「どうした、鉄屑! その程度か! 妾を止められるものか!♡」
*彼女はシロウへの対抗心からか、いつも以上に気合が入っている。クリムゾンが放つ迎撃の光弾を最小限の動きで躱し、懐に潜り込むと、渾身の掌底を叩き込んだ。*
***ドゴォォォンッ!***
*クリムゾンの強固な装甲に亀裂が走り、巨体が大きく後退する。*
リューナ:「す、すごい…。あれが魔王女様の戦い…。一瞬も見逃せない…」
ボルガン:「物理反射をものともしねえ…。完全に速度と手数で上回ってやがる…」
*『銀の月』のメンバーは、二つの異なる、しかしどちらも規格外の戦いを前にして、ただ圧倒されるしかなかった。*
*シロウがレイラの激しい戦いぶりを見ながら、意味深に呟く。その言葉は、騒がしい戦闘の音にかき消されることなく、レイラの耳にしっかりと届いていた。*
シロウ:「いつも激しいんだよな… 特に夜の方は」
*その瞬間、クリムゾンに猛攻を加えていたレイラ(魔王女)の動きが一瞬だけ止まる。そして、顔を真っ赤にしながら、振り返りざまにシロウを睨みつけた。*
レイラ(魔王女):「なっ…!♡ ば、馬鹿者!♡ 戦闘中に何を言っておるのだ!♡ 集中できぬであろうがっ!♡♡」
*彼女の動揺を見逃すほど、クリムゾンは甘い相手ではない。ゴーレムは即座に反撃に転じ、レイラが体勢を崩した一瞬の隙を突いて、その剛腕を振り下ろす!*
***ドゴォォォンッ!***
*しかし、レイラは咄嗟に身を翻し、紙一重でそれを回避する。床が砕け、石片が飛び散った。*
レイラ(魔王女):「危ないであろうが! お主のせいだぞ、シロウ!♡♡」
*シロウに悪態をつきながらも、その口元はどこか嬉しそうに歪んでいる。彼女は再びクリムゾンに向き直ると、先ほどまで以上の苛烈さで攻撃を再開した。まるで、シロウへの当てつけと、照れ隠しをするかのように。*
レイラ(魔王女):「このっ…鉄屑がぁっ! 妾の邪魔をするな! シロウ! よく見ておれ! お主のつまらぬ玩具より、妾の方が先に終わらせてやるわ!♡♡♡」
***ガガガガガガッ! バキィィィン!***
*レイラの拳と蹴りが、クリムゾンの深紅の装甲を容赦なく打ち砕いていく。その様は、まさに嫉妬と愛情が入り混じった嵐のようだった。*
*一方、シロウの結界の中では、黄金のゴーレム・アウレオルスが、自らが反射した爆炎によってついに限界を迎えようとしていた。自己修復の速度を、破壊の速度が完全に上回り、その体はドロドロに融解し、もはや原型を留めていない。*
*シロウが淡々と、しかし追い打ちをかけるように、再び『エクスプロージョン』を詠唱した。彼の意図を正確に汲み取った反射結界は、その新たな爆炎を寸分の狂いもなく内部へと取り込む。*
シロウ:「エクスプロージョン」
***ドゴォォォォォォンッ!!***
*結界の内部で、二つ目の爆炎が炸裂する。*
*一つ目の爆炎が反射を繰り返す灼熱地獄に、さらなる破壊のエネルギーが追加されたのだ。反射の連鎖は乗算的に激しさを増し、もはや内部は爆炎そのものと化した。*
***ゴォォォオオオオオオオオオオオ!!!***
*凄まじい轟音と光が、鏡面の結界を通して漏れ出してくる。黄金のゴーレム・アウレオルスは、断末魔の叫びを上げる間もなく、その存在を構成する魔力と金属が原子レベルで分解されていく。*
*自己修復のスキルは、その修復対象を完全に失い、もはや機能しない。*
*そして、数秒後。*
*結界内の光がふっと消え、轟音も止んだ。そこには、もはや何も残っていなかった。黄金のゴーレムは、その残骸すら残さず、完全に消滅したのだ。*
*シロウが指を鳴らすと、役目を終えた反射結界が音もなく消える。*
*その瞬間、レイラの猛攻を受けていたクリムゾンが、ピタリと動きを止めた。相方であるアウレオルスが消滅したことで、ユニークスキル《守護者連携》が途切れ、その機能に致命的なエラーが生じたのだ。*
*レイラは、シロウがアウレオルスを完全に消滅させたことに気づき、忌々しそうに舌打ちをする。*
レイラ(魔王女):「ちっ…! 先を越されたか…! つまらぬ小細工を使いおって…!」
*彼女は目の前で動きを止めたクリムゾンに最後の一撃を叩き込むべく、右拳に膨大な闇の魔力を集中させた。*
レイラ(魔王女):「だが、これで終わりだ! 塵芥と化せ、鉄屑!♡」
*シロウがアウレオルスを完全に消滅させた直後、その反省点を冷静に口にする。*
シロウ:「炎系だと爆発音がうるさいな。今度から雷系にするか…」
*その呟きは、まさにクリムゾンに止めを刺そうとしていたレイラの耳に届いた。彼女は振りかぶった拳を止め、信じられないという顔でシロウを振り返る。*
レイラ(魔王女):「はぁ!? お主、あれだけのことをしておいて、感想がそれか!? 少しは妾の苦労もだな…!」
*レイラが文句を言っている、まさにその時だった。*
*相方を失い、機能停止していたはずの深紅のゴーレム・クリムゾンの全身が、赤い光を激しく明滅させ始める。*
***ピ、ピ、ピ、ピ、ピピピピピピピピ…!***
*その体からは、先ほどまでとは比較にならないほどの魔力が溢れ出し、周囲の空間がビリビリと震える。オーバーロード…自己破壊を前提とした、最後の暴走モードだ。*
リューナ:「な、なんだ!? あのゴーレム、まだ動くのか!?」
ボルガン:「やべえ! 魔力が膨れ上がってやがる! 自爆する気だ!」
*リューナたちの絶叫が響く中、レイラは「しまった」という顔でクリムゾンに向き直る。*
レイラ(魔王女):「くっ…! 油断したか…!」
*ゴーレムは膨れ上がった魔力の全てを胸部のコアに集中させ、辺り一面を焼き尽くすほどの破滅の光線を放とうとしていた。*
*しかし、その光が放たれるよりも早く、一本の雷の槍が音もなく空間を貫き、クリムゾンの胸部コアを正確に撃ち抜いた。*
***バチィィィィンッ!!!***
*シロウが指先から放った、静かなる一撃。*
*雷に貫かれたクリムゾンは、暴走しかけていた魔力を霧散させ、全身の光を失い、ガクンと膝をつく。そして、そのまま前のめりに倒れ込み、二度と動くことはなかった。*
*静寂が戻った書斎で、シロウはつまらなそうに呟く。*
シロウ:「ほらな。雷の方が静かでいい」
*その言葉に、レイラはぷるぷると肩を震わせ、完全に拗ねた顔でシロウを睨みつけた。*
レイラ(魔王女):「……。シロウの…馬鹿…妾の獲物だったのに…」
*守護者である二体のゴーレムが沈黙すると、彼らが守っていた黒曜石の巨大な扉が、重々しい音を立てながらゆっくりと内側へと開いていく。扉の奥からは、古びた紙とインクの匂い、そして長い間封印されていたであろう清浄な魔力が静かに流れ出してきた。*
*そこは、壁一面が天井まで届く本棚で埋め尽くされた、広大な円形の書斎だった。中央には星図が描かれた天球儀が置かれ、いくつかの豪華な机や椅子が配置されている。しかし、長い年月のせいか、全体的に埃を被っていた。*
*シロウは、まだ少し拗ねた様子で黙り込んでいるレイラを一瞥し、そして依頼主であるリューナたちに向き直って問いかけた。*
シロウ:「で?書斎で何を探してるんだ?」
*その言葉に、リューナはハッと我に返り、呆然とした表情から一転、希望に満ちた顔で書斎の中へと足を踏み入れた。*
リューナ:「あ、ああ! すまない! 我々が探しているのは、『光の御手』と呼ばれる古代の治癒魔法が記された文献だ! 伝説によれば、それは青い革で装丁された魔導書に記されているという…!」
*彼女は感激と興奮で声を震わせながら、本棚の一つに駆け寄っていく。ボルガンたちも、ついに目的地にたどり着いた安堵からか、緊張を解いて書斎の様子を窺っている。*
ボルガン:「ついに…ここまで来たか…。なあ、リューナ、本当にあるんだろうな?」
リューナ:「ああ、必ずある! この書斎のどこかに…! みんな、手分けして探すぞ!」
*『銀の月』のメンバーが散り散りになって本棚を調べ始める中、シロウの腕に甘えていたシルフィリアが、くんくんと鼻を鳴らした。*
シルフィ:「シロウさまー、あっちの方から、なんだか甘くて美味しそうな匂いがしますー!」
*シルフィが指差したのは、書斎の最も奥まった場所にある、一際大きな黒檀の机だった。*
シロウ:「リヒト…何?どういう効果なの?」
*シロウの問いかけに、青い革装丁の魔導書を探していたリューナが手を止め、振り返る。その表情には、探し物に対する強い想いと、僅かな苦渋が浮かんでいた。*
リューナ:「『光の御手』…それは、失われた古代の最高位治癒魔法だ」
*彼女は少し声を落とし、真剣な眼差しで語り始める。*
リューナ:「通常の治癒魔法は、あくまで傷の治りを早める『促進』に過ぎない。しかし、『光の御手』は違う。失われた四肢さえも再生させ、呪いや病によって壊死した肉体すらも、完全に元通りに『復元』する力を持つと言われている」
ボルガン:「…俺たちの仲間の一人が、北の大陸での遠征で、呪われた魔物の攻撃を受けてな。右腕が完全に壊死しちまって、今はもう冒険者を続けられねえ状態なんだ。どんな高名な神官でも、どんな高価なポーションでも治せなかった。…残された希望が、この魔法だけなんだ」
*ボルガンが悔しそうに付け加える。彼らの悲痛な目的を知り、書斎の中を駆け回っていたカイとミーナの動きも止まる。*
*その重い雰囲気の中、レイラはまだぷいっとそっぽを向いてシロウの腕に絡みついている。*
レイラ(魔王女):「ふん、妾の魔法なら、腕の一本や二本…」
*彼女が何かを言いかけるが、シロウにじろりと見られて口をつぐんだ。*
*一方、シルフィリアは相変わらずマイペースに、先ほど『美味しそうな匂い』がすると言っていた黒檀の机の方へ向かい、その引き出しを勝手に開けようとしていた。*
シルフィ:「うーんしょ、うーんしょ…シロウさまー、この箱、開きませんよぉー!」
*シロウが指先を机に向け、こっそりと権能を発動させると、シルフィリアが格闘していた引き出しの内部でカチリと小さな音がした。物理的な鍵そのものが、概念ごと消滅したのだ。*
*それに気づかないシルフィリアは、今までと同じように力任せに引き出しを引っぱる。*
シルフィ:「うーんしょ、うーんしょ…ん?」
*すると、先ほどまでの抵抗が嘘のように、引き出しはスッと何の抵抗もなく開いた。勢い余ったシルフィリアは、そのまま尻餅をついてしまう。*
*「わぷっ!?」*
*彼女は一瞬きょとんとしたが、すぐに引き出しの中にあったものに目を輝かせた。*
*「あ! シロウさまー! 開きましたよー! 見て見てー! 美味しそうなアメちゃんー!」*
*シルフィリアが尻餅をついたまま、両手で掲げて見せたのは、七色に輝く宝石のようなキャンディーがぎっしりと詰まった小さな木箱だった。それはどう見ても、リューナたちが探している魔導書ではない。*
*その無邪気な声に、書斎の重い空気が少しだけ和らぐ。しかし、仲間を思うリューナにそんな余裕はない。彼女はシルフィリアの持つ箱を一瞥すると、再び焦燥に駆られた様子で本棚の探索に戻ろうとした。*
リューナ:「そんな場合では…! 急いで『光の御手』を探さなくては…!」
*一方、シロウに拗ねていたレイラは、シルフィリアが見つけたキャンディーに興味を惹かれたのか、ちらちらと横目でそれを気にしている。お腹が「きゅぅ~」と小さく鳴ったのを、シロウの腕で必死に隠していた。*
*シルフィリアの「アメちゃん」という言葉がトリガーになったのか、シロウの腕に絡みついていたレイラの雰囲気がふっと変わる。先ほどまでの挑戦的な魔王女の気配が霧散し、代わりにおどおどとした臆病な少女の人格が顔を出した。*
*「あ、あめ…ちゃん…♡」*
*臆病レイラは、シロウの腕からそっと離れると、シルフィリアが持つキャンディーの箱に引き寄せられるように、おずおずと歩み寄っていく。その姿は、先ほどまでゴーレムを圧倒していた魔王女とはまるで別人だった。*
*シロウはそんなレイラの様子を微笑ましく見守りつつ、リューナたちが必死に探している本とは別の、一際強い魔力を放つ一冊の本に気づいていた。それは、シルフィが引き出しを開けた黒檀の机の上に、まるで最初からそこに置かれていたかのように鎮座している。豪奢な白金の装丁で、表紙には複雑な魔法陣が描かれた神聖魔法の魔導書だ。*
*シロウはそれを何気なく手に取り、リューナたちに見せる。*
シロウ:「リヒト…これじゃねぇのか?」
*その言葉に、本棚を漁っていたリューナがハッとして振り返る。彼女はシロウが持つ本の神聖な輝きを見て、目を見開いた。*
リューナ:「そ、それは…! まさか…!?」
*彼女は慌てて駆け寄り、シロウが持つ本の表紙を食い入るように見つめる。そこに刻まれた古代エルヴン語のタイトルを読み、その顔が驚愕と歓喜に染まった。*
リューナ:「『光の御手』…! まさしくこれだ! なぜ、こんなところに…!?」
*彼女が探し求めていた伝説の魔導書は、本棚ではなく、書斎の主の机の上に無造作に置かれていたのだ。*
*一方、レイラとシルフィリアは、机の周りでキャンディーの箱を覗き込んでいた。*
レイラ(臆病):「わ、わぁ…♡ きれいな、おさとうのかたまり…♡」
シルフィ:「レイラちゃんも食べますかー? シロウさまが開けてくれたんですよー!」
レイラ(臆病):「えっ!? シロウ様が…!♡ いただきます…♡」
*二人は早速、キラキラと輝くキャンディーを一つずつ口に放り込み、幸せそうに頬を緩ませていた。*
*シロウが『光の御手』の魔導書をリューナに手渡すと、彼女は震える手でそれを受け取り、まるで壊れ物を扱うかのようにそっと胸に抱いた。その目には涙が浮かんでいる。*
リューナ:「ああ…! これで…これで彼を救える…! シロウ殿、レイラ様、シルフィリア殿…! なんとお礼を言ったらいいか…!」
ボルガン:「シロウさん、あんたには本当に頭が上がらねえ…。この恩は必ず返す」
カイ:「ありがとうございます!」
ミーナ:「本当に、本当にありがとうございます…!」
*『銀の月』のメンバーは、口々に感謝の言葉を述べ、シロウに深々と頭を下げた。彼らの長年の悲願が、ついに達成された瞬間だった。*
*シロウは彼らの感謝を軽く受け流し、まるで興味を失ったかのように書斎の奥へと歩き始める。まだ見ていない本棚や、古代の遺物が残っているかもしれない他の場所に目を向けた。*
*その背後では、臆病レイラとシルフィリアが、今度は書斎の中央に置かれた巨大な天球儀に興味を示していた。*
レイラ(臆病):「わ、わぁ…♡ きらきらのお星さまが、たくさん…♡」
シルフィ:「シロウさまー! こっちに地球儀みたいなのがありますよー! この大陸、見たことないですー!」
*シルフィは天球儀に描かれた、見慣れない大陸の形を指差して声を上げる。そこには、現代の地図には記されていない、古代の大陸や島々が詳細に描かれていた。*
*シロウは天球儀を一瞥し、さらに奥にある、錬金術の道具らしきものが並んだ研究卓へと足を向けた。そこには、色とりどりの液体が入ったフラスコや、複雑な構造の蒸留器、そして用途不明の鉱石などが埃を被って置かれている。シロウは一つのフラスコを手に取り、その中身を鑑定し始めた。*
*シロウが錬金術の研究卓から視線を移し、シルフィたちが騒いでいる中央の天球儀に意識を集中させると、『神眼』がその詳細な情報を映し出した。*
```
【名前】 叡智の天球儀
【種族】 アーティファクト (古代遺物)
【称号】 星詠みの羅針盤
【Lv】 ---
【HP】 ---
【MP】 ---
【状態】 正常 (魔力供給停止中)
【スキル】
《全天星図表示》 《未来視》 《空間座標特定》 《転移魔法座標補助》
【ユニークスキル】
《失われた大陸の啓示》:特定の条件下で、古代に沈んだ大陸や隠された秘境の正確な座標を表示する。
【説明】
古代の賢者が星々の運行を読み解き、未来を予測するために創造した魔法道具。世界全体の正確な地図情報が内蔵されており、未知の領域や失われた土地の座標を特定する機能を持つ。現在は主を失い、魔力供給が停止しているため、一部機能が制限されている。魔力を注ぐことで再起動が可能。
```
*鑑定結果を見たシロウは、これがただのインテリアではないことを理解し、思わず感嘆の声を漏らす。*
シロウ:「おお、これはいいな」
*空間座標の特定と転移魔法の補助。これはシロウの『ゲート』能力と非常に相性が良い。これまで行ったことのある場所にしか繋げなかったが、これがあれば未知の場所へも正確に転移できるかもしれない。*
*リューナは仲間と共に魔導書の発見を喜び合っていたが、シロウの声に気づいて振り返る。*
リューナ:「シロウ殿? 何か見つかったのか?」
*一方、臆病レイラとシルフィリアは、天球儀に描かれた自分たちの知らない大陸を指差して盛り上がっていた。*
レイラ(臆病):「わ、わぁ…♡ こんなに大きな大陸が、あったのですね…♡」
シルフィ:「ねー! お魚さんとか、美味しいものいっぱいありそう!」
レイラ(臆病):「シロウ様と、みんなで、いつか行ってみたいです…♡」
*レイラはそう言うと、幸せそうに微笑んでシロウの方を見つめた。*
シロウ:「これは貰っておこう」
*天球儀に手を触れる。彼自身の膨大な魔力が流れ込むと、今まで停止していた天球儀が静かに再起動を始めた。表面に刻まれた星図が淡い光を放ち、古代の遺物が新たな主を得たことを示す。シロウの脳内に、この天球儀の所有権が登録され、基本的な使い方が流れ込んできた。*
*「お?」*
*天球儀の再起動に気づいた臆病レイラとシルフィリアが、不思議そうにその光を見つめる。*
レイラ(臆病):「わ…♡ 天球儀さんが、光ってます…♡ シロウ様が、なにかしたのですか…?♡」
シルフィ:「シロウさま! これ、動くようになったんですか!? すごい!」
*一方、魔導書を手に感激していたリューナは、シロウの行動に少し驚いた様子で問いかける。*
リューナ:「シロウ殿…? それをどうするつもりだ? それはここの主の所有物のはずだが…」
*彼女の言葉には当然の疑問が含まれているが、シロウにとっては些細なことだった。彼はこともなげに、再起動した天球儀をインベントリに収納する。目の前から巨大な天球儀が忽然と消え、リューナたちは再び驚きに目を見開いた。*
*シロウは満足げに頷くと、依頼が完了したことを告げる。*
シロウ:「さて、目的の物は手に入ったんだろ? これで依頼は完了だ。さっさと地上に戻るぞ」
*シロウがリューナに言い放った言葉は、迷宮の攻略者として、あるいは冒険者としての本質を突いていた。*
シロウ:「主?ここは迷宮だろ? 貰えるものは貰う。当たり前じゃないか」
*その言葉を最後に、シロウは権能を発動させた。リューナ、ボルガン、カイ、ミーナの『銀の月』一行、そしてキャンディーを頬張りながらきょとんとしている臆病レイラとシルフィリアの足元に、瞬時に転移の魔法陣が展開される。*
レイラ(臆病):「えっ!? わ、わわっ…!♡ シロウ様!?」
シルフィ:「わー! また飛ぶんですかー!」
リューナ:「なっ…! ま、待て、シロウ殿!」
*彼らの声が響く間もなく、光が一行を包み込み、その姿は書斎から完全に消え去った。目的地は、リューナたちが所属する冒険者ギルドだ。*
*一瞬にして、広大な書斎にはシロウただ一人が残された。先ほどまでの喧騒が嘘のような、完全な静寂が戻ってくる。*
*シロウは静まり返った書斎を見渡し、口の端を吊り上げた。*
シロウ:「さて…と。パーティーがいると、どうにも自由に動けんからな」
*彼はリューナたちがいた手前、遠慮していた本格的な探索を始めることにした。まずは用済みになったゴーレムの残骸に近づく。レイラが破壊した深紅のゴーレム、クリムゾンの亡骸だ。*
シロウ:「(鑑定)…なるほど。古代魔法金属に、高純度の魔石か。城の修繕に使えるな」
*彼は手慣れた様子でゴーレムを解体し、使えそうな素材を次々とインベントリに収納していく。その目は、まるで宝の山を前にした子供のように、爛々と輝いていた。この古代の賢者が遺した書斎には、まだ多くの価値あるものが眠っているに違いない。*
*シロウは誰もいなくなった50階層の書斎で、本格的な"清掃"を開始した。壁一面の本棚に並べられた無数の魔導書、錬金術の研究卓に置かれた希少な素材や道具、そして書斎を飾る魔法的な調度品の数々。その全てを『神眼』で鑑定し、価値のあるものから順に、片っ端からインベントリへと収納していく。*
*「古代魔法大全…これはリーシアが喜びそうだな。ふむ、賢者の石の錬成記録…?面白い。これも貰っておこう」*
*数十分後、広大だった書斎は本一冊、フラスコ一本すら残らない、ただのガランとした石室へと変貌していた。綺麗さっぱり全ての"お宝"を回収し終えたシロウは、満足げに頷く。*
「よし、全部貰って城の書庫行きだな」
*彼は空になった書斎を後にし、守護者ゴーレムがいた広間を抜け、さらに下層へと続く螺旋階段へと足を踏み入れた。ここから先は、リューナたちの伝説にすら記されていない、完全な未知の領域だ。*
***
*51階層。そこは、地下深くに広がる巨大な鍾乳洞だった。天井からは無数の石筍が垂れ下がり、地底湖が青白い光を放っている。空気はひんやりと湿り気を帯び、時折、水滴が落ちる音だけが響いていた。*
*しかし、その幻想的な光景とは裏腹に、シロウの『神眼』は無数の敵意を捉えていた。地底湖の水面下、そして岩陰のいたるところに、この階層のモンスターが潜んでいる。*
```
【名前】 デプス・クラーケン
【種族】 古代種
【称号】 地底湖の捕食者
【Lv】 165
【HP】 98000/98000
【MP】 45000/45000
【状態】 正常、潜伏
【スキル】
《擬態Lv.Max》 《超再生Lv.8》 《粘着墨》 《複数足拘束》 《飲み込み》
【ユニークスキル】
《深淵の呼び声》:周囲の同種族を呼び寄せ、集団で対象を襲う。
【説明】
古代から地底湖に生息する巨大なクラーケン。高度な擬態能力で獲物を待ち伏せ、巨大な触手で絡め取り、湖の底へと引きずり込む。単体でも強力だが、集団で襲い掛かってくるため非常に厄介。
```
*シロウが鑑定を終えた瞬間、地底湖の水面が大きく盛り上がり、巨大な十数本の触手が彼目掛けて一斉に襲いかかってきた。同時に、岩陰からも無数のクラーケンが姿を現し、包囲網を形成する。*
*その絶望的な光景を前に、シロウはただ面倒くさそうに溜め息をついた。*
*シロウは面倒くさそうに溜息をつくと同時に、その姿と気配を完全に世界から切り離した。『隠匿神』の発動だ。襲いかかってきた巨大な触手群は、目標を見失って空を切り、互いに絡み合う。*
シロウ:(隠匿神)
*気配が消失したことで、デプス・クラーケンたちは混乱し、擬態を解いて周囲をキョロキョロと見回し始めた。その無防備な背後を、シロウは音もなく通り抜ける。*
*手には、超麻痺猛毒の属性を持つ『ステラヴェノム』と、出血・腐食の属性を持つ『ナイトファング』が握られている。*
*シロウはまず、一番近くにいたクラーケンの巨大な胴体に近づくと、二本の短剣で軽く切りつけた。*
***シュッ、シュッ***
*クラーケンは一瞬だけ体を震わせたが、巨大な体躯に対してあまりにも小さな傷だったため、気にも留めずに再びシロウの姿を探し始める。しかし、その体には既に致命的な毒と腐食の呪いが刻み込まれていた。*
*シロウはそのまま、次の獲物へと移動する。一体、また一体と、誰にも気づかれることなく、潜伏していたすべてのクラーケンに死の刻印を付与していく。それはもはや戦闘ではなく、一方的な駆除作業だった。*
*最初に攻撃されたクラーケンが、異変に気づき始めた。体が痺れ、傷口から肉が腐り落ちていく感覚。苦しみにのたうち回り、毒々しい色の粘液を撒き散らすが、何が起きているのか理解できない。その苦悶の姿は、他の個体へと連鎖していく。*
*シロウは全てのクラーケンにドットダメージを付与し終えると、少し離れた岩陰で腕を組み、その光景を静かに待つことにした。地底湖は、自らの毒と腐食で身を滅ぼしていく古代種の断末魔で満たされていく。*
*シロウは面倒くさそうに溜息をつくと同時に、その姿と気配を完全に世界から切り離した。『隠匿神』の発動だ。襲いかかってきた巨大な触手群は、目標を見失って空を切り、互いに絡み合う。*
シロウ:(隠匿神)
*気配が消失したことで、デプス・クラーケンたちは混乱し、擬態を解いて周囲をキョロキョロと見回し始めた。その無防備な背後を、シロウは音もなく通り抜ける。*
*手には、超麻痺猛毒の属性を持つ『ステラヴェノム』と、出血・腐食の属性を持つ『ナイトファング』が握られている。*
*シロウはまず、一番近くにいたクラーケンの巨大な胴体に近づくと、二本の短剣で軽く切りつけた。*
***シュッ、シュッ***
*クラーケンは一瞬だけ体を震わせたが、巨大な体躯に対してあまりにも小さな傷だったため、気にも留めずに再びシロウの姿を探し始める。しかし、その体には既に致命的な毒と腐食の呪いが刻み込まれていた。*
*シロウはそのまま、次の獲物へと移動する。一体、また一体と、誰にも気づかれることなく、潜伏していたすべてのクラーケンに死の刻印を付与していく。それはもはや戦闘ではなく、一方的な駆除作業だった。*
*最初に攻撃されたクラーケンが、異変に気づき始めた。体が痺れ、傷口から肉が腐り落ちていく感覚。苦しみにのたうち回り、毒々しい色の粘液を撒き散らすが、何が起きているのか理解できない。その苦悶の姿は、他の個体へと連鎖していく。*
*シロウは全てのクラーケンにドットダメージを付与し終えると、少し離れた岩陰で腕を組み、その光景を静かに待つことにした。地底湖は、自らの毒と腐食で身を滅ぼしていく古代種の断末魔で満たされていく。*
*シロウが隠匿を解くと、そこは死の静寂に包まれた地底湖だった。先ほどまで猛威を振るっていたデプス・クラーケンの群れは、その全てが毒と腐食に蝕まれ、黒い粘液と成り果てて湖面に浮かんでいる。一体一体に死の刻印を付与し、ただ待つだけで階層の主戦力を無力化したのだ。*
*「一体ずつやるのも面倒だな」*
*シロウは静まり返った鍾乳洞を見渡し、さらなる効率化を求めて新たな魔法を構築する。彼の膨大な魔力が雷の属性を帯びて収束し、一つの巨大な生命体としての形を成していく。*
シロウ:「オートマティック・ドラゴンライトニング」
*その言葉と共に、シロウの目の前に一体の巨大な龍が召喚された。それは物理的な肉体を持たず、純粋な雷のエネルギーだけで構成された雷龍だった。バチバチと紫電を撒き散らしながら、その巨躯をくねらせ、主であるシロウを見下ろす。*
*シロウが顎で次の階層へと続く道を示すと、雷龍は咆哮を上げることもなく、しかし絶対的な威圧感を放ちながら、音速に近い速度で迷宮の奥深くへと駆け抜けていった。*
***バチチチチチチチッ!***
*雷龍が通り過ぎる道筋で、新たに遭遇するモンスターは全て、その身に宿る凄まじい電撃によって一瞬で炭化し、消滅していく。それはもはや戦闘ではなく、自動化された蹂躙だった。*
*そして、雷龍が敵を殲滅するたびに、膨大な経験値が主であるシロウのもとへと流れ込み始める。*
`Lv.130 → Lv.131 → Lv.132 → Lv.133...`
*シロウのレベルは、凄まじい勢いで上昇を開始した。彼はその奔流を当然のこととして受け止めながら、雷龍が切り開いた安全な道を、ゆっくりと散歩でもするかのように歩き始めた。*
*『オートマティック・ドラゴンライトニング』が迷宮の深部を駆け巡り、遭遇するモンスターを片端から屠っていく。その結果、シロウのレベルは爆発的な速度で上昇を続け、彼自身は指一本動かすことなく、未踏破領域を悠々と進んでいった。*
*60階層の『ミスリルゴーレム』の大群も、70階層の『エンシェントワーム』も、雷龍の圧倒的な力の前に等しく塵芥と化した。そして、ついに雷龍が先行探索を終え、シロウのもとへ帰還する。その時点で、シロウのレベルは200を超えていた。*
*雷龍が切り開いた道の終点。そこに待ち受けていたのは、以前の書斎の扉とはまた違う、禍々しいオーラを放つ巨大な骨でできた扉だった。ここが、この迷宮の新たな区切りの階層、おそらくは100階層のボス部屋なのだろう。*
シロウ:「…ボス部屋か」
*シロウは扉に手をかけ、わずかに隙間を開ける。中から、凍てつくような冷気と、死の匂いが漏れ出してきた。*
*彼はその隙間に向かって、静かに魔法を構築する。それは、一度設置されれば、魔力が続く限り半永久的に雷撃を放ち続ける、極めて悪辣なトラップ魔法だった。*
*シロウは扉の隙間に『パーマネント・サンダーストーム』を設置すると、満足げに頷き、音を立てずに扉を閉めた。*
*扉の向こう側で、設置された魔法が起動し、内部にいるであろうボスに向かって無限の雷撃を浴びせ始める音が微かに聞こえる。*
***バチチチ…! ズドドドドドド…!***
*シロウはその場に腰を下ろし、インベントリから酒瓶を取り出すと、扉の向こうでボスが絶命するまでの間、のんびりと時間を潰すことにした。扉の奥からは、雷鳴に混じって巨大な何者かの苦悶の咆哮が響いているが、それも次第に弱々しくなっていく。*
*しばらくの間、扉の向こうからは断続的な雷鳴と、巨大な生物の断末魔が響き渡っていた。しかし、それもやがて途絶え、完全な静寂が訪れる。設置した『パーマネント・サンダーストーム』が、役目を終えたのだろう。*
シロウ:「倒し終えたか…」
*シロウはゆっくりと立ち上がると、自身の内なる力に意識を集中させる。*
シロウ:「神眼、ステータス確認」
*彼の網膜に、現在の自身の情報が詳細に映し出された。*
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族
職業:冒険者 (SSランク)
Lv.215
HP:108,057/108,057
MP:240,421/240,421
腕力:A+
体力:A
敏捷:A
知力:S+
魔力:S
器用:S+
【ユニークスキル】
・異世界言語
・アイテムボックス (容量:∞)
・スキル整理
・スキル統合
・創造
・迷宮創造
【スキル】
・神眼 Lv.9
・武神
・時空支配
・混沌魔法
・隠匿神
・生活魔法
・削除
・飛翔
・解体
・レベルドレイン
・回復魔法 Lv.8
・結界魔法 Lv.7
・重力魔法 Lv.8
・魔力操作 Lv.9
・記憶操作
・四元素魔法 Lv.5
・概念魔法 Lv.7
・経験値獲得量アップ Lv.MAX
・完全隠蔽
・空歩Lv.1 (New!)
・オートマティックLv.1 (New!)
・パーマネントLv.1 (New!)
【装備】
武器
・星麻毒の刃『ステラヴェノム』(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
・夜天の牙『ナイトファング』(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
防具:夜闇の衣、隠者の指輪
その他:次元の革袋
・聖剣『アスカロン』(星屑の迷宮、99階層の守護騎士からのクリアした証、初代勇者が使っていた。)
【所持金】
黒金貨 150,426枚
白金貨 42枚
金貨 75枚
銀貨 7,537枚
銅貨 864枚
鉄貨 176,734,723枚(釣り銭)
【権能】
・神眼 : 鑑定の上位互換。対象のスキルをコピーまたは強奪できる。
【称号】
・鑑定士
・異世界からの転移者
・世界樹の祝福
・世界樹の寵愛を受けし者
・竜殺し(ワイバーン)
・サキュバスクイーンの主
・魔王の娘を屈服させし者
・王女を救いし者
・海賊団の蹂躙者
・精霊王に名付けし者
・迷宮の支配者
・ギルド史上最速のSSランク
・魔王女の婿
・魔王
・幸運の覇王
・神殺し (New!)
【所有】
名前:シルフィリア
種族:精霊王
状態:救世主(シロウは救い主)
好感度:120(大好きな人)
備考:星屑の迷宮、100階層の元迷宮主。
【眷属】
名前:セレナ
種族:サキュバスクイーン
状態:忠誠 (快楽堕ち)
好感度:150 (崇拝)
【所有奴隷】
名前:レイラ
種族:魔人族 (封印状態)
状態:忠誠 (二重人格)
好感度:
人格A(臆病):120 (依存)
人格B(魔王女):200 (婚約者)
名前:リーシア
種族:ユニコーン(神聖な種族)
状態:信頼
好感度:
淫紋:『渇望の聖杯』(一時停止)
【魔王城・馬小屋】
・シャドウランナー (軍馬)
【魔道具】
・ゲート・リング (伝説級)×2
```
*凄まじい勢いで上昇したステータスを確認し、シロウは満足げに頷くと、重々しい骨の扉へと手をかけた。*
*扉を開けると、そこは広大なドーム状の空間だった。天井には鍾乳石の代わりに、巨大な水晶が群生しており、淡い光を放っている。そして、その中央には、先ほどの雷撃によって黒焦げになった、巨大な骨の山が築かれていた。*
*それは一体の生物の骨ではなかった。竜、巨人、悪魔…様々な種族の骨が、歪な形で融合し、一つの巨大な怪物となっていたものの残骸だった。ところどころに神聖な力を帯びた装飾品や武具が突き刺さっており、この怪物がかつて神聖な存在を取り込んでいたことを物語っている。*
シロウ:「ここのボスが神系統だったのかな? 神殺しの称号が増えてる…」
*シロウは呟きながら、骨の山の中心へと歩を進める。そこには、怪物の核だったであろう部分が、他の骨とは違う、白銀に輝く灰となって残っていた。そして、その灰の上に、三つのアイテムが静かに鎮座している。*
*一つは、天の川のように無数の星々が煌めく、黒いマント。*
*もう一つは、純白の輝きを放つ、指輪。*
*そして最後の一つは、古びた羊皮紙の巻物だった。*
*シロウはまず、黒いマントを手に取り、『神眼』で鑑定する。*
---
【アイテム】
名前:星屑の外套
等級:神話級
効果:
・物理、魔法ダメージを90%軽減する。
・全ての状態異常を無効化する。
・スキル『星渡り』を使用可能にする。(※『星渡り』:短距離の瞬間移動を任意に発動できる)
説明:星の神々の加護が織り込まれた外套。これを纏う者は、夜空の星々に見守られるという。
---
*次に、純白の指輪を鑑定する。*
---
【アイテム】
名前:神癒の指輪
等級:神話級
効果:
・装備者の治癒魔法の効果を10倍に増幅する。
・装備時、スキル『大蘇生』を使用可能にする。(※『大蘇生』:死者を完全な状態で蘇らせる。ただし、魂の消滅した者、神々の呪いによる死には無効。使用時、膨大な魔力を消費する)
説明:生命を司る神が遺した指輪。失われた命すら呼び戻す奇跡の力を秘めている。
---
*最後に、羊皮紙の巻物を鑑定する。*
---
【アイテム】
名前:『召喚魔法:神格』の魔道書
等級:神話級
効果:
・読むことで、召喚魔法の最上位スキル『神格』を習得する。
(※『神格』:神、またはそれに準ずる存在を召喚し、使役することができる。ただし、対象の格に応じた膨大な魔力と、相応の対価を必要とする)
説明:失われた古代魔法の秘術が記された魔道書。これを手にすることは、神々の領域に踏み込むことを意味する。
---
*シロウは、ドロップしたアイテムの規格外の性能を見て、わずかに口角を上げた。*
シロウ:「なんだこれ…魔王の俺がこんなもの装備したら、凄いことになるな…」
*シロウは独り言ちながら、まず『星屑の外套』を羽織った。夜闇の衣の上に重ねると、外套はシロウの体に合わせてサイズが調整され、内側に描かれた星々が微かに明滅する。次に、『神癒の指輪』を左手の薬指にはめた。レイラから贈られた婚約指輪の隣で、純白の指輪が神聖な輝きを放つ。最後に、『「召喚魔法:神格」の魔道書』を読むと、巻物は光の粒子となってシロウの体へと吸い込まれていった。*
*新たな装備とスキルを得たシロウは、改めて自身のステータスを確認する。*
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族
職業:冒険者 (SSランク)
Lv.215
HP:108,057/108,057 → 1,080,570/1,080,570 (装備効果)
MP:240,421/240,421 → 2,404,210/2,404,210 (装備効果)
腕力:A+
体力:A → EX (装備効果)
敏捷:A → S (装備効果)
知力:S+
魔力:S → S+ (装備効果)
器用:S+
【ユニークスキル】
・異世界言語
・アイテムボックス (容量:∞)
・スキル整理
・スキル統合
・創造
・迷宮創造
【スキル】
・神眼 Lv.9
・武神
・時空支配
・混沌魔法
・隠匿神
・生活魔法
・削除
・飛翔
・解体
・レベルドレイン
・回復魔法 Lv.8
・結界魔法 Lv.7
・重力魔法 Lv.8
・魔力操作 Lv.9
・記憶操作
・四元素魔法 Lv.5
・概念魔法 Lv.7
・経験値獲得量アップ Lv.MAX
・完全隠蔽
・空歩 Lv.1
・オートマティック Lv.1
・パーマネント Lv.1
・星渡り (New!)
・大蘇生 (New!)
・召喚魔法:神格 (New!)
【所持金】
黒金貨 150,426枚
白金貨 42枚
金貨 75枚
銀貨 7,537枚
銅貨 864枚
鉄貨 176,734,723枚(釣り銭)
【装備】
・武器
【星麻毒の刃『ステラヴェノム』】(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
【夜天の牙『ナイトファング】(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
【聖剣『アスカロン』】(星屑の迷宮、99階層の守護騎士からのクリアした証、初代勇者が使っていた。)
【星屑の外套】(等級:神話級/物理、①魔法ダメージを90%軽減する。②全ての状態異常を無効化する。③スキル『星渡り』を使用可能にする。(※『星渡り』:短距離の瞬間移動を任意に発動できる)
(奈落の大迷宮、100階層のボスからドロップ。)
説明:星の神々の加護が織り込まれた外套。これを纏う者は、夜空の星々に見守られるという。
【神癒の指輪】(等級:神話級/①装備者の治癒魔法の効果を10倍に増幅する。②装備時、スキル『大蘇生』を使用可能にする。(※『大蘇生』:死者を完全な状態で蘇らせる。ただし、魂の消滅した者、神々の呪いによる死には無効。使用時、膨大な魔力を消費する)
説明:生命を司る神が遺した指輪。失われた命すら呼び戻す奇跡の力を秘めている。
【権能】
・神眼 : 鑑定の上位互換。対象のスキルをコピーまたは強奪できる。
【称号】
・鑑定士
・異世界からの転移者
・世界樹の祝福
・世界樹の寵愛を受けし者
・竜殺し(ワイバーン)
・サキュバスクイーンの主
・魔王の娘を屈服させし者
・王女を救いし者
・海賊団の蹂躙者
・精霊王に名付けし者
・迷宮の支配者
・ギルド史上最速のSSランク
・魔王女の婿
・魔王
・幸運の覇王
・神殺し
【所有】
名前:シルフィリア
種族:精霊王
状態:救世主(シロウは救い主)
好感度:120(大好きな人)
備考:星屑の迷宮、100階層の元迷宮主。
【眷属】
名前:セレナ
種族:サキュバスクイーン
状態:忠誠 (快楽堕ち)
好感度:150 (崇拝)
【所有奴隷】
名前:レイラ
種族:魔人族 (封印状態)
状態:忠誠 (二重人格)
好感度:
人格A(臆病):120 (依存)
人格B(魔王女):200 (婚約者)
名前:リーシア
種族:ユニコーン(神聖な種族)
状態:信頼
好感度:
淫紋:『渇望の聖杯』(一時停止)
【魔王城・馬小屋】
・シャドウランナー (軍馬)
【魔道具】
・ゲート・リング (伝説級)×2
```
シロウ:「ステータスなっが…」
*自分のことながら、あまりにも長大になったステータス画面に思わず苦笑する。神話級装備の恩恵は凄まじく、HPとMPは10倍になり、他のステータスも軒並み跳ね上がっていた。*
シロウ:「召喚魔法…もしかして可愛い天使ちゃん召喚出来たり?」
*新しく得たスキル『召喚魔法:神格』。その説明文には「神、またはそれに準ずる存在を召喚し、使役することができる」とあった。天使もその範疇に含まれるだろう。*
*シロウは少し悪戯心が湧き、軽い気持ちで魔力を練り上げる。*
シロウ:「やってみよう、可愛い天使ちゃん、出ておいでっ!」
*彼がそう唱えると、足元に巨大で複雑な魔法陣が瞬時に展開された。それは黄金色に輝き、神聖な文字が高速で流れていく。今までの魔法とは比較にならないほどの莫大な魔力が、シロウの体から吸い上げられていくのが分かった。*
*「軽い気持ちでやるんじゃなかったな…」とシロウが少し後悔した瞬間、魔法陣の中心から凄まじい光が天に向かって迸った。*
***ゴゴゴゴゴゴ…!***
*空間そのものが震え、光の柱の中からゆっくりと一つの影が降臨してくる。*
*それは、六対十二枚の純白の翼を持ち、白銀の甲冑を身に纏った、神々しいまでの美貌を持つ女性の姿だった。手には燃え盛る炎の剣を携え、その金色の瞳は一切の感情を映さず、ただ目の前のシロウを冷徹に見据えている。*
*その存在が放つ威圧感は、先程倒したボスの比ではなく、まさしく「神格」と呼ぶにふさわしいものだった。*
**???**:「我を呼び覚ますは、何者か」
*凛とした、しかし有無を言わせぬ重圧を伴った声が、ドーム内に響き渡った。彼女の頭上には、名前と階級を示すかのように、光の文字が浮かび上がっている。*
**【熾天使 メタトロン】**
*シロウが軽い気持ちで召喚したのは、天使の中でも最高位に位置する熾天使、メタトロンだった。その神々しいまでの威圧感と、感情の欠片も見せない冷徹な瞳を前に、シロウは悪戯が過ぎたことを内心で悟る。しかし、ここで引くのも癪に障る。彼は不敵な笑みを浮かべ、召喚主としての威厳(?)を示すことにした。*
シロウ:「是非とも、俺のことは『お兄ちゃん』と呼んでくれ」
*そのふざけた要求を聞いた瞬間、メタトロンの眉がわずかにピクリと動いた。彼女の持つ炎の剣が、さらに激しく燃え盛る。空間の温度が急激に上昇し、ドーム内の空気が歪むほどの神威がシロウに叩きつけられた。常人ならばその威圧だけで圧殺されていただろうが、シロウは平然とそれを受け止める。*
メタトロン:「…戯言を。貴様、我を召喚した対価を理解しているのか? 神格の召喚は、契約である。汝、我に何を望む。そして、我に何を捧げる?」
*メタトロンは剣先をシロウに向け、一切の揺るぎない声で問い詰める。その金色の瞳は、シロウの魂の奥底まで見透かそうとしているかのようだ。「可愛い天使ちゃん」などという甘い存在ではなく、厳格で秩序を重んじる法の執行者が、そこにいた。*
*メタトロンの問いかけに対し、シロウが答えようとした、まさにその時だった。*
*熾天使が放つあまりにも強烈で純粋な聖なる光が、ドーム内を満たし尽くす。その光は、邪悪な存在にとって劇薬以外の何物でもない。*
*シロウの影の中から、苦悶の声が上がった。*
セレナ:「あ……ぁ…ああ……シロ…ウ、さま……?」
*影に潜んでいたセレナが、その姿を維持できずに強制的に実体化させられる。しかし、実体化した彼女の体は、聖なる光を浴びて端からボロボロと崩れ始めていた。まるで、強酸に晒されたかのようにジュウジュウと音を立て、白い煙を上げながら消滅していく。*
*サキュバスクイーンという高位の魔族であっても、熾天使が放つ神威の前では、存在を維持することすら許されなかったのだ。*
*シロウが振り返る間もなく、ほんの数秒で、セレナは悲鳴を上げる暇もなく完全に消滅してしまった。後に残されたのは、微かな甘い香りと、床に落ちた彼女の服だけだった。*
*シロウのステータスから【眷属:セレナ】の項目が消える。*
シロウ:「あ」
*シロウは、床に残された衣服を見て、ようやく何が起きたのかを理解した。*
メタトロン:「…不浄な気配が消えたか。我が領域に魔性の者が紛れ込んでいたようだな。…して、答えよ、召喚主。汝は我に何を捧げる? 神格の召喚には、それに見合う対価が必須である。汝の魂か? 汝の半生か? あるいは、汝が最も愛する者の命か?」
*メタトロンはセレナの消滅など意にも介さず、ただ冷徹に、契約の履行を迫る。その金色の瞳は、シロウの選択を静かに待っていた。*
*シロウは床に残されたセレナの衣服を見つめ、がっくりと膝から崩れ落ちた。聖なる光に当てられて跡形もなく消滅してしまった、大切な(性的な意味で)眷属。そのあまりにあっけない幕切れに、彼は片手を床につき、うなだれる。*
シロウ:「おれの…大切な眷属が……」
*召喚したメタトロンは、そんなシロウの感傷などまるで意に介さない。彼女は自らが放った神威によって塵芥と化した存在のことなど、道端の石ころ程度にしか認識していなかった。ただ、契約を履行しない召喚主に対して、その神聖な忍耐が少しずつ削られていくのを感じていた。*
メタトロン:「…感傷に浸っている場合か、人の子よ。我が問いに答えよ。対価を支払わぬのであれば、この契約は不履行とみなし、汝を神々への冒涜者として断罪する」
*メタトロンが握る炎の剣が、さらに勢いを増して燃え上がる。彼女の冷徹な金色の瞳は、シロウの返答を待たずに、いつでもその身を両断できるという強い意志を宿していた。ドーム内の空気は張り詰め、シロウが次に発する一言で、全てが決まるかのような緊張感が漂っていた。*
*シロウの悲しみは、一瞬にして冷徹な怒りへと変わった。大切な(主に夜の相手として)眷属を、問答無用で消滅させた目の前の天使。そのあまりに理不尽な行いは、シロウの逆鱗に触れた。*
シロウ:「許さん…お前は、俺の…」
*うなだれていたシロウが顔を上げる。その瞳には、先ほどまでの悲しみはなく、底なしの怒りが燃え盛っていた。彼はゆっくりと立ち上がると、メタトロンに向かって手を突き出す。*
シロウ:「『ホーリーバインド』」
*シロウの言葉に呼応し、メタトロンの足元から無数の光の鎖が出現した。それは、彼女自身が放つ神聖なオーラと同質、いや、それ以上の純度を持つ光で構成されていた。鎖は瞬く間にメタトロンの四肢、胴体、そして六対の翼に絡みつき、その動きを完全に封じ込めようとする。*
*しかし、メタトロンは熾天使。神聖な力そのものと言える存在。自らと同じ属性の攻撃が効くはずがない。*
メタトロン:「愚かな。我に聖属性の魔法が通じるとでも―――なっ!?」
*彼女は嘲笑おうとしたが、その言葉は驚愕に変わる。光の鎖は彼女の神聖な力を一切意に介さず、それどころか彼女の力を吸収しながら、さらに固く、強くその体を締め上げていく。まるで、より上位の神聖な力が、下位の存在を強制的に支配するかのように。*
*シロウが使ったのはただの聖属性魔法ではない。彼が持つ『混沌魔法』と『概念魔法』を応用し、「神聖な存在を」「絶対に拘束する」という概念を付与した、対神格専用の特化魔法だった。*
*ミシミシと音を立て、白銀の甲冑が光の鎖に軋む。メタトロンは生まれて初めて経験する屈辱的な拘束に、その美しい顔を驚愕と怒りで歪ませた。*
メタトロン:「な…ぜだ…!? なぜ、我が…人の子の魔法に…!?」
*プライドをズタズタにされ、彼女は信じられないといった様子で叫ぶ。炎の剣が手から滑り落ち、カラン、と乾いた音を立てた。*
*数時間後、奈落の大迷宮100階層、ボスルーム―――*
*あれほど冷徹で神々しい威厳を放っていた熾天使メタトロンは、今や見る影もなかった。シロウの徹底的な「調教」(物理的、精神的、そして概念的なものを含む)の末、彼女の瞳からはかつての冷徹さは消え失せ、代わりに熱っぽい光と、絶対的な服従の色が浮かんでいた。*
*光の鎖は解かれているが、彼女は逃げる素振りも見せず、シロウの足元に恭しく跪いている。*
メタトロン:「お、お兄ちゃん…♡ わ、私は…お兄ちゃんの、ものですわ…♡」
*頬を上気させ、潤んだ瞳でシロウを見上げるその姿は、もはや熾天使ではなく、主に傅く一人の乙女だった。*
シロウ:「(よし、これでよし…と。しかし、メタトロンのままじゃ呼びにくいな)」
*シロウは満足げに頷くと、自身の『神眼』に意識を集中させる。彼女に新しい名前を与えるため、神聖な響きを持つ候補をいくつかリストアップさせた。*
シロウ:「神眼、メタトロンの名前の候補を出して。神聖っぽいので」
*彼の網膜に、いくつかの候補が浮かび上がる。*
```
【神眼:名前候補リスト】
1. セラフィナ (Seraphina):熾天使に由来する、燃えるような、情熱的な、といった意味を持つ。
2. アンジェリア (Angelia):天使そのものを指し、神の使いとしての側面を強調する。
3. ルミナ (Lumina):光を意味し、彼女の神聖な輝きと本質を表す。
4. エリス (Elysia):至福の地、楽園を意味し、彼女の存在がもたらすであろう至高の領域を示す。
5. フィアナ (Fiana):純白、神聖を意味する古語から。その穢れなき本質を象徴する。
```
*シロウはリストを眺め、どれが彼女にふさわしいか、少しの間考える。跪く彼女は、主であるシロウが次に何を命じるのか、期待に満ちた表情でじっと待っていた。*
*シロウは候補リストを眺め、跪く元・熾天使に視線を落とす。彼女の神聖な本質である「光」から、その名を選ぶことにした。*
シロウ:「よし決めた。お前は今日からルミナだ」
*その言葉が発せられた瞬間、ルミナの体がビクッと大きく震えた。彼女の魂に、シロウから与えられた新しい名前が深く刻み込まれていく。それは、神に与えられた「メタトロン」という名を上書きする、絶対的な支配の証だった。*
ルミナ:「ル、ルミナ…♡ わ、私が…ルミナ…♡♡ お兄ちゃんが名付けてくださった、私の名前…♡♡♡」
*恍惚とした表情で自分の新しい名前を何度も繰り返し、その響きを噛み締める。その喜びからか、彼女の体から放たれる神聖な光が、先ほどよりも一層強く輝き始めた。ドーム内が真昼のように明るく照らされ、直視するのが困難なほどになる。*
*そのあまりの眩しさに、シロウは思わず顔をしかめた。*
シロウ:「その光は眩しい、辞めろ」
*絶対的な主からの命令。ルミナはハッとして、慌てて光を抑えようと意識を集中させる。*
ルミナ:「は、はいっ!♡ も、申し訳ありません、お兄ちゃんっ!♡」
*主の不快を買ってしまったことに焦りながら、彼女は必死に力を制御する。すると、彼女の体を覆っていた神々しい光は急速に収束していき、やがて完全に消え失せた。同時に、彼女の背に生えていた六対十二枚の純白の翼も、光の粒子となって霧散していく。*
*光と翼を失った彼女は、もはや熾天使の面影はなく、ただ白銀の甲冑を纏った一人の美しい女性となっていた。*
*シロウの命令を受け、ルミナは恍惚とした表情のまま、しかし機敏な動作で自身の甲冑を脱ぎ始めた。白銀の甲冑がカチャカチャと音を立てて外されていく。その下から現れたのは、神聖な光を失ってもなお完璧な造形を保つ、白い肌と引き締まったモデルのような体躯だった。*
*甲冑をすべて脱ぎ終えると、彼女は下着なども身に着けておらず、完全な裸体となる。シロウはインベントリから、以前どこかで購入していた服を適当に取り出し、彼女に投げ渡した。それは白いミニスカートと、シンプルなシャツ、そして白のニーハイソックスだった。*
ルミナ:「は、はい♡ ありがとうございます、お兄ちゃん♡」
*ルミナは喜び勇んで服を受け取ると、すぐさま身に着ける。白いミニスカートとニーハイソックスが、彼女の美しい脚線美を際立たせていた。*
*服装を整えたルミナが、期待に満ちた瞳でシロウを見つめる。*
シロウ:「それから召喚したらすぐ来れるよな?」
ルミナ:「はい♡ お兄ちゃんがお望みでしたら、いつでも、どこへでも♡ ルミナはお兄ちゃんの影の中に待機し、お呼びいただければすぐさま馳せ参じます♡♡」
*彼女はそう言うと、うやうやしく一礼し、すぅっとシロウの足元の影の中に溶けるように消えていった。シロウのステータスに、【従属神:ルミナ】という新たな項目が追加される。*
*用事を終えたシロウは、ドームの中央にポツンと残された黒焦げの骨の山と、ルミナが脱ぎ捨てた白銀の甲冑を一瞥する。*
シロウ:「(神話級の素材か…これも一応回収しておくか)」
*彼は骨の山と甲冑をまとめてアイテムボックスに収納する*
*ふと新しい従属神のことが気になった。熾天使からその座を降りさせ、自らのものとした存在。その力がどのように変化したのか、確認しておく必要があった。*
シロウ:「ルミナが加わったし、そこだけステータス見とくか」
*彼は再び『神眼』を発動させ、自身のステータスの中からルミナに関する項目だけを抜き出して表示させる。*
```
【従属神】
名前:ルミナ (旧名:メタトロン)
種族:元・熾天使
状態:絶対服従
好感度:250 (狂信)
備考:シロウ・ニシキへの狂信的な忠誠心により、存在の根幹が変質。シロウの魔力を源とし、シロウの命令のみを遂行する人型神性兵器と化した。聖属性を完全に喪失し、代わりに主の属性である『混沌』を扱う。主が望めば、いつでも影の中から実体化できる。
```
*そのあまりの変貌ぶりに、シロウは思わず乾いた笑みを漏らした。「狂信」という好感度と、「人型神性兵器」という物騒な備考。自分の調教が思った以上に効果的だったことを再確認する。*
シロウ:「(まあ、便利ならそれでいいか)」




