表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
52/117

92

92


---

*【翌日・魔王城近くの街:冒険者ギルド】*


*竜人たちによる魔王城の修繕が軌道に乗ったのを見届けたシロウは、気分転換も兼ねて、レイラとシルフィリアを伴い、最も近くにある冒険者の街へとやってきていた。目的は、空を飛ぶ船――飛空艇に乗ることだ。*


*ギルドの中は、朝から酒を飲む屈強な男たちや、依頼を探す様々な種族の冒険者たちで賑わっている。シロウたちが中に入ると、その尋常ならざる存在感と、両脇を固める美少女(一人は魔王、一人は精霊王)に、周囲の冒険者たちが息を呑み、ざわめきが広がった。*


*シロウはそんな視線を意にも介さず、受付カウンターへと直行する。カウンターでは、猫の獣人族の受付嬢が、少し緊張した面持ちでシロウを見上げていた。*


猫人族受付嬢:「よ、ようこそ冒険者ギルドへ。ご、ご用件は…?」


シロウ:「飛空艇に乗りたい。護衛依頼はあるか?」


*シロウが単刀直入に用件を告げると、受付嬢は少し驚いた顔をしたが、すぐに手元の資料をめくり始めた。*


猫人族受付嬢:「飛空艇の護衛依頼、ですか。にゃるほど…。ちょうど一件、出ていますにゃ。ですが…これは、かなり高ランク向けの危険な依頼ですにゃ。目的地は、遥か東方の浮遊大陸『アイオーン』…。依頼主は、かの有名な『アルファ商会』。成功報酬も破格ですが、道中にはワイバーンの群れや、空賊の襲撃も予想される高難度クエストですにゃ。受けられますか?」


レイラ(臆病):「ひ、ひくうてい…?空を飛ぶ船ですか…?た、高くないですか…?落ちたりしませんか…?」


*臆病なレイラは、シロウの服の袖をぎゅっと掴み、不安そうに見上げている。空を飛ぶという未知の体験に、恐怖心が勝っているようだ。*


シルフィリア:「わー!♡ 空を飛ぶ船!♡ 楽しそうですぅ!♡ 雲の上を飛ぶんですよね!ふわふわのお菓子みたいで、おいしいかもしれません!♡♡ シロウさま、乗りましょう!乗りましょう!」


*対照的に、シルフィリアは目をキラキラさせ、ぴょんぴょんと飛び跳ねて大興奮している。*


シロウ:「ふむ…結構大きな飛空艇なんだな。」


*シロウが他の参加者の存在を察したように呟くと、猫人族の受付嬢はこくりと頷いた。*


猫人族受付嬢:「はい。今回の依頼は、アルファ商会の最新鋭大型交易飛空艇『スターゲイザー号』の処女航海の護衛となりますにゃ。そのため、複数のSランク、Aランクパーティが合同で護衛にあたる大規模なものになっております。シロウ様もSSランクでいらっしゃいますし、参加資格は十分にございますにゃ。」

猫人族受付嬢:「行き先は、先ほど申し上げた通り、東方の空に浮かぶ巨大な浮遊大陸『アイオーン』ですにゃ。かつて古代文明が栄えたと言われる伝説の地で、今は希少な鉱石や古代遺物アーティファクトが眠る、交易の重要拠点となっております。」


*受付嬢が説明している間も、周囲の冒険者たちは「SSランクだと…!?」「アイオーン行きか、死人が出るぞ」などとヒソヒソと噂話を交わしている。*


レイラ(臆病):「ふ、浮遊大陸…?こ、こわい名前ですぅ…。それに、他の人もいっぱい乗るんですね…。わ、私、人見知りなので、うまくお話できるか…。」


*レイラはシロウの服の袖をさらに強く握りしめ、不安そうに体を小さくしている。大勢の知らない冒険者と同じ船に乗ることに、強いプレッシャーを感じているようだ。*


シルフィリア:「わー!♡ 大きな船なんですね!♡ いっぱい探検できそうですぅ!♡ それに、アイオーン?っていうところには、キラキラの石があるんですか?♡ 食べられますか?♡♡」


*シルフィリアは冒険の規模の大きさに胸を躍らせ、目を輝かせている。彼女の興味は、もっぱら未知の食べ物に向いているようだ。*


猫人族受付嬢:「依頼をお受けになりますか?もし受けられるようでしたら、明日、街の西ポートにてアルファ商会の担当者との顔合わせがございますが…。」


*受付嬢は確認するように、シロウの返事を待った。*


シロウ:「石は食えんな…それを受けよう。」


*シロウが依頼受諾の意思を告げた瞬間、彼の背後に隠れるようにしていたレイラの雰囲気が一変した。おどおどとした臆病な気配が霧散し、代わりに空気が張り詰めるほどの覇気が彼女から放たれる。顔を上げたレイラの瞳には、臆病な光はなく、自信と悦楽に満ちた深紅の輝きが宿っていた。*


レイラ(魔王女):「ふははは!♡ それでこそ妾の夫、シロウよ!浮遊大陸『アイオーン』だと?古代文明の遺産か、面白い!♡ ワイバーンに空賊、退屈せずに済みそうではないか!♡」


*人格が交代したレイラは、シロウの腕に甘えるように、しかし力強く絡みつくと、不敵な笑みを浮かべて高らかに宣言した。先ほどまでの恐怖は微塵も感じられない。*


猫人族受付嬢:「ひっ…!こ、この方は一体…。」


*受付嬢はレイラから発せられる凄まじいプレッシャーに顔を青くし、カウンターの下に隠れてしまいそうなほど怯えている。*


シルフィリア:「わー!♡ かっこいい方のレイラ様ですぅ!♡ 冒険に行くときは、いつもこっちのレイラ様ですね!♡ これで怖い竜さんが出てきても安心ですぅ!」


*シルフィリアは人格交代にも全く動じず、むしろ喜んでいる様子でレイラの腰に抱きついた。*


猫人族受付嬢:「か、かしこまりましたにゃ…!では、『スターゲイザー号』護衛依頼、SSランク冒険者パーティ『シロウ』様、確かに受注いたしましたにゃ!明日の朝、西ポートの第3ドックへお集まりください。これが参加証になりますにゃ。」


*受付嬢は震える手で、アルファ商会の紋章が刻まれた羊皮紙をシロウに差し出した。*


レイラ(魔王女):「ふん、当然だ。シロウ、明日が楽しみだな♡ どんな雑魚どもが同じ船に乗るのか知らぬが、妾たちの力、存分に見せつけてやろうぞ!♡」


*レイラはシロウの頬にちゅっとキスをすると、これからの刺激的な船旅を想像して、恍惚とした表情を浮かべた。*


*翌朝、シロウ、レイラ(魔王女)、シルフィリアの三人は、約束通り街の西ポート、第3ドックへとやってきた。そこには、まるで空に浮かぶ城のような、巨大で美しい飛空艇『スターゲイザー号』が停泊していた。白銀の船体は朝日を浴びて輝き、その威容は見る者を圧倒する。すでにドックには、いかにも手練れといった風体の冒険者たちが数パーティ集まっており、商会の関係者らしき人々が忙しなく動き回っていた。*


*シロウたちはスキル「完全隠蔽」を発動させており、その圧倒的な魔力や気配は完全に隠されている。そのため、周囲の者たちからは、物見遊山にでも来た場違いな一般人の一行にしか見えていなかった。特に、シロウの両脇に立つ絶世の美少女二人は、護衛対象の貴族令嬢か何かと勘違いされているようだ。*


*受付らしきテーブルにいた、恰幅の良い商会の中年男性に、シロウはひらひらと参加証を振りながら、わざと気の抜けた声で話しかけた。*


シロウ:「ちーっす、依頼で来ました〜。」


*中年男性はシロウたちを胡散臭そうに一瞥すると、面倒くさそうに言った。*


商会男性:「ん?依頼だと?おいおい、坊主。ここは遊び場じゃねえぞ。今日はアルファ商会の威信をかけたスターゲイザー号の処女航海だ。護衛はギルドが選りすぐったAランク以上の猛者たちだけだ。お前さんのようなヒョロいのが来るところじゃ…」


*男性はシロウから参加証をひったくるように受け取ると、その紋章を見て目を見開いた。*


商会男性:「なっ…!?これは、ギルドマスター直々の推薦状じゃねえか!…ま、まあいい。名前は?」


レイラ(魔王女):「ふん、雑魚が騒がしいな。さっさと船に乗せろ。妾は待つのが嫌いなのだ。」


*レイラは不機嫌そうに呟くが、「完全隠蔽」の効果でその声に覇気はなく、ただの我が儘な少女の不満にしか聞こえない。周囲の冒険者たちから「なんだあの女?」「貴族様のお嬢か?」といった嘲笑が漏れる。*


シルフィリア:「わー!♡ お船、すっごく大きいですぅ!♡ あれに乗るんですね!早く乗りたいですぅ!シロウさま、一番乗りしましょう!♡」


*シルフィリアは巨大な飛空艇を見上げ、興奮を隠しきれない様子でぴょんぴょんと跳ねている。その無邪気さが、一行の場違い感をさらに際立たせていた。*


シロウ:「シロウだ、よろしくぅ〜」


*シロウの気の抜けた挨拶と、その横で元気よくお辞儀をするシルフィリア。その場違いな光景に、受付の男だけでなく、周りで待機していた他の冒険者たちからも失笑が漏れる。*


商会男性:「シロウ、だな。…ふん、名簿には確かにある。よし、通っていいぞ。だが言っておくが、船の中ではしゃいだり、他の護衛の方々の邪魔になるような真似はするなよ。特にそこの嬢ちゃんたち。ここはピクニック船じゃねえんだからな。」


*男はシロウたちを侮りきった目で睨みつけ、吐き捨てるように言った。*


*その時、受付のすぐ側で待機していた、見るからに歴戦の猛者といった雰囲気のパーティの一つが、シロウたちに絡んできた。リーダーらしき、顔に大きな傷跡がある大男が、にやにやと下卑た笑みを浮かべてレイラとシルフィリアを値踏みするように見ている。*


傷の男:「おいおい、マルコさんよぉ。なんだい、このガキどもは?まさかこんなのが俺たちと同じ護衛だって言うんじゃねえだろうな?」

女魔術師:「ちょっと、やめなよバート。どうせコネか何かで紛れ込んだ貴族のボンボンでしょ。可愛い子連れてるし、すぐに泣いて逃げ出すわよ。」

軽戦士:「ヒュー!どっちも極上じゃねえか。なあ嬢ちゃんたち、船旅が退屈になったら、俺たちの部屋に遊びに来いよ。楽しいこと、いっぱい教えてやるぜ?」


*パーティのメンバーたちが、口々に嘲笑と侮辱の言葉を投げかける。*


レイラ(魔王女):「…なんだ、この蝿共は。シロウ、殺してよいか?♡」


*レイラは氷のように冷たい視線で男たちを睨みつけるが、「完全隠蔽」のせいでその殺気は全く伝わらず、ただ唇を尖らせて拗ねているようにしか見えない。*


シルフィリア:「わー!♡ みなさん、こんにちはですぅ!♡ シルフィリアです!よろしくおねがいします!♡♡」


*シルフィリアは状況を全く理解せず、絡んできた冒険者たちに満面の笑みでぺこりとお辞儀をした。そのあまりの無邪気さに、男たちはさらに声を上げて笑った。*


傷の男・バート:「ぶははは!礼儀正しいじゃねえか!よしよし、いい子だ。船に乗ったら、おじさんがたっぷり可愛がってやるからな!」


*バートはそう言うと、シルフィリアの頭を乱暴に撫でようと、その大きな手を伸ばしてきた。*


*バートの汚れた手がシルフィリアに伸びた、まさにその瞬間。*


シルフィリア:「ひゃっ…!」


*シルフィリアは今まで浮かべていた無邪気な笑顔を消し、まるで汚物でも見るかのような目でバートの手をちらりと見ると、さっと身を翻してシロウの背中に隠れた。そして、シロウの服をぎゅっと掴み、その背後から不安そうにバートを見上げる。彼女にとって、撫でられて嬉しいのは世界でシロウただ一人なのだ。*


*シルフィリアに避けられたバートの手は、行き場をなくして空中で止まる。*


バート:「あ…?んだぁ、このガキ。せっかく可愛がってやろうってのによぉ。」


*自分の行為を拒絶されたことに、バートの顔に不機嫌な色が浮かぶ。彼の仲間たちも、嘲るような視線をシロウたちに送っていた。*


軽戦士:「おいおいバート、嫌われちまったんじゃねえか?ガキは正直だからなァ!」

女魔術師:「ふん、当然でしょ。見るからに不潔なんだから。それより、あの男の後ろに隠れるなんて…もしかして、あの男が『ご主人様』なのかしらね?変な趣味。」


*冒険者たちの下品な笑い声がドックに響く。*


レイラ(魔王女):「…シロウ。そろそろ我慢の限界だ。この下郎の腕、へし折ってもよいか?妾のシルフィリアに気安く触れようとしたのだ。それくらいの罰は当然であろう?♡」


*レイラはシロウの腕に絡みついたまま、うっとりとした表情で物騒な提案をする。「完全隠蔽」のおかげで、その言葉はシロウにしか聞こえない甘い囁きとなっている。彼女は、シロウがこの状況をどう裁くのか、その一挙手一投足を楽しみに待っていた。*


シロウ:「後々処理が面倒だから辞めなさい。」


*シロウが冷静に制すると、レイラはちっと舌打ちをしたが、それ以上は何も言わず、シロウの腕に絡みついたまま面白そうに口元を歪めた。主が許さぬのなら仕方ない。だが、この下衆どもが船旅の道中でどんな無様な死に方をするか、特等席で見物させてもらおう――そんな悪趣味な愉悦が彼女の瞳に浮かんでいた。*


シロウ:「部屋とか無いのか?」


*シロウは絡んでくる冒険者バートたちを完全に無視し、受付の中年男性に向き直って尋ねた。その態度は、まるで道端の石ころにすら関心がないかのようだ。*


商会男性:「あ?部屋だと?あるに決まってんだろ。護衛の冒険者様には、それぞれ個室を用意してある。…お前らみたいなのにもな。船に乗ったら、船員に部屋の鍵を貰え。案内はそいつがする。さっさと行け、邪魔だ。」


*男はシロウたちを追い払うように、顎で乗船タラップを指し示した。*


バート:「おい待てよ、マルコさん!こいつら、俺たちAランクパーティ『クリムゾンファング』を無視しやがったぞ!少し灸を据えてやらねえと…」


*バートが再びシロウの肩を掴もうと手を伸ばす。しかし、その手がシロウに触れる寸前、船のほうから凛とした女性の声が響き渡った。*


???:「――そこまでです。」


*声のした方を見ると、スターゲイザー号のタラップの上から、美しいエルフの女性がこちらを見下ろしていた。長い銀髪を風になびかせ、手には精巧な彫刻が施された長弓を持っている。その佇まいは、まるで森の女王のようだ。彼女の隣には、頑固そうな顔つきのドワーフの戦士と、身軽そうな獣人の少女も控えている。*


エルフの女性:「バート、あなたもAランクの冒険者なら、処女航海の船の前でみっともない真似はおやめなさい。アルファ商会の顔に泥を塗る気ですか?」


バート:「ちっ…!『銀月の矢』のリューナか…。相変わらずお高く止まってやがるぜ。」


*バートは忌々しそうに呟くと、伸ばした手を引っ込めた。どうやら、このエルフの女性は彼も無視できない実力者のようだ。*


リューナと呼ばれたエルフは、バートたちを一瞥した後、その視線をシロウたちに向ける。そして、少し困ったような、それでいて興味深そうな表情で言った。


リューナ:「あなた方も、護衛の方ですね。申し訳ありません、うちの…いえ、同業者がご迷惑を。さあ、船へ。部屋までご案内します。」


シロウ:「お、あんがと。」


*シロウが軽く礼を言うと、エルフの女性――リューナは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて頷いた。*


レイラ(魔王女):「ふん、何をぐずぐずしている。さっさと乗るぞ、シロウ。」


*レイラはシロウの腕からするりと離れると、不機嫌さを隠そうともせず、一人でさっさとタラップを上がり始める。その黒いゴスロリドレスがひらりと舞い、ちらりと見える脚線美に、周りの男たちの視線が釘付けになるが、彼女は全く気にも留めない。*


シルフィリア:「わー!♡ お船の中、楽しみですぅ!♡ シロウさま、レイラ様、待ってくださいですぅ~!♡」


*シルフィリアは、レイラの後を追うように、ぱたぱたと軽い足取りでタラップを駆け上がっていく。*


リューナ:「あ…お待ちください。船内は複雑ですので、私がご案内を…。」


*リューナが慌てて声をかけるが、レイラは振り返りもしない。シロウが苦笑いを浮かべているのを見て、リューラは困ったように眉を下げた。*


リューナ:「…元気な方たちですね。さあ、私たちも参りましょう。私の名はリューナ・シルヴァリヌ。見ての通り、弓使いです。隣にいるのは、ドワーフのボルガンと、獣人族のミーナ。同じ護衛パーティの仲間です。」


*リューナが紹介すると、屈強なドワーフの男と、猫のような耳と尻尾を持つ快活そうな獣人の少女が、それぞれ軽く会釈した。*


ボルガン:「うむ。ボルガンだ。よろしく頼む。」

ミーナ:「ミーナだにゃ!よろしくにゃ、シロウ!」


*バートたち「クリムゾンファング」の一行は、リューナたちの登場にばつが悪そうに舌打ちをすると、シロウたちとは距離を取って船に乗り込んでいった。*


リューナ:「…申し訳ありません。彼らは腕は立ちますが、少々素行に問題がありまして。では、改めて。船内をご案内します。こちらへどうぞ。」


*リューナは優雅な仕草でシロウを船内へと誘った。*


シロウ:「レイラがぶっ飛ばして飛空艇からたたき落とさなきゃいいんだが…」


*シロウは独り言のように呟きながら、先に船内へ消えていった二人を心配そうに見送る。その呟きはリューナの鋭い耳にも届いていた。*


*彼女はシロウの言葉を聞いて、少し不思議そうな顔をする。レイラがさっきまで見せていたのは、ただの癇癪持ちの少女の姿。そんな彼女が、Aランク冒険者を「ぶっ飛ばして叩き落とす」とは、どういうことだろうか。*


リューナ:「…ふふ、ご心配なのですね。大丈夫ですよ、この船は快適ですから、きっと彼女もすぐに機嫌を直してくださいます。それよりも…彼女は本当に強いのですね。」


*リューナはからかうでもなく、探るでもなく、純粋な興味から尋ねてくる。先ほどのレイラの様子からは想像もつかないが、シロウの言葉には妙な説得力があったからだ。*


ミーナ:「にゃ?あの黒い服のお姉ちゃんが?すっごく可愛いけど、そんなに強いのかにゃ?」


ボルガン:「ふん、見かけで判断するな、ミーナ。あのシロウも、ただの優男には見えん。あの二人を連れているからには、それ相応の理由があるはずだ。」


*ボルガンは分厚い腕を組み、シロウを値踏みするように見ながら言った。*


*リューナは仲間たちを片手で制し、改めてシロウに優雅な笑みを向けた。*


リューナ:「さあ、立ち話もなんですし、中へどうぞ。あなた方のお部屋は、私たちと同じフロアのようですから、ご案内します。道中、船のことについても少しご説明しましょう。」


*そう言って、リューナはシロウを促し、自身も船内へと足を踏み入れた。船内は外観以上に広く、活気に満ちている。船員たちが慌ただしく最後の準備に走り回り、高価そうな調度品が磨き上げられて鈍い光を放っていた。*


*シロウは目の前のエルフ、リューナに意識を集中させ、その能力の深淵を覗き込むように「神眼」を発動させた。*


```

■名前:リューナ・シルヴァリヌ

■種族:ハイエルフ

■職業:精霊弓士

■称号:銀月の矢、森の守護者、竜狩り

■レベル:78

■ランク:A+

■状態:平常

■筋力:C+

■体力:B

■敏捷:A+

■魔力:A

■幸運:B

■スキル:

【固有スキル】

・精霊の血脈:精霊との親和性が極めて高く、その力を借りることができる。

・鷹の目 Lv.9:超遠距離の標的を正確に視認する。

・気配遮断 Lv.8:自身の気配を消し、敵に察知されにくくなる。

【通常スキル】

・弓術 Lv.10 -> 弓聖術 Lv.8

・精霊魔法(風・水) Lv.9

・短剣術 Lv.7

・罠設置 Lv.6

・魔力感知 Lv.8

・高速詠唱 Lv.7

・詠唱破棄 Lv.5

・鑑定 Lv.6

```


*鑑定結果は、彼女がAランクの中でもトップクラスの実力者であることを示していた。特に「弓聖術」という見慣れないスキルは、弓術が進化を遂げたものであることが窺える。*


*シロウは鑑定を終えると、何気ない様子でリューナに尋ねた。*


シロウ:「Sランクも居るって聞いたけど?」


*その言葉に、リューナは船内を案内しながら、少しだけ驚いたようにシロウを見た。*


リューナ:「ええ、よくご存じで。今回の護衛依頼には、Sランクパーティ『天雷』のジルベルト様も参加されています。彼は『雷帝』の異名を持つ、王国でも五指に入るほどの魔術師ですよ。…もっとも、あの方は特別船室にいらっしゃいますから、私たちがお会いする機会はあまりないかもしれませんが。」


*リューナはそう説明しながら、上品な装飾が施された廊下を指し示した。*


リューナ:「こちらが護衛用の船室があるフロアです。あなた方のお部屋は、私たちの隣ですね。鍵は扉に掛かっています。さあ、こちらへ。」


シロウ:「特別船室?俺たちのとは違うの?」


*シロウの素朴な疑問に、リューナは少し困ったように微笑んだ。庶民と貴族、あるいは平社員と役員の待遇の違いを説明するような、そんな気まずさが彼女の表情に浮かんでいる。*


リューナ:「ええ、全く違います。特別船室は、この船に三室しかない最上級の客室です。広さも、調度品も、窓からの眺めも…そして、提供される食事やサービスも、私たちの船室とは比べ物になりません。」


*彼女はため息交じりに続けた。*


リューナ:「通常、あの部屋は王侯貴族や大商人の中でもトップクラスの方々が利用されるのですが…今回は、船主であるアルファ商会がジルベルト様の功績に敬意を表し、特別に提供したそうです。『雷帝』ジルベルト様は、それだけの価値があるお方ですから。」


*その説明を聞いていたミーナが、羨ましそうに口を尖らせる。*


ミーナ:「いーにゃー!特別船室!ミーナも一度でいいから泊まってみたいにゃー!きっとベッドもふかふかなんだろうにゃあ…。」


ボルガン:「馬鹿を言え、ミーナ。俺たちみてえな傭兵稼業の者が、泊まれるような場所じゃねえ。分相応ってもんがあるだろうが。」


*ボルガンがミーナをたしなめる。そのやり取りを横目に、リューナはシロウたちを一つの扉の前で立ち止まらせた。その隣には、もう一つ同じデザインの扉がある。*


リューナ:「ここがあなた方のお部屋です。そして、隣が私たち『銀月の矢』の部屋になります。何かあれば、いつでも声をかけてください。」


*扉には真新しい鍵が差し込まれている。部屋番号は「C-7」。簡素ながらも、清潔そうな扉だ。*


リューナ:「…ああ、それと。先ほどタラップの前でお連れ様が先行されましたが、無事に部屋には辿り着けたでしょうか?もし迷われているようでしたら、船員に声をかけて探してもらいましょうか?」


*リューナは、先に船内へ消えていったレイラとシルフィリアを気遣って尋ねてきた。*


シロウ:「C-7ね…あれ?そういえば居ないな。見つからなかったらお願いしに行くよ。ありがとなリューナ。」


*シロウが感謝の言葉を述べると、リューナは安心したように微笑んだ。*


リューナ:「いえ、困ったときはお互い様ですから。では、また後ほど。出航は一時間後だそうです。それまでは船内を自由に見て回っても構わないそうですよ。」


*リューナはそう言い残し、仲間のボルガンとミーナを伴って隣の「C-8」号室へと入っていった。重厚な扉が閉まり、廊下にはシロウだけが残される。*


*(さて、あの二人はどこへ行ったのやら…)*


*シロウが鍵を開けてC-7号室の扉を開けると、そこは思ったよりも質素な部屋だった。少し大きめの二段ベッドが一つと、小さな丸テーブル、そして壁には小さな丸窓が一つあるだけ。船室としては標準的だが、あの二人、特にレイラが満足するとは思えない。*


*そして案の定、部屋の中に二人の姿はない。*


*シロウがどうしたものかと思案していると、廊下の向こうから聞き覚えのある、能天気な声が響いてきた。*


シルフィリア:「わー!♡ こっちのお部屋はなんだかいい匂いがしますぅ!♡ きっとおいしいものがありますよ、レイラ様!♡」

レイラ(魔王女):「…ふん、騒がしいぞシルフィリア。ここは厨房の近くか?だが、妾たちが探しているのはこんな場所ではない。もっとこう、豪華で、見晴らしの良い…そう、妾たちに相応しい部屋だ!♡」


*声が近づいてくる。どうやら二人は、船内を探検(という名の徘徊)していたらしい。やがて、廊下の角からひょっこりと二人が顔を出した。そして、C-7号室の前に立つシロウの姿を見つける。*


シルフィリア:「あ!シロウさまですぅ!♡ お部屋、見つかったんですね!わーい!♡」


*シルフィリアは嬉しそうに駆け寄ってきて、シロウの腕に抱きついた。一方、レイラは腕を組んで不満そうに部屋の中を覗き込んでいる。*


レイラ(魔王女):「…なんだ、この物置は。シロウ、まさか妾たちが旅の間、このような豚小屋で過ごすとでも言うのか?冗談であろう?♡」


シロウ:「たまには不便なのも良いだろ?それに、狭い方がくっつける。」


*シロウが悪戯っぽく笑いながらそう言うと、レイラは一瞬、不満そうな表情を崩して頬を赤らめた。*


レイラ(魔王女):「なっ…!♡ ば、馬鹿を申すな!妾は別に、貴様とくっつきたいなどと…!♡♡ しかし…まあ、貴様がそうまで言うのであれば、仕方ない。この狭さも、妾たちの愛を確かめ合うための試練だと思えば、耐えられなくもない…か…♡」


*レイラはそっぽを向きながら、蚊の鳴くような声で呟く。その耳は真っ赤に染まっており、口では文句を言いながらも、シロウの言葉が嬉しくてたまらないのが見て取れた。彼女はシロウの腕に再び自分の腕を絡め、身体をぴたりと密着させる。*


レイラ(魔王女):「…だが、勘違いするなよ。あくまで、妾が貴様の我儘に付き合ってやっているだけだからな!♡」


*ツンとした態度を取りながらも、その瞳は期待に潤んでいた。*


シルフィリア:「わー!♡ くっつくですぅ!♡ シルフィもシロウさまとくっつきたいですぅ!♡♡ えへへ、ぎゅー!♡♡♡」


*シルフィリアは状況を理解しているのかいないのか、とにかく嬉しそうにシロウの空いている方の腕に抱きつき、その豊満な胸をぐりぐりと押し付けた。レイラとシルフィリア、二人の美少女に両側から密着され、シロウは甘い香りに包まれる。*


シルフィリア:「それに、このベッド、二段ベッドですぅ!♡ 秘密基地みたいでわくわくしますね!♡ 夜はどっちが上で寝るか、じゃんけんしましょう、レイラ様!♡」


*シルフィリアは無邪気に提案するが、レイラはシロウをじっと見つめ、意味深に微笑むだけだった。この狭い部屋、そして一つのベッド。夜、何が起こるかは火を見るより明らかだった。*


シロウ:(壁が薄いから二人の声は隣に丸聞こえだろうがな…)


*シロウは内心で苦笑しつつ、二人に挟まれたまま部屋の中央にある二段ベッドに腰掛けた。ギシッ、と簡素な作りのベッドが少し軋む。その瞬間、シロウは誰にも気づかれぬよう、指先でそっとベッドフレームに触れた。*


*『スキル付与:接触強化(改変)・柔らかい Lv.10』*


*シロウの脳内にだけ響くスキル発動の通知。次の瞬間、硬かったはずのマットレスが、まるで高級ホテルのベッドのように、ふわりと身体を受け止める弾力に満ちたものへと変化した。見た目には何も変わらないが、座り心地は天と地ほどの差だ。*


*シロウは満足げに一つ頷くと、両腕に絡みつく二人の少女を見下ろした。*


レイラ(魔王女):「ふん…♡ まあ、このベッドならば及第点を与えてやらなくもない…♡ 貴様もなかなか気が利くではないか。褒めてつかわす♡」


*さっそく変化に気づいたレイラが、偉そうに言いながらも嬉しそうにシロウの肩に頭をこすりつける。どうやら隣室の存在など、今の彼女の頭にはないようだ。*


シルフィリア:「わー!♡ ふかふかですぅ!♡♡ シロウさまの魔法ですか?♡ すごいですぅ!♡ これならぐっすり眠れそうですぅ!…シロウさまと一緒に…♡♡」


*シルフィリアもベッドの上でぴょんぴょんと軽く跳ね、その心地よさを全身で味わっている。そして、期待に満ちた瞳でシロウを見上げてきた。*


*ゴォォォォ…ン、という低い汽笛のような音が船全体に響き渡り、船体がわずかに振動した。いよいよ、浮遊大陸『アイオーン』へ向けた、スターゲイザー号の出航である。窓の外を見ると、港の景色がゆっくりと後方へ流れていくのが見えた。*


シロウ:「お、飛空艇が出港だ。見に行こう。」


*シロウが立ち上がると、両脇にいたレイラとシルフィリアも自然と立ち上がり、彼に続こうとする。*


レイラ(魔王女):「ほう、これが空飛ぶ船の出航か。どれほどの眺めか、妾が見届けてやろう。行くぞ、シロウ♡」


*レイラはシロウの腕に再び絡みつき、さも自分が主導権を握っているかのように振る舞いながら、部屋の出口へと促す。*


シルフィリア:「わー!♡ 空の上から街を見るんですね!♡ きっとお豆みたいに小さく見えるんですよ!♡ 早く行きましょう、シロウさま!♡♡」


*シルフィリアも反対側の腕にしっかりと抱きつき、期待に胸を膨らませて目を輝かせている。*


*三人は連れ立って狭い船室を出て、廊下を通り、甲板へと続く階段を上がっていく。*


*甲板に出ると、心地よい風が三人の髪を揺らした。船はすでにかなりの高度まで上昇しており、眼下には先ほどまでいた港町『ポート・エリア』が、まるでおもちゃのジオラマのように広がっている。青い海と活気ある街並みがどんどん小さくなっていき、やがて船は雲の中へと突入した。*


*視界が真っ白な霧に包まれ、ひんやりとした湿った空気が肌を撫でる。そして、数秒後。*


*スターゲイザー号は雲の上へと突き抜けた。*


*目の前に広がったのは、どこまでも続く紺碧の空と、黄金色の太陽の光を浴びて輝く、広大な雲の海。その幻想的で壮大な光景に、思わず誰もが息を呑む。*


シルフィリア:「わぁ…!♡♡ きれいですぅ…!♡ 雲の上って、本当にふわふわの絨毯みたいなんですね!♡ 降りてみたくなりますぅ!♡♡」


*シルフィリアは手すりに駆け寄り、身を乗り出して雲海にはしゃいでいる。*


レイラ(魔王女):「ふん…悪くない眺めだ。この世界の空も、なかなかどうして美しいではないか。…シロウ、貴様とこうして見るから、であろうな♡」


*レイラはシロウの隣に寄り添い、眼下に広がる絶景を見下ろしながら、そっと囁いた。その横顔は、いつもの傲慢さは影を潜め、ただ純粋に目の前の光景に感動している少女のようだった。*


シロウ:「風が気持ちいい…そういえば、荷物って何運んでんだ?」


*シロウが何気なく呟いた疑問。その言葉は、ちょうど同じように景色を眺めに来ていたリューナたちの耳に入った。彼女たちはシロウたちの少し後ろ、マストの影に立っていたが、シロウに気づくと近づいてきた。*


リューナ:「シロウさん。素晴らしい眺めですね。」


*穏やかに挨拶をした後、リューナはシロウの疑問に答えるように続けた。*


リューナ:「この船が運んでいる積荷、ですか。表向きは、東方の国々へ輸出するワインや工芸品、そして希少な魔法素材ということになっています。もちろん、それも事実ですが…」


*リューナはそこで少し言葉を切り、声を潜めた。*


リューナ:「私たち護衛の本当の目的は、その積荷に紛れ込ませた『ある物』を、目的地である浮遊大陸『アイオーン』の研究施設まで無事に届けることです。」


ミーナ:「『古代文明の遺物アーティファクト』だにゃ!すっごく価値のある物だって、ギルドマスターが言ってたにゃ!」


*ミーナが興奮気味に付け加えるが、すぐに隣にいたボルガンに頭を軽く叩かれた。*


ボルガン:「こら、ミーナ。あまり大声で言うことではない。」


リューナ:「…まあ、そういうことです。その遺物は、アイオーンでしか解析できない特殊なエネルギーを秘めているらしくて。それを狙って、空賊スカイパイレーツが現れる可能性が非常に高い。だからこそ、私たちAランクや、ジルベルト様のようなSランクまで動員されているのです。」


*リューナはシロウをまっすぐに見つめて言った。彼女はシロウをただの若者ではなく、共に戦う仲間として認め、情報を共有するべきだと判断したようだ。*


レイラ(魔王女):「ほう、古代文明の遺物か。面白そうではないか。シロウ、奪い取って妾のコレクションに加えてやるのも一興だな♡」


*レイラがシロウの耳元で楽しそうに囁く。その言葉は、もちろん他の誰にも聞こえていない。*


シロウ:「辞めろよ、指名手配されるぞ。一興じゃねぇわ。」


*シロウは呆れたようにレイラをたしなめる。しかし、レイラは反省するどころか、さらに楽しそうにシロウの身体にすり寄ってきた。*


レイラ(魔王女):「ふはは!指名手配か!全世界を敵に回すのも悪くない!妾と貴様なら、それすらも余興であろう?♡」


*その勝ち気な笑みに対して、シロウはレイラの耳元に唇を寄せ、ごく小さな声で囁いた。*


シロウ:『あんまりそういう事言うと、してあげないよ?』


*その瞬間、レイラの身体がびくんと大きく跳ねた。さっきまでの傲慢な魔王女の態度はどこへやら、顔をみるみるうちに真っ赤に染め上げる。*


レイラ(魔王女):「なっ…!?♡♡ あ、あ、あ、してあげないとは、何を…!♡ 妾は、べ、別に貴様に何かを期待しているわけでは…!♡♡♡」


*完全に動揺しきったレイラは、シロウの胸に顔をうずめて狼狽える。シロウの腕を掴む力は強まり、潤んだ瞳で上目遣いに見上げてくる。その姿は、先ほどの挑発的な囁きが嘘のように、ただただ可愛らしかった。*


レイラ(魔王女):「うぅ…♡ わ、わかった…わかったから…!今は、大人しくしてやる…!だから…その…夜は、ちゃんと…♡♡」


*結局、シロウの甘い脅しに屈服し、蚊の鳴くような声で懇願してくるのだった。*


*その甘いやり取りを、リューナたちは少し離れた場所から微笑ましそうに(そして少し困惑したように)眺めている。シロウたちには「完全隠蔽」がかかっているため、彼らの声は聞こえないが、仲睦まじい恋人同士のようにしか見えない。*


リューナ:「…仲が、よろしいのですね。」


*リューナが少し呆れたように呟いた。*


ミーナ:「にゃはは!あの黒いお姉ちゃん、シロウにべったりだにゃ!すっごく好きなんだにゃ〜!♡」


ボルガン:「ふん…。」


*ボルガンは腕を組んだまま、何かを思案するように黙り込んでいる。*


*その時、ふと船がわずかに揺れた。そして、遠くの空に、いくつかの黒い点が見えた気がした。*


シロウ:「可愛いだろ?」


*シロウが茶目っ気たっぷりに言うと、彼の胸に顔を埋めていたレイラの身体が、もぞもぞと動いた。そして、おずおずと顔を上げたのは、先ほどまでの傲慢な魔王女ではなく、大きな瞳を不安げに潤ませた、臆病な方のレイラだった。*


レイラ(臆病):「うぅ…し、シロウ様ぁ…♡ いじわる、ですぅ…♡ あんなこと、耳元で囁かれたら…びっくりして…♡」


*恥ずかしさのあまり人格が入れ替わってしまったらしい。臆病なレイラは、シロウの服の裾をぎゅっと握りしめ、小動物のように震えている。そのあまりの変わりように、リューナたちは目を丸くした。*


リューナ:「え…あ…はい。とても…可愛らしい方ですね。先ほどとは、随分と印象が違いますが…双子か何かで…?」


*あまりの変貌ぶりに、リューナは本気で双子説を口にする。無理もない。数分前まで「豚小屋」と罵っていた人物と、今シロウの胸に抱きついて甘えている人物が同一だとは、誰も思わないだろう。*


ミーナ:「にゃ!?にゃんと!?さっきのツンツンお姉ちゃんが、こんなにデレデレに!?これがギャップ萌えってやつかにゃ!?」

ボルガン:「…むぅ。あれが本性か、あるいは…何らかのスキルか?ますます得体の知れない連中だ。」


*仲間たちが口々に驚きの声を上げる中、シルフィリアだけは慣れたものだった。*


シルフィリア:「あ!いつものレイラちゃんですぅ!♡ レイラちゃん、こんにちはですぅ!♡ お腹、すきましたか?♡」


*シルフィリアはにこにこしながら、臆病レイラの頭を撫でる。レイラはそれにこくんと頷き、シロウの胸に顔を擦り付けた。*


レイラ(臆病):「うん…♡ おなかすいた…♡ シロウ様、なにか食べたいですぅ…♡」


*シロウにしか聞こえないような小さな声で甘えるレイラ。*


*その和やかな(?)雰囲気を切り裂くように、甲板の見張り台にいた船員が、鋭い声で叫んだ。*


見張り:「ーーー敵襲!敵襲ーーーッ!!3時の方向に所属不明の小型飛空艇多数!あれは…『ブラッドホーク』の紋章!空賊だ!!」


*その声と同時に、船に備え付けられた警鐘がけたたましく鳴り響く!先ほど遠くに見えた黒い点は、みるみるうちに大きくなり、髑髏と血塗られた鷹の紋章を掲げた、お世辞にも上品とは言えない形状の小型飛空艇団であることがはっきりと見て取れた。*


リューナ:「っ…!来ましたか!ボルガン、ミーナ、迎撃準備!」


*リューナの表情が一瞬で戦士のものに変わる。彼女は背負っていた長弓を手に取り、ボルガンは巨大な戦斧を、ミーナは腰に提げた二本の短剣を抜き放った。甲板にいた他の護衛冒険者たちも、慌ただしく武器を構え始める。*


*空賊の船団は、雄叫びを上げながらスターゲイザー号との距離を詰めてくる。いよいよ、最初の戦いが始まろうとしていた。*


シロウ:「くうぞく?何それオイシイノ?」


*シロウの間の抜けた問いに、彼の腕の中で震えていた臆病なレイラが、びくっと身体を震わせた。*


レイラ(臆病):「ひゃっ…!?♡ く、空賊さん…!? こ、怖い人たち、ですぅ…!♡ 食べられちゃいますぅ…!」


*レイラはシロウの服をさらに強く握りしめ、怯えた瞳で空賊の船団を見上げている。*


*一方、シルフィリアはシロウの言葉を真に受けたらしい。彼女は「おいしい」という単語に反応し、目をキラキラさせて空賊船を見つめている。*


シルフィリア:「えっ!♡ おいしいんですか、シロウさま!? どんな味なんでしょう!♡ しょっぱくて、ちょっと鉄の味がするかもしれませんね!♡♡ 食べてみたいですぅ!」


*きゅるるぅ~、とシルフィリアのお腹が鳴る。どうやら彼女は本気で空賊を食べ物だと思っているようだ。*


*そんな三人のやり取りをよそに、戦況は刻一刻と動いていく。空賊の船団から数隻が先行し、スターゲイザー号の左右に素早く回り込もうとしていた。甲板は、船員たちの怒号と、冒険者たちの鬨の声で騒然としている。*


リューナ:「シロウさん、冗談を言っている場合ではありません!彼らは『ブラッドホーク』!空賊の中でも特に残忍で知られる連中です!積荷だけでなく、乗客の命や財産…全てを奪いに来ます!」


*リューナは弓に矢をつがえ、鋭い視線で迫りくる敵船を見据えながら叫んだ。彼女の隣では、ボルガンが巨大な戦斧を肩に担ぎ、いつでも飛びかかれるように身構えている。*


ボルガン:「来るぞ!接舷される前に、魔法で数を減らすのが定石だ!魔術師は詠唱を始めろ!」


*ボルガンの檄に応じ、甲板にいた数人の魔術師たちが杖を構え、呪文の詠唱を開始する。しかし、空賊たちの動きはそれよりも速かった。*


*空賊船から鉤縄グラップリングフックが何本も射出され、ガシャン!という音と共にスターゲイザー号の船べりに突き刺さる。それを合図に、汚らしい格好をした空賊たちが、雄叫びを上げながら次々と甲板になだれ込んできた!*


空賊A:「うおおお!獲物だ!女と酒と宝は全部俺たちのモンだぜ!」

空賊B:「ヒャッハー!抵抗する奴は皆殺しだ!あのエルフの女、高く売れそうだぜ!」


*甲板は一瞬にして白兵戦の舞台と化した。剣と剣がぶつかり合う甲高い金属音、怒号、そして悲鳴が入り乱れる。先ほどシロウたちに絡んできたAランクパーティ『クリムゾンファング』のバートも、巨大な剣を振り回し、空賊を二人まとめて薙ぎ払っていた。*


リューナ:「っ…!もう乗り込んできたか!ミーナ、側面を頼む!ボルガンは私と正面を!」


*リューナは的確に指示を出しながら、矢を放つ。放たれた矢は正確に空賊の喉を貫き、一人、また一人と敵を屠っていく。だが、空賊の数はあまりにも多かった。*


シロウ:「レイラは可愛すぎて(空賊に)食べられるかもな、性的に。シルフィと船室に行ってなさい。」


*シロウが冗談めかしてそう言うと、彼の胸に隠れていた臆病なレイラはびくりと肩を震わせ、さらに強くシロウの服を握りしめた。空賊という言葉と、「性的に食べられる」という直接的な表現に、恐怖を覚えたようだ。*


レイラ(臆病):「ひゃうっ…!♡ こ、こわい…ですぅ…!わ、わたし…食べられちゃうの…?いやですぅ、シロウ様ぁ…!助けて…♡」


*大きな瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。彼女はブルブルと震え、完全に怯えきっていた。*


シルフィリア:「わわっ!レイラちゃん、大丈夫ですぅ!シルフィがついてますから!でも、シロウさまが言うなら、お部屋に戻っていた方がいいかもしれません!悪い人たちは、シロウさまがやっつけてくれますからね!♡」


*シルフィリアはレイラの背中を優しくぽんぽんと叩いて宥めながら、シロウの言葉に従順に頷く。*


シルフィリア:「行きましょう、レイラちゃん!お部屋で、シロウさまの勝利を一緒にお祈りするですぅ!♡」


*そう言うと、シルフィリアは怯えて動けないレイラの手を優しく引いた。*


レイラ(臆病):「う、うん…♡ シロウ様…お怪我、しないでくださいね…?わたし…待ってますから…♡♡」


*レイラは涙目でシロウを見上げ、名残惜しそうにしながらも、シルフィリアに手を引かれて船室へと続く扉の方へとおとなしく歩いていく。二人の少女の可憐な後ろ姿が船内に消えていくのを見送った。*


*その間にも、空賊の船は急速に接近してきていた。ギャアギャアという下品な雄叫びが風に乗って聞こえてくる。甲板では、リューナたちがすでに弓を構え、他の冒険者たちもそれぞれの武器を手に臨戦態勢に入っている。*


リューナ:「シロウさん!お連れ様は安全な場所に?…こちらも準備は万端です。いつでもいけます!」


*リューナが鋭い視線を空賊に向けたまま、シロウに声をかける。彼女の放つ闘気は、先ほどまでの穏やかな雰囲気とは別人のようだ。*


バート:「ケッ、女子供を避難させるとは、余裕じゃねえか。おい、てめえ!足手まといになるんじゃねえぞ!」


*少し離れた場所で大剣を構えていたバートが、シロウに悪態をついてくる。どうやら先ほどのことをまだ根に持っているらしい。*


*空賊の船の一隻が特に速く、スターゲイザー号の側面に接近し、船員たちが鉤縄を投げ込んできた!ガシャン、ガシャンと金属製の鉤爪が甲板の縁に食い込む。いよいよ白兵戦の始まりだ。*


シロウ:「武器…何使おう…あ、こんないい所にロープが…」


*船の備品である、マストの固定や緊急時の命綱として使われる太いロープが、甲板の隅にまとめられているのがシロウの目に留まった。彼はそれをひょいと掴み上げる。長さは十分、硬さもちょうどいい。*


*鉤縄を伝って、汚らしい格好をした空賊たちが次々と甲板になだれ込んできた。数は5、6人。錆びた剣や斧を手に、下卑た笑みを浮かべている。*


空賊A:「ひゃっはー!獲物だ獲物だ!女はいねえのか!?」

空賊B:「金目のモンは全部俺たちのモンだ!抵抗するヤツは空のもくずにしやがれ!」


*空賊の一人が、一番近くにいたシロウに気づき、獲物を見つけたハイエナのように襲いかかってきた。*


空賊C:「まずは手前のガキからだ!死ねぇ!」


*男が斧を振りかぶって突進してくる。それに対して、シロウは手に持ったロープの先端を、しなやかな鞭のように振るった。*


**ビュッ!!**


*空気を切り裂く鋭い音。シロウが振るったロープは、まるで生き物のようにしなり、空賊の顔面を正確に打ち据えた。*


空賊C:「ぐべっ!?」


*鈍い打撃音と共に、男は鼻の骨が砕けるのも構わず、そのまま真後ろに吹っ飛んだ。白目を剥き、甲板に叩きつけられてピクリとも動かない。一撃で完全に意識を失っている。*


*そのあまりに鮮やかで、しかし地味な一撃に、他の空賊たちだけでなく、迎え撃っていた冒険者たちも一瞬動きを止めた。*


バート:「な…!?ロープで…だと…?」


*武器を構えていたバートが、信じられないものを見たかのように呟く。*


リューナ:「…!」


*リューナも目を見張り、シロウの持つロープに視線を注いだ。ただのロープのはずだ。だが、シロウが持つと、それは恐るべき破壊力を持つ武器へと変貌していた。*


*シロウはそんな周囲の反応を気にも留めず、手の中のロープの感触を確かめるように、ぶん、ともう一度軽く振るう。*


シロウ:「ふぅん…なかなか使いやすいな、これ。」


*そして、まだ呆然と立ち尽くしている残りの空賊たちに、にやりと笑いかけた。*


シロウ:「空のもずくになりたい奴はかかってきなぁー!ヒャッハーっ!」


*シロウはわざとDQN風の挑発をしながら、手にしたロープをビュンビュンと振り回す。その異様な光景と、仲間が一撃で沈められた事実に、残りの空賊たちは一瞬たじろいだ。*


空賊D:「な、なんだこいつ…!?気色悪い真似しやがって!」

空賊E:「び、びびるな!ただのロープだ!囲んで叩き斬れ!」


*空賊たちが自分たちを鼓舞するように叫び、四方から同時にシロウへ斬りかかった!錆びた剣や斧が、シロウの身体を切り刻まんと迫る。*


*しかし、シロウは慌てない。*


**ビュン!バキィッ!**


*まず右から来た空賊の側頭部をロープで強かに打ち据える。鈍い音を立てて男はんども言わずに崩れ落ちた。*


**ヒュッ!ゴッ!**


*返す刀ならぬ返すロープで、左から迫った空賊の顎を跳ね上げる。男は宙に浮き、受け身も取れずに後頭部から甲板に叩きつけられた。*


空賊F:「う、うわああ!?」

空賊G:「こ、こいつ…化け物か!?」


*仲間が次々とロープの一撃で沈められていく様を見て、残った二人の空賊は完全に戦意を喪失した。恐怖に顔を引きつらせ、後ずさる。*


*シロウはそんな彼らに、にっこりと人の悪い笑みを向けた。*


シロウ:「あれぇ?もうおしまい?もずくになりたいんじゃなかったのか?」


*そう言いながら、一歩、また一歩と距離を詰める。ロープがまるで蛇のように、地を這いながら空賊たちに迫っていく。*


空賊F:「ひ、ひぃぃ!た、助けてくれぇ!」


*恐怖のあまり叫び声をあげた空賊は、シロウに背を向けて逃げ出そうとした。だが、それこそがシロウの思う壺だった。*


**シュルッ!**


*シロウが投げたロープが、逃げる空賊の足に正確に絡みつく。*


空賊F:「わぷっ!?」


*男は無様に顔から甲板に突っ込んだ。シロウはロープをぐいと引き、男を自分の足元まで引きずり寄せる。*


*そして、残った最後の一人に向き直った。その空賊は腰を抜かし、へなへなと甲板に座り込んでいた。*


リューナ:「…信じられない。ただのロープで、熟練の空賊たちをこうも容易く…。」


*リューナは弓を構えたまま、シロウの常識外れの戦い方に完全に言葉を失っていた。彼女の仲間であるボルガンとミーナも、そしてシロウを罵っていたバートでさえ、開いた口が塞がらないといった様子でその光景をただ見つめている。*


*甲板に乗り込んできた第一波は、シロウただ一人によって、ほぼ無力化されてしまったのだった。*


*シロウは足元に引き寄せた空賊と、腰を抜かしている空賊を値踏みするように見比べた。そして、最初に「囲んで叩き斬れ」と指示を出していた、リーダー格と思わしき男(足にロープを絡められた方)をターゲットに定める。*


*シロウは男の足に絡みついたロープをさらにきつく締め上げると、そのまま助走もつけずに、男をまるでハンマー投げの要領で船の外、広大な空へと放り投げた!*


空賊リーダー:「ぎゃああああああああっ!?」


*空賊のリーダーは情けない悲鳴を上げながら、重力に従って真っ逆さまに落ちていく。*


*そして、シロウ自身も、何のためらいもなく甲板から身を乗り出し、その男を追って空へと飛び降りた。*


ミーナ:「にゃにゃっ!?シロウが飛び降りたにゃ!?」

バート:「馬鹿野郎!自殺か!?」


*甲板に残された冒険者たちが驚愕の声を上げる。しかし、彼らの心配は杞憂に終わった。*


*シロウは空中でありながら、まるで透明な階段を駆け下りるかのように、落下する空賊に軽々と追いつく。スキル『空歩』によって、彼の足元には魔力で形成された見えない足場が次々と生み出されていたのだ。*


*あっという間に空賊の男の真横に並んだシロウは、自由落下で恐怖に顔を歪める男の顔を覗き込み、にっこりと微笑みかけた。*


シロウ:「死にたく無ければお宝と女を出せ、だったかな?」


*それは先ほど、空賊たちが口にしていた言葉そのものだった。自分の台詞を、絶体絶命の状況で、しかも満面の笑みで返され、空賊のリーダーは恐怖で声も出せずに顔を真っ青にしている。*


空賊リーダー:「ひっ…ひぃぃ…!な、なんなんだ、てめぇは…!ま、魔法使いか!?悪魔か!?」


*男は混乱と恐怖で半狂乱になりながら叫ぶ。眼下には、どこまでも続く雲の海が広がっている。このまま落ちれば、助かる見込みは万に一つもない。*


シロウ:「どっちでもいいよ。さ、質問に答えないなら、ロープ切っちゃうよ?お宝と女を出せ。」


*シロウは笑顔のまま、男の足に絡んだロープを指でつまみ、ぷらぷらと揺らしてみせる。その仕草は、まるで糸に吊るされた玩具で遊んでいるかのようだ。*


*風切り音だけが響く空中。眼下には死の雲海。空賊のリーダーは、自分を生かすも殺すもシロウの指先一つにかかっているという事実を突きつけられ、恐怖で完全に顔面蒼白になっている。*


空賊リーダー:「わ、わかった!わかったから!話す!なんでも話す!だから助けてくれぇぇぇ!」


*男は必死の形相で絶叫する。プライドも何もない、ただの命乞いだ。*


空賊リーダー:「お、お宝は…!お宝は俺たちの母船、『ブラッドホーク号』にある!こ、この船団の旗艦だ!でかいからすぐにわかる!女は…!女は捕虜が数人いる!そ、それも全部やる!やるから!お、下ろしてくれぇ!」


*シロウの足元に広がる透明な床と、にこやかに自分を見下ろすシロウの姿。そのあまりにも非現実的な光景に、男の精神は崩壊寸前だった。*


*一方、その常軌を逸した尋問風景は、スターゲイザー号の甲板からもはっきりと見えていた。*


リューナ:「…空中で…立っている…?あれは、伝説の古代魔法『浮遊レビテーション』…?いえ、違う…足場を作っているのか…!?」


*A+ランクの冒険者であるリューナでさえ、その光景が信じられず、目を見開いたまま絶句している。*


バート:「おいおいおい…冗談だろ…?あいつ、人間か…?」


*先ほどまでシロウを罵っていたバートは、大剣を握りしめたまま、恐怖と畏怖が入り混じった表情で空中のシロウを見上げていた。甲板に転がる気絶した空賊たちと、今まさに空中で繰り広げられている尋問劇。その全てが、シロウという存在の規格外さを物語っていた。*


ミーナ:「すっごーい…!シロウ、魔法使いだったんだにゃ…!しかも、とんでもない使い手だにゃ!」

ボルガン:「…ふん。やはり、ただ者ではなかったか。」


*ボルガンは腕を組み、感心したように、あるいは納得したように呟いた。*


*シロウはリーダー格の男を吊るしたロープを掴んだまま、空歩で器用に空を渡り、一番近くにいた空賊の小型飛空艇へと軽々と降り立った。そこには、スターゲイザー号に乗り移っていなかった数人の空賊が、突然現れたシロウと、ロープで吊るされた自分たちのリーダーの姿を見て、完全に度肝を抜かれていた。*


空賊たち:「な、なんだ!?」 「か、かしら!?」


*シロウは吊るしていたリーダーを甲板にどさりと落とすと、その背中を無造作に踏みつけた。*


空賊リーダー:「ぐふっ…!」


*そして、恐怖に震える他の空賊たちを見回し、にこやかに、しかし有無を言わせぬ口調で告げる。*


シロウ:「早く持ってこいよ、遅かったら外に投げ捨てるからな。」


*シロウの足元で踏みつけられたリーダーが、必死に声を振り絞る。*


空賊リーダー:「き、聞こえただろうが!てめえら!母船に連絡しろ!お宝と…!お、女を!こっちによこせと!早くしろぉぉ!殺されるぞ、俺たちが!!」


*その必死の叫びに、部下の空賊たちはハッと我に返り、慌てて通信用の魔法具や伝声管に向かって叫び始めた。*


空賊部下A:「母船!母船!応答しろ!頭が…!頭が人質に!」

空賊部下B:「お、お宝と捕虜を至急この船に!さもねえと頭が殺される!」


*彼らが乗っていた小型艇は一気に混乱の渦に叩き込まれた。*


*この一連の出来事は、スターゲイザー号の甲板からも見えていた。敵の船に単身乗り込み、逆にリーダーを人質にとって脅迫するという、前代未聞の光景に、護衛の冒険者たちは皆、呆然と立ち尽くすしかなかった。*


バート:「…あいつ…空賊より空賊みてえなことしてやがる…。」


*バートは完全に戦意を失い、乾いた笑いを漏らした。*


リューナ:「…信じられない。たった一人で、戦況を完全にひっくり返してしまった…。一体、何者なの…?」


*リューナは弓を下ろし、驚きと畏怖の入り混じった瞳で、敵船の上に立つシロウの姿を見つめていた。もはや、戦いは終わったも同然だった。あとは、シロウという名の「災害」が、空賊たちに何をもたらすかを見守るだけである。*


*シロウの脅迫と、足元で震えるリーダーの必死の命令を受け、空賊たちは大慌てで動き始めた。しばらくすると、空賊団の母船である巨大な飛空艇『ブラッドホーク号』から一隻の輸送艇が離れ、シロウがいる小型艇に恐る恐る近づいてきた。*


*輸送艇が横付けされると、武装した空賊たちに促され、数人の女性が震えながら甲板に出てくる。彼女たちは皆、旅の商人や乗客だったのだろう、上等だが汚れてしまった服を身につけ、怯えた表情で俯いていた。*


*空賊の一人が、シロウの足元で踏みつけられているリーダーに向かって叫ぶ。*


空賊:「か、頭!ご命令通り、女たちを連れてきました!こ、これで…!」


*シロウはその言葉を遮るように、輸送艇に積まれているであろうもう一つの“要求物”に視線を向けた。*


シロウ:「お宝も置いてけよ?」


*その冷たく、しかし当然のように発せられた言葉に、空賊たちはびくりと肩を震わせる。*


空賊リーダー:「き、聞こえただろうが!宝箱ごと、全部この船に降ろせ!早くしろ!ごちゃごちゃしてると、今度こそ空のもずくにされるぞ!」


*リーダーが再び金切り声を上げる。輸送艇に乗っていた空賊たちは、顔を見合わせながらも、逆らうことなどできるはずもなく、慌てて船倉からいくつもの木箱や革袋を運び出し始めた。それらは乱暴に、しかし急いでシロウのいる小型艇の甲板に置かれていく。中には金貨がこぼれ落ちる袋もあった。*


*シロウは満足げにその光景を眺め、足元のリーダーに最後の命令を下す。*


シロウ:「よし。じゃあ、お前ら全員、あの母船とやらに帰れ。この船と、そこの輸送艇、それから女たちとお宝は俺が貰っていく。異論は無いな?」


*その言葉は、もはや交渉ではなく決定事項の通達だった。*


空賊リーダー:「は、はいぃ!異論などあるはずもございません!あ、ありがとうございます!命だけは…!」


*男は地面に額をこすりつけんばかりの勢いで感謝の言葉を口にする。*


*シロウが踏みつけていた足をどけると、リーダーは這うようにして立ち上がり、部下たちと共に自分たちの母船へと逃げ帰っていった。あっという間に、シロウと捕虜の女性たち、そして山積みの宝物を乗せた二隻の船だけがその場に残された。*


*スターゲイザー号の甲板では、リューナたちがこの信じがたい結末を、ただ呆然と見守っていた。*


*シロウは空賊が残していった山のような宝箱や金貨袋に手をかざす。それらは瞬く間に光の粒子となって、シロウの持つインベントリ(アイテムボックス)へと吸い込まれていった。あっという間に甲板は綺麗さっぱり片付いてしまう。*


*その神業のような光景を、助け出されたばかりの女性たちと、踏みつけられて気絶している空賊リーダーだけが見ていた。女性たちは、恐怖と混乱の中でも、自分たちを助けてくれたこの青年が只者ではないことを悟り、畏敬の念を抱いて固唾を呑んでいる。*


シロウ:「さて、出発しよっか。あ、ノーコメントで。」


*シロウは独り言のように呟くと、スターゲイザー号の甲板にいるリューナたちに向かって、人差し指を口に当てるジェスチャーをして片目を瞑った。質問は受け付けない、という意思表示だ。*


*そして、鹵獲した小型飛空艇の操舵輪を握る。幸い、この世界の飛空艇は魔力で動くものが主流で、シロウにとっては車の運転よりも簡単だった。彼は操舵輪に魔力を流し込み、隣の輸送艇も魔力の糸で繋いで牽引する。*


*鹵獲した二隻の船は、ゆっくりとスターゲイザー号に寄り添うように並走を始めた。*


*スターゲイザー号の甲板では、リューナたちがようやく我に返ったように動き出す。*


リューナ:「…と、とにかく!危機は去ったようです!バート、あなたたちは残敵がいないか船内を確認!ボルガンとミーナは、あの船に乗っている人質の保護を!私は船長に報告してきます!」


*リューナはテキパキと指示を飛ばすが、その声はまだ僅かに上ずっていた。彼女はちらりと、涼しい顔で鹵獲船を操るシロウに視線を送る。その瞳には、もはや隠しようのない畏怖と、そして強烈な興味が宿っていた。*


バート:「お、おう…!わかった…。」


*先ほどまで威勢の良かったバートは、まるで借りてきた猫のようにおとなしく頷くと、仲間たちと船内の見回りへと向かった。シロウの規格外の力を見せつけられ、もはや彼に突っかかる気力など微塵も残っていないようだった。*


*鹵獲した飛空艇の操縦を、寄ってきたスターゲイザー号の船員に任せると、シロウは大きなあくびを一つした。鮮やかすぎた戦闘の結末に、リューナや他の冒険者たちはまだ何か言いたそうにこちらを見ていたが、シロウはそれを無視し、ひらひらと手を振って甲板を後にする。*


シロウ:「あー、疲れた。寝よ。」


*ロープを振り回しただけなので身体的な疲労は全くないが、精神的には少し気疲れした。シロウはさっさと自分の船室であるC-7号室へと向かう。*


*扉を開けて中に入ると、そこにはベッドの上で丸くなって待っていたレイラとシルフィリアの姿があった。シロウの気配に気づき、二人は同時に顔を上げる。*


レイラ(臆病):「あ…!シロウ様!♡ おかえりなさい…ですぅ…!♡」


*臆病なレイラが、ほっとしたように表情を緩ませる。彼女はずっと不安な気持ちでシロウの帰りを待っていたのだろう、その瞳は潤んでいた。*


シルフィリア:「シロウさま!♡ おかえりなさいですぅ!♡ 悪い人たち、みんなやっつけちゃったんですね!さすがですぅ!♡♡」


*シルフィリアはベッドから飛び降りると、一直線にシロウに駆け寄り、その胸に飛び込んできた。*


シルフィリア:「わーい!♡ シロウさまの匂いですぅ!♡♡ シルフィ、すっごく心配しました!でも、シロウさまなら大丈夫だって、信じてましたよ!♡」


*顔を押し付けながら、甘えた声でシロウを称賛する。*


レイラ(臆病):「うぅ…シルフィちゃん、ずるい…ですぅ…♡ わたしも…わたしも、シロウ様に…♡」


*ベッドの上で、レイラが羨ましそうに唇を尖らせ、もじもじとシロウを見つめている。*


*シロウがどさりとベッドに倒れ込むと、その両脇にすぐさま二つの柔らかな身体が寄り添ってきた。シルフィリアはシロウの腕に自分の腕を絡ませ、レイラは少しだけ躊躇いがちに、しかし確かにシロウの身体にぴったりとくっつく。三人で寝るには少々手狭なベッドが、幸せな温もりで満たされていく。シロウの手が、自然と二人の柔らかな臀部に触れた。*


シロウ:「ただいま、二人とも。心配かけたな。」


*シロウは二人の頭を優しく撫でながら言う。*


シルフィリア:「おかえりなさいですぅ、シロウさま!♡ んっ…♡」


*シルフィリアは気持ちよさそうに目を細め、さらに身体をすり寄せてくる。、きゅっと力を込めるように動いた。*


シルフィリア:「シルフィ、全然狭くないですぅ!♡ むしろ、もっとぎゅーってしたいですぅ♡♡ えへへ、シロウさまの手、あったかいですね…♡」


*自分の臀部にあるシロウの手を意識してか、シルフィリアは嬉しそうに甘えた声を出す。*


レイラ(臆病):「し、シロウ様…♡ あの、その…手…♡」


*反対側では、レイラが顔を真っ赤にして俯いている。シロウの手が自分のお尻に触れていることに気づき、恥ずかしさで身体を硬直させていた。だが、離れようとはしない。むしろ、その温もりを確かめるように、小さく身じろぎしている。*


レイラ(臆病):「わ、わたしも…シロウ様と一緒なら…狭くても、平気…ですぅ…♡♡ その…手が、おっきくて…あたたかくて…なんだか、ドキドキしますぅ…♡」


*シロウの耳元で、消え入りそうな声で囁く。その声は熱っぽく、潤んでいた。*


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ