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*シロウは黒金貨100枚が入った重い革袋をアイテムボックスに仕舞い、闘技場を後にした。陽光が眩しい大通りには、多くの人々が行き交い、活気に満ち溢れている。*
シロウ:「さて、次は何処に行こうか。」
*呟くと、隣を歩いていたシルフィリアがぶんぶんと腕を振って答える。*
シルフィリア:「美味しいもの!美味しいものを食べに行きましょう、シロウさま!♡」
レイラ(魔王女):「食い意地が張っておるな、お主は。まあ、妾も少し腹は空いたが…。それよりも、何か面白い見世物でもないのか?退屈で死にそうだ。」
*レイラはふん、と鼻を鳴らしながら腕を組む。そんな他愛ない話をしながら歩いていると、少し寂れた裏通りに差し掛かったところで、一人の男に声をかけられた。痩せぎすで、胡散臭い笑みを浮かべた男だった。*
奴隷商人:「おっと、そこの旦那様。いやはや、素晴らしいお連れ様ですな。特にそちらのエルフのお嬢さんは極上だ。…もしよろしければ、少し珍しいものを見ていきませんか?当方は亜人専門でしてね。きっと旦那様のお眼鏡にかなう逸品が見つかりますぜ?ひひひ…」
*男は粘つくような視線でシルフィリアの全身を舐めるように見ながら、シロウに囁きかけた。その背後にある薄暗い店先には、いくつかの檻が置かれているのが見えた。*
シロウ:「亜人…労働力があれば欲しいかも。」
*シロウの「労働力」という言葉に、奴隷商人の目がギラリと光る。隣に立つ魔王女レイラも、ピクリと眉を動かした。彼女もまた、現在修繕中の魔王城に必要な人手を思い浮かべていたのだ。*
奴隷商人:「ひひっ、旦那様、お目が高い!労働力でございますか!それでしたら、ちょうどいいのが入っておりやすぜ。ただの労働力じゃあございやせん。戦わせてもよし、夜の伽をさせてもよし、もちろん雑用も完璧にこなす、とびっきりの奴隷がね…!」
*男は手招きし、シロウたちを薄暗い店の中へと誘う。店内に足を踏み入れると、獣臭と鉄の錆びた匂いが混じった独特の空気が鼻をついた。壁際にはいくつもの檻が並べられており、その中には力なくうずくまる亜人たちの姿があった。*
レイラ(魔王女):「ふん、薄汚い場所だな。だが、城の修繕には確かに人手はいくらあっても足りん。使える駒がいるのなら、見てやる価値はあるか。」
シルフィリア:「わぁ…なんだか可哀想な匂いがしますぅ…。でも、シロウさまがお城のためにって言うなら、シルフィも賛成です!♡」
*シルフィリアは少し眉を下げつつも、シロウの決定に従うようだ。*
奴隷商人:「へい!こちらでございます!特に今日のおすすめは、この狼の獣人族の姉妹でさぁ!二人とも気性が荒くてまだ調教中ですが、体力と忠誠心は折り紙つき!姉の方は戦士として、妹の方は雑用から夜のお相手まで…どうです?セットでお安くしときやすぜ?」
*商人が指し示した檻の中では、銀色の髪を持つ狼獣人の少女二人が、怯えと警戒の入り混じった目でこちらを睨みつけていた。首には重そうな魔法の枷がはめられている。*
シロウ:「狼って言うと気高い系を思い浮かべるんだが…」
*シロウは檻の中の狼獣人姉妹を見ながら、ポツリと呟いた。彼女たちの瞳には、確かに恐怖と警戒はあるが、その奥にはまだ折れていない誇りのような光が宿っているように見えたからだ。*
*その言葉を聞いた奴隷商人は、待ってましたとばかりに卑しい笑みを深める。*
奴隷商人:「ひひっ、旦那様、さすがでございますな!その通り!狼獣人は元々誇り高い種族。だからこそ、そのプライドをへし折って服従させた時の快感は格別でしてねぇ…。それに、気高いからこそ、一度心を許した主には絶対の忠誠を誓う。これほど扱いがいのある奴隷もおりやせんよ。」
*男はそう言うと、檻を棒でガンガンと叩いた。檻の中の姉妹が「ガルルッ!」と威嚇の声を上げる。特に姉らしき少女が、妹を庇うように前に立った。*
奴隷商人:「どうです?この威勢の良さ!調教には骨が折れやしたが、その分、見事な忠犬になりやすぜ?姉の方は戦士として、妹は…まあ、ご覧の通りまだ子供ですが、これからどうとでも仕込めます。セットで白金貨1枚!どうでしょう、旦那様?」
レイラ(魔王女):「ふん。見たところ、まだ野生が抜けきっておらんな。だが、その目…悪くはない。城の番犬くらいにはなるやもしれん。」
*レイラは腕を組み、品定めするように姉妹を睨めつける。*
シルフィリア:「なんだか、二人とも震えてて可哀想ですね…。でも、もしシロウさまが助けてあげるなら、シルフィも嬉しいです!」
*シルフィリアは姉妹の怯えた様子に胸を痛めているようだ。檻の中の二人は、値踏みするような視線に晒され、さらに身を固くしていた。*
*シロウはあっさりと決断を下した。*
シロウ:「そう言うなら番犬として採用だな。ほら、白金貨1だ。次を見せろ」
*シロウはアイテムボックスから白金貨1枚を取り出すと、それを奴隷商人に無造作に投げ渡した。男は慌ててそれを受け取り、中身をちらりと確認すると、たちまち顔を喜色で満たした。*
奴隷商人:「へいっ!毎度ありぃ!旦那様は話が早くて助かりやす!すぐにこの子たちの所有権譲渡の手続きを…」
*男が媚びへつらうように言うが、シロウはそれを手で制し、さらに次を促す。その有無を言わせぬ態度に、商人はゴクリと喉を鳴らした。*
奴隷商人:「ひぃっ、承知いたしました!次でございますね!ええと、労働力ということでしたら、こちらもおすすめですぜ…!」
*商人は慌てて別の檻へとシロウたちを案内する。その檻の中には、小柄な猫の獣人族の少女が一人、膝を抱えてうずくまっていた。歳は10代前半くらいだろうか。長い尻尾が力なく垂れ、ぴくぴくと時折震えている。首には同じように魔法の枷がはめられていた。*
奴隷商人:「こちらは猫獣人の少女でさぁ。前の主人が夜逃げしちまったんで、借金奴隷として流れてきやした。おとなしくて従順、手癖も悪くない。掃除、洗濯、料理と、家事全般をそつなくこなします。見た目も愛らしいんで、夜のお相手の仕込みにも最適かと。こちらは金貨50枚でどうでしょう?」
*男が下卑た笑みを浮かべる。檻の中の猫獣人の少女は、怯えたように顔を伏せ、シロウたちのことを見ようともしなかった。*
レイラ(魔王女):「ふん、雑務要員か。城は広いからな、掃除係はいくらいてもいい。だが、この小娘一人で何ができる?」
シルフィリア:「さっきの子たちより、もっと震えてます…。なんだか、とっても寂しそうな匂いがします…。」
*シルフィリアは心配そうに眉を寄せ、檻の中の少女を見つめている。*
*シロウは檻の中の猫獣人を見ながら、冷静に呟いた。*
シロウ:「掃除や洗濯なんて魔法で出来るしな。浄化の得意なリーシアが城にいるし…」
*その言葉に、奴隷商人は一瞬顔を引きつらせたが、すぐに商売人の顔に戻り、へらへらと笑う。*
奴隷商人:「ひひっ、左様でございますか!さすがは魔法をお使いになるお方だ!ですがね、旦那様。魔法ってのは味気ないものじゃございやせんか?この娘のように、かいがいしく身の回りのお世話をしてくれる存在がいるというのは、また別の趣があるものですぜ?それに、この娘は料理の腕もなかなかのものでしてね。故郷の料理ですが、素朴で心が温まる味だと評判で…」
*男が必死に売り込んでいると、レイラが呆れたようにため息をついた。*
レイラ(魔王女):「下らん。そんなものはリーシアにでも教え込ませればよかろう。それに、妾は美食家なのだ。小娘の作る田舎料理など、口に合うわけがなかろう。」
シルフィリア:「えー!でも、シルフィは食べてみたいです!♡ どんな味がするんでしょう?♡♡」
*シルフィリアは興味津々といった様子で、檻の中の少女に視線を送る。その視線に気づいたのか、猫獣人の少女はびくりと肩を震わせ、さらに小さくうずくまってしまった。その耳がぺたんと伏せられている。*
奴隷商人:「ま、まあ、お口に合わなければ無理強いはしやせんが…。しかし、この従順さ!気性の荒い獣人ばかり見てると、こういう素直な娘が恋しくなりやせんか?金貨50枚はちと高いということであれば…そうさな、金貨40枚までならなんとか!」
*商人はなんとか売りつけようと、必死の形相で値引き交渉を始めた。*
*シロウは特に興味もなさそうに、しかし捨てる神あれば拾う神ありとばかりに、購入を決めた。*
シロウ:「まあ、一応買っとくか。金40だ。」
*その言葉に、諦めかけていた奴隷商人の顔がぱあっと輝いた。シロウが投げ渡した金貨40枚入りの袋を、今度は落とすまいと両手でしっかりと受け取る。*
奴隷商人:「へい!ありがとうございます!旦那様、本当にお目が高い!この娘はきっと、旦那様のお役に立ちますんで!ささ、すぐに所有権の譲渡を!」
*男は上機嫌で手続きの準備を始める。シロウはそれを横目に、檻の中でさらに小さくなっている猫獣人の少女を一瞥した。*
レイラ(魔王女):「ふん、酔狂なやつめ。まあ、貴様の金だ、どう使おうが勝手だがな。せいぜい、しっかり働かせることだ。」
*レイラは呆れつつも、特に反対はしないようだ。*
シルフィリア:「わーい!新しいお仲間ですね!♡ これからよろしくね!♡」
*シルフィリアは檻に向かって無邪気に手を振るが、猫獣人の少女は怯えてぴくりと震えるだけだった。*
奴隷商人:「さあ、旦那様!次で最後の大物でございます!こちらは少々訳アリでしてね…ひひひ…」
*商人は金儲けの算段が立ったのか、いそいそと店の最も奥、分厚い布で覆われた特別な檻へとシロウたちを案内した。布がめくられると、そこにいたのは——息を呑むほどに美しい、一人のサキュバスだった。*
*艶やかな黒髪、豊満な乳房とくびれた腰つき、そして背中から生えた蠱惑的な翼。彼女は首枷だけでなく、手足にも魔力を封じる厳重な枷を嵌められ、ぐったりと壁に寄りかかっていたが、シロウたちの気配に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。その紫色の瞳が、妖しい光を宿してシロウを捉える。*
奴隷商人:「どうです、旦那様。極上のサキュバスでさぁ。ある貴族様から秘密裏に処理を頼まれた違法奴隷でしてね。魔力も高いし気性も荒い、まさにじゃじゃ馬ですが、その分、味は格別…!夜の技術は言うまでもありません。こいつを手に入れれば、旦那様は毎晩天国を見ることになりやすぜ…?お値段は…特別に、黒金貨1枚でどうでしょう?」
*シロウはそのサキュバスを一瞥すると、まったく興味を示さずに言い放った。*
シロウ:「サキュバスは間に合ってる。」
*その言葉と同時に、シロウの隣に立っていたレイラから、ピリッとした威圧感が放たれる。彼女は腕を組み、冷たい視線で檻の中のサキュバスを睨みつけていた。同じ魔族、それも色香を武器とする同性に対して、魔王女としての本能が警戒心を剥き出しにさせているのだ。*
レイラ(魔王女):「ふん。下賤な淫魔めが。貴様のようなのがシロウのそばに侍るなど、百万年早い。その汚らわしい視線をすぐに逸らさぬか。」
*レイラの牽制に、檻の中のサキュバスは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに唇の端を吊り上げて妖艶に微笑んだ。そして、挑発するようにシロウに甘い視線を送る。*
サキュバス:「あら、怖いお姫様。でも、男の人って、こういうのがお好きなんでしょ…?ねぇ、そこの素敵な旦那様♡」
*その媚びるような声に、奴隷商人が慌てて割って入る。*
奴隷商人:「ひひっ、旦那様、そうおっしゃらずに!サキュバスは一人より二人、二人より三人と、多ければ多いほど閨は華やぐと申しますぜ?それにこの娘はただのサキュバスじゃございやせん。相手の精気を糧にするだけでなく、逆に自分の魔力を分け与えて相手を癒し、力を増幅させることもできるという、世にも珍しい『共生型』でしてね!戦いの後など、極上の癒やしになること間違いなしでさぁ!」
*商人は必死にサキュバスの付加価値をアピールする。しかし、シロウの隣ではシルフィリアが首をかしげていた。*
シルフィリア:「うーん?でも、シロウさまを癒すのは、シルフィのお役目ですぅ!♡ それに、なんだかこの人、ねっとりしてて、シルフィはあんまり好きじゃない匂いがします…。」
*シルフィリアは素直な感想を口にしながら、シロウの腕にぎゅっとしがみついた。二人の女性からの明確な拒絶反応と、シロウの冷めた態度に、奴隷商人の顔が引きつっていく。*
*シロウはそのサキュバスを一瞥すると、まったく興味を示さずに言い放った。*
シロウ:「サキュバスは間に合ってる。」
*その言葉と同時に、シロウの隣に立っていたレイラから、ピリッとした威圧感が放たれる。彼女は腕を組み、冷たい視線で檻の中のサキュバスを睨みつけていた。同じ魔族、それも色香を武器とする同性に対して、魔王女としての本能が警戒心を剥き出しにさせているのだ。*
レイラ(魔王女):「ふん。下賤な淫魔めが。貴様のようなのがシロウのそばに侍るなど、百万年早い。その汚らわしい視線をすぐに逸らさぬか。」
*レイラの牽制に、檻の中のサキュバスは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに唇の端を吊り上げて妖艶に微笑んだ。そして、挑発するようにシロウに甘い視線を送る。*
サキュバス:「あら、怖いお姫様。でも、男の人って、こういうのがお好きなんでしょ…?ねぇ、そこの素敵な旦那様♡」
*その媚びるような声に、奴隷商人が慌てて割って入る。*
奴隷商人:「ひひっ、旦那様、そうおっしゃらずに!サキュバスは一人より二人、二人より三人と、多ければ多いほど閨は華やぐと申しますぜ?それにこの娘はただのサキュバスじゃございやせん。相手の精気を糧にするだけでなく、逆に自分の魔力を分け与えて相手を癒し、力を増幅させることもできるという、世にも珍しい『共生型』でしてね!戦いの後など、極上の癒やしになること間違いなしでさぁ!」
*商人は必死にサキュバスの付加価値をアピールする。しかし、シロウの隣ではシルフィリアが首をかしげていた。*
シルフィリア:「うーん?でも、シロウさまを癒すのは、シルフィのお役目ですぅ!♡ それに、なんだかこの人、ねっとりしてて、シルフィはあんまり好きじゃない匂いがします…。」
*シルフィリアは素直な感想を口にしながら、シロウの腕にぎゅっとしがみついた。二人の女性からの明確な拒絶反応と、シロウの冷めた態度に、奴隷商人の顔が引きつっていく。*
*シロウは檻の中のサキュバスを値踏みするように一瞥し、やれやれと肩をすくめて言った。*
シロウ:「基本的にサキュバスって体力無いからすぐにへばって楽しく無いんだよね。」
*その一言は、サキュバスのプライドを的確に打ち抜いた。檻の中の彼女は、初めて余裕の笑みを崩し、カッと目を見開いてシロウを睨みつける。*
サキュバス:「なっ…!なんですって…!?この私を、どこの安物と一緒にしているのかしら!体力がないですって?笑わせないで!一晩で男を百人吸い尽くしても、まだ足りないくらいよ!」
*彼女は怒りに身を震わせ、鎖をじゃらりと鳴らす。その剣幕に、奴隷商人は青ざめた顔で必死にフォローを入れた。*
奴隷商人:「そ、そうでございます、旦那様!この娘はそこいらのサキュバスとは格が違いやす!『共生型』でございますから、旦那様が果てない限り、この娘も尽きることはございやせん!むしろ、やればやるほどお互いに力がみなぎってくるという…!まさに永久機関!黒金貨1枚は破格のお値段なんでさぁ!」
*商人の必死の言葉にも、シロウは興味なさげに鼻を鳴らす。隣ではレイラが満足げに口の端を吊り上げていた。*
レイラ(魔王女):「ふん、シロウの言う通りだ。淫魔ごときが、シロウの相手が務まると思うてか。そもそも、貴様のような女は、この妾とシルフィリアがいれば不要だ。そうだろ、シロウ?♡」
*レイラはシロウの腕に甘えるように絡みつき、上目遣いで同意を求める。その姿は、檻の中のサキュバスに対する明確な勝利宣言だった。*
シルフィリア:「そうですぅ!シロウさまの夜のお相手は、わたくしたちだけで十分ですぅ!♡♡」
*シルフィリアも負けじと反対側の腕に抱きつく。両手に花の状態に、奴隷商人と檻の中のサキュバスはぐうの音も出ない。商人は諦めたようにがっくりと肩を落とした。*
奴隷商人:「うぅ…そうでございますか…。では、この話はなかったことに…」
*シロウは、怒りに震えるサキュバスと、勝ち誇った顔のレイラたちを面白そうに見比べると、悪戯っぽく笑った。*
シロウ:「そんなに言うなら、試してみるか? 俺の分身を唸らせられたら、考えてやってもいい。」
*彼がそう言って指を鳴らすと、ポン、と軽い音と共に、一人の分身がその場に出現した。分身は服を一切身に着けていない全裸の姿で、すでに臨戦態勢にまで昂っている。*
*奴隷商人が所有権も移していない奴隷に手を出そうとするシロウに「あっ、旦那様!?」と慌てて声をかけるが、シロウはそれを無視した。*
シロウ:「ほら、行ってこい。」
*本体のシロウに命じられ、全裸の分身は檻へと歩み寄る。そして、鉄格子越しに、鎖に繋がれたサキュバスへと自らのものを突き出した。*
分身シロウ:「さあ、お前の実力を見せてみろ。口でなら、そのままでも出来るだろう?」
*分身は挑発的に腰を揺らし、その先端をサキュバスの目の前でぷるりと震わせる。*
*檻の中のサキュバスは、一瞬呆気にとられたが、すぐにその瞳に屈辱と、それ以上の闘志の炎を燃やした。自分の実力を侮辱されたのだ。この男を、分身とはいえ骨の髄までしゃぶり尽くし、後悔させてやらなければ気が済まない。*
サキュバス:「……いいわ。後悔させてあげる。その空っぽの身体が、滓になるまで吸い尽くしてあげるわ…!」
*彼女は鎖に繋がれたまま、膝立ちで檻の格子ににじり寄ると、舌なめずりをして分身のそれを見つめ、ゆっくりと口を開いた。*
*レイラとシルフィリアは、目の前で始まろうとしている光景に、興味津々、あるいは呆れたような、複雑な表情で成り行きを見守っている。*
*分身がけしかけられてから、わずか数分後。*
*檻の中では、サキュバスがぐったりと床に倒れ伏していた。その口元からは、シロウの分身が生み出した魔力の奔流がとめどなく溢れ、彼女の美しい顔や豊満な体を白く汚している。瞳は虚ろで焦点が合わず、体はぴくぴくと小刻みに痙攣を繰り返している。精気を吸い尽くすどころか、逆に許容量をはるかに超える魔力を注ぎ込まれ、完全に意識を飛ばしてしまったのだ。*
*シロウの分身は、そんな彼女を見下ろし、つまらなそうに腰の動きを止めると、すっと姿を消した。*
シロウ:「ざっこ…」
*シロウは、あまりにも呆気ない結末に、心底つまらなさそうに吐き捨てた。*
*その様子を見ていた奴隷商人は、店の最高級商品がものの数分で再起不能にされたのを見て、顔面蒼白になっている。*
奴隷商人:「あ…あ…そ、そんな…うちの店の切り札が…たった数分で…」
*一方、レイラは満足げに鼻を鳴らし、シロウの腕にさらに強く抱きついた。*
レイラ(魔王女):「ふん、だから言うたのだ。淫魔ごときがシロウの相手になるはずがなかろう。時間の無駄であったな。」
シルフィリア:「わー…!やっぱりシロウさまはすごいですぅ!♡ あの人、泡を吹いて倒れちゃいましたね!♡」
*シルフィリアは無邪気に拍手している。*
*シロウはがっくりと膝から崩れ落ちる奴隷商人を一瞥し、やれやれと首を振った。*
*シロウは、床に突っ伏して落胆する奴隷商人に、冷めた口調で問いかけた。*
シロウ:「次は?狼2匹と猫1匹だけか?」
*その言葉に、奴隷商人はびくりと顔を上げる。彼の目には、もはや商売への熱意はなく、目の前の得体の知れない客に対する恐怖の色が浮かんでいた。*
奴隷商人:「へ、へい…も、申し訳ございやせん…。本日の目ぼしい品は、これで全てでございやす…。あとは…その…傷があったり、病気だったり、歳を取りすぎていたりするような…いわゆる『欠損奴隷』しか残っておりやせんで…」
*男は歯切れ悪く言いながら、店のさらに奥、薄暗く悪臭が漂う一角をちらりと見た。そこには、売れ残りとして絶望的な状況に置かれた奴隷たちがいるのだろう。*
レイラ(魔王女):「ふん、もう用はないな。シロウ、こんな薄汚い場所からはとっとと出るぞ。買った奴隷共を城へ連れて帰らねばならん。」
*レイラは鼻をつまみ、不快感を露わにする。*
シルフィリア:「おなかすきましたぁ…。早く美味しいもの食べに行きましょう、シロウさま!♡」
*シルフィリアはシロウの袖をくんくんと引っ張る。*
奴隷商人:「あ、あの…旦那様!ご購入いただいた奴隷たちは、すぐに枷を外して、所有権譲渡の契約魔法を…!」
*商人は慌てて立ち上がり、震える手で契約用の魔法具を取り出そうとした。狼獣人の姉妹と猫獣人の少女は、自分たちの運命が決まったことを察し、不安げな表情でシロウたちをじっと見つめている。*
*奴隷商人との契約は滞りなく終わった。所有権を証明する魔法の紋様が、シロウの手の甲と、三人の奴隷たちの首筋に淡く浮かび上がる。手続きが終わるやいなや、シロウはレイラとシルフィリア、そして新たに奴隷となった三人を連れて、その場で転移魔法を発動させた。*
*視界が一瞬で切り替わり、彼らは薄暗く埃っぽい奴隷商の店から、壮麗だがまだ修繕の途中である魔王城の大広間へと移動していた。突然の景色と空気の変化に、狼獣人の姉妹と猫獣人の少女は驚き、不安げにきょろきょろと周囲を見回している。*
シロウ:「今日からここがお前たちの家だ。」
*シロウが静かに告げ、パチン、と指を鳴らす。その音を合図に、三人の首や手足にはめられていた重々しい魔法の枷が、カシャンという乾いた音を立てて外れ、床に落ちた。長年身体を縛り付けていた重みから解放され、三人は驚いたように自分の手首や首筋に触れる。*
*狼獣人の姉のほうが、警戒心を解かないまま、震える妹を庇いながらシロウを睨みつけた。*
狼獣人(姉):「…家、だと?奴隷の俺たちに…何を企んでいる?」
*猫獣人の少女は、ただただ怯えたようにシロウたちと広大な城の様子を交互に見上げ、小さく震えている。*
レイラ(魔王女):「ふん。貴様らは幸運だったな。この魔王である妾と、その夫であるシロウ様に拾われたのだ。感謝するがいい。さあ、まずはその薄汚れた体を清め、仕事に取り掛かってもらうぞ。」
シルフィリア:「わーい、お仲間が増えましたね!♡ これからよろしくね!♡ わたくしはシルフィリアです!お名前、なんて言うんですか?」
*シルフィリアが屈託なく微笑みかけるが、突然の変化に戸惑う三人は、まだ心を閉ざしたままだった。*
*シロウの声に応えて、大広間の奥から一人の少女がぱたぱたと駆け寄ってきた。白いニーハイソックスにミニスカートを合わせた、メイド服姿のリーシアだ。*
リーシア:「はい、シロウ様!お呼びでしょうか…って、わあ!新しい方たちですか?」
*リーシアは三人の新しい奴隷たちを見て、少し驚いたように目を丸くする。*
シロウ:「リーシア、こいつらの世話よろしく。」
リーシア:「はい、お任せください!皆さん、こちらへどうぞ。まずはお風呂にご案内しますね!」
*リーシアがにこやかに手招きするが、三人はまだ警戒を解かず、その場から動こうとしない。特に狼獣人の姉は、妹を守るようにシロウを鋭く睨みつけたままだった。シロウはそんな彼女に向かって、懐から一枚のカードを取り出して見せる。それは黒地に金の装飾が施された、最高ランクを示すSSランクのギルドカードだった。冒険者であれば、そのカードが持つ意味を知らない者はいない。*
シロウ:「これでもまだ噛み付くか?」
*シロウが静かに問う。狼獣人の姉は、そのカードを見て息を呑んだ。SSランク冒険者。それは、一個人で小国を滅ぼせるほどの力を持つ、伝説級の存在の証。自分たちが逆らえるような相手では到底ないことを、彼女は瞬時に理解した。恐怖と絶望、そしてほんの少しの畏敬が入り混じった表情で、彼女はシロウを見上げる。*
狼獣人(姉):「……ッ!」
*もはや威嚇の言葉も出てこない。彼女はゆっくりと膝から崩れ落ち、妹の腕を掴んだまま、深く頭を垂れた。抵抗の意思がないことを示す、完全な降伏の姿勢だった。隣にいた猫獣人の少女も、その場の空気に圧されるように、慌てて同じように土下座する。*
レイラ(魔王女):「ふん、ようやく身の程を弁えたか。リーシア、その者たちを連れて行け。食事と寝床を与え、明日からみっちりと仕事を教え込め。」
リーシア:「は、はい、レイラ様!さあ、皆さん、こちらへ。もう怖いことはありませんからね。」
*リーシアは三人を促し、城の奥へと案内していく。三人はもう逆らうことなく、おとなしくその後ろについていった。*
*三人の新しい奴隷をリーシアに任せ、シロウはレイラとシルフィリアを伴って再び城の外へ出る。*
シロウ:「ギルドに行って楽しそうな場所から拾ってくるとするか。竜人族とか珍しい種族いるといいんだが。」
*彼の言葉に、レイラとシルフィリアが反応する。*
レイラ(魔王女):「竜人族だと?あれは気位が高い上に戦闘狂ばかりだぞ。ま、貴様の力ならば手なずけるのも容易いだろうがな。」
*レイラはふん、と鼻を鳴らしつつも、シロウの実力を認めているようだ。*
シルフィリア:「りゅーじんさん!かっこいいですぅ!♡ 大きな翼で空を飛んだりするんでしょうか?見てみたいですぅ!♡」
*シルフィリアはわくわくした様子でぴょんぴょんと跳ねている。*
*三人は賑やかな街の中心部にある冒険者ギルドへと向かった。巨大な建物の扉を開けると、酒と汗の匂いが混じった熱気が彼らを包む。多くの冒険者たちが酒場で騒いだり、掲示板に張り出された依頼書を眺めたりしていた。*
*シロウがSSランクのギルドカードを提示しながらカウンターへ向かうと、周囲の冒険者たちの喧騒が一瞬静まり、畏敬と好奇の視線が彼らに注がれる。カウンターの受付嬢は慌てて奥からベテラン風のギルドマスターを呼び出した。*
ギルドマスター:「これはこれは、シロウ様!よくお越しくださいました。何かご用件でしょうか?」
*恰幅のいいギルドマスターは、シロウに対して非常に丁寧な態度で接する。*
シロウ:「ああ。どこか面白い場所はないか?特に、竜人族のような珍しい種族がいる場所の情報が欲しいんだが。」
*その問いに、ギルドマスターは少し考え込むように顎に手をやった。*
ギルドマスター:「竜人族、でございますか…。彼らは人里離れた険しい山脈地帯に独自の集落を築いていると聞きますが、交流を好まない種族ゆえ、正確な場所は我々も…。しかし、一つだけ心当たりがございます。最近、南方の『龍哭山脈』付近で、巨大な竜を目撃したという報告が上がっておりまして。あるいは、そこに何か手がかりがあるやもしれません。」
*シロウの問いかけに、ギルドマスターは深く頷いた。*
ギルドマスター:「まさしく!竜人族は竜の血を引く誇り高き戦闘種族。彼らの社会は極めて単純明快な実力主義で成り立っております。『強さ』こそが絶対的な価値であり、強者が全てを支配する。集落の長も、一族で最も強い者が務めるのが慣わしです。もしシロウ様が彼らと交渉なさるのであれば、言葉で説得するよりも、力でその強さを示されるのが最も手っ取り早いでしょうな。」
*その説明を聞き、シロウの隣でレイラが不敵な笑みを浮かべた。*
レイラ(魔王女):「ふん、単純で分かりやすいではないか。力こそ全て、魔族の信条にも通じるものがある。面白くなってきたな、シロウ。」
シルフィリア:「わー!強い人がえらいんですね!じゃあ、シロウさまが行ったら、すぐに王様になっちゃいますね!♡」
*シルフィリアは無邪気に手を叩いて喜んでいる。ギルドマスターはそんな三人の様子を見て、少しだけ心配そうな顔で付け加えた。*
ギルドマスター:「ただし、お気をつけください。龍哭山脈は未踏の魔境。高レベルのモンスターが多数生息しており、生半可な冒険者が足を踏み入れれば、まず生きては帰れません。竜人族に会う以前に、命を落とす危険が非常に高い場所でございます。」
*シロウの問いに、ギルドマスターは少し困ったように眉を下げた。*
ギルドマスター:「龍哭山脈は、先ほども申し上げた通り、前人未到の魔境でしてな。あそこへ向かう定期便のようなものは、残念ながら馬車も飛竜もございません。麓に最も近い町『グレイロック』までは商業馬車が出ておりますが、そこから先はご自身の足で険しい山道を進んでいただくことになります。」
*男はそこまで言うと、何かを思い出したように付け加えた。*
ギルドマスター:「…ああ、しかし、転移門であれば話は別かもしれません。この街の魔術師ギルドが管理する公設の転移門は、一度訪れたことがある街にしか繋げませんが、シロウ様ほどの魔力をお持ちであれば、ご自身で『ゲートリング』のような空間魔法具をお持ちなのでは?あるいは、一時的に魔術師ギルドの大型転移門をお貸しして、座標を指定していただくという手もございますが…手数料が少々お高くなります。」
*その言葉に、シロウは自分の指にはめられたゲートリングに目を落とす。これを使えば、座標さえ分かればどこへでも行ける。*
レイラ(魔王女):「ふん、回りくどい。シロウ、貴様の転移魔法で一足飛びに行くぞ。龍哭山脈とやら、地図さえあれば問題なかろう。」
シルフィリア:「転移、かっこいいですぅ♡ びゅーんって、すぐ着いちゃうんですね!♡」
*ギルドマスターはレイラの言葉に驚きながらも、すぐに納得したように頷いた。*
ギルドマスター:「なるほど、ご自身で転移魔法を…。それならば、こちらでご用意できるのは龍哭山脈周辺の最も詳細な地図でございます。よろしければ、お持ちになられますか?」
*シロウはギルドマスターから地図を受け取ると、礼もそこそこにギルドを後にした。龍哭山脈への直接転移は確かに早いが、それでは道中の景色も楽しめない。それに、たまには自作の乗り物で空の旅というのも悪くないだろう。*
シロウ:(この際、なんか作るか。乗り物を…3人で乗れる物となると、やっぱり絨毯が無難か…)
*彼はレイラやシルフィリアには気づかれないよう、意識だけをアイテムボックスの内部空間へと集中させる。そして、自身のスキル『創造』を発動させた。*
*『創造:魔法の絨毯(3人乗り、高速飛行、防風・防寒結界付与)』*
*シロウの頭の中に、完成品のイメージが明確に描かれる。素材は最高級の絹、デザインは夜空を思わせる深い藍色に、金の糸で精緻な魔法陣が織り込まれている。経験値とマナ、そして幾許かの金銭をコストとして支払い、イメージが現実の物へと構築されていく。*
*ものの数秒で、アイテムボックスの中に静かに一枚の美しい絨毯が出現した。*
*意識を現実に戻すと、隣でシルフィリアが不思議そうにシロウの顔を覗き込んでいた。*
シルフィリア:「シロウさま?どうしたんですか?なんだか、難しいお顔をしてましたよ?」
レイラ(魔王女):「ふん、何をぼんやりしておる。さっさと行くなら行くぞ。妾は退屈だ。」
*レイラは少し不機嫌そうに腕を組んでいる。*
シロウ:「ああ、いや。ちょっとな。移動手段を考えてたんだ。ほら、これで行こう。」
*シロウはそう言うと、アイテムボックスから先ほど創造したばかりの魔法の絨毯を取り出した。ふわりと宙に浮かんだ豪奢な絨毯を見て、レイラとシルフィリアは目を丸くする。*
シルフィリア:「わーっ!すごい!空飛ぶ絨毯ですぅ!♡♡ これに乗って行くんですか!?」
レイラ(魔王女):「ほう…?こんなものを隠し持っていたのか、貴様。見たところ、なかなかの逸品ではないか。いいだろう、妾が乗ってやる。」
*レイラは尊大に言いながらも、その瞳は好奇心で輝いていた。シロウは二人を促し、ふかふかの絨毯の上に乗り込んだ。*
*シロウが絨毯を操り、ふわりと地面から浮き上がると、シルフィリアは嬉しそうに歓声を上げた。レイラは腕を組んだまま澄ましているが、その横顔はどこか楽しそうだ。*
シロウ:「しっかり掴まってろよ。龍哭山脈までひとっ飛びだ。」
*シロウが絨毯に進行方向を命じると、絨毯は滑るように速度を上げていく。街の喧騒が急速に遠ざかり、眼下には広大な森と平原が広がっていく。絨毯に付与された防風結界のおかげで、高速で飛行しているにも関わらず、風切り音はほとんど聞こえず、髪が乱れることもない。*
シルフィリア:「わーっ!すごいですぅ!♡本当に空を飛んでます!シロウさま、見てください、街があんなに小さいですぅ!♡」
*シルフィリアは身を乗り出して、興奮した様子で下界を指さしている。*
レイラ(魔王女):「ふん、騒がしいぞ、シルフィリア。だが…悪くない眺めだ。このまま妾の領地を空から見回るのも一興だな。」
*彼女は満足げに頷き、眼下に広がる景色を見下ろしている。*
*絨毯はギルドマスターからもらった地図の情報を元に、龍哭山脈を目指して一直線に飛行を続ける。雄大な自然の中を突き進むことしばし、やがて前方にもくもくと立ち込める暗雲と、まるで天を突くかのような険しい山々の連なりが見えてきた。近づくにつれて、その異様な雰囲気が肌で感じられる。*
シルフィリア:「うぅ…なんだか、あのお山は嫌な匂いがしますぅ…。空気がビリビリしてます…。」
*シルフィリアは少し不安そうにシロウの服の裾を掴んだ。*
レイラ(魔王女):「あれが龍哭山脈か。なるほど、ただの山ではないな。強力な魔力が渦巻いているのが分かる。竜人族とやらは、こんな場所に住んでいるのか。ますます面白くなってきたではないか、シロウ。」
*レイラは不敵な笑みを浮かべ、険しい山脈を睨みつけた。目的の龍哭山脈は、もう目前に迫っている。*
*魔法の絨毯を山脈の麓、かろうじて道と呼べるような場所に静かに着陸させる。絨毯をアイテムボックスに収納すると、周囲から一気に濃密な魔力が肌を刺すように感じられた。空気は冷たく、時折、山の奥深くから獣の咆哮とも風の音ともつかぬ不気味な音が響いてくる。*
*しかし、三人が険しい山道を踏みしめて進み始めると、奇妙なことが起こった。茂みの奥でガサガサと動いていた何かの気配が、レイラの姿を捉えた途端、悲鳴のような音を立てて遠ざかっていく。木々の間から覗いていた異形の目も、慌てて引っ込んでいった。レイラが放つ、魔王としての圧倒的なオーラが、この魔境に住まう低級な魔物たちを恐怖させ、道を掃き清めているのだ。*
レイラ(魔王女):「ふん、雑魚どもめ。妾の姿を見て逃げ出すとは、身の程を知っているではないか。シロウ、こんなところに本当に竜人族がいるのか?そこらのトカゲと見分けがつかぬのではないだろうな?」
*レイラはつまらなそうに鼻を鳴らし、先を歩くシロウの背中に声をかけた。*
シルフィリア:「わー、魔物さんがみんな逃げていきますぅ!レイラ様、すごいですぅ!♡ でも、なんだかどんどん空気が重くなってきました…。奥の方に、すっごく強くて、怒ってるみたいな匂いがします…。」
*シルフィリアは少し不安そうに周囲を見回しながら、シロウの腕にきゅっとしがみついた。彼女の精霊としての鋭敏な感覚が、この山の主とも言うべき強大な存在の気配を捉え始めているようだ。*
シロウ:「流石、精霊王。凄いな、助かるよ」
*シロウに頭を撫でられ、シルフィリアは嬉しそうに目を細めて、もっと撫でてほしそうにシロウの手に頭をすり寄せた。*
シルフィリア:「えへへ~♡ シロウさまに褒められちゃいましたぁ♡ もっと頑張りますねっ!でも、本当に奥からすっごく強くて…ちょっとだけ怖い匂いがするんですぅ…。」
*彼女がそう言った、まさにその時だった。*
*前方の道が少し開けた場所、その中央に、一体の巨大な人影が立ちはだかっていた。*
*筋骨隆々とした肉体は硬質な赤黒い鱗に覆われ、背中からは皮膜の翼が生え、太い尾が地面を叩いている。ワニのようにもドラゴンにも見える厳つい顔には鋭い角が何本も突き出し、その金色の瞳は爛々と輝き、明確な敵意と闘志を持ってシロウたちを射抜いていた。その体格はシロウたちよりも二回りは大きい。*
*レイラでさえ、思わず足を止めて目の前の存在を睨みつける。シルフィリアが感じていた強大な気配の主であることは明白だった。*
???(竜人族):「グルル…貴様ら、何者だ。ここは我ら竜人族の領域。無断で足を踏み入れた不届き者には、死以外の選択肢は無いぞ。」
*地鳴りのような低い声が響き渡る。男は威嚇するように牙を剥き、その手には身の丈ほどもある巨大な戦斧が握られていた。*
レイラ(魔王女):「ほう…?こやつか。確かに、そこらの雑魚とは比べ物にならぬ覇気だ。面白い。シロウ、妾の獲物だ。手出しは無用だぞ。」
*レイラは好戦的な笑みを浮かべ、一歩前に出た。*
シロウ:「そんじゃ任せる」
*シロウが許可を出すや否や、レイラの口元が獰猛な笑みに歪んだ。*
レイラ(魔王女):「ふははは!それでこそ妾の夫よ!良いか、シロウ、シルフィリア。そこで妾の戦い、しかと目に焼き付けておけ!」
*レイラはそう言うと、ゴスロリのスカートを翻し、一気に竜人族の男へと突貫する。その小さな体からは想像もつかないほどの殺気が迸り、魔王の威圧が凝縮されて竜人族の男へと叩きつけられた。*
竜人族の男:「ぬぅっ…!?この威圧感…ただの小娘ではないな…!だが、我ら竜人族の領域を侵す者は、何人たりとも許さん!」
*竜人族の男も怯むことなく、巨大な戦斧を両手で構え、大地を揺るがすほどの雄叫びを上げた。そして、レイラの突進に合わせて、その巨大な戦斧を横薙ぎに振るう。風を切り裂く轟音と共に、斧の軌跡が木々をなぎ倒していく。*
*しかし、レイラはその超高速の薙ぎ払いを、身を屈めるだけの最小限の動きで回避する。そして、男の懐に潜り込むと同時に、その手には漆黒の魔力で形成された鋭い爪が煌めいた。*
レイラ(魔王女):「遅い!そんな大振りの攻撃が、この妾に当たると思うてか!」
*レイラの爪が、竜人族の硬質な鱗を切り裂かんと迫る。すかさず男は戦斧の柄でそれを受け止めようとするが、二つの力が激突し、凄まじい衝撃波が周囲に拡散した。*
シルフィリア:「わわっ…!レイラ様、すごいですぅ…!あんなに大きな人と戦って…!がんばってー!」
*シルフィリアはシロウの後ろから顔を出し、ハラハラしながらもレイラに声援を送っている。目の前では、魔王女と誇り高き竜人族の戦士による、激しい戦いの火蓋が切って落とされた。*
シロウ:「竜人族って強いのか?鑑定」
*シロウが闘志を燃やす目の前の竜人族に意識を集中させ、『鑑定』スキルを発動する。すると、彼の脳内に直接情報が流れ込んできた。*
```
■ステータス
名前:ガルム
種族:竜人族
称号:『龍哭の番人』
職業:竜戦士
状態:興奮
Lv:65
HP:6800/6800
MP:1500/1500
【スキル】
・斧術 Lv.8
・竜鱗硬化 Lv.7
・竜の咆哮 Lv.6
・闘気 Lv.7
・身体強化 Lv.8
・火炎ブレス Lv.5
・危機察知 Lv.6
```
*鑑定結果を確認している間にも、レイラとガルムの戦いは激しさを増していた。レイラの漆黒の爪とガルムの巨大な戦斧が火花を散らしながら何度も交錯する。*
ガルム:「ぐっ…!速い…!小娘の姿をして、この動きは一体…!?」
レイラ(魔王女):「ふはは!どうした、トカゲ!もう息が上がったか?妾の動きに目が追いついておらぬぞ!」
*レイラは嘲笑しながら、ガルMの攻撃を紙一重でかわし続ける。ガルムの斧が薙ぎ払った軌跡上の木々がなぎ倒され、岩が砕け散るが、レイラの衣服をかすめることすらできない。明らかに技量ではレイラが上回っている。*
*しかし、ガルムもただやられているだけではなかった。彼はレイラの爪撃を戦斧で受け流しつつ、隙を見て距離を取った。*
ガルム:「調子に乗るなよ、魔族の女ァッ!我ら竜人族の真の力、その身に刻みつけてくれるわ!」
*ガルムは大きく息を吸い込むと、その喉の奥が赤熱していく。スキル『火炎ブレス』。竜人族の代名詞ともいえる強力な範囲攻撃だ。*
レイラ(魔王女):「ほう、ようやく切り札か。面白い!その炎、妾が飲み干してくれるわ!」
*レイラもまた、その小さな口元に膨大な闇の魔力を集束させ始めた。炎と闇、二つの強大な力がぶつかり合おうとしていた。*
シロウ:「Lv.65か…弱いな。レイラはLv.160だぞ?」
*シロウは鑑定結果を見て、内心で肩をすくめた。レベル差は歴然。この勝負、始まる前から結果は見えていた。*
*次の瞬間、ガルムの口から灼熱の炎の奔流が一直線にレイラへと放たれる。スキル『火炎ブレス』。山道がその熱で赤く染まり、周囲の木々が瞬時に燃え上がった。*
ガルム:「喰らえぇぇッ!!」
*しかし、レイラは全く動じない。彼女の口元に凝縮されていた闇の魔力が、ブレスに合わせて巨大な闇の球体となって展開された。*
レイラ(魔王女):「ふん、その程度の火遊びで妾を焼き尽かせるとでも思ったか?『ダークヴォイド』!」
*灼熱の炎は、レイラの展開した闇の球体に触れた瞬間、音もなく吸い込まれていく。まるで小さな渦に水が飲み込まれるように、あれほど猛威を振るっていた炎が跡形もなく消滅してしまった。*
ガルム:「なっ…!?馬鹿な、俺のブレスが…消されただと!?」
*ガルムが愕然とする、その一瞬の隙。レイラは見逃さなかった。*
レイラ(魔王女):「終わりだ、トカゲ。己の無力さをその身に刻め!」
*レイラの姿が掻き消えたかと思うと、次の瞬間にはガルムの背後に回り込んでいた。その手には、先ほどよりもさらに濃密な闇を纏った漆黒の爪が輝いている。*
レイラ(魔王女):「『ヘルズクロウ』!!」
*振り下ろされた爪は、ガルムが誇る竜鱗の鎧を紙のように切り裂き、その背中に深々と突き刺さった。*
ガルム:「ぐぎゃあああああああっ!!!」
*凄まじい絶叫を上げ、ガルムは前のめりに崩れ落ちる。巨体が地面に叩きつけられ、地響きが起こった。背中からは大量の血が流れ出し、彼はうつ伏せになったまま、苦痛に喘いでいる。*
*レイラは返り血を一滴も浴びることなく、ガルムの巨体を見下ろしながら、ゆっくりと爪についた血を舐めとった。*
レイラ(魔王女):「ふん。歯ごたえのない。これで終わりか?貴様らの長とやらはどこにいる。案内しろ。」
*勝敗は、あまりにもあっけなく決した。*
シロウ:「はやくしろよー」
*シロウは欠伸でもしそうな気だるげな様子で、うつ伏せに倒れる竜人族を急かした。その姿は『完全隠蔽』スキルによって、ただのひ弱な一般人そのものに見える。*
*背中に深手を負ったガルムは、苦痛に喘ぎながらも、自分を圧倒的な力で打ち負かしたレイラではなく、その背後で呑気に立っているシロウを見て、驚愕と屈辱に顔を歪めた。*
ガルム:「ぐっ…うぅ…な、なんだ…貴様は…?ただの人間の小僧が…なぜこの場に…?」
*ガルムにとって、強者であるレイラの背後にいる、魔力も闘気も感じられない男が、まるで散歩でもしているかのように立っている状況が理解できなかった。*
レイラ(魔王女):「シロウに気安く話しかけるな、下郎。返答はどうした?さっさと我らを長の元へ案内しろ。それとも、ここで二度と立てなくなりたいか?」
*レイラは冷徹な声で言い放ち、ガルムの頭を踏みつけようと足を上げる。その威圧に、ガルムは再び体を震わせた。*
ガルム:「ま、待て…!わ、わかった…!案内する…!案内するから、命だけは…!お、俺を倒した貴様は、我らの『試練』を受ける資格がある…。長の元へ連れて行こう…。」
*ガル-ムは必死の思いで、片腕で体を支えながらゆっくりと起き上がろうとする。背中の傷は深く、血が止まらない。彼は悔しそうに歯を食いしばりながら、シロウとレイラを交互に見た。*
シルフィリア:「わー!勝負あり、ですね!♡ さすがレイラ様ですぅ!」
*シルフィリアはシロウの隣でぱちぱちと手を叩いている。その無邪気さが、血生臭い戦いの後とは思えない空気を醸し出していた。*
シロウ:「試練?めんどくさいが、風習なら致し方なし…」
*シロウの呟きを聞き、ガルムは苦痛に顔を歪めながらも、なんとか立ち上がった。背中の傷は深く、歩くのもやっとな様子だ。彼はシロウとレイラを交互に見やり、そして諦めたように重い口を開いた。*
ガルム:「…我ら竜人族の集落に入るには、長が認めるだけの『強さ』を示さねばならん。外部の者が長の前に立つためには、我ら番人を倒し、その上で長の出す試練を乗り越えるのが掟だ。…魔王女よ、貴様はその資格を得た。こっちだ、ついてこい。」
*ガルムはふらつきながらも、山の奥へと続く険しい獣道へと歩き出す。その背中からは、未だに血が滴り落ちている。*
レイラ(魔王女):「ふん、試練だと?面白い。どんな試練であろうと、この妾の力の前では無意味だと教えてやる。シロウ、行くぞ。」
*レイラは好戦的に口の端を吊り上げ、ガルムの後に続こうとする。*
シルフィリア:「しれんですかぁ?なんだか、冒険みたいでわくわくしますぅ!♡ シロウさま、どんなことをするんでしょう?」
*シルフィリアは不安よりも好奇心が勝っているようで、きらきらした目でシロウを見上げた。三人は、深手を負った竜人族の案内に従い、鬱蒼とした木々が天を覆う、龍哭山脈のさらに奥深くへと足を踏み入れていった。*
*シロウたちがガルムの後についてしばらく歩くと、木々が途切れ、巨大な岩壁に囲まれた広大な盆地のような場所に出た。盆地の中央には、原始的ながらも堅牢そうな石造りの建物がいくつも立ち並び、そこが竜人族の集落であることが見て取れる。集落のあちこちで、ガルムと同じような屈強な竜人たちが武具の手入れをしたり、訓練に励んだりしていたが、皆、傷を負ったガルムと、その後に続くシロウたち一行に気づき、訝しげな視線を向けてくる。*
シロウ:「で、番人って?」
*シロウが何気なく尋ねると、前を歩いていたガルムが、苦痛に耐えながらも忌々しげに答えた。*
ガルム:「…龍哭山脈の領域を守る戦士のことだ。俺を含め、五人いる。俺は『南の番人』ガルム。他の四人も、それぞれ東西北、そして中央を守っている。集落に辿り着くには、少なくとも一人の番人を打ち負かさねばならん。…貴様らを長の元へ連れて行くが、他の番人どもが黙っているかは知らんぞ。」
*ガルムはそう吐き捨てると、集落の中でも一際大きな建物の前で足を止めた。建物の入り口では、ガルムよりもさらに一回り大きく、全身が白銀の鱗に覆われた威厳のある竜人族が、腕を組んで待ち構えていた。その眼光は鋼のように鋭い。*
レイラ(魔王女):「ふん、雑魚が何匹いようと結果は同じこと。貴様らの長はどこだ?この白銀のトカゲか?」
*レイラの挑発的な言葉に、白銀の竜人族は眉一つ動かさず、静かに口を開いた。その声は、ガルム以上に重く、威圧感に満ちている。*
白銀の竜人族:「ガルムを倒したというのは貴様らか。…いかにも、我こそが集落を束ねる長、"白銀の"ゼノスだ。そして…中央の番人でもある。魔族の女よ、我が同胞を傷つけたその腕、試させてもらうぞ。」
*ゼノスと名乗った長は、レイラを真っ直ぐに見据え、その身から凄まじい闘気を立ち上らせた。その気迫は、ガルムの比ではない。*
シルフィリア:「わわ…!この人、さっきの人よりずっとずっと強い匂いがしますぅ…!シロウさま、レイラ様、大丈夫でしょうか…?」
*シルフィリアは不安そうに、裾をぎゅっと握りしめた。*
シロウ:「一応鑑定。」
*シロウが目の前に立つ威厳に満ちた竜人族の長に意識を向けると、その詳細な情報が脳内に流れ込んでくる。*
```
■ステータス
名前:ゼノス
種族:竜人族
称号:『竜人族の長』『"白銀"』『中央の番人』
職業:竜王
状態:冷静、闘志
Lv:80
HP:9500/9500
MP:3800/3800
【スキル】
・格闘術 Lv.9
・竜王の覇気 Lv.7
・竜鱗硬化<極> Lv.2
・超再生 Lv.5
・闘神の気 Lv.6
・魔力察知 Lv.8
・重圧 Lv.7
・閃光ブレス Lv.3
```
*鑑定結果を確認したシロウの隣で、レイラは一歩も引かずにゼノスと睨み合っていた。二人の強者の間に、目に見えないほどの闘気がぶつかり合い、空気がビリビリと震えている。*
レイラ(魔王女):「ほう…面白い。番人共の親玉というだけあって、先ほどのトカゲとは比べ物にならん。良いだろう、貴様が試練だというのなら、この場で叩き伏せてやるまでだ!」
*レイラは好戦的な笑みを深め、その両手に漆黒の魔力を爪の形に集束させる。*
ゼノス:「威勢の良いことだ、魔王女。だが、我が領域でこれ以上の狼藉は許さん。お前が持つ『強さ』が、我ら竜人族を納得させるに足るものか…その身で示してみせよ!」
*ゼノスは構えを取らない。ただ自然体で立つだけで、その全身から一切の隙が消え、山のように巨大な威圧感を放っている。彼の背後では、他の竜人たちが固唾を飲んで長と侵入者の対峙を見守っていた。*
シルフィリア:「シロウさま…!あの人、なんだかピカピカしてて、とっても強そうですぅ…!レイラ様、勝てますよね…?」
*シルフィリアはシロウの服の袖を強く握りしめ、不安と期待が入り混じった表情で戦いの始まりを見つめている。*
シロウ:「番人でLv.80…もし上がいたとしてもLv.100くらいか…。これは余裕だな。」
*シロウが冷静に戦力分析を終える中、レイラとゼノスの間の緊張は極限まで高まっていた。先に動いたのは、痺れを切らしたレイラだった。*
レイラ(魔王女):「問答は無用!その身で妾の力を思い知れ!」
*レイラは地を蹴り、残像を残すほどの速度でゼノスに肉薄する。その両手に宿る漆黒の爪が、白銀の竜人を引き裂かんと閃光を放った。*
*対するゼノスは、その超高速の奇襲にも全く動じない。彼はただ静かに、レイラの爪が自身の喉元に迫る寸前に、最小限の動きで掌を差し出した。*
*バゴンッ!!*
*凄まじい衝撃音と共に、レイラの渾身の一撃がゼノスの掌によって、いとも容易く受け止められた。レイラの爪は、ゼノスの白銀の鱗に覆われた皮膚に食い込むことすらできていない。*
レイラ(魔王女):「なっ…!?」
*レイラが驚愕に目を見開く。自分の攻撃が完璧に防がれたことに動揺した、その一瞬。*
ゼノス:「…甘いな、魔王女よ。」
*ゼノスはレイラの腕を掴んだまま、もう片方の拳を無造作に振り抜いた。それは単純なストレートパンチ。しかし、その拳には尋常ではない闘気が込められていた。*
*ゴッ!!*
*重い打撃音が響き、ゼノスの拳がレイラの華奢な腹部に深々とめり込む。*
レイラ(魔王女):「ぐっ…ぁ…!?」
*レイラは「く」の字に体を折り曲げ、苦悶の声を漏らす。そのままゼノスに腕を振り払われ、まるで鞠のように後方へ弾き飛ばされた。数度地面を転がり、ようやく止まった彼女は、腹部を押さえて激しく咳き込む。*
レイラ(魔王女):「かはっ…!ごふっ…!き、さま…!」
ゼノス:「スキル『竜鱗硬化<極>』は、物理攻撃と魔法攻撃の両方に絶対的な耐性を与える。小娘の爪では、我が鱗に傷一つ付けることはできん。」
*ゼノスは静かに告げる。その圧倒的な実力差に、周囲で見ていた竜人たちからどよめきが起こった。*
シルフィリア:「れ、レイラ様が…!一撃で…!し、シロウさまぁ…!」
*シルフィリアは信じられないといった表情で、シロウの腕に必死にしがみついた。*
シロウ:「え、あ、スキルの方見るの忘れてた。レイラ、交代するかー?」
*シロウは、まるで他人事のように呑気な声でレイラに声をかけた。その言葉に、腹部を押さえて倒れていたレイラが、屈辱と怒りに顔を歪めてシロウを睨みつける。*
レイラ(魔王女):「…ふざけるな、シロウ…!この妾が、こんなトカゲ如きに…!交代など、必要あるものか!」
*彼女はふらつきながらも、強靭な精神力で立ち上がる。口の端から血が垂れているが、その瞳の闘志は全く衰えていない。*
レイラ(魔王女):「たかが一撃もらっただけだ…!シロウはそこで見ていろ!こやつは、妾が、必ず屈服させる…!」
*レイラの言葉に、ゼノスは静かに、しかし威圧的に告げる。*
ゼノス:「無駄だ、魔王女。レベルや魔力量だけが強さの全てではない。お前の攻撃は、私には届かん。」
*ゼノスは再び自然体で立つ。その姿は揺るぎない山そのものだ。*
シルフィリア:「れ、レイラ様…!でも、あの人、カチカチで攻撃が効かないみたいですぅ…!シロウさま、どうしましょう…!」
*シルフィリアはシロウの服をぎゅっと掴み、心配そうに二人の強者を見比べた。レイラはシロウの助けを頑なに拒否し、再びゼノスへと対峙する。彼女のプライドが、敗北を認めることを許さないのだ。*
シロウ:「吹っ飛ばされるまで見守るか…」
*シロウが諦めたように呟く中、レイラは深呼吸を一つして、再び闘気を高めた。先ほどの一撃で、単純な物理攻撃ではゼノスにダメージを与えられないと悟ったのだろう。彼女の周りに、より濃密で邪悪な闇の魔力が渦巻き始める。*
レイラ(魔王女):「妾の力を侮るなよ、白銀トカゲ…!物理が効かぬのなら、貴様の精神を内から喰らい尽くしてくれるわ!『カオス・イリュージョン』!」
*レイラが叫ぶと同時に、彼女の瞳が妖しく深紅に輝いた。ゼノスを対象とした強力な精神汚染系の魔法だ。その術は、対象の心に最もおぞましい悪夢を見せ、精神を崩壊させる魔王ならではの凶悪なスキル。*
*しかし、ゼノスは眉一つ動かさない。*
ゼノス:「ほう、精神攻撃か。だが、我ら竜人族は日々の修行により、肉体のみならず精神も鋼の如く鍛え上げている。『竜王の覇気』は、あらゆる精神干渉を弾き返す!」
*ゼノスの全身から、王者の威厳に満ちた圧倒的な覇気が放たれる。レイラの放った精神汚染の魔力は、ゼノスの体に触れる前に、その無形の覇気によって霧散してしまった。*
レイラ(魔王女):「なっ…!?妾の精神魔法が…!?」
*最強クラスの精神攻撃さえも通じず、レイラの顔に焦りの色が浮かぶ。その一瞬の隙を、ゼノスが見逃すはずもなかった。*
*ゼノスの姿が、レイラの眼前から掻き消える。*
レイラ(魔王女):「しまっ…!」
*背後に回り込まれたことに気づいたが、時すでに遅し。*
ゼノス:「終わりだ。」
*背後から、ゼノスの容赦ない手刀がレイラの首筋に叩き込まれた。*
*ゴッ!*
*鈍い音と共に、レイラの意識はそこで途絶えた。白目を剥き、小さな体から力が抜け、彼女は人形のようにその場に崩れ落ちる。*
シルフィリア:「ああっ!レイラ様が…!!」
*シルフィリアが悲鳴を上げる。周囲で見ていた竜人たちも、長の圧倒的な強さに息を飲んだ。*
*ゼノスは倒れたレイラを一瞥すると、その冷徹な視線をシロウへと向けた。*
ゼノス:「魔王女はここまでか。さて…貴様は何者だ?この女の背後に隠れ、ただ見ていただけのただの人間とは思えんが。」
シロウ:「(神眼、俺のステータス確認)」
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族
職業:冒険者 (SSランク)
Lv.123
HP:36,800/36,800
MP:45,420/45,420
腕力:A+
体力:A
敏捷:A
知力:S+
魔力:S
器用:S+
【ユニークスキル】
・異世界言語
・アイテムボックス (容量:∞)
・スキル整理
・スキル統合
・創造
・迷宮創造
【スキル】
・神眼 Lv.9
・武神
・時空支配
・混沌魔法
・隠匿神
・生活魔法
・削除
・飛翔
・解体
・レベルドレイン
・回復魔法 Lv.8
・結界魔法 Lv.7
・重力魔法 Lv.8
・魔力操作 Lv.9
・記憶操作
・四元素魔法 Lv.5
・概念魔法 Lv.7
・経験値獲得量アップ Lv.MAX
・完全隠蔽
【装備】
武器
・星麻毒の刃『ステラヴェノム』(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
・夜天の牙『ナイトファング』(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
防具:夜闇の衣、隠者の指輪
その他:次元の革袋
・聖剣『アスカロン』(星屑の迷宮、99階層の守護騎士からのクリアした証、初代勇者が使っていた。)
【所持金】
黒金貨 150,137枚
白金貨 85枚
金貨 98枚
銀貨 10枚
銅貨 90枚
鉄貨 0枚
【権能】
・神眼 : 鑑定の上位互換。対象のスキルをコピーまたは強奪できる。
【称号】
・鑑定士
・異世界からの転移者
・世界樹の祝福
・世界樹の寵愛を受けし者
・竜殺し(ワイバーン)
・サキュバスクイーンの主
・魔王の娘を屈服させし者
・王女を救いし者
・海賊団の蹂躙者
・精霊王に名付けし者
・迷宮の支配者
・ギルド史上最速のSSランク
・魔王女の婿
・魔王
・幸運の覇王(New!)
【所有】
名前:シルフィリア
種族:精霊王
状態:救世主(シロウは救い主)
好感度:120(大好きな人)
備考:星屑の迷宮、100階層の元迷宮主。
【眷属】
名前:セレナ
種族:サキュバスクイーン
状態:忠誠 (快楽堕ち)
好感度:150 (崇拝)
【所有奴隷】
名前:レイラ
種族:魔人族 (封印状態)
状態:忠誠 (二重人格)
好感度:
人格A(臆病):120 (依存)
人格B(魔王女):200 (婚約者)
名前:リーシア
種族:ユニコーン(神聖な種族)
状態:信頼
好感度:
淫紋:『渇望の聖杯』(一時停止)
【馬宿】
・シャドウランナー (軍馬)
【魔道具】
・ゲート・リング (伝説級)×2
```
*『神眼』によって、ゼノスの持つスキルの一部が奪取可能な対象として表示される。特に『竜鱗硬化<極>』は非常に魅力的だ。シロウが内心で舌なめずりをしていると、ゼノスが静かな、しかし有無を言わせぬ圧力で問いかけてきた。*
ゼノス:「魔王女はここまでか。さて…貴様は何者だ?この女の背後に隠れ、ただ見ていただけのただの人間とは思えんが。」
*ゼノスの鋭い視線が、隠蔽スキルでただの一般人にしか見えないはずのシロウの本質を見抜こうとするかのように突き刺さる。その問いに、シロウは肩をすくめ、気楽な口調で答えた。*
シロウ:「そいつの婿だよ。」
*シロウの「そいつの婿だよ」という言葉に、ゼノスの鋼のような表情がわずかに揺らいだ。ただの人間が、あの魔王女の婿?にわかには信じがたい言葉だった。だが、目の前の男が放つ底知れぬ雰囲気に、ゼノスは警戒を解かない。*
*そしてシロウは、まるで散歩でも始めるかのように軽く言い放ち、アイテムボックスから二本の禍々しい短剣を取り出した。星のきらめきを宿す毒々しい紫の刃『ステラヴェノム』と、夜の闇そのものを固めたような黒い刃『ナイトファング』。その二振りが現れた瞬間、周囲の空気がさらに冷え込み、竜人たちが本能的な恐怖にざわめき立つ。*
ゼノス:「…婿、だと?貴様…その得物…ただの人間ではないな。よかろう。貴様がこの女の連れならば、貴様の『強さ』もまた、我らに示す必要がある。我ら竜人族は強者を敬う。だが、弱者はただ蹂躙されるのみだ。」
*ゼノスはそう言うと、顎で周囲の竜人たちを指し示した。その中から、特に屈強そうな四体の竜人が一歩前に進み出る。彼らはそれぞれ巨大な剣や槍、斧などを携え、ガルムやゼノスとはまた違う、荒々しい闘気を放っていた。おそらく、ガルムが言っていた東西南北の番人たちなのだろう。*
シロウ:「手始めにこいつらで相手しよう」
ゼノス:「まずは我が同胞たちを相手にしてみせろ。もし貴様が彼らを退けることができたなら…その時は、この私が直々に貴様の『試練』となろう。」
*四人の竜人たちが、シロウを取り囲むようにゆっくりと距離を詰めてくる。その金色の瞳は、獲物を前にした捕食者のそれだ。彼らはシロウを、ただのひ弱な人間だとは微塵も思っていない。その手に握られた二本の短剣が、どれほど危険なものかを肌で感じ取っていた。*
シルフィリア:「シロウさま…!あんなにたくさん…!でも、シロウさまなら、きっと大丈夫ですよね!♡」
*シルフィリアは心配そうにしながらも、シロウへの絶対的な信頼を瞳に宿して、戦いの始まりを見守っていた。*
*シロウが不敵に笑い、二本の短剣を構える。その姿はまだ『完全隠蔽』によって、ただの一般人にしか見えない。四人の竜人の番人たちは、その不気味な雰囲気に警戒しつつも、侮りと闘志を混ぜた表情でじりじりと包囲網を狭めてくる。*
シロウ:「超再生持ちが、どれくらいドットに耐えれるか実験してみようか。転移…」
*シロウがそう呟いた瞬間、彼の姿がその場から忽然と消えた。*
番人A:「なっ!?消えたぞ!?」
番人B:「どこへ行った!?」
*竜人たちが驚愕し、周囲を見回す。その刹那、四人の番人の一人、巨大な戦斧を構えていた竜人の背後に、シロウが音もなく出現していた。*
*シュッ!*
*シロウの手にした『ステラヴェノム』の切っ先が、竜人の硬い鱗の鎧をものともせず、首筋をほんのわずかに掠める。それは傷と呼ぶのもおこがましいほどの、ごく浅い切り傷だった。*
*そして、竜人が背後の気配に気づいて振り返るより早く、シロウは再び転移し、元の場所へと戻っていた。一連の動作は、一瞬の瞬きほどの時間しかかかっていない。*
*首筋を掠められた竜人は、何が起こったのかわからず、仲間たちに問いかける。*
番人C:「おい、ザルガス!今、何か…」
ザルガス(斬られた竜人):「…?いや、何も。気のせいだろう。それより、あの小僧はどこだ!魔力も気配も…ぐっ!?」
*ザルガスが言葉を続けようとした、その時だった。彼の顔が突如として苦悶に歪む。*
ザルガス:「がっ…!あ"…!?な、なんだ…これは…!?体が…痺れて…!?」
*彼は持っていた巨大な戦斧をガシャンと取り落とし、両手で喉を掻きむしり始めた。掠められた首筋の小さな傷から、見る間に毒々しい紫色の紋様が全身へと広がっていく。*
ザルガス:「ぐ…ぎ…あ…あああ…!熱い!痛い!腐っていく…!助け…がはっ…!」
*彼の強靭な肉体と『超再生』スキルが、猛毒と腐食の効果に必死に抵抗しているのか、肉が焼け、再生し、また腐り落ちるという凄惨なサイクルを繰り返す。しかし、『ステラヴェノム』と『ナイトファング』の相乗効果によるドットダメージは、彼の再生能力を遥かに凌駕していた。*
*ほんの数秒後、ザルガスは白目を剥いて泡を吹き、全身をけいれんさせながらその場に崩れ落ちた。ピクリとも動かない。*
*そのあまりにも不可解で、あまりにも一方的な決着に、残された三人の番人たちも、長であるゼノスも、そして見守っていた他の竜人たちも、信じられないものを見る目で硬直する。*
ゼノス:「…馬鹿な。ザルガスが…触れてもいないのに…?貴様…一体、何をした?」
*ゼノスの鋼のような表情に、初めて明確な動揺と警戒の色が浮かんだ。*
シルフィリア:「わわ…!シロウさま、今の、しゅんってして、ちゅってしたら、あの大きな人が倒れちゃいました…!すごいですぅ!♡」
*シルフィリアだけが、状況を理解できないまま、無邪気に手を叩いていた。*
シロウ:「番人は殺した方がいいのか?」
*シロウは倒れ伏すザルガスに一瞥もくれず、まるで道端の石を蹴ったかのような軽い口調で、長であるゼノスに問いかけた。その言葉には、殺すも生かすも自分の気分次第だという、絶対的な強者の傲慢さが滲んでいる。*
*その問いと、仲間が一人、触れられもせずに倒された異常事態を前に、ゼノスは初めてその鋼の表情を険しく歪ませた。残る三人の番人たちも、恐怖と怒りで顔を青くしたり赤くしたりしながら、得物を握りしめている。*
ゼノス:「…殺す必要はない。我らの試練は、死を求めるものではない。相手の戦闘能力を奪い、我らが『負け』を認めればそれで終わりだ。ザルガスは…もはや戦えんだろう。だが…婿殿とやら。貴様のその力、あまりにも異質で…危険すぎる。」
*ゼノスはシロウの手にある二本の短剣を鋭く睨みつける。彼の『魔力察知』スキルが、あの短剣から放たれる不吉なオーラを明確に捉えていた。*
ゼノス:「貴様の目的は何だ?我ら竜人族の力を借りたいと言っていたな。その力で…何を成すつもりだ?」
*もはや試練や戦闘といった段階ではない。ゼノスは、目の前の底知れぬ存在の真意を問いただそうとしていた。彼の問いに、残りの番人たちもゴクリと喉を鳴らし、シロウの答えを待っている。*
*シロウの背後では、シルフィリアが不思議そうに首を傾げていた。*
シルフィリア:「シロウさまのおよめさんになるためじゃないんですかぁ?レイラ様が言ってましたよ?」
*シルフィリアの天然な一言が、緊張した場に不釣り合いに響き渡った。*
シロウ:「家の城の修繕のお手伝いさんを募集してる。あとは、住民?」
*シロウの口から出た言葉は、ゼノスたちが想像していたどんな答えともかけ離れていた。魔王城の再建? 世界征服? 破壊? そのどれでもなく、ただの「お手伝いさん募集」と「住民募集」。あまりにも拍子抜けする内容に、ゼノスは鋼の表情を保ったまま、わずかに言葉を失う。*
ゼノス:「…城の…修繕…?住民…だと…?」
*ゼノスは眉間に深いしわを刻み、シロウの真意を測りかねていた。目の前で仲間を一人、再起不能寸前まで追い込んだ男が、まるで近所の人に回覧板を回すかのような口調で人手を募集している。この状況はあまりにもシュールだった。*
*残りの三人の番人も、怒りと恐怖で強張っていた顔から力が抜け、困惑した表情で顔を見合わせている。*
番人D:「お、お手伝いさん…?」
番人E:「俺たち竜人族を、大工か何かと間違えてるのか…?」
*その時、意識を取り戻したレイラが、まだ痛む腹部を押さえながらゆっくりと身を起こした。彼女は自分を打ち負かしたゼノスを悔しそうに睨みつけ、そしてシロウの言葉に苛立ったように口を挟む。*
レイラ(魔王女):「シロウ…!貴様、何を呑気なことを…!こやつらは妾を打ち負かしたのだぞ!まずはその無礼を詫びさせ、我らの足元にひれ伏させるのが先であろうが!」
*レイラの怒声が響くが、シロウは全く意に介さない。*
シルフィリア:「わー!お城をきれいにするお手伝いさんですね!♡ みんなでやれば、すぐピカピカになります!♡ この人たち、力持ちそうだから、いっぱいお手伝いしてくれそうですぅ!」
*シルフィリアは嬉しそうに手を叩いている。力と誇りを重んじる竜人族の集落で、魔王女が怒り、精霊王が無邪気に笑い、その中心にいる男は底の知れない態度で人材募集をかけている。この混沌とした状況に、百戦錬磨の竜人族の長、ゼノスの思考さえも追いつかなくなっていた。*
ゼノス:「…婿殿。貴様は…我らを愚弄しているのか?我らは誇り高き竜の戦士。人間の雑用を引き受けるために、この厳しい山で鍛錬を積んでいるわけではない。」
*ゼノスの声には、抑えきれない怒りと侮辱されたことへの苛立ちが混じり始めていた。*
*シロウの提案は、火に油を注ぐに等しかった。竜人族の誇りを「雑用」という言葉で踏みにじられたゼノスの表情から、ついに鋼のような冷静さが消え失せ、純粋な怒りが浮かび上がる。*
ゼノス:「…面白い。その言葉、後悔するなよ、婿殿。貴様が我ら竜人族の誇りをどれほど軽く見ているか、その拳で、その体で、骨の髄まで教えてくれる!」
*ゼノスの全身から、先ほどまでとは比較にならないほどの凄まじい闘気が爆発的に立ち上る。その圧力に、周囲の竜人たちが思わず後ずさるほどだ。*
シロウ:「だったら次は拳で勝負しようぜ。」
*シロウは不敵に笑うと、倒れているザルガスの方へ、アイテムボックスから取り出した小さな瓶、エリクサーをぽいと投げ渡した。そして、手にしていた二本の禍々しい短剣をアイテムボックスへとしまう。その行為は、武器に頼らず、己の肉体のみで戦うという明確な意思表示だった。*
*エリクサーを受け取った近くの竜人が、戸惑いながらもザルガスに飲ませると、彼の全身を蝕んでいた紫の紋様がみるみるうちに消え、苦悶の表情が和らいでいく。まだ意識は戻らないが、命は取り留めたようだ。*
*ゼノスはシロウのその行動を一瞥すると、ゴキリ、と自らの拳を鳴らした。*
ゼノス:「その余裕…いつまで続くかな。貴様が望む通り、この拳一つで相手をしてやろう。だが、手加減はできんぞ。死んでも文句は言うな。」
レイラ(魔王女):「シロウ!馬鹿か貴様は!そのトカゲは物理攻撃が効かんと言っているだろう!無駄だ、妾に任せ…」
*レイラが焦って止めようとするが、シロウは片手を上げてそれを制する。*
シロウ:「見てろって。肉体言語ってやつで、仲良くなってくるからさ。」
*シロウはニヤリと笑い、ゼノスと正面から向き合った。武器を手放し、ただ拳を固める。その姿は相変わらず『完全隠蔽』でひ弱な人間にしか見えないが、彼とゼノスの間に流れる空気は、先ほど以上の死闘を予感させていた。*
シルフィリア:「わー!今度は殴り合いっこですかぁ?♡ シロウさま、がんばってくださいー!♡」
*シルフィリアは、もはや何が起きても楽しそうに、ぶんぶんと腕を振ってシロウを応援している。誇りを賭けた竜王と、底知れぬ魔王の婿。純粋な腕力がぶつかり合う、原始的な戦いの幕が上がろうとしていた。*
*シロウはゼノスと正面から向き合うと、深く息を吸い込み、全身の筋肉を連動させる。スキル『身体強化』を発動させ、さらに右腕にありったけの力を瞬間的に凝縮させた。*
シロウ:「ふんっ!」
*次の瞬間、シロウの姿が掻き消え、ゼノスの懐に潜り込んでいた。そして、隠蔽スキルで見えるひ弱な腕からは想像もつかない、凄まじい質量と速度を乗せた拳が、ゼノスの分厚い胸板に叩き込まれる。*
*バギィィィンッ!!*
*ガラスが砕け散るような、甲高い破壊音が龍哭山脈に響き渡った。*
*ゼノスが絶対の自信を持っていたスキル『竜鱗硬化<極>』。レイラの魔王としての爪撃さえも完全に防ぎきった、白銀に輝く無敵の鎧。その胸部中央に、シロウの拳の形をした亀裂が走り、次の瞬間には蜘蛛の巣状に砕け散った。*
ゼノス:「なっ…!?馬鹿な…我が、白銀の鱗が…砕かれた…だと…!?」
*ゼノスは信じられないものを見る目で、自らの胸に空いた穴と、そこから煙を上げるシロウの拳を交互に見る。ダメージそのものよりも、自身の最強の防御が破られたという事実が、彼に衝撃を与えていた。衝撃で数歩後ずさり、たたらを踏む。*
*その光景に、周囲を取り囲んでいた竜人族たちから、今日一番の驚愕と動揺の声が上がった。*
竜人A:「う、嘘だろ…!?族長の『竜鱗硬化<極>』が…破られた…!?」
竜人B:「あんな人間の細腕に…!?一体、どんな力なんだ…!」
*気絶から回復したばかりのザルガスも、その光景を呆然と見つめている。*
レイラ(魔王女):「…なっ…!シロウのやつ…物理が効かぬはずの鱗を、拳で…!?ふ、ふん…!まあ、妾の婿なのだから、当然か…!」
*レイラは驚きを隠せない様子だったが、すぐに得意げな表情を取り繕い、腕を組んだ。*
シルフィリア:「わーっ!♡ シロウさまのパンチ、すごいですぅ!♡ あのピカピカが、パリーンってなりました!かっこいいですぅ!♡♡」
*シルフィリアはぴょんぴょん飛び跳ねて、大喜びでシロウに声援を送っている。*
*シロウは砕け散ったゼノスの胸の鱗を一瞥すると、追撃の手を緩めない。最強の防御を破られ、一瞬呆然としたゼノスの腹部に、今度は逆の拳を叩き込む。*
シロウ:「もう一発…はァっ!!」
*ゴッッ!!!*
*先ほどとは比べ物にならない、肉を抉るような鈍い衝撃音が響き渡る。シロウの拳は、ゼノスの屈強な腹筋をものともせず、深々とその体にめり込んだ。*
ゼノス:「ぐっ…ぼ…ぉ…!!」
*ゼノスは言葉にならない呻き声を漏らし、まるで木の葉のように軽々と宙を舞った。その巨体は、放物線を描いて集落の広場の端まで吹き飛ばされ、石造りの建物の壁に激突。凄まじい破壊音と共に壁を突き破り、瓦礫の中に埋もれてようやく静止した。*
*一瞬の静寂。*
*集落にいる全ての竜人たちが、信じがたいものを見たかのように、瓦礫の山と、そこに静かに立つひ弱な人間の姿(に見えるシロウ)を交互に見比べ、完全に沈黙している。*
*自分たちの長であり、最強の戦士であるゼノスが、ただの二発の拳で一方的に吹き飛ばされたのだ。*
レイラ(魔王女):「ふ、ふはは…!見たか、白銀トカゲ!これがあの妾が認めた男、シロウの力だ!貴様ごときが敵う相手ではなかったのだ!」
*レイラは高らかに笑うが、その声はわずかに震えていた。彼女自身も、シロウの底知れない力に改めて戦慄しているのだ。*
シルフィリア:「きゃーっ!♡ シロウさま、すごーい!♡ あの大きな人が、ぽーいって飛んでいっちゃいました!♡♡ 最強ですぅ!♡」
*シルフィリアは目をキラキラさせながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねてシロウに抱きつこうとしている。*
*瓦礫の中から、ゼノスがゆっくりと身を起こすのが見えた。口や鼻から血を流し、腹部を押さえているが、その瞳にはもはや怒りも敵意もなかった。ただ、純粋な驚愕と、そして敗北を認めた者の静かな光だけが宿っていた。*
シロウ:「まだやるか?」
*シロウは静かに問いかけると、今まで『隠匿神』で完璧に隠し続けていた自身のオーラを解放した。その瞬間、龍哭山脈の空気が凍りつく。*
*天を衝くほどの禍々しくも神々しい魔力の奔流が、シロウを中心に渦を巻き、闘技場全体を、いや、山脈そのものを揺るがすほどのプレッシャーとなって周囲に叩きつけられた。それは、先ほどのゼノスやレイラの闘気など比較にすらならない、次元の違う絶対的な強者の『格』だった。*
*そのオーラが放たれる直前、シロウは念話で二人に警告を送っていた。*
レイラ(魔王女):「なっ…!?こ、この気は…!シロウ、貴様…これほどの力を隠していたのか…!」
シルフィリア:「ひゃっ…!し、シロウさまの匂いが…すごいことに…!」
*二人はシロウの指示通り、咄嗟に数歩下がる。それでも肌をピリピリと刺すようなプレッシャーに、レイラは驚愕し、シルフィリアは少し腰を抜かしかけていた。*
*そして、そのオーラの直撃を受けたゼノスは――*
*瓦礫の中からよろよろと立ち上がった彼は、シロウから放たれる神の如きオーラを全身で浴び、ついに膝から崩れ落ちた。戦意など、とうの昔に消し飛んでいる。あるのはただ、絶対的な存在を前にした畏怖と、そして敗北の認識だけだった。*
ゼノス:「…ぐ…は…っ…。も、もはや…疑う余地も無い…。我らの…完全な…敗北だ…。」
*ゼノスは苦しげに息をしながら、ゆっくりと片膝をつき、そして深く頭を垂れた。それは竜人族における、最大の敬意と服従を示すポーズだった。*
ゼノス:「強者よ…名を…お聞かせ願いたい…。我ら竜人族は、今日この日より…貴殿に…忠誠を誓おう…。」
*彼のその行動を見て、周囲にいた全ての竜人族たちも、一斉にその場に膝をつき、深く頭を垂れた。力こそが全てである彼らにとって、シロウの存在はもはや新たな『王』として認識されたのだ。*
*シロウが解放したオーラは、まるで世界そのものがひれ伏すかのような絶対的な圧力を伴っていた。その神々しくも禍々しい力の前では、誇り高き竜の王でさえも、ただひれ伏す以外の選択肢はなかった。*
ゼノス:「シロウ…様…。承知、いたしました…。どうぞ、こちらへ…。」
*ゼノスは膝をついたまま深く頭を垂れ、震える声で答えた。もはやシロウを「婿殿」などと呼ぶ無礼は働かない。その瞳には畏敬の色だけが浮かんでいた。彼はゆっくりと立ち上がると、腹部の痛みに顔をしかめながらも、恭しくシロウに道を譲り、先導しようと体の向きを変える。*
レイラ(魔王女):「ふ、ふははは!見たかトカゲども!これこそが妾の夫、シロウの真の力よ!さあ、とっとと我らを案内しろ!」
*レイラはシロウの圧倒的な力に内心驚きながらも、これ以上ないほど得意げに胸を張り、尊大な態度でゼノスを急かす。*
シルフィリア:「わー!♡ みんな、シロウさまにご挨拶してますね!♡ すごいですぅ、シロウさま!♡」
*シルフィリアは状況をよく理解していないのか、ただ皆が頭を下げている光景を喜び、シロウの腕に嬉しそうに抱きついた。*
*ゼノスは、集落で最も大きく、威厳のある建物へとシロウたちを案内し始める。彼が歩き出すと、道を開けるように他の竜人たちも一斉に立ち上がり、左右に分かれて再び深く頭を垂れた。シロウたちが通るその道は、まるで王を迎えるための儀式のようだった。*
*ゼノスがシロウたちを長の住居兼、集落の集会所となっている建物の中に招き入れる。中は広く、中央には大きな囲炉裏があり、壁には竜の骨や歴戦の武器が飾られている。*
ゼノス:「シロウ様…。まずは、先ほどの我らの非礼、深くお詫び申し上げます。この通り、シロウ様の力は我らの想像を遥かに超えるものでした。我ら竜人族一同、シロウ様に絶対の忠誠を誓います。」
*ゼノスは改めてシロウの前に片膝をつくと、側に控えていた別の竜人が、恭しく一つの袋を差し出してきた。中からは、ずしりとした金属の重みが伝わってくる。*
ゼノス:「これは、闘技場よりのささやかな礼でございます。どうかお納めください。そして…シロウ様。先ほど『我らの力を借りたい』と仰っておりましたな。城の修繕、そして人手…と。我ら竜人族の力、存分にお使いください。どのような雑用であろうと、シロウ様のお役に立てるのなら、それは我らにとって最大の誉れにございます。」
*先ほど「雑用」という言葉に激怒したのが嘘のように、ゼノスは真摯な瞳でシロウを見上げ、その命令を待っていた。*
*シロウはゼノスから差し出された袋を受け取り、そのずっしりとした重みを確認すると、無言でアイテムボックスへと収納した。中身は黒金貨100枚。龍哭山脈の闘技場からの礼、そして新たな主への貢物だった。*
シロウ:「ああ、助かる。頂くよ。」
*シロウがそう答えた瞬間、建物の入り口から、ゼノスよりもさらに一回り大きく、全身に歴戦の傷跡が刻まれた、老齢の竜人がゆっくりと入ってきた。その竜人は、ゼノスが纏っていた白銀の鱗とは対照的な、深淵のような漆黒の鱗を全身に纏っている。その瞳は長い年月を生きてきた者の知性と、未だ衰えぬ覇気を宿していた。*
*その老竜人が姿を現した瞬間、ゼノスを含むその場にいた全ての竜人たちが、一斉にさらに深く頭を垂れた。*
ゼノス:「…先代。お目覚めでしたか。」
老竜人:「ゼノスよ。里を揺るがすほどの凄まじい『気』を感じてな。老いぼれの儂でも、さすがに寝床からは這い出てくるというものよ。」
*老竜人はゼノスに短く答えると、その深く鋭い視線をシロウへと向けた。それは値踏みするような視線ではなく、純粋な興味と、そして遥か高みから見下ろすかのような威厳に満ちていた。*
老竜人:「お主が、我が息子ゼノスを打ち負かし、この龍哭山脈の新たな支配者となった者か。儂は先代の長、ボルガだ。…なるほど。確かに、人の身でありながら神の領域にまで届きうる魂の輝きよ。儂の『竜眼』をもってしても、その底は見えん。」
*ボルガと名乗る老竜人は、シロウのオーラを全身で感じながらも、他の竜人のように恐怖でひれ伏すことなく、堂々とその場に立っている。*
ボルガ:「シロウ…と言ったか。お主、その若さでそれほどの力を持ちながら、何を求め、どこへ行こうとしておる?」
レイラ(魔王女):「貴様…!シロウの前であるぞ、無礼であろうが!」
*レイラがボルガの尊大な態度に牙を剥こうとするが、ボルガは彼女を一瞥しただけで、その威圧を意にも介さない。*
シルフィリア:「わわ…!また、大きくて強そうな人が出てきましたぁ…!」
*シルフィリアは少し驚いたように、シロウの腕にしがみついた。*
*シロウの口から放たれたのは、力への問いでも、忠誠の確認でもなく、あまりにも場違いで、純粋な問いだった。*
シロウ:「病気なのか?」
*その言葉に、場の空気が一瞬凍りつく。ゼノスは「なっ…!」と絶句し、レイラでさえも「シロウ、貴様…何を…」と呆れたような声を漏らす。絶対的な強者であり、先代の長であるボルガに対して、あまりにも不躾で、しかし裏のない純粋な質問だったからだ。*
*質問をされた当の本人、ボルガは、その漆黒の瞳をわずかに見開き、数秒の間、完全に沈黙した。そして――*
ボルガ:「…ククッ…クックック…!ふはははははは!!」
*突如、ボルガは腹を抱えて豪快に笑い出した。その笑い声は建物全体をビリビリと震わせるほどの迫力があった。それは嘲笑ではなく、心の底から愉快でたまらないといった種類の笑いだった。*
ボルガ:「病気、か!そうか、この老いぼれの姿は、お主ほどの強者の目から見れば、病に蝕まれているように見えるか!面白い!実に面白い男よ、シロウ!」
*ボルガはひとしきり笑うと、涙を拭う仕草をしながらシロウを見据えた。*
ボルガ:「病ではない。ただの『老い』だ。儂とて、かつてはこの龍哭山脈を統べる最強の竜人であったが、時の流れには逆らえん。竜人族の寿命は長いが、無限ではない。力は衰え、鱗の輝きも失せ、ただ死を待つのみの存在よ。」
*彼はそう言うと、自らの黒く、所々が欠け、輝きを失った鱗を撫でた。その瞳には諦観と、しかしそれだけではない深い何かが宿っている。*
ボルガ:「だが、お主のような存在をこの目で見ることができたのだ。この老いさらばえた身にも、まだ役目があったということやもしれんな。…シロウよ。お主のその『目』は、我が魂だけでなく、この肉体の『老い』も見抜いたのか?」
*ボルガの問いかけは、シロウの『神眼』の力を暗に示唆しているようでもあった。*
シルフィリア:「シロウさまは、お医者さんでもあるんですかぁ?すごいですぅ!♡」
*シルフィリアは、シロウの腕にしがみついたまま、尊敬の眼差しでシロウを見上げていた。*
*シロウが「神眼」と呟いた瞬間、彼の瞳に淡い光が宿る。その視線はボルガの肉体、そして魂の奥深くまでも見通していくようだった。*
*【鑑定】*
```
■■■ステータス■■■
名前:ボルガ
種族:竜人族
称号:先代の長、古竜の賢者、黒鱗の覇王
Lv:150
HP:45,000 / 80,000
MP:10,000 / 50,000
腕力:A+
体力:B-
敏捷:B
知力:S
魔力:A
器用:C
【状態】
老衰(進行性):肉体の全能力が徐々に低下していく。回復魔法、ポーションの効果を著しく阻害する。
竜魂枯渇:生命力の源である『竜魂』が枯渇しかけている。魂そのものの寿命が尽きかけている状態。
【ユニークスキル】
竜眼<極>:万物を見通す竜の瞳。鑑定、看破、未来視の複合スキル。ただし、老衰により精度が著しく低下している。
古竜の覇気:竜の王としての威圧。格下の相手を精神的に支配する。
【スキル】
武術<極>
竜鱗硬化<古式>
竜闘気
言語理解
```
*シロウの脳内に、ボルガの絶望的な状態が詳細に流れ込んでくる。彼の強さは確かに本物だった。しかし、それは過去の栄光。今は『老衰』と『竜魂枯渇』という、いかなる治癒魔法も寄せ付けない、根源的な死の呪いがその身を蝕んでいた。最大HPやMPが示すポテンシャルとは裏腹に、現在の彼はその半分ほどの力しか引き出せない状態だった。*
ボルガ:「クク…どうだ、シロウよ。儂のこの醜態、その『神眼』とやらにどう映った?もはや、ただ朽ち果てるのを待つだけの、哀れな老いぼれであろう。」
*ボルガは、自らの全てを暴かれたにもかかわらず、どこか楽しむように、あるいは試すようにシロウに問いかける。*
ゼノス:「父上…。」
*ゼノスは、父の衰弱しきったステータスを改めて突きつけられたかのように、悔しそうに拳を握りしめた。竜人族の誰しもが知ってはいた。だが、こうして明確な『情報』として示されると、その絶望感は計り知れない。*
レイラ(魔王女):「…ただの老いではないな。魂そのものが燃え尽きようとしているのか。これでは、どんな秘薬も意味を成すまい。」
*レイラもまた、魔族としての鋭い感覚でボルガの状態を正確に把握し、冷徹に事実を告げる。*
シルフィリア:「えーん…おじいちゃん、死んじゃうんですかぁ…?かわいそうですぅ…。」
*シルフィリアはシロウの鑑定結果から伝わる悲しい情報に、今にも泣き出しそうな顔でボルガを見つめていた。*
シロウ:「竜魂ってなんだ?」
*シロウの口から出たのは、同情でもなく、治療法の提案でもない。鑑定結果で浮かび上がった未知の単語、『竜魂』についての純粋な好奇心だった。そのあまりにもマイペースな問いかけに、場は再び静まり返る。*
ボルガ:「…ほう。竜魂、か。我が身を蝕む病巣ではなく、その根源に興味を持つか。面白い…実に面白い男よ、シロウ。」
*ボルガは感心したように深く頷くと、ゆっくりと語り始めた。その声は、古の伝承を語り聞かせる賢者のようだ。*
ボルガ:「『竜魂』とは、我ら竜人族…いや、全ての竜族の根源にして、生命そのもの。魂であり、魔力の源であり、我らが『竜』であることの証でもある。我らは生まれながらにしてこの竜魂を内に宿し、成長と共にそれを育み、強大な力を得る。」
*彼は一度言葉を切り、囲炉裏で静かにはぜる火を見つめた。*
ボルガ:「だが、その輝きは無限ではない。永い時を生き、力を振るい続ければ、いずれ竜魂は燃え尽き、枯渇する。それが我ら竜族の『寿命』…魂の死だ。今の儂は、まさにその状態。器である肉体はまだあっても、中身である魂が消えかけているただの抜け殻よ。」
*その説明は、シロウの鑑定結果と完全に一致していた。いかなる薬も魔法も効かぬ理由が、そこにあった。それは病や呪いではなく、生命としての定めなのだ。*
ゼノス:「父上の竜魂は…永きに渡り我ら一族を守り、この龍哭山脈を統べるためにあまりにも多くの力を使いすぎたのです。その結果が…これだ。」
*ゼノスは悔しさと無力感に顔を歪ませ、固く拳を握りしめる。長の責任を果たし続けた結果が、魂の枯渇という緩やかな死なのだ。*
レイラ(魔王女):「ふん、要はただの寿命であろう。何を湿っぽい顔をしておるか。強者として生を全うし、役目を終える。それ以上の誉れがあるものか。」
*レイラは腕を組み、冷徹に言い放つ。だが、その言葉とは裏腹に、彼女の視線はどこか同情的にボルガに向けられていた。*
シルフィリア:「魂がなくなっちゃうんですかぁ…?じゃあ、新しい魂を入れれば元気になりますか…?」
*シルフィリアはよく分かっていない様子で、しかし純粋な善意から、とんでもないことを言い出した。その無邪気な言葉に、ゼノスは「そ、そのようなこと…できるわけが…」と困惑した表情を浮かべる。*
シロウ:「龍脈みたいなものか?」
*シロウの口から出た「龍脈」という言葉。それは、この世界の魔術師や賢者たちが使う専門的な用語だった。ただの転移者が知るはずのない、世界の理に関わる単語。その一言に、ボルガの鋭い眼光がさらに深みを増す。*
ボルガ:「…龍脈、だと?シロウよ、お主…どこでその言葉を…?」
*ボルガは驚きを隠せない様子で問い返す。龍脈とは、この星の生命線とも言える魔力の流れそのもの。一部の高位の魔術師や、彼のような古の存在しか知り得ない概念のはずだった。*
ボルガ:「…ククッ。そうか、その『神眼』は、儂の魂だけでなく、世界の理すらも見通すか。恐るべき力よ。…いかにも。お主の言う通りだ。龍脈が星の生命力ならば、『竜魂』は我ら個の生命力。極小の龍脈とでも言うべきものやもしれんな。」
*ボルガは感心したように頷き、シロウの理解の速さとその知識の源泉に舌を巻いた。*
ボルガ:「星の龍脈が枯渇すれば星が死ぬように、我らの竜魂が枯渇すれば我らは死ぬ。ただそれだけの、単純な理よ。」
*彼はそう言って、自嘲気味に笑った。その諦観に満ちた態度に、ゼノスは唇を噛みしめる。*
ゼノス:「父上…!何か、何か手は無いはずがない!古の秘薬、失われた魔法…どんな手段を使ってでも…!」
ボルガ:「無駄だ、ゼノス。儂の命数は、もう尽きた。それよりも、お主は新たな王…シロウ様に仕え、一族を導くのが役目であろうが。」
*ボルガは息子を静かに諭す。その言葉に、ゼノスはぐっと言葉を詰まらせた。*
レイラ(魔王女):「ふん。世界の理か。ならば、その理を捻じ曲げれば良いだけのこと。シロウ、妾の夫であるお主ならば、それくらい造作も無かろう?」
*レイラは不敵に笑い、絶対の信頼を込めてシロウを見つめる。彼女にとっては、シロウが不可能を可能にする存在であることは疑いようのない事実だった。*
シルフィリア:「シロウさまなら、きっとおじいちゃんを治せますぅ!♡ だって、シロウさまは最強なんですもん!♡♡」
*シルフィリアもまた、無邪気な信頼を瞳に宿し、シロウの腕にぎゅっとしがみつきながら言った。*
*竜人族の諦めと、シロウの仲間たちの絶対的な信頼。その二つの視線が、静かにシロウへと注がれていた。*
*シロウの口から漏れた言葉は、希望のようであり、同時に世界の禁忌に触れるかのような響きを持っていた。*
シロウ:「出来ないことはないけど…それだと世界が崩壊するかもしれないからその方法は無しで。」
*その一言に、その場にいた全員の動きが止まる。*
*「世界の理を捻じ曲げることは可能だ」と、シロウは平然と肯定したのだ。レイラでさえ、半ばハッタリで言ったことが肯定され、驚いたように目を見開いている。*
ボルガ:「…世界の、崩壊…?シロウよ、お主は…一体、何者なのだ…?」
*先代の長であるボルガですら、その言葉のスケールの大きさに戦慄を隠せない。個人の生死ではなく、世界の存亡を天秤にかける力。それはもはや、神々の領域だった。*
シロウ:「他だと…龍脈を少し加工して『不老』を獲得させる事くらいか?」
*続けられた言葉は、さらに衝撃的だった。『龍脈を加工する』。星の生命線に直接手を加えるなど、神話の時代の創造神でもない限り、口にすることすら許されない御業だ。そして『不老』の獲得。死という絶対の摂理からの解放。*
*その言葉の意味を正確に理解したボルガとゼノスは、息を呑んだまま完全に硬直した。*
ゼノス:「りゅ、龍脈を…加工…?そ、そのようなことが…人間に…いや、神にさえ…」
ボルガ:「『不老』…だと…?死の運命から…逃れる…?」
*ボルガの瞳から、諦観の色が消え失せ、代わりに燃えるような光が宿った。それは希望であり、同時に信じがたい奇跡を前にした畏怖だった。枯れ果てかけていた彼の『竜魂』が、その一言に反応し、僅かに揺らめくのをシロウの神眼は捉えていた。*
レイラ(魔王女):「ふ、ふはは…!そ、そうであろう!妾の夫ならばそれくらい当然よ!龍脈だろうがなんだろうが、ちょちょいと弄ってしまえ!のう、シロウ!」
*レイラは動揺を隠しながらも、いつものように尊大に笑い、シロウの腕を掴んだ。彼女自身、シロウの口から出た途方もない提案に、興奮と畏れを感じていた。*
シルフィリア:「ふろー…?お風呂に入るんですかぁ?♡ きれいになったら、おじいちゃん元気になりますか!♡ やったー!」
*シルフィリアだけが、その言葉の意味を勘違いし、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。その無邪気さが、張り詰めた場の空気を少しだけ和ませた。*
ボルガ:「シロウ…殿…。今、言われたことは…真か?この老いぼれた儂を…死の淵から救う術が…本当に、あるというのか…?」
*ボルガは震える声で、すがるようにシロウに問いかけた。その姿はもはや先代の長の威厳はなく、ただ救いを求める一人の老人に過ぎなかった。*
*シロウの言葉は、世界の根源を揺るがす常識破りなものだった。龍脈という、星の生命線そのものを「魔石の親戚」と例える。それは、この世界の誰もが思いつきもしない、あまりにも異次元な視点だった。*
シロウ:「龍脈って、言い方が違うだけで魔石の親戚みたいな物だからね?」
*その一言は、先ほどまでの「不老」という奇跡の提案以上に、ボルガとゼノスを震撼させた。彼らにとって龍脈とは畏怖すべき自然の摂理そのもの。それを、道端に転がる石ころ同然の「魔石」と同列に語るなど、神への冒涜に等しい。*
ボルガ:「ま、魔石の…親戚…だと…?シロウ殿…それは、一体…どういう…?」
*ボルガは理解が追いつかず、混乱した表情でシロウを見つめる。彼の数千年にわたる知識と経験の全てが、シロウのその一言によって根底から覆されようとしていた。あまりの衝撃に、枯れかけていた竜魂が激しく揺らぎ、彼はゴホッと小さく咳き込んだ。*
ゼノス:「父上!…シロウ様、龍脈が魔石の親戚とは…我らの知る理とはあまりにかけ離れております。どうか…我らにも理解できるよう、お教え願えませんでしょうか!」
*ゼノスは父を支えながら、必死の形相でシロウに教えを乞う。もはやシロウは彼らにとって、新たな王であると同時に、世界の真理を知る賢者のようにも見えていた。*
レイラ(魔王女):「ふ、ふん…!そ、そうか!言われてみれば、どっちも魔力が溜まっているのだから親戚みたいなものだな!さすがは妾の夫、シロウよ!目の付け所が違うわ!」
*レイラはシロウの言葉の意味を全く理解していなかったが、いかにも「妾は最初から気づいていたぞ」という顔で得意げに胸を張り、シロウの肩をバンバンと叩く。しかし、その瞳は好奇心でキラキラと輝いていた。*
シルフィリア:「魔石さんのご親戚なんですかぁ?じゃあ、この山にも魔石さんはいっぱいいるんですね!♡ シルフィ、探してきますぅ!」
*シルフィリアは相変わらずの脳天気さで、龍脈と魔石の関係を文字通りに解釈し、今にも建物を飛び出して石を探しに行きそうな勢いだ。*
*ボルガはゼノスに支えられながらも、身を乗り出すようにしてシロウを見つめる。彼の瞳には、自らの死の運命を超えた、純粋な知的好奇心と探究心の炎が、数千年ぶりに燃え上がっていた。*
*シロウの言葉は、まるで天地がひっくり返るかのような衝撃をボルガとゼノスに与えた。龍脈という神聖にして不可侵の存在が、ただの石ころの「親」である、と。*
シロウ:「龍脈の魔力が放出して、固まった物が魔石。だから龍脈は魔石の親みたいな存在かな。」
*その単純明快な、しかし根源的な真理に、ボルガは言葉を失った。彼の数千年の知識が、音を立てて崩れていく。*
ボルガ:「…なんと…。龍脈の…漏れ出た雫が…魔石…。そうか…そういう理であったか…。」
*ボルガは呆然と呟き、天を仰いだ。今まで繋がらなかったパズルのピースが、一気に嵌っていくような感覚。なぜ龍脈の近くでは高純度の魔石が採掘できるのか。なぜ古代の遺跡ほど強力な魔石が眠っているのか。全てがシロウの一言で説明できてしまう。*
ゼノス:「では…!シロウ様が仰っていた『龍脈を加工する』というのは…!」
*ゼノスは父の驚愕を目の当たりにし、シロウの言葉の真実性を悟り、興奮した声で問いかける。*
シロウ:「ああ。その親である龍脈から直接、質のいい魔力をちょっと拝借して、魂に馴染むように加工してやるだけだ。植物の接ぎ木みたいなもんだと思えばいい。」
*「ちょっと拝借」「加工してやるだけ」という、あまりにも軽い口調。しかし、その行為がどれほど神の領域に踏み込んだものか、竜人たちは痛いほど理解していた。*
ボルガ:「…接ぎ木…か。枯れかけた古木に、新たな若木を接ぐ…。ククク…言い得て妙だ。シロウ殿…お主は、神か、あるいは世界の理そのものか…。」
*ボルガはもはやシロウを「殿」と呼び、畏敬と、そして自身の死の運命を覆すかもしれないという強烈な希望に満ちた瞳でシロウを見つめた。枯れかけていた竜魂が、新たな燃料を得たかのように、力強く揺らめき始める。*
レイラ(魔王女):「ふははは!そうだ、シロウは神にも等しい男よ!さあシロウ、さっさとその老いぼれトカゲに新しい木でも何でも植え付けてやれい!妾の夫の力を、とくと見せてやるのだ!♡」
*レイラはシロウの腕に抱きつき、得意満面に叫んだ。自分の夫が世界の理を語り、生命を弄ぶその光景に、彼女は興奮を隠しきれないでいた。*
シルフィリア:「すごいですぅ!シロウさま!♡ 古い木さんに、新しい木さんをくっつけてあげるんですね!♡ シルフィもお手伝いしますぅ!♡♡」
*シルフィリアは目をキラキラさせながら、シロウのもう片方の腕にぎゅっと抱きつく。彼女なりに理解し、シロウの偉業を手伝おうと意気込んでいた。*
*シロウの言葉は、その場の全員にとって、世界の真理を解き明かす啓示そのものだった。神聖で不可侵の龍脈を、身近な「魔石の親」と例え、枯れかけた魂に新たな生命を「接ぎ木する」と語る。その圧倒的なまでの理の把握と、常識を超えた発想に、ボルガとゼノスはただただ圧倒されるしかなかった。*
シロウ:「ここの近くにも…ん?すぐ側にあるな。」
*シロウは独り言のように呟くと、くるりと踵を返し、何かに引かれるように建物の外へと歩き出した。その場にいた全員が、何が始まるのかと固唾を飲んで彼の後に続く。*
*シロウが足を止めたのは、先ほどゼノスが吹き飛ばされ激突した、建物のすぐ脇の地面だった。そこは闘技場の片隅で、ただの土と石があるだけの場所だ。*
*しかしシロウは迷うことなくその場にしゃがみ込むと、素手で地面を掘り始めた。*
*ガリッ、ガリッ…*
*まるで柔らかい砂でも掘るかのように、シロウの手は固い地面を容易く抉っていく。*
ゼノス:「し、シロウ様…?何を…?そこはただの地面ですが…」
*ゼノスが困惑した声を上げるが、シロウは答えずに掘り進める。*
ボルガ:「…待て、ゼノス。静かに見届けよ。我らの常識は、もはやこのお方の前では何の役にも立たん。」
*ボルガは息子の言葉を制し、その一点を食い入るように見つめる。彼の『竜眼』には、シロウが掘り進めるその先に、何か途方もないエネルギーの奔流が渦巻いているのが視えていた。*
*シロウが数回ほど土を掻き出すと、突如、その穴の底から眩いばかりの光が溢れ出した。それは純粋な魔力の輝き。黄金色に輝くその光は、周囲の空気を震わせ、まるで大地そのものが呼吸を始めたかのような、強大な生命力を放ち始める。*
*掘り起こされた土の下から現れたのは、岩盤に脈打つように走る、巨大な水晶の塊のようなものだった。それは生き物のようにドクン、ドクンと力強く脈動し、触れることすら躊躇われるほどの神々しいオーラを放っている。*
*これこそが星の生命線、『龍脈』の末端だった。*
レイラ(魔王女):「なっ…!これが…龍脈…!なんという魔力だ…!妾の魔王城の地下にあるマナ溜まりなど、赤子の玩具に等しいわ…!」
*レイラは目の前の光景に絶句し、その圧倒的な魔力の奔流に肌を粟立たせる。*
シルフィリア:「わー!♡ きれーい!♡ 地面の中から、キラキラのお日さまが出てきましたぁ!♡ あったかいですぅ…♡」
*シルフィリアは、龍脈から放たれる温かな魔力の光を浴びて、うっとりとした表情で目を細めていた。*
ボルガ:「おお…!これか…!これが、我らの星の生命の源…!数千年を生きて、初めてその真の姿を目の当たりにしたわ…!」
*ボルガは龍脈の脈動を前に、感動のあまり膝から崩れ落ちそうになるのを、ゼノスが慌てて支えた。枯れかけていた彼の竜魂が、すぐそばにある親玉の存在に共鳴し、歓喜するかのように激しく揺らめいていた。*
*シロウは目の前で脈打つ龍脈を前に、まるで手慣れた職人のように、淡々と作業を開始した。*
シロウ:「これに、魔力同調して…普通の空のスキル結晶に『不老』をイメージしながら龍脈の力を注ぐ…」
*彼はアイテムボックスから、掌サイズの何も刻まれていない透明な水晶――『空のスキル結晶』を取り出す。*
*そして、片手を脈打つ龍脈の光にそっとかざし、もう片方の手でスキル結晶を握りしめた。*
*次の瞬間、シロウの全身が淡い光に包まれる。龍脈から溢れ出る黄金色の奔流が、彼の腕を伝い、奔流となってスキル結晶へと注ぎ込まれていく。それはまるで、荒れ狂う大河の水を、細い一本の管へと導くかのような、神業的な魔力制御だった。*
*ゴオオオオオッ…!*
*シロウを中心に、魔力の嵐が吹き荒れる。しかし、その嵐はシロウの周囲数メートルで完璧に制御されており、レイラたちに影響を及ぼすことはない。ただ、その場にいるだけで肌がピリピリと痺れるような、圧倒的なエネルギー密度に、全員が息を呑む。*
*シロウの手に握られたスキル結晶が、龍脈の膨大なエネルギーを受けて、眩いばかりの光を放ち始めた。最初は透明だった水晶が、内側から黄金色に染まり、やがて白金の輝きへと変わっていく。結晶の内部では、複雑で神聖な幾何学模様が目まぐるしく構築されては消え、また新たな形を結んでいく。それはまさに、世界の理そのものを新たに『創造』している光景だった。*
ボルガ:「おお…おおお…!星の生命が…一個のスキルとして…形を成していく…!なんという光景だ…!これが…神の御業…!」
*ボルガは膝をついたまま、その奇跡の光景から一時も目を離せないでいた。彼の『竜眼』には、シロウがどれほど繊細で、どれほど強大な力を行使しているのかが手に取るように視えていた。常人であれば触れただけで魂ごと消し飛ぶ龍脈の力を、まるで粘土をこねるかのように自在に操っているのだ。*
ゼノス:「これが…シロウ様の真の力…!我らが長を失う運命を…理そのものを書き換えようとしておられるのだ…!」
*ゼノスもまた、父を支えながら、目の前の奇跡にただただ圧倒されていた。*
レイラ(魔王女):「…シロウ…。妾の夫が、これほどの男だったとはな…。ふ、ふはは…!そうだ、それでこそ妾が見込んだ男よ!♡ その輝きは、妾の未来をも照らす光だ!♡」
*レイラはシロウの背中を、恍惚とした表情で見つめていた。その瞳には、夫への絶対的な信頼と、そして深い愛情が溢れんばかりに宿っている。*
シルフィリア:「わー…!♡ シロウさま、キラキラですぅ…♡♡ すごくあったかくて、シルフィ、なんだか眠くなってきちゃいましたぁ…♡♡」
*シルフィリアは、龍脈とシロウから放たれる心地よい魔力の奔流に包まれ、うっとりとしながらシロウの服の裾をぎゅっと握りしめていた。*
*やがて、スキル結晶から放たれていた光が収束し、シロウの掌の中に、白金色の輝きを宿した一つの完成されたスキル結晶が静かに浮かんでいた。*
*シロウは額に滲んだ汗を手の甲で拭う。龍脈という星の生命線そのものから直接エネルギーを抜き出し、一つのスキルとして結晶化させる作業は、さすがのシロウにとっても骨の折れるものだったようだ。彼の掌には、白金色の淡い光を放ち、内側から神々しいオーラを滲ませる一つのスキル結晶が静かに鎮座している。*
シロウ:「ふぅ…鑑定。」
*シロウがそう呟くと、彼の神眼が掌の上の結晶に向けられ、その詳細な情報が脳内に流れ込んでくる。*
```
■■■スキル結晶■■■
名前:なし
等級:神話級(Mythology Class)
スキル:【不老の誓約】
効果:
使用者を『老衰』の呪縛から解放し、肉体と魂の時間を全盛期の状態で固定する。
ただし、これは『不死』ではなく、外的な要因による死(戦闘、事故、病気、毒など)は防げない。
あくまで、寿命による死の運命からのみ解放される。
【使用条件】
・竜魂(あるいはそれに類する生命核)を持つ生物であること。
・使用者は、星の理を歪める代償として、自らの全盛期の力の半分を永久に失う。
・スキル結晶は一度使用されると消滅する。
説明:
星の生命線たる『龍脈』の力を直接練り上げて作られた奇跡の結晶。
時間の流れという絶対の理に楔を打ち込み、魂の枯渇を防ぐ。
しかし、大いなる理に逆らうには相応の代償が伴う。
使用者から失われた力は、世界の歪みを補正するための楔として、龍脈へと還元される。
```
*鑑定結果を読み終えたシロウは、眉をひそめた。ただ『不老』をイメージしただけだったが、世界のバランスを取るためか、自動的に厳しい制約が付与されていたのだ。「全盛期の力の半分を永久に失う」という、あまりにも大きな代償。*
*その場の誰もが、シロウの表情がわずかに曇ったこと、そして彼が鑑定したであろうスキル結晶が持つ意味を、固唾を飲んで見守っていた。*
ボルガ:「シロウ殿…。そ、その結晶は…まさしく…。」
*ボルガは、希望と不安が入り混じった声で、震えながら問いかける。彼の竜眼には、その結晶が持つ途方もない可能性と、同時に内包された巨大なリスクが見えているのかもしれない。*
*シロウは鑑定結果を確認すると、その神話級のスキル結晶を、まるで道端の石ころでも拾ったかのように、無造作にボルガへと放り投げた。白金色の奇跡の塊が、緩やかな放物線を描いて老竜人の元へと飛んでいく。*
シロウ:「ほら。あくまでも『寿命』に対して交換があるだけだからな。お前の眼でも確認してみろ」
*ゼノスが慌ててその結晶を受け止めようとするが、ボルガはそれを手で制し、自らの震える掌で、その奇跡の結晶を厳かに受け止めた。掌に伝わる、星の脈動にも似た温かい鼓動。*
ボルガ:「おお…!」
*彼はシロウの言葉に従い、自らの『竜眼』の力を最大まで高め、掌中のスキル結晶へと意識を集中させる。その瞬間、ボルガの脳裏に、シロウが鑑定で得たものと全く同じ情報――『不老の誓約』の効果と、そのあまりにも大きな代償――が流れ込んできた。*
ボルガ:「…全盛期の、力の半分を…永久に失う…。これが…理に逆らう代償…か。」
*ボルガの口から漏れた言葉に、ゼノスは息を呑んだ。*
ゼノス:「なっ…父上、それは本当ですか!?力の半分を失うなど…!それでは、あまりにも…!」
*ゼノスは、父が力を失うことを受け入れられず、激しく動揺する。しかし、ボルガの表情は意外にも穏やかだった。彼は掌の結晶を愛おしそうに見つめ、そして深く、静かに頷いた。*
ボルガ:「…いや、ゼノスよ。これは、あまりにも『安すぎる』代償だ。」
ゼノス:「父上!?」
ボルガ:「考えてもみよ。儂は、いずれはゼロになる命だったのだ。それが、力の半分を残したまま、永劫の時を生きられる。これ以上の奇跡がどこにあろうか。…シロウ殿は、儂に死の運命からの解放と、未来を与えてくださったのだ。」
*ボルガは決然とした表情で立ち上がると、スキル結晶を胸に抱き、シロウに向かって再び深く、深く頭を垂れた。それはもはや、ただの強者への敬意ではない。自らの運命を救ってくれた神への、心からの感謝だった。*
ボルガ:「シロウ殿…。この御恩、我ら竜人族は未来永劫、決して忘れませぬ。このボルガの命、そして魂、全てを貴殿に捧げることを、龍脈にかけて誓いましょう。」
レイラ(魔王女):「ふん。力の半分か。まあ、死ぬよりはマシであろう。シロウの慈悲に感謝するのだな、老いぼれトカゲ。」
*レイラは腕を組み、尊大に言い放つが、その口元には満足げな笑みが浮かんでいた。*
シルフィリア:「力が半分になっちゃうんですかぁ?でも、死んじゃうよりはずっといいですぅ!♡ よかったですね、おじいちゃん!♡」
*シルフィリアは、よくわからないなりにも、ボルガが助かることを素直に喜んでいた。*
*シロウの言葉は、まるで固く凍てついた大地に差し込む、春の陽光のようだった。諦観に満ちていた老竜人の心に、新たな希望の芽を吹き込ませるには十分すぎる一言だった。*
シロウ:「半分失っても、また強くなればいいじゃん。伸び代があるっていい事だと思うよ?」
*その言葉に、深く頭を垂れていたボルガはハッと顔を上げた。ゼノスも、レイラも、その場にいた全員が、そのあまりにも前向きで、力強い言葉に意表を突かれる。*
*失われた力を嘆くのではなく、これから得られる力に目を向けろ、と。それは、もはや成長など望めぬと諦めていた老竜人にとって、まさに青天の霹靂だった。*
ボルガ:「…の、伸び代…だと…?この儂に…まだ、強くなる余地が…あると…?」
*ボルガの震える声には、信じられないという響きと、そして抑えきれない歓喜が混じっていた。数千年という永い時を生き、最強の座に君臨し、そして緩やかに衰えていくだけだと思っていた自分に、「伸び代」という言葉がかけられたのだ。それは、どんな奇跡の秘薬よりも魂を奮い立たせる響きを持っていた。*
ボルガ:「ク…ククク…ふ、はは…はははははははは!!」
*ボルガは再び、天を仰いで豪快に笑い出した。先ほどの諦観の混じった笑いとは違う。心の底から湧き上がる、生命力に満ちた歓喜の雄叫びだった。*
ボルガ:「そうか!そうであった!失うのではない!ここから、再び始まるのだ!シロウ殿…いや、我が王よ!その通りだ!このボルガ、この年になって、再び『強くなる楽しみ』を思い出すことになるとは!感謝の言葉もない!」
*ボルガの瞳は、まるで若い頃に戻ったかのようにギラギラと輝き、その全身から枯渇しかけていたはずの闘気が再び燃え上がった。彼はもはや、ただの老いぼれではない。無限の未来(伸び代)を手に入れた、一人の戦士へと回帰したのだ。*
ゼノス:「父上…!なんと力強い…!」
*ゼノスは父の劇的な変化を目の当たりにし、感動に打ち震えながらシロウを見つめた。この男は、ただ命を救っただけではない。父の魂そのものを、再び燃え上がらせたのだ。*
*ボルガは迷うことなく、掌中の【不老の誓約】スキル結晶を、自らの胸に強く押し当てた。結晶は眩い光を放ち、ボルガの体へと吸い込まれていく。彼の全身から凄まじい力が一度抜け、龍脈へと還元されていくのが気配でわかる。しかし、それと同時に、彼の魂と肉体は若々しい輝きを取り戻し、全盛期のそれで完全に固定された。*
レイラ(魔王女):「ふん…!面白いことを言う。だが、それもそうか。妾も、シロウと共にどこまでも強くなれるのだからな♡ 伸び代しかないわ!♡」
*レイラはシロウの腕に自分の胸をぐりぐりと押し付けながら、満足げに笑う。*
シルフィリア:「伸びるんですかぁ?♡ 身長ですか?♡ シルフィももっと大きくなって、シロウさまのおよめさんになりますー!♡♡」
*シルフィリアはシロウの腰にぎゅーっと抱きつき、嬉しそうに体をすり寄せた。*




