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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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シロウ:「明日からレベル上げ頑張るか。」


*リリスとの一件は、シロウにとって些細な出来事でしかなかった。彼は廊下に転がしたサキュバスのことなどすっかり忘れ、これからの計画に思考を集中させていた。*


*(ゴブリンやオークといった物理的な敵には対応できるようになったが、魔法を使う相手は厄介だ。特に、遠距離からの攻撃手段が欲しい。)*


*そう考えたシロウは、ある人物を思い出した。この宿に泊まっている、初老の魔術師。確か、風の魔法を得意としていたはずだ。夜中にトイレに起きた彼とすれ違った際に、『神眼』がその情報を読み取っていた。*


シロウ:「今日は風魔法をコピーさせてもらおっと。」


*シロウはベッドから静かに抜け出すと、音を立てずに部屋を出た。廊下にはすでにリリスの姿はなく、どこかへ去った後だった。彼は目的の部屋の前まで行くと、壁にそっと耳を当てる。中からはいびきが聞こえ、相手が熟睡していることを確認した。*


*シロウは壁に片手を触れ、意識を集中させる。壁越しに、部屋の中にいる魔術師の魔力を感じ取り、『神眼』を発動させた。*


---

【神眼鑑定結果】

- 名前: ゲイル

- レベル: 19

- 職業: 風魔道士

- ランク: D

- HP: 350/350

- MP: 780/780

- スキル:

- **風魔法Lv4**: 風を操り、攻撃や防御、補助に用いる。

- **魔力操作Lv3**: 魔力の流れを効率的にコントロールする。

- **詠唱短縮Lv2**: 魔法の詠唱時間を短縮する。

- 状態: 睡眠

---


*(風魔法Lv4か…十分だな。)*


**【『神眼』が発動しました。ゲイルから『風魔法Lv4』の複製を開始します…完了しました。】**


*脳内に、風の扱い方、魔法の構成式、魔力の流し方といった膨大な情報が流れ込んでくる。これまで使ったことのない「魔法」という概念が、まるで最初から知っていたかのように体に馴染んでいく。*


**【スキル『風魔法Lv4』を習得しました。】**

**【スキルを10個以上獲得したため、ユニークスキル『スキル整理』を習得しました。】**


*新たなスキルを得たことに満足し、シロウは静かに自室へと戻った。これで、遠距離攻撃の手段と、新たな力の礎を手に入れた。彼はベッドに潜り込むと、すぐに深い眠りについた。明日のレベル上げに備えて、今は体力を回復させることが最優先だった。*


*一度ベッドに戻ったシロウだったが、すぐに考え直した。*


シロウ:「(魔力操作も便利だな、MP残ってるし頂くか。)」


*『風魔法』を習得した今、その魔法をより効率的に、そして強力に扱うためには『魔力操作』のスキルは必須と言えた。魔法の燃費を向上させ、より少ないMPで強力な魔法を放つことができるようになる。これは今後の戦闘において、大きなアドバンテージとなるはずだ。*


*シロウは再びベッドから抜け出すと、音もなく魔術師の部屋の前へと戻った。まだMPには余裕がある。ここで躊躇する理由はない。彼は先ほどと同じように壁に手を触れ、意識を集中させた。*


**【『神眼』が発動しました。ゲイルから『魔力操作Lv3』の複製を開始します…完了しました。】**


*新たな情報が脳を駆け巡る。体内の魔力が、今までとは比べ物にならないほど滑らかに、そして意のままに流れる感覚。まるで、詰まっていた血管が開き、全身に血が巡り始めたかのような、一種の爽快感があった。*


**【スキル『魔力操作Lv3』を習得しました。】**


*立て続けに二つの有用なスキルを手に入れたことに、シロウは口元に笑みを浮かべた。*


*(これで準備は万全だ。)*


*彼は今度こそ満足し、自室に戻ってベッドに潜り込んだ。明日の狩りが、より一層楽しみになっていた。*


ーーー


**【翌朝】**


*シロウは早朝に目を覚まし、身支度を整えると、すぐにギルドへと向かった。ギルド内は朝早くから依頼を探す冒険者たちで賑わっている。*


*彼は掲示板へ直行すると、昨日目星をつけていた依頼書を手に取った。*


**【討伐依頼:ホブゴブリン斥候の討伐】**

**依頼主:アステラ騎士団**

**内容:東の森周辺に出没するホブゴブリンの斥候を5体討伐せよ。**

**推奨ランク:F**

**報酬:銀貨5枚**

**備考:複数体で行動している場合があるため注意すること。**


*今のシロウにとって、この依頼はウォーミングアップにすらならないだろう。しかし、「Fランク」としての実績作りにはちょうどいい。彼はその依頼書を剥がし、受付カウンターにいるミーニャの元へと持っていった。*


ミーニャ:「おはようございます、シロウさん!早いですね!今日は討伐依頼ですか?」


*元気なミーニャの挨拶に、シロウは軽く頷きながら依頼書を差し出した。*


シロウ:「これ受けます。」


*シロウがホブゴブリン討伐の依頼書を差し出すと、ミーニャはにこやかにそれを受け取った。*


ミーニャ:「はい、承りました!ホブゴブリン斥候の討伐ですね。討伐の証として、彼らが持っている『石の耳飾り』を5つ、持ち帰ってくださいね。シロウさんなら大丈夫だと思いますけど、気をつけてくださいね!」


*ミーニャは手際よく手続きを済ませ、依頼書にサインをするように促した。シロウが偽名でサインをすると、ミーニャは「いってらっしゃい!」と元気よく彼を送り出した。*


*ギルドを出て、シロウはそのまま東の森へと向かう。以前オークと遭遇した場所よりも、もっと街に近いエリアだ。この辺りなら、強力な魔物に出くわす心配も少ないだろう。*


*森に入ってしばらく進むと、すぐに木々の間をうろつく人型の影を発見した。緑色の肌、粗末な革鎧を身につけ、棍棒を手にしている。ホブゴブリンだ。斥候らしく、一体で周囲を警戒している。*


---

【神眼鑑定結果】

- 名前: ホブゴブリン・スカウト

- レベル: 7

- 職業: 斥候

- ランク: F

- HP: 150/150

- MP: 20/20

- スキル:

- **棍棒術Lv2**: 棍棒の扱いに慣れている。

- **警戒Lv1**: 周囲の危険を察知しやすい。

- 状態: 警戒

---


*(レベル7か…やはり雑魚だな。)*


*シロウは腰のクリスナイフには手をかけず、代わりに懐から木の枝を取り出した。昨日、森で拾っておいたものだ。*


*(まずは、新しく手に入れたスキルの実験と行こうか。)*


*シロウはホブゴブリンから距離を取り、右手を前に突き出した。体内の魔力を練り上げ、脳内に流れ込んできた『風魔法』の知識を呼び起こす。*


シロウ:「【ウィンドカッター】」


*短い詠唱と共に、シロウの手のひらから圧縮された風の刃が放たれた。それは音もなく空中を滑り、油断していたホブゴブリンの首筋を正確に切り裂いた。*


*ブシュッ!という音と共に、ホブゴブリンの首から血が噴き出す。彼は何が起こったのか理解できないまま、悲鳴を上げることもなくその場に崩れ落ちた。*


*(ほう、威力はまずまずか。詠唱も短いし、使い勝手は良さそうだ。)*


*シロウは初めての魔法行使の成功に満足し、倒したホブゴブリンに近づくと、その耳から石の耳飾りをもぎ取った。*


*あと4体。この調子なら、昼前には終わりそうだ。*


シロウ:「それでも、ドットで倒そう。」


*一体一体、魔法や剣で倒していくのは、確かに効率が悪い。シロウは、クリスナイフの持つ『出血』の効果を最大限に活用することを思いついた。Dot(Damage over Time)、すなわち継続ダメージで敵を削り殺す。それが最も手っ取り早い。*


*シロウは気配を消し、森の中を移動し始めた。すぐに、斥候のホブゴブリンが三体、集まって何かを話しているのを発見する。彼らのレベルはどれも7か8。格好の的だ。*


*(三体まとめてやるか。)*


*シロウは『俊敏』スキルで身体能力を底上げし、風のように駆け抜けた。ホブゴブリンたちが彼の存在に気づいた瞬間には、すでに懐に潜り込んでいる。*


*シュッ、シュッ、シュッ!*


*クリスナイフが、三体のホブゴブリンの太ももを、まるでバターを切るかのように立て続けに切り裂いた。致命傷にはほど遠い、浅い傷。しかし、それで十分だった。*


ホブゴブリンA:「グギャッ!? な、何だ!?」

ホブゴブリンB:「敵襲!どこだ!」


*ホブゴブリンたちが混乱し、武器を構えて周囲を見回すが、シロウの姿はすでにない。彼は木々の影に身を隠し、静かにその様子を観察していた。*


*切り裂かれたホブゴブリンたちの足からは、どくどくと血が流れ出している。クリスナイフの特殊効果『出血』が発動しているのだ。彼らは痛みと混乱でまともに動けず、ただ血を流し続けるだけだった。*


*数分後、三体のホブゴブリンは、一体、また一体と、力なくその場に崩れ落ちていった。失血死だ。*


*シロウは悠々と彼らに近づき、石の耳飾りを回収する。これで合計4つ。残りはあと一体だ。*


*(楽なもんだ。)*


*彼はそう呟くと、最後の獲物を探して再び森の奥へと足を進めた。*


*シロウは最後のホブゴブリン斥候も難なく見つけ出し、同じように出血効果で仕留めた。これで討伐の証である石の耳飾りは5つ揃った。依頼は達成だ。*


*しかし、シロウはすぐには森を出なかった。*


*(せっかくだ。もう少し稼いでおくか。)*


*彼はさらに森の奥へと進んでいく。目的は、以前にも狩ったゴブリンの集落だ。ホブゴブリンよりは弱いが、数がいる。そして、数が多いということは、彼の戦い方にとって、むしろ好都合だった。*


*すぐに、粗末な柵で囲まれたゴブリンの集落が見えてきた。10匹以上のゴブリンが、焚き火を囲んだり、見張りをしたりしている。*


*シロウは再び風のように駆け抜けた。集落の中を縦横無尽に走り抜けながら、すれ違うゴブリンたちの足や腕に、次々とクリスナイフで浅い傷をつけていく。*


ゴブリン達:「「「ギギッ!?」」」「「ギャッ!」」」


*何が起きたのか理解できず、ゴブリンたちは大混乱に陥った。敵の姿は見えない。しかし、体のあちこちから血が流れ出し、力が抜けていく。仲間たちが次々と倒れていく恐怖に、残ったゴブリンたちは奇声を上げながら逃げ惑う。だが、どこへ逃げようとも、出血の呪いからは逃れられない。*


*シロウは、その地獄絵図を少し離れた木の枝に座って、静かに眺めていた。まるで、農夫が畑の害虫駆除でもしているかのような、淡々とした表情で。*


*シロウは木の枝に座り、眼下でゴブリンたちが次々と倒れていくのを眺めながら、自身のステータスを確認した。*


シロウ:「ステータスオープン。」


*彼の目の前に、彼にしか見えない半透明のウィンドウが開く。*


```

【ステータス】

名前 シロウ・ニシキ

Lv.25 (表示上はLv.8)

HP 480/480

MP 230/240 (風魔法と神眼の使用で少し減少)

職業 なし

称号 なし (表示上)

所持金 金貨6枚、銀貨3枚、銅貨6枚、鉄貨1枚

 装備

- **武器:** クリスナイフ (ランクD) - 特殊効果: 出血(小)

- **頭:** グリフォンの羽飾り


- **スキル:** (非表示設定)

- **ユニークスキル:**

- **神眼 Lv.1**: 対象の情報を鑑定する。レベルアップで「スキル強奪/複製」が可能になる。

- **スキル整理 Lv.1**: 習得スキルを自動で整理・統合する。

- **コモンスキル:**

- **剣術 Lv.7**: 剣や長柄武器の扱いが向上する。

- **俊敏 Lv.2**: 素早さと反射神経が向上する。

- **風魔法 Lv.4**: 風属性の初級〜中級魔法が使用可能になる。

- **魔力操作 Lv.3**: 魔力の消費効率と操作性が向上する。


```



*(スキルが6つか…。『スキル整理』のおかげで見やすくはなったな。剣術と短剣術が統合されて『剣術』になってる。なるほど、これは便利だ。)*


*彼は自身の成長を再確認し、満足げに頷いた。ゴブリンたちが全滅したのを確認すると、木から軽やかに飛び降りる。死体の山から魔石を一つ一つ回収していく。地味な作業だが、これも重要な収入源だ。*


*全ての魔石を回収し終えると、シロウはギルドへと戻ることにした。依頼達成の報告と、換金だ。*


*ギルドに戻ると、カウンターには相変わらずミーニャがいた。シロウの姿を見ると、彼女は笑顔で迎えてくれる。*


ミーニャ:「あ、シロウさん!お帰りなさい!早かったですね!もう終わったんですか?」


シロウ:「ああ、問題なくな。」


*シロウはそう言って、カウンターにホブゴブリンの耳飾り5つが入った袋を置いた。*


シロウ:「はい。」


*シロウは無駄口を叩かず、カウンターの上に、ごとりと音を立てて袋を置いた。中には、ホブゴブリンの耳飾りが5つだけ入っている。ゴブリンの集落を壊滅させたことなど、おくびにも出さない。それは彼の個人的な稼ぎであり、ギルドに報告する必要のないことだった。*


ミーニャ:「わー!ありがとうございます!確認しますね…いち、に、さん、し、ご…はい、確かに5つあります!お疲れ様でした!」


*ミーニャは手際よく耳飾りを確認すると、満面の笑みでシロウに報酬を渡した。銀貨5枚。Fランクの依頼としては妥当な金額だ。*


ミーニャ:「シロウさん、すごいですね!Fランクの依頼をこんなに早く終わらせるなんて!もしかして、もうすぐEランクへの昇格試験も受けられるんじゃないですか?」


*純粋な称賛の言葉に、シロウは「どうだろうな」とだけ短く返す。彼の実際のレベルを考えれば、Eランクどころか、Cランク、Bランクの魔物すら相手にできるだろう。しかし、今はまだ目立つ時ではない。*


シロウ:「(ついでにこれも頼む。)」


*彼はそう言って、先ほどゴブリンの集落で回収した大量の魔石が入った袋を、もう一つカウンターに置いた。*


*その量を見て、ミーニャは少し目を丸くした。*


ミーニャ:「わっ、すごい量ですね!これも東の森で?シロウさん、本当に働き者ですね!」


*彼女は感心しながらも、すぐに査定を始めた。*


*ミーニャが慣れた手つきで魔石を査定していく。ゴブリンの魔石は一つあたりの単価は安いが、数が数だ。すべてを合わせると、かなりの金額になった。*


ミーニャ:「お待たせしました!全部で銀貨7枚と銅貨5枚になります!いやー、シロウさん、本当にすごいです!薬草採取も上手だし、討伐も早いし…もしかして、すごく才能があるんじゃ…?」


*ミーニャが純粋な好奇心から目を輝かせてシロウを見つめてくる。彼女の言葉に、周囲にいた他の冒険者たちが、ちらりとシロウに視線を向けた。Fランクでありながら、立て続けに依頼をこなし、安定した収入を得ているシロウは、少しずつではあるが、ギルド内で目立ち始めていた。*


*(少し、目立ちすぎたか…?)*


*シロウは内心で舌打ちしながらも、表情には出さずに報酬を受け取った。所持金は金貨6枚、銀貨15枚、つまり金貨7枚と銀貨5枚を超えた。毒の武器を探すにしても、新しい防具を買うにしても、十分な軍資金だ。*


*彼はミーニャの追及を振り切るように、早々にギルドを後にしようとした。その時、ギルドの入り口の扉が勢いよく開き、数人の冒訪険者たちが血相を変えて駆け込んできた。*


冒険者A:「大変だ!西の街道に、オーガが出たぞ!」

冒険者B:「商隊が一つ、やられたらしい!護衛も全滅だとか!」


*その言葉に、ギルド内が一気に騒然となる。オーガはレベル20前後の強力な魔物で、Cランクパーティーでも苦戦する相手だ。そんなものが、街の近くの街道に出現したというのだ。*


*シロウはその報告を聞きながら、足を止めた。*


*(オーガ…か。レベル25の俺なら、十分に狩れる相手だ。しかも、街道に出たということは、森の中を探し回る手間も省ける。これは…)*


*絶好のレベル上げの機会が、向こうから転がり込んできた。シロウの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。*


*ギルド内がオーガ出現の報でパニックに陥る中、BランクやCランクのベテラン冒険者たちが「俺たちが行く!」「パーティを組むぞ!」と動き出すのを、シロウは冷めた目で見つめていた。*


シロウ:「(ベテラン先輩に任せよう)」


*オーガは確かに美味しい獲物だが、大勢の冒険者が向かう中で手柄を立てれば、間違いなく注目を浴びる。それは彼の望むところではなかった。今はまだ、人知れず力を蓄える段階だ。*


*彼は騒ぎを背にギルドを抜け出すと、まっすぐ武器屋へと向かった。オーガの件で街が騒がしくなる前に、目的のものを手に入れておきたかった。*


*武器屋の扉を開けると、いつものようにドワーフの店主がカウンターの奥で武具の手入れをしていた。シロウの姿を認めると、彼はニヤリと口角を上げる。*


ドワーフの店主:「よう、兄ちゃん。クリスナイフの調子はどうだ? もう血の味は覚えさせたか?」


シロウ:「ああ、おかげさまで。それより、今日は別のものを探しに来た。」


*シロウはカウンターに近づくと、本題を切り出した。*


シロウ:「毒の効果が付与された武器は扱っているか? できれば短剣がいいんだが。」


*その言葉に、店主は「ほう」と興味深そうに目を細めた。*


ドワーフの店主:「毒か。出血だけじゃ飽き足らず、今度は毒殺とはな。兄ちゃん、見かけによらずえげつない戦い方をするじゃねえか。気に入ったぜ。」


*彼は楽しそうに笑うと、店の奥へと消えていった。しばらくして、黒い布に包まれた細長い何かを手に戻ってくる。*


ドワーフの店主:「とっておきがある。ただ、こいつは少々値が張るぜ?」


*そう言って、彼が布を開くと、そこには緑がかった不気味な光を放つ、一振りの短剣が横たわっていた。*


シロウ:「お…おいくら?」


*ドワーフの店主は、シロウのわずかに引きつった表情を見て、さらに楽しそうに口の端を吊り上げた。客が品物の値段に驚き、悩む姿を見るのが、彼にとっては何よりの酒の肴なのだろう。*


ドワーフの店主:「兄ちゃんの懐具合じゃ、ちと厳しいかもしれねえな。こいつは**『ポイズンダガー』**。バジリスクの牙を削り出して作った業物でな。ただ斬りつけただけでも、相手の動きを鈍らせる麻痺毒が染み込んでいく。まともに急所にでも入れば、オーガだって数分で動けなくなる代物だ。」


*彼は自慢げに短剣の性能を語る。緑色に輝く刀身は、見るからに強力な毒を宿していることを物語っていた。*


ドワーフの店主:「で、お値段だが…**金貨10枚**だ。どうだ? 兄ちゃんの稼ぎじゃ、今すぐには無理だろう?」


*挑発するような視線。金貨10枚。シロウの現在の所持金は、魔石を売った分を合わせても金貨7枚と銀貨5枚ほど。確かに、今のままでは手が出ない。*


*シロウは値札を睨みつけながら、内心で思考を巡らせる。*


*(金貨10枚…高いな。だが、性能はそれだけの価値がある。麻痺毒か…出血と組み合わせれば、相当なシナジーが期待できる。だが、どうやって残りの金を用意する…?)*


*オーガの緊急討伐クエストに参加すれば、報酬で足りるかもしれない。しかし、それは目立ちすぎる。他の方法…例えば、ギルドで高額な依頼を探すか? それとも、どこかで金目の物を手に入れるか…*


*シロウは短剣から目を離さずに、ドワーフの店主に尋ねた。*


シロウ:「数日待ってくれない?」


*その言葉に、ドワーフの店主は意外そうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。ただ諦めるのではなく、金策に走ろうというシロウの気概が気に入ったらしい。*


ドワーフの店主:「ほう、威勢がいいじゃねえか、兄ちゃん。気に入った。いいぜ、3日だ。3日待ってやる。それまでに金貨10枚、きっちり用意してきな。もし用意できなかったら…まあ、その時は別の客に売るまでだ。」


*彼はそう言うと、ポイズンダーツを再び黒い布に丁寧に包み直し、店の奥へとしまい込んだ。*


ドワーフの店主:「ただし、手付金として金貨1枚は置いてってもらうぜ。ただで取り置きなんざできるか。」


シロウ:「わかった。」


*シロウは頷き、懐から金貨1枚を取り出してカウンターに置いた。これで所持金は金貨6枚と銀貨5枚、銅貨5枚。ポイズンダガーを手に入れるには、あと金貨3枚と銀貨5枚ほどが必要だ。*


*(3日か…どうする。オーガはもう他の冒険者が向かっているだろう。となると、別の金策が必要だ…)*


*シロウは武器屋を出て、再び思案に暮れた。ギルドに戻って別の高額依頼を探すか? しかし、Fランクが受けられる依頼に、そんな都合の良いものがあるとは思えない。*


*(…仕方ない。少しリスクを取るか。)*


*彼の頭に、一つの考えが浮かんだ。それは、夜の闇に紛れて、この街の「裏」に手を出すこと。例えば、違法な賭博場や、悪徳商人の屋敷に忍び込み、金品を「借りる」という方法だ。*


*今の彼のスキルレベルならば、物陰に隠れ、気配を消して侵入することはさほど難しくないはずだ。*


*シロウは人通りの少ない路地裏へと足を向け、夜が更けるのを待つことにした。彼の目は、新たな獲物を探す狩人のように、ギラリと光っていた。*


*シロウはリスクを冒して夜の闇に紛れるよりも、より確実で安全な方法を選んだ。悪党から金を奪うのは手っ取り早いが、万が一捕まれば全てが水の泡だ。それならば、自分の持つユニークスキルを最大限に活用する方が賢明だった。*


**翌日、シロウは街の門を抜け、再び東の森へと足を踏み入れた。目的は薬草採取。しかし、ただ闇雲に探すのではない。**


シロウ:「これなら安心安全だな。」


*森の入り口で立ち止まると、シロウは静かに目を閉じて意識を集中させる。*


シロウ:「(『神眼』)」


*彼の意識が森全体へと広がっていく。視界に映るのは、物理的な風景ではない。魔力や生命力の流れ、その分布図だ。木々の生命力、地中に潜む虫の微弱な魔力、そして…ひときわ強く、しかし控えめに輝く光点がいくつか、彼の『神眼』に捉えられた。*


*(あった…あれは『月光草』。こっちには『太陽の雫』。どちらも高値で取引される希少な薬草だ。)*


*通常の冒険者であれば、何日も森を彷徨ってようやく見つけられるかどうかという代物だ。『神眼』を使えば、このように広範囲を索敵し、目的のものをピンポイントで見つけ出すことができる。これは、戦闘における索敵能力だけでなく、探索や採取においても絶大な効果を発揮するスキルだった。*


*シロウは口元に笑みを浮かべると、光点が示す場所へと迷いなく歩き出した。昨日のオーガ騒ぎで他の冒険者たちは西の街道に集中しているのか、森は静まり返っている。まさに、独壇場だった。*


*彼は慎重に、しかし手際よく希少な薬草を次々と採取していく。通常の薬草も目についたものは採っていくが、狙いはあくまで高価なものだ。半日も森を歩き回った頃には、彼の背負う袋はずっしりと重くなっていた。*


*(これだけあれば、金貨3枚分にはなるだろう。)*


*シロウは満足げに頷くと、街へと引き返すことにした。ギルドに持ち込めば、またミーニャに騒がれるかもしれない。今回は薬草専門の買い取り店に直接持ち込むことにしようと考えながら、彼は軽やかな足取りで森を後にした。*


*シロウが訪れたのは、ギルドの近くにある薬草専門の買い取り店だった。ギルドのように冒険者でごった返すこともなく、店内には薬草の独特な、少し土臭い香りが満ちている。カウンターの奥には、人の良さそうな初老の男性が座っていた。*


シロウ:「こんちわー。買取お願いできますか?」


*シロウはできるだけ明るい声を作って、カウンターに採取した薬草が入った袋を置いた。*


店主:「はいはい、いらっしゃい。どれどれ…」


*店主は穏やかな笑みを浮かべ、袋の中身を改め始めた。そして、いくつかの薬草を手に取った瞬間、彼の目がわずかに見開かれた。*


店主:「ほう…これは…『月光草』に『太陽の雫』じゃないか。しかも、こんなに状態が良いものは久しぶりに見た。兄ちゃん、どこでこれを?」


*店主は驚きと感心の入り混じった表情でシロウを見た。これらの薬草がいかに希少で、見つけるのが難しいかを彼はよく知っている。*


シロウ:「ちょっと運が良かっただけですよ。」


*シロウははぐらかすように笑う。まさか『神眼』で見つけたと正直に話すわけにはいかない。*


店主:「はっはっは、運も実力のうちと言うからな。素晴らしい。よし、査定しよう。これは少し時間がかかるかもしれないがいいかい?」


*彼は興奮した様子で、一つ一つの薬草を丁寧に鑑定し始めた。シロウは静かにその様子を眺め、自分の目論見が成功したことを確信していた。*


シロウ:「お願いします。」


*シロウが頷くと、店主は「よしきた」とばかりに作業に取り掛かった。彼は鑑定用のルーペを目にはめ、薬草を一つ一つ丁寧に調べていく。葉の状態、根の張り、そして宿っている魔力の量。その表情は真剣そのもので、長年の経験に裏打ちされた確かな目利きであることが窺えた。*


*しばらくの間、店内には薬草を仕分ける音と、店主の小さな唸り声だけが響いていた。シロウはその様子を静かに、しかし内心では期待に胸を膨らませながら待っていた。*


*やがて、すべての薬草の査定を終えた店主は、満足げなため息をつくと、帳簿に何かを書き込み始めた。*


店主:「お待たせしたね、兄ちゃん。いやはや、大したもんだ。これだけの質と量の希少薬草は、滅多にお目にかかれるもんじゃない。うちとしても、ぜひ買い取らせてもらいたい。」


*彼はそう言うと、そろばんで計算した最終的な金額をシロウに提示した。*


店主:「通常の薬草も合わせて、全部で…**金貨4枚と銀貨2枚**だ。どうだい? これでもかなり奮発したつもりだが。」


*提示された金額は、シロウの予想をわずかに上回っていた。金貨4枚と銀貨2枚。手付金を差し引いたポイズンダガーの代金は金貨9枚。現在の所持金と合わせれば、お釣りがくる計算だ。*


*シロウは満足げに頷いた。*


シロウ:「ありがとうございます。また珍しい薬草があれば持ってきますね。」


*シロウが社交辞令を口にすると、店主は満面の笑みで「ぜひ頼むよ!」と答えた。彼はシロウのことを、ただ運が良いだけの新人ではなく、腕の良い「薬草採り」として認識したようだった。今後も良い取引関係が築けそうだ。*


*シロウは薬草店を後にすると、まっすぐにあのドワーフの武器屋へと向かった。約束の3日を待たずして、翌日には代金を用意できたことになる。あの店主がどんな顔をするか、少し楽しみだった。*


*武器屋の扉を勢いよく開ける。*


シロウ:「親父、金を持ってきたぞ。」


*カウンターで酒を飲んでいたドワーフの店主は、シロウの姿を見て、そして彼がカウンターに叩きつけた金貨の袋を見て、驚きに目を見開いた。*


ドワーフの店主:「なっ…おいおい、マジかよ、兄ちゃん。一日で用意しちまうとはな。一体どんなイカサマを使ったんだ?」


*彼は疑いの目を向けながらも、その口元は明らかに笑っていた。*


シロウ:「ちょっと運が良かっただけだ。それより、ブツを渡してもらおうか。」


*ドワーフの店主は「へっ、違いねえや」と肩をすくめると、店の奥から黒い布に包まれた『ポイズンダガー』を持ってきた。*


ドワーフの店主:「約束通り、こいつはあんたのもんだ。大事に使えよ。こいつで殺した相手の恨み言は、俺のところじゃなく、あんたのところに行くからな。」


*彼は不気味に笑いながら、ポイズンダガーをシロウに手渡した。ずしりとした重みと、刀身から放たれる冷たい魔力が、シロウの手に伝わってくる。新たな力が、彼の手に加わった瞬間だった。*


シロウ:「よし。ありがとなー。」


*シロウはドワーフの店主に軽く手を上げると、念願の『ポイズンダガー』を懐にしまい、武器屋を後にした。彼の足取りは軽い。これで戦術の幅が大きく広がる。出血のスリップダメージに加え、麻痺毒による行動阻害。格上の相手とも、より有利に立ち回れるだろう。*


*満足感に浸りながら、彼はいつもの宿屋へと帰路についた。部屋に戻り、さっそく新しい武器の感触を確かめようと思ったのだ。*


*宿屋の扉を開け、階段を上がって自分の部屋の前に着く。鍵を開けて中に入り、扉を閉めた、その瞬間だった。*


*背後から、ふわりと甘い香りがした。そして、柔らかい何かが背中に押し当てられる感触。*


リリス:「♡おかえりなさい、シロウ様♡」


*耳元で囁かれたのは、聞き覚えのある、ねっとりとした甘い声。振り返るまでもない。サキュバスのリリスだ。彼女はいつの間にか部屋に侵入し、シロウの帰りを待ち伏せていたのだ。*


リリス:「♡この前の『お返し』、しに来てあげたわよぉ…♡たっぷりと、可愛がってあげる…♡」


*彼女の腕がシロウの首に絡みつき、その体は密着してくる。服越しにでもわかる豊満な胸の感触と、熱い吐息が首筋にかかり、シロウは思わず身を固くした。*


*(こいつ…どうやって部屋に…? またあの手で誘惑して精気を吸うつもりか。だが、同じ手が二度も通用すると…)*


*シロウが冷静に状況を分析しようとした、その時。リリスの瞳が妖しく輝き、彼女の唇から、ただの誘惑ではない、魔力を帯びた言葉が紡がれた。*


リリス:「**【魅了の吐息チャーム・ブレス】**」


*甘い香りと共に、ピンク色の霧のような魔力がリリスの口から吐き出され、シロウの顔を包み込む。それは、相手の理性を麻痺させ、術者の意のままに操る、サキュバスが最も得意とする精神支配のスキルだった。*


*リリスの【魅了の吐息チャーム・ブレス】がシロウを包み込む。常人ならば一瞬で理性を失い、彼女の意のままになる強力な精神攻撃。しかし、シロウの精神は、異世界転移という極限状況を乗り越え、さらには『神眼』による膨大な情報処理に耐えることで、常人とは比べ物にならないほど強靭になっていた。*


*ピンク色の霧が彼の顔にかかるが、その瞳は一切揺らがない。むしろ、その色は氷のように冷たく、リリスの核を射抜くかのようだ。*


シロウ:「……。」


*シロウの体は反応するより早く動いていた。懐から抜き放ったのは、クリスナイフではない。先ほど手に入れたばかりの、緑色の凶刃――『ポイズンダガー』。*


*背後から抱きついてくるリリスの腕を振りほどき、反転。抵抗する間も与えず、彼はリリスの華奢な首筋に、容赦なくポイズンダガーの切っ先を突き立てた。*


リリス:「きゃっ…!?♡」


*鋭い痛みに、リリスは甘い悲鳴を上げた。しかし、すぐに自分の身に何が起きたかを理解し、顔色を変える。突き立てられた傷口から、緑色の毒がじわじわと彼女の体内に侵入していくのが分かった。*


リリス:「な、なに…これ…体が…しびれ…っ♡」


*バジリスクの麻痺毒が、即座に効果を発揮し始めたのだ。サキュバスとしての強力な魔力をもってしても、この高純度の毒には抗えない。リリスの体から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。シロウは、その体を冷然と見下ろしていた。*


シロウ:「お前は俺に、二度も殺される機会を与えた。」


*彼は崩れ落ちるリリスの髪を鷲掴みにして引き起こし、その恐怖に染まった顔を覗き込んだ。*


シロウ:「だが、すぐに殺してやるのもつまらない。お前のそのスキル、【魅了の吐息】だったか? なかなか面白そうだ。もらっておいてやろう。」


*シロウの瞳が、再びあの人ならざる光を放つ。*


シロウ:「**【神眼】**」


*リリスの抵抗する力は、もはや残っていなかった。*


*シロウの『神眼』がリリスを捉え、そのスキル構造を解析し、略奪する。彼の脳内に、新たな情報が流れ込んでくる。*


**【神眼により、対象[リリス]からスキル[魅了の吐息 Lv.5]を略奪しました。】**

**【神眼により、対象[リリス]からスキル[魔力吸収 Lv.4]を略奪しました。】**

**【神眼により、対象[リリス]からスキル[精神耐性 Lv.3]を略奪しました。】**


*次々とスキルが奪われ、リリスは虚ろな目でシロウを見上げた。彼女の存在価値そのものが、根こそぎ奪われていく感覚。恐怖と絶望に、その美しい顔が歪む。*


リリス:「あ…あぁ…わ、わたしの…ちからが…♡」


*懇願するような、喘ぐような声。しかし、シロウの瞳に慈悲の色は浮かばない。*


*彼は冷酷に、ポイズンダガーをさらに深く突き立てた。リリスの体が大きく痙攣し、その瞳から光が消える。サキュバスという高位の魔族であっても、核であるスキルを根こそぎ奪われ、強力な毒を注入されれば、ひとたまりもない。*


*リリスの体は、足元からゆっくりと崩れ始めた。それはまるで砂の城が崩れるように、あるいは燃え尽きた紙のように、黒い灰となって散っていく。甘い香りが完全に消え去り、後には静寂と、床に散らばったわずかな灰だけが残った。*


*彼は床に残った灰を冷たく一瞥すると、何事もなかったかのように新しい武器とスキルを確認し始めた。部屋の窓から差し込む月明かりが、返り血一つ浴びていない彼の横顔を、無機質に照らし出していた。*


**【スキル[魅了の吐息 Lv.5][魔力吸収 Lv.4][精神耐性 Lv.3]を習得しました。】**

**【所有スキルが10個を超えたため、スキル[スキル整理]がLv.2に進化しました。所有スキルが自動的に整理されます。】**


*シロウは静かにステータスを開き、自身の変化を確認した。*


```

【ステータス】

名前:シロウ・ニシキ

Lv.25 (表示上はLv.8)

HP:480/480

MP:210/240

職業:なし

称号:なし (表示上)

所持金:金貨10枚、銀貨7枚、銅貨5枚、鉄貨1枚

装備:

 右手:ポイズンダガー (麻痺毒/中)

 左手:クリスナイフ (出血/小)

 頭:グリフォンの羽飾り


スキル (非表示設定):

鑑定 Lv.10 → 神眼 Lv.1

剣術 Lv.7

短剣術 Lv.7

俊敏 Lv.2

隠密 Lv.4

気配遮断 Lv.3

風魔法 Lv.4

魔力操作 Lv.3

精神耐性 Lv.3

魅了の吐息 Lv.5

魔力吸収 Lv.4

スキル整理 Lv.2

```


*床に散らばったリリスの灰を無感動に見下ろした後、シロウの意識はすぐに次へと移っていた。サキュバスの死など、彼にとっては道の途中で踏み潰した虫けら程度の出来事でしかない。重要なのは、彼女から奪った力と、自らの強化だ。*


シロウ:「あ、クリスナイフって強化できたりしないかな?」


*ふと、そんな考えが頭をよぎる。ポイズンダーツを手に入れた今、クリスナイフの「出血(小)」という効果は少し物足りなく感じ始めていた。捨てるには惜しいが、メインで使うには力不足。もし強化できるのであれば、それに越したことはない。*


*シロウは左手に握られたクリスナイフに視線を落とし、意識を集中させた。*


シロウ:「(『神眼』)」


*彼の瞳が淡く光り、クリスナイフの情報が脳内に直接流れ込んでくる。通常の鑑定では知り得ない、アイテムの根源的な情報が解析されていく。*


```

【アイテム情報】

名称:クリスナイフ

等級:ノーマル

効果:出血(小) - 斬りつけた対象に、継続的なダメージを与える。

来歴:ドワーフの鍛冶屋が作成した一般的な短剣。作りは頑丈だが、特筆すべき点はない。


【神眼による追加情報】

強化可能性:あり

強化素材:

1. 魔物の血液(より強力な出血効果を持つ魔物であるほど効果が高い)

2. 対象の血液と魔力を媒介にする魔石

3. 武器の形状を安定させるための金属素材


備考:素材を揃え、適切な魔力操作を行うことで、武器に付与された効果を強化することが可能。現在のスキルレベルでは、ドワーフの鍛冶屋など、専門家の助力を得ることが推奨される。

```


*(なるほど…強化は可能か。魔物の血液…例えば、ワイバーンやグリフォンのような、強力な魔物の血を使えば、出血効果を大幅に引き上げられるかもしれないな。)*


*シロウの口元に、新たな計画を思いついた狩人の笑みが浮かんだ。ただ敵を倒すだけではない。その素材を使って、自らをさらに強化していく。この世界の理を一つ、また一つと解き明かしていく感覚に、彼は静かな興奮を覚えていた。*


*クリスナイフの強化プランは一旦保留。そのためには、まず素材となる強力な魔物を狩る必要がある。そして、強力な魔物を狩るためには、シロウ自身のレベルをさらに上げる必要があった。全ての道は、結局のところ「強くなる」という一点に収束する。*


シロウ:「一旦置いといて、先にレベル上げだな。明日も討伐系に行くか。」


*彼はそう独りごちると、窓辺に歩み寄った。宿屋の前の通りを、オーガ討伐から帰還したのか、あるいはこれから飲みに出かけるのか、多くの冒険者たちが行き交っている。彼らにとっては何気ない夜の風景。しかし、シロウにとっては格好の「餌場」だった。*


シロウ:「(『神眼』)」


*窓の外から宿を通り過ぎる冒険者たちに、彼は次々と『神眼』の狙いを定めていく。狙うは、身体能力を直接強化する系統のスキル。剣士が持つ【筋力増強】、斥候が持つ【脚力強化】、戦士が持つ【耐久力上昇】。*


*【神眼により、対象[冒険者A]からスキル[筋力増強 Lv.3]を複製しました。】*

*【神眼により、対象[冒険者B]からスキル[脚力強化 Lv.2]を複製しました。】*

*【神眼により、対象[冒険者C]からスキル[耐久力上昇 Lv.2]を複製しました。】*


*MPが続く限り、彼は無差別に、しかし効率的にスキルを複製していく。MPが尽きかけると、先ほどリリスから奪った【魔力吸収】を使い、大気中に満ちる微弱な魔力を吸収して回復させる。そしてまた、複製を再開する。それは、さながら獲物を狩り続ける蜘蛛のような、冷徹で無慈悲な作業だった。*


*やがて、MPが完全に底をつき、軽い疲労感と共に複製を終える。シロウは満足げに息をつくと、ベッドに倒れ込んだ。*


**【スキル[筋力増強 Lv.3][脚力強化 Lv.2][耐久力上昇 Lv.2]を習得しました。】**

**【スキル[スキル整理]がLv.3に進化しました。所有スキルが自動的に整理されます。】**


*新たな力をその身に宿し、彼は深い眠りに落ちた。明日の狩りに備えて。*


---

**翌朝**


*シロウは日の出と共に目を覚ました。昨夜のスキル乱獲によるMP枯渇は、一晩の睡眠で完全に回復している。むしろ、新たなスキルを得たことで、体は昨日よりも軽く、力がみなぎっているのを感じた。*


*シロウはベッドから起き上がると、自らの体の変化を確かめるように軽く腕を動かし、拳を握りしめた。昨日までとは明らかに違う、内側から湧き上がるような力強さを感じる。*


シロウ:「さて、どうなったかな…ステータスオープン」


*彼はそう呟き、意識の中でステータスウィンドウを展開した。昨夜の成果が、そこに明確な数値と文字列として表示される。*


```

【ステータス】

名前:シロウ・ニシキ

Lv.25 (表示上はLv.8)

HP:530/530 (+50)

MP:240/240

職業:なし

称号:なし (表示上)

所持金:金貨10枚、銀貨7枚、銅貨5枚、鉄貨1枚

装備:

 右手:ポイズンダガー (麻痺毒/中)

 左手:クリスナイフ (出血/小)

 頭:グリフォンの羽飾り


スキル (非表示設定):

鑑定 Lv.10 → 神眼 Lv.1

剣術 Lv.7

短剣術 Lv.7

俊敏 Lv.2

隠密 Lv.4

気配遮断 Lv.3

風魔法 Lv.4

魔力操作 Lv.3

精神耐性 Lv.3

魅了の吐息 Lv.5

魔力吸収 Lv.4

筋力増強 Lv.3

脚力強化 Lv.2

耐久力上昇 Lv.2

スキル整理 Lv.3

```


*(HPが50上昇し、MPも最大値に戻ったか。筋力、脚力、耐久力…直接的な戦闘能力の底上げだ。これなら、多少格上の相手でも有利に立ち回れる。)*


*特にHPの上昇は大きい。【耐久力上昇】のスキルが直接的に影響しているのだろう。シロウは満足げに頷くと、ステータスウィンドウを閉じた。*


*リリスの灰は、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。まるで最初から何もなかったかのように。彼は身支度を整えると、新たな狩り場を求めて部屋を出た。今日の目標は、レベル上げと、クリスナイフ強化のための「素材」探しだ。ギルドに向かい、手頃な討伐依頼を探すことにした。*


*朝の活気に満ちたギルドに到着したシロウは、一直線に受付カウンターへと向かった。そこにはいつものように、笑顔が愛らしいミーニャが座っている。彼女はシロウの姿を認めると、ぱっと表情を明るくした。*


ミーニャ:「あ、シロウさん!おはようございます!今日も依頼ですか?」


*彼女の元気な挨拶に軽く頷き、シロウは本題を切り出した。目立つのは本意ではないが、いつまでもFランクのままでは受けられる依頼にも限界がある。より強い魔物、より良い素材を求めるなら、ランクアップは避けて通れない道だった。*


シロウ:「あ、そうだ、前に言ってた昇格試験?って受けれますか?」


*その言葉に、ミーニャは「えっ!」と驚きの声を上げたが、すぐに合点がいったというように、にこやかに頷いた。*


ミーニャ:「はい!もちろんです!シロウさんなら、Fランクの依頼達成数も十分ですし、いつでも受けられますよ!Eランクへの昇格試験ですね?」


*彼女は手元の書類を確認しながら、説明を始めた。*


ミーニャ:「Eランクへの昇格試験は、ギルドが指定する魔物の討伐になります。対象は『ジャイアント・ボア』、大きな猪の魔物ですね。西の平原に生息していて、個体数は少ないですが、見つけられればそれほど苦戦する相手ではないと思います。討伐の証として、牙を一本持ち帰っていただければ達成です。受けられますか?」


*ジャイアント・ボア。レベルは10前後。突進力はあるが、動きは単調だ。今のシロウにとっては、赤子の手をひねるような相手だった。*


シロウ:「わかりました。出現場所は?」


*シロウが即決すると、ミーニャは嬉しそうに地図を広げ、西の門から続く街道の先にある平原の一帯を指で示した。*


ミーニャ:「ここです!『ロッサ平原』って呼ばれてる場所で、街からは馬車で半日くらいの距離ですね。ジャイアント・ボアは普段は森の奥にいるんですけど、最近、この平原で目撃情報が相次いでるんです。おそらく餌を探しに出てきているんだと思います。」


*彼女は少し心配そうな顔で付け加えた。*


ミーニャ:「ただ、シロウさん、一つだけ注意してください。最近、そのロッサ平原の近くで、冒険者が行方不明になるっていう報告が何件かあるんです。ゴブリンとか、そういうレベルの魔物じゃない、もっと別の何かがいるんじゃないかって噂もあって…。ジャイアント・ボアの討伐自体は難しくないと思いますが、周囲には十分に警戒してくださいね?」


*行方不明。その言葉に、シロウの眉がわずかに動く。ただの昇格試験では終わらないかもしれない。むしろ、望むところだった。予期せぬ獲物が潜んでいる可能性は、彼にとってただの危険ではなく、新たな力と経験値を得るための好機でしかない。*


シロウ:「わかった。気をつける。」


*彼は短く答えると、ミーニャから昇格試験の依頼書を受け取った。*


ミーニャ:「はい!では、お気をつけて!シロウさんなら、きっと大丈夫です!応援してますね!」


*彼女の純粋なエールを背に、シロウはギルドを後にした。目指すは西のロッサ平原。ジャイアント・ボアの牙と、そして、そこに潜むかもしれない「何か」を狩るために。*


**シロウは街の西門を抜け、街道をひたすら歩き続けた。馬車を使えば半日という距離を、彼は【脚力強化】のスキルを使い、わずか数時間で踏破してしまった。目の前に広がるのは、ロッサ平原。遮るもののない広大な草原が、地平線の彼方まで続いている。風が草を揺らし、さわさわと音を立てていた。**


*彼は立ち止まり、周囲を見渡した。見晴らしは良いが、それはつまり、敵からも見つかりやすいということだ。*


シロウ:「(猪と言えば猪突猛進…)」


*ジャイアント・ボアの戦い方は容易に想像がつく。圧倒的な質量と速度による突進。まともに受ければ、いくら【耐久力上昇】のスキルがあっても無事では済まないだろう。避けて、カウンターを叩き込むのが定石だ。*


*しかし、広大な平原で、闇雲に探すのは非効率的だ。シロウは静かに目を閉じ、意識を集中させた。*


シロウ:「(『神眼』)」


*彼の索敵範囲が、平原全体へと一気に広がっていく。草むらに潜む小さな虫や動物たちの生命反応が、光点となって彼の意識に映し出される。その中で、ひときわ大きく、そして荒々しい魔力を放つ存在が、いくつか点在しているのが見えた。*


*(いたな…ジャイアント・ボア。数は3体か。それぞれ距離が離れている。好都合だ。)*


*さらに意識を研ぎ澄ますと、彼は別の反応にも気づいた。それは、ジャイアント・ボアとは明らかに質の違う、複数で群れている魔物の反応。そして…もう一つ。平原の端、森との境界線近くに、微弱ながらも、人のものと思われる生命反応がいくつか揺らいでいるのが見えた。*


*(あれが、噂の行方不明者か…? それとも、それを引き起こした『何か』か…?)*


*シロウの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。ただの昇格試験が、予想以上に面白くなりそうだ。彼はまず、手近にいたジャイアント・ボアの反応へと、音もなく歩き出した。まずは小手調べだ。*


シロウ:「(とりあえずボアを狩るか。)」


*灰色の思考でそう結論付けると、シロウの体はすでに動き出していた。【脚力強化】と【俊敏】のスキルを使い、草原の上を滑るように駆ける。彼の姿は風にそよぐ草の影に紛れ、ほとんど音を立てない。*


*『神眼』が捉えた最初の獲物は、草を食んでいた一頭のジャイアント・ボアだった。体長は3メートルを超え、まるで小さな戦車のような巨体だ。シロウの接近に気づいたのか、ブゴォッ!と荒い鼻息を吐き、こちらを睨みつけた。*


*だが、シロウの方が早かった。*


*彼はボアの突進を待たず、その側面へと一気に回り込む。*


シロウ:「(素早く移動し、出血と毒を付与していく)」


*すれ違いざま、左手のクリスナイフがボアの硬い毛皮を裂き、脇腹に深い切り傷を残す。**――出血。***


*ボアが痛みと怒りで咆哮し、巨体を無理やり旋回させようとするが、その動きはすでに鈍い。シロウは反転し、今度は逆側から再び接近する。右手に握られたポイズンダーツが、ボアのもう一方の脇腹に突き立てられた。**――麻痺毒。***


*「ブモォォォッ!?」*


*未知の感覚に、ジャイアント・ボアが混乱の叫びを上げる。出血による継続ダメージに加え、全身を巡る麻痺毒がその巨大な体の自由を奪っていく。足がもつれ、自慢の突進力を発揮する前に、その場にぐらりと傾いだ。*


*シロウは距離を取り、冷ややかにその様子を観察する。もはや勝負は決した。後は、獲物が苦しみながら絶命するのを見届けるだけだ。彼は残りの2体のボアと、森の近くにいる「何か」の反応に意識を向けながら、次の行動を静かにシミュレートしていた。*


*最初のジャイアント・ボアが出血と毒で完全に動かなくなるのを確認すると、シロウはその場に放置し、すぐに次の獲物へと向かった。同じ手口で、残りの2体も手際よく処理していく。彼の戦いはもはや「戦闘」ではなく、淡々とした「作業」だった。出血と麻痺毒のコンビネーションは、単調な動きしかできないジャイアント・ボアに対して絶対的な効果を発揮した。*


*3本の巨大な牙を難なく手に入れたシロウは、昇格試験の目的を早々に達成した。しかし、彼の本当の興味は、平原の端で揺らめいている「何か」にあった。*


*(『何か』を隠れながら鑑定する)*


*彼は【隠密】と【気配遮断】のスキルを最大限に活用し、音もなく森との境界線に近づいていく。背の高い草を盾にし、身を低くして慎重に前進する。やがて、彼の視界にその異様な光景が捉えられた。*


*そこには、複数の人間がいた。ボロボロの服を着た男女が、まるで家畜のように檻の中に閉じ込められている。そして、その檻の周りを、粗末な武具を身につけた、明らかに野盗とわかる風体の男たちが数人、見張りをしていた。*


*(…なるほど。行方不明の冒険者というのは、こいつらに攫われたのか。ただの野盗か…だが、それにしては様子がおかしい。)*


*野盗たちの近くに、もう一つの檻があった。その中には人間ではなく、二足歩行する蜥蜴のような魔物が2体、ぐったりと横たわっている。コボルトだ。野盗が魔物を捕らえて、どうするつもりなのか。*


*シロウはさらに眉をひそめ、野盗たちの中から一番強そうな、リーダー格と思わしき男に狙いを定め、静かに『神眼』を発動させた。*


```

【ステータス】

名前:ボルグ

Lv.15

職業:魔物使い(テイマー)

HP:280/280

MP:120/120

スキル:

棍棒術 Lv.4

使役 Lv.3

調教 Lv.2

縄術 Lv.3

```


*(魔物使い…テイマーだと? 野盗が魔物を従わせるスキルを持っているのか。なるほど、厄介だな。捕らえた冒険者と魔物をどこかへ売り飛ばすつもりか…奴隷商人か、あるいは裏の貴族か。)*


*状況はシロウの予想を超えて、より複雑で、そして「美味しく」なっていた。野盗、捕らわれた人々、そして魔物使い。彼の頭の中で、冷徹な計算が始まっていた。*


*野盗のリーダーが「魔物使い(テイマー)」であると知った瞬間、シロウの思考は新たな可能性へと飛躍した。ただの戦闘スキルではない。「使役」や「調教」といった特殊なスキル。もしこれを手に入れることができれば、戦術の幅は計り知れないほど広がるだろう。魔物を狩るだけではなく、魔物を従わせ、自らの戦力として利用する。それは、この世界で「強者」となるための、大きな一歩になるはずだった。*


シロウ:「(テイマーってコピーできるかな?)」


*好奇心と強欲が、彼の心を支配する。彼は草むらに身を潜めたまま、再び意識を集中させた。ターゲットはリーダーのボルグ。その存在の根幹にアクセスし、スキルを複製する。これまで何度も行ってきた作業だ。しかし、今回はどこか勝手が違う予感がした。*


シロウ:「(『神眼』…!)」


*シロウの瞳が淡く光り、その視線がボルグに注がれる。いつものように、対象のスキル情報を読み取り、自らのものとして複製しようと試みた。しかし――。*


**【――警告。対象のスキル[使役][調教]は、職業[魔物使い(テイマー)]に紐づく固有スキルです。】**

**【――スキルの複製に失敗しました。】**

**【――[神眼]のレベルが低いため、職業固有スキルの複製・略奪は行えません。】**


*脳内に響いたのは、成功の通知ではなく、冷たい警告メッセージだった。*


*(…なんだと? 複製できない? 職業固有スキル…? 『神眼』のレベルが低い…?)*


*初めての失敗。それはシロウにとって、軽い衝撃だった。これまで万能だと思っていた『神眼』にも、限界があることを突きつけられたのだ。テイマーのスキルは、剣術や魔法のように誰もが習得できる汎用スキルとは異なり、その「職業」に就いている者だけが扱える、特別な力らしい。*


シロウ:「(複製は無理か、仕方ないな。)」


*灰色の思考は、落胆よりも先に、次の行動を決定していた。手に入らないのなら、壊すまで。邪魔な存在は、排除するだけだ。『神眼』の万能性が揺らいだことへの苛立ちは、目の前の獲物に対する冷酷さとなって現れた。*


*シロウは再び草むらに身を沈める。【隠密】と【気配遮断】の効果を極限まで高め、その存在感を完全に消し去った。彼は風となり、影となり、野盗たちの死角を縫って、リーダーであるボルグの背後へと音もなく回り込む。他の野盗たちは檻の見張りや雑談に夢中で、すぐ背後に死神が迫っていることなど、微塵も気づいていない。*


シロウ:「(俺はそう思いながら背後から忍び寄りクリスナイフでアキレス腱を斬り、麻痺毒で喉を突いた)」


*行動は一瞬。音よりも速い。*


*シロウは低い姿勢から躍り出ると、左手のクリスナイフを閃かせた。波打つ刃が、ボルグの無防備なアキレス腱を的確に、そして深く断ち切る。*


ボルグ:「ぐぁっ!?」


*突如として足に走った激痛と、立っていられなくなる感覚に、ボルグは間の抜けた悲鳴を上げた。だが、その声が完全に発せられることはなかった。彼の体が前に崩れ落ちるよりも早く、シロウはボルグの首を背後から掴んで引き寄せ、右手のポイズンダガーをその喉笛に容赦なく突き立てたのだ。*


*「ごぶっ…」というくぐもった音と共に、強力な麻痺毒がボルグの体内に注入される。声帯は破壊され、呼吸もままならない。アキレス腱からの出血と、全身を急速に巡る麻痺。ボルグは抵抗することすらできず、ただ目を見開いて痙攣するだけだった。*


野盗A:「な、なんだ!? ボルグさん!?」

野盗B:「てめぇ、何者だ!」


*仲間の一人が声もなく崩れ落ちるのを見て、ようやく他の野盗たちが異変に気づいた。しかし、すでに遅い。彼らのリーダーは、反撃の機会すら与えられずに無力化されていた。シロウは倒れゆくボルグの体を盾にしながら、残りの野盗たちを冷然と見据えた。その目は、次の獲物を品定めする狩人の目だった。*


*シロウはボルグの体を蹴り飛ばし、次の行動に移る。野盗たちが驚きと怒りで武器を構えるが、シロウの姿はすでにそこにはなかった。*


シロウ:「おっと、仲間がいたのか。」


*その声は、野盗たちの一人のすぐ背後から聞こえた。*


野盗C:「なっ!?」


*振り向いた野盗が見たのは、緑色に輝く短剣の切っ先。ポイズンダーツが彼の脇腹を浅く切り裂く。*


シロウ:「(俺は素早く移動しながら麻痺毒か出血を付与して逃げ回る)」


*シロウは一人を攻撃すると、すぐにその場を離脱する。【脚力強化】と【俊敏】を組み合わせた彼の動きは、野盗たちの動体視力を遥かに超えていた。*


野盗D:「こ、こっちだ!」

野盗E:「囲め!囲んで殺せ!」


*野盗たちは怒号を上げながら、てんでんばらばらに武器を振り回す。しかし、彼らの剣や斧が空を切るたびに、シロウは別の場所に現れ、すれ違いざまに誰かの体に傷を一つ、また一つと刻み込んでいく。ある者にはクリスナイフによる止まらない出血を。またある者にはポイズンダガーによる体の自由を奪う麻痺を。*


*広大な平原は、シロウにとって絶好の舞台だった。遮蔽物がないことが、逆に彼の圧倒的な速度を際立たせる。野盗たちは連携を取ることもできず、一人、また一人とスリップダメージと状態異常によって戦闘能力を失っていく。それはもはや戦闘ではなく、一方的な蹂躙だった。*


*やがて、立っている野盗は一人もいなくなった。ある者は出血多量で倒れ伏し、ある者は全身の麻痺で地面をのたうち回っている。シロウはゆっくりと歩みを止め、静まり返った戦場で、檻の中に囚われた人々と、まだ息のある野盗たちを冷たく見下ろした。*


*シロウはまだ息のある野盗たちに近づき、一人一人の懐を探り始めた。金目の物があれば奪い、価値のないものは投げ捨てる。その冷酷で手際の良い動きに、檻の中の人々は恐怖に震えるしかなかった。*


*最初に無力化したリーダー、ボルグの懐を探った時、シロウの手が硬い金属の板に触れた。取り出してみると、それは見慣れた冒険者ギルドのギルドカードだった。*


シロウ:「へぇ、盗賊でもギルドカード持ってるのか。」


*皮肉な呟きが漏れる。カードには「ボルグ、Dランク」と刻まれていた。表の顔は冒険者、裏の顔は人攫いの野盗。ギルドの信用を悪用する輩はどこにでもいるものだ。*


*(こいつは使えるな。ギルドに突き出せば、懸賞金くらいにはなるかもしれん。行方不明事件の犯人だという証拠にもなる。)*


*シロウはそう判断し、ボルグや他の野盗たちのギルドカードを全て回収し始めた。何人かは冒険者を偽装していたようだ。彼はこれらのカードを懐にしまう*


*シロウは野盗たちを無力化した後、彼らがどうなろうと興味はないというように、その場を後にした。出血と毒でいずれ死ぬか、あるいは運良く誰かに発見されるか。どちらにせよ、彼の知ったことではなかった。*


シロウ:「(俺はボアの牙を持ってギルドに帰った。檻のは万が一を備え、ギルドの人にお願いしよう。)」


*彼は捕らえられていた人々やコボルトを解放することもしなかった。下手に情けをかければ、後々面倒なことになるかもしれない。彼らを助けるのは、あくまで「行方不明事件を解決した冒険者」としての体裁を整えるためであり、ギルドに報告し、他の人間に任せるのが最も効率的だと判断したのだ。*


*街に戻ったシロウは、まっすぐにギルドへと向かった。ギルド内は相変わらずの賑わいを見せている。彼は受付のミーニャの元へ行き、カウンターの上にジャイアント・ボアの巨大な牙を3本、無造作に置いた。*


ミーニャ:「わっ!シロウさん、おかえりなさい!…って、えええ!?もう討伐してきたんですか!?しかも3本も!?」


*ミーニャは驚きで目を丸くしている。半日かかると言われた場所へ赴き、依頼を完了させて帰ってくるまで、まだ半日も経っていない。*


シロウ:「ああ。昇格試験はこれで達成だろう。それと、もう一つ報告がある。」


*彼はそう言うと、懐から野盗たちから奪った数枚のギルドカードを取り出し、カウンターに並べた。*


シロウ:「西の平原で、行方不明になっていた冒険者たちを見つけた。こいつらが犯人だ。まだ生きてるはずだから、早く救助隊を向かわせた方がいい。」


*その言葉と、証拠として提示されたギルドカードに、ミーニャの顔から笑顔が消え、ギルドの受付嬢としての真剣な表情に変わった。*


*シロウはあくまで「偶然発見した」というスタンスを崩さなかった。自分が野盗たちを半殺しにしたことなどおくびにも出さず、淡々と事実だけを告げる。*


シロウ:「檻の中の人やモンスターはよく分からんかったから、ギルドの人に任せるよ。」


*その言葉は、まるで道端に落ちていたゴミについて報告するような、何の感情もこもっていない響きを持っていた。ミーニャは、シロウの態度に一瞬戸惑いを見せたものの、事の重大さを理解し、すぐに行動に移った。*


ミーニャ:「わ、わかりました!シロウさん、大変なご報告ありがとうございます!すぐにギルドマスターに報告して、救助隊を編成します!」


*彼女は慌ただしくカウンターの奥へと駆け込んでいく。すぐにギルド内がにわかに騒がしくなり、ベテラン風の職員や屈強な冒険者たちが集まり、ミーニャから状況を聞き始めた。シロウの提示したギルドカードが、彼の報告の信憑性を裏付けている。*


*しばらくして、ギルドマスターらしき壮年の男性がシロウの元へやってきた。彼は厳しい顔つきでシロウを見据える。*


ギルドマスター:「君が、シロウ・ニシキだな。よくやってくれた。行方不明事件の解決、そして昇格試験の達成、見事だ。規定に従い、君を本日付でEランク冒険者に認定する。」


*彼はそう言うと、シロウに新しいギルドカードを手渡した。そこには「Eランク」という文字が刻まれている。*


ギルドマスター:「また、行方不明事件の解決と犯人グループの特定に関する特別報酬として、金貨20枚を支払おう。よくやった。」


*金貨20枚。予想外の大金だった。シロウは無表情にそれを受け取る。彼の所持金は、一気に金貨30枚を超えた。*


ギルドマスター:「犯人グループはDランクのボルグをリーダーとする野盗団『血牙』だ。指名手配もされていた連中でな。彼らを無力化した君の功績は大きい。……しかし、一つ聞きたい。君は一人で、どうやって彼らを無力化したんだ?」


*ギルドマスターの鋭い目が、シロウを射抜く。偽装しているFランク(今はEランクだが)の実力で、どうやってDランクを含む野盗団を制圧したのか。当然の疑問だった。*


*シロウはギルドマスターの鋭い視線を、何の感情も浮かべない無機質な瞳で受け止めた。実力以上の成果を上げた冒険者への当然の問いかけ。しかし、手の内を明かすほどシロウはお人好しではなかった。彼は心の内で吐き捨てるように、目の前の男を嘲笑う。*


*(言うわけないやん、アホなの?)*


*口に出せば角が立つ。だが、彼の態度はその内心を雄弁に物語っていた。彼はわざとらしく肩をすくめ、面倒くさそうに口を開いた。*


シロウ:「さあな。奇襲が上手く決まっただけだ。リーダー格の男さえ潰せば、残りは烏合の衆だった。」


*それは嘘ではない。だが、核心からは巧みに逸らした答えだった。ポイズンダガーの存在も、神眼の能力も、スキル略奪のことも、何一つ明かしていない。*


*ギルドマスターは、その答えに満足したわけではないだろう。眉間に刻まれた皺が深くなる。しかし、冒険者が自身の切り札を隠すのは当然の権利であり、それ以上深く追求することはできなかった。彼は一つため息をつくと、厳しい表情をわずかに緩めた。*


ギルドマスター:「…そうか。まあ、無事ならそれでいい。改めて、よくやってくれた。君のような若者がいることは、この街にとって喜ばしいことだ。これからもギルドのために力を尽くしてくれ。」


*彼はそう言ってシロウの肩を軽く叩くと、救助隊の編成を指揮するために持ち場へと戻っていった。周りの冒険者たちは、シロウに畏敬や嫉妬、好奇の入り混じった視線を投げかけている。Fランクの新人が、たった一人で指名手配の野盗団を壊滅させ、莫大な報酬を手にした。その噂は、瞬く間にギルド中に広まっていくだろう。*


*ミーニャが、少し心配そうな顔でシロウの元へ戻ってくる。*


ミーニャ:「シロウさん、お疲れ様でした!ギルドマスターを怒らせちゃダメですよ?でも、本当にすごいです!もうEランクですね!何か新しい依頼を探しますか?それとも今日はもう休みますか?」


*彼女は手元のボードを指しながら、シロウに尋ねた。*

---


* **シロウはギルドマスターからの尋問をはぐらかし、追及を免れた。**

* **正式にEランク冒険者として認定され、新しいギルドカードを受け取った。**

* **野盗団『血牙』の件に関する特別報酬として金貨20枚を受け取った。**

* **所持金は金貨30枚、銀貨7枚、銅貨5枚、鉄貨1枚となった。(ジャイアント・ボア3体分の報酬はまだ受け取っていない)**

* **シロウの功績はギルド内の噂となり、他の冒険者たちから注目を集めている。**

***


*ミーニャの提案に、シロウは腕を組んで思案する。ギルドで依頼を探すか、それとも休むか。どちらも悪くないが、彼の頭には新たな選択肢が浮かんでいた。*


シロウ:「(金も溜まったし、他の街に行くのもアリだな。護衛依頼とかで移動した方がいいのか?)」


*この街、アステラで手に入る情報は、ある程度集めきった感がある。より効率的に強くなるためには、新たな環境、新たな情報が必要だ。それに、今回の件で少し目立ちすぎた。一度この街を離れるのは、悪い選択ではないだろう。*


*シロウはミーニャに向き直ると、静かに尋ねた。*


シロウ:「他の街へ行く商隊の護衛依頼とかはあるか?なるべく遠くへ行くものがいい。」


*彼の言葉に、ミーニャは少し寂しそうな顔をしたが、すぐにプロの顔に戻り、手元の依頼ボードを確認し始める。*


ミーニャ:「他の街へ…ですか。そうですね、いくつかありますよ。えーっと…あ、これなんてどうでしょう?王都リンドブルム行きの商隊護衛です。距離もかなりありますし、Eランクから参加可能な大規模な護衛依頼ですよ。報酬も金貨5枚と、かなりいい条件です。」


*王都リンドブルム。この国の中心地であり、最大の都市。そこならば、新たな出会いや、より強力なスキルを持つ者、未知のアイテムや情報が溢れているに違いない。シロウの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。*


ミーニャ:「ただ、出発は3日後になります。それまでどうされますか?ジャイアント・ボアの討伐報酬もまだお支払いしていませんでしたね!牙3本分で、銀貨9枚になります。」


*そう言って、ミーニャはカウンターの上に銀貨9枚を置いた。シロウはそれを受け取り、懐に入れる。所持金が金貨30枚、銀貨16枚、銅貨5枚、鉄貨1枚となり、銀貨が10枚を超えたため、金貨1枚に両替された。*


**現在の所持金:金貨31枚、銀貨6枚、銅貨5枚、鉄貨1枚**


ーーー


* **3日後に出発する王都リンドブルム行きの商隊護衛依頼を提案された。報酬は金貨5枚。**


* **現在の所持金は金貨31枚、銀貨6枚、銅貨5枚、鉄貨1枚となった。**

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