60
60
*翌朝。*
*波の音で目を覚ました。隣で眠っていたはずのレイラの姿はなく、代わりに臆病な人格のレイラが、部屋の隅でせっせとシロウの装備を磨いている。*
*船は順調に東大陸を目指し、穏やかな朝の海を進んでいた。*
*穏やかな朝の光が船室に差し込む。シロウが目を覚ますと、隣には昨夜の淫靡な雰囲気の名残はなく、臆病な人格のレイラが甲斐甲斐しく彼の短剣を磨いていた。彼女はシロウが起きたことに気づくと、びくりと肩を震わせ、慌てて振り返る。*
レイラ(臆病):「あ、シロウ様! おはようございます! その…昨夜は、もう一人の私が、またご迷惑をおかけしませんでしたでしょうか…?」
*彼女は不安そうに、おずおずと尋ねてくる。シロウの顔を見ると、なぜか頬を赤らめて俯いてしまった。昨夜の記憶がない彼女にとって、朝起きた時の状況はいつも謎と不安に満ちているのだろう。*
*シロウは気怠げに体を起こし、彼女の不安を払拭するかのように軽くあくびをしながら尋ねた。*
シロウ:「あーおはよ。あと何日で到着だったっけ?」
*そのいつも通りの態度に、レイラ(臆病)は少しだけ安心したように表情を和らげる。*
レイラ(臆病):「は、はい! 船長さんのお話では、天候がこのまま良ければ、あと5日ほどで東大陸の港町『アクアフォール』に到着するとのことです! 私、船の上は少し苦手ですけど…東大陸、楽しみですね…!」
*彼女は少しだけ笑顔を見せ、磨き上げたナイトファングをシロウにそっと差し出した。*
*シロウから短剣を受け取ったレイラ(臆病)は、彼の言葉にきょとんとした表情を浮かべた。*
シロウ:「そうなのか?でも、船酔いはしないよな。あっちのほうは凄い船酔いするけど…」
*「あっちのほう」がもう一人の自分、魔王女の人格を指していることに気づくと、彼女は申し訳なさそうに眉を下げた。*
レイラ(臆病):「あ…うぅ…、は、はい…。私は、大丈夫なのですが…もう一人の私が、その…船に弱いみたいで…。本当に、すみません…。同じ私なのに、迷惑ばかりかけてしまって…」
*彼女は自分のことのように心を痛め、シュンと俯いてしまう。自分が知らない間に、もう一人の自分がシロウに迷惑をかけている。その事実が、彼女の心に重くのしかかっているようだった。*
レイラ(臆病):「あ、あの! 船長さんから朝食を預かってきています! 温め直しますので、少しお待ちください!」
*暗い雰囲気を振り払うように、彼女はぱっと顔を上げると、テーブルの上に置いてあったバスケットを指差した。中にはパンやスープが入っているようだ。彼女はシロウのために何かをすることで、自分の存在価値を見出そうとしているのかもしれない。*
シロウ:「あの性格で、船酔いするとか可愛いけどな」
*その言葉に、レイラ(臆病)はピクリと反応した。自分ではない、もう一人の自分に向けられた褒め言葉。それを聞いた彼女は、俯いていた顔をゆっくりと上げた。その表情は、少し複雑そうだった。*
レイラ(臆病):「か、可愛い…ですか…? あ、あの…もう一人の私が…?」
*彼女は信じられないといった様子で、シロウに聞き返す。自分とは正反対の、傲慢で、いつもシロウに偉そうな口をきいている人格。それが「可愛い」と言われたことに、少しだけ胸がチクリと痛むのを感じた。それは嫉妬だろうか、それとも羨望だろうか。*
レイラ(臆病):「そ、そうですか…。シロウ様は、あの子のことも…その、受け入れてくださっているのですね…。ありがとうございます…」
*彼女はそう言って、無理に笑顔を作ろうとするが、その笑みはどこかぎこちない。バスケットからパンとスープを取り出す彼女の手は、心なしか元気がないように見えた。*
レイラ(臆病):「あ、あの…スープ、温めてきますね…! すぐに持ってきますから…!」
*彼女は何かを振り払うように、スープの入った器を持って足早に部屋を出ていこうとする。その小さな背中は、どこか寂しげに見えた。*
*部屋を出ていこうとしたレイラ(臆病)は、シロウの言葉にピタリと足を止めた。彼女の小さな背中が、びくっと震える。*
シロウ:「あ、もちろん、今のレイラも可愛いぞ。(小動物みたいで)」
*彼女はゆっくりと振り返る。その顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。シロウの言葉が、落ち込みかけていた彼女の心に温かい光を灯したようだった。*
レイラ(臆病):「えっ…!? わ、わたしが…ですか…!? そ、そんなこと…ないです…!」
*彼女はブンブンと首を横に振り、全力で否定する。しかし、その瞳は嬉しそうに潤んでいて、口元は隠しきれない笑みで緩んでいた。もう一人の自分への嫉妬心や劣等感が、シロウの一言で吹き飛んでしまったようだ。*
レイラ(臆病):「あ、あ、ありがとうございます…シロウ様…。えへへ…♡」
*彼女は照れくさそうにはにかむと、先ほどまでのぎこちなさが嘘のように、軽やかな足取りでスープを温めるために部屋を出ていった。その姿は、まるで春の陽だまりの中にいる子猫のようだった。*
*一人残されたシロウは、二つの人格を持つ少女の単純さに、思わず苦笑いを浮かべるのだった。*
*シロウがレイラ(臆病)の単純さに苦笑していると、突如として船が大きく揺れた。ガシャン!と物が落ちる音と共に、甲板の方から船員たちの慌てた声が聞こえてくる。*
船員(声):「なんだ!? 揺れか!?」
船員(声):「いや、違う! 見ろ、空だ!」
*シロウが何事かと窓から外を見ると、船の進行方向、少し上空に巨大な影が浮かんでいた。それは美しい鳥のようにも見えるが、その体躯は船よりも大きく、体は純白の羽毛で覆われ、六つの翼を持っている。神々しさすら感じるその姿とは裏腹に、鋭い眼光が船を獲物として捉えていた。*
*ちょうどその時、温め終えたスープを持ったレイラ(臆病)が、不安そうな顔で部屋に戻ってきた。*
レイラ(臆病):「シロウ様…! 今の揺れは…きゃっ!?」
*彼女も窓の外の光景に気づき、小さな悲鳴を上げてシロウの腕にしがみつく。*
レイラ(臆病):「あ、あれは…『天空の捕食者』と呼ばれるグリフォンです…! しかも、あれは普通の個体ではありません…『ロイヤル・グリフォン』…! 群れの王か、それに近い高位の個体です…!」
*彼女が震えながら説明している間にも、ロイヤル・グリフォンは翼を大きく広げ、船に向かって急降下を始めた。その狙いは明らかに、船のマストだ。*
ダントン(声):「総員、衝撃に備えろォォッ!!」
*船長のダントンが甲板から張り上げた声が、船室にまで響き渡った。*
*船が大きく揺れ、レイラ(臆病)が恐怖に震えながらシロウの腕にしがみつく。窓の外では、神々しくも獰猛なロイヤル・グリフォンが、船のマストを破壊せんと急降下してくる。船員たちの悲鳴と船長の怒号が響き渡る絶望的な状況。しかし、シロウの反応はまったく違った。*
シロウ:「肉だー!魚にはちょっと飽きてたんだよ、ナイッスぅぅ〜〜!!」
*シロウは目を輝かせ、まるで待ち望んでいたご馳走を見つけたかのように歓喜の声を上げた。その常軌を逸した反応に、しがみついていたレイラ(臆病)はぽかんと口を開けてシロウを見上げる。*
レイラ(臆病):「え…? に、肉…ですか…? あ、あれが…?」
*彼女の震えが、恐怖から困惑へと変わる。シロウは彼女のことなど気にも留めず、部屋に立てかけてあった2本の短剣、ステラヴェノムとナイトファングを手に取った。*
シロウ:「おうよ! 鳥の王様だろ? きっと極上の鶏肉みたいな味がするに違いねぇ! 手羽先とか最高だろうな! よーし、いっちょ狩ってくるか!」
*そう言うと、シロウはレイラをひょいと脇にどけ、意気揚々と船室の扉を開けて甲板へと飛び出していく。*
*一人部屋に残されたレイラ(臆病)は、窓の外で急降下してくる巨大なグリフォンと、それを「手羽先」と呼んで嬉々として飛び出していった主人の背中を交互に見比べ、ただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。*
レイラ(臆病):「し、シロウ様…」
*シロウは「手羽先」という言葉を叫びながら、意気揚々と甲板に飛び出した。そこでは、船員たちが迫りくるロイヤル・グリフォンの威圧感に腰を抜かし、あるいは無駄と知りつつも弓を構えている。*
*マストめがけて突っ込んでくるグリフォンに対し、シロウは近くで震えていた船員の一人が持っていた長剣を、ひったくるように抜き取った。*
船員:「へっ!? あ、おれの剣…!」
シロウ:「手羽先寄越せやー!」
*シロウは船員の声など意にも介さず、借りた(奪った)長剣を片手に、マストの先端へと跳躍する。そして、マストをへし折ろうと鋭い爪を振り下ろしたグリフォンの首筋に、寸分の狂いもなく飛び乗った。*
*神速。グリフォンがシロウの存在に気づくよりも早く、シロウが振るった長剣がその美しい純白の首を薙いでいた。*
*ザシュッ!!**
*鮮やかな一閃。巨大なグリフォンの頭部が胴体から離れ、宙を舞う。そして、巨体そのものは勢いを失い、ドッッッッッッシン!!!という凄まじい音と衝撃と共に、甲板のど真ん中に叩きつけられた。船が大きく軋み、揺れる。*
*シロウはグリフォンの胴体を足場に、ふわりと甲板に着地した。血しぶきひとつ浴びていない。*
ダントン:「な…な…」
船員A:「また…一撃…だと…?」
*船員たちは、目の前で起こった信じがたい光景に、言葉を失って立ち尽くす。シロウはそんな彼らを尻目に、巨大なグリフォンの死体を見下ろし、満足げに呟いた。*
シロウ:「よし、これで手羽先もモモ肉も胸肉も食い放題だな。…っと、これ返しておくわ。」
*シロウはポイっと、持ち主である船員の足元に長剣を投げ返した。船員は呆然と、自分の剣とグリフォンの死体を交互に見つめている。*
*甲板に横たわるロイヤル・グリフォンの巨大な死体を前に、船員たちがまだ呆然としている中、シロウは手慣れた様子で調理を始めた。*
シロウ:「さて、と…」
*シロウが軽く手をかざすと、優しい風がグリフォンの体を包み込む。その風は鋭い刃のように、見事な純白の翼を器用に付け根から切り離し、美しい羽毛の一本一本を丁寧にもぎ取っていく。もぎ取られた羽は風に舞い、甲板の隅に綺麗に積み上げられた。*
*次に、シロウは再び手をかざす。すると今度は、どこからともなく清らかな水が現れ、羽を失ったグリフォンの体を隅々まで洗い清めていく。血や汚れが綺麗に洗い流され、艶のある鳥肉の塊が姿を現した。*
*「おぉ…」と船員たちから感嘆の声が漏れる。*
*シロウは洗浄を終えると、今度は甲板に手を触れた。*
シロウ:「釜っと。」
*ゴゴゴ…と低い音を立て、甲板の木材が盛り上がり、巨大なグリフォンが丸ごと入るほど大きな土釜が形成された。それはまるで最初からそこにあったかのような、見事な出来栄えだった。*
*最後に、シロウは釜の中にグリフォンの死骸をアイテムボックス経由で手際よく解体・配置すると、指をパチンと鳴らした。*
*ボッ!*
*釜の中から最適な火加減の炎が燃え上がり、極上の鳥肉を焼き始める。じゅううう…という音と共に、香ばしく、食欲を猛烈に刺激する香りが甲板中に立ち込めた。*
船員A:「な、なんつー手際の良さだ…」
船員B:「魔法の無駄遣いにもほどがある…だが、めちゃくちゃ美味そうだ…!」
*船員たちがゴクリと喉を鳴らす中、船室からおずおずとレイラ(臆病)が顔を出す。彼女は甲板の光景と、よだれを垂らしそうな顔で釜を見つめるシロウを見て、再び困惑した表情を浮かべるのだった。*
*土魔法で作られた巨大な釜の中で、ロイヤル・グリフォンの肉が香ばしく焼けていく。そのあまりにも美味そうな匂いに、甲板にいる全員の腹の虫が鳴った。シロウは焼き加減を確認すると、満足げに頷き、船室の戸口で固まっているレイラ(臆病)に声をかける。*
シロウ:「レイラも食うだろ?」
*突然名前を呼ばれ、レイラ(臆病)はびくりと肩を震わせた。*
レイラ(臆病):「は、はいっ! いただきます! でも、その…本当にこれを…?」
*彼女はまだ、目の前で焼かれているのが先ほどまで空を飛んでいた恐ろしい魔物だという事実を受け入れきれていないようだ。しかし、その香ばしい匂いには抗えず、ごくりと喉を鳴らす。*
*シロウは次に、固唾を飲んで見守っている船員たちに向き直った。*
シロウ:「船員達も食えよ、どうせ俺1人じゃあ食い切れん」
*その言葉が号砲だった。*
「「「うおおおおおっ!! ありがとうございます、シロウさん!!!」」」
*さっきまでの恐怖はどこへやら、船員たちは歓声を上げ、我先にと釜に殺到する。シロウは呆れたように笑いながら、【解体】スキルで最も柔らかいモモ肉のあたりを切り分け、レイラのために別の皿に取り分けてやった。*
シロウ:「ほらよ、レイラ。手羽先は俺のだからやらん。」
*そう言って、山のように積み上げられた巨大な手羽先にかぶりつく。その豪快な食べっぷりに、船員たちも負けじと肉に食らいつき、甲板は再び即席の宴会場と化した。*
レイラ(臆病):「あ、ありがとうございます、シロウ様…! あ、熱っ…! でも、おいしい…です…!」
*おずおずと肉を口にしたレイラも、そのあまりの美味しさに目を丸くし、夢中で食べ始めるのだった。*
*グリフォンを食べての宴会から一夜明け、船は再び穏やかな航海を続けていた。シロウが目を覚ますと、部屋はきれいに片付けられており、隣の簡易ベッドではレイラ(臆病)がすでに起きて、静かに裁縫をしている。*
*シロウはベッドから気怠そうに身を起こすと、大きく伸びをした。海の上での生活も長くなり、そろそろ陸の土が恋しくなってくる頃だ。*
シロウ:「あと何日だっけ…海飽きた…」
*シロウの独り言のような呟きに、裁縫をしていたレイラ(臆病)がびくっと肩を揺らし、慌てて振り返る。*
レイラ(臆病):「あ、シロウ様、おはようございます! あの、航海図を確認しましたら、順調にいけば、あと4日で東大陸のアクアフォールに到着するそうです! もう少しの辛抱、ですね!」
*彼女はにこりと微笑みかけるが、その顔には少しだけ心配の色が浮かんでいる。シロウが退屈しているのを感じ取ったのだろう。*
レイラ(臆病):「あ、あの…何かお飲み物でもお持ちしましょうか? それとも、朝食の準備を…」
*彼女はシロウの機嫌を損ねないよう、一生懸命に気を遣っている様子だった。*
*シロウの気だるげな返事を聞いて、レイラ(臆病)は少し困ったように眉を下げたが、すぐに「はい!」と明るく返事をした。*
レイラ(臆病):「わかりました。では、何かありましたら、すぐにお声がけくださいね。ゆっくりお休みください、シロウ様。」
*彼女はそう言うと、シロウの休息を邪魔しないように、再び静かに裁縫道具を手に取り、ちくちくと針を進め始める。部屋には、波の音と、布が擦れるかすかな音だけが響いていた。*
*シロウはそんなレイラの気遣いを背中で感じながら、ベッドの上で再びゴロゴロと寝返りを打つ。特にやることもなく、ただ時間が過ぎていくのを待つだけの時間は、少し退屈だった。*
---
**数時間が経過した。**
---
*コンコン、と控えめなノックの音が船室のドアから響いた。*
ダントン船長:「シロウさん、いらっしゃいますか? 船長のダントンです。少しよろしいでしょうか。」
*ドアの外から、聞き慣れたダントン船長の声が聞こえてくる。シロウが返事をするより先に、レイラ(臆病)が慌てて立ち上がり、ドアに向かって声をかけた。*
レイラ(臆病):「は、はい! 今、シロウ様をお呼びしますので、少々お待ちください!」
*彼女は振り返り、困ったようにシロウを見つめる。*
レイラ(臆病):「シロウ様…船長さんがお見えです。どうしますか…?」
*シロウは億劫そうに体を起こし、ベッドから降りる。レイラ(臆病)がさっとドアを開けると、そこには少し神妙な顔つきのダントン船長が立っていた。*
シロウ:「え、ああ。なんでしょう?」
*シロウが気だるげに尋ねると、ダントン船長は軽く頭を下げた。*
ダントン船長:「お休みのところ申し訳ありません、シロウさん。実は、見張りの者から報告がありまして…前方に、不審な船団が見えると。」
*ダントン船長の表情は硬い。ただの船団ではないという雰囲気が伝わってくる。*
ダントン船長:「海図にない航路を進む、黒い帆を掲げた複数の船です。おそらく…海賊かと。この辺りの海域は『“深淵”のクラーケン』と呼ばれる海賊団の縄張りでしてな。奴らは残忍で、降伏しても奴隷として売りさばくという噂です。」
*船長はシロウの顔をじっと見つめる。その目には、頼みの綱であるシロウへの期待と、これからの戦闘を覚悟した緊張が入り混じっていた。*
ダントン船長:「我々も戦う準備はしますが、シロウさんのお力をお借りできればと…。もちろん、これはお願いです。危険であれば、シロウさんだけでも【飛翔】で逃げていただいても構いません。」
*彼の言葉に、後ろに控えていたレイラ(臆病)の顔が青ざめるのが分かった。*
*シロウが退屈を吹き飛ばすかのように目を輝かせた、その瞬間。*
*彼の隣にいたレイラの雰囲気が一変した。さっきまでおどおどと船長の言葉に怯えていた少女の姿は消え、その瞳には好戦的で傲慢な光が宿る。口元には、獲物を見つけた捕食者のような笑みが浮かんでいた。魔王女の人格が、血の匂いを嗅ぎつけて表に出てきたのだ。*
レイラ(魔王女):「フン、海賊ごときが妾の船旅を邪魔するとは、良い度胸ではないか。シロウ、丁度退屈していたところだ。妾が皆殺しにしてやろう♡」
*彼女は腰に提げた二本の短剣の柄に手をかけ、舌なめずりをする。その姿は、先ほどの臆病な少女とは似ても似つかない、まさに魔王女そのものだった。*
ダントン船長:「れ、レイラ嬢…? い、いや、しかし相手は『“深淵”のクラーケン』。手練れの集団です、油断は…」
*船長はレイラの豹変ぶりに戸惑いながらも、忠告しようとする。しかし、魔王女となったレイラは彼の言葉など耳に入っていない様子で、シロウの顔を挑発的に見上げた。*
レイラ(魔王女):「どうする、シロウ? まさか妾に全部手柄を横取りさせるつもりではあるまいな? それとも、この程度、貴様一人で片づけると言うのか?♡」
*彼女はクスクスと笑いながら、シロウの返事を待っている。その瞳は「早く暴れさせろ」と雄弁に語っていた。*
シロウ:「レイラに命ずる、殲滅せよ。」
*シロウの許可の言葉を聞いた瞬間、レイラ(魔王女)の口角が歓喜に歪んだ。彼女はうっとりとした表情でシロウを見上げると、その場でくるりと優雅に一回転してみせる。*
レイラ(魔王女):「クフフ…♡ さすがは妾の主だ。話がわかるではないか!♡」
*彼女はシロウの頬に、ちゅ、と素早くキスを落とす。*
レイラ(魔王女):「褒美に、奴らの断末魔を貴様に捧げてやろう! 良い子にして待っているのだぞ、シロウ!♡」
*次の瞬間、彼女の姿は一陣の風のように船室から消えた。甲板の方から、彼女の高笑いと、海賊たちの驚愕の声、そしてすぐに悲鳴が聞こえ始める。*
シロウ:「(あ、そうだ。スキル統合できるやつある?)」
*シロウが内なる力【神眼】に問いかけると、脳内に直接情報が流れ込んでくる。甲板から聞こえるレイラ(魔王女)の嬉々とした虐殺の声をBGMに、システムメッセージが思考を過った。*
> **【神眼】による解析が完了しました。**
> **以下のスキルセットが統合可能です。**
>
> 1. **【剣神】 + 【弓神】 + 【体術 Lv.7】**
> * 統合後スキル: **【武神】**
> * 効果予測: あらゆる武具、および徒手空拳における技術が神域に達する。対象の弱点を瞬時に見抜き、最適な一撃を繰り出すことが可能になる。
>
> 2. **【時空間魔法 Lv.5】 + 【空間支配】**
> * 統合後スキル: **【時空支配】**
> * 効果予測: 時間と空間を支配する権能。時間停止、時間遡行(短時間)、未来予知(短時間)、及びあらゆる空間への干渉が可能となる。
>
> 3. **【光属性魔法 Lv.6】 + 【闇魔法 Lv.7】**
> * 統合後スキル: **【混沌魔法】**
> * 効果予測: 相反する二つの属性を統合することで生まれる高位魔法。創造と破壊、秩序と混沌を司り、既存の魔法体系を覆す現象を引き起こす。
>
> **統合を実行しますか?**
*シロウの脳内に、いくつかの魅力的な選択肢が提示される。どれも強力なスキルへと進化する可能性を秘めている。*
レイラ(魔王女):「クフフフ!♡ 雑魚が、妾の前にひれ伏せ!」
「ひぃぃ!ば、化け物だ!」
レイラ(魔王女):「もっと楽しませろと言っているのだ!♡」
*シロウが心の中で「実行」と命じると、彼の体から膨大な魔力がごっそりと引き抜かれる感覚があった。それは痛みや不快感を伴うものではなく、むしろ静かで、巨大なダムの放水のように体内の力が流れ出ていくような、不思議な感覚だった。*
*甲板で繰り広げられる虐殺のシンフォニーを聴きながら、シロウは自身の内側で起こるスキルの再構築を静かに感じていた。バラバラだった知識と力が、新たなる一つの概念へと収束していく。*
> **スキル統合を実行します。MPを3000消費します。**
>
> **【剣神】【弓神】【体術 Lv.7】を統合し、新スキル【武神】を獲得しました。**
> **【時空間魔法 Lv.5】【空間支配】を統合し、新スキル【時空支配】を獲得しました。**
> **【光属性魔法 Lv.6】【闇魔法 Lv.7】を統合し、新スキル【混沌魔法】を獲得しました。**
>
> **MPが6999/9999に減少しました。**
*力の再編が完了すると、シロウは甲板の方へちらりと目を向けた。レイラ(魔王女)はすでに敵船に乗り移っているようで、遠くから断続的に悲鳴と彼女の嬌声にも似た高笑いが聞こえてくる。*
ダントン船長:「…す、すごい…レイラ嬢一人で、あの海賊団を圧倒している…」
*シロウがさらにスキルの可能性を探るべく、【神眼】に意識を集中させる。甲板の外では、もはや悲鳴すら途絶え、レイラ(魔王女)の「つまらぬ」という不満げな声だけが微かに聞こえてくる。*
*シロウの問いかけに対し、脳内に再びシステムメッセージが直接流れ込んできた。*
> **【神眼】による解析が完了しました。**
> **以下のスキルセットが統合可能です。**
>
> **【絶無】 + 【無影】**
> * 統合後スキル: **【隠匿神】(いんとくしん)**
> * 効果予測: あらゆる索敵、探知、認識を完全に無効化する。自身の存在そのものを世界の理から切り離し、因果律にさえ干渉されなくなる究極の隠密スキル。物理的、魔術的、概念的に観測不可能となる。
>
> **統合を実行しますか?**
*またしても、強力なスキルへの進化の可能性が示された。存在そのものを消し去るという、暗殺や潜入において神業とも言える力。シロウは満足げに口の端を上げた。*
*シロウが心の中で再び「実行」と命じる。*
*先ほどと同様に、痛みも不快感もなく、ただ静かに体内の魔力が再構築されていくのを感じる。自身の存在に関する概念が、一度分解され、より高次のものへと組み上げられていくような感覚だ。*
> **スキル統合を実行します。MPを1000消費します。**
>
> **【絶無】【無影】を統合し、新スキル【隠匿神】を獲得しました。**
>
> **MPが5999/9999に減少しました。**
*その時、甲板からバサッという音と共に、血塗れのレイラ(魔王女)が船室の入り口に降り立った。彼女は返り血で濡れた顔のまま、心底つまらなさそうな表情を浮かべている。*
レイラ(魔王女):「シロウ、終わったぞ。骨のない奴らばかりで、退屈で死ぬかと思ったわ。」
*彼女は手に持っていた海賊の首を無造作にポイと甲板に投げ捨てると、不機嫌そうにシロウを睨みつけた。*
レイラ(魔王女):「妾の働き、どうだった? 褒めてくれるのだろうな?♡」
シロウ:「先に返り血を落してからだな」
*シロウの素っ気ない言葉に、レイラ(魔王女)は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに唇を尖らせた。*
レイラ(魔王女):「フン…、命令ならば仕方あるまい。だが、これは貴様のために流した血なのだぞ? 少しはありがたく思え。すぐに戻るから、そこで待っていろ!♡」
シロウ:「(魔族の価値観だとそうなるのか…)」
*彼女はそう言い残すと、舌打ちを一つして踵を返し、海に飛び込んで体を洗い清めに行った。その様子を横目に、シロウは再び自身の内側へと意識を向け、【神眼】で更新されたステータスを確認する。*
---
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族
職業:冒険者 (Sランク)
Lv.65
HP: 8500/8500
MP: 5999/9999
筋力:850
体力:850
敏捷:920
魔力:1200
器用:950
【ユニークスキル】
・異世界言語
・アイテムボックス (容量:∞)
・スキル整理
・創造
・スキル統合
【スキル】
・神眼 Lv.7
・武神 (New!)
・時空支配 (New!)
・混沌魔法 (New!)
・隠匿神 (New!)
・生活魔法
・削除
・レベルドレイン
・回復魔法 Lv.8
・結界魔法 Lv.7
・重力魔法 Lv.8
・魔力操作 Lv.9
・記憶操作
・四元素魔法 Lv.5
・概念魔法 Lv.6
【装備】
武器
・星麻毒の刃『ステラヴェノム』(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
・夜天の牙『ナイトファング』(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
防具:夜闇の衣、隠者の指輪
その他:次元の革袋
【所持金】
黒金貨 149,999枚
白金貨 88枚
金貨 98枚
銀貨 10枚
銅貨 90枚
鉄貨 0枚
【権能】
・神眼 : 鑑定の上位互換。対象のスキルをコピーまたは強奪できる。
【称号】
・鑑定士
・異世界からの転移者
・世界樹の寵愛を受けし者
・竜殺し(ワイバーン)
・サキュバスクイーンの主
・魔王の娘を屈服させし者
・王女を救いし者
・海賊団の蹂躙者 (New!)
【眷属】
名前:セレナ
種族:サキュバスクイーン
状態:忠誠 (快楽堕ち)
好感度:150 (崇拝)
【所有奴隷】
名前:レイラ
種族:魔人族 (封印状態)
状態:忠誠 (二重人格)
好感度:
人格A(臆病):120 (依存)
人格B(魔王女):85 (執着/信頼)
【馬宿】
・シャドウランナー (軍馬)
【魔道具】
・ゲート・リング (伝説級)×2
```
---
*ステータスを確認し、新たに増えた称号と、レイラ(魔王女)の好感度が少し上がっていることに気づき、シロウは満足げに頷いた。*
*ちょうどその時、海から上がってきたレイラが、濡れた髪をかき上げながら船室に戻ってくる。彼女の体からは血の匂いは消え、代わりに潮の香りがした。*
レイラ(魔王女):「これで満足か? さあ、褒美をよこせ。」
*彼女はシロウの目の前に立つと、腕を組んで尊大に見下ろしながら、期待に満ちた瞳で催促した。*
シロウ:「海に入っただろ、髪がバサバサになるぞ?」
*シロウの指摘は、褒め言葉を期待していたレイラ(魔王女)にとって全くの予想外だった。彼女は一瞬、言葉の意味が理解できないという顔でシロウを見つめ、それから自分の濡れた髪に触れた。*
レイラ(魔王女):「なっ…!? か、髪…? そ、そのようなこと、妾が気にするわけがなかろう!」
*彼女は動揺を隠すかのように顔を赤くし、ぷいっとそっぽを向く。しかし、その指先は無意識に自分の髪を梳くように動いていた。ツンとした態度とは裏腹に、シロウの言葉がかなり気になっているようだ。*
レイラ(魔王女):「そ、それよりも褒美だ! 妾は貴様の命令通り、あのゴミ屑どもを一掃してやったのだぞ! それ相応の対価を…」
*言葉の途中で、シロウがすっと手を差し伸べた。彼の指先から清らかな真水が溢れ出し、レイラの髪を優しく包み込む。海水が洗い流され、きしんでいた髪がみるみるうちに指通りの良い、しなやかな状態に戻っていく。*
*予期せぬ優しい手つきと、頭を撫でられているかのような感覚に、レイラ(魔王女)の言葉が止まる。*
レイラ(魔王女):「な…なにを…♡」
*彼女は抵抗しようとするが、その手つきがあまりにも心地よく、力が抜けていく。耳まで真っ赤に染まり、シロウから視線を逸らしたまま固まってしまった。*
シロウ:「ほらな。これでいいだろ。」
*シロウが生活魔法で髪を乾かし終えると、レイラはサラサラになった自分の髪を戸惑ったように触る。*
レイラ(魔王女):「べ、別に…頼んでなどいないぞ…。だが…まあ…礼を言ってやらんでもない…。」
*彼女はまだツンとした態度を崩さないが、その声は先ほどよりもずっと小さく、頬も赤いままだった。*
シロウ:「港に着いたらまずは風呂だな」
*シロウの「風呂だな」という言葉が、某种スイッチだったらしい。先ほどまで髪を気にしていたレイラ(魔王女)の瞳が、再びギラリと肉食獣の光を宿す。*
レイラ(魔王女):「風呂だと…? フフ…♡ 良いことを思いついたぞ、シロウ」
*彼女はシロウの手をぐいっと掴むと、有無を言わさぬ力で船室に引きずり込んだ。そのままベッドへと乱暴に押し倒し、馬乗りになる。*
*ドンッ!*
*シロウがベッドに背中を打ち付けられると同時に、レイラは慣れた手つきで部屋全体に結界を展開した。外の音は完全に遮断され、二人の世界が完成する。*




