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*シロウは海賊以上の海賊のようなセリフを叫ぶと、躊躇なく『シーサーペント号』の甲板を蹴り、最も近くにいた海賊船へと跳躍した。彼の体は放物線を描き、いとも簡単に十数メートル離れた敵船の甲板に、音もなく着地する。*
シロウ:「ヒャッハー!死にたく無ければ金を出せー!」
*あまりにも堂々とした、そして予想外の単独での乗り込みに、海賊船の甲板にいた男たちは一瞬、何が起こったのか理解できずに固まった。武器を構えたまま、ポカンと口を開けてシロウを見ている。*
海賊C:「あ…? な、なんだぁ、てめえ…?」
海賊D:「こっちのセリフを言いやがって…! 死にてえのか、このガキが!」
*ようやく状況を理解した海賊たちが、下品な笑いを浮かべながらシロウを取り囲むように動き出す。その数は20人以上。誰もが歴戦の悪党らしい、獰猛な顔つきをしている。*
*一方、『シーサーペント号』の甲板では、残された者たちが呆然とその光景を見ていた。*
ダントン:「なっ…! あいつ、一人で乗り込みやがった! 正気か!?」
斧戦士:「無謀だ! いくらSランクでも、あの数相手に一人じゃ…!」
*誰もがシロウの無謀な行動に青ざめる中、ただ一人、レイラ(魔王女)だけが、面白そうにその光景を眺めていた。*
レイラ(魔王女):「フン、相変わらず面白いことをする。…だが、妾の獲物を横取りするでないぞ、シロウ」
*彼女はそう呟くと、優雅な仕草で自身の背に負っていた大鎌をすらりと抜き放った。その切っ先を、隣にいる別の海賊船へと向ける。*
レイラ(魔王女):「さて…妾はあちらを掃除するとしようか。シロウよりも先に終わらせて、後でからかってやるのも一興か…♡」
*そう言うと、彼女もまた甲板を蹴り、シロウとは別の海賊船へ向かって軽やかに跳躍した。その姿は、戦場に舞う死の女神そのものだった。*
*シロウが双剣を構えた瞬間、彼の周囲の空気が変わった。海賊たちは目の前の青年がただの若造ではないことにようやく気づき始めるが、時すでにお寿司、いや遅し。*
*シロウの姿が掻き消えた。*
海賊E:「なっ!? き、消えた!?」
*次の瞬間、取り囲んでいた海賊たちの一人が、何の前触れもなく呻き声を上げて膝をついた。*
海賊F:「ぐっ…!? な、なんだ…体が…痺れ…」
*それを皮切りに、次々と海賊たちが体に異変を訴え始める。*
海賊G:「う、腕に力が入らねえ…!」
海賊H:「ぎゃああ! なんだこれ! 腕が…腕が腐って…!?」
*シロウは人外の速度で海賊たちの間を駆け抜けていた。その動きはあまりに速く、海賊たちの目には捉えることすらできない。彼はすれ違い様に、あるいは背後から、双剣の切っ先で海賊たちの体に軽く触れているだけだ。*
*『ステラヴェノム』に触れられた者は、即座に全身を駆け巡る超麻痺毒によって体の自由を奪われ、その場に崩れ落ちる。『ナイトファング』に触れられた者は、傷口から凄まじい勢いで肉が腐食し、耐え難い痛みと出血で絶叫する。*
*甲板は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。シロウは一切の反撃を許さず、まるで死の舞踏を踊るかのように、次々と海賊たちを戦闘不能にしていく。彼の表情は変わらず、まるで退屈な作業をこなしているかのようだ。*
*わずか数十秒。20人以上いた海賊たちは、誰一人としてまともに立つこともできず、甲板の上で苦悶の声を上げながら転げ回っていた。*
*シロウは双剣についた血を振って払い、海賊たちの呻き声をBGMに、船で一番偉そうな格好をしている男――おそらく船長であろう男――の前まで悠然と歩いていく。船長は腰を抜かし、恐怖に引き攣った顔でシロウを見上げていた。*
シロウ:「さて、お宝はどこかな?」
*その冷たい声に、船長は「ひぃっ!」と短い悲鳴を上げた。*
*シロウは、阿鼻叫喚の地獄と化した甲板を悠然と歩き、腰を抜かして震える海賊船長の眼前に立つ。彼は『ナイトファング』の切っ先を男の喉元に突きつけ、皮膚に触れるか触れないかの絶妙な位置でぴたりと止めた。腐食の魔力を帯びた刃先から放たれる冷気が、船長の首筋の産毛を逆立たせる。*
シロウ:「お宝は?」
*刃に宿る不吉な魔力が、言葉以上に雄弁に「逆らえば死ぬ」という事実を物語っていた。船長は恐怖で顔を真っ青にしながら、ガタガタと震える指で船倉の方を指差した。*
海賊船長:「ひ、ひぃぃ…! ふ、船倉に…! 船倉に全部ありやす…! ど、どうか命だけは…!」
*その背後では、レイラ(魔王女)が乗り込んだ別の海賊船から、断末魔の悲鳴と爆発音が轟いていた。彼女もまた、一方的な「掃除」を開始したようだ。*
*『シーサーペント号』では、ダントンや他の冒険者たちが、シロウがたった一人で一隻を瞬く間に制圧した光景を、信じられないものを見る目でただただ見つめていた。*
ダントン:「な…なんだありゃ…化け物か…?」
斧戦士:「『無双』…あれが、Sランク冒険者…」
*彼らの声は、シロウの耳にはもう届いていなかった。彼の関心はただ一つ、これから手に入れるであろう「お宝」にのみ向けられていた。*
*シロウは船長の命乞いを無視し、その襟首を掴むと、まるでゴミでも捨てるかのように軽々と持ち上げ、海へと放り投げた。「どぼん」という水音と共に、船長は海の藻屑と消える。残された海賊たちは、その非情な光景に声もなく震えるだけだった。*
*シロウは彼らに一瞥もくれず、指差された船倉の扉を蹴破る。中には、これまでの略奪で得たであろう金銀財宝が山と積まれていた。金貨や宝石が詰まった木箱、高価そうな美術品、そしていくつかの魔道具。*
シロウ:「なかなかじゃん」
*彼は満足げに頷くと、アイテムボックスを展開し、船倉にある宝物を片っ端から収納していく。みるみるうちに空になっていく船倉を眺め、シロウは口笛を吹いた。*
*その頃、隣の海賊船ではレイラ(魔王女)が最後の仕上げに取り掛かっていた。彼女が振るう大鎌は死の旋風となり、海賊たちを次々となぎ倒していく。返り血を浴びた彼女の頬は恍惚とした表情に染まり、その口元からは楽しげな笑い声が漏れていた。*
レイラ(魔王女):「フハハハ! 脆い! 脆いのう、人間は! 歯ごたえがなさすぎるわ! さあ、もっと妾を楽しませてみよ!♡」
*彼女が乗り込んだ船も、あっという間に静寂に包まれる。最後の一人を斬り捨てたレイラ(魔王女)は、血濡れた大鎌を肩に担ぎ、満足げに息をついた。そして、シロウがいる船へと視線を移し、軽やかに跳躍して戻ってくる。*
*彼女は、空になった船倉から出てきたシロウの前に着地した。*
レイラ(魔王女):「終わったか、シロウ。妾より遅いとは、腕がなまったのではないか? それとも、宝漁りに夢中になっていたか?♡」
*彼女は楽しそうにクスクスと笑いながら、シロウの戦果を品定めするように見ている。残る一隻の海賊船は、二人の圧倒的な力を見て戦意を喪失し、慌てて逃げ出そうと帆を回し始めていた。*
*シロウは、宝を全てアイテムボックスにしまい終え、満足げに船倉から出てきた。そこへ、隣の船での「掃除」を終えたレイラ(魔王女)が、血まみれの姿で楽しそうに戻ってくる。彼女の「腕がなまったのではないか?」という挑発に、シロウは鼻で笑って返した。*
シロウ:「あれだけ船酔いでゲロ吐いてたやつに言われたくねぇよ」
*その言葉を聞いた瞬間、レイラ(魔王女)の得意げな表情がピシリと凍りついた。船酔いという、彼女にとっては屈辱的で、しかも自分の失態を指摘されたのだ。*
レイラ(魔王女):「なっ…!? あ、あれは妾ではない! あの腑抜けのせいであろうが! 妾の預かり知らぬことだ!」
*彼女は顔を真っ赤にして、珍しく狼狽しながら反論する。その様子は、いつもの傲岸不遜な態度からは想像もつかないほど子供っぽく、シロウにはそれが面白くてたまらない。*
シロウ:「へー、そうなんだ。じゃあ今、顔が赤いのも別のやつのせいか?」
レイラ(魔王女):「こ、これは血の気の多さ故だ、愚か者め! 貴様、妾をからかうとは良い度胸ではないか…! 今夜、閨で泣いて謝罪させてやるから覚悟しておれ…♡」
*彼女はぷいっと顔を背け、誤魔化すように怒鳴るが、耳まで赤くなっているのが見えた。その時、二人が制圧した船団の最後の一隻が、慌てて逃げ出していくのが視界に入る。*
レイラ(魔王女):「…フン。まあよい。見逃してやるか。それよりシロウ、残りの雑魚はどうする? 妾がまとめて海に捨ててやろうか?」
*彼女はまだ甲板で呻いている海賊たちに、冷たい視線を向けた。*
シロウ:「そうだな、別に生かす理由も無いし。」
*シロウの許可が出た瞬間、レイラ(魔王女)の口元に獰猛な笑みが浮かんだ。彼女にとって、それは待ちに待ったおもちゃの片付けの時間だった。*
レイラ(魔王女)「フフン、そうこなくてはな♡」
*彼女は楽しげに鼻歌でも歌い出しそうな様子で、一番近くで呻いていた海賊に近づく。そして、何のためらいもなく、そのブーツのつま先で男の腹を思い切り蹴り上げた。*
レイラ(魔王女):「さあ、海の藻屑となるがよい、クズめ!」
*「ぐふっ」という短い悲鳴と共に、海賊の体は放物線を描いて宙を舞い、景気の良い水音を立てて海へと消えていった。*
*それから、彼女の「掃除」が始まった。一人、また一人と、甲板で転がっていた海賊たちを次々と海へと蹴り落としていく。それはもはや作業ではなく、彼女にとっては娯楽そのものだった。*
レイラ(魔王女):「ほれ、次は貴様だ!」「泳ぎは得意か?フハハハ!」「達者でな、二度と会うこともないだろうがな!♡」
*キャッキャと楽しそうな声を上げながら、まるでボールでも蹴るかのように人間を海に放り込んでいく。その無邪気で残酷な光景を、シロウは腕を組んで静かに眺めていた。*
*『シーサーペント号』の甲板では、ダントンたちが恐怖と安堵の入り混じった表情でその様子を見守っている。*
ダントン:「……もう何も言うまい。奴らを敵に回すのだけは絶対にやめよう…」
*斧戦士や他の冒険者たちも、こくこくと無言で頷くしかなかった。*
*あっという間に海賊船の甲板は綺麗になり、レイラ(魔王女)は最後の仕上げとばかりにポンと手を叩き、満足げな顔でシロウの元へ戻ってきた。*
レイラ(魔王女):「ふぅ、すっきりしたわ。さて、シロウ。妾の働きには満足したか? ご褒美、期待しておるぞ…♡♡」
*彼女は上目遣いでシロウを見上げ、血で濡れた頬に細い指を這わせながら、妖艶に微笑んだ。*
シロウ:「へいへい、今夜な。」
*シロウはレイラ(魔王女)の妖艶な誘いを軽く受け流すと、用が済んだとばかりに海賊船から『シーサーペント号』へと身軽に跳び移った。レイラ(魔王女)も満足げな笑みを浮かべ、彼の後に続く。*
*二人が戻ると、ダントン船長が恐る恐るといった様子で近づいてきた。その顔には、先ほどの非現実的な光景への畏怖がまだ色濃く残っている。*
ダントン:「し、シロウ…様…。お、お疲れ様です…。あの、海賊船は…?」
シロウ:「宝は貰った。さっさと出発しよう」
*シロウはそう言うと、再び船首の方へ歩き出す。ダントンは「は、はぁ…」と間の抜けた返事をしながらも、すぐに船員たちに指示を飛ばした。*
ダントン:「野郎ども! 出航だ! 帆を張れ、さっさとこの不吉な場所から離れるぞ!」
*船員たちが慌ただしく動き出し、『シーサーペント号』は再び東へと進み始めた。制圧された2隻の空の海賊船が、取り残されるように波間に揺れている。*
*甲板の喧騒を背に、シロウが船首で海を眺めていると、隣にレイラ(魔王女)がすっと寄り添ってきた。*
レイラ(魔王女):「フン、今夜、覚えておれよ。忘れたなどと言ったら…ただでは済まさぬからな…。それより船は良いのか?」
*彼女は拗ねたように言いながらも、その声には期待の色が隠せない。シロウは返事をせず、ただ水平線の先を見つめている。平穏とは程遠い航海は、まだ始まったばかりだった。*
*シロウは、用済みとなった二隻の海賊船をそのままにしておく気はなかった。後々の厄介事を減らすため、そして単なる気まぐれから、彼は空に手をかざす。*
シロウ:「(まあ、放置しても面倒だしな)」
*彼の頭上で、二つの小さな魔法陣が同時に展開される。そこから現れたのは、直径数メートルほどの燃え盛る岩塊――プチメテオ。*
*シロウが腕を振り下ろすと同時に、二つのプチメテオは正確にそれぞれの海賊船の甲板中央目掛けて降り注いだ。*
**ズドォォォンッ!! ズドォォォンッ!!**
*轟音と共に、木造の船は一撃で粉砕される。メテオが直撃した箇所から船体が真っ二つに折れ、燃え盛る木片を撒き散らしながら、あっという間に渦を巻いて海中へと沈んでいった。*
*『シーサーペント号』の甲板にいた者たちは、再び繰り広げられた超常的な光景に、もはや驚く気力も失っていた。ただ、呆然と船が沈んでいくのを見つめるだけだ。*
レイラ(魔王女):「フン、派手なことを。まあ、ゴミ掃除は念入りにするに限るな」
*彼女は満足げに頷くと、シロウの腕に自分の腕を絡ませてきた。*
レイラ(魔王女):「さあ、これで邪魔者はいなくなった。妾たちの船旅を続けるとしよう。…そして、今夜の『ご褒美』、楽しみにしておるぞ、シロウ…♡♡」
*彼女はシロウの耳元で甘く囁き、期待に満ちた瞳で彼を見上げる。『シーサーペント号』は、まるで何もなかったかのように、再び穏やかな東の海を進み始めた。*
ーー
*翌朝。船室の扉が乱暴に開けられる音で、シロウは目を覚ました。ベッドから身を起こすと、そこには腕を組み、極めて不機嫌なオーラを全身から放つレイラ(魔王女)が仁王立ちしていた。*
*彼女の紅い瞳は怒りに燃え、その視線はシロウを射殺さんばかりに鋭い。シロウが寝ぼけ眼で彼女を見ていると、地を這うような低い声が飛んできた。*
レイラ(魔王女):「……シロウ。貴様、よくもまあ、のうのうと眠れたものだな?」
*その声色と表情から、シロウは昨夜の約束を完全に失念していたことを思い出した。*
シロウ:「わりぃ、忘れてた」
*シロウが悪びれもせずに謝ると、レイラ(魔王女)の額に青筋がピキリと浮かび上がった。彼女はギリ、と奥歯を噛み締め、わなわなと震えている。*
レイラ(魔王女):「わ、忘れてただと…? この妾が! 直々に! あれほど期待させておいて! 貴様は! ぐっすり眠っていたというのかッ!?」
*彼女は怒りのあまり言葉にならないのか、大きく息を吸い込むと、シロウの胸倉を掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきた。*
レイラ(魔王女):「万死に値するぞ、この朴念仁! 貴様のその体、妾が満足するまで慰みものにしてくれるはずだったであろうに! それを…それを…! うぅ…っ!」
*怒りのあまりか、あるいは期待を裏切られた悔しさからか、彼女の瞳にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。*
レイラ(魔王女):「もうよい! 貴様のような色情魔のふりをした朴念仁など知らぬ! 今日の食事は抜きだ! 飢えて後悔するがよい!」
*そう一方的にまくし立てると、彼女はぷいっと顔を背け、部屋から出て行こうとして…ぴたりと足を止めた。そして、怒りに震える声で付け加える。*
レイラ(魔王女):「…食堂に、貴様の分はないからな。絶対に、だ…!」
*シロウは、不機嫌MAXで食堂に食事はないと宣言して出て行ったレイラ(魔王女)を気にする素振りも見せず、船室を出て甲板へと向かった。朝の潮風が心地よい。彼は船べりに立つと、アイテムボックスから釣り竿と適当な餌を取り出した。*
*海賊騒ぎとシロウの圧倒的な力を見せつけられた船員たちは、今や彼に話しかけることもできず、遠巻きに敬意を払っている。その視線を意にも介さず、シロウは手際よく餌を針につけると、軽い動作で海へと糸を垂らした。*
シロウ:「なんか美味そうな魚、釣れないかなぁ…」
*のんびりとした呟きが、穏やかな波音に混じる。昨夜の約束をすっぽかしたことなど、彼の頭からは既に消え去っているようだ。*
ー*その頃、食堂では。*ー
*レイラ(魔王女)は一人、腕を組んでテーブルに座っていた。彼女の前には豪勢な朝食が並べられているが、一口も手をつけていない。その顔はまだ怒りで紅潮しており、時折、食堂の入り口をチラリと見ては「フン…」と鼻を鳴らしている。*
レイラ(魔王女):「(まだ来ぬか…。さすがに謝りに来るであろう…。そうしたら…そうしたら、まあ、少しは許してやらんでもない…。だが、ただで許すと思うなよ、朴念仁め…!)」
*彼女はシロウが慌てて謝りに来る姿を想像し、一人でぶつぶつと呟いている。しかし、待てど暮らせどシロウは現れない。痺れを切らした彼女は、近くを通りかかった船員を呼び止めた。*
レイラ(魔王女):「おい、そこの者。シロウはどこだ? 妾に食事がないと言われ、部屋で泣いておるのか?」
船員:「え、あ、シロウ様でしたら…その、甲板で楽しそうに釣りを…」
レイラ(魔王女):「……は?」
*船員の言葉に、レイラ(魔王女)の顔から表情が消えた。そして次の瞬間、*
**バキィッ!**
*彼女が握りしめていた銀のフォークが、無残にひしゃげていた。*
*シロウはレイラの怒りなど露知らず、鼻歌混じりで釣りに興じている。彼の釣り竿が大きくしなり、確かな手応えが伝わってきた。*
シロウ:「♪♪♪」
シロウ:「お、これは…鯖か…」
*引き上げてみれば、銀色に輝く丸々と太った鯖だった。シロウは手際よくそれを〆ると、満足げにアイテムボックスへと収納する。新鮮な食材が手に入り、朝食の心配はなくなった。*
*その時、背後から凄まじい殺気をまとった気配が近づいてくる。振り返るまでもない。レイラ(魔王女)だ。*
*食堂でフォークをひしゃげさせた彼女は、シロウが謝罪に来るどころか、楽しげに釣りをしていると聞き、怒りの頂点に達していた。ズンズンと地響きでも立てそうな足取りで甲板を歩き、シロウの真後ろでピタリと足を止める。*
レイラ(魔王女):「……しぃ…ろぉぅ…?」
*それは、地獄の底から響いてくるような、怨念のこもった声だった。彼女はわなわなと震える拳を握りしめ、背中を向けたままのシロウを睨みつけている。*
レイラ(魔王女):「貴様…この妾が、食堂で! 貴様のために! 食事もとらずに待ってやっていたというのに…! 釣りだと…? 魚と戯れていたと、そう言うのか…!?」
*彼女の周囲の空気が怒りの魔力で歪み始めている。近くにいた船員たちは、そのただならぬ雰囲気に気づき、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていった。*




