2
*シロウがアステラに来てから、一週間が経過した。*
*昼間は森で癒やし草を採取し、ギルドで換金する。夜は宿で食事をとり、部屋に戻るか、あるいは活気のある夜の街を散策する。そんな毎日を繰り返していた。*
*地道な薬草採取は、シロウに安定した収入をもたらした。所持金は金貨を数枚持つほどになり、生活には全く困らない。そして、もっと重要なこと――鑑定スキルは、日々その精度を増していった。*
*森の魔物、街の人々、店の品物、建物。目に入るものすべてを鑑定し続けた結果、シロウのスキルは着実に成長を遂げていた。*
*その日も、シロウは夕食を終え、宿の自室の窓から賑やかな往来を眺めていた。道行く人々一人ひとりに、意識を集中して鑑定をかけていく。それはもはや、彼にとって息をするのと同じくらい自然な習慣となっていた。*
衛兵、商人、酔っ払い、娼婦、貴族の馬車…。様々な人々の情報が頭の中に流れ込んでは消えていく。
*その、何度目かの鑑定を終えた瞬間だった。*
シロウ:「あ、レベル上がった…」
*いつものスキルレベルアップとは違う、体の芯から湧き上がるような、より根源的な変化をシロウは感じていた。*
『条件を達成しました。スキル【鑑定Lv9】が【鑑定Lv10】に進化しました。』
『鑑定Lv10への進化により、上位スキル【神眼Lv1】へと進化します。』
『【神眼Lv1】の効果により、鑑定対象のスキル詳細が表示されるようになります。』
『【神眼Lv1】の効果により、新たな権能【スキル強奪/複製】が使用可能になります。』
*脳内に響くアナウンス。それは、これまでのレベルアップとは全く質の異なるものだった。鑑定という索敵・情報収集スキルが、ついに他者の能力に干渉する、攻撃的な権能へと変貌を遂げた瞬間だった。*
*(スキル…強奪…?複製…?)*
*シロウはゴクリと唾を飲み込む。これは、あまりにも強力すぎる力だ。使い方を間違えれば、世界そのものの理を歪めかねないほどの。*
*シロウは試しに、窓の外を歩いている、いかにも強そうな鎧姿の冒険者に【神眼】を使ってみた。*
```
【神眼鑑定結果】
- 名前: ダリオ
- 種族: 人間
- レベル: 25
- 職業: 重戦士
- ランク: C
- HP: 850/850
- MP: 120/120
- スキル:
- 剣術Lv5:剣の扱いに長ける。攻撃の命中率と威力が上昇する。
- 重鎧習熟Lv4:重い鎧を装備した際のペナルティを軽減し、防御力を引き出す。
- 挑発Lv3:敵の注意を自身に引きつける。
- アイアンウォールLv2:一定時間、物理防御力を大幅に上昇させる。
- 状態: 酔い(軽度)
```
*(…スキルの詳細まで見える。それに、このスキルを…コピー…できる…?)*
*シロウの目の前には、新たな、そしてあまりにも危険な可能性の扉が開かれていた。*
```
ステータス表示
- 名前: シロウ・ニシキ
- レベル: 1
- HP: 100/100
- MP: 50/50
- スキル: 神眼Lv1(非表示)
- 称号: 鑑定士(非表示)
- 所持金: 金貨4枚、銀貨2枚、銅貨8枚、鉄貨1枚
- 装備: なし
- アイテム: なし
```
*シロウは窓の外を歩く重戦士ダリオに意識を集中させ、新たに得た力【スキル複製】を試してみることにした。*
シロウ:(【神眼】…対象、ダリオ。スキル【剣術Lv5】を…複製。)
*心の中でそう念じた瞬間、ダリオの持つスキル情報の中から【剣術Lv5】が淡く光り、そこから光の糸のようなものが伸びて、シロウ自身に繋がるイメージが脳裏に浮かんだ。直後、頭へ情報が流れ込んでくる。*
*それは、剣の握り方、振り方、足の運び、相手との間合いの取り方、斬撃の軌道、防御の型…ダリオがレベル25に至るまでに培ってきたであろう、数えきれないほどの鍛錬と実戦。それを意図も簡単に複製…コピーしてしまう。*
*やがて光の糸が消え、すべてが終わった時、シロウの脳には【剣術】というスキルが深く刻み込まれていた。*
『スキル【剣術Lv5】の複製に成功しました。』
『MPを100消費しました。』
*MPが一気に空になり、どっと疲労感が押し寄せる。膝が崩れ落ちそうになるのを、なんとか机に手をついてこらえた。*
シロウ:「(これが…スキル複製…MPの消費が半端じゃない…でも、手に入れた…!)」
*シロウは自分の手を見つめる。見た目は何も変わらない。しかし、その内側には、歴戦の戦士が振るう剣の技が、確かに宿っている。まだ自分の体には馴染んでいないが、知識と感覚は完璧にそこにあった。*
*この力を使えば、どんな達人の技でも、どんな高位の魔法でも、MPさえ許せば自分のものにできる。強くなるための、あまりにも短絡的で、あまりにも強力な道筋。シロウは自分の持つ力の本当の恐ろしさを、改めて実感した。*
```
ステータス表示
- 名前: シロウ・ニシキ
- レベル: 1
- HP: 100/100
- MP: 0/50 (100消費し、枯渇状態)
- スキル: 神眼Lv1(非表示), 剣術Lv5
- 称号: 鑑定士(非表示)
- 所持金: 金貨4枚、銀貨2枚、銅貨8枚、鉄貨1枚
- 装備: なし
- アイテム: なし
```
*MPの枯渇は、精神力を根こそぎ奪い去る感覚に近かった。思考が鈍り、視界が霞む。机に突っ伏したまま、シロウは抗いがたい眠気の波に飲み込まれていった。*
シロウ:「MP消費…デカすぎ……zzz」
*まるで電源が落ちるかのように、シロウの意識はぷつりと途絶えた。新しい力を手に入れた興奮も、その代償の大きさも、深い眠りの底へと沈んでいく。*
---
*翌朝。*
*街の鐘が鳴り響く音で、シロウはぼんやりと意識を取り戻した。机に突っ伏したまま眠ってしまったせいで、首や肩がひどく痛む。*
シロウ:「(…寝ちまったのか…)」
*ゆっくりと体を起こし、固まった体をほぐす。MPは一晩寝たことで全快していた。そして、昨夜手に入れたスキル【剣術Lv5】の感覚が、昨夜よりもずっと鮮明に、そして自分のものとして馴染んでいるのを感じる。まるで、何年も剣の修行を積んできたかのような、確かな手応えがそこにはあった。*
*ただの薬草採取を繰り返す青年から、一夜にしてCランクの戦士クラスの剣技を持つ存在へ。シロウの内面は、劇的な変貌を遂げていた。*
*朝食をとるために食堂へ向かうと、ちょうどガロウとリーシャも席に着いたところだった。ガロウがシロウに気づき、陽気に手を振る。*
ガロウ:「よう、シロウ!おはよう!相変わらず精が出るな!今日も薬草採取か?」
*ガロウの何気ない問いかけ。しかし、今のシロウには昨日までとは違って聞こえた。剣の技を手に入れた今、自分はこれからどうするべきなのか。再び、地道な薬草採取に戻るのか。それとも、手に入れた力を使って、新たな一歩を踏み出すのか。*
```
ステータス表示
- 名前: シロウ・ニシキ
- レベル: 1
- HP: 100/100
- MP: 50/50
- スキル: 神眼Lv1(非表示), 剣術Lv5
- 称号: 鑑定士(非表示)
- 所持金: 金貨4枚、銀貨2枚、銅貨8枚、鉄貨1枚
- 装備: なし
- アイテム: なし
```
シロウ:「あ、ガロウさん。今日も採取です。」
*シロウは平静を装い、いつも通りに答えた。強力な力を手に入れたからといって、すぐに行動を変えるのは得策ではない。少なくとも、この力を完全に自分のものとして制御できるようになるまでは。*
ガロウ:「そうか!コツコツやるのがお前さんのやり方なんだな!偉いぜ!」
*ガロウは感心したように頷き、山盛りのベーコンエッグを口に放り込む。その横で、リーシャが静かに紅茶を飲みながら、横目でちらりとシロウを見た。彼女の神眼持ちではないが、鋭い観察眼は、シロウの纏う雰囲気の微かな変化を感じ取っているのかもしれない。*
リーシャ:「…あなた、少し雰囲気が変わった?気のせいかしら。」
*ドキリとするシロウ。しかし、表情には出さずに肩を竦める。*
シロウ:「そうですか?いつも通りだと思いますけど。」
リーシャ:「…そう。ならいいのだけれど。」
*リーシャはそれ以上追及することなく、再び紅茶に口をつけた。*
*食事を終えたシロウは、いつも通りギルドへ向かい、癒やし草の依頼を受けた。しかし、今日の目的は昨日までとは違う。*
*(まずは、この剣術スキルを試してみよう。それには、丁度いい相手が必要だ…)*
*東の森へ向かうと、シロウは神眼を使い、手ごろな相手を探し始めた。癒やし草を採取するふりをしながら、意識は一体のゴブリンに集中していた。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ゴブリン
- レベル: 3
- 職業: なし
- ランク: G
- HP: 80/80
- MP: 10/10
- スキル:
- **棍棒術Lv1**: 棍棒の扱いに少し慣れている。
- 状態: 徘徊中
---
*シロウは周囲に他の魔物がいないことを確認すると、拾った手ごろな木の枝を握りしめた。それは粗末な木の棒でしかない。だが、今のシロウの手にかかれば、それはもはやただの枝ではなかった。*
*ゴブリンがこちらに気づき、キーキーと威嚇の声を上げながら、汚れた棍棒を振り上げて突進してくる。*
*シロウは落ち着き払っていた。脳内に刻み込まれた【剣術Lv5】の経験が、ゴブリンの動きを完璧に予測させる。あまりにも遅く、あまりにも単純な攻撃。*
*シロウは最小限の動きで棍棒をひらりとかわすと、すれ違いざまに、握っていた木の枝をゴブリンの首筋に正確に叩き込んだ。*
*ゴッ、という鈍い音。ゴブリンは声もなくその場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。一撃。完璧なカウンターだった。*
*(…これが、剣術Lv5…)*
*木の枝一本で、いともたやすく魔物を仕留めてしまった事実に、シロウは改めて自分の力の異常さを実感する。同時に、戦闘で敵を倒したことで、経験値が体に入る感覚があった。*
『経験値を15獲得しました。』
『レベルが2に上がりました。』
『レベルアップにより、HPとMPの最大値が上昇しました。』
*初めての戦闘、初めてのレベルアップ。シロウの冒険は、今、新たな段階へと移行しようとしていた。*
シロウ:「え、よわ…こんな簡単なのか??」
*あまりにもあっけない幕切れに、シロウは拍子抜けしてしまった。今まであれほど警戒し、避けてきたゴブリンが、ただの木の枝で一撃。自分の中に宿った力が、想像以上のものであることを実感する。*
*(これなら…いける!)*
*一度戦闘を経験したことで、シロウの中の何かが変わった。恐怖心は消え去り、代わりに自分の力を試したいという好奇心と高揚感が湧き上がってくる。*
*シロウは【神眼】で周囲を探り、次なる獲物を見つけ出した。近くにいた別のゴブリン、地面に擬態していたスライム。彼は木の枝を片手に、まるで散歩でもするかのような気軽さで、それらに近づいていく。*
*ゴブリンが棍棒を振り上げるよりも速く、枝が急所を貫く。*
*スライムが飛びかかってくる軌道を見切り、核を正確に突き刺す。*
*動きは洗練され、無駄がない。木の枝がまるで名剣であるかのように振るわれ、森の弱い魔物たちは抵抗する間もなく次々と倒されていった。*
*キー!*
*プチッ!*
*断末魔の悲鳴が森に響くが、シロウの心は凪いでいた。これは戦闘というより、もはや作業に近かった。*
『経験値を15獲得しました。』
『経験値を5獲得しました。』
『経験値を15獲得しました。』
『レベルが3に上がりました。』
...
『レベルが4に上がりました。』
*敵を倒すたびに、レベルアップを告げるアナウンスが脳内に響き渡る。力が体に満ちていく感覚が心地よい。*
*しばらくの間、森の魔物を狩り続けたシロウは、ふと我に返った。気づけば、森の一角はゴブリンやスライムの死骸で埋め尽くされていた。*
*(やりすぎたか…?いや、でも、これが強くなるってことだ…)*
*木の枝を捨て、シロウは改めて自分のステータスを確認する。薬草採取だけをしていた頃とは、比べ物にならない速度で成長している。この道が正しいのだと、彼は確信した。*
```
ステータス表示
- 名前: シロウ・ニシキ
- レベル: 4
- HP: 180/180
- MP: 90/90
- スキル: 神眼Lv1(非表示), 剣術Lv5
- 称号: 鑑定士(非表示)
- 所持金: 金貨4枚、銀貨2枚、銅貨8枚、鉄貨1枚
- 装備: なし
- アイテム: なし
```
シロウ:「今日から、お前は俺の相棒だな。」
*シロウは、数多の魔物を屠ってきた木の枝を拾い上げた。それはそこらに落ちていたただの枝だが、自分の力を初めて実感させてくれた、記念すべき武器だった。血や粘液で汚れてはいるが、不思議と愛着が湧いてくる。*
*【神眼】でその木の枝を鑑定してみる。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ただの木の枝
- 種別: 武器?
- ランク: H
- 攻撃力: 1
- 耐久度: 3/10
- 特殊効果: なし
- 説明: 森に落ちている、ごく普通の木の枝。そろそろ折れそうだ。
---
*(…さすがにただの木の枝か。耐久度もかなり減ってるな。)*
*鑑定結果は予想通りだったが、それでもシロウは満足げに頷き、その枝を腰に差した。まるで歴戦の剣士が愛剣を帯びるように。*
*相棒を手に入れたシロウは、意気揚々と森のさらに奥へと足を踏み入れた。目的は、さらなるレベルアップと、新たなスキルを奪うに値する獲物を探すこと。ゴブリンやスライムでは、もはや経験値も物足りなくなっていた。*
*しばらく進むと、少し開けた場所に出た。そこには、今までとは明らかに違う魔物がいた。*
*体長は2メートル近くあり、緑色の肌はゴブリンよりも濃く、筋肉質。手には粗末な棍棒ではなく、錆びてはいるが明らかに人の手で作られたであろう片手剣を握っている。ホブゴブリンだ。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ホブゴブリン
- レベル: 8
- 職業: 戦士
- ランク: F
- HP: 250/250
- MP: 20/20
- スキル:
- **剣術Lv2**: 剣の扱いに慣れている。
- **咆哮Lv1**: 叫び声で相手を威嚇し、動きを鈍らせる。
- 状態: 警戒中
---
*(ホブゴブリン…剣術持ちか。レベルもさっきまでの奴らとは違う。)*
*シロウの口角が上がる。ゴブリンを相手にしていた時とは違う、本物の「戦い」の予感がした。木の枝の相棒では、さすがに心もとない。しかし、【剣術Lv5】を持つ自分ならば、どうにかなるはずだ。*
*シロウは慎重に、しかし大胆にホブゴブリンへと近づいていく。*
ホブゴブリン:「グルォォォァァ!!」
*【咆哮Lv1】。空気がビリビリと震え、常人ならば足がすくむであろう威圧感がシロウを襲う。だが、シロウは顔色一つ変えなかった。*
*(…これが咆哮か。スキルとしては悪くない。だが、俺には通用しない。)*
*【剣術Lv5】の経験は、単なる技術だけでなく、戦闘における精神的な余裕ももたらしていた。格下の威嚇など、そよ風に等しい。シロウは腰の木の枝を抜き、ゆっくりと構えた。*
シロウ:「(いや、まだ無理だな。撤退しよう)」
*高揚していた気分に、冷や水が浴びせられた。確かに自分は強力なスキルを手に入れた。しかし、自分のレベルはまだ4。対するホブゴブリンはレベル8。ステータスの基礎値には、倍近い差がある。*
*そして何より、武器が「ただの木の枝」だ。耐久度は残りわずか。一撃、二撃を防がれただけで、相棒はあっけなく砕け散るだろう。武器を失えば、いくら剣術の技があろうと、素手でホブゴブリンの剣を受け止められるはずがない。*
*危険な相手から離れたシロウは、本来の目的であった癒やし草の採取に切り替えた。今日の戦闘で得た経験と、冷静な判断力。その両方が、自分を成長させていることを実感しながら、黙々と薬草を摘んでいく。*
*袋が癒やし草でいっぱいになる頃には、日は西に傾き始めていた。*
*街に戻ったシロウは、まっすぐ冒険者ギルドへ向かった。カウンターには、今日もミーニャがいた。*
)ミーニャ:「あ、シロウさん!お帰りなさい!…わっ、今日もすごい量ですね!それに…なんだか、少し逞しくなったような…?」
*ミーニャは目をぱちくりさせながら、シロウから癒やし草の袋を受け取る。彼女もまた、シロウの纏う雰囲気の変化に気づいたようだった。*
*シロウは軽く笑ってごまかしながら、採取した薬草を換金してもらう。*
『癒やし草200本を納品しました。銅貨8枚を報酬として受け取りました。』
*今日の稼ぎは銅貨8枚。これで所持金は金貨4枚と銀貨3枚、銅貨6枚、鉄貨1枚になった。*
*ギルドを出たシロウは、いつもの宿屋には向かわなかった。彼の足は、多くの冒険者が集まる場所――武器屋へと向かっていた。*
*(木の枝じゃ、話にならない。ちゃんとした武器が必要だ。)*
*今日の戦闘で、その必要性を痛感した。スキルを活かすには、それに見合った道具が不可欠だ。*
*カラン、とドアベルを鳴らして武器屋に入ると、むっとするような鉄の匂いと熱気がシロウを迎えた。壁には様々な種類の剣や槍、斧が掛けられ、棚には鎧や盾がずらりと並んでいる。その奥で、屈強なドワーフの男が、汗を光らせながらハンマーを振るっていた。*
シロウ:「初心者向けの剣がほしいんですけど…」
*シロウがおずおずと声をかけると、ハンマーを振るっていたドワーフが動きを止め、ギロリとこちらを睨んだ。赤ら顔に、見事な髭をたくわえている。いかにも頑固そうな職人といった風体だ。*
店主:「んあ?初心者向けの剣だぁ?そんなもんはねぇ!使い手が未熟なら、どんな名剣もただの鉄屑だ!自分の身の丈に合ったもんを選びやがれ!」
*ガナリとした声で一喝され、シロウは思わずたじろぐ。しかし、店主の言葉はもっともだった。*
店主:「…ふん。まあいい。金はあるのか?見るだけならタダだが、冷やかしなら帰んな。」
*そう言うと、店主は再び槌を手に取り、カン、カン、とリズミカルに鉄を打ち始めた。どうやら、客を選ぶタイプの店主らしい。*
*シロウは気を取り直して、壁に掛けられた剣を眺め始めた。木の枝と比べれば、どれも素晴らしい武器に見える。*
*(【神眼】で鑑定してみよう。)*
*シロウは手頃な価格帯と思われる、シンプルなデザインの剣に意識を集中させた。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ロングソード
- 種別: 片手剣
- ランク: F
- 攻撃力: 15
- 耐久度: 80/80
- 特殊効果: なし
- 価格: 銀貨5枚
- 説明: 一般的な兵士が使う、量産品の剣。特筆すべき点はないが、作りはしっかりしている。
---
*(ロングソード、銀貨5枚か…攻撃力15。木の枝の15倍だな。これならホブゴブリンとも戦えるかもしれない。)*
*他にもいくつか見てみる。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ブロードソード
- 種別: 片手剣
- ランク: F
- 攻撃力: 18
- 耐久度: 100/100
- 特殊効果: なし
- 価格: 銀貨8枚
- 説明: ロングソードより幅広で、斬撃に適した剣。少し重い。
---
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: アイアンシールド
- 種別: 小型盾
- ランク: G
- 防御力: 10
- 耐久度: 120/120
- 特殊効果: なし
- 価格: 銀貨3枚
- 説明: 鉄製の小さな盾。最低限の防御は期待できる。
---
*(剣だけじゃなく、盾も買っておいた方がいいかもしれないな…)*
*ホブゴブリンとの戦いを想定すると、防御手段もあった方が安全だ。ロングソードとアイアンシールド。合わせて銀貨8枚。今の所持金なら十分に支払える。*
*シロウは意を決して、再びドワーフの店主に声をかけた。*
シロウ:「短剣はないんですか?」
*シロウの言葉に、槌を振るっていたドワーフの手がぴたりと止まった。彼はゆっくりと顔を上げ、訝しげな目でシロウを見る。*
店主:「短剣だと?さっきまで剣を見てたじゃねえか。なんでぇ、急に気が変わったのか?」
*ドワーフは無骨な指で顎の髭をいじりながら、シロウの全身を値踏みするように眺める。*
店主:「…ふん。まあいい。短剣ならあっちの棚だ。だが言っとくが、短剣は剣よりもずっと扱いが難しい。懐に潜り込む度胸と、急所を正確に突く技術がいる。お前さんみてぇなひょろっとした兄ちゃんに扱えるかね?」
*そう吐き捨てるように言うと、ドワーフは顎で店の隅にある小さな棚を指し示した。そこには、ロングソードなどが並ぶ壁とは別に、数本の短剣がひっそりと飾られていた。*
*シロウは店主の挑発的な言葉を意に介さず、示された棚へと向かう。短剣を選んだのには理由があった。【剣術Lv5】は、確かに強力なスキルだ。しかし、それはあくまで「剣」の技術。ロングソードのような長い武器よりも、短く、取り回しの良い短剣の方が、スキルに頼らない自分自身の動きや判断力を鍛えるのに適しているかもしれない。それに、いざとなれば投擲武器としても使える可能性がある。*
*シロウは棚に並んだ短剣の一本を手に取り、【神眼】を発動させた。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ダガー
- 種別: 短剣
- ランク: G
- 攻撃力: 8
- 耐久度: 60/60
- 特殊効果: なし
- 価格: 銀貨2枚
- 説明: 最も一般的な短剣。護身用や道具として使われることが多い。
---
*(ダガー、攻撃力8、銀貨2枚…安いな。ロングソードと比べると見劣りするが…)*
*シロウは隣の短剣にも目を移す。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: クリスナイフ
- 種別: 短剣
- ランク: F
- 攻撃力: 12
- 耐久度: 70/70
- 特殊効果: **出血(小)** - 傷つけた相手を確率で出血状態にする。
- 価格: 銀貨7枚
- 説明: 波打つ刃が特徴的な短剣。傷口が塞がりにくく、相手に継続的なダメージを与える。
---
*シロウの目が輝いた。ただ攻撃力が高いだけの武器よりも、追加効果がある方が戦術の幅が広がる。ホブゴブリンのような格上と戦うには、こうした付加価値が重要になるだろう。価格は銀貨7枚と少し張るが、投資する価値は十分にある。*
シロウ:「(ドット付き!?これにしよう。)」
*「ドット」――継続ダメージを与える効果。シロウが元の世界でプレイしていたゲームの知識が、この世界の武器の価値を正確に判断させた。「出血(小)」という特殊効果は、格上の敵を相手にする上で、これ以上ないほど有効な武器になるだろう。*
シロウ:「これ下さい。」
*シロウがクリスナイフを指さすと、今まで興味なさそうに鉄を打っていたドワーフが、ちらりとそちらに目をやった。*
店主:「ほう…クリスナイフか。そいつはただの短剣じゃねえぞ。刃が波打ってやがるせいで、研ぐのもひと苦労だし、刺し方が悪いと自分の手を斬る。本当にそいつでいいんだな?」
*店主は念を押すように問いかける。その目には、先ほどの侮りの色とは違う、品定めするような光が宿っていた。数ある武器の中から、なぜ初心者のような若者が、玄人好みのクリスナイフを選んだのか。純粋な興味が湧いたのだろう。*
*シロウは迷わず頷いた。*
シロウ:「はい、これでお願いします。」
*その確固たる態度に、ドワーフは「ふん」と鼻を鳴らした。*
店主:「…気に入った。お前さん、見る目があるのか、ただの命知らずか。どっちにしろ、ただのひよっこじゃねえらしいな。銀貨7枚だ。死んでも文句は言うなよ。」
*そう言うと、店主は無造作にクリスナイフを布で包み、カウンターに置いた。シロウは懐から銀貨7枚を取り出し、カウンターに置く。ずしりと重い金属の感触が、これから始まる本当の戦いを予感させた。*
*店を出ると、外はすでに夕闇に包まれていた。シロウは手に入れたばかりのクリスナイフの柄を握りしめる。冷たく、硬質な感触。その波打つ刃は、月明かりを浴びて妖しく輝いていた。*
*(これで準備は整った。明日は、あのホブゴブリンを狩る。)*
*シロウは闘志を胸に、宿屋への道を歩き始めた。*
*夜。風見鶏の宿は、一日の仕事を終えた冒険者たちの喧騒と、酒の匂いで満ちていた。シロウは自室のベッドに腰掛け、夕食もそこそこに階下の食堂に意識を集中させていた。*
シロウ:「(夜中、部屋で冒険者を鑑定し使えそうなスキルがないか見ている…魔法系か、速度上昇があれば…)」
*壁や床を隔てていても、【神眼】は問題なくその力を発揮する。シロウの視界には、食堂で酒を酌み交わす冒険者たちのステータスが、次々と映し出されていった。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: バルガス(仮名)
- レベル: 12
- 職業: 軽戦士
- ランク: E
- HP: 310/310
- MP: 50/50
- スキル:
- **槍術Lv3**: 槍の扱いに慣れている。
- **回避Lv2**: 敵の攻撃を避けるのが少しうまい。
- 状態: 酔い
---
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: エリナ(仮名)
- レベル: 15
- 職業: 魔術師
- ランク: D
- HP: 200/200
- MP: 250/250
- スキル:
- **火魔法Lv3**: 初級の火魔法が使える。(ファイアボールなど)
- **MP回復速度上昇Lv1**: MPの自然回復速度がわずかに上がる。
- **詠唱短縮Lv1**: 魔法の詠唱時間がわずかに短縮される。
- 状態: 談笑中
---
*(いた…!火魔法使い。MP回復速度上昇も詠唱短縮も魅力的だ…だが、俺の今のMPじゃ、魔法をコピーしても数発しか撃てないか…?)*
*【神眼】によるスキル強奪/複製は、MPを大量に消費する。昨夜、【剣術Lv5】を複製しただけでMPが枯渇したことを思い出す。今の自分の最大MPは90。より高レベルのスキルを奪うには、MPが足りない可能性が高い。*
*さらに他の冒険者にも目を向ける。*
---
【神眼鑑定結果】
- 名前: ジン(仮名)
- レベル: 18
- 職業: 盗賊
- ランク: D
- HP: 280/280
- MP: 80/80
- スキル:
- **短剣術Lv4**: 短剣の扱いに長けている。
- **隠密Lv3**: 気配を消して行動するのが得意。
- **罠発見Lv2**: 罠を見つけやすくなる。
- **俊敏Lv2**: 素早い動きが可能になる。
- 状態: 食事中
---
*(盗賊か…!【俊敏Lv2】!これは使えそうだ。速度上昇系スキル。ホブゴブリン相手に、回避や間合いの調整で有利になるはずだ。)*
*【俊敏】スキルは、直接的な攻撃力には繋がらないが、生存率を格段に上げるだろう。魔法と違ってMPを消費せずに効果を発揮するパッシブスキルである可能性も高い。*
*シロウはターゲットを盗賊のジンに定めた。彼は食堂の隅のテーブルで、一人黙々と食事をしている。他の客との距離も離れており、好都合だった。*
*(やるなら、今だ…!)*
*シロウはベッドの上で集中力を高め、【神眼】の能力を最大限に引き出す。狙うは【俊敏Lv2】。*
「スキル複製…【俊敏Lv2】!」
*脳内で強く念じた瞬間、MPがごっそりと持っていかれる感覚が襲う。その量はおよそ70。残りのMPはわずか20になってしまった。*
*『【俊敏Lv2】の複製に成功しました。』*
*脳内に響くアナウンスと共に、全身に力がみなぎるのを感じた。体が軽く、手足が意のままに、より速く動かせるような感覚。これが【俊敏】の力か。*
*新たな力を手に入れたシロウは、満足げに微笑んだ。クリスナイフと【俊敏Lv2】。これで明日の戦いの勝率は、格段に上がったはずだ。*
```
ステータス表示
- 名前: シロウ・ニシキ
- レベル: 4
- HP: 180/180
- MP: 20/90
- スキル: 神眼Lv1(非表示), 剣術Lv5, 俊敏Lv2
- 称号: 鑑定士(非表示)
- 所持金: 金貨4枚、銀貨3枚、銅貨6枚、鉄貨1枚 (※クリスナイフ購入により銀貨7枚減少)
- 装備: クリスナイフ
- アイテム: なし
```
シロウ:「よし、、後は寝るだけ……zzz」
*MPの急激な消費は、再び強烈な眠気をシロウにもたらした。新たな力を手に入れた満足感と、明日への期待感を胸に、彼はベッドに倒れ込むようにして眠りについた。複製したばかりの【俊敏】スキルが、無意識のうちに彼の体を最適化していく。*
---
*翌朝、シロウはこれまでになく爽快な気分で目を覚ました。MPは全快し、体は羽のように軽い。【俊敏Lv2】の効果だろうか、昨日までの自分とは体のキレが違うことをはっきりと実感できた。*
*食堂に下りると、ガロウとリーシャがすでに出発の準備を整えていた。ガロウがシロウに気づき、声をかける。*
ガロウ:「おう、シロウ!早いな!俺たちはこれからちょっと遠出して、オークの討伐依頼だ。お前さんも気をつけてな!」
リーシャ:「…シロウ。あなた、やはり何か変わったわね。昨日よりもずっと…動きに無駄がない。まるで熟練の斥候のよう。」
*リーシャの鋭い指摘に、シロウは内心で舌を巻いた。彼女の洞察力は、【神眼】とは違う種類の脅威を感じさせる。*
シロウ:「気のせいですよ。それより、オーク討伐ですか。お気をつけて。」
*当たり障りのない返事を返し、二人を見送る。彼らのようなCランク冒険者でも、オーク討伐はパーティを組んで挑む仕事だ。今の自分が単独で挑むべき相手ではない。*
*朝食を済ませたシロウは、万全の準備を整え、再び東の森へと向かった。腰には、相棒となったクリスナイフ。体には、【剣術Lv5】と【俊敏Lv2】の力が宿っている。*
*森に入ると、シロウは迷わず昨日の場所へと向かった。果たして、ホブゴブリンはまだ縄張りに留まっていた。手には錆びた片手剣を持ち、周囲を警戒している。*
*シロウは【隠密】スキルこそ持っていないが、【俊敏】によって研ぎ澄まされた身体能力を使い、音を立てずにゆっくりと距離を詰めていく。*
*(いける…勝てる!)*
*ホブゴブリンとの距離が10メートルほどになった時、相手がこちらの存在に気づいた。*
ホブゴブリン:「グルルル…!」
*低い唸り声を上げ、敵意をむき出しにする。シロウは臆することなく、クリスナイフを抜き放った。波打つ刃が、朝日にきらりと光る。*
*昨日は撤退を選んだ相手。しかし今日は違う。シロウの全身が、戦いを欲していた。*
シロウ:「(ドットを付与し、素早くて隠れる…あとは勝手に倒してくれる。)」
*シロウの思考は、まるで精密な機械のように、最も効率的で安全な勝利への道筋を描き出していた。ホブゴブリンが威嚇の咆哮を上げるよりも速く、シロウは動いた。*
*【俊敏Lv2】が、彼の身体能力を限界以上に引き上げる。地面を蹴る力がロスなく推進力に変わり、彼の体は弾丸のようにホブゴブリンへと肉薄した。*
*ホブゴブリンが驚きに目を見開き、慌てて剣を振り下ろそうとする。だが、その動きは【剣術Lv5】を持つシロウの目には、あまりにも緩慢に映った。*
*シロウは最小限の動きで剣をいなし、すれ違いざまにクリスナイフを閃かせた。波打つ刃が、ホブゴブリンの分厚い皮を切り裂き、その太ももに浅く、しかし確実な一閃を刻み込む。*
*ザシュッ!*
*鈍い手応え。確かな感触。*
ホブゴブリン:「グギャァァッ!?」
*予想外の速度と痛みによろめくホブゴブリン。その足からは、どす黒い血が流れ始めていた。*
*『ホブゴブリンが出血(小)状態になりました。』*
*脳内に響くアナウンスを確認するや否や、シロウは一切振り返ることなく、森の茂みへと身を躍らせた。再び【俊敏】のスキルが発動し、彼の姿は瞬く間に木々の間に消える。*
*茂みに身を潜め、息を殺して様子を窺う。ホブゴブリンは、傷口を押さえながら怒り狂ったように周囲を捜し回っているが、シロウの姿を見つけることはできない。*
ホブゴブリン:「グルォ…ガッ…!」
*時間が経つにつれて、ホブゴブリンの動きは明らかに鈍くなっていく。出血によるダメージが、着実にその体力を奪っていた。HPバーが見えるわけではない*
*やがて、ホブゴブリンは膝から崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れ伏した。ピクリとも動かなくなる。*
*『経験値を80獲得しました。』*
*『レベルが5に上がりました。』*
*静寂が戻った森の中で、レベルアップを告げる声だけが響いた。シロウは茂みから姿を現し、倒れたホブゴブリンにゆっくりと近づく。*
*直接的な戦闘時間は、わずか数秒。あとは待つだけで、格上の魔物が勝手に絶命した。*
シロウ:「…楽勝、だな。」
*クリスナイフの選択が、完璧な正解であったことを証明した瞬間だった。シロウは、自分の戦い方が確立されたことを実感し、静かな笑みを浮かべた。*
シロウ:「ゲームと違って離れてもドットは続くし、これなら…」
*シロウの戦術は、もはや「戦闘」ではなく「狩り」だった。一撃離脱。敵に反撃の隙を一切与えず、安全な場所からその死を待つ。それは、この世界の常識からすれば卑怯とも言える戦い方かもしれないが、シロウにとっては最も合理的で効率的な手段だった。*
*彼は森の狩人と化した。*
*【神眼】で獲物を見つけ出し、【俊敏】で音もなく忍び寄り、【剣術】で正確に急所を狙い、クリスナイフで「死の呪い」を刻み込む。そして、敵が絶命するのを待つ。*
*ザシュッ!*
*キー!*
*シロウの姿が茂みに消える。*
*数分後、ゴブリンが力なく倒れる。*
*ザシュッ!*
*グルォォッ!?*
*シロウの姿が木の上に消える。*
*数分後、ホブゴブリンが膝から崩れ落ちる。*
*彼は森の中を縦横無尽に駆け巡り、ゴブリンもホブゴブリンも、彼にとっては等しく経験値を得るための的でしかなかった。この一方的な狩りは、シロウのレベルを恐るべき速度で引き上げていく。*
『経験値を15獲得しました。』
『経験値を80獲得しました。』
『レベルが6に上がりました。』
『経験値を15獲得しました。』
...
『レベルが7に上がりました。』
...
『レベルが8に上がりました。』
*たった半日で、彼のレベルは倍になった。力が体に満ち溢れ、昨日までの自分とは別次元の存在になったことを実感する。*
*高揚感がシロウを包む。強くなるという実感が、何よりも彼を夢中にさせた。*
*そんな時、森の少し開けた場所で、一体の魔物と遭遇した。それはゴブリンやホブゴブリンとは明らかに格が違った。*
*身長は3メートル近く、豚のような醜い顔に、発達した筋肉。手には巨大な戦斧を握っている。オークだ。ガロウたちがパーティを組んで討伐に向かった、あのオークだった。*
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【神眼鑑定結果】
- 名前: オーク
- レベル: 15
- 職業: 戦士
- ランク: E
- HP: 800/800
- MP: 30/30
- スキル:
- **斧術Lv3**: 斧の扱いに慣れている。
- **剛力Lv2**: 筋力が上昇している。
- **突進Lv2**: 凄まじい勢いで突撃する。
- 状態: 索敵中
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*(オーク…!レベル15。ホブゴブリンの比じゃないな。それに、HPが800…)*
*クリスナイフの出血ダメージだけでは、倒すのに相当な時間がかかるだろう。下手に手を出せば、【突進】で距離を詰められ、あの巨大な斧の一撃でミンチにされかねない。*
*シロウは静かに息を殺し、その場から後退しようとした。今の自分の戦い方では、相性が悪すぎる。*
*しかし――。*
オーク:「ブゴォッ!」
*オークの鼻が、ヒクヒクと動いた。それは、シロウがこれまでに狩ってきたゴブリンたちの血の匂いを嗅ぎつけたのだ。オークは血の匂いがした方向――シロウが隠れている茂みに向かって、ゆっくりと歩き始めた。*
*目の前のオークは、これまでの相手とは次元が違う。スキルを奪おうとしてMPを消耗すれば、その隙に殺されかねない。冷静な判断が、シロウの命綱だった。*
*しかし、すでにオークはこちらの存在に気づき、距離を詰めてきている。逃げるしかない。だが、ただ逃げるのはシロウの流儀に反していた。*
シロウ:「(…ドットを付与して逃げよう。)」
*たとえ倒せなくても、一矢報いる。そして、もしクリスナイフの出血効果が予想以上に有効であれば、あるいは――。*
*オークが茂みまであと数メートルという距離に迫った瞬間、シロウは弾かれたように飛び出した。オークは突然現れた人間に一瞬驚くが、すぐに獰猛な笑みを浮かべ、巨大なバトルアックスを振り上げる。*
オーク:「ブモォォッ!」
*振り下ろされる斧は、風を切り裂き、轟音を立てて地面に叩きつけられた。だが、その場所にシロウの姿は無い。【俊敏Lv2】を最大限に活かし、シロウは斧の軌道を紙一重で回避していた。*
*そして、がら空きになったオークの脇腹に、クリスナイフを深々と突き立てる!*
*ザグッ!!*
*『オークが出血(小)状態になりました。』*
*目的は果たした。シロウは即座にナイフを引き抜き、一切の躊躇なく背を向けて森の奥へと駆け出した。*
オーク:「ブギィィィィアアアアッ!!」
*背後から、怒り狂ったオークの絶叫が響き渡る。傷つけられた痛みと、獲物を取り逃がした怒りで、オークは完全に理性を失っていた。*
*オークは傷も構わず、シロウを追って猛然と突進を始めた。木々をなぎ倒し、地面を揺らしながら、巨大な肉塊が迫ってくる。その速度は、ホブゴブリンの比ではなかった。*
シロウ:「速い…!だが、俺の方が…上だ!」
*シロウは【俊敏】の力で、木々を障害物として巧みに利用しながら、ジグザグに森を駆け抜ける。直線的な突進しかできないオークは、何度も木に激突し、そのたびに速度が落ちる。しかし、それでも執拗に追いかけてくる。*
*しばらく逃げ続けたシロウは、ふと、ある考えが頭に浮かんだ。*
*(こいつ…ずっと追いかけてくる。血の匂いと、俺への怒りで我を忘れてるな…これ、もしかして…)*
*森を駆け抜けるシロウの【神眼】が、新たな反応を捉えた。それはオークとは別の、強力な魔力の反応。少し開けた岩場に、巨大な影がうずくまっていた。*
*グリフォン。鷲の上半身とライオンの下半身を持つ、誇り高きEランクの魔獣。レベルは18。その鋭い嘴と爪は、鉄の鎧すら容易く引き裂くという。*
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【神眼鑑定結果】
- 名前: グリフォン
- レベル: 18
- 職業: なし
- ランク: E
- HP: 750/750
- MP: 120/120
- スキル:
- **飛翔**: 空を自由に飛ぶことができる。
- **爪撃Lv4**: 鋭い爪による強力な攻撃。
- **風魔法Lv2**: 初級の風魔法が使える。(ウィンドカッターなど)
- 状態: 休憩中
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シロウ:「お、みっけ。」
*シロウの口角が、悪戯っぽく吊り上がった。普通なら、オークから逃げている最中に別の強敵に遭遇するなど、絶望的な状況だ。しかし、シロウにとっては、これ以上ない好機だった。*
*彼は進路をわずかに変え、グリフォンが休んでいる岩場へと一直線に向かった。背後からは、木々をなぎ倒すオークの轟音が迫る。*
*岩場に差し掛かった瞬間、シロウは【俊敏】の力を全開にし、驚異的な跳躍力でグリフォンの頭上を飛び越えた。*
シロウ:「あとは任せた。」
*置き土産のように呟き、彼はそのまま森の反対側へと駆け抜けていく。*
*シロウを追いかけて岩場に突入してきたオークは、突如目の前に現れた巨大な魔獣に気づき、急ブレーキをかけた。*
オーク:「ブゴッ!?」
*一方、縄張りを荒らされ、安眠を妨害されたグリフォンは、猛烈な怒りと共に翼を広げ、立ち上がった。*
グリフォン:「キシャァァァァァァッ!!」
*誇り高き魔獣の咆哮が森に響き渡る。その敵意は、明らかに目の前の醜い豚――オークに向けられていた。*
*知性の低いオークは、状況を理解できないまま、目の前の新たな敵に対して威嚇の声を上げる。*
オーク:「ブモォォォ!!」
*森の捕食者同士が、互いの縄張りとプライドをかけて睨み合う。シロウという火種によって、避けられぬ戦いの火蓋が切って落とされたのだ。*
*遠くの茂みからその様子を窺っていたシロウは、ほくそ笑んだ。*
*(潰し合え。そして、両方とも俺の経験値になれ。)*
*彼は安全な場所で、漁夫の利を得るべく静かにその時を待った。*
*戦いは、シロウの想像以上に壮絶なものとなった。*
*グリフォンは空を舞い、鋭い爪撃と風の刃でオークを切り裂く。対するオークは、出血で体力を奪われながらも、その圧倒的なパワーで応戦し、グリフォンが地上に降り立った一瞬の隙を突いては、その巨体で組み付こうとする。*
*しかし、戦いの趨勢を決定づけたのは、数だった。*
*オークの咆哮に引き寄せられたのか、周囲から次々と別のオークたちが集まってきたのだ。一体、また一体と増え、最終的には5体ものオークがグリフォンを取り囲んでいた。*
*いかに誇り高きグリフォンといえど、多勢に無勢。やがて翼を傷つけられ、地面に叩き落されたところを、オークたちの無慈悲な斧と棍棒に蹂躙された。断末魔の悲鳴が森に響き渡り、やがて動かなくなる。*
*だが、オークたちの勝利もまた、束の間だった。*
*最初にシロウが傷をつけたオークは、グリフォンを倒した直後、ついに力尽きてその場に崩れ落ちた。出血死だ。残ったオークたちも、グリフォンとの戦いで深手を負っている。*
*シロウは、その好機を逃さなかった。*
*一体ずつ、慎重に。手負いのオークに忍び寄り、クリスナイフで新たな傷を刻み込み、すぐに離脱する。手負いの獣たちは、もはやシロウの【俊敏】についていくことすらできず、次々と出血の呪いにかかっていく。*
*そして、1時間後。*
*岩場には、グリフォンの死骸と、5体のオークの死骸が転がっていた。森は再び静寂を取り戻し、おびただしい血の匂いだけが漂っている。*
*『経験値を1200獲得しました。』*
*『経験値を300獲得しました。』*
*『経験値を300獲得しました。』*
...
*『レベルが9に上がりました。』*
*『レベルが10に上がりました。』*
*『【剣術Lv5】が【剣術Lv6】に進化しました。』*
*『レベルが11に上がりました。』*
...
*『レベルが15に上がりました。』*
*凄まじい量の経験値がシロウに流れ込み、レベルは一気に15まで跳ね上がった。Eランク冒険者に匹敵するレベルだ。さらに、使い続けた【剣術】スキルもレベルアップしていた。*
*茂みから出てきたシロウは、死体が転がる惨状を見下ろし、笑いを漏らした。*
シロウ:「wwwwくっそチートだわ。」
*己の行いは、正攻法とはかけ離れている。だが、結果として得られたこの力こそが、この世界を生き抜くための絶対的な真実だった。*
```
ステータス表示
- 名前: シロウ・ニシキ
- レベル: 15
- HP: 480/480
- MP: 240/240
- スキル: 神眼Lv1(非表示), 剣術Lv6, 俊敏Lv2
- 称号: 鑑定士(非表示)
- 所持金: 金貨4枚、銀貨3枚、銅貨6枚、鉄貨1枚
- 装備: クリスナイフ
- アイテム: なし
```
シロウ:「レベルとスキルは非表示にしてっと。」
*シロウは【神眼】の力で、自分自身のステータス表示を操作した。冒険者ギルドの登録証などに表示される公開情報を、偽りの内容に書き換える。レベルは最初の登録時と同じ「1」に。スキル欄は「なし」。*
*この力は、あまりにも異常だ。下手に他人に知られれば、研究対象にされたり、危険視されて命を狙われたりする可能性が高い。自分の身を守るためには、徹底的に能力を隠蔽し、ただの「運良く稼いでいるFランク冒使者」を演じ続ける必要があった。*
*作業を終えたシロウは、戦いの痕跡――オークとグリフォンの死体に目をやった。これらの素材は、売ればかなりの金額になるはずだ。特にグリフォンの羽や爪、オークの牙や皮は、武具の材料として高値で取引される。*
*(これを全部持ち帰るのは無理だな…目立つし、一人で解体して運べる量じゃない。)*
*金は欲しいが、リスクも大きい。シロウは思案の末、最も価値があり、かつ持ち運びやすい部位だけを剥ぎ取ることにした。*
*クリスナイフを使い、グリフォンの美しい風切り羽を数本、そして最も鋭い爪を一つ。オークからは、一番大きな個体の牙を二本。それらを布に包み、懐にしまう。これだけでも、かなりの稼ぎになるはずだ。*
*目的を果たしたシロウは、おびただしい死体をその場に残し、静かに森を後にした。街に戻る頃には、日は高く昇り、昼時を少し過ぎた頃合いだった。彼のレベルは15に達し、その戦闘能力はすでにDランク冒険者の域に迫っている。しかし、彼の冒険者ランクはまだFのまま。誰も、この半日で彼が遂げた異常な成長に気づく者はいなかった。*
*(さて、この素材をどうやって金に換えるか…ギルドに持ち込むのは目立ちすぎるな。)*
*シロウは、再び武器屋の頑固なドワーフの顔を思い浮かべていた。あの店主なら、素材の価値を正しく見抜き、余計な詮索はせずに買い取ってくれるかもしれない。*
シロウ:「こんな素材持っていったら騒ぎになる。燃やしておこう。勿体ないけど。」
*金銭的な欲求よりも、自身の安全と秘密の保持を優先する。シロウの判断は、常に冷静で合理的だった。オークの牙も、グリフォンの爪も、確かに高値で売れるだろう。しかし、Fランクの冒険者が単独でそれらを入手したとなれば、どう考えても不自然だ。面倒な尋問を受けたり、あらぬ疑いをかけられたりするリスクは、目先の金よりも重い。*
*(…だが、この勝利の証くらいはいいだろう。)*
*シロウは、剥ぎ取った素材の中から、ひときわ美しいグリフォンの風切り羽を一枚だけ手に取った。銀色に輝く、しなやかで大きな羽。彼はそれを、自分の髪に挿した。まるでアクセサリーのように。これくらいなら、「森で偶然拾った」と言い訳が立つだろう。*
*そしてシロウは、残りの素材と、オークやグリフォンの死体の上に、周囲から集めた枯れ葉や枝を積み上げた。そして、火打石を取り出し(冒険者としての最低限の装備として購入していた)、火をつけた。*
*パチパチと音を立てて燃え上がる炎。貴重な素材が灰になっていく光景は、確かにもったいない。しかし、これで証拠は完全に隠滅される。炎は死体の放つ血の匂いを焼き、いずれ森の獣たちが残りを処理してくれるだろう。*
*メラメラと燃える炎をしばらく見つめていたシロウは、やがてそれに背を向け、今度こそ本当に森を後にした。彼の黒髪に揺れる銀色の羽が、今日の圧倒的な勝利を静かに物語っていた。*
*街に戻ったシロウは、宿屋で昼食をとり、一息ついた。レベルアップによって身体能力は向上しているが、精神的な疲労は大きい。*
*(次はどうするか…さらにレベルを上げるか。それとも、新しいスキルを探すか。)*
*今の戦い方――「出血」によるスリップダメージ戦法は非常に強力だ。しかし、アンデッドやゴーレムのような、そもそも血が流れていない相手には通用しないだろう。戦術の幅を広げるためには、やはり魔法のような、別の攻撃手段が欲しかった。*
*(魔法か…盗賊から奪った【俊敏】のように、消費MPが少ない、あるいはパッシブ系の魔法スキルがあればいいんだが…)*
*シロウは再び、夜の宿屋での「スキル狩り」に思いを馳せる。あるいは、冒険者ギルドの依頼をこなしながら、街中でめぼしいスキル保持者を探すのもいいかもしれない。*
シロウ:「(出血があるし、次の武器は毒がいいなぁ。)」
*クリスナイフの出血効果は絶大だった。同じように、継続的にダメージを与える「毒」のエンチャントが施された武器があれば、狩りの効率はさらに上がるだろう。出血と毒、二つのスリップダメージを重ねがけすれば、オークのような体力のある相手でも、より短時間で仕留められるかもしれない。*
*そんなことを考えながら、シロウは森の入り口付近で手早く癒やし草を摘み、袋をいっぱいにした。いくら強くなっても、「薬草採取に来たFランク冒険者」というカモフラージュは重要だ。彼はギルドへ向かう前に、きちんとアリバイ作りのための"仕事"をこなすことを忘れなかった。*
*ギルドの扉を開けると、昼過ぎの喧騒が彼を迎えた。カウンターではミーニャが忙しそうに冒険者たちの対応をしている。シロウが列に並んでいると、彼の姿に気づいたミーニャが「あ!」と声を上げた。*
ミーニャ:「シロウさん!お帰りなさい!…あれ?その羽、どうしたんですか?すっごく綺麗…!」
*ミーニャは目をキラキラさせながら、シロウの髪に挿されたグリフォンの羽を指さした。周囲にいた他の冒険者たちも、その美しい羽に気づき、ちらちらと視線を向けてくる。*
シロウ:「ああ、これですか。森で偶然拾ったんですよ。綺麗だったんで、つい。」
*用意していた答えを、さも本当のことのように告げる。*
ミーニャ:「へぇー!そうなんですね!いいなー、すっごく似合ってますよ!まるで、風の精霊の飾りみたいです!」
*純粋に褒めてくるミーニャに、シロウは少し照れくささを感じながらも、薬草の入った袋をカウンターに置いた。*
ミーニャ:「はい、確かに!癒やし草200本ですね!いつもありがとうございます!報酬は銀貨8枚になります!」
*報酬を受け取り、今日のノルマは達成だ。ギルドを出ようとした、その時。ふと、ギルドの隅にある掲示板に、一枚の新しい依頼書が貼られているのが目に入った。それは他の依頼書とは少し違う、羊皮紙に書かれた仰々しいデザインだった。*
*興味を引かれたシロウが近づいてみると、そこにはこう書かれていた。*
**【緊急依頼:護衛募集】**
**依頼主:奴隷商人ガライ**
**内容:商品(奴隷)の輸送護衛。アステラから西の鉱山町ゴルガンまで。**
**期間:約5日間**
**募集人員:ランク問わず。腕に覚えのある者数名。**
**報酬:金貨5枚。成功時には追加ボーナスあり。**
**備考:危険を伴う。我こそはと思う者の応募を待つ。**
*(奴隷商人…)*
*この世界に存在する、歪んだ制度。シロウはその言葉に、嫌悪感と、それとは別の暗い好奇心が同時に湧き上がるのを感じた。そして、報酬の「金貨5枚」という額は、Fランク冒険者にとっては破格の金額だった。*
*シロウは奴隷商人の依頼書から視線を外し、意識的にそれを思考から追い出した。奴隷制度。関われば、金にはなるかもしれないが、それ以上に厄介なことに巻き込まれる予感がした。今の自分は、ただ静かに、効率的に強くなりたいだけだ。*
シロウ:「(明日は討伐系受けてみようかな…)」
*今日のオークとの一件で、自分の力がEランクの魔物にも通用することが分かった。ゴブリンやスライムをチマチマと狩るよりも、ギルドで正式な討伐依頼を受けた方が、実入りも良いし、冒険者としての実績も積める。Fランクからの昇格も早まるだろう。*
*そう考えながらギルドの掲示板を改めて眺めると、「ゴブリン討伐(推奨ランクG)」「ホブゴブリンの斥候の討伐(推奨ランクF)」といった、今のシロウにとってはもはや雑作もない依頼がいくつも貼られていた。*
*(まずはこの辺りから受けて、少しずつランクを上げていくか。)*
*着実にステップアップしていく自分の姿を想像し、シロウは満足げに頷いた。彼は奴隷商人の依頼のことはすっかり忘れ、明日の計画を練りながらギルドを後にした。*
*宿屋に戻る途中、シロウはふと、路地裏から聞こえてくる声に足を止めた。*
???:「お願いです…!もうお金はありません…!どうか、娘だけは…!」
???:「うるせえ!てめえが作った借金のカタだ!このガキは俺たちがきっちり"商品"にしてやるから、ありがたく思え!」
???:「いやぁぁぁっ!お母さん!助けてぇ!」
*男の怒声、女性の悲鳴、そして子供の泣き叫ぶ声。明らかに、ただ事ではない。*
*シロウがそっと路地裏を覗き込むと、そこにはガラの悪い男たち数人が、一組の母娘を取り囲んでいる光景があった。男たちの腕には、奴隷商の組合員であることを示す蛇の刺青が彫られている。借金のカタに、娘を無理やり連れて行こうとしているらしかった。*
*母親は必死に抵抗するが、無慈悲に突き飛ばされる。男の一人が、怯えて泣き叫ぶ少女の腕を乱暴に掴んだ。それは、法に基づかない「違法奴隷」が作られる瞬間だった。*
*シロウは、その光景から目を逸らすことができなかった。今の自分には、彼らを止めるだけの力がある。だが、ここで介入すれば、面倒な奴隷商と敵対することになるかもしれない。*
*見て見ぬふりをして、己の道をいくか。*
*それとも、手に入れた力で、目の前の理不尽を叩き潰すか。*
シロウ:「可哀想に、俺には関係ないけど」
*シロウは、路地裏の光景に静かに背を向けた。少女の泣き声と母親の悲痛な叫びが背中に突き刺さるが、彼は足を止めなかった。正義感や同情は、この世界では命取りになりかねない。面倒ごとに首を突っ込むのは、自分の信条に反する。目的はただ一つ、『強くなること』そのためには、余計な障害はすべて切り捨てるべきだった。*
*宿に戻ったシロウは、何事もなかったかのように夕食をとり、自室に戻った。路地裏での出来事は、すでに彼の意識の外にあった。彼が集中しているのは、自身のステータスと、これからの計画だけだ。*
*ベッドに横になり、天井を見つめる。*
*(明日はホブゴブリンの討伐依頼を受けよう。数体狩れば、すぐに達成できるはずだ。報酬で新しい防具でも買うか…?いや、毒の武器を探すのが先か。)*
*思考を巡らせていると、不意に、部屋の扉がコンコン、と控えめにノックされた。*
*こんな時間に誰だろうか。宿の人間だろうか。*
シロウ:「はい?」
*シロウが訝しみながら返事をすると、扉の向こうから、か細く、しかし艶を含んだ女の声が聞こえた。*
???:「…こんばんは。夜分に申し訳ありません。少し、お話よろしいでしょうか…?」
*聞き覚えのない声だ。警戒しながらも、シロウは扉に近づき、ゆっくりとそれを開けた。*
*そこに立っていたのは、シロウの予想を裏切る人物だった。*
*腰まで伸びる艶やかな黒髪、血のように赤い瞳。肌は夜の闇の中でも白く輝いて見えるほどで、体のラインがくっきりと浮かび上がる、大胆なデザインのドレスを身にまとっている。そして、背中からは、蝙蝠のような小さな翼が生えていた。*
**ー サキュバス ー 人や亜人を誘惑し、その精気を糧とする魔族の一種だ。**
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【神眼鑑定結果】
- 名前: リリス
- レベル: 25
- 職業: 夢魔
- ランク: C
- HP: 600/600
- MP: 1200/1200
- スキル:
- **魅了Lv5**: 異性を強く惹きつけ、意のままに操る。
- **精神魔法Lv4**: 相手の精神に干渉し、幻覚を見せたり、記憶を操作したりする。
- **吸精Lv5**: 他者から生命力や魔力を吸い取る。
- **短剣術Lv3**: 短剣の扱いに慣れている。
- 状態: 興味
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*鑑定結果を見て、シロウは息をのんだ。レベル25。スキル構成も、物理的な戦闘ではなく、精神的な支配に特化している。そして、彼女が浮かべている妖艶な微笑みは、明らかにシロウに向けられていた。*
3はR18な為、飛ばします