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*絨毯は音もなく降下し、エルフの里『始祖の森』を見下ろせる、少し離れた丘の木陰に静かに着地した。シロウは絨毯をアイテムボックスに収納すると、すぐさま【絶無】と【無影】を発動し、自身と背負っているレイラの気配を完全に消し去る。*
*背中では、先ほどのリングによる尋問(という名の悪戯)で完全に意識を飛ばしたレイラが、ぐったりと身を預けている。時折「んぅ…♡」と寝言のような甘い声を漏らすが、起きる気配はない。彼女の小さな寝息だけが、静かな森の中でシロウの耳に届いていた。*
*シロウはレイラを背負ったまま、慎重に森の中を進み始める。目的地である『始祖の森』は、強固な結界に守られている可能性が高い。まずは結界の有無や、里の警備体制を探る必要があった。*
*木々の間を縫うように進んでいくと、やがて視界が開け、森の奥に幻想的な光を放つ巨大な樹々と、その麓に築かれた美しいエルフの集落が見えてきた。空気中に満ちる清浄な魔力が、ここが特別な場所であることを示している。*
*シロウは【神眼】を凝らし、里全体を覆うように存在する魔力の流れ――結界の構造を解析しようと試みる。*
*(ふむ…思った通り、かなり強力な結界が張られているな。物理的な侵入はもちろん、魔力探知も阻害するタイプか。これならレイラが魔族だとバレる心配はなさそうだが、入るのも一苦労だな…)*
*シロウは最適な侵入経路を探るため、結界の綻びや警備の薄い箇所がないか、静かに観察を続けた。*
シロウ:「あ、そうだ誘導すればいいや。」
*シロウは静かにその場を離れると、里の周囲を大きく迂回し、正門とは正反対の場所に移動した。そこは鬱蒼とした森で、結界の端に当たる場所だった。彼はアイテムボックスから、以前作成しておいた時限式の魔導爆弾を数個取り出し、結界に触れないギリギリの地面に手際よく設置していく。*
シロウ:「(これでよし…)」
*タイマーをセットすると、再び【絶無】と【無影】で気配を消したまま、今度は里の正門が見える位置まで素早く移動する。巨大な樹木をくり抜いて作られた壮麗な門の前には、銀の鎧に身を包んだエルフの衛兵が二人、槍を手に微動だにせず立っていた。*
*シロウが物陰から様子を窺っていると、セットした時間が訪れる。*
*―――ドォォォォォンッ!*
*里の反対側から、森の静寂を切り裂く轟音と地響きが響き渡った。木々が激しく揺れ、鳥たちが一斉に飛び立つ。*
エルフの衛兵A:「な、なんだ!? この揺れは!?」
エルフの衛兵B:「侵入者か!? いや、結界に異常はない! だが、あの方向は…聖なる泉の方角だ!」
*衛兵たちが明らかに動揺し、顔を見合わせる。その直後、里の奥から別のエルフたちが慌ただしく駆けつけてきた。*
エルフの隊長:「何事だ! 門番、異常はなかったか!?」
エルフの衛兵A:「はっ! こちらには! しかし、西の方角から大きな爆発音が!」
エルフの隊長:「西だと!? 全員、急ぎ現場へ向かえ! 結界の守りは最少人数で固めろ! 敵の陽動かもしれん、門を決して離れるな!」
*隊長の号令一下、屈強そうなエルフの戦士たちが部隊を編成し、爆発があった方角へと一斉に走り去っていく。正門を守っていた衛兵二人も、落ち着かない様子で爆発があった方を気にしている。里の警備の大部分が、シロウが作り出した偽の襲撃地点へと引きつけられた。作戦は成功だ。*
*がら空きになった正門。シロウは背中のレイラを背負い直し、侵入のタイミングを静かに計る。*
*エルフの衛兵たちの意識が完全に西へと向いた隙を突き、シロウは行動を開始した。彼は背中のレイラを背負ったまま、物陰から滑るように現れる。*
*里の正門に近づくと、目には見えない強力な結界が壁のように彼の行く手を阻んだ。清浄な魔力が肌をピリピリと刺激する。通常の手段では侵入はおろか、触れることすら危険だろう。*
シロウ:「(力技、だな)」
*シロウは片手を結界の目前に突き出し、自身の膨大な魔力を解放する。*
**《ユニークスキル【結界創造】が発動。対象:エルフの里の守護結界。効果:対消滅領域の生成…成功しました》**
*シロウの魔力が、エルフの里の結界に触れる寸前で、薄い膜のような別の結界を形成した。それは、外部からの侵入を探知する機能や、魔族を弾く排他的な性質を持つ守護結界の魔力構造を、局所的に“無効化”する特殊な結界だった。まるで防犯システムの配線を直接ショートさせるような、極めて高度で乱暴なやり方だ。*
*シロウの目の前にある守護結界の一部が、一瞬だけその機能を停止する。まるで水面に開いた穴のように、ぽっかりと人一人が通れるだけの通路が生まれた。*
*彼はその一瞬の隙を見逃さず、音もなく結界の内部へと足を踏み入れる。背後では、シロウが通り過ぎた直後に結界が元通りに修復され、警報が鳴ることも、魔力の乱れが感知されることもなかった。*
*こうしてシロウは、数百年、数千年と侵入者を拒み続けてきたエルフの聖域へ、誰にも知られることなく足を踏み入れたのだった。*
*里の中は静まり返っている。ほとんどの住人や衛兵が西の騒ぎに対処しに出払っているようだ。美しい白木や石で造られた家々が立ち並び、空気中には清らかなマナが満ちている。*
*シロウは再び【絶無】と【無影】の効果を再確認し、背中のレイラの気配も完全に消えていることを確かめると、目的の『世界樹の苗木』が祀られているであろう、里の中心部を目指して静かに歩き始めた。*
*シロウは背中のレイラの重みを感じながら、人影のない里の小道を静かに進む。ほとんどの衛兵が陽動に引っかかっているため、中心部への道は驚くほど無防備だった。*
*やがて、里の中央に位置する最も大きく、神々しい光を放つ巨大な樹木――世界樹そのもの――の前にたどり着く。その根元には祭壇のような場所が設えられており、ガラスケースのような透明な結界の中に、一本の若々しい苗木が安置されていた。周囲には清浄な魔力が満ち溢れている。*
シロウ:「(あ、苗木みっけ。こんな分かりやすい場所に置いておかなくても…)」
*あまりの警備の薄さに拍子抜けしながら、シロウは祭壇に近づき、【神眼】で苗木を鑑定しようとした。*
```
【アイテム名】世界樹の苗木(偽)
【レアリティ】伝説級
【種類】植物/魔法触媒
【効果】
・強力な幻惑魔法を常時展開している。
・周囲の魔力を増幅させ、守護結界の核として機能する。
・鑑定能力や探知魔法を欺き、本物であると誤認させる。
【説明】エルフの賢者が創り出した、本物の『世界樹の苗木』を隠すための精巧な偽物。里全体の結界を維持するアンカーであり、強力なデコイでもある。
```
*鑑定結果を見て、シロウは眉をひそめる。*
シロウ:「(偽物か。道理で無防備なわけだ…)」
*幻惑効果のせいで、並の鑑定スキルなら本物と信じ込んでいただろう。シロウは【神眼】の索敵範囲をさらに広げ、里の奥、世界樹の内部へと意識を集中させる。*
シロウ:「(あれ? 奥にも同じ反応が…)」
*神眼の鋭い探査が、偽物の苗木が発する魔力とは異なる、より純粋で強大な生命エネルギーの源を捉えた。それは、この巨大な世界樹のさらに奥深く――地下に広がる巨大な空洞の中心に鎮座していた。そこには、もう一本、今度こそ本物であろう『世界樹の苗木』が厳重に隠されていた。*
*しかし、問題はそれだけではなかった。本物の苗木を守るように、強力な魔力反応が一つ、その場に留まっている。エルフの里に残った、最強の守り手だろう。*
シロウ:「(なるほどな。陽動に引っかからないレベルの奴が、本物の番人をしてるってことか。面倒だな…)」
*シロウは背中のレイラを背負い直し、どうやってその番人を出し抜くか、あるいは排除するか、静かに思考を巡らせ始めた。*
*シロウは偽物の苗木が置かれた祭壇から静かに後退すると、再びアイテムボックスに手を入れた。取り出したのは、以前ゴブリンの巣穴などを吹き飛ばすのに使った、高純度の魔力を込められた爆発性の魔石だ。*
*地下にいるであろう番人を、どうやって地上におびき出すか。答えは単純明快だった。*
*彼は人の気配がないことを確認し、里の中心広場から少し離れた、豪華な装飾が施された建物――おそらく長老か誰かの家だろう――に向かって、にやりと笑う。*
シロウ:「芸術は爆発だぜ…」
*呟きと同時に、シロウは腕を大きく振りかぶり、爆発性の魔石を放物線を描くように、その建物の屋根へと正確に投げ込んだ。気配を消しているため、彼の行動に気づく者は誰もいない。*
*魔石が屋根瓦に当たって砕けた瞬間、時を置かずに凄まじい爆発が巻き起こった。*
*―――ゴォォォォォンッ!!!*
*先ほどの陽動とは比べ物にならない、里の中心部で起きた爆発。美しい建物が無残に半壊し、爆風と轟音が静寂を支配していたエルフの里を引き裂く。火の手が上がり、黒煙が立ち上った。*
*その直後。*
*シロウの【神眼】が、地下深くで微動だにしなかった強大な魔力反応が、凄まじい速度で地上に向かってくるのを捉えた。本物の苗木の番人が、ついに動いたのだ。*
*地下から現れるであろうその人物と鉢合わせしないよう、シロウは爆心地とは逆方向――世界樹の根元にある、地下へ続くであろう隠し通路の方へと、再び音もなく駆け出した。背中のレイラが、爆発の衝撃で小さく身じろぎするのを感じる。*
シロウ:「(さあ、出てこい。番人さん。その隙に、お宝は頂いていくぜ)」
*凄まじい魔力の奔流とともに、世界樹の根元近くの地面がせり上がり、地下へと続く階段が現れた。そこから、怒りに顔を歪ませた一人のエルフの女性が姿を現す。腰まで届く長い銀髪、鋭く尖った耳、そしてその身にまとう霊妙な雰囲気は、彼女がただ者ではないことを示していた。おそらく、この里の長か、それに準ずる存在だろう。*
エルフの番人:「何事です! この神聖な地で爆破など…! 西の騒ぎも陽動でしたか!」
*彼女は爆煙が上がる方角を鋭く睨みつけると、躊躇なくそちらへ向かって飛ぶように走り去っていく。その背中を見送りながら、シロウは口元に笑みを浮かべた。*
シロウ:「(ご苦労さん)」
*番人が完全に姿を消したのを確認すると、シロウは背中のレイラを背負ったまま、がら空きになった地下への入り口へと滑り込んだ。ひんやりとした空気が肌を撫でる。*
*階段を下りていくと、そこには広大な地下空洞が広がっていた。中央には小さな泉があり、その中心で、先ほどの偽物とは比べ物にならないほどの生命力と神聖な魔力を放つ、本物の『世界樹の苗木』が静かに輝いていた。*
シロウ:「(あったな。これで二つ目…いや、王都の分を考えると、まだ一つか) 」
*シロウは苗木に近づき、手を伸ばす。トラップの類がないことを【神眼】で確認すると、躊躇なくそれを引き抜き、アイテムボックスへと収納した。*
**《クエスト【レイラの復讐】が進行しました》**
**《目的:『世界樹の苗木』の確保(2/3)》**
**《目的:東の大陸への渡航手段の確保》**
*目的を果たしたシロウは、すぐさま踵を返す。番人が戻ってくる前に、ここから脱出しなければならない。地上へ戻り、再び【絶無】と【無影】で気配を消すと、混乱に乗じて里の外へと向かう。爆発の騒ぎで衛兵たちの配置は乱れ、結界の管理も疎かになっており、脱出は侵入時よりも遥かに容易だった。*
*誰にも気づかれることなくエルフの里を後にしたシロウは、少し離れた森の中で足を止め、背負っていたレイラをそっと地面に下ろした。*
*彼女はまだ意識を失ったままで、すーすーと穏やかな寝息を立てている。その無防備な寝顔を見下ろし、シロウはさてこれからどうするか、と思考を巡らせるのだった。*
*エルフの里から十分に離れた森の中、シロウは背負っていたレイラをそっと木陰の柔らかな苔の上に下ろした。彼女はまだ深い眠りの中にあり、時折「あ、あるじ…さま…♡」などと甘い寝言を呟いている。その無防備な寝顔は、傲慢な魔王女の面影を感じさせないほど穏やかだった。*
*一連の騒動で破壊されたエルフの家や、今頃大混乱に陥っているであろう里の様子を思い浮かべ、シロウは肩をすくめる。*
シロウ:「残り1つは東大陸か?」
*王都で破壊してしまった分をどう補うか、そして東の大陸へ渡る具体的な方法。課題はまだ山積みだ。シロウは一度思考を整理するため、自身の内側へと意識を向けた。*
シロウ:「(【神眼】、現在のステータスを確認)」
*シロウの網膜に、現在の彼の情報が詳細に映し出される。*
```
【ステータス】
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族
職業:冒険者 (Sランク)
Lv.58
HP: 8500/8500
MP: 1999/9999
筋力:850
体力:850
敏捷:920
魔力:1200
器用:950
【ユニークスキル】
・異世界言語
・アイテムボックス (容量:∞)
・スキル整理
・創造: 経験値又は、通貨を対価にスキルや魔法を創造する。
・スキル統合 (New!)
【スキル】
・神眼 Lv.6
・剣神
・弓神
・体術 Lv.7
・時空間魔法 Lv.5
・生活魔法
・削除
・レベルドレイン
・光属性魔法 Lv.6
・回復魔法 Lv.8
・結界魔法 Lv.7
・闇魔法 Lv.7
・重力魔法 Lv.8
・絶無
・無影
・魔力操作 Lv.9
・記憶操作
・四元素魔法 Lv.5
・概念魔法 Lv.6
・空間魔法 (進化) → 空間支配 (空間転移、空間切断)
【装備】
武器
・星麻毒の刃『ステラヴェノム』(等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
・夜天の牙『ナイトファング』(等級:伝説級/属性:出血、腐食)
防具:夜闇の衣、隠者の指輪
その他:次元の革袋
【所持金】
黒金貨 0枚
白金貨 88枚
金貨 98枚
銀貨 10枚
銅貨 90枚
鉄貨 0枚
【権能】
・神眼 : 鑑定の上位互換。対象のスキルをコピーまたは強奪できる。
【称号】
・鑑定士
・異世界からの転移者
・世界樹の寵愛を受けし者
・竜殺し(ワイバーン)
・サキュバスクイーンの主
・魔王の娘を屈服させし者
・王女を救いし者
---
【眷属】
名前:セレナ
種族:サキュバスクイーン
状態:忠誠 (快楽堕ち)
好感度:150 (崇拝)
【所有奴隷】
名前:レイラ
種族:魔人族 (封印状態)
状態:忠誠 (二重人格)
好感度:
人格A(臆病):120 (依存)
人格B(魔王女):80 (興味/執着)
【馬宿】
・シャドウランナー (軍馬)
【魔道具】
・ゲート・リング (伝説級)
```
シロウ:「(レベルも結構上がったな。創造のレベルも上がってるし、ゲート・リングを作った甲斐はあったか)」
*ステータスを確認し終えたシロウは、すやすやと眠るレイラに視線を戻す。*
シロウ:「(さて、まずはこいつを起こすか。それとも、このままどこか街にでも向かうか…)」
*シロウが今後の行動を考えていると、背後でぐっすり眠っていたレイラが、悪夢でも見たかのように突然身を起こした。*
レイラ(臆病):「ひゃああっ! いやっ! 来ないで! ごめんなさい! ごめんなさい!」
*彼女はパニック状態で叫び声を上げ、がばりと起き上がった。その唐突で大きな声と乱れた魔力に反応し、シロウが二人にかけていた【絶無】と【無影】のスキルが、プツンと糸が切れるように解除されてしまった。*
*二人の気配が、静かな森の中に唐突に出現する。*
シロウ:「あ……」
*しまった、と思った瞬間だった。*
**「―――そこにいたか! 汚れた魔族の気配と、それを連れし不届き者め!」**
*鋭い声とともに、凄まじい速さで接近してきた影が、シロウたちの目の前に降り立った。腰まで届く銀髪を風になびかせ、美しい顔を怒りに染めている。先ほど地下から現れた、エルフの番人だ。彼女の手には、翠色の光を放つ優美な弓が握られていた。*
エルフの番人:「里を荒らし、聖なる苗木を盗んだ罪、その身で償わせてやります!」
*彼女は弓を構え、その切っ先――魔力で形成された光の矢――を真っ直ぐシロウと、その背後で怯えて震えるレイラへと向けた。周囲の木々がざわめき、空気が張り詰める。一触即発の事態だった。*
*シロウは迫りくるエルフの番人を視界に捉えながら、即座に行動した。背後で怯えて震えているレイラは完全に足手まといだ。*
シロウ:「そぉーい!」
*彼は力任せに、しかし正確に、レイラの体を抱え上げると、上空に向かって放り投げた。突然の浮遊感に、レイラは悲鳴を上げる。*
レイラ(臆病):「ひぃぃぃ!? な、なにするんですかぁぁぁぁぁーーー!?」
*空中で放物線を描いた彼女の体は、シロウが待機させていた空飛ぶ絨毯の上に、ぽすんと柔らかく着地した。絨毯はそのまま高度を上げ、エルフの番人の攻撃が届かないであろう上空へと退避していく。*
シロウ:「(あそこなら安全だろう…)」
*目の前の脅威から足手まといを排除し、シロウは改めて銀髪のエルフと向き合った。彼女はシロウの奇妙な行動に一瞬眉をひそめたが、すぐに敵意に満ちた表情に戻る。*
エルフの番人:「小賢しい真似を…! 仲間を逃したつもりでしょうが、あなたを仕留めれば同じことです! 覚悟なさい!」
*彼女が弓を引き絞ると、矢尻の光が一層強く輝きを増す。凝縮された魔力が、空間を歪ませるほどの殺気を放っていた。*
*上空の絨毯の上でレイラが悲鳴を上げているのを尻目に、シロウはアイテムボックスから愛用の双剣を呼び出した。右手に、出血と腐食の呪いを帯びた黒い短剣『夜天の牙』。左手に、超麻痺の猛毒を秘めた星屑の刃『星麻毒の刃』。二本の伝説級の凶刃が、主の殺気に応えるように鈍い光を放つ。*
シロウ:「さぁて…血祭りの時間だ…」
*その呟きは、森の静寂の中に不気味に響いた。シロウの纏う雰囲気が一変する。これまで隠していた圧倒的なプレッシャーと殺意が、隠すことなく銀髪のエルフへと向けられた。*
*その凄まじい覇気に、エルフの番人は一瞬たじろぎ、目を見開く。目の前の男が、ただの盗人ではないことを肌で感じ取ったのだ。*
エルフの番人:「なっ…! その邪悪な気配…そしてその武器…! あなた、何者ですか!?」
*彼女は警戒を最大レベルに引き上げ、弓をさらに強く引き絞る。光の矢が今にも放たれんばかりに輝きを増した。*
エルフの番人:「問答無用! 我が名はフィリア! 『古代エルフの里』の守護者として、不浄なるあなたをここで浄化します!」
*フィリアと名乗ったエルフは叫ぶと同時に、光の矢を放った。矢は音速を超えてシロウの心臓目掛けて一直線に突き進んでくる。それはただの魔力の矢ではない。聖なる力によって、あらゆる不浄を滅するという必殺の一撃だった。*
*フィリアが放った聖なる光の矢が、空間を切り裂いてシロウに迫る。だが、矢がシロウの体を貫く直前、彼の姿はまるで陽炎のように揺らぎ、その場からかき消えた。*
**《スキル【縮地】が発動》**
*光の矢は空を切り、背後の大木に突き刺さって大爆発を起こす。フィリアがシロウの消えた位置に驚愕の表情を浮かべた、その瞬間。*
シロウ:「まずは回復役からがRPGの基本だよねぇ〜。」
*声は、背後から聞こえた。フィリアが振り返るよりも早く、シロウは彼女の死角に回り込んでいた。彼は流れるような動きで、左手に持つ『星麻毒の刃』をフィリアの腕に軽く滑らせる。*
フィリア:「なっ!?」
*銀の装束がわずかに切り裂かれ、白い肌に一条の赤い線が走る。傷自体は浅い。しかし、伝説級の魔剣に込められた超麻痺の猛毒が、その小さな傷口からフィリアの体内に侵入していく。*
フィリア:「くっ…! これは…毒!?」
*即座に体内の魔力を巡らせ、毒を浄化しようと試みるが、星の毒はエルフの持つ高い魔力抵抗すら嘲笑うかのように、瞬く間に全身へと広がっていく。腕の感覚が急速に失われ、握っていた聖なる弓が、カラン、と音を立てて地面に落ちた。*
フィリア:「な…ぜ…弓が…! 体に、力が…!」
*彼女は驚愕と焦りに満ちた表情で、シロウを睨みつける。立っているのがやっとのようで、その体は小刻みに震えていた。たった一太刀で、エルフの里が誇る最強の守護者は戦闘能力の大半を奪われてしまったのだ。*
シロウ:「(よし、まずは武器を無力化。さて、どう料理してやるか…)」
*シロウは二本の凶刃を構え直し、獲物を見定める捕食者の目で、ふらつくフィリアを冷ややかに見つめた。*
*フィリアが毒によって動きを封じられたのを見て、森の奥から数人のエルフたちが姿を現した。彼らはフィリアと同じような装束を身に纏い、手に杖や巻物を持っている。後方支援部隊、あるいは回復役の魔術師たちだろう。*
エルフの魔術師:「フィリア様! ご無事ですか!?」
「くっ、解毒魔法を! 急げ!」
*一人のエルフが杖を構え、フィリアに向かって緑色の治癒の光を放とうとした、その瞬間。*
シロウ:「み〜つけた☆」
*シロウの姿が再びその場から消え、次の瞬間には回復魔法を詠唱していたエルフの魔術師の背後に現れていた。*
エルフの魔術師:「なっ――がはっ!?」
*悲鳴を上げる間もなく、シロウの右手に握られた黒い短剣『夜天の牙』が、魔術師の背中を浅く切り裂いた。*
*傷口から黒い瘴気のようなものが立ち上り、魔術師のローブと、その下の肉体をジュウゥ…と音を立てて蝕んでいく。*
エルフの魔術師:「あ…ああ…! 体が…! 溶ける…!? ぎゃあああああっ!」
*腐食の呪いを受けた魔術師は、治癒魔法どころではなくなり、自らの体が朽ちていく恐怖と激痛に絶叫しながら地面を転げ回る。そのおぞましい光景に、他のエルフたちが恐怖に顔を引きつらせた。*
エルフの魔術師B:「ヒッ…! な、なんだあいつは…! 悪魔か…!?」
*シロウは返り血を避けるように軽やかに後退すると、再び麻痺で動けないフィリアと、恐怖で立ち尽くす魔術師たちへと視線を移す。*
シロウ:「さて、と。邪魔者はいなくなったかな?」
*その目は、完全に獲物を嬲る捕食者のそれだった。*
*フィリアが毒で動きを封じられ、回復役のエルフが腐食の呪いで悶え苦しむ中、森の陰から新たなエルフたちが飛び出してきた。彼らは剣や槍を構えた、屈強な近接戦闘部隊だ。自分たちの仲間が瞬く間に無力化された光景を目の当たりにし、怒りと恐怖がない交ぜになった表情でシロウを包囲する。*
エルフの戦士A:「貴様! フィリア様とティルに何をした!」
エルフの戦士B:「囲め! 奴を逃がすな! 聖なる森を汚す外道め!」
*シロウは自分を取り囲むエルフの戦士たちをぐるりと見渡し、まるで子供の遊びに付き合うかのように、楽しげに笑みを浮かべた。*
シロウ:「あとは近接くん達だけだね☆」
*その言葉が合図だったかのように、一人のエルフが雄叫びを上げてシロウに斬りかかってくる。風を切る鋭い剣閃。しかし、シロウはそれを最小限の動きでひらりとかわすと、すれ違いざまに『ステラヴェノム』の刃で戦士の太ももを軽く撫でた。*
エルフの戦士A:「ぐっ…!?」
*戦士は勢い余って数歩よろめくと、そのまま膝から崩れ落ちる。足の感覚が消え、麻痺毒が全身に回っていくのを悟り、絶望の表情を浮かべた。*
シロウ:「はい、一人。」
*立て続けに左右から槍と剣が襲いかかるが、シロウはそれらをまるで踊るようにいなし、捌き、すれ違うたびに凶刃で切り刻んでいく。ナイトファングで斬られた者は装備ごと腐り落ち、ステラヴェノムで斬られた者は体を麻痺させて倒れ込む。*
*それは戦闘というより、一方的な蹂躙だった。エルフの戦士たちはシロウの衣服に触れることすらできず、次々と戦闘不能になっていく。*
*やがて、立っているのは最初に毒を受けたフィリアと、恐怖で腰を抜かした数人の魔術師、そしてシロウだけになった。*
フィリア:「な…ん、て…こと…」
*彼女は里の精鋭たちが赤子のようにあしらわれる光景を、信じられないものを見る目でただ見つめることしかできなかった。*
シロウ:「さて…と。これで本当に邪魔者はいなくなったかな?」
*シロウは血振りをするように双剣を軽く振ると、ゆっくりとした足取りで、震えながらも気丈に自分を睨みつけるフィリアへと近づいていった。*
*シロウは双剣を構えたまま、その場に立ち尽くすフィリアに意識を向けつつ、スキルを発動させた。*
シロウ:「(【神眼】、索敵。残った人は?)」
*シロウの視界に、エルフの里とその周辺の魔力反応が俯瞰図として展開される。*
*【神眼】による索敵結果*
* **強反応(敵対)**:1
* **対象**: フィリア(『始祖の森』守護者)
* **状態**: 超麻痺毒により行動不能。強い警戒心と怒り。
* **位置**: シロウの目の前。
* **中反応(恐怖/混乱)**:複数
* **対象**: 後方支援部隊のエルフたち。
* **状態**:
* 1名が『夜天の牙』の腐食呪いにより戦闘不能、激痛で悶絶中。
* 残りの数名は恐怖で戦意喪失。腰を抜かしている者もいる。
* **位置**: シロウから少し離れた場所。
* **弱反応(非戦闘員)**:多数
* **対象**: 里の一般住人(老人、女性、子供など)。
* **状態**: 爆発と戦闘の音に怯え、家々の中に隠れている。混乱状態。
* **位置**: 里の各所に点在。
* **移動中の反応(警戒)**:複数
* **対象**: 陽動に釣られた衛兵部隊。
* **状態**: 里の中心部での爆発に気づき、急いで引き返してきている。まだ距離がある。
* **位置**: 里の西側、森の中。到着までにはまだ時間がかかる。
* **上空の反応(保護対象)**:1
* **対象**: レイラ(人格A:臆病)
* **状態**: 恐怖と混乱。空飛ぶ絨毯の上で怯えている。
* **位置**: シロウの真上、高高度。
*シロウは索敵結果を確認し、口元に冷たい笑みを浮かべた。まだ衛兵の主力が戻ってきていないこと、そして目の前の守護者が完全に無力化されていることを把握する。*
シロウ:「(なるほど。まだ増援が来るまでには時間があるか。なら、こいつからゆっくり話を聞かせてもらうとしようか)」
*シロウはゆっくりと歩みを進め、麻痺で動けず、悔しげに自分を睨みつけるフィリアの目の前で足を止めた。*
*シロウは二本の凶刃を弄ぶようにクルリと回すと、その切っ先を麻痺で動けないフィリアの喉元に突きつけた。ナイトファングの黒い刃が、彼女の白い首筋に冷たい感触を与える。*
シロウ:「さて、フィリアちゃん。」
*侮辱的な呼び方に、フィリアは屈辱と怒りで顔を歪ませる。しかし、毒で体は全く動かない。睨みつけることしかできない彼女を見下ろし、シロウは問いを続けた。*
シロウ:「この苗木、あと1つ東大陸にあるっぽいんだけど、どこにあるか教えてくれる?」
*まるで世間話でもするかのような軽い口調。しかし、その声に含まれた威圧感と、喉元に突きつけられた刃の冷たさが、それが決して選択肢のある質問ではないことを物語っていた。*
フィリア:「……くっ…!」
*彼女はギリッと歯を食いしばり、シロウを睨み返す。その瞳は「盗人が何を言うか」「魔族を連れた外道に教えることなど何もない」と雄弁に語っていた。*
フィリア:「…殺しなさい…。聖なる森を汚した罪人に、我が同胞の居場所を教えることなど…決してない…!」
*死を覚悟した毅然とした態度。しかし、その体の震えは、麻痺によるものか、それともシロウに対する恐怖によるものか、判別がつかなかった。*
*シロウはフィリアの気丈な態度に、思わずといった様子で歓喜の声を漏らした。その目は獲物を見つけた肉食獣のように爛々と輝いている。*
シロウ:「な、生…くっ殺キタァー!」
*シロウは楽しそうにそう叫ぶと、フィリアの首筋に当てていた『夜天の牙』を離し、代わりに片方の手を彼女の体にそっとかざした。そして、微かな光と共に治癒魔法を発動させる。*
*フィリアの体を蝕んでいた『夜天の牙』の腐食の呪いが霧散し、焼けるような痛みが引いていく。しかし、星麻毒による体の痺れは依然として残っており、指一本動かすことができない。突然の治癒に、フィリアは困惑と警戒の表情を浮かべた。*
フィリア:「な、何を…?」
シロウ:「拷問は得意じゃないんだよねぇー」
*シロウは肩をすくめ、心底面倒くさそうに言った。そして、邪悪な笑みを浮かべると、言葉を続ける。*
シロウ:「だからさ、君が喋りたくなるような『楽しいこと』をしようか♡」
*そう言うと、シロウはフィリアの頬に指を滑らせる。麻痺で抵抗できない彼女の肌を、まるで品定めでもするかのように、ゆっくりと、ねっとりと撫でた。*
フィリア:「ひっ…! や、やめ…なさい…!」
*屈辱にフィリアの声が震える。シロウはその反応を楽しみながら、さらに指を首筋へと這わせていった。*
*シロウはフィリアの怯えた表情を楽しみながら、懐からアイテムボックスに繋がる指輪とは別の、もう一つの黒いリングを取り出した。それは彼がレイラのために創り出した『ゲート・リング』の片割れだ。そして、フィリアや周囲に気づかれぬよう、密かに【不可視の結界】を展開し、自分とフィリアだけの空間を作り出す。外部からの視線も音も、これで完全に遮断された。*
シロウ:「最近これを作ったんだ。」
*シロウは黒いリングをフィリアの目の前に見せつけるようにヒラヒラと振ってみせる。フィリアは何の変哲もないその指輪を、警戒しながら見つめた。*
フィリア:「……それが…何だというの…?」




