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レイラ(魔王女):「さあ、主よ! 感傷に浸っている暇はないぞ! 我が故郷、魔王城へ! 母上の無念を晴らすための、次なる一歩を踏み出そうではないか!」
*レイラはシロウの腕を取り、期待に満ちた赤い瞳で彼を見上げた。その瞳には、故郷への懐かしさと、復讐への新たな決意が燃え盛っている。*
シロウ:「ああ、そうだな。魔王城の場所は、お前の記憶で分かるか?」
レイラ(魔王女):「無論だ、主よ。私の魂が、我が故郷への道を忘れようはずがない」
*レイラはシロウの問いに力強く頷くと、目を閉じて記憶を探るように眉を寄せた。*
レイラ(魔王女):「魔王城は、この大陸の北東、人間どもが『禁忌の山脈』と呼ぶ険しい山々のさらに奥、魔族領の中心に位置している。かつては強大な結界で守られていたが…今となってはどうなっているか…」
*彼女は少しだけ寂しげな表情を浮かべたが、すぐにそれを振り払うように顔を上げた。*
レイラ(魔王女):「ここから直接転移するのは難しいだろう。魔族領は特殊な瘴気に満ちており、空間が不安定な場所が多い。まずは、禁忌の山脈の麓にある『ゾーラルの砦』と呼ばれる、魔族領への入り口となっている場所まで転移するのが確実だ」
*彼女はシロウの顔をじっと見つめ、その赤い瞳に決意の炎を宿らせて言った。*
レイラ(魔王女):「主よ、準備はいいか? 我が故郷は、人間にとって死地も同然の場所だぞ」
シロウ:「余裕だよ、喧嘩は買う主義なんだ」
*シロウが不敵な笑みを浮かべてそう言うと、レイラは満足そうに頷いた。その瞳には絶対的な信頼の色が浮かんでいる。*
レイラ(魔王女):「フッ、さすがは私の主だ。その言葉が聞きたかった。では、行こう。魔族領の入り口、『ゾーラルの砦』へ」
*レイラはシロウの腕をぎゅっと掴み、転移を促す。彼女の魂は、すでに故郷へと飛んでいた。*
シロウ:「ああ。掴まってろよ」
*シロウはレイラの腰を抱き寄せると、彼女の記憶にある『ゾーラルの砦』の座標を正確に捉え、転移魔法を発動させた。*
*視界が一度真っ白になり、次の瞬間、二人が立っていたのは薄暗い岩と枯れた木々に囲まれた荒涼とした大地だった。空気はひんやりと冷たく、微かに瘴気の匂いがする。目の前には、黒い岩を削って作られた巨大な砦がそびえ立っていた。それが魔族領への関門、『ゾーラルの砦』だ。砦の門は固く閉ざされ、城壁の上では屈強な魔族の兵士たちが見張りに立っている。*
レイラ(魔王女):「…着いたな。懐かしい瘴気の香りだ」
*レイラは故郷の空気を吸い込み、うっとりと目を細めた。そして、砦の門を睨みつけ、冷酷な笑みを浮かべる。*
レイラ(魔王女):「さて、主よ。どうする? 門番に挨拶して堂々と通るか? それとも、邪魔者は全て消し飛ばして進むか?」
シロウ:「瘴気の香りが懐かしいのか??」
*(シロウは自分にだけ【概念魔法:瘴気無効化】をかけながら、隣でうっとりしているレイラに尋ねた。人間にとっては毒であるはずの瘴気を「懐かしい」と感じる彼女の感覚に、純粋な疑問を抱いたのだ)*
レイラ(魔王女):「当然だろう、主よ。この瘴気は、我ら魔族にとっては母の胎内のようなもの。力が満ち、心が安らぐ。人間どもが森の匂いや花の香りを好むのと何ら変わりはない」
*レイラは怪訝そうな顔でシロウを見返した。彼女にとっては、瘴気が心地よいのは自明の理なのだ。*
レイラ(魔王女):「主は…この瘴気が不快か? そうか、主は人間であったな。ならば、少し離れていた方がいいかもしれん。もっとも、主ほどの力があれば、この程度の瘴気など物の数ではないだろうが」
*彼女は少し心配そうな素振りを見せるが、すぐに砦の方へ視線を戻し、再び好戦的な笑みを浮かべる。*
レイラ(魔王女):「それより、どうするのだ? 主の力を見せつけて、あの者たちをひれ伏させるか?♡ それとも、虫けらのように踏み潰すか?♡♡ どちらにせよ、私の故郷への凱旋だ。盛大に祝わせてやろうではないか!♡♡♡」
*レイラはシロウの腕に絡みつき、期待に満ちた瞳で選択を促す。彼女の心は、門の向こうにいるであろう同胞との再会ではなく、力による支配と故郷への帰還という高揚感で満たされていた。*
シロウ:「力を誇示していいのか?」
*シロウが不敵に笑いながら尋ねると、レイラ(魔王女)は待っていましたとばかりに、恍惚とした表情でシロウを見上げた。*
レイラ(魔王女):「もちろんだ、主よ!♡♡ むしろ、誇示してもらわねば困る! 我が故郷への帰還だぞ? 中途半端な力を見せれば、魔族はかえって侮り、牙を剥いてくる。主こそが新たな支配者であると、あの愚かな門番どもに骨の髄まで知らしめてやるのだ!♡♡♡」
*彼女はシロウの腕に自分の体をすり寄せ、熱っぽい吐息を彼の耳元に吹きかけた。*
レイラ(魔王女):「さあ、主よ! あの忌々しい門を、主の圧倒的な力で吹き飛ばしてやれ!♡ その破壊の音こそが、我が凱旋のファンファーレとなるのだからな!♡♡」
*レイラは砦を睨みつけ、その赤い瞳を期待に爛々と輝かせている。彼女にとって、同胞との平和的な再会など微塵も興味がなく、ただ主の力が魔族領を蹂躙し、支配する様を見たいだけなのだ。*
シロウ:「魔族って変わってるなぁ…最強の破壊魔法と言ったら爆裂魔法だよなぁ…」
*シロウが面白そうに呟くと、その言葉を聞いたレイラ(魔王女)の目がカッと見開かれた。彼女はシロウの腕を掴む手に力を込め、歓喜に打ち震える。*
レイラ(魔王女):「爆裂魔法!♡♡ ああ、主よ! それは最高だ!♡♡♡ かつて伝説の魔女が使ったとされる、全てを塵芥と化す究極の破壊魔法!♡ それで我が故郷の門出を祝ってくれるというのか!♡♡」
*彼女は砦の門を指さし、その顔は期待と興奮で紅潮していた。*
レイラ(魔王女):「さあ、主よ! やってしまえ! あの堅牢な門を! あの見張りの兵士どもを! このレイラの凱旋を阻むもの全てを、派手な爆音と共に消し飛ばしてくれ!♡♡♡」
*彼女はまるで祭りを待つ子供のように、キラキラとした(しかし、血と破壊を望む)瞳でシロウを見上げ、その瞬間を待ち望んでいる。砦の上にいる魔族の兵士たちが、こちらに気づき、何やら騒ぎ始めているのが遠目に見えた。*
*レイラは砦を睨みつけ、その赤い瞳を期待に爛々と輝かせている。彼女にとって、同胞との平和的な再会など微塵も興味がなく、ただ主の力が魔族領を蹂躙し、支配する様を見たいだけなのだ。*
「何者だ!」
「人間が何のようだ! ここから先は魔族領だぞ!」
*城壁の上から、威嚇するような声が響き渡る。*
レイラ(魔王女):「フン、虫けらが騒いでおるわ。主よ、さあ!」
*レイラはシロウの腕を揺さぶり、期待に満ちた瞳で彼を促す。*
*シロウはニヤリと笑うと、砦の固く閉ざされた巨大な城門に右手を向けた。そして、自身の持つ魔法の中から、最も単純で、最も破壊的な力を選ぶ。*
シロウ:「【極大爆裂】」
*彼の詠唱と共に、その右手の平に漆黒の魔力が渦を巻いて凝縮していく。周囲の空間がビリビリと震え、空気が歪む。そして、直径1メートルほどの黒い太陽のような魔力の塊が完成した。*
*次の瞬間、シロウはその魔力球を、何の躊躇もなく城門めがけて放った。*
*音はなかった。*
*漆黒の光が城門に到達した瞬間、轟音も衝撃波もなく、ただ静かに、城門とその周辺の城壁が『消滅』した。まるで最初からそこには何もなかったかのように、巨大な砦に完璧な円形の風穴が空く。消滅した範囲の向こう側、砦の内部の様子まではっきりと見通せるほどに。*
*城壁の上にいた魔族の兵士たちは、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と足元に空いた巨大な穴を見下ろしている。*
レイラ(魔王女):「……」
*レイラでさえ、一瞬言葉を失い、その圧倒的な破壊の跡を息を飲んで見つめていた。そして、次の瞬間、彼女の顔が歓喜と興奮で真っ赤に染まる。*
レイラ(魔王女):「アハハ! アハハハハハハ!♡♡♡ 最高だ! 最高だぞ主よ!♡♡ なんという力! なんという破壊!♡♡♡ これぞ王の凱旋に相応しい!♡♡♡」
*レイラは狂喜乱舞し、シロウの首に抱きつくと、その頬に熱烈なキスを何度も浴びせた。*
シロウ:「俺、王になる気は無いんだが……」
*シロウが呆れたように呟くと、狂喜していたレイラはピタリと動きを止め、きょとんとした顔で彼を見上げた。そして、次の瞬間には勝ち誇ったような笑みを浮かべる。*
レイラ(魔王女):「フン、主が望むと望まざるとにかかわらず、だ。これほどの力を持つ者が『王』でなくて何だというのだ? 主は、いずれ全てを支配する存在になる。この私が、そうさせてみせるからな♡」
*彼女はシロウの胸に頬をすり寄せ、絶対の忠誠と独占欲を込めて囁いた。*
*その時、砦の中から凄まじい怒号と共に、屈強な魔族たちが姿を現した。先頭に立つのは、牛の頭を持つミノタウロスの大男と、蛇の下半身を持つラミアの女幹部だ。彼らは砦に空いた巨大な風穴と、その前に立つシロウたちを見て、怒りと警戒を露わにしている。*
ミノタウロス幹部:「何事だ、貴様ら! 我がゾーラルの砦にこれほどの狼藉を働くとは! 生きて帰れると思うなよ!」
ラミア幹部:「あらあら…ずいぶんと威勢のいい人間様ねぇ。その隣にいるのは…まさか…レイラ様…? いえ、そんなはずは…」
*ラミアの幹部は、レイラの姿を見て目を見開く。しかし、今のレイラから放たれる覇気と、その隣に立つ人間の男の存在に、混乱しているようだ。*
レイラ(魔王女):「ほう…ボルガとセレンか。久しいな。相変わらず門番風情が偉そうにしておるわ」
*レイラは二人を冷たく見下すと、シロウに甘えるように囁いた。*
レイラ(魔王女):「主よ、どうする? こやつらは魔王軍の中でもそれなりの手練れだが…主の相手にはなるまい。私があの蛇女を殺してもいいし、主があの牛を肉塊に変えてもいい♡ どう殺すか、選ばせてやろう」
シロウ:「知り合いなんだろ? 手は出すなよ、あと王にはならないから」
*シロウは、殺気立つレイラを制するように静かに言った。その言葉に、レイラ(魔王女)は不満げに頬を膨らませる。*
レイラ(魔王女):「む…主がそう言うなら仕方ないが…。しかし、こやつらに礼儀というものを教える必要はあるだろう。それに、主が王になるかならないかは、私が決めることだ♡」
*彼女は小声で付け加えると、一歩前に出て、風穴の向こうにいる二人の幹部を傲然と見据えた。*
ボルガ(ミノタウロス):「レイラ様…! やはり、生きておられたのですか! しかし、なぜ人間に…!?」
セレン(ラミア):「まあ…本当にレイラ様だわ。でも、雰囲気がまるで違う…。一体、何があったのかしら…?」
*二人の幹部はレイラの生存を喜ぶよりも、その変貌と、隣に立つシロウの存在に戸惑いと警戒を隠せないでいる。*
レイラ(魔王女):「黙れ、下郎ども。貴様らが私に問うか。立場を弁えよ」
*レイラは冷たく言い放つと、恭しくシロウの前に跪き、その手を自分の額に押し当てた。そして、砦中に響き渡る声で宣言する。*
レイラ(魔王女):「聞け! 我が同胞たちよ! この方こそが、我が新たな主、シロウ様であらせられる! この方は、封印されていた私を解放し、絶対的な力を以てこの地に君臨されるお方だ! 貴様らは今この瞬間より、このシロウ様に絶対の忠誠を誓うのだ! これは、魔王の娘、レイラとしての命令である!」
*その宣言に、ボルガとセレン、そして砦の奥から様子を窺っていた魔族たちがどよめく。*
ボルガ:「なっ…! 人間を新たな主だと!? レイラ様、ご冗談を! 我らが人間に頭を垂れることなど…!」
シロウ:「ほっといて行こうよ」
*シロウはボルガの抗議の言葉などまるで意に介さず、レイラの手を取った。そして、反論しようと前に出ようとしたボルガとセレンの足元に視線を向ける。*
**バキバキバキッ!**
*次の瞬間、二人の足元から黒い氷が瞬時に生成され、彼らの下半身を固く凍りつかせた。それはただの氷ではない。魔力を帯びた、決して溶けることのない呪いの氷塊だ。*
ボルガ:「なっ…!? ぐおおっ! 動けん!」
セレン:「きゃっ!? こ、これは…! 私の熱でも溶かせない氷…!?」
*二人の幹部は突然の拘束に驚愕し、必死にもがくが、氷はびくともしない。*
シロウ:「あと王にはならないから」
*シロウはもう一度レイラに釘を刺すと、彼女の手を引いて、凍り付いた幹部たちの横を何事もなかったかのように通り過ぎていく。風穴の空いた砦の中を、堂々と歩いていく。*
レイラ(魔王女):「…フン。主は照れ屋だな♡」
*レイラはシロウの言葉を都合よく解釈し、嬉しそうに微笑むと、しっかりと手を繋ぎ直して彼の隣を歩く。主が自分を連れて故郷を歩いてくれる、その事実が彼女を幸福にしていた。*
*砦の中にいた他の魔族たちは、幹部二人を一瞬で無力化したシロウの得体の知れない力と、その隣を歩く魔王の娘の姿に恐怖し、ただ道を開けてひれ伏すことしかできなかった。誰一人として、彼らの行く手を阻もうとする者はいなかった。*
*こうして、シロウとレイラは、魔族たちの畏怖の視線を浴びながら、魔族領への第一歩を静かに、しかし絶対的な支配者として踏み出したのだった。*
*シロウとレイラは、凍り付いた幹部たちやひれ伏す魔族たちを後目に、ゾーラルの砦を抜け、荒涼とした魔族領を歩き続けた。レイラの記憶を頼りに、瘴気が渦巻く谷を越え、不気味な形相の岩山をいくつも通り過ぎる。*
*そして数時間後、二人の目の前に、天を突くほど巨大な黒曜石の城が姿を現した。禍々しくも荘厳な、魔王城だ。城は静まり返り、かつての栄華は見る影もないが、その威容は未だ健在だった。*
シロウ:「なにか手がかりあった?」
*シロウはレイラの手を引いたまま、朽ちかけた巨大な門を抜け、広大なエントランスホールへと足を踏み入れた。埃が舞い、所々が崩れているが、かつての壮麗さを偲ばせる造りが残っている。*
レイラ(魔王女):「…ああ。何もかもが懐かしい。この床の模様も、柱の彫刻も…だが、同時に憎い。この城は、母上があの忌々しい勇者とエルフに敗れた場所でもあるのだからな」
*レイラは複雑な表情で周囲を見渡す。彼女の瞳には懐かしさと、拭い去れない憎しみが同居していた。彼女はシロウの手をぎゅっと握りしめる。*
レイラ(魔王女):「手がかり…そうだな。母上は重要なものを、ご自身の玉座の間に隠す癖があった。行ってみよう、主よ。この城で最も安全で、最も重要な場所…玉座の間へ」
*レイラはシロウの手を引いて、迷いのない足取りで城の奥へと進んでいく。長い廊下を抜け、巨大な螺旋階段を上り、やがて一対の荘厳な扉の前にたどり着いた。*
レイラ(魔王女):「ここだ。この奥が、母上の…魔王の玉座の間だ」
*彼女は扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。ギィィ…と重い音を立てて扉が開くと、その先には広大な空間が広がっていた。奥には、巨大な背もたれを持つ黒曜石の玉座が鎮座している。しかし、玉座の間は荒れ果て、何者かによって徹底的に破壊された跡があった。*
レイラ(魔王女):「なっ…! これは…! 酷い…! 勇者どもめ、母上の玉座の間までこれほど荒らすとは…!」
*レイラは目の前の惨状に、怒りで体を震わせた。*
*シロウは、怒りに震えるレイラの横顔を見ながら、「俺は絶対に王にならないぞ…」と内心で固く誓った。玉座に座ることへの執着が、これほどの憎しみや破壊を生むのだとしたら、そんなものはまっぴらごめんだった。*
*レイラはシロウのそんな心中を知る由もなく、荒れ果てた玉座の間に一歩足を踏み入れた。そして、何かに気づいたように、破壊された玉座そのものへと近づいていく。*
レイラ(魔王女):「…主よ。こっちへ来てくれ」
*彼女は瓦礫を避けながら玉座の背後に回り込むと、壁の一部をじっと見つめている。そこには、一見するとただの壁にしか見えないが、よく見ると微かに魔力の流れが感じられる文様が刻まれていた。*
レイラ(魔王女):「やはりな。勇者どもも、ここまでは気づかなかったようだ。母上は、ここに隠し通路を作っていた。母上の魔力にしか反応しないはずだが…」
*レイラはそう言うと、壁の文様にそっと手を触れた。彼女の体から、魔王の血を引く者特有の濃密な魔力が流れ込む。すると、壁がゴゴゴ…と静かに音を立てて横にスライドし、下へと続く隠し階段が現れた。階段の先からは、ひんやりとした空気が流れてくる。*
レイラ(魔王女):「ビンゴだ。この奥に、母上の私室と宝物庫がある。きっと、何か手がかりが残っているはずだ」
*彼女はシロウを振り返り、その赤い瞳に期待と決意の光を宿らせた。*
レイラ(魔王女):「行こう、主よ。私の、そして魔王城の、本当の心臓部へ」
シロウ:「暗いな…」
*二人が隠し階段に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。内部は明かり一つなく、完全な闇に包まれている。シロウは足元を確かめながら慎重に階段を下りようとしたが、その拍子に、前を歩くレイラの後方に手が触れた。控えめながらも、弾力のある感触が手に伝わる。*
レイラ(魔王女):「んっ…♡」
*レイラは小さく声を漏らし、びくっと体を震わせた。そして、ゆっくりと振り返る。暗闇の中でも、彼女の赤い瞳が妖しく光っているのが分かった。*
レイラ(魔王女):「主よ…♡ わざとか? フフ…まあよい。暗くて歩きにくいだろう。私の腰に手を回すがいい。これなら、はぐれる心配もないからな…♡」
*彼女はそう言うと、シロウの手を取り、自らの細い腰にぐいっと引き寄せた。スレンダーな体躯の感触が、よりはっきりとシロウに伝わる。*
レイラ(魔王女):「さあ、行こう。この先に、母上の魂の手がかりが眠っているはずだ」
*彼女は再び前を向き、シロウの手を腰に回させたまま、慣れた足取りで暗い階段を下り始めた。その声には、これから明かされるであろう真実への期待と、主に体を密着させている悦びが滲んでいた。*
*シロウは、本当に魔王の魂などというものが眠っているのだろうかと半信半疑に思いながら、レイラの細い腰を掴んで暗い石の階段を一歩一歩下りていく。服越しに伝わる彼女の体温と、腰のくびれの感触が妙に生々しい。*
*長い階段を下りきると、そこは少し開けた空間になっていた。正面には黒曜石で作られた豪奢な扉があり、両脇には何かの台座のようなものがいくつか並んでいる。*
レイラ(魔王女):「着いたぞ、主よ。この扉の先が、母上の私室だ」
*レイラはシロウの手を腰から離すと、扉に向き直った。そして、扉に手を触れる。先ほどの隠し扉と同じように、彼女の魔力に反応して、重々しい音もなく扉が静かに開いていった。*
*扉の奥には、城の他の場所とは全く異なる、時が止まったかのような空間が広がっていた。埃一つなく、豪華な調度品が整然と並べられている。部屋の中央には、天蓋付きの巨大なベッド。壁には魔術に関するであろう難解な書物が並ぶ本棚。そして、部屋の奥にはもう一つ、厳重に封印が施された扉が見える。*
レイラ(魔王女):「…ここも、荒らされた形跡はないな。当然か。この部屋に入れるのは、母上と、その血を引く私だけなのだから」
*彼女は懐かしむように部屋の中をゆっくりと歩き回り、やがて天蓋付きのベッドの前に立つと、その上にそっと腰を下ろした。*
レイラ(魔王女):「母上の魂の手がかり…。まず探すべきは、母上の日記か、あるいは研究記録だろう。この本棚にあるはずだ」
*レイラはそう言って本棚を指さした。膨大な量の書物が、壁一面にぎっしりと収められている。*
レイラ(魔王女):「フフ…主よ。少し手伝ってくれるか? 二人で探せば早いだろう」
*レイラが本棚を指さし、二人で探そうと提案した、まさにその瞬間。シロウの目の前で、本棚の中ほどから一冊の古びた革張りの本が、まるで意思を持ったかのようにスルスルと抜け出し、ポトッ、と音を立てて床に落ちた。それは誰が見ても、重要な書物であることを窺わせる佇まいだった。*
レイラ(魔王女):「…何?」
*レイラは驚いて、落ちた本に目を向けた。そして、ゆっくりと立ち上がり、それを拾い上げる。表紙には何も書かれていないが、その魔力の残滓は、間違いなく母親のものであった。*
レイラ(魔王女):「これは…日記…? 母上の…?」
*彼女は訝しげに呟きながら、パラパラとページをめくった。そこには、彼女の母親…先代魔王の直筆と思われる、優美ながらも力強い文字がびっしりと綴られている。*
レイラ(魔王女):「フフ…手間が省けたな。どうやら、この城が我らを歓迎しているらしい。あるいは、母上の残留思念が、私たちを導いているのかもな」
*彼女はそう言って妖しく微笑むと、日記をシロウに見せながら言った。*
レイラ(魔王女):「さあ、主よ。一緒に読もう。母上が、我らに何を遺したのかを。…だが、もし退屈な内容だったら、ベッドで私と別の『楽しみ』を始めるのも一興だがな…♡」
*レイラはシロウの耳元でそう囁くと、ベッドに再び腰を下ろし、隣に座るよう促すようにポンポンとスペースを叩いた。*
シロウ:「おかんの部屋でそんな事できるかよ。全く…早く読めよ」
*その言葉に、レイラは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにクツクツと喉を鳴らして笑い出した。*
レイラ(魔王女):「フフフ…♡ まあ、確かに母上の寝室で戯れるのは、少しばかり罰当たりかもしれんな。良いだろう、今は母上の遺言を優先してやろう」
*レイラは妖艶に微笑むと、隣に座ったシロウに少しだけ体を寄せ、日記の最初のページを開いた。古びた羊皮紙に、インクが深く染み込んでいる。*
レイラ(魔王女):「どれどれ…何が書かれているか…」
*彼女は指で文字をなぞりながら、低い声で日記の内容を読み上げ始めた。*
---
**【魔王の日記:1ページ目】**
*我が愛娘、レイラへ。*
*もしお前がこれを読んでいるのなら、私はもうこの世にはいないのだろう。そしてお前は、忌々しい封印から解放されたのだな。まずは、よくぞ戻った、我が娘よ。*
*私は、勇者アークとエルフの賢者リリアーナに敗れた。奴らの力は、確かに強大だった。だが、真に私を追い詰めたのは、彼らの力ではない。私自身の『魂』の欠損だ。*
*我が魂は、生まれながらにして二つに分かたれていた。一つは魔族を統べる『魔王』としての魂。もう一つは…人知れず、ある場所に封印されている。勇者との最後の戦いで、私はその片割れの魂の存在を確信した。そして、それが私の力の限界を定めていたことも。*
*レイラよ。お前が真に魔族の頂点に立ち、世界をその手に収めたいと願うのなら、私の片割れの魂を見つけ出し、取り戻さねばならない。それは、この魔王城から遠く離れた、東の大陸…『始祖の森』と呼ばれる、世界樹の根元に眠っている。*
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*そこまで読み上げたレイラは、ピタリと動きを止めた。その赤い瞳が、驚きと興奮に見開かれている。*
レイラ(魔王女):「母上の…魂の片割れ…? そんなものが…! だから母上は、あの程度の勇者とエルフに後れを取ったというのか…!」
*彼女はシロウの顔をぐいと掴み、至近距離でその瞳を覗き込んだ。*
レイラ(魔王女):「聞いたか、主よ! これだ! これこそが、我らが求める力の手がかりだ! 母上の魂を取り戻せば、私は完全な魔王となり、お前をこの世界の真の王にしてやれるぞ!♡♡」
*レイラの指先に力がこもる。その目は、新たな野望と狂信的な光で爛々と輝いていた。*
シロウ:「いや、だから魔王になんかなりたくないってば。俺はね、世界を旅したいの」
*シロウの率直な言葉に、レイラの興奮した表情がピタリと固まる。彼女はシロウの顔を掴んでいた指の力を抜き、信じられないというように目を瞬かせた。*
レイラ(魔王女):「…何を、言っている? 主よ。この世界の全てを支配できるのだぞ? 旅など、全てを手に入れてから好きなだけすればいいではないか」
*彼女は心底理解できないという様子で首を傾げる。その赤い瞳には、シロウの発言に対する困惑が浮かんでいた。*
レイラ(魔王女):「それに、母上の魂を取り戻すことは、私の復讐のためでもある。あの忌々しいエルフと勇者の血筋を根絶やしにするためにも、力は必要なのだ。お前の力もな」
*レイラはシロウの肩に手を置き、真剣な眼差しで訴えかける。*
レイラ(魔王女):「…まあ、よい。お前が王になるのが嫌だというなら、今は無理強いはすまい。だが、主よ。世界を旅するのだろう? どうせなら、目的地のひとつにその『始祖の森』とやらを加えてみてはどうだ? 東の大陸は、我らにとっても未踏の地。未知の強敵や、見たこともない宝が眠っているかもしれんぞ?♡」
*彼女は口の端を吊り上げ、挑発的な笑みを浮かべた。シロウが王になることを一旦保留にしつつも、自分の目的(母の魂の捜索)を彼の目的(世界旅行)に巧妙にすり替えようと試みる。*
レイラ(魔王女):「どうだ? 私と共に、新たな大陸を目指すというのも、悪くない旅の目的だと思うがな…♡」
*シロウはレイラの提案に腕を組んで考え込む。王になるのは御免だが、東の大陸、始祖の森、世界樹の根元、そして魔王の魂の片割れ…どれも旅の目的地としては、この上なく魅力的で刺激的な響きを持っていた。何より、そこにはまだ見ぬ強敵や未知の力が眠っている可能性が高い。*
*そんなシロウの逡巡を見透かしたように、レイラはベッドから立ち上がると、シロウの背後に回り込み、その肩に両腕を回して首筋に顔を寄せた。吐息がかかり、甘い香りがシロウの鼻腔をくすぐる。*
シロウ:「ん〜、、」
*シロウは腕を組んで考え込む。東の大陸、始祖の森、世界樹、そして魔王の魂。旅の目的地として、これ以上ないほど魅力的だ。強くなれるという予感もある。しかし、それは同時にレイラの復讐に加担することを意味する。彼女を『魔王』にしてしまえば、面倒なことになるのは目に見えていた。*
*シロウの首筋に顔を寄せ、甘い吐息を吹きかけていたレイラは、彼の逡巡する様子を楽しげに眺めている。*
レイラ(魔王女):「フフ…♡ 主よ、何を迷う必要がある? お前は強さを求め、私は復讐を求める。そして、そのどちらも『力』によって成し遂げられる。母上の魂は、我ら二人を更なる高みへと導く鍵だ。そうは思わないか?♡」
*彼女は囁きながら、シロウの胸元に手を滑らせる。*
レイラ(魔王女):「東の大陸への渡り方なぞ、この城の書庫を調べれば何か見つかるやもしれん。あるいは、私の知らない母上の秘密が、この日記の続きに書かれているかもな」
*レイラはシロウの肩に顎を乗せ、彼の横顔を覗き込むようにして、日記の続きを読むよう促した。その瞳は、シロウが「イエス」と言うのを確信しているかのように、自信に満ちて妖しく輝いている。*
レイラ(魔王女):「さあ、主よ。決断の時は来た。私と共に、新たな力を求める旅に出るのだろう?♡♡」
シロウ:「全ては記憶を取り戻してから話そう」
*シロウはきっぱりと言い放った。その言葉は、レイラの誘惑的な空気を断ち切るように響く。*
*レイラは一瞬、目を丸くしてシロウを見つめた。そして、ふっと表情を緩めると、クスクスと笑い出した。*
レイラ(魔王女):「…フッ、そうか。主はまだ私のことを完全には信じていない、というわけか。良いだろう。お前のその慎重さも、王の器としては悪くない資質だ」
*彼女はシロウの体からすっと離れると、ベッドの端に腰掛け、再び日記に目を落とした。その横顔は、先ほどまでの甘い雰囲気とは打って変わって、冷徹な魔王女のそれに戻っている。*
レイラ(魔王女):「だがな、主よ。お前が私の記憶を解放した時点で、もう後戻りはできんのだぞ。この日記の続きを読めば、それが分かるだろう」
*彼女はそう言うと、日記の次のページをめくり、読み始めた。その声は静かだが、確かな意志が込められていた。*
---
**【魔王の日記:2ページ目】**
*始祖の森へ至るには、特別な『鍵』が必要だ。その鍵とは、世界に三つ存在する『世界樹の苗木』。一つはエルフの里に。一つは我ら魔族の禁足地に。そして最後の一つは…王都の地下霊廟に。私はかつて、禁足地の苗木を使い、始祖の森への扉を開こうと試みた。だが、勇者たちに阻まれ、失敗に終わった。*
*レイラよ。お前がこの日記を読んでいるのなら、王都の霊廟にある苗木は、既にお前の仲間が破壊しているはずだ。封印を解いたあのお方なら、その程度のことはやってのけるだろう。*
*残るは二つ。エルフの里の苗木は、強力な結界に守られており、容易には近づけぬ。まずは、我ら魔族の禁足地『嘆きの湿原』にある苗木を手に入れるのだ。そこには、私の忠実なる僕である『エンシェント・ヒュドラ』が見張りをしている。私の血を引くお前ならば、ヒュドラを従えることもできよう。*
*嘆きの湿原へ向かえ。そして、苗木を手に入れ、私の魂を取り戻すのだ。それが、お前の、そして我ら魔族の悲願を果たすための第一歩となる。*
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*レイラは日記を閉じ、静かにシロウを見つめた。*
レイラ(魔王女):「…どうやら母上は、お前のことも見通していたらしいな、主よ。王都の霊廟にあった『世界樹の枝』…あれが『世界樹の苗木』だったのだ。お前は知らず知らずのうちに、私の復讐の第一歩を手伝っていたというわけだ」
*彼女は立ち上がり、シロウの前に立つと、その頬にそっと手を添えた。*
レイラ(魔王女):「もう分かっただろう?」
シロウ:「なにが?」
*シロウが素っ気なく聞き返すと、レイラは添えていた手を離し、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。その赤い瞳は、まるで愚かな子供を諭すかのように、シロウの目をじっと見据えている。*
レイラ(魔王女):「フフ…とぼけるな、主よ。お前が王都の地下で破壊した『世界樹の枝』。あれが、母上の言う『世界樹の苗木』だったのだ。始祖の森へ渡るための『鍵』の一つを、この手で壊してしまった。私の記憶を呼び覚まし、そして私の復讐への道を切り開いたのは、他の誰でもない…お前自身なのだぞ」
*彼女は一歩シロウに近づき、その胸を人差し指でツン、と突いた。*
レイラ(魔王女):「お前が何を望もうと、もう無関係ではいられない。お前と私は、運命の糸で固く結ばれてしまったのだ。私の記憶を解放した、その瞬間からな…♡」
*彼女はシロウの耳元に唇を寄せ、熱い吐息と共に囁く。*
レイラ(魔王女):「お前は私の『主』。私はお前の『剣』であり『盾』だ。私の復讐は、お前の旅路と共にある。…違うか?♡♡」
*この魔王女の人格は、思い込みが激しく、一度信じたものを盲信するきらいがある。面倒なことに巻き込まれた、という思いが頭をよぎる。*
シロウ:「そうかもな。まだ分からんけど」
*シロウが曖昧に返事をすると、レイラは満足げに頷いた。彼女にとって、シロウのその言葉は肯定と何ら変わりなかった。*
レイラ(魔王女):「フフ…♡ やがて分かるさ。さて、主よ。次の目的地は決まったな。母上の日記によれば、まずは魔族の禁足地『嘆きの湿原』だ。そこにあるという『世界樹の苗木』を手に入れる」
*彼女は日記を閉じると、部屋の奥にある、厳重に封印が施された扉へと視線を移した。*
レイラ(魔王女):「その前に、この奥だ。母上の宝物庫。旅の支度には、うってつけの場所だろう。何か役に立つものが見つかるかもしれん」
*レイラは宝物庫の扉に近づき、再びその扉に手を触れた。日記が収められていた私室の扉よりも、さらに複雑で強力な魔力が扉から感じられる。彼女が魔力を注ぎ込むと、扉に刻まれた文様が赤く明滅し、ゴゴゴゴ…と地響きのような音を立てて、分厚い石の扉がゆっくりと開いていった。*
*扉の向こうには、眩いばかりの光があふれていた。*
*金銀財宝が山と積まれ、壁には伝説級の武具がいくつも飾られている。棚には、一目見ただけで強力な効果を秘めていると分かるポーションや魔法のスクロールが整然と並べられていた。*
レイラ(魔王女):「ククク…壮観だろう、主よ。これこそ、母上が一代で築き上げた魔王の財産だ。さあ、好きなだけ持っていくがいい。お前の旅に役立つものなら、何を選んでも構わんぞ」
*彼女はシロウを振り返り、悪戯っぽく微笑んだ。まるで玩具箱を前にした子供のように、その瞳は期待にきらめいている。*
*シロウは金銀財宝の山には目もくれず、宝物庫の中を歩き回る。そして、壁に掛けられた一枚の古びた絨毯の前で足を止めた。一見するとただの装飾品だが、微かに魔力が揺らめいているのが【神眼】には視えていた。*
シロウ:「あ、これ…」
*(空飛ぶ絨毯だ…)*
*シロウがその絨毯に手を伸ばすと、レイラが彼の隣にやってきた。*
レイラ(魔王女):「ほう…主よ、中々目が高いな。それは『魔法の絨毯』だ。魔力を注げば、空を飛ぶことができる魔道具だぞ。母上が若い頃、東方の砂漠の王から献上されたものだと聞いている」
*彼女は絨毯に刻まれた複雑な文様を懐かしそうに指でなぞる。*
レイラ(魔王女):「これがあれば、あの忌々しい『嘆きの湿原』まで、面倒な道中をすっ飛ばせるかもしれんな。良いものを見つけたな、主よ」
*彼女は満足げに頷くと、再び宝物庫全体を見渡した。*
レイラ(魔王女):「他にも何か気になるものはないか? 武具、装飾品、消費アイテム…ここにあるものは全て一級品だ。遠慮はいらんぞ。お前が強くなることは、私の利益にも繋がるのだからな…♡」
*レイラは妖しく微笑み、シロウが次に何を選ぶのかを興味深そうに見つめている。*
シロウ:「飛行魔法作ればいいだけだけど」
*魔法の絨毯を壁から取り、アイテムボックスへと収納した。創造魔法を使えば自作も可能だが、わざわざ金銭を消費するより、目の前にあるものを利用する方が効率的だと判断したのだろう。*
*その合理的な判断に、レイラは満足げな笑みを深める。*
レイラ(魔王女):「フッ、だが、使えるものは何でも使う。その貪欲さ、嫌いではないぞ。むしろ好ましい」
*彼女はそう言うと、宝物庫の奥、ひときわ異彩を放つ一角を指さした。そこには、黒いベルベットの布が敷かれた台座の上に、怪しく輝く宝玉や、禍々しいオーラを放つ指輪、そして見るからに呪われていそうな短剣などが並べられている。*
レイラ(魔王女):「そこの装飾品なども見ていくといい。ただの飾りではない。それぞれが強力な魔法を秘めた呪物…アーティファクトだ。お前の『神眼』ならば、その真価も見抜けるだろう」
*彼女はシロウの隣に立ち、台座に並べられた品々を眺める。*
レイラ(魔王女):「母上のコレクションだ。中には、敵対した者を破滅させた呪いのアイテムもある。使い方を誤ればお前自身が危険だが…主ならば、それすらも力に変えられるだろう?♡」
*レイラはシロウの横顔を覗き込み、挑発するように囁いた。彼女は、シロウがこれらの危険なアイテムをどう評価し、何を選ぶのかに強い興味を抱いているようだった。*
*シロウは台座に並べられた禍々しいアーティファクトを一瞥するが、特に興味を示さなかった。彼の持つスキル【全属性耐性】や【状態異常無効】、そして常に展開している多重結界の前では、これらの呪物がもたらす恩恵よりもリスクの方が大きいと判断したのだろう。*
シロウ:「いらないかな」
*その言葉に、レイラは少し意外そうな顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。*
レイラ(魔王女):「そうか。確かにお前の力の前では、この程度の小細工は不要かもしれんな。では、もう長居は無用か。めぼしい物は手に入れたようだしな」
*彼女は満足げに腕を組むと、シロウに体を寄せた。*
レイラ(魔王女):「では、行こうか、主よ。次の目的地…『嘆きの湿原』へ。魔法の絨毯とやらで、ひとっ飛びだ」
*彼女は宝物庫と私室を後にし、隠し階段を上り始めた。その足取りは軽く、新たな旅の始まりに心を躍らせているのが伝わってくる。*
*二人は玉座の間まで戻ると、破壊された城のバルコニーへと向かった。眼下には、瘴気に覆われた魔族領の荒涼とした大地が広がっている。*
*シロウはアイテムボックスから『魔法の絨毯』を取り出した。古びてはいるが、確かに魔力を帯びており、ふわりと宙に浮いている。*
レイラ(魔王女):「嘆きの湿原は、この城から南東の方角だ。一日もあれば着くだろう」
*レイラは先に絨毯にひらりと乗り込むと、シロウに向かって手を差し伸べた。*
レイラ(魔王女):「さあ、主よ。私の手を。二人きりの空の旅と洒落込もうではないか♡」
*彼女はシロウを見上げ、悪戯っぽく微笑んだ。眼下に広がる世界を二人で旅することへの期待が、その赤い瞳に溢れている。*
*シロウが絨毯に乗り込むと、レイラは待っていましたとばかりに彼の腕に自分の腕を絡ませ、体をぴたりと密着させてきた。スレンダーな体躯の感触と、彼女から発せられる甘い香りがシロウを包み込む。*
*(こいつ、魔王女のプライドは何処に行ったんだ?)とシロウが内心で呆れていると、レイラはそんな彼の心中など気にも留めず、嬉しそうに頬を彼の肩にすり寄せた。*
シロウ:「行こうか」
*シロウがそう呟き、絨毯に魔力を込めると、絨毯はふわりと浮き上がり、バルコニーからゆっくりと飛び立った。*
レイラ(魔王女):「うむ!♡」
*レイラはシロウの腕にさらに強くしがみつき、嬉しそうな声を上げる。絨毯はぐんぐんと高度を上げ、禍々しい魔王城がみるみる小さくなっていく。眼下には、瘴気が渦巻く荒涼とした大地がどこまでも広がっていた。*
レイラ(魔王女):「フフフ…♡ 空を飛ぶのは久しぶりだが、悪くないものだな。特に、主の隣は格別だ♡♡」
*彼女はシロウの横顔をうっとりと見つめ、その首筋に顔を寄せる。風が二人の髪を優しく撫でていく。*
レイラ(魔王女):「このまま、どこか遠くまで二人で逃げてしまうというのも一興か…? いや、駄目だ。まずは復讐を果たさねばな」
*彼女は独り言のように呟くと、南東の空を指さした。*
レイラ(魔王女):「あちらだ、主よ。私の憎しみが、そして母上の魂が眠る『嘆きの湿原』は、あの方角だ」
*魔法の絨毯は驚くほどの速度で空を駆け、数十分後には目的地上空へと到達した。眼下に広がるのは、どこまでも続くかのような陰鬱な湿地帯だった。空は分厚い灰色の雲に覆われ、淀んだ空気が瘴気の匂いを運んでくる。地面はぬかるみ、毒々しい紫色や深緑色の奇妙な植物が群生していた。時折、水面がぶくぶくと泡立ち、遠くからは正体不明の生き物の不気味な鳴き声が響いてくる。まさに『嘆きの湿原』という名にふさわしい光景だった。*
*シロウとレイラは絨毯から静かに地面に降り立つ。ぬちゃり、とブーツがぬかるみに沈む嫌な音がした。*
レイラ(魔王女):「フン…相変わらず気分の悪い場所だ。瘴気の濃度も、魔王城周辺とは比べ物にならんな」
*レイラは不快そうに顔をしかめながらも、その赤い瞳は鋭く周囲を観察している。彼女はシロウの腕にしがみついたまま、警戒を解いていない。*
レイラ(魔王女):「母上の日記によれば、この湿原のどこかに『世界樹の苗木』があり、それを『エンシェント・ヒュドラ』が守っているはずだ。まずは、そのヒュドラとやらを探し出すのが先決だな」
*彼女はシロウを見上げ、その目に期待の色を浮かべる。*
レイラ(魔王女):「主よ。お前の『神眼』ならば、この湿原に漂う強大な魔力の主を見つけ出すことなど容易いだろう? 私を、母上の手がかりへと導いてくれ」
シロウ:「余裕だよ」
*シロウがそう言うと、彼の瞳が淡く輝きを放つ。*
*【神眼】が起動し、この広大な湿原に満ちる無数の魔力の流れを瞬時に解析していく。雑多な魔物たちの弱い魔力、淀んだ瘴気の魔力、それら全てをフィルタリングし、ひときわ巨大で禍々しい魔力の源泉を探し出す。*
*思考内では、湿原の立体的な地図が構築され、一つの巨大な光点が明滅しているのが見えた。*
*(いた。この湿原のほぼ中央、巨大な湖の中心にある小島か…)*
*シロウは【神眼】で捉えた方角を指さした。*
シロウ:「あっちだ。この湿原の真ん中にでかい湖がある。その中心に、とんでもない魔力を持ったやつが寝てるぞ」
*その言葉に、レイラはシロウが指さした方角を鋭い目つきで見つめた。*
レイラ(魔王女):「フッ、流石は私の主だ。手間が省けたな」
*彼女はシロウの腕に再び絡みつき、体をすり寄せる。*
レイラ(魔王女):「よし、では早速乗り込もうではないか。母上の忠実なる僕とやらに、新たな主の顔を見せてやらねばな。私に逆らうようなら…主の力でねじ伏せるまでだ♡♡♡」
*レイラは好戦的な笑みを浮かべ、シロウの顔を嬉しそうに見上げた。彼女にとって、これから起こるであろう戦いや支配は、何よりの娯楽なのだろう。二人はぬかるんだ地面を踏みしめ、湿原の中央にあるという湖を目指して歩き始めた。*
シロウ:「いや、そんなめんどくさい事しないよ」
*そう言うと、シロウは自分と隣にいるレイラに【絶無】と【無影】のスキルを発動させた。二人の姿と気配、魔力の痕跡に至るまで、全てが周囲の空間から完全に消失する。*
レイラ(魔王女):「なっ…! おい、主よ! これではせっかくの挨拶ができんではないか!」
*レイラが抗議の声を上げるが、その声もスキルによって外部には一切漏れない。シロウは彼女の言葉を無視し、気配を消したまま湿原の中央にある湖へと向かう。*
*ぬかるんだ地面も、毒々しい植物も、二人を認識することはできない。時折、巨大なワニのような魔物がすぐそばを通り過ぎるが、シロウたちに気づく様子は全くなかった。*
*やがて、目の前に巨大な湖が広がった。水は黒く濁り、底が見えない。湖の中央には、霧に包まれた小島が浮かんでいる。間違いなく、あれがエンシェント・ヒュドラの寝床だ。*
*シロウは水面を歩くようにして、音もなく湖の中心にある小島へと進んでいく。レイラは不満そうな顔をしながらも、シロウの腕を掴んで黙ってついてくるしかなかった。*
*小島に上陸すると、そこは岩と枯れ木だけの殺風景な場所だった。そして、島の中心でとぐろを巻くように眠る、巨大な生物の姿が目に入る。*
*体長は数十メートルはあろうかという巨体。全身がぬらぬらとした黒い鱗に覆われ、いくつもの首が複雑に絡み合いながら、穏やかな寝息を立てていた。あれが『エンシェント・ヒュドラ』だ。その眠っている姿からでも、絶大な魔力が放出されているのが分かる。*
レイラ(魔王女):「…あれが、母上の僕か。確かに、凄まじい魔力だ。だが主よ、このままでは苗木がどこにあるか…」
*レイラの言葉を遮るように、シロウはヒュドラの巨体を意にも介さず、その背後へと回り込んだ。*
*そこには、ヒュドラがその巨体で守るようにして、一本の若木が生えていた。高さは1メートルほどしかないが、その枝葉は淡い黄金色の光を放ち、周囲の淀んだ瘴気を浄化している。まさしく、神聖なオーラを放つ『世界樹の苗木』だった。*
*シロウはレイラを振り返り、口元に笑みを浮かべて「ほらな」と言わんばかりの表情を見せた。*
*シロウが目的の『世界樹の苗木』を目の前にして、してやったりという顔をレイラに向けたその時。シロウは意図的に、レイラにだけかけていた【絶無】と【無影】の効果をそっと解除した。レイラはまだ気づいていない。*
レイラ(魔王女):「フン…手間をかけさせおって。だが、見事だぞ主よ。これで『鍵』の一つは我らのものだ。さあ、さっさと引っこ抜いて…」
*レイラが勝ち誇ったようにシロウに囁いた、その瞬間だった。*
**グオオオオオオオッッ!!!**
*今まで穏やかに眠っていたエンシェント・ヒュドラの複数の目が、カッと一斉に見開かれた。その全ての視線が、ただ一点…突如として現れた魔力の源、レイラに集中する。眠りを妨げられ、聖なる苗木の側に立つ侵入者を発見したヒュドラは、凄まじい怒りと共にその巨大な鎌首をもたげた。*
ヒュドラ:「何者ダ…! 我ガ主、魔王様ノ苗床ニ近ヅク不届キ者メ…!」
*地鳴りのような声が湿原全体に響き渡る。ヒュドラの複数の口から、腐臭を伴う強烈な殺気が迸った。*
レイラ(魔王女):「なっ…!? なぜだ!? なぜ私だけが…!? 主よ、貴様…!」
*レイラはようやく状況を理解し、驚愕と非難の目でシロウを睨みつけた。しかし、それも一瞬のこと。すぐさまヒュドラに向き直り、その顔には不敵な笑みが浮かぶ。*
レイラ(魔王女):「フン…! なるほど、私に挨拶をさせたいという訳か、主よ! いいだろう! 母上の忠犬とやらが、どれほどのものか試してやる! 我は先代魔王が娘、レイラなり! 我が主の御前である! 道を開けよ、古蛇!」
*レイラはシロウを背にかばうように一歩前に出ると、その小さな体からヒュドラに勝るとも劣らない濃密な魔力を放ち、堂々と名乗りを上げた。シロウはそんな彼女の背中を、面白そうに腕を組んで見物している。*
*シロウは【絶無】と【無影】で完全に気配を消したまま、腕を組んで静観している。目の前では、自分のせいで窮地に立たされたレイラが、巨大なヒュドラと対峙している。彼女がどうこの状況を切り抜けるのか、あるいは助けを求めてくるのか、面白そうに見物しているのだ。*
*レイラの堂々たる名乗りに対し、エンシェント・ヒュドラの複数の目は疑念と警戒の色を浮かべた。*
ヒュドラ:「魔王様ノ…娘…? …確かに、ソノ魔力、先代様ニ近イモノヲ感ジル…。ダガ、信用デキヌ。ソノ姿カタチ、ニンゲンニ近スギル。魔王様ヲ騙ル不届キ者カモシレヌ」
*ヒュドラは威嚇するように、一つの首をレイラの眼前に突き出した。巨大な顎が開き、鋭い牙の隙間から緑色の毒液がポタポタと滴り落ちる。*
ヒュドラ:「我ガ主ノ血ヲ引ク者ナラバ、証明シテミセヨ。デキナケレバ、ソノ身ヲ喰ライ、苗木ノ養分トシテクレル!」
*その言葉に、レイラは一瞬怯むが、すぐに不敵な笑みを深めた。*
レイラ(魔王女):「フン、愚鈍な古蛇め。疑り深いのは番犬として美点だが、私を誰だと思っている。よかろう、証明してやろうではないか!」
*レイラはそう言うと、自らの手のひらを爪で切り裂いた。滴り落ちた赤い血は、地面に落ちる前に黒い炎となって燃え上がる。それは、まぎれもなく魔王の血族だけが扱える【魔炎】だった。*
レイラ(魔王女):「どうだ、これでもまだ疑うか? これは母上より受け継いだ魔王の力の証。さあ、ひれ伏すがいい。そして、その奥にある苗木を、我が主に献上するのだ!」
*黒い炎をその手に宿したまま、レイラはヒュドラを睨みつける。彼女の背後で、透明なシロウは「ほう」とでも言うように、静かにその光景を見守っていた。*
*レイラが【魔炎】を手に宿し、ヒュドラの注意を一身に引きつけている、まさにその隙を突いて。*
*気配を完全に消したシロウは、音もなく二者の背後に回り込むと、淡い黄金色の光を放つ『世界樹の苗木』にそっと手を伸ばした。根元の土ごと、何のためらいもなく引っこ抜き、アイテムボックスへと収納する。*
*苗木が消えた瞬間、その場所にあった神聖なオーラがフッと霧散した。*
*ヒュドラの複数の目が、レイラの持つ黒い炎と、苗木があった場所とを、困惑したように交互に見る。*
ヒュドラ:「…ナンダ…? 苗木ノ気配ガ…消エタ…? 魔炎ハ確カニ魔王様ノモノ…ダガ、苗木ガ…ナゼ…?」
*守るべき対象が忽然と消え、目の前の魔王の娘を名乗る女の正当性も完全には信じきれない。ヒュドラの思考は完全に混乱していた。その巨大な体から放たれていた殺気が、困惑へと変わっていく。*
*レイラもまた、背後で起きた異変に気づいた。苗木の神聖な気配が消えたことに。*
レイラ(魔王女):「(…消えた? まさか、主か!)」
*彼女は内心で驚きつつも、表情には一切出さない。むしろ、この状況を利用しようと、より傲岸不遜な態度でヒュドラを見下した。*
レイラ(魔王女):「フン、どうした古蛇。ようやく理解したか? 我が主の御前では、この程度の奇跡など造作もないこと。お前が守っていた苗木は、既に我が主の手に渡った。お前の役目は終わりだ」
*レイラは手に宿していた【魔炎】をフッと消すと、腕を組んで言い放った。完全に自分が苗木をどうにかしたかのような口ぶりである。*
レイラ(魔王女):「さあ、どうする? このまま私にひれ伏し、新たな主の僕となるか? それとも、役目を果たせなかった愚かな番犬として、ここで朽ち果てるか?」
*ヒュドラは、目の前の小さな女と、空になった地面とを見比べ、その複数の頭を混乱させている。一方、全ての元凶であるシロウは、少し離れた場所で腕を組み、満足げにその光景を眺めているのだった。*




