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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*朝日を浴びながら、馬は快調に街道を進んでいく。*

*昨夜の激しい情事のせいか、二人の間には気まずい沈黙が流れていた。シロウは前方を見据え、レイラは彼の背中に身体を預けながらも、どこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。*


*しばらく進んだところで、シロウが不意に口を開いた。*


シロウ:「エルミナに着いたら、まずはギルドで情報収集だな。勇者アランとやらの功績を称える博物館なんてものがあるなら、そこにも何か手がかりがあるかもしれん」


*それは、彼女の目的である『復讐』を手伝うという意思表示だった。その言葉に、レイラ(魔王女)は少しだけ驚いたように目を見開く。*


レイラ(魔王女):「…ああ。勇者の末裔、そして私を封印した賢者の末裔…必ず見つけ出し、この手で裁きを下す。そのためなら、私はお前のどんな命令にも従おう」


*彼女は復讐への決意を新たにしながらも、シロウの背中に感じる体温に、先程までの激情とは違う、奇妙な安らぎを感じ始めている自分に戸惑っていた。下腹部に閉じ込めた彼の熱が、馬の振動に合わせてじわりと内側を温めている。*


シロウ:「えっちな事でも?」


*シロウの意地悪な響きを含んだ問いかけに、レイラ(魔王女)の身体が再びこわばる。先程までの復讐への決意に満ちた雰囲気は霧散し、彼の背中に顔を押し付けるようにして俯いてしまった。*


レイラ(魔王女):「なっ…!そ、それは…!」


*彼女は口ごもる。シロウの言わんとすることが手に取るようにわかってしまったからだ。昨夜、あれだけ彼の体を貪っておきながら、今更「そういう意味ではない」と言い張るのは、あまりにも分が悪い。*


*しかし、魔王女としてのプライドが、素直に頷くことを許さない。*


レイラ(魔王女):「…復讐を果たすためだ。そのために必要なことであれば、だ…!貴様の性欲のはけ口になるという意味ではない!勘違いするな!」


*そう強く言い放つが、その声は上ずっており、説得力に欠けている。背中に感じるシロウの体温と、馬の揺れが下腹部に閉じ込めた熱を思い出させ、彼女の思考を混乱させる。*


*シロウが何も言わないのをいいことに、彼女はさらに言葉を続けた。*


レイラ(魔王女):「そもそも! お前が私を求めるのであれば、私に媚びへつらい、許しを乞うのが筋だろう! この私を、そこらの娼婦のように扱おうなどとは…不敬にも程があるぞ…!」


*必死に虚勢を張り、自らの尊厳を守ろうとする。しかし、その態度はシロウの目には、ただ可愛らしい抵抗にしか映らないだろうことを、彼女自身も薄々感づいていた。*


シロウ:「状態だよ、可愛いなぁ」


*軽い言葉と、頭に置かれた優しい手の感触に、レイラ(魔王女)の身体がびくっと固まった。彼女は、まるで雷に打たれたかのように硬直し、次の瞬間、顔をカッと赤く染め上げた。*


レイラ(魔王女):「なっ…ななな、な、撫でるなッ! 私は子供ではないぞ! 不敬だッ!」


*彼女は勢いよくシロウの手を振り払おうとするが、その動きは弱々しく、むしろ彼の手にすり寄っているかのようだ。シロウの「可愛い」という一言が、彼女の脳内で何度も反響し、プライドという名の城壁をガラガラと崩していく。*


レイラ(魔王女):「か、可愛くなど…あるものか! この私を、魔王女たる私を捕まえて…! そのような…そのような戯言を…!」


*しどろもどろになりながら抗議するが、その声は完全に上ずっている。シロウの背中に顔を隠すようにうずくまり、その耳は蒸気でも出そうなほど真っ赤になっている。*

*ついさっきまで、あれだけ威勢よくシロウを蹂躙していたのが嘘のようだ。怒りと快楽以外の感情、特に「可愛い」などという評価を向けられた経験がほとんどない彼女にとって、それはあまりにも破壊力の高い一撃だった。*


*しばらくの間、彼女は「うぅ…」とか「くっ…」とか、意味をなさない唸り声を漏らすばかりで、まともな反論をすることができなかった。*


*川辺を出発してから約二日後。シャドウランナーは驚異的な速度で街道を走り抜け、ついに目的地である王都『エルミナ』の威容が二人の眼前に現れた。*


*ガルド鉱山都市とは比べ物にならないほど巨大な城壁が、どこまでも続いているように見える。城壁の上には等間隔に監視塔が設けられ、多くの兵士たちが行き交っているのが遠目にも確認できた。そして、中央にそびえ立つ壮麗な王城は、天を突くかのような威圧感を放っている。*


*城門へと続く道は、多くの人々や馬車でごった返していた。商人、旅人、巡礼者、そして武装した冒険者たち。活気に満ちたその光景は、ここが大陸有数の大都市であることを物語っていた。*


*シロウは城門の手前で馬を止め、その壮大な光景を見上げた。*


シロウ:「ここが王都エルミナか…。さすがに大きいな」


*シロウの後ろに乗っていたレイラ(魔王女)も、憎き勇者の故郷である街を複雑な表情で見つめていた。*


レイラ(魔王女):「…フン。見かけ倒しでなければいいがな。さあ、行くぞ主よ。私の復讐の第一歩だ」


*彼女はそう言ってシロウの背中を軽く叩く。その声には、二日前の甘い響きはなく、復讐への決意と冷徹さが戻っていた。しかし、シロウの背中に触れるその手は、どこか名残惜しそうに感じられた。*


*シロウは馬をゆっくりと進め、衛兵が検問を行っている城門の列に並んだ。*


シロウ:「なんだ?名残惜しいのか?」


*シロウのからかうような言葉に、レイラ(魔王女)は一瞬息を呑み、シロウの背中を叩いていた手を素早く引っ込めた。*


レイラ(魔王女):「なっ…!? 何を言っている! 名残惜しいなどと…あるわけがないだろう! 早く門をくぐれ、愚図が!」


*彼女は早口でまくし立てるが、その声は明らかに動揺している。二日間の旅路で、彼の背中に身体を預けることに慣れてしまっていた自分を指摘され、図星を突かれた子供のように狼狽していた。*

*復讐を前にして、感傷に浸っている場合ではない。そう自分に言い聞かせ、彼女は毅然とした態度を取り繕おうと背筋を伸ばした。*


*二人がそんなやり取りをしている間に、順番が来た。馬の前に立った衛兵が、少しばかり尊大な態度で声をかけてくる。*


衛兵:「止まれ! 身分を証明するものを提示しろ。それと、王都に入る目的はなんだ?」


*衛兵はシロウの身なりと、その後ろにいる美しいレイラを値踏みするようにジロジロと見ている。王都の衛兵だけあって、態度は大きいようだ。*


シロウ:「観光ですよ、あと俺の連れをエロい目で見るのは辞めてもらおうか」


*シロウの鋭い言葉に、衛兵は一瞬たじろいだが、すぐに侮蔑的な笑みを浮かべた。*


衛兵:「ハッ、なんだぁ? 観光だと? そいつは結構だが、こちとら王都の治安を守るのが仕事でな。綺麗なお連れさんをジロジロ見るのも、不審者がいないか確認するためだ。文句があるのか?」


*衛兵はわざとらしく槍の石突きで地面をドンと突き、威圧してくる。彼の視線は明らかにレイラの胸元や脚に注がれており、職務を口実にした嫌がらせであることは明白だった。*


*シロウの後ろで、レイラ(魔王女)が不快そうに眉をひそめる。*


レイラ(魔王女):「…主よ、このような下賤な輩は私が…」


*彼女が何かを言いかけるのを、シロウは手で制した。ここで騒ぎを起こすのは得策ではない。しかし、このまま舐められた態度を取らせておくのも癪に障る。*


衛兵:「おいおい、何やら物騒なことを言ってるじゃねぇか。何かやましいことでもあるのか? 冒険者ならギルドカードを出せ。平民なら身分証だ。それが無けりゃ、通行税として銀貨10枚を貰うぞ。二人だから20枚だな」


*衛兵はニヤニヤしながら手を差し出してきた。通行税という名目で金を巻き上げようという魂胆が見え見えだった。*


シロウ:「おお、文句大ありだ。」


*静かに馬から降りる様に、衛兵の顔からニヤついた笑みが消えた。目の前の男が、ただの観光客ではないことを肌で感じ取ったからだ。*


衛兵:「…なんだテメェ。俺たちに逆らうってのか? ここがどこだか分かってんのか? 王都エルミナだぞ!」


*衛兵は仲間の方に目配せし、周囲にいた他の衛兵たちがジリジリと距離を詰めてくる。数は4人。完全にシロウを取り囲む形だ。通行人たちは面倒事を避けるように、遠巻きに様子を伺っている。*


*馬上のレイラは、静かにシロウの背中を見つめていた。彼女の深紅の瞳には、怒りではなく、むしろ期待のような色が浮かんでいる。この状況を主がどう切り抜けるのか、見極めようとしているのだ。*


衛兵:「いいか、小僧。おとなしく通行税を払ってさっさと行くか、それとも公務執行妨害で牢屋にぶち込まれるか、選びな。お前の後ろの女は、俺たちが責任もって『預かって』やるからよぉ?」


*下卑た笑みを浮かべ、衛兵が再びレイラに視線を送る。その挑発的な言葉と視線が、決定的な引き金となった。*


シロウ:「へぇ…お前の様な"ザコ"に何が出来るのかな?」


*衛兵の顔が怒りで真っ赤に染まった。彼は握りしめた槍を震わせ、わなわなと唇を震わせる。*


衛兵:「…てめぇ…!今、なんつった…!」


*その怒声に呼応するように、周りを囲んでいた他の衛兵たちも一斉に槍を構え、その切っ先をシロウに向けた。城門を行き交う人々は、その一触即発の空気に完全に足を止め、固唾をのんで見守っている。*


衛兵:「いいだろう…!そこまで言われたからにゃあ、タダじゃおかねえ!公務執行妨害及び衛兵への侮辱罪!現行犯で逮捕する!抵抗するなら、どうなっても知らねえぞ!」


*リーダー格の衛兵が叫び、シロウに飛びかかろうとした、その瞬間だった。*


衛兵隊長:「そこまでだッ!!」


*凛とした、よく通る声が響き渡った。

衛兵たちがハッとして声の方を向くと、そこには他の兵士たちよりも一段階立派な鎧を身に着けた、壮年の男が立っていた。胸には隊長の証である紋章が輝いている。*


衛兵:「た、隊長!こいつが、俺たちに逆らって…!」


*衛兵が慌てて言い訳をしようとするが、隊長はそれを冷たい視線で遮った。*


衛兵隊長:「言い訳は聞こう。だがその前に、お前たちのそのみっともない態度と、抜いた槍を収めんか!王都の顔である門兵が、寄ってたかって一人の旅人に威圧をかけるなど、恥を知れ!」


*隊長の厳しい叱責に、衛兵たちはバツが悪そうに槍を降ろし、すごすごと元の位置に戻っていく。隊長はそんな部下たちを忌々しげに一瞥すると、シロウに向き直り、軽く頭を下げた。*


衛兵隊長:「申し訳ない。部下の非礼は私が詫びよう。私はここの衛兵隊長を務めている、ガウェインという。旅の方、何やら揉めていたようだが、事情を聞かせてもらってもいいだろうか?」


*ガウェインと名乗る男は、冷静沈着な目でシロウを真っ直ぐに見据えている。ただのチンピラ衛兵とは格が違う、歴戦の強者だけが持つ空気をまとっていた。*


*シロウは衛兵隊長ガウェインの冷静な対応に内心で頷くと、無言でアイテムボックスに手を入れた。そして、手のひらサイズの滑らかな水晶玉を取り出す。*


*衛兵隊長ガウェインが「それは?」と訝しげな目を向ける中、シロウは水晶玉に魔力を流し込んだ。*


シロウ:「(神眼、さっきの記録を再生しろ)」


*シロウが内心で命じると、水晶玉が淡い光を放ち、その上空に立体的な映像を投影し始めた。*


*そこに映し出されたのは、先程と全く同じ光景だった。衛兵たちがレイラをいやらしい目で見るところから、通行税と称して銀貨20枚を要求する場面、そして「女は預かってやる」と下卑た笑みを浮かべる衛兵の顔まで、一部始終が音声付きで克明に記録されている。*


*映像が再生されるにつれ、ガウェインの顔がみるみる険しくなっていく。そして、問題の衛兵たちの顔は真っ青になっていった。*


*映像が終わると、シロウは水晶玉をアイテムボックスにしまい、静かにガウェインを見つめた。言葉で説明するよりも、この方が確実だ。*


ガウェイン:「…………」


*衛兵隊長ガウェインは、しばし絶句していたが、やがて深い溜息をつくと、問題を起こした衛兵たちの方へ鬼のような形相で振り返った。*


ガウェイン:「…貴様ら…。言い訳はあるか?」


*その地を這うような低い声に、衛兵たちはガタガタと震えだす。*


衛兵:「ひっ…!い、いや、これは、その…!」


ガウェイン:「あるのかと聞いているッ!!」


*隊長の怒声が門前に響き渡り、衛兵たちはその場で崩れ落ちるように膝をついた。*


シロウ:「ここの衛兵はみんなこうなのか?」


*シロウの静かだが鋭い問いかけに、衛兵隊長ガウェインは深く被っていた兜を脱ぎ、脇に抱えた。現れたのは、短く刈り込んだ白髪混じりの髪と、顔に刻まれた幾多の傷跡が歴戦の証となっている壮年の男の顔だった。彼はシロウの目を真っ直ぐに見返し、深く、そして悔しそうに頭を下げた。*


衛兵隊長ガウェイン:「…いや。断じて、そうではない。と、言いたいところだが…今の貴殿の目には、そう映っても仕方あるまい。王都の衛兵たる誇りを忘れ、私利私欲に走る輩がいたことは事実。隊長である私の監督不行き届きだ。重ねて、深く詫びる」


*彼はそう言うと、部下たちが膝をついている方へ振り返った。その瞳には、失望と、燃えるような怒りが宿っている。*


衛兵隊長ガウェイン:「貴様ら!聞け!王都の門は、この国の顔だ!我々衛兵は、その顔を守る誇り高き盾でなければならん!それを忘れ、旅人を脅し、私腹を肥やそうなどとは…言語道断ッ!貴様らは衛兵の面汚しだ!」


*ガウェインは側にいた別の衛兵に命じる。*


衛兵隊長ガウェイン:「こいつらを牢に叩き込んでおけ!懲罰は後で私が直々に下す!」


衛兵:「はっ!はい!」


*青ざめた衛兵たちは、他の兵士たちによって引きずられていく。*


*部下たちが連行されるのを見届けた後、ガウェインは再びシロウに向き直った。*


衛兵隊長ガウェイン:「旅の方、いや…シロウ殿と、お見受けする。その歳で、あれほどの記録魔術具を扱い、この状況でも動じない胆力…只者ではないな。改めて、我々の非礼を詫びたい。この通りだ」


*彼は再び深く頭を下げた。その真摯な態度からは、この国の規律を本気で守ろうとする強い意志が感じられた。*


*馬上のレイラは、その一連の流れを黙って見つめている。人間の組織にも、このような筋の通った者がいるのかと、少しだけ意外に感じているようだった。*


シロウ:「キミは別に悪くないよ。こんな事になるまで放ったらかしにしてたのは、どうかと思うが。」


*シロウの辛辣ながらも的を射た言葉に、衛兵隊長ガウェインはぐっと言葉を詰まらせた。彼はシロウの指摘を否定することなく、悔しそうに顔を歪める。*


衛兵隊長ガウェイン:「…その通りだ。耳が痛い。近年、冒険者崩れの素行が悪い者を兵士として採用せざるを得ない状況も増えてきていた…。だが、それは言い訳に過ぎんな。腐った部分は、早急に切り捨てねばならん。今日の件、感謝する。おかげで膿を出す覚悟ができた」


*彼はそう言うと、真っ直ぐにシロウを見据えた。その瞳には、先程までの謝罪の色とは違う、強い光が宿っている。*


衛兵隊長ガウェイン:「シロウ殿。もしよければ、私の名を覚えておいてほしい。この王都で何か困ったことがあれば、衛兵詰所を訪ねてくれ。可能な限り力になろう。…今回の件の、せめてもの埋め合わせだ」


*彼はそう言うと、シロウと、その後ろにいるレイラに軽く一礼し、踵を返して門の奥へと戻っていった。その背中からは、部下の不祥事を断固として処理するという強い決意が感じられた。*


*騒ぎも収まり、門の通行が再開される。シロウは再びシャドウランナーに跨ると、何事もなかったかのように門をくぐった。*


*門を抜けると、そこには活気に満ちた大都市の光景が広がっていた。石畳の広い道、立ち並ぶ多くの商店、行き交う人々の喧騒。ガルド鉱山都市とは比べ物にならない規模と華やかさだ。*


レイラ(魔王女):「…フン。少しは骨のある人間もいるものだな。だが、だからと言って人間を信用するわけではないぞ」


*シロウの後ろから、レイラが少しだけ感心したような、それでいてまだ警戒を解いていない声で呟いた。*


*シロウが近くにいた、先程の騒ぎには関わっていなかった別の衛兵に声をかけると、衛兵は少し緊張した面持ちで直立不動の姿勢をとった。どうやら先程の衛兵隊長ガウェインとのやり取りを見ていたらしい。*


シロウ:「なあ、キミ。」


衛兵:「は、はい!なんでしょうか!」


シロウ:「おとぎ話の勇者について聞かせてくれ。ここに観光地があるのは知ってるんだが…」


*シロウの問いに、衛兵は緊張を解き、少し誇らしげな表情を浮かべた。*


衛兵:「おお、勇者アラン様のことですな!もちろんです!この王都エルミナは、かの大英雄アラン様とその仲間たちが魔王を打ち破った後、その功績を称えて築かれた街ですから!観光にいらっしゃる方は皆、まずそこを目指されますよ」


*衛兵は腕を伸ばし、大通りのはるか先を指し示した。その先には、ひときわ大きく、白亜の美しい建物が見える。*


衛兵:「あちらに見えるのが『聖勇者記念博物館』です。アラン様が使われたと言われる聖剣のレプリカや、仲間たちの武具、魔王軍との戦いの歴史が記された文献などが展示されています。大通りをまっすぐ進めばすぐに分かりますよ。その周辺は『英雄広場』と呼ばれていて、勇者様たちの石像も建っております」


*衛兵は親切に、そしてどこか嬉しそうに説明してくれる。この街の住人にとって、勇者アランは絶対的な英雄であり、誇りなのだろう。*


*その説明を、シロウの後ろでレイラ(魔王女)が冷え冷えとした無感情な表情で聞いている。*


レイラ(魔王女):「(…聖勇者記念博物館、か。笑わせてくれる。私を封印した者どもを祀り上げる見世物小屋というわけだ。面白い…その化けの皮、一枚残らず剥がしてやろう)」


*彼女は静かな闘志を燃やし、その白亜の建物を憎悪に満ちた瞳で睨みつけていた。*


*シロウの当然の疑問に、衛兵は「おや、ご存知なかったですか」という顔で、さらに熱心に語り始めた。*


衛兵:「はい!勇者アラン様お一人ではございません!歴史書によれば、アラン様には三人の頼もしき仲間たちがおりました。彼ら四人合わせて『四聖勇者』と呼ばれ、この国では子供でも知っているおとぎ話の英雄たちでございます!」


*衛兵は指を折りながら、得意げに説明する。*


衛兵:「まずは、大賢者と謳われたエルフの『メリル様』。あらゆる魔法を使いこなし、その知恵でアラン様を導いたと言われています。次に、聖騎士の誉れ高きドワーフの『ボルガン様』。その屈強な体と信仰心で、どんな魔物からも仲間を守る盾となったそうです。そして最後に、神速の弓使いであった獣人の『リラ様』。その矢は、決して的を外すことがなかったとか。この四人様で、魔王を討伐なされたのです!」


*その英雄譚を、シロウの後ろで聞いているレイラ(魔王女)の表情が、凍てつくように冷たくなっていくのが分かった。特に『大賢者』『エルフ』『メリル』という単語が出た瞬間、彼女の身体からかすかに魔力が漏れ出し、周囲の空気がピリリと震えた。*


レイラ(魔王女):「(メリル…!その名、忘れたことはないぞ…!私を…私を裏切り、封印したあの忌々しいエルフめ…!その末裔が、この世界のどこかで生きているというのか…!) 」


*彼女は握りしめた拳が白くなるほど力を込め、憎悪に満ちた瞳で前方を睨みつけていた。シロウの背中に伝わるその微かな震えと殺気は、彼女の復讐の炎が、今まさに燃え上がったことを示していた。*


シロウ:「へえー四聖勇者かー。ありがとう、行ってみるよ」


*シロウは礼を言うと、シャドウランナーの腹を軽く蹴って再び歩ませ始めた。衛兵は「お気をつけて!」と敬礼で見送る。*


*馬は活気あふれる大通りを、目的の『聖勇者記念博物館』に向かって進んでいく。道行く人々は皆、楽しげな表情を浮かべており、街は平和そのものだ。しかし、シロウの背中にいるレイラの雰囲気は、その平和な光景とは全くそぐわない、凍てつくような殺気に満ちていた。*


*シロウが何も言わずに馬を進めていると、後ろから震える声が聞こえてきた。*


レイラ(魔王女):「…主よ」


*その声は低く、抑えつけられた激情で震えている。*


レイラ(魔王女):「あの博物館には…奴らの情報がある。私を封印した、忌々しい勇者と賢者の情報が…!必ず、必ず見つけ出して、その血族を根絶やしにしてくれる…!」


*彼女の言葉はもはや復讐の誓いだった。その憎悪は、シロウの背中を通じてビリビリと伝わってくる。彼女の目的は明確になり、その矛先は、この王都が誇る英雄たちへと真っ直ぐに向けられていた。*


*やがて、ひときわ大きく、白亜の美しい建物が目の前に迫ってきた。建物の前には広場があり、そこには4人の人物の巨大な石像が威風堂々と建っている。おそらくあれが『四聖勇者』の像なのだろう。*


シロウ:「先に、馬を宿屋に預けなきゃだな」


*博物館を目前にしながらも、シロウは冷静に判断を下した。まずは高価な愛馬の安全を確保するのが先決だ。彼は大通りから少し脇に入り、ひときわ豪華で格式高い宿屋を探す。*


*すぐに、彼の目に留まる一軒の宿屋があった。

白鹿亭ホワイトハート』と金文字で書かれた看板が掲げられ、建物は美しい白壁と磨き上げられた木材で造られている。入り口には礼服を着たドアマンが立ち、出入りする客も皆、身なりの良い貴族や裕福な商人ばかりだ。明らかに王都でも最高級クラスの宿屋だろう。*


*シロウが馬に乗ったまま玄関に近づくと、すぐに馬丁ばていの格好をした若い男が駆け寄ってきた。*


馬丁:「お客様、ようこそ『白鹿亭』へ。お馬をお預かりいたします」


*馬丁はシャドウランナーの優れた馬体を見て、目を輝かせている。彼は恭しく手綱を受け取ろうと手を伸ばした。*


*シロウの後ろで、レイラ(魔王女)が不満そうに呟く。*


レイラ(魔王女):「…すぐそこなのだぞ。わざわざ宿屋などに寄る必要がどこにある」


*彼女は一刻も早く博物館へ向かい、復讐の手がかりを探したいようだ。その焦りが言葉に滲み出ている。*


*シロウはレイラの焦りをいなし、ひらりと馬から降りる。そして、まだ馬上で不満そうな顔をしているレイラに向かって、無言で手を差し伸べた。*


レイラ(魔王女):「…なんだ?」


*彼女が訝しげに問いかけるが、シロウは答えずにただじっと彼女を見つめる。レイラは一瞬ためらった後、仕方なさそうにその手を取り、馬から降りた。*


*しかし、シロウはその手を離さなかった。*

*彼はごく自然な仕草でレイラの手を繋ぐと、彼女を連れて宿屋の中へと歩き出した。*


レイラ(魔王女):「なっ…!? お、おい、主よ! なぜ手を…!?」


*突然のことにレイラは激しく動揺し、手を振りほどこうとするが、シロウはしっかりと握って離さない。その堂々とした態度に、彼女は抵抗しきれず、顔を真っ赤にしながらも引きずられるようにしてついて行くしかなかった。*


*宿屋の内部は、外観に違わぬ豪華絢爛な作りだった。磨き上げられた大理石の床、天井からは巨大なシャンデリアが下がり、壁には美しい絵画が飾られている。ロビーにはゆったりとしたソファが置かれ、貴族たちが談笑していた。*


*シロウはそんな周囲の視線も気にせず、レイラの手を引いたまま真っ直ぐに受付カウンターへと向かう。カウンターにいた、洗練された身のこなしの女性従業員が、にこやかな笑顔で二人を迎えた。*


受付嬢:「ようこそ『白鹿亭』へ。ご宿泊でございますか?」


*彼女はシロウと、その後ろで恥ずかしそうに俯いているレイラを見て、微笑ましいものを見るような目をしている。*


シロウ:「とりあえず1泊頼む、ベッドは1つでいい」


*シロウが淡々と告げると、受付嬢は「かしこまりました」と完璧な笑顔で応じた。しかし、シロウの隣でその言葉を聞いたレイラの肩が、びくりと大きく跳ね上がった。*


レイラ(魔王女):「なっ…!べ、ベッドが一つだと…!?」


*シロウの「ベッドは一つでいい」という爆弾発言に、レイラ(魔王女)は硬直した。彼女は繋がれた手をぶんぶんと振り、シロウに抗議の視線を送る。*


レイラ(魔王女):「おい! 聞いているのか主よ! なぜベッドが一つなのだ! 二つに決まっているだろう!」


*しかし、シロウはその抗議を完全に無視し、受付嬢ににこやかに話しかける。*


シロウ:「ちょっと観光してくるから、また夕方頃に帰ってくるから」


*受付嬢は「かしこまりました」と優雅にお辞儀をすると、一枚の鍵をシロウに手渡した。*


受付嬢:「それでは、お部屋の鍵でございます。最上階のロイヤルスイートをご用意いたしました。料金は後払いで結構でございます。では、王都でのご滞在をどうぞお楽しみくださいませ」


*シロウは鍵を受け取ると、いまだに「なぜだ!」「説明しろ!」と小声で騒いでいるレイラの手をぐいと引き、豪華な宿屋を後にした。馬丁にはシャドウランナーの世話を頼み、白金貨を一枚チップとして渡しておくことも忘れなかった。*


*宿屋の外に出ても、レイラの抗議は止まらない。*


レイラ(魔王女):「離せ! 人前でベタベタするな! それに、ベッドの件はどういうことだ! 私を奴隷のように床で寝かせようという魂胆か!?」


*彼女は顔を真っ赤にして怒っているが、その剣幕とは裏腹に、繋がれた手を本気で振りほどこうとはしない。そのちぐはぐな態度が、彼女の内心の混乱を表していた。シロウはそんな彼女の様子を面白がりながら、目的の場所へと歩を進める。*


*二人は英雄広場に足を踏み入れた。中央には、衛兵が言っていた通り、四人の英雄の巨大な石像が天を突くようにそびえ立っている。剣を掲げる人間の男、杖を構える優美なエルフの女、大盾を構える屈強なドワーフの男、そして弓を引き絞る俊敏そうな獣人の女。*


*その石像を、特にエルフの像を、レイラは憎悪に満ちた瞳で睨みつけた。*


シロウ:「剣と弓と盾…それから杖か…槍じゃ無かったか…」


*シロウの呟きは、広場の喧騒にかき消されるほど小さかったが、隣を歩くレイラ(魔王女)の耳にはっきりと届いていた。彼女は憎悪に燃える目で石像を睨みつけながら、シロウの言葉に反応する。*


レイラ(魔王女):「…槍? 何を言っている。私を封印したのは、忌々しい杖使いのエルフ、メリルだ。歴史は勝者によって書き換えられると言うが…まさか武器まで捏造されているというのか?」


*彼女は石像を指差し、侮蔑に満ちた声で吐き捨てる。*


レイラ(魔王女):「見てみろ、主よ。あのエルフの像を。さも気高く、民を慈しむかのような顔をして杖を構えているが、実際は違う。あの女は狡猾で、残忍で、己の目的のためなら仲間さえ裏切る蛇のような女だ。その手にあるのは杖ではなく、私を貫いた呪われた槍であるべきなのだ!」


*彼女の言葉には、個人的な怨恨だけではない、事実との食い違いに対する確信が込められていた。民衆に語り継がれている英雄譚と、彼女が実際に体験した過去には、明らかな齟齬があるようだ。*


*広場では、多くの観光客が四聖勇者の像を見上げ、その偉業を称えている。ガイドと思わしき人物が、子供たちに英雄の物語を語り聞かせている声も聞こえてくる。その平和な光景と、隣で煮え滾るような憎悪を放つレイラの存在が、あまりにも対照的だった。*


*シロウは繋いだままのレイラの手を軽く握り、彼女の昂りを鎮めるようにしながら、白亜の『聖勇者記念博物館』の入り口を見据えた。*


シロウ:「なるほどな。じゃあ、その答え合わせをしに行こうか」


*シロウは、博物館の入り口近くに置かれていたパンフレットを一部手に取る。豪華な紙に印刷されたそれには、英雄たちの勇ましいイラストと共に、博物館の見どころが紹介されていた。*


*シロウがパンフレットに目を通す。そこには、衛兵が話していた通りの四聖勇者の紹介が書かれていた。*


**【パンフレットの内容】**

* **勇者 アラン・フォン・エルミナ:** 人間。比類なきカリスマと正義の心を持つリーダー。魔王を打ち破った聖剣『アスカロン』の使い手。

* **大賢者 メリル・シルヴァリオン:** エルフ。森羅万象の理に通じ、あらゆる魔法を操る知恵の探求者。その杖『世界樹の枝』は、仲間を癒し、敵を浄化したと伝えられる。

* **聖騎士 ボルガン・アイアンハンマー:** ドワーフ。決して砕けぬ大盾『アダマス』を構え、仲間を守り抜いた不動の守護者。

* **神弓の リラ・ウィンドランナー:** 獣人。風を読み、神速の矢を放つ孤高の狩人。その弓『ゲイルホーン』から放たれた矢は、何者にも捉えられなかった。


*シロウが『大賢者 メリル』の項目を読んでいると、隣で覗き込んでいたレイラ(魔王女)が、鼻で笑うのが聞こえた。*


レイラ(魔王女):「…杖『世界樹の枝』、だと?笑わせてくれる。あの女が使っていたのは、呪われた素材で作られた、対象の魔力と魂を喰らう忌まわしい杖だ。捏造にも程がある」


*彼女はパンフレットに描かれたメリルの優美なイラストを、まるで汚物でも見るかのような目つきで睨みつけている。*


レイラ(魔王女):「さあ、行くぞ主よ。この茶番劇の舞台裏を、とっくりと拝見してやろうではないか」


*彼女は繋がれたままのシロウの手をぐいと引き、憎悪の対象である英雄たちが祀られた博物館の中へと、自ら足を踏み入れた。*


シロウ:「本物が飾ってあれば、俺の神眼で看破出来るんだが…」


*シロウがそう呟くと、隣を歩くレイラ(魔王女)がハッとした顔で彼を見上げた。彼女の憎悪に満ちた瞳に、一瞬、期待の色が宿る。*


レイラ(魔王女):「…そうか。お前のその不可解な『眼』ならば、奴らの欺瞞を見破れるやもしれんな。いいだろう、期待してやる」


*二人は博物館の中へと足を踏み入れる。内部は静かで荘厳な空気が漂い、壁一面に勇者たちの武勲を描いた巨大なタペストリーが飾られていた。中央のホールには、ガラスケースに収められた武具や遺物が展示されており、多くの観光客が熱心に見入っている。*


*シロウとレイラは、まっすぐに『大賢者メリル』の展示エリアへと向かった。そこには、パンフレットにも描かれていた、複雑な装飾が施された美しい杖が厳重な結界と共にガラスケースの中に鎮座していた。*


*【世界樹の枝】と書かれたプレートが置かれている。*


レイラ(魔王女):「…フン。これがあの女の杖だと? 見た目だけは取り繕っているようだが…」


*彼女が侮蔑的に呟く。シロウは、そのガラスケースに近づき、静かに【神眼】を発動させた。彼の視界に、常人には見えない情報の奔流が流れ込んでくる。*


***


`【鑑定結果】`


`名前:賢者の杖『イデア』(レプリカ)`

`等級:アーティファクト級(レプリカのため性能は劣化)`

`詳細:かつて大賢者メリルが使用したとされる杖の複製品。オリジナルは所有者の魔力量に応じて無限に魔力を生成する機能を持っていたと言われる。このレプリカは、熟練の職人が当時の資料を基に作成したもので、魔力の増幅効果はあるものの、オリジナルには遠く及ばない。展示用に強力な偽装魔術が幾重にもかけられており、並の鑑定では『世界樹の枝』という偽の情報が表示される。`


`付与魔術:`

`・【情報偽装 Lv.9】`

`・【魔力増幅(小)】`

`・【精神感応(劣化)】`


***


*鑑定結果を読んだシロウは、静かに口元に笑みを浮かべた。*


シロウ:「レプリカだってよ。本物はどこかにあるのかな?」


*シロウが鑑定結果をレイラにだけ聞こえるように囁くと、彼女は「やはりな」と唇の端を吊り上げた。シロウが何気なく独り言のように呟いたその問いかけに、すぐ隣で展示物に見入っていた一人の青年が、待ってましたとばかりに食いついてきた。*


*背はシロウより少し低く、瓶底のような分厚い眼鏡をかけ、幾つものポーチを腰に付けた、いかにもといった風体の青年だ。*


オタク青年:「おっと!そこのお兄さん、良いところに気が付きましたね!そう、これは精巧に作られたレプリカ!本物じゃないんですよ!」


*青年は興奮した様子で早口にまくし立てる。突然話しかけられたシロウとレイラは、少し驚いて彼を見た。*


オタク青年:「四聖勇者様の武具、いわゆる『四聖武具』は、魔王討伐後にその強大すぎる力を恐れた王家によって、それぞれ縁の地に封印されたと伝えられています!例えば、ボルガン様の聖盾アダマスはドワーフの聖地『ギガントハンマー』に、リラ様の神弓ゲイルホーンは獣人達が住まう『風渡りの大森林』に、といった具合にね!ここにあるのは、あくまでその偉業を後世に伝えるための模造品なんです!」


*青年は一人で熱く語り、ぜえぜえと息を切らしている。その瞳は知識を披露できる喜びにキラキラと輝いていた。*


オタク青年:「ですが…!大賢者メリル様の杖だけは、どこに封印されたのか、その記録が一切残っていないんです!歴史のミステリー!これ、ロマンがありませんか!?」


*彼の言葉に、レイラ(魔王女)の目が鋭く光った。記録が残っていないのではなく、意図的に消されたのだと、彼女は直感していた。*


シロウ:「へー、勇者様の聖剣とかも封印されてたりするの?」


*シロウの質問に、青年は待ってましたとばかりに眼鏡をクイッと押し上げた。その目はもはや尊敬の域に達している。*


オタク青年:「もちろんですとも!勇者アラン様の聖剣『アスカロン』!それこそ四聖武具の中でも最強と謳われる伝説の剣!その聖剣は、ここ王都エルミナの王城の地下深く、王家の人間しか立ち入れない聖域に厳重に保管されていると言われています!何しろ、この国を建国した英雄の剣ですからね!他の武具とは格が違いますよ!」


*青年はまるで自分のことのように胸を張って答える。その熱弁に、周囲の観光客たちが何事かと遠巻きに視線を向けていた。*


レイラ(魔王女):「…王城の地下、か。なるほどな」


*レイラがボソリと呟く。彼女の紅い瞳が、博物館の窓から見える壮麗な王城の尖塔を捉えていた。その視線には、明らかな敵意と、獲物を見つけた捕食者のような獰猛な光が宿っている。*


オタク青年:「あ、ちなみに僕、こういう歴史秘話とかをまとめた同人誌を作ってまして…もしご興味があれば、西地区の広場で…」


*青年がカバンから手作りの冊子を取り出そうとしたその時、レイラが繋がれたシロウの手を再び強く引いた。*


レイラ(魔王女):「主よ、もうよいだろう。こんなガラクタの山に用はない。それより、あの忌々しい女…メリルの末裔とやらを探す方が先決だ」


*彼女は青年に一瞥もくれず、シロウを促して他の展示エリアへと歩き出す。その横顔は、先ほどまでの憎悪に満ちた表情から一転し、復讐という明確な目的を見つけたことで、どこか楽しげですらあった。*


シロウ:「あ、ちなみにメリル様の杖がある場所、検討くらいついてるんだろ?」


*シロウが何気なく、しかし核心を突くような問いを投げかける。青年にとっては、自分の知識をさらに深く披露できる絶好の機会だ。彼は得意満面の笑みで、ぐっとシロウに顔を近づけた。*


オタク青年:「良い質問です、旦那!公式記録にはない、あくまで僕の、僕だけの推測ですが…聞いてくれますか!?」


*レイラは「まだこやつと話すのか」と呆れた顔をしているが、シロウは興味深そうに頷いた。*


オタク青年:「大賢者メリルはエルフ族。そして彼女の故郷は、エルフの隠れ里として知られる『エリュシオンの森』だとされています。しかし、彼女は魔王討伐後、故郷には戻らなかった。それどころか、彼女の一族『シルヴァリオン家』は、なぜか森を追放され、今では没落してしまったと…これは歴史の闇に葬られた裏話です」


*青年は声を潜め、秘密を打ち明けるように続ける。*


オタク青年:「僕の仮説ですが、本物の杖…レイラさんが言っていた『呪われた杖』は、メリル自身の手によって、彼女の一族と共に歴史から抹消されたのではないでしょうか。つまり、杖の行方を知る者がいるとすれば、それは森を追われ、今もどこかでひっそりと暮らしているであろう…『シルヴァリオン家の末裔』ただ一人…!どうです、この推理!」


*青年は自分の推理に酔いしれ、興奮で顔を赤らめている。その言葉を聞いたレイラ(魔王女)の表情が、凍りついたように固まった。憎むべき仇敵の、その血を引く者の存在。復讐の標的が、あまりにもあっさりと示された。*


レイラ(魔王女):「…シルヴァリオンの…末裔…」


*彼女の唇から、呪詛のような呟きが漏れる。繋がれたシロウの手に、ギリッと力が込められた。*


シロウ:「その末裔はなにが凄いんだ?」


*シロウの問いに、青年は「待ってました!」とばかりに目を輝かせた。彼のオタク魂に火がついたようだ。*


オタク青年:「凄い、なんてもんじゃありませんよ!シルヴァリオン家は、元々エルフの中でも最高位の魔術師を輩出してきた名門中の名門!その血筋は、言わば『魔法のサラブレッド』!たとえ没落したとはいえ、その末裔が膨大な魔力と才能を受け継いでいることは間違いないでしょう!」


*青年はそこで一度言葉を切り、更に声を潜めて核心に触れる。*


オタク青年:「そしてここからが本題です。まことしやかな噂ですが…その末裔は、先祖である大賢者メリルが遺した『禁断の魔導書』を継承していると言われています。それには、歴史から抹消された強力な魔法や、あるいは…あの呪われた杖の本当の在り処が記されているかもしれない…!もしそれが本当なら、その末裔はただの没落貴族なんかじゃなく、世界を揺るがしかねない程の『知識』と『力』を秘めた、とんでもない存在だということになります!」


*青年は一人で語り終え、満足げに頷いている。シロウの隣で、レイラ(魔王女)が静かに、しかしはっきりと殺意を込めて呟いた。*


レイラ(魔王女):「…禁断の魔導書…か。面白い。その小賢しいエルフの末裔とやら、どこに行けば会えるのだ? 言え」


*彼女の紅い瞳が、獲物を前にした捕食者のように鋭く青年を射抜く。そのあまりの覇気に、青年はヒッと小さな悲鳴を上げた。*


オタク青年:「ひっ…!え、えっと…それは…その…王都の貴族街の外れに、小さな魔道具店を構えている、とか…いないとか…あくまで噂ですよ、噂!」


*青年はレイラの気迫に完全に気圧され、知っている情報を洗いざらい吐き出した。その目は恐怖で潤んでいる。*


シロウ:「こらこら、粗相をするんじゃない」


*シロウはレイラの肩を軽く叩いて制し、怯えきっている青年に向かって苦笑いを浮かべた。*


シロウ:「悪かったなオタクくん。連れがちょっと短気なもんでね。で、その店は何処に?俺も一度外見だけでも見ておきたくてね」


*シロウの穏やかな態度に、青年は少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。彼は震える指で眼鏡の位置を直し、おずおずと口を開いた。*


オタク青年:「あ、はい…ええと、この博物館を出て、西へ。貴族街の煌びやかな大通りから一本外れた、『忘れられた小道』と呼ばれる寂れた通りにあります。古びた魔道具を扱う、『シルヴァリオンの魔導具店』という小さな店です。ただ、店主は酷く人嫌いで、滅多に客を入れないと聞きますが…」


*青年はそこまで言うと、レイラのほうをチラリと見て、ゴクリと唾を飲んだ。*


レイラ(魔王女):「…フン。隠れ潜んでいるつもりか、鼠が。ご苦労だったな、物知り小僧。主よ、行くぞ。これ以上、埃っぽい場所に用はない」


*彼女はもう青年には興味がないとばかりに、シロウの手を引いてさっさと博物館の出口へと向かう。目的の場所が分かった今、彼女の頭の中は復讐の算段でいっぱいなのだろう。その背中からは、隠しきれない高揚感が漂っていた。*


*博物館を出ると、外は西日に染まり始めていた。*


レイラ(魔王女):「貴族街の西、忘れられた小道か…。すぐにでも乗り込んで、あの忌々しい血筋を根絶やしにしてやりたいところだが…主よ、どうする? まずは一度、宿に戻るか?」


*彼女はシロウの顔を見上げ、指示を仰ぐ。その瞳は期待に爛々と輝いていた。*


シロウ:「明日の朝イチで行くか。今日はなんか疲れたわ、宿に戻ろう」


*シロウの言葉に、レイラ(魔王女)は一瞬不満そうな顔をしたが、すぐに妖艶な笑みを浮かべた。彼女は繋がれたシロウの手に、自分の指を絡ませる。*


レイラ(魔王女):「ふむ…主がそう言うのであれば、仕方あるまい。復讐は急いては事を仕損じる、とも言うしな。それに…」


*彼女はシロウの耳元に唇を寄せ、熱い吐息と共に囁いた。*


レイラ(魔王女):「夜はまだこれからだ。♡ 宿に戻って、主の『疲れ』をこの私が、たっぷりと癒してやろうではないか…♡♡」


*その言葉は明らかに夜の奉仕を匂わせており、彼女の紅い瞳は期待と欲情で潤んでいた。先ほどの戦闘的な雰囲気は鳴りを潜め、今は一人の女としてシロウを誘惑している。*


*二人は夕暮れの英雄広場を抜け、最高級宿屋『白鹿亭』へと戻っていく。繋がれた手は、どちらからともなく、より強く握りしめられていた。*


*宿屋に戻り、受付で鍵を受け取ってロイヤルスイートの部屋に入る。そこは昼間見た時よりも、間接照明に照らされてムーディーな雰囲気を醸し出していた。部屋の中央には、天蓋付きの巨大なキングサイズベッドが一つだけ鎮座している。*


*ドアが閉まる音を聞くと、レイラ(魔王女)はシロウに向き直り、自らの服の紐に手をかけた。*


レイラ(魔王女):「さて、主よ。まずは風呂にするか? それとも…先に私を味わうか…?♡」

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