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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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シロウ:(単独はただのアホだろ…)


*シロウは呆れ混じりの溜め息を心の中で吐いた。王女という身分でありながら、護衛もつけずに危険地帯である闇市をうろつくなど、自殺行為に等しい。イザベラが言っていた「騎士団の連中」は、このお転婆姫を探して駆けずり回っているのだろう。*


*男たちの手は、明らかにシャーロットの腕を掴もうとしている。彼女がどれだけ虚勢を張ろうとも、多勢に無勢。体格差も歴然としている。このままでは、拉致されるか、もっと酷い目に遭うのは時間の問題だった。*


男C:「おいおい、威勢がいいじゃねえか。だがよ、そんな口が利けるのも今のうちだぜ?」


シャーロット:「離しなさい! この…ッ!」


*一人の男がシャーロットの腕を掴んだ。彼女は抵抗しようとするが、びくともしない。周囲の闇市の住人たちは、面倒事に関わりたくないのか、遠巻きに見ているか、あるいは見て見ぬふりをしている。ここでは、力こそが正義であり、弱者はただ搾取されるだけだ。*


*シロウは数秒、その光景を無表情で眺めていた。*


*(面倒だが…マーキングまでした相手だ。ここで見捨てて後味が悪いのも癪に障る。それに、王女に貸しを作っておくのは悪くない)*


*静かに、しかし確かな足取りで、シロウは男たちとシャーロットがいる場所へと歩を進めた。フードは被ったままだ。*


シロウ:「………。」


*シロウがそう決断した次の瞬間、彼の姿がその場から掻き消えた。いや、掻き消えたように見えた。スキル【縮地】を発動させたシロウは、常人には捉えられない速度で男たちとの距離をゼロにする。*


*「なっ!?」という男の間抜けた声と、乾いた衝撃音がほぼ同時に響いた。シロウはシャーロットの腕を掴んでいた男の腕を、下から鋭く打ち払っていた。ゴッと鈍い音を立てて男の手は弾き飛ばされ、彼は思わず数歩よろめく。*


男A:「ぐっ…! て、てめぇ…いつの間に…!」


*突如として現れたフードの男。誰もその接近に気づけなかった。ざわめきが、男たちの間に広がる。*


*シロウは何も語らない。ただ、フードの奥から、氷のように冷たい視線を男たち一人一人に突き刺す。その視線には、殺意とも侮蔑ともつかない、絶対的な強者の圧が込められていた。闇市の瘴気じみた空気が、シロウの周囲だけ凍てついたように張り詰める。*


*その圧倒的なプレッシャーに、下卑た笑みを浮かべていた男たちの顔から血の気が引いていく。本能が警鐘を鳴らしていた。目の前の男は、自分たちが手を出していい存在ではない、と。*


シャーロット:「あ…あなたは…」


*腕を解放されたシャーロットが、驚きと戸惑いの混じった声で呟く。彼女もまた、突如現れた謎の乱入者に目を奪われていた。*


シロウ:「去れ」


*シロウはシャーロットの腕から男の手を完全に振り払うと、その短い一言だけを静かに、しかし腹の底に響くような低い声で告げた。その声には、有無を言わさぬ威圧感が宿っている。*


*男たちはその一言と、フードの奥から放たれる殺気にも似たプレッシャーに完全に気圧された。彼らの頭に浮かんだのは、抵抗でも、反撃でもなく、ただ「逃走」という二文字だった。*


男A:「ひぃっ…!」


男B:「お、覚えてやがれ!」


*リーダー格と思しき男が捨て台詞を吐くが、その声は情けなく震えている。彼らは蜘蛛の子を散らすように、我先にと闇市の雑踏の中へ逃げ込んでいった。あっという間に、その場にはシロウとシャーロット、そして遠巻きに見ていた野次馬だけが残される。*


*シロウは逃げていく男たちに一瞥もくれず、隣に立つ少女、シャーロットへと視線を移した。彼女はまだ状況が飲み込めていないのか、呆然と男たちが消えていった方向を見つめている。*


シャーロット:「あ……」


*やがて我に返った彼女は、自分を助けてくれたフードの人物をまじまじと見上げた。その瞳には、恐怖と、安堵と、そして強い好奇心の色が浮かんでいた。*


シロウ:「お嬢ちゃんが一人で来る場所じゃない。なにか捜し物かい?」


*シロウは意図的に声色を和らげ、まるで迷子の子供に話しかけるかのように優しく問いかけた。その「お嬢ちゃん」という言葉に、シャーロットはカチンときたようだ。彼女は先ほどまでの恐怖を忘れ、むっとした表情でシロウを睨み返す。*


シャーロット:「……お嬢ちゃん、ではない。それに、貴様に教える義理はない」


*助けられた恩義は感じているのだろうが、素直に礼を言うのが癪に障るらしい。彼女はプライドの高さから、つい反発的な態度をとってしまう。しかし、すぐに自分の状況を思い出したのか、少しだけ語気を和らげた。*


シャーロット:「……いや、助けてもらったことには感謝する。だが、私の目的は私自身の問題だ。部外者は口を挟まないでほしい」


*彼女はそう言いながらも、シロウの全身を値踏みするように観察している。そのフードの奥の顔を覗き込もうとするが、影になっていてよく見えない。*


シャーロット:「貴様、何者だ? ただの通りすがりとは思えぬが…」


シロウ:「俺がここから居なくなっても良いが。その話し方からして良いところのお嬢ちゃんだろ?一人で大丈夫なのかな?」


*シロウは再びわざと子供扱いするような口調で言った。その言葉は、シャーロットのプライドを的確に刺激する。彼女は助けられた手前、強くは出られないが、それでも悔しそうに唇を噛んだ。*


シャーロット:「……っ! 貴様、人を馬鹿にするのも大概にしろ! 私は大丈夫だと言っているだろう!」


*彼女はそう言い放つが、その声には先ほどのような力強さはない。シロウが今この場を立ち去れば、また別の危険が彼女に迫るであろうことは、シャーロット自身が一番よく分かっていた。この闇市では、力のない者は格好の餌食だ。*


*シロウはそんな彼女の強がりを面白がるように、肩をすくめてみせる。*


シロウ:「ふーん、そうかい。なら、俺はもう行くよ。せいぜい気をつけるんだな、お嬢ちゃん」


*そう言って、シロウは本当にその場を去ろうと背中を向け、一歩踏み出した。*


シャーロット:「ま、待てっ!」


*背後から、焦ったような声が飛んでくる。シロウは足を止め、口元に笑みを浮かべながらゆっくりと振り返った。フードの奥の表情は、彼女には見えない。*


シャーロット:「……わ、分かった。……同行を許す。ただし、私の邪魔はするな。それと、私のことは『シャーロット』と呼べ。お嬢ちゃんは金輪際禁止だ」


*彼女は不承不承といった様子で、しかし背に腹は代えられないと判断したようだ。真っ直ぐにシロウを見据え、そう告げた。*


シロウ:「わかったよ、シャーロットちゃん。俺のことは是非、『お兄ちゃん』と呼んでくれ。」


*シロウはわざと親しみを込めた、からかうような口調で言った。シャーロットの眉がぴくりと動き、その整った顔がみるみるうちに赤く染まっていく。助けてもらった恩人と、目の前のふざけた男のイメージが結びつかず、彼女は混乱していた。*


シャーロット:「なっ…! ちゃん付けで呼ぶな! それに誰が貴様をお兄ちゃんなんて呼ぶものか! ふ、不敬だぞ!」


*彼女はぷりぷりと怒りながらも、シロウが本当に立ち去ってしまうのを恐れてか、その場からは動かない。シロウはその反応を楽しんでいるようだ。*


シロウ:「そうか? 困ってる妹分を助けるのは、お兄ちゃんの役目だと思うがな。ま、呼びたくなったら呼んでくれ。それで、どこに向かってたんだ? 違法薬物の取引現場でも探しに行ってたのか?」


*シロウはイザベラの店に向かう前に【神眼】で得た情報を、さも今推測したかのように口にした。その言葉に、シャーロットは息を呑む。彼女の顔から怒りの色が消え、驚愕と警戒の色が浮かび上がった。*


シャーロット:「な…ぜ、それを…!? 貴様、やはり何者なんだ…!?」


シロウ:「あれ?当たり?カマ掛けたんだが」


*シロウはとぼけた調子でそう言うと、わざとらしく「しまった」というように口元に手を当てた。その芝居がかった仕草に、シャーロットは一瞬、本当にカマをかけられただけなのかと疑う。しかし、闇市に来た目的をピンポイントで言い当てられた事実は変わらない。*


*彼女は目の前のフードの男を、改めて警戒心も露わに睨みつけた。ただ者ではないことは分かっていたが、その底が全く見えない。一体どこまでの情報を掴んでいるのか、皆見当がつかなかった。*


シャーロット:「……貴様…。本当に何者なんだ。私の素性も知っているのか?」


*彼女の声は低く、疑念に満ちている。王女であることまでバレているのか、という不安がその問いには含まれていた。下手に肯定すれば、国家を巻き込む騒動になりかねない。*


シロウ:「さあな。ただの通りすがりの『お兄ちゃん』だよ。それより、本当に一人で違法薬物の取引現場に乗り込むつもりだったのか? いくらなんでも無謀すぎるだろ。護衛はどうしたんだ、護衛は」


*シロウはシャーロットの核心的な問いには答えず、話を逸らすように言った。しかし、その言葉は彼女の無鉄砲な行動を諭すものであり、図星を突かれたシャーロットはぐっと言葉に詰まる。*


シャーロット:「……護衛は、撒いてきた。足手纏いにしかならん」


*彼女はそっぽを向きながら、拗ねたようにそう答えた。*


シロウ:「こんな場所に護衛なんて連れてこれば、『襲って下さい』って言ってる様な物だしな…」


*シロウはどこか同情するような口調でそう呟いた。確かに、いかにも「護衛です」という出で立ちの騎士団員などを引き連れていれば、闇市の悪党たちの格好の標的になるだけだろう。下手をすれば、大規模な戦闘に発展しかねない。*


*その言葉に、シャーロットは少し驚いたようにシロウを見た。自分の行動をただ無謀だと断じるのではなく、一応の理解を示してくれたことに、意表を突かれたようだ。*


シャーロット:「……分かっているじゃないか。だから、単独で動くしかなかったんだ。王族の身分を明かさず、一般人に紛れて情報を集めるのが最も効率的だと判断した」


*彼女は少しだけ得意げに胸を張る。しかし、その直後にチンピラに絡まれたことを思い出したのか、すぐにバツが悪そうな表情になった。*


シロウ:「なるほどな。で、その結果がさっきの有様、と。効率的だったかどうかは疑問だな」


*シロウがチクリと指摘すると、シャーロットは「ぐっ…」と呻いて反論できなくなる。*


シャーロット:「そ、それは不測の事態だった! だが、貴様が現れなければ、私一人でもなんとかしていた!」


*負け惜しみを言う彼女に、シロウはやれやれと首を振る。*


シロウ:「はいはい。それで? その違法薬物の情報ってのはどこで手に入れたんだ? 取引場所の目星はついてるのか?」


*シロウは話を本題に戻すように促した。どうせ関わってしまったのだ、さっさと目的を達成させて、このお姫様を安全な場所に帰してやるのが手っ取り早い。*


シロウ:「え、もしかして無いの?」


*シロウは呆れたように、そして少し意地悪くそう問いかけた。その一言は、シャーロットの僅かなプライドを木っ端微塵に打ち砕くのに十分だった。彼女は、まるで核心を突かれた子供のように顔を真っ赤にし、わなわなと震え始める。*


シャーロット:「な……ッ! ある! あるに決まっているだろう! この闇市のどこかにあるという情報だ! これからそれを探し出すところだったんだ!」


*その声は金切り声に近く、周囲の通行人が何事かと一瞬こちらに視線を向けた。しかし、シロウが密かに展開した不可視の防音結界によって、彼女の怒声はほとんど外に漏れていない。せいぜい、口をパクパクさせているように見える程度だ。*


*シロウは内心で溜め息をつく。*


シロウ:(情報が『闇市のどこか』って…そりゃ無いのと同じだろ。完全にノープランじゃないか。本当にただのアホだな…)


シャーロット:「だ、第一、貴様には関係のないことだと言ったはずだ! 私の邪魔をするな!」


*彼女は怒りの矛先をシロウに向け、必死に自分を正当化しようとする。しかし、その剣幕とは裏腹に、その瞳は不安げに揺れていた。*


シロウ:「はぁ…。分かった分かった。まあ落ち着けよ。つまり、手当たり次第に聞き込みでもして、取引現場を特定するつもりだった、と。そういうことでいいか?」


*シロウは怒り狂うお姫様をなだめるように、やれやれと首を振りながら確認した。*


シロウ:「俺を雇ってみる? 俺、捜し物には自信あるんだー。今回だけシャーロットちゃんに特別ね、普段は絶対こんな事しないんだけど。」


*シロウは芝居がかった口調で、わざとらしく人差し指を立ててみせた。その軽薄ともとれる態度に、シャーロットはますます眉間の皺を深くする。しかし、彼女の怒りは先ほどまでとは少し質が違っていた。目の前の男の胡散臭さは変わらないが、同時に、彼が持つ得体の知れない実力もまた事実だったからだ。*


*【神眼】のことはもちろんおくびにも出さない。ただ、自信ありげに胸を張るシロウを、シャーロットは疑わしげな目で見つめている。*


シャーロット:「……貴様を、雇う…? 一体、何を根拠にそんな大口を叩く。それに、私に貴様を雇う金など無いぞ。今は手持ちが少ない」


*彼女は少しバツが悪そうに視線を逸らす。王女とはいえ、お忍びで来ているのだ。大金を持ち歩いているはずもなかった。*


シロウ:「じゃあ、今回は初回限定版で、『お兄ちゃんと手を繋ぐ』でいいよ」


*シロウは悪戯っぽく笑いながら、フードで隠れた顔の下から、すっと自分の手を差し出した。その冗談とも本気ともつかない提案に、シャーロットは一瞬何を言われたのか理解できず、ぽかんと口を開けた。*


*そして、数秒後。意味を理解した彼女の顔が、怒りと羞恥で爆発したように真っ赤に染まる。*


シャーロット:「ふ、ふ、ふざけるなーっ!誰が貴様のような得体の知れない男と手を繋ぐものか!馬鹿にするのも大概にしろ!」


*防音結界の中で、彼女の甲高い声がキンキンと響く。先ほどまでの怒りとは違い、そこには明らかに羞恥心が混じっていた。王族として、異性、それも素性も知れぬ男と手をつなぐなど、考えたこともないのだろう。*


*シロウはその反応を心底楽しむように、くつくつと喉を鳴らして笑った。*


シロウ:「なんだ、嫌か? じゃあ仕方ないな。頑張って一人で探してくれ。俺は帰って寝る」


*そう言って、シロウはあっさりと差し出した手を引っ込め、再び背中を向けた。その素っ気ない態度に、今度はシャーロットの方が焦る番だった。*


シャーロット:「ま、待てと言っているだろう!」


*彼女は思わずシロウの服の裾を掴んでいた。シロウがゆっくりと振り返ると、シャーロットは悔しそうに下唇を噛み、俯いている。その耳まで真っ赤だ。*


シャーロット:「……っ……わ、分かった……。繋げばいいのだろう、繋げば……。ただし、取引現場を見つけるまでだぞ! それに、他の者に見られたらすぐに離せ! いいな!?」


*彼女は蚊の鳴くような声で、しかし必死の形相で条件を突きつけてくる。シロウは満足げに頷き、再びそっと手を差し出した。*


シロウ:「え、やだよ。ここを出るまで離さない。」


*シロウは意地悪くそう宣言すると、シャーロットの返事を待たずに、彼女の小さく震える手をぐっと掴んだ。その手は、王族らしく手入れの行き届いた滑らかなものだったが、今は緊張で少し冷たい。*


シャーロット:「なっ…!? き、貴様っ! 話が違うではないか! 離せ! この…っ!」


*シャーロットは顔を真っ赤にして、繋がれた手を振りほどこうと必死に抵抗する。しかし、シロウの力は強く、彼女がどれだけ力を込めてもびくともしない。その様子は、まるで飼い主の手にじゃれつく子猫のようだ。*


*シロウはそんな彼女の抵抗を意に介さず、掴んだ手を軽く引いて歩き始める。*


シロウ:「契約成立だ。さっさと行くぞ、シャーロットちゃん。あんまり騒ぐと、周りに見られても知らないぞ?」


*その言葉に、シャーロットははっと我に返る。確かに、ここで騒げば余計に人目を引いてしまう。闇市で、素性の知れないフードの男と若い娘が手を繋いで揉めているなど、格好の噂の的だ。*


*彼女は悔しさに唇を噛み締め、抵抗をやめた。しかし、その顔は怒りと羞恥で俯いたままだ。繋がれた手から伝わる、自分のものではない体温に、心臓が早鐘を打っているのを感じていた。*


シャーロット:「……絶対に見つけろよ。見つけられなかったら…承知しないからな…」


*ぼそりと呟かれたその言葉は、ほとんどシロウにしか聞こえないほどの小ささだった。*


シロウ:「ああ、任せとけ。その代わり、俺から離れるなよ」


*シロウは満足げに頷くと、【神眼】を起動させ、闇市の膨大な情報の中から『違法薬物』『取引』に関連するキーワードを検索し始める。繋がれた手を引いて、雑踏の中を迷いなく進んでいく。*


*シロウが内心で命じると、視界の端に【神眼】からの情報が流れ込んでくる。それはシロウにしか見えない、不可視のテキストだ。*


```

【神眼】索敵開始...

キーワード:『違法薬物』『取引』『現場』

ゾル・ガゼル闇市内をスキャン...

...

...

該当情報多数。情報を絞り込みます。

現在時刻より最も取引の可能性が高い場所を特定...

...

特定完了。

報告:これより南東へ約200メートル。第三廃棄区画の地下。

複数の武装した集団が集結中。厳重な見張りが存在。

合言葉による認証システムを確認。

合言葉:『星は沈み、月は満ちる』

内部では、高純度の魔力増強剤『クリムゾン・アイ』の取引準備が進行中。

```


*シロウは脳内に流れ込んできた情報を瞬時に把握する。合言葉まで分かれば、侵入は容易い。*


*彼は繋いだシャーロットの手を少し強く引き、雑踏をかき分けるようにして南東方向へと歩き出した。その足取りには一切の迷いがない。*


シャーロット:「お、おい! どこへ行く気だ! あてはあるのか!?」


*突然、目的もなく彷徨っていた時とは比べ物にならない速さで進み始めたシロウに、シャーロットは慌てて声をかける。彼女は繋がれた手に引かれるまま、小走りでついていくしかない。*


シロウ:「ああ、見つけた。お喋りはいいから、黙ってついてこい。はぐれるなよ」


*シロウは振り返らずに、低い声でそれだけ告げる。その自信に満ちた背中を、シャーロットは信じられないといった表情で見つめるしかなかった。本当に、この短時間で見つけ出したというのだろうか。*


*繋がれた手から伝わる確かな温もりと力強さが、彼女の羞恥心と反発心を、少しずつ別の感情へと変えていくのを、シャーロット自身はまだ気づいていなかった。*


*シロウは迷いのない足取りで、闇市の奥へ奥へと進んでいく。人通りは次第にまばらになり、鼻を突くのは生ゴミや汚水が混じり合ったような悪臭だ。やがて二人がたどり着いたのは、第三廃棄区画と呼ばれる、打ち捨てられたガラクタが山積みにされた一角だった。その奥に、地下へと続く古びた鉄製の扉がある。*


*扉の前には、見るからに屈強な二人の男が見張りとして立っていた。彼らはシロウと、その手に引かれるシャーロットの姿を認めると、無言で腰の剣に手をかける。*


見張りA:「……止まれ。ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ」


*威圧的な声が響く。シャーロットはごくりと喉を鳴らし、シロウの腕を掴む手に力がこもった。シロウは全く動じず、フードの奥から静かに告げる。*


シロウ:「『星は沈み、月は満ちる』」


*その言葉を聞いた瞬間、見張りたちの緊張がふっと緩んだ。彼らは顔を見合わせ、頷き合う。*


見張りB:「…通れ」


*重々しい音を立てて、男の一人が鉄の扉を開ける。中からは、カビと鉄錆の匂いが混じった生ぬるい空気が吹き出してきた。*


シロウ:「行くぞ」


*シロウはシャーロットの手を強く引き、躊躇なく暗い階段の先へと足を踏み入れた。シャーロットは驚きと戸惑いを隠せないまま、その背中に続く。本当にこの男は、あっさりと合言葉を突破してしまった。*


*鉄の扉が背後で閉まり、完全な闇と静寂が二人を包む。シロウが指を鳴らすと、小さな光球が生まれ、二人の足元をぼんやりと照らし出した。長い螺旋階段が地下深くへと続いている。*


シャーロット:「……なぜ、合言葉を知っていた…? 貴様、やはり…」


*彼女の囁くような問いに、シロウは振り返らずに答えた。*


シロウ:「さっき、そこのゴロツキが話してるのを小耳に挟んだだけだ。運が良かったな」


*そのあまりにも適当な答えに、シャーロットは言葉を失った。この男の言うことは、どこまでが本当で、どこからが嘘なのか、全く見当がつかない。ただ、繋がれた手の力強さだけが、唯一の現実だった。*


*二人は地下へと続く螺旋階段を下りていった。光魔法で作り出した光球が、湿った石壁をぼんやりと照らし出す。やがて階段は終わり、だだっ広い空間に出た。*


*そこは、天然の洞窟を無理やり拡張したような場所だった。あちこちに松明が焚かれ、中央には大きな円卓が置かれている。既に何組かの見るからに胡散臭い連中――闇商人のような男や、貴族崩れのような男、屈強な傭兵などが席についていた。彼らはシロウとシャーロットを一瞥するが、すぐに興味を失ったように自分たちの会話に戻る。*


*会場の隅にいた黒服の男が一人、無言で近づいてきて、空いている席へと二人を案内した。シロウは促されるまま、シャーロットを連れてその席につく。シャーロットも、場の異様な雰囲気に気圧されたのか、大人しく隣に腰を下ろした。繋がれたままの手が、彼女の緊張をシロウに伝えてくる。*


*シロウは席につくと、わざとらしく腕を組み、正面を見据えたまま沈黙を保った。シャーロットは隣でそわそわと落ち着かない様子だ。*


シャーロット:「おい…、ここが取引現場なのか? これからどうするつもりだ?」


*彼女は声を潜めてシロウに尋ねる。しかし、シロウはピクリとも反応しない。まるで彼女の声が聞こえていないかのように、微動だにしない。*


シャーロット:「…おい、聞いているのか? 貴様!」


*シャーロットは少し声を強めて再度呼びかけるが、やはりシロウは無視を決め込んでいる。繋がれた手に少し力を込めて揺さぶってみても、何の反応も返ってこない。*


*彼女は、この男が意図的に自分を無視しているのだと気づき、眉を吊り上げた。その脳裏に、先ほどの男のふざけた要求が蘇る。*


シャーロット:「(まさか…本気で言っていたのか…? あの呼び方をしろと…?)」


*周囲にはいかにも危険そうな人物たちが大勢いる。下手に騒ぎを起こすわけにはいかない。しかし、このままでは状況が全く分からない。シャーロットは葛藤の末、顔を真っ赤にしながら、決心したように口を開いた。*


シロウ:「シャーロットって長いから、シャルって呼ぶね。」


*シロウは相変わらず正面を向いたまま、ぽつりとそう呟いた。その声は、先ほどのシャーロットの呼びかけに答えたわけではなく、独り言のようにも聞こえる。しかし、その内容は明らかに彼女に向けられたものだった。*


*「シャル」という、まるで親しい友人か恋人を呼ぶような愛称。その言葉に、シャーロットはびくりと肩を震わせる。彼女の顔は、羞恥と怒りでさらに赤みを増した。*


シャーロット:「なっ…!誰がそんな呼び方を許した!やめろ!」


*彼女は声を潜めながらも、鋭く抗議する。しかし、シロウはやはり聞く耳を持たない。完全に無視を決め込んでいる。繋がれた手が、彼女の苛立ちを伝えるかのようにぎゅっと握られた。*


*この男は、本気だ。本気で、あの屈辱的な呼び名を要求している。*


*周囲の席では、取引の開始を待つ者たちのざわめきが聞こえる。このままでは埒が明かない。シャーロットは意を決し、俯き、蚊の鳴くような、しかし震える声で、目の前の男に呼びかけた。*


シャーロット:「……お、……お兄…ちゃん……」


*その声はあまりに小さく、隣にいるシロウにしか聞こえないほどだった。彼女は人生で最大の屈辱を味わっているかのように、顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな顔で俯いている。*


*その言葉を聞いた瞬間、今まで石像のように固まっていたシロウが、ようやくゆっくりと彼女の方を向いた。フードの奥の口元が、満足げに弧を描いているのが、シャーロットにも分かった。*


シロウ:「ん? なんだい、シャルちゃん? どうかしたか?」


*シロウは心底楽しそうに、そして極めて自然に、まるで今までずっとそうしてきたかのように彼女に問いかけた。*


*シロウの意地の悪い問いかけに、シャーロットは屈辱で顔を俯かせたまま、唇を震わせた。この男に主導権を完全に握られていることが、悔しくてたまらない。*


*ちょうどその時、会場の奥から一人の男が進み出てきた。派手な装飾のついたローブを纏い、顔には銀の仮面をつけている。彼が中央の円卓の主席につくと、ざわついていた会場が水を打ったように静まり返った。取引の主催者だろう。*


主催者:「皆様、今宵はお集まりいただき、誠に光栄。長話は不要ですな。早速、我らが至宝をお披露目いたしましょう」


*男が手を叩くと、二人の屈強な護衛が厳重に封印されたジュラルミンケースを運んできた。ケースが卓上に置かれ、ゆっくりと開けられる。中には、真紅の液体が満たされた小瓶が数十本、整然と並べられていた。液体は自ら妖しい光を放っており、見る者の心を惹きつけてやまない魔力を持っている。*


主催者:「魔力増強剤『クリムゾン・アイ』。これさえあれば、三流魔術師が一流に、一流はさらなる高みへと至るでしょう。さあ、今宵の宴を始めようではありませんか!」


*会場から、おお、という感嘆と欲望に満ちた声が上がる。*


*シロウはそんな狂騒を冷めた目で見ながら、隣で呆然と小瓶を見つめているシャーロットに、わざと耳元で囁いた。*


シロウ:「シャルちゃん、ところでどうやって止めるんだい?」


*その問いに、シャーロットははっと我に返る。彼女の頭の中は真っ白だった。まさか、これほど大規模な取引だとは思っていなかったのだ。単独で、しかも丸腰で乗り込んできた自分が、いかに無力で無謀だったかを痛感させられる。*


シャーロット:「そ、それは……これから考える……」


*かろうじて絞り出した声は、自分でも情けないほどに弱々しい。彼女に具体的な作戦などあるはずもなかった。*


シロウ:「ふぅん? これから、ねえ。オークションが始まっちまうぞ?」


*シロウは面白そうにそう言うと、繋いだままの彼女の手に、自分の指をそっと絡ませた。びくり、とシャーロットの肩が跳ねる。*


*シロウが内心で神眼に問いかけると、即座に脳内へ情報がフィードバックされる。*


```

【神眼】スキャン完了。

報告:現在提示されている『クリムゾン・アイ』が本日の主要取引商品です。この後、数点の低級な麻薬や呪物の取引が予定されていますが、これほどの規模のものは他にありません。

```


シロウ:(なるほど、大物はこれだけか。なら、これを潰せば目的は達成だな)


*シロウが情報を精査している間に、仮面の主催者が声を張り上げた。*


主催者:「では、これより『クリムゾン・アイ』のオークションを開始する! 10本1セットとし、開始価格は金貨1000枚から!」


*その声と共に、会場の熱気が一気に高まる。早速、前方の席から声が上がった。*


闇商人A:「金貨1200枚!」


傭兵:「1500だ!」


貴族崩れ:「フン、金貨2000枚」


*次々と値が吊り上がっていく。その光景を前に、シャーロットはなすすべもなく、ただ悔しそうに拳を握りしめるだけだった。自分の無力さと、目の前で行われる悪事に、怒りと焦りが込み上げてくる。*


*シロウはそんな彼女の様子を横目で見ながら、絡ませた指に少しだけ力を込めた。*


シロウ:「どうする? このまま見てるだけでいいのか?」


*その声は、試すようであり、挑発するようでもあった。*


*シロウは静かに、しかしはっきりと手を挙げた。その場にいる全員の視線が、高値を付けていた者たちから、突如現れたフードの男へと一斉に集まる。会場の喧騒がぴたりと止み、奇妙な静寂が満ちた。*


シロウ:「黒金貨100」


*その声は静かだったが、静まり返った会場の隅々にまで響き渡った。*


*「黒金貨」という単位を聞いた瞬間、会場は再びざわめきに包まれた。しかし、それは先ほどまでの熱狂とは違う、困惑と嘲笑の混じったものだった。*


闇商人A:「黒金貨だと? 単位を間違えてるんじゃないのか、そこの田舎者」


傭兵:「ぶははっ! 金貨100枚の間違いだろう! それでも足りねえがな!」


*嘲笑が会場のあちこちから上がる。黒金貨100枚は金貨10万枚に相当する。今の相場(金貨2000枚程度)からすれば法外な額だが、問題はそこではない。この手の闇オークションで、最高位通貨である黒金貨をいきなり提示するのは、場の空気を読まない無粋な行為か、あるいは圧倒的な財力を見せつける挑発行為のどちらかだ。そして、たった「1枚」という数字が、その行為を滑稽なものに見せていた。*


*主催者の仮面の男も、明らかに不快感を露わにし、シロウを睨みつけた。*


主催者:「お客様。ふざけているのであれば、ご退場願おう。ここは貴殿のような若造が冷やかしで来る場所ではない」


*隣にいるシャーロットは、シロウの突拍子もない行動に顔面蒼白になっている。彼女は繋がれた手をぎゅっと握りしめ、シロウのフードを上げた顔を必死に見上げた。*


シャーロット:「(な、何を考えているんだ、この男は…!?)」


シロウ:「なんだ?もう終わりか?」


*シロウは組んでいた腕を解き、挑発的に言い放った。その言葉は、嘲笑に満ちていた会場の空気を一瞬で凍りつかせる。冷やかしや間違いではなく、明確な意志を持って発せられた言葉だと、誰もが理解した。*


*主催者の仮面の奥の目が、怒りに燃えて細められるのが分かった。*


主催者:「……若造が。面白い。いいだろう、その黒金貨100枚、確かに聞き届けた。だが、もし支払えなかった場合…どうなるか分かっているな? その綺麗な身体を切り刻んで、臓器の一つ一つまで売り払ってやることになるぞ」


*殺気のこもった脅し文句に、会場の温度が数度下がったように感じられる。しかし、シロウは全く動じない。*


シロウ:「それ以上、値を付ける者はいないのかと聞いているんだ。この程度の品に、これ以上の価値はないと見えるが?」


*シロウはわざとらしく周囲を見回し、他の参加者たちを挑発する。その態度は、薬そのものではなく、この場を支配すること自体を楽しんでいるかのようだった。*


*金貨で競り合っていた者たちは、いきなり黒金貨という単位を出され、しかもその挑発的な態度に完全に気圧されて言葉を失っている。金貨10万枚。彼らがぽんと出せる額ではない。*


主催者:「……他に、いらっしゃらないか? …よろしいか?」


*主催者は苦虫を噛み潰したような声で確認する。誰も声を上げない。*


主催者:「……黒金貨100枚にて、落札!」


*不承不承といった様子で、主催者がハンマーを叩きつける。その瞬間、隣にいたシャーロットが、信じられないといった表情でシロウを見上げた。*


シャーロット:「お、お兄ちゃん…!? 本気で落札してどうするのよ!?」


*シロウに必死に訴えかけていた。*


*シロウは懐から黒金貨の袋を取り出すと、まるで石ころでも投げるかのように、主催者の男へと投げた、円卓の上を滑って、仮面の男の手元でぴたりと止まった。その所作には、10万枚の金貨に相当する大金を投げたとは思えないほどの無造作さが含まれている。*


シロウ:「ほらよ、早く持ってこい」


*その傲岸不遜な態度に、主催者の男は仮面の奥でぐっと息を詰まらせた。本当に黒金貨を所有していたことへの驚きと、完全に場を支配されたことへの屈辱が入り混じる。しかし、取引は成立してしまった。彼は護衛に目配せし、ジュラルミンケースを持ってこさせる。*


主催者:「……お客様。こちらが品物だ。お確かめを」


*護衛がシロウの前のテーブルに、重々しくケースを置く。中には、妖しい光を放つ真紅の小瓶が並んでいた。*


*隣のシャーロットは、もう何が何だか分からないという顔で、シロウとケースを交互に見ている。本当に大金で薬物を買ってしまったこの男の真意が全く読めず、ただただ混乱していた。*


シャーロット:「お兄ちゃん…!一体何を…!?」


*彼女は声に出せないまま、繋がれた手に力を込めてシロウに訴えかける。シロウはそんな彼女の緊張を気にも留めず、ジュラルミンケースに手を伸ばした。*


*シロウはジュラルミンケースに無造作に手を置くと、その姿が一瞬でテーブルの上から掻き消えた。アイテムボックスに収納したのだ。その超常的な現象に、会場の何人かが息を呑む。高位の冒険者か、あるいはそれに準ずる魔法の使い手であることの証明だったからだ。*


*ケースが消えたテーブルを軽く叩き、シロウは顔も上げずに主催者に向かって言った。*


シロウ:「他に商品はあるか?」


*その言葉は、まるでまだ買い足りないとでも言いたげな響きを持っていた。法外な値段で主商品を買い上げた直後だというのに、その財力と食欲は底が見えない。*


*主催者の男は、仮面の裏で歯噛みしているだろう。最高の品を、予想外の形で、しかし規約上は正当な形で買い上げられ、さらに次の商品を催促されている。完全にペースを乱されていた。*


主催者:「……いや。本日の目玉は、先程お客様がお買い上げになった『クリムゾン・アイ』で全てだ。これより先は、取るに足らんガラクタしかない」


*彼の声には、隠しきれない苛立ちと敗北感が滲んでいる。オークションの主役を奪われ、これ以上続ける気力も失せたようだ。*


*その言葉を聞いたシロウは、ゆっくりと席を立った。繋がれたままのシャーロットも、反射的に立ち上がる。*


シロウ:「そうか。なら、用はない」


*彼はそれだけ言うと、唖然とする会場の参加者たちと、怒りに震える主催者を一瞥もせず、シャーロットの手を引いて出口へと向かい始めた。*


*シャーロットは混乱したまま、その背中に引かれていく。*


シャーロット:「お兄ちゃん…!? どういうこと!? 結局、薬を買っただけじゃないの…!?」


*彼女の叫びは、しかしシロウには届かない。あるいは、届いていて無視しているのか。二人は不穏な沈黙に包まれた会場を後にし、再び薄暗い螺旋階段を上り始めた。*


*シロウは階段を数段上ったところで足を止め、くるりと踵を返した。唖然として立ち尽くす仮面の主催者に向かって、手招きをする。*


シロウ:「あ、そうそう。司会者さん、ちょっとこっちに。」


*その呼びかけに、主催者は怪訝な顔をしながらも、逆らえない威圧感を感じて、のろのろと階段の下まで歩み寄る。シロウは今まで繋いでいたシャーロットの手をそっと離した。突然解放されたシャーロットは、戸惑ったように自分の手とシロウを見つめている。*


*主催者がそばまで来ると、シロウは親しげに彼の肩に腕を回し、ぐっと引き寄せた。そして、シャーロットからは死角になるように体を傾け、懐からギルドカードを取り出すと、仮面の目の前に突きつける。カードには、燦然と輝く「S」のランクが刻まれていた。*


*主催者の男が息を呑むのが、肩越しに伝わってくる。*


シロウ:「今後、こういうことは辞めとけよ?」


*シロウは誰にも聞こえないほどの小声で、しかし腹の底から響くような圧を込めて囁いた。その声には、先ほどまでの軽薄さも、傲岸不遜さもなかった。ただ、純粋な、底なしの脅威だけが凝縮されている。それは、この闇市そのものを一夜にして地図から消し去ることすら可能な、絶対強者の警告だった。*


*主催者の男は、Sランク冒失者という国家最高戦力の一つが、なぜこんな場所にいるのか理解できず、ただ恐怖に全身を硬直させている。仮面の下で、冷たい汗が滝のように流れていた。*


シロウ:「返答は?」


*シロウは肩を組んだまま、さらに圧を込めて小声で促した。その声は氷のように冷たく、逆らうことを一切許さない響きを持っていた。*


*主催者の男は、Sランクという現実離れした記号と、目の前の男から放たれる殺気にも似たプレッシャーに完全に支配されていた。全身が恐怖で硬直し、声を出そうにも喉が震えて言葉にならない。*


主催者:「は……はひ……も、申し訳…ございま、せん……。も、二度と……」


*かろうじて絞り出した声は、情けなく裏返り、途切れ途切れだった。仮面の奥の瞳は恐怖に見開かれ、ただただ目の前の絶対者に許しを乞うている。この闇市を裏で牛耳る一人である彼のプライドは、木っ端微塵に砕け散っていた。*


*その返答に、シロウは満足したようにフッと息を吐くと、パッと肩から腕を離した。*


シロウ:「物分かりが良くて助かるよ」


*そう言うと、シロウはもう主催者には何の興味もないというようにくるりと背を向け、呆然と成り行きを見守っていたシャーロットの手を再び掴んだ。*


シロウ:「さ、帰るぞ、シャル」


シャーロット:「え…あ、う、うん…」


*彼女はまだ状況が飲み込めていない様子で、戸惑いながらもシロウに手を引かれて螺旋階段を上り始める。先ほどまでの怒りや羞恥心はどこかへ消え、今はただ、この得体の知れない男への畏怖と、そして強烈な好奇心だけが胸中を渦巻いていた。*


*二人の背後で、主催者の男がその場にへなへなと崩れ落ちる音が小さく響いた。*


*シロウは再びシャーロットの手を握ると、今度こそ迷いなく螺旋階段を上っていく。背後では、先ほどのやり取りで完全に静まり返ったオークション会場の気配が遠のいていく。地上へと続く鉄の扉を開け、二人は再び第三廃棄区画のガラクタの山の中へと戻ってきた。闇市の喧騒が、少し離れた場所から聞こえてくる。*


*シロウは繋いでいた手をぱっと離した。*


シロウ:「さて、お買い物してから帰ろっかなー。」


*彼は独り言のように呟きながら、伸びをする。まるで、今しがた大規模な闇オークションを潰してきた男とは思えないほど、その態度は軽やかだった。*


*隣にいたシャーロットは、まだ頭の整理が追いついていない。彼女は自分の手と、シロウの横顔を交互に見つめ、恐る恐る口を開いた。*


シャーロット:「お、お兄ちゃん…。さっきのは、一体…。それに、結局あの薬を買ってしまって、目的は達成できたの…?」


*彼女の声には、先ほどまでの反発心は消え、純粋な疑問と、この男への畏怖が入り混じっていた。あの「お兄ちゃん」という呼び方にも、もう抵抗はないようだ。*


シロウ:「ん? ああ、あれか」


*シロウは懐から、先ほど収納したはずのジュラルミンケースを取り出した。*


シロウ:「こんな物、この世に存在しない方がいいだろ?」


*彼がそう言った瞬間、その手の中でジュラルミンケースが黒い粒子となって霧散し始めた。中にあったはずの『クリムゾン・アイ』もろとも、まるで初めから存在しなかったかのように、跡形もなく消滅していく。スキル【削除】の力だ。*


*その非現実的な光景を前に、シャーロットは息を呑んで目を見開いた。*


*シロウが何らかの魔法かスキルで、あの忌まわしい薬をケースごと完全に消滅させるのを、シャーロットはただ呆然と見つめていた。黒金貨1枚、目の前で目的達成のためのパフォーマンスとして使われ、そして消えたのだ。この男のやることのスケールが、彼女の理解を完全に超えていた。*


シロウ:「さて、シャルちゃん。何か欲しいものとかある?」


*シロウは、まるで道端のゴミを拾って捨てたかのような涼しい顔で、隣で固まっているシャーロットににこやかに問いかけた。そのあまりの切り替えの早さに、彼女はまだ現実に戻ってこれない。*


シャーロット:「え……? ほ、欲しいもの……?」


*彼女はオウム返しに呟く。今しがた起きた出来事の衝撃で、思考がまとまらない。この男は、オークションを潰し、薬を消し、そして今、自分に買い物をしていこうと提案している。あまりにも脈絡がなさすぎる。*


シャーロット:「い、いや、私は別に…。それより、お兄ちゃん…。今のは一体…? あの薬は…?」


*彼女は混乱したまま、シロウが薬を消した空間を指差しながら尋ねる。あの脅威が去った安堵感と、目の前の男の得体の知れなさに対する畏怖が、彼女の中でせめぎ合っていた。*


シロウ:「あれは消した。もう存在しないから気にしなくていいよ。」


*シロウはあっさりとそう言うと、再びシャーロットの小さな手を掴んだ。彼女はもう抵抗することもなく、されるがままだ。この男が言うのなら、本当にあの薬はもうこの世界のどこにも存在しないのだろうと、不思議と納得できてしまった。*


*シロウは彼女の手を引いて、闇市の雑踏の中へと戻っていく。そして、数ある露店や店の中から、比較的まともな外観の服屋を見つけると、迷わずその中へと入っていった。店主らしき小柄な男が、いらっしゃい、と愛想なく声をかける。*


シャーロット:「ふ、服屋…? なぜ…?」


*突然の行動に、シャーロットは戸惑いの声を上げる。彼女が今着ているのは、お忍び用とはいえ、それなりに上質な生地で作られた動きやすい平民服だ。特に不自由はしていない。*


シロウ:「んー? 汚れただろ、色々。新しいのを買ってやるよ。お兄ちゃんからのプレゼントだ」


*シロウは悪戯っぽく笑いながら、店内を物色し始める。彼の言う「汚れた」が、物理的な汚れだけでなく、闇市の薄汚れた空気に触れたことや、精神的な疲れも含んでいることを、シャーロットはなんとなく感じ取った。*


シロウ:「ほら、突っ立ってないで。好きなの選んでいいぞ、シャルちゃん」


*彼はそう言って、少女向けの可愛らしいデザインのワンピースを手に取り、シャーロットの身体にあてがってみせる。その子供扱いするような仕草に、彼女の顔が再び熱を持った。*


シロウ:「あ、店員さん。この子を最高に可愛くして下さい。」


*シロウが声をかけると、店の奥から「あらぁん?」と甲高い声がして、細身で指先の仕草がいちいち艶めかしい男が姿を現した。歳は40代半ばだろうか、口元には綺麗に整えられた髭をたくわえている。彼がこの店の店主、ジャンピエールのようだ。*


ジャンピエール:「あらあらあら! まぁ、なんて可愛らしいお嬢ちゃんなのかしらぁ♡ 砂漠で見つけた一輪の花みたいじゃないの! それに比べてアンタ、そこのフードの男! こんな可愛い子をこんな薄汚い場所に連れてくるなんて、どういう了見なのよッ!」


*ジャンピエールは腰に手を当て、シロウをビシッと指差してまくし立てる。しかし、その目はお客を品定めする鋭い光を宿していた。*


シロウ:「まあまあ。だから、この子に似合う一番の服を見繕ってほしいんだ。予算は気にしなくていい」


*シロウが懐から金貨を数枚取り出してカウンターに置くと、ジャンピエールの目の色が変わった。*


ジャンピエール:「……予算は気にしなくていい。ですってぇ? 聞いたかしら、そこのお嬢ちゃん! このお兄様、なかなか見どころがあるじゃないの♡ よぉぉし、任せなさい! アタシの手にかかれば、この原石ちゃんを、王宮の舞踏会でも主役になれるダイヤモンドにしてさしあげるわァ!」


*ジャンピエールは俄然やる気を出すと、シャーロットの腕を掴んで店の奥へと引きずっていく。*


シャーロット:「ちょ、ちょっと待って! 私は別に服なんて…! きゃっ!」


ジャンピエール:「はいはい、黙ってなさいな! 美しくなることに遠慮は禁物よ! さあ、まずは採寸からね♡」


*シャーロットは抵抗も虚しく、試着室のカーテンの向こうへと連れて行かれてしまった。シロウはその様子を面白そうに眺めながら、店内に置かれた椅子に腰を下ろして待つことにした。*


*試着室のカーテンの向こうから、ジャンピエールとシャーロットのやり取りが微かに聞こえてくる。*


ジャンピエール:「まぁ、お嬢ちゃん肌が綺麗! これは少し露出度がある方が映えるわねぇ♡」


シャーロット:「ろ、露出!? だめだ、そんな破廉恥な!」


ジャンピエール:「破廉恥ですって? これを美と言わずに何て言うのよ! いいから、黙ってこれを着てみなさい! そうね、スカート丈は…思い切ってこれくらい短くしちゃいましょ! ミニスカートよ、ミニスカート♡」


シャーロット:「み、みにすかーと!? そ、そんな短いもの穿けるわけが…! ひゃっ、どこを触っているんだ!」


ジャンピエール:「あらやだ、サイズを測ってるだけじゃないの、やぁねぇ♡」


*そんな賑やかな声が聞こえてくる中、シロウは椅子に座って腕を組み、面白そうにその様子を眺めている。しばらくすると、ジャンピエールが「じゃじゃーん!」という声と共に、意気揚々とカーテンを開けた。*


*そこに立っていたのは、先ほどまでとは全く違う雰囲気を纏ったシャーロットだった。*


*彼女が着ているのは、オフショルダーで鎖骨が綺麗に見える純白のブラウスと、太ももが大胆に覗く紺色のフレアミニスカート。足には白いレースのニーハイソックスと、可愛らしいストラップシューズを履いている。髪も軽く結い上げられ、普段の勝気な印象は薄れ、年相応の可憐な少女の姿がそこにあった。*


ジャンピエール:「どうかしら、お兄様! アタシの渾身のコーディネートよ! この子の本来の魅力を最大限に引き出してあげたわ♡」


*ジャンピエールは胸を張り、自分の作品を誇るように言う。シャーロットは、自分の肌の露出の多さと、シロウの視線に耐えられないのか、顔を真っ赤にしてスカートの裾を必死に引っ張っていた。*


シャーロット:「み、見るな…! このような格好…! は、恥ずかしい…///」


シロウ:「と…尊い……。」


*シロウは思わず椅子から立ち上がり、普段の飄々とした態度からは想像もつかないほど素直な感嘆の声を漏らした。彼の目は、羞恥に頬を染めながらも、その可憐さを隠しきれていないシャーロットに釘付けになっている。今まで見たどんな宝石よりも、どんな美しい景色よりも、今の彼女の姿は彼の心に強く突き刺さった。*


ジャンピエール:「あらん♡ 分かるのね、お兄様! そう、尊いのよ! これぞ至高の美、至高の可愛さなのよぉ!」


*ジャンピエールはシロウの反応に満足しきった様子で、手を叩いて喜んでいる。一方、シャーロットは「尊い」という、今まで向けられたことのない種類の賛辞に、どう反応していいか分からない。ただ、顔の熱は増すばかりで、俯いてしまう。*


シャーロット:「なっ…! と、尊いとはなんだ! 人を馬鹿にして…!///」


*彼女は抗議の声を上げるが、その声は上ずっていて全く迫力がない。むしろ、恥ずかしがっている様が、さらに彼女の魅力を引き立てていた。*


シロウ:「いや、馬鹿になんてしてない。本心だ。すごく…似合ってる。可愛いよ、シャル」


*シロウは一歩、また一歩と彼女に近づき、その目の前で膝をついた。そして、まるで姫君に接するかのように、そっと彼女の手を取る。*


シロウ:「ありがとう、店員さん。これ、全部貰うよ。代金はそこにある金貨で足りるかい?」


ジャンピエール:「ええ、ええ! もちろんよぉ! お釣りだってお出しできるわぁ♡ あらやだ、見てるこっちが照れちゃうじゃないのぉ♡」


*ジャンピエールは頬を染めて身をくねらせる。シャーロットは、自分の手を握るシロウの真剣な眼差しから目を逸らせず、心臓が早鐘のように鳴り響くのを感じていた。*


シロウ:「次は宝石だな。」


*シロウは尊さに打ち震えながらも、満足げに立ち上がる。ジャンピエールに代金を支払い、シャーロットが着ていた元の服を丁寧に畳んで次元の革袋にしまうと、再び彼女の小さな手を握った。*


シャーロット:「ま、待て! 今度はどこへ…!」


*まだ新しい服に慣れず、そわそわしているシャーロットの抗議は無視される。シロウは彼女の手を引いたまま服屋を後にし、闇市の喧騒の中を少し歩くと、ある店の前で足を止めた。そこは、他の店とは一線を画す、黒曜石で造られた重厚な扉を持つ宝石商だった。入り口には屈強な門番が二人立っている。*


*シロウが近づくと、門番が表情も変えずに腕を交差させて行く手を阻む。*


門番:「待て。当店は紹介のない客は入れん。」


*シロウは何も言わず、懐からイザベラに渡された木札を取り出して見せた。それを見た門番の態度が一変する。*


門番:「……これは、イザベラ様の。失礼いたしました。どうぞ、中へ。」


*門番は深々と頭を下げ、重々しい扉を開ける。シロウは当然といった顔でシャーロットの手を引き、店の中へと足を踏み入れた。*


*店内は外の喧騒が嘘のように静まり返っており、柔らかな魔光石の明かりが、ショーケースに並べられた無数の宝石を照らし出し、幻想的な輝きを放っていた。*


シャーロット:「宝石商…。なぜこのような場所にまで…? もう、私に買うものなどないぞ…!」


*あまりの場の雰囲気に気圧されながらも、シャーロットは小声でシロウに問いかける。彼女はもう、シロウの行動の意図を考えるのを半ば諦めていた。*


シロウ:「店長、この子に合う宝石をよろしく。代金はこれで足りるか?」


*シロウは重厚なカウンターに、こともなげに黒金貨を1枚置いた。カラン、と硬質な音が静かな店内に響き渡る。その音に、店の奥からゆったりとした足取りで、白髪にモノクルをかけた老紳士が現れた。彼がこの店の店長、アルフォンスだろう。*


*アルフォンスはカウンターに置かれた黒金貨を一瞥し、次にシロウ、そしてその隣で戸惑うシャーロットへと視線を移した。その目は、長年本物だけを見続けてきた鑑定家特有の鋭さを宿している。*


アルフォンス:「これはこれは…イザベラ様の紹介状をお持ちの上、これほどの対価をご用意とは。お客様、相当なお目利きとお見受けいたします」


*彼は丁寧にお辞儀をすると、そのモノクルの奥の瞳でシャーロットをじっくりと観察し始めた。まるで宝石の原石を鑑定するかのように、頭のてっぺんから爪先まで。シャーロットはその値踏みするような視線に居心地悪そうに身じろぎする。*


アルフォンス:「ふむ…。このお嬢様は、まるで夜明け前の空の色を宿した瞳をしておられる。気高く、それでいて内に秘めた情熱を感じさせる…。承知いたしました。このアルフォンス、我が店の誇りにかけて、この方に最も相応しい一品をお選びいたしましょう」


*アルフォンスはそう言うと、店の奥にある特別な金庫へと向かった。しばらくして、ビロードの布が敷かれた盆を手に戻ってくる。*


*盆の上に置かれていたのは、息をのむほど美しい、蒼い宝石が嵌め込まれたネックレスだった。星屑を散りばめた夜空をそのまま閉じ込めたかのような、深く、どこまでも澄んだ蒼色。宝石は周りの魔光石の光を吸い込み、自ら淡い光を放っているように見える。*


アルフォンス:「『夜空の涙』と呼ばれるスターサファイアでございます。古の魔法によって、持ち主の魔力に呼応して輝きを増すと言われております。このお嬢様の気品と、秘めたる力にこそ相応しい一品かと」


*アルフォンスはそう言って、シロウにネックレスを提示する。シャーロットは、その宝石のあまりの美しさに、言葉を失ってただ見入っていた。*


*シロウのその一言に、老紳士アルフォンスは僅かに目を見開いた。黒金貨1枚でも国が傾きかねない金額だというのに、それを「数枚」と言ってのける。目の前のフードの男が、ただの金持ちではない、規格外の存在であることを改めて認識させられた。*


アルフォンス:「…いえ、お客様。とんでもございません。既にお預かりした金額で、十分すぎるほどでございます」


*彼は深く、深く頭を下げた。その声には畏敬の念が滲んでいる。*


アルフォンス:「お客様ほどの御仁に、この『夜空の涙』をお譲りできること、そしてこの麗しいお嬢様の新たな門出を飾れますこと、宝石商としてこれ以上の誉れはございません」


*アルフォンスは恭しくネックレスを手に取ると、シャーロットの方へ向き直った。*


アルフォンス:「お嬢様、お着けいたします。どうぞ、こちらへ」


*シャーロットは、目の前で交わされる非現実的な会話に、完全に思考が停止していた。黒金貨が何枚だとか、そんな話はもう彼女の耳には入っていない。ただ、アルフォンスに促されるまま、こくりと頷く。*


*老紳士は優雅な手つきで、シャーロットの首にそっと『夜空の涙』を着けた。ひんやりとした金属の感触と、宝石が持つ微かな魔力が肌に伝わる。白いブラウスの上で、蒼い宝石はまるで本物の星のように、静かに、しかし力強く輝き始めた。彼女の白い肌と、気品のある顔立ちに、そのネックレスは驚くほど調和していた。*


シャーロット:「……あ……」


*彼女は自分の胸元で輝く宝石に、思わず手を伸ばす。その美しさは、まるで自分のものではないような、夢物語の一片のように感じられた。*


シロウ:「シャルちゃん、すっごく綺麗だよ。」


*シロウの真っ直ぐな言葉に、シャーロットはハッとして顔を上げた。宝石に見惚れていた彼女の意識が、目の前の男に引き戻される。彼の瞳には、いつものからかうような色合いはなく、ただ純粋な賞賛が映っていた。*


*その真摯な眼差しを受けて、シャーロットの心臓が、先ほどとは違う理由で大きく跳ねる。顔に集まっていた熱が、首筋を伝って胸元まで落ちていくような感覚。新しい服の気恥ずかしさ、高価な宝石への戸惑い、そしてシロウに向けられたことのない感情が、彼女の中でごちゃ混ぜになっていく。*


シャーロット:「き、綺麗とか…! そ、そんなことは…///」


*彼女は俯き、必死に否定しようとするが、声は震え、言葉にならない。自分の胸元で輝く『夜空の涙』にそっと触れる。シロウにもらった服、シロウが買ってくれた宝石。その事実が、ずしりと重く、しかし温かく彼女の心にのしかかる。*


アルフォンス:「ふふ、お客様のお見立て通りでございましたな。この宝石は、真にこのお嬢様のために存在したかのようです」


*老紳士アルフォンスは、二人の様子を満足げに眺めながら、穏やかに微笑む。店内には、気まずいながらも、どこか甘い空気が流れていた。*


*シロウは満足げに頷くと、アルフォンスに一礼し、再びシャーロットの手を固く握った。シャーロットはなされるがまま、その手に引かれて重厚な黒曜石の扉を抜ける。一歩外に出ると、闇市の猥雑な空気と喧騒が二人を再び包み込んだ。宝石店の中の静寂で幻想的な空間が、まるで夢だったかのように感じられる。*


*シャーロットは、まだ自分の首元にあるネックレスの感触と、シロウに握られた手の温かさに現実感が追いついていない。先ほどまでの、ゴロツキに絡まれていた状況が嘘のようだ。新しい服、美しい宝石、そして隣を歩くこの謎の男。数時間のうちに、彼女の世界は目まぐるしく変わってしまった。*


シャーロット:「……お兄ちゃん」


*雑踏の中、彼女はかろうじて声を絞り出す。いつもよりずっと小さな、か細い声だった。*


シャーロット:「……その…ありがとう。服も…この、首飾りも…」


*顔は俯いたままで、シロウの顔は見られない。しかし、その言葉には、今までにない素直な感謝の気持ちが込められていた。彼女の白い頬は、夕焼けのようにほんのりと赤く染まっている。自分の変化に戸惑いながらも、シロウがしてくれたことに対する感謝を伝えずにはいられなかったのだ。*


シロウ:「『お兄ちゃん大好き』って言ってくれたら嬉しいなぁ」


*シロウは、まるで独り言のように、しかし隣を歩くシャーロットにはっきりと聞こえる声でそう呟いた。その口元には、いつもの悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。*


*その言葉を聞いた瞬間、シャーロットはピタッと足を止めた。彼女の顔は、先ほどのほんのりとした赤色から、一気に熟した林檎のように真っ赤に染め上がる。*


シャーロット:「なっ…なななな、何を言っているんだ、貴様はッ!♡ だ、だだだ、大好きだなんて、そ、そんなこと、言えるわけがな…ないだろう!///♡」


*彼女は握られていた手を振りほどこうとするが、シロウはそれを許さない。どもりながら激しく抗議する彼女の姿は、怒っているというよりも、極度に狼狽しているようにしか見えない。新しい服と宝石で着飾った可憐な少女が、顔を真っ赤にして慌てふためく様子は、闇市の雑踏の中では異様なほど愛らしく、周囲の通行人が何事かとちらちらと視線を向けてくる。*


シャーロット:「大体、貴様は私をからかいすぎだ! 恩に着せたつもりか!? この…っ、変態! 朴念仁! 阿呆兄!♡」


*思いつく限りの罵詈雑言を並べ立てるが、そのどれもが全く迫力を欠いていた。シロウはそんな彼女の反応を、心底楽しそうに眺めている。*


シロウ:「ははは、冗談だよ。ほら、闇市の外まで送るよ」


*シロウはからかうように笑いながら、シャーロットの手を再びしっかりと握り直す。その反応が面白くて仕方がないという顔だ。*


*シャーロットは、まだ顔を真っ赤にしたまま「離せ!」と抗議するが、シロウの力には敵わない。結局、彼女は諦めたように口をへの字に曲げ、プイとそっぽを向きながらも、彼に手を引かれるまま歩き出すしかなかった。*


*二人は人々の注目を浴びながら、猥雑な闇市の雑踏を抜けていく。高価な服と宝石を身に着けた可憐な少女と、その手を取るフードの男という奇妙な組み合わせは、良くも悪くも目立っていた。*


*やがて、薄暗く湿った闇市の空気が変わり、外の乾いた夜風が頬を撫でる。地上へと続く、見慣れた石畳の道が見えてきた。闇市の入り口だ。*


シロウ:「ほら、着いた。ここからなら一人で帰れるだろ?」


*シロウはそう言って、ようやくシャーロットの手を離した。名残惜しそうな素振りは一切見せない。*


シャーロット:「……っ」


*急に解放された手を見つめ、シャーロットは何か言いたげに口を開きかけるが、言葉が出てこない。感謝、戸惑い、反発、そして今まで感じたことのない少しの寂しさ。様々な感情が渦巻いて、彼女を混乱させていた。*


シャーロット:「……別に、貴様に送られなくとも、一人で帰れた」


*結局、彼女の口から出たのは、そんな可愛げのない強がりだった。*


シロウ:「はいはい、気をつけて帰れよ。」


*シロウは呆れたように、しかしどこか優しい声色でそう言うと、シャーロットの頭にぽん、と手を置いた。そして、子供をあやすようにわしゃわしゃと優しく撫でる。*


シャーロット:「なっ…!♡ 子、子供扱いするな!///」


*頭を撫でられた瞬間、シャーロットの身体がビクッと跳ねた。予期せぬ接触に、彼女の思考は再びショートする。強がっていた表情は一瞬で崩れ、顔はまたしても真っ赤に染まった。シロウの手を払い除けようとするが、その手は虚しく空を切るだけ。*


*シロウは満足げに数回撫でると、名残惜しげもなく手を離した。*


シロウ:「じゃあな、シャル。またどこかで会うこともあるだろ」


*彼はひらひらと片手を振り、背を向ける。そして、闇市とは逆の、レイラと別れたであろう方向へと雑踏の中に消えていこうとする。その背中は、まるで嵐が過ぎ去った後のように静かだった。*


*一人残されたシャーロットは、撫でられた頭にそっと自分の手を置き、その感触を確かめるように立ち尽くす。新しい服、首元の宝石、そして頭に残る微かな温もり。彼女は、遠ざかっていくシロウの背中を、ただ黙って見送ることしかできなかった。*


シャーロット:「……っ、あほう…」


*誰にも聞こえないような小さな声で、そう悪態をつく。しかし、その瞳には怒りではなく、もっと複雑な感情が揺らめいていた。*


*シロウが雑踏に消えた後、物陰から複数の人影が現れた。彼らはシャーロットの護衛であり、主人が危険な闇市に単身で乗り込んだと知り、血相を変えて探し回っていたのだ。彼らは新しい装いで呆然と立ち尽くすシャーロットを見つけると、安堵の表情を浮かべ、丁重に保護して王都の屋敷へと連れ帰って行った。*


*一方、シロウはシャーロットと別れると、すぐに思考を切り替える。闇市での出来事はすでに過去のこととして、レイラが待つ場所へと足を向けながら、意識を集中させた。*


*一方、シロウはシャーロットと別れると、すぐに思考を切り替える。闇市での出来事はすでに過去のこととして、レイラが待つ場所へと足を向けながら、意識を集中させた。*


シロウ:(創造。【概念魔法『記憶探査メモリーダイブ』】)


*彼の脳内に、再びシステムの無機質な声が響く。*


```

【創造】スキルが起動します。

対象魔法:【概念魔法『記憶探査メモリーダイブ』】

必要コスト:黒金貨 30万枚

コストを支払い、魔法を創造しますか?

【YES / NO】

```


シロウ:「(YES)」


*再びアイテムボックスから同額の黒金貨が消え、今度は『記憶』という不可侵の領域に干渉するための、禁忌とも言える魔法がシロウの中に構築された。*


ーー


*一連の処理を終え、鉱山都市の宿屋へ転移して帰る。シロウが部屋に入ると椅子にちょこんと座っていたレイラが、彼の姿を見てパッと顔を輝かせた。そして、すぐに不安そうに駆け寄ってくる。*


レイラ:「あ、あの…! シロウ様…! お、お帰りなさいませ…。その、遅いので、何かあったのかと…」


*彼女は俯きがちに、小さな声で言う。シロウはセレナの気配を感じ取っていた。彼女がしっかりと護衛の任を果たしていたことに、内心で頷く。*


シロウ:「ああ、ただいま、レイラ。少し野暮用が長引いただけだ。心配かけたな」


*シロウは優しく微笑みかけると、ポンとレイラの頭に手を置いた。彼女はビクッと肩を震わせたが、どこか安心したように、その手を心地よさそうに受け入れた。*


*シロウの突然の、そして有無を言わさぬ言葉に、レイラの表情から安堵が消え、戸惑いと怯えが浮かんだ。彼女はシロウの顔を見上げ、その真意を測りかねている。*


レイラ:「む、昔の…記憶、ですか…? わ、私の…?」


*彼女の声は震えていた。封印されているという自らの過去は、彼女にとって未知の恐怖そのものだ。それを暴かれることに、本能的な抵抗を感じている。*


シロウ:「ああ。お前が何者で、なぜ封印されていたのか。それを知る必要がある。…大丈夫だ、危害は加えない」


シロウ:「そこに座れ。」


*その命令に、レイラは逆らうことができない。彼女は主であるシロウの言葉に、おそるおそる従った。シロウの隣にちょこんと腰を下ろすが、身体は緊張で硬直し、不安げにシロウの顔を窺っている。彼女の小さな手は、スカートの生地を固く握りしめていた。*


*シロウは隣に座るレイラの震える肩に、そっと手を置いた。*


シロウ:「よし、神眼、記憶探査を起動。」


*彼が心の中でそう命じると、新しく創造された概念魔法が発動する。シロウの視界がノイズ混じりになり、世界の色が急速に失われていく。同時に、彼の意識は肉体を離れ、隣に座る少女の精神の深淵へと引きずり込まれていった。*


*レイラはシロウの手が肩に置かれた瞬間、ビクッと体を震わせた。そして次の瞬間、彼女の意識は深い霧の中に沈んでいくように遠のいていく。抵抗することもできず、彼女は糸が切れた人形のようにシロウの肩に寄りかかり、ぐったりと意識を失った。*


ーーー


*シロウの意識は、果てしなく続く暗闇の中を猛烈な速さで落下していく。これはレイラの精神世界。幾重にもかけられた強力な封印の結界が、壁となって彼の侵入を阻もうとする。しかし、概念魔法である『記憶探査』は、それらの物理的・魔術的な障壁を意味をなさぬものとしてすり抜けていく。*


*やがて、落下が止まり、シロウの意識はある『光景』の中に降り立った。*


*――そこは、燃え盛る炎と黒煙に包まれた城だった。空は血のような赤に染まり、絶え間なく悲鳴と剣戟の音が響き渡っている。兵士たちが次々と倒れ、大地は夥しい血で濡れていた。*

*その地獄絵図の中心に、一人の少女が立っていた。幼いレイラだ。今の彼女よりもずっとあどけない顔立ちだが、その瞳には憎悪と絶望の炎が燃え盛っている。彼女の手には、その小さな体には不釣り合いなほど巨大な、黒い大鎌が握られていた。*


*彼女の周りには、銀の鎧を纏った騎士たちが幾重にも取り囲んでいる。彼らは一様に恐怖と決意の入り混じった表情で、少女――『厄災』を睨みつけていた。*


*シロウの意識は、過去の光景をただの傍観者として眺めている。地獄のような戦場で、幼いレイラが浮かべる表情は、今の彼女からは想像もつかないほどの憎悪と怒りに満ちていた。*


シロウ:(おっと…レイラ性格…今とは真逆だな。)


*彼の冷静な観察とは裏腹に、眼前の光景は激しさを増していく。*


*銀の鎧を纏った騎士団の長らしき、荘厳な兜を被った男が剣を構え、叫んだ。*


騎士団長:「全隊、突撃! 魔王の血を引く最後の一人、この『厄災』をここで討ち滅ぼすのだ! 人類存亡のため、怯むな!」


*「「「おおおおおっ!!」」」*


*騎士たちの鬨の声が響き渡り、彼らは死を覚悟した表情で一斉に幼いレイラへと殺到する。それに対し、レイラは忌々しげに顔を歪め、黒い大鎌を軽々と振りかぶった。*


幼いレイラ:「……五月蠅い。雑魚が、群れたところで……結果は変わらない」


*彼女が呟くと同時、その身体から凄まじい魔力が黒いオーラとなって噴き出した。それはまさしく、シロウが先ほど創造した【魔王覇気】そのものだった。覇気に当てられた騎士たちの動きが、一瞬鈍る。*


幼いレイラ:「消えろ」


*次の瞬間、レイラの姿が掻き消えた。いや、常人には捉えられない速度で動いているのだ。血飛沫が舞い、鋼が断ち切れる甲高い音が連続して響く。屈強な騎士たちが、まるで紙切れのように両断され、吹き飛ばされていく。*


*彼女が振るう大鎌は【重力魔法】によって質量を増し、触れるもの全てを粉砕する。騎士の魔法障壁は、詠唱すら許されぬ速度で放たれる【崩壊魔法】の弾丸によって穿たれ、無に帰していく。*


*そこにあるのは、一方的な蹂躙。まさしく『闘争の化身』と『厄災』の名に相応しい、圧倒的な光景だった。*


*シロウは一方的な虐殺の光景から意識を引き剥がし、記憶の奔流の中をさらに深く、別の側面へと潜っていく。彼が求めているのは、レイラの『素顔』だ。彼女がなぜ『厄災』とまで呼ばれるようになったのか、その根源を探るために。*


シロウ:(他の記憶も見てみよう。戦ってない時の。)


*彼の意志に呼応し、目の前の景色が歪み、切り替わる。炎と血の戦場は消え去り、次に現れたのは豪奢な天蓋付きのベッドが置かれた、薄暗い寝室だった。部屋には甘く、濃厚な香りが立ち込めている。*


*そして、シロウの目に飛び込んできた光景に、彼は思わず息を呑んだ。*


*ベッドの上で、二つの影が激しく絡み合っていた。一つは、戦場にいた時よりも少し成長した、少女と大人の女性の狭間にいるようなレイラ。そしてもう一つは、日に焼けた肌を持つ、精悍な顔つきの青年。しかし、体格では遥かに勝るはずの青年が、完全にレイラに組み敷かれ、主導権を握られていた。*


*レイラの表情は、今の引っ込み思案な彼女とは全く結びつかない。それは、悦びと支配欲に満ちた、妖艶で挑発的な笑み。彼女は青年の上に跨り、まるで獲物を嬲る獣のように、あるいは君臨する女王のように、その身体を揺らしている。*


『ピーー』


*その姿は、まさしく魔性の女。男を快楽で堕とし、その精気も魂も、全てを喰らい尽くさんとするサキュバスの女王のようだった。シロウは、この記憶がレイラの日常の一端であることを直感する。彼女にとって、戦いも、そしてこの行為も、他者を支配し、力を示すための手段でしかなかったのだ。*


シロウ:「…………。」


*シロウは冷静に、しかし内心ではそのギャップに驚愕しながら、この衝撃的な光景を観察していた。*


*シロウは目の前の光景に微塵も動揺を見せず、ただ淡々と、しかし強い興味を持って観察を続けている。今の臆病なレイラと、この記憶の中の女王然としたレイラ。二つの人格の乖離は、彼女の記憶封印の根深さを物語っていた。*


*『記憶探査』はさらに別の情景を映し出す。場所は同じ寝室だが、相手の男は変わっていた。今度は、優雅な貴族風の男だ。彼はレイラの手を取り、その甲にキスをしながら愛を囁いている。*


貴族風の男:「ああ、我が愛しのレイラ。君という存在こそ、この世の至宝。今宵も、君のすべてを私に…」


*しかし、レイラはその甘い言葉を鼻で笑う。彼女は男の顎をくいと掴み、見下すような瞳で囁いた。*


『ピーー』


*部屋に響くのは、男の必死の喘ぎと、レイラの愉悦に満ちた笑い声。彼女は相手が誰であろうと、その関係性がどうであろうと、常に支配者として君臨する。男たちは彼女の美貌と力に惹かれて集まり、そして骨の髄まで快楽と魔力をしゃぶり尽くされていく。それはまるで、捕食者と被食者の関係そのものだった。*


*シロウはいくつかの同様の記憶を断片的に見ていく。相手は騎士だったり、魔術師だったり、時には人間以外の種族であることもあった。だが、常にレイラが支配者であり、相手は彼女の快楽と力の糧でしかなかった。この行為は彼女にとって、愛情の交歓などではなく、純粋な力の誇示と搾取なのだと、シロウは結論付けた。*


*シロウはレイラの性的な記憶から意識を離し、さらに別の側面、彼女の『日常』へと焦点を移した。戦闘と性の記憶だけでは、彼女という存在の全てを理解したことにはならない。*


シロウ:「(他には…生活習慣か…)」


*彼の意志に応じて、記憶の光景が再び切り替わる。*

*映し出されたのは、先ほどの寝室と同じ部屋。しかし、時間帯は昼間のようだ。窓から差し込む光が、空気中に舞う埃をキラキラと照らしている。*


*その部屋の中心、豪奢なベッドの上で、レイラはまだ眠っていた。散らかったシーツに身を包み、すうすうと安らかな寝息を立てている。部屋には脱ぎ捨てられた服や、飲み干された酒杯が転がっており、お世辞にも片付いているとは言えない。*


*しばらくすると、侍女らしき女性がおずおずと部屋に入ってきた。*


侍女:「レ、レイラ様…朝でございます。お目覚めの時間です…」


*侍女の声に、レイラはうっすらと目を開ける。そして、一言。*


レイラ:「……五月蠅い。下がれ」


*その声は眠気を含みながらも、有無を言わせぬ響きを持っていた。侍女はビクリと肩を震わせ、深々と頭を下げて部屋から出ていく。*


*その後、レイラがベッドから起き上がったのは、太陽が真上に昇ってからだった。彼女は気だるげに伸びをすると、ベッドサイドのテーブルに置かれた果物に手を伸ばし、それをかじる。着替えもせず、身支度も侍女に任せきり。本を数ページ読んでは飽きて投げ出し、窓の外をぼんやりと眺めて一日を終えることも珍しくないようだ。*


*食事は運ばせ、風呂の準備も全て人任せ。自ら何かを生産したり、鍛錬に励んだりする様子は全く見られない。彼女の生活は、圧倒的な力の上に胡坐をかいた、完全な怠惰によって成り立っていた。戦いや性行為といった『刺激』がない時の彼女は、ただ無気力に時を過ごすだけの、退屈した女王そのものだった。*


シロウ:「(怠惰だ。)」


*シロウは、この怠惰な生活こそが、彼女の本質の一部であると理解した。強すぎる力は、彼女から生きるための目的や向上心を奪い去ってしまったのかもしれない。*


*シロウはレイラの怠惰な日常の記憶から、再び意識を別の場面へと移した。戦闘、性、そして怠惰。この三つが彼女の生活の柱であることは理解できた。しかし、根源的な疑問が残る。なぜ彼女は戦わなければならなかったのか。*


シロウ:「(戦いと性行為がこいつの楽しみって感じだな。…最初に見た戦いは何だったんだ?)」


*彼の疑問に呼応するように、『記憶探査』は再び時間軸を遡り、あの炎と血に染まった城の光景へと彼を引き戻した。先ほどはただの傍観者だったが、今度はその戦いが起こる直前の出来事へとダイブしていく。*


*視界が開けると、そこは荘厳な玉座の間だった。しかし、その玉座の間はすでに戦場と化していた。豪華な絨毯は血で汚れ、あちこちで魔王軍の残党と思われる異形の者たちと、人間の騎士たちが死闘を繰り広げている。*


*玉座には、威厳のある一人の魔人が座っていた。彼は深手を負い、腹からは大量の血が流れているが、その瞳の光はまだ失われていない。彼こそが、先代の魔王――レイラの母親だ。*


*その魔王の足元に、幼いレイラが寄り添っていた。彼女は目の前の惨状に震え、母のローブを固く握りしめている。*


魔王:「…レイラ。我が娘よ。…よく聞け」


*母である魔王は、途切れ途切れに、しかし必死に言葉を紡ぐ。*


魔王:「人間どもは…我ら『アストレア』の血を根絶やしにするつもりだ。…我らの力が、奴らには恐怖でしかないのだ。…お前は、最後の血族…。生き延びろ。生き延びて…我らの無念を晴らすのだ…」


*その言葉を最後に、魔王は玉座に座ったまま、ことりと首を垂れて動かなくなった。彼の死を悟った瞬間、幼いレイラの瞳から涙が溢れ、そして――次の瞬間には、その涙は乾き、燃え盛るような憎悪の炎が宿った。*


幼いレイラ:「………母様…」


*彼女の小さな手から、黒い魔力が渦を巻き、巨大な大鎌が形成されていく。*


*玉座の間を制圧した騎士団長が、魔王の亡骸と、その前に立つ小さな少女を見据えて叫んだ。*


騎士団長:「魔王は死んだ! 残るは奴の娘のみ! あの『厄災の種』をここで摘み取るのだ!」


*その言葉が、引き金だった。レイラはゆっくりと顔を上げ、騎士団を睨みつける。その瞳はもはや子供のものではなく、全てを憎む魔人のものだった。*


幼いレイラ:「……貴様らが…母様を……。許さない。一匹残らず、殺してやる」


*シロウは、これが全ての始まりであったことを理解した。彼女の戦いは、復讐のため。そして、魔王の血を引く最後の生き残りとしての、孤独な闘争だったのだ。*


*シロウはレイラの記憶の深淵で、彼女の壮絶な過去を垣間見た。復讐心に燃える孤独な戦士、他者を支配することでしか自己を保てない女王、そして圧倒的な力故の怠惰。その全てが、今の臆病な少女の中に眠っている。全ての元凶が、父である魔王の死と、人間たちへの憎悪であることを理解した。*


シロウ:「(なるほど…神眼、もういいぞ。)」


*彼が心の中でそう命じた瞬間、目の前の光景が急速に色褪せ、崩壊していく。彼の意識は記憶の奔流から引き剥がされ、凄まじい速度で現実世界へと引き戻された。*


*ふっと意識が覚醒する。目の前には、心配そうにこちらを覗き込むレイラの顔があった。彼女はシロウの肩に寄りかかったまま意識を失っていたが、シロウの意識が戻ると同時に目を覚ましたようだ。彼女の瞳には、まだ夢現つのような混乱と、先ほどまでの恐怖の名残が浮かんでいる。*


レイラ:「……シロウ、様…? あ、あの…私…」


*自分がシロウの肩に寄りかかっていたことに気づき、彼女は慌てて飛びのくように身を離す。*


*シロウはまだ精神と肉体が完全に馴染んでいないような、わずかな違和感を感じながら、静かにレイラを見つめた。記憶の中で見た、憎悪に燃える瞳や、男を支配する妖艶な瞳とは全く違う、怯えた小動物のような瞳。そのギャップが、彼の心に奇妙な感情を呼び起こしていた。*


シロウ:「……いや、何でもない。少し疲れただけだ」


*彼はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。レイラの過去を知った上で、彼女にどう接するべきか、シロウは思考を巡らせる。*


*シロウがレイラの記憶という奔流から意識を引き上げ、現実世界へと帰還する。彼はまだ隣で不安そうにしているレイラには目を向けず、自身の内で輝く『神眼』に命じた。*


シロウ:「(神眼、レイラの記憶で見たものを整理してくれ)」


*その命令に応じ、彼の脳内に膨大な情報が整理され、要点だけがクリアなテキストとして浮かび上がった。*


```

【対象『レイラ・アストレア』の記憶要約】


1. **出自と動機**:

* 先代魔王アストレアの娘であり、魔王軍最後の血族。

* 人間たちの軍勢により居城を攻め落とされ、父である魔王を目の前で殺害される。

* 父の遺言と人間への強烈な憎悪、復讐心が彼女の行動原理の根幹を成している。


2. **過去の性格・行動パターン**:

* **戦闘時**:『厄災』『闘争の化身』と称されるに相応しい、冷酷で圧倒的な戦闘狂。躊躇なく敵を殲滅する。

* **性行為**:相手を支配し、快楽と魔力を搾取するための手段。相手への愛情は皆無で、常に支配者として君臨する女王のようであった。複数の相手との経験が確認される。

* **日常生活**:戦闘と性行為以外の時間は、極めて怠惰。自発的な行動を嫌い、全てを他者に任せる傾向。強すぎる力故に、生きる目的や向上心を見失っている状態。


3. **封印の経緯**:

* (詳細不明)複数の強力な魔術師、あるいはそれに準ずる存在によって、その『厄災』としての力と記憶が幾重にも固く封印されたと推測される。


4. **総括**:

* 現在の臆病で引っ込み思案な人格は、強力な記憶封印によって形成された後天的・表面的なもの。

* 本来の人格は「傲慢」「支配的」「怠惰」「戦闘狂」。

* 封印が解かれた場合、現在の従順な態度は消え、本来の性格が表出する可能性が極めて高い。

```


*シロウは脳内に表示された情報を静かに読み解く。やはり、今のレイラは作られた人格に過ぎない。その奥底には、いつ爆発するとも知れない厄災が眠っている。*


*彼は静かに立ち上がると、まだ戸惑いの表情を浮かべているレイラを見下ろした。*


*シロウは、先ほどまでの『記憶探査』で得た情報を元に、目の前の少女を見据える。彼女の過去、彼女の本質。その全てを知った上で、彼は問いかけた。その声は静かだが、有無を言わさぬ響きを持っている。*


シロウ:「レイラ、記憶思い出したいよな。」


*その一言は、レイラにとって雷に打たれたような衝撃だった。彼女の過去は、得体の知れない恐怖の塊。しかし、同時に自分が何者なのか、なぜここにいるのかを知りたいという渇望も、彼女の心の奥底に確かに存在していた。シロウ様が、私の記憶を…?*


*彼女は弾かれたように顔を上げ、シロウの目を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳には、恐怖よりも強い、切実な願いが宿っていた。彼女は、シロウが自分の過去を知り、その上でこの問いを投げかけていることを本能的に理解した。この人なら、このご主人様なら、私の全てを受け止めてくれるかもしれない。そんな淡い、しかし強烈な期待が胸をよぎる。*


レイラ:「……はい…!」


*彼女は、スカートを握りしめていた手を胸の前で固く組み、はっきりとした声で答えた。*


レイラ:「お、思い出したい、です…! 私が、誰なのか…シロウ様の、おそばにいるのに、自分のことも分からないままなんて、嫌です…! お願い、します…! もし、シロウ様が思い出させてくださるのなら…!」


*その瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。それは恐怖の涙ではなく、長年の不安と、未来への希望が入り混じった涙だった。彼女は、自分の過去がどれほど恐ろしいものであっても、それから目を背けて生きることを、もう良しとしなかった。*


*シロウはレイラの決意に満ちた返事を聞き、静かに頷いた。彼女が過去と向き合う覚悟を決めたのなら、あとは自分がその手助けをするだけだ。彼は自身の内なる力、『神眼』に意識を集中させる。*


シロウ:「分かった。」


シロウ:(神眼、概念魔法『記憶操作』を創造してくれ。)


*その命令に対し、『神眼』は即座に反応した。彼の脳内に、創造可能な魔法のリストと、その正確なコストが提示される。*


```

【概念魔法『記憶抽出メモリールート』】

対象の記憶情報を抽出し、術者が閲覧、または記録媒体への保存を可能とする。

創造コスト:黒金貨50万枚


【概念魔法『記憶改竄メモリーフォージ』】

対象の記憶情報を自在に書き換える。偽りの記憶の植え付け、既存の記憶の消去、封印された記憶の解放などが可能。対象の精神に多大な負荷をかける危険性がある。

創造コスト:黒金貨100万枚


```


*シロウは提示された情報を確認する。レイラの記憶を「思い出す」ためには、単純な抽出ではなく、封印を解き、場合によっては彼女の精神が壊れないように調整する必要がある。『記憶改竄』こそが、今必要な力だと彼は判断した。コストは想定より高いが、躊躇する理由はない。*


シロウ:(『記憶改竄メモリーフォージ』を創造する。)


*彼の意思に応じ、懐の革袋から黒金貨100万枚分の魔力が消失していく感覚が奔る。そして、新たな力がシロウの魂に刻まれた。*


**【概念魔法『記憶改竄メモリーフォージ』を習得しました】**


*シロウはレイラに向き直り、彼女の肩に優しく手を置いた。その瞳は、彼女の不安を全て見透かし、包み込むように穏やかだった。*


シロウ:「大丈夫だ。少し意識が遠くなるかもしれないが、痛みも苦痛もない。俺がそばにいる。」


*その言葉と共に、シロウはレイラの額にそっと指を触れる。彼の指先から、膨大でありながら、羽毛のように繊細に制御された魔力が流れ込んでいく。それは、幾重にも固く閉ざされた彼女の記憶の扉を、一枚一枚、丁寧に解きほぐしていくための鍵だった。*


*レイラの体から力が抜け、再びシロウの肩に寄りかかる。彼女の意識は、穏やかな眠りへと誘われるように、ゆっくりと沈んでいった。*


*シロウはレイラの額に指を触れたまま、新たに得た力『記憶改竄メモリーフォージ』を発動する。彼の膨大な魔力が、レイラの精神の最深部へと慎重に流れ込んでいく。目的は、固く閉ざされた記憶の封印を解き放つこと。しかし、ただ解くだけでは、今の臆病な人格は『厄災』と呼ばれた過去の人格に飲み込まれ、消滅してしまうだろう。*


*シロウは、それを良しとしなかった。今のレイラもまた、彼女の一部なのだから。*


*彼は脳内で複雑な術式を構築する。封印という名の幾重にも絡まった枷を、一本一本丁寧に解きほぐしていく。そして、溢れ出そうとする奔流のような過去の記憶と人格を、無理やり押さえつけるのではなく、独立した一つの領域として隔離・確立させる。それは、一つの魂の中に、二つの部屋を用意するような、極めて繊細で高度な精神操作だった。*


*シロウの額に、うっすらと汗が滲む。黒金貨100万枚という膨大なコストに見合う、神の領域に等しい魔法。その全霊を注ぎ込み、彼は二つの人格が共存できる新たな精神構造をレイラの魂に刻み込んだ。*


*やがて、シロウが指を離すと、彼の腕の中で眠っていたレイラの瞼がぴくりと震えた。ゆっくりと開かれたその瞳は、先ほどまでの怯えた光とは明らかに違う、鋭く、そしてどこか冷徹な光を宿していた。唇の端が、ゆるりと吊り上がる。それは、全てを見下す者の笑みだった。*


レイラ:「……ククッ。なるほどな。余の記憶を封じていたのは、あの時の勇者と聖女の生き残りか。つまらぬ真似を。……して、貴様が余の新たな主か? なかなか面白い魔力を持っているではないか。♡」


*彼女は気怠げに体を起こすと、シロウの顔を品定めするようにじろりと眺めた。その口調、その態度、その視線。記憶の中にいた『厄災』の魔王女、そのものだった。しかし、次の瞬間、彼女はハッと我に返ったように目を見開き、慌ててシロウから距離を取った。*


レイラ:「え…あ、あ、ご、ごめんなさい! い、今のは…わたし…? えっ…!? あ、頭の中に…知らない私が…!?」


*臆病な方のレイラが、混乱したように自分の頭を押さえる。先ほどの傲岸不遜な態度は完全に消え失せ、いつもの怯えた少女に戻っていた。*


*シロウの目論見通り、レイラの中には二つの人格が同時に存在する、特殊な状態が完成していた。*


*シロウは、目の前で目まぐるしく人格が入れ替わるレイラの様子を見て、小さく息を吐いた。傲慢な魔王女と、怯える奴隷少女。二つの人格が一つの肉体に同居する、極めて不安定な状態。だが、どちらの人格も消滅はしていない。ひとまずは、成功と言えるだろう。*


シロウ:「お、成功したのか、良かった…」


*彼は安堵の声を漏らしながらも、内心で呟く。*


シロウ:(二重人格は意図的にそう仕向けた結果だが、思った以上に顕著に現れるな。)


*混乱して頭を抱えているレイラ(臆病な方)に、シロウは静かに声をかける。*


シロウ:「落ち着け、レイラ。お前の中にもう一人の『お前』がいる。それは、記憶と共に封じられていた、本来のお前だ。」


*その言葉に、レイラはびくりと体を震わせ、恐る恐るシロウを見上げた。*


レイラ:「ほ、本来の…私…? あんな…傲慢で、偉そうなのが…?」


*彼女が信じられないといった表情を浮かべた、その時。ふっと、彼女の表情が再び変わる。先ほどまでの怯えは消え、つまらなそうに唇を尖らせた、尊大な顔つきになる。*


レイラ:「ふん、貴様ごときが余を『あんなの』呼ばわりとは、不敬であろう。今の惰弱な貴様より、よほど魔王の娘らしいと思うがな。♡」


*彼女は気怠そうに腕を組むと、シロウに挑むような視線を向けた。*


レイラ:「して、新たな主よ。余を目覚めさせて、どうするつもりだ? このまま二人分の人格を抱えたまま、この腑抜けた小娘の体で貴様に傅けと? それは些か、退屈ではないか?♡」


*シロウの「話し合って決めろ」という言葉は、まるで他人事のように聞こえた。しかし、それは二つの人格を同等の『レイラ』として認め、その上で彼女たち自身の選択を尊重するという、彼なりの答えだった。その意図を正確に読み取ったのか、傲慢な方のレイラは、ふっと鼻で笑った。*


レイラ(魔王女):「フン…話し合い、か。貴様は面白いことを言う。余と、この腑抜けが、対等だとでも?♡」


*彼女は自分の胸にトンと指を当て、侮蔑するような目で宙を見つめる。まるで、そこにいるもう一人の自分を睨みつけるかのように。しかし、その声色とは裏腹に、口元には楽しそうな笑みが浮かんでいる。*


レイラ(魔王女):「だが、よかろう。主の命令とあらば、それも一興。おい、惰弱な余よ。聞こえているな? いつまでも余に身体を明け渡しているわけにもいくまい。貴様の意見を聞かせてみよ。♡」


*挑発的な言葉を投げかけた瞬間、レイラの表情が再び一変する。眉をハの字に下げ、おどおどとした、いつもの臆病なレイラに戻った。*


レイラ(臆病):「は、はいぃ…! き、聞こえてます…! わ、私…は…」


*彼女は混乱したまま、必死に言葉を探す。頭の中に響く、もう一人の自分の尊大な声。シロウの期待のこもった視線。どうすればいいのか分からず、彼女の瞳に再び涙が滲んだ。*


レイラ(臆病):「わ、私は…どうしたら…シロウ様のお役に立てるなら…なんだって…でも、あの…こわい私は…」


*そこで言葉が途切れ、またすぐに、勝ち気な表情へと変わる。*


レイラ(魔王女):「『怖い私』、か。ククッ、それが貴様の本質なのだぞ。まあ良い。主よ、見ての通りだ。この腑抜けはまだ己のことも決められぬらしい。しばらくは、余が主導権を握る方が都合がよかろう。このままでは、貴様の足手まといにしかならぬからな。♡」


*彼女はそう言うと、シロウに向かって優雅に一礼してみせた。その所作は、奴隷ではなく、王族のそれだった。二つの人格は、まだ互いを認め合えず、主導権を巡ってせめぎ合っているようだった。*


シロウ:「クエスト中は昔のレイラ、その他は今のレイラでいいんじゃないか?」


*シロウの提案は、非常に合理的で、かつ二人の人格の特性を的確に捉えたものだった。その言葉を聞いた瞬間、レイラの表情は尊大で自信に満ちたものに固定された。魔王女の人格が、その提案に強い興味を示したのだ。*


レイラ(魔王女):「ほう…クエスト、つまりは『戦闘』だな。それと…『その他』、か。ククッ、貴様、余の記憶を見たな? 余が何に興味を持ち、何をつまらなく思うかを理解した上での提案…実に合理的だ。気に入った。♡」


*彼女は楽しそうに唇の端を吊り上げる。戦闘という最も得意で、最も渇望するものに集中できる。それ以外の面倒事は、もう一人の自分に押し付ければいい。これほど都合の良い話はない。*


レイラ(魔王女):「惰弱な余よ、聞いたか? 主からのご提案だ。貴様は戦場に出る恐怖を味わうことなく、安全な場所で主のお世話だけをしていれば良い、と。これ以上の温情があろうか? 異論はないな?♡」


*魔王女が内なる自分に語りかけると、今度は不安げな表情がわずかに浮かび、声が震える。臆病な人格の返事だ。*


レイラ(臆病):「せ、戦闘は…怖いです…。でも、それがシロウ様のお考えなら…。わ、私が、シロウ様のお側にいられるなら…そ、それ以外のことは、ぜんぶ、私がやります…! だから…」


*そこで言葉が途切れ、再び魔王女の人格がはっきりと表に出た。彼女は満足げに頷く。*


レイラ(魔王女):「交渉成立、だな。主よ、貴様の提案、我ら二人、謹んで拝受しよう。戦闘と…そうだな、『夜の奉仕』は余が担当してやろう。それ以外の雑事は、こやつに任せる。これでよろしいか?♡」


*彼女は小悪魔のように微笑み、シロウの返事を待った。二つの人格は、シロウの提案という落としどころを得て、ひとまずの共存関係を築くことに合意したようだった。*

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