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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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シロウ:「セレナお疲れ。ゆっくり休め」


*シロウの労いの言葉に、彼の腕の中でぐったりとしていたセレナの身体が淡い光を放つ。*


セレナ:「はい…♡ ご主人様…。お言葉に、甘えさせていただきます…♡」


*とろけるような声で囁くと、セレナの姿は影に溶けるようにして消えていった。次元の革袋、その中に広がる彼女だけの空間で、主との交合の余韻に浸りながら深い眠りにつくのだろう。*


*一人になったシロウは、シャワーで念入りに身体を洗い流すと、風呂から上がった。脱衣所で備え付けのタオルで身体を拭き、新しい浴衣に袖を通す。*


*部屋に戻ると、レイラがまだベッドですやすやと眠っていた。強制的に眠らせたとはいえ、その寝顔は穏やかで、椅子で縮こまっていた時とは比べ物にならないほど安らかに見える。*


*シロウはレイラの寝顔をしばらく無言で見つめた後、ベッドの脇にある椅子に腰を下ろした。そして、自らのステータスを確認する。*



```

【ステータス】

名前:シロウ・ニシキ

種族:人間 (ヒューマン)

称号:鑑定士、異世界人、Sランク冒険者、アルドレット商会名誉顧問

Lv:50


HP:9,850 / 9,850

MP:10,550 / 10,550


筋力:850

体力:820

敏捷:950

知力:1,020

魔力:1,150

器用:980


スキル:

【神眼 Lv.5】

【鑑定 Lv.MAX】→【神眼】に進化

【異世界言語】

【剣術 Lv.MAX】→【剣神】に進化

【弓術 Lv.MAX】→【弓神】に進化

【体術 Lv.7】

【付与魔法 Lv.6】

【時空間魔法 Lv.5】

【生活魔法】

【スキル整理】

【創造】

【削除】

【レベルドレイン】

【アイテムボックス】

【無属性魔法 Lv.8】

【火属性魔法 Lv.7】

【水属性魔法 Lv.7】

【風属性魔法 Lv.7】

【土属性魔法 Lv.7】

【光属性魔法 Lv.6】

【回復魔法 Lv.8】

【結界魔法 Lv.7】

【気配遮断Lv.MAX】→【絶無】

【隠密Lv.MAX】→【無影】

【闇魔法 Lv.7】

【魔力操作 Lv.9】

【重力魔法Lv.8】



【装備】

武器

・星麻毒の刃『ステラヴェノム』麻痺、猛毒

夜天の牙『ナイトファング』出血、腐食

防具:夜闇の衣、隠者の指輪

その他:次元の革袋


所持金:

黒金貨 0枚

白金貨 98枚

金貨 98枚

銀貨 0枚

銅貨 90枚

鉄貨 0枚


加護:

【世界樹の祝福】


```


*(…よし、特に変わりはないな。さて、レイラを起こすか。それとももう少し寝かせておくか…)*


*シロウは腕を組み、眠る少女を見下ろしながら、今後の行動について静かに思考を巡らせ始めた。*


シロウ:「神眼、現在の状況を教えてくれ」


*シロウが心の中で命じると、彼の視界の隅に半透明のウィンドウが音もなく展開される。それは、彼だけが見ることのできる【神眼】の情報表示だった。*


```

【神眼 - 現状分析】


対象:レイラ

状態:睡眠(魔法効果による)

感情:不安、恐怖、羞恥、微かな安堵(無意識下)

備考:長時間の緊張と睡眠不足により心身が疲弊状態。魔法による睡眠は効果的だが、根本的な問題解決には至っていない。

【神眼】による深層記憶へのアクセスが可能です。

・記憶閲覧:黒金貨30万枚

・記憶抽出:黒金貨50万枚

・記憶改竄:黒金貨100万枚


対象:セレナ

状態:影空間にて休息中。深い充足感と幸福感に満たされ、魔力回復中。主への絶対的な忠誠と愛情を確認。


```


*ウィンドウに表示された情報を読み、シロウは静かに息をついた。レイラの精神状態は、やはりかなり不安定らしい。神眼が提示する選択肢を眺め、彼は再び眠るレイラに視線を落とす。彼女の過去を探るか、それとも今はただ休ませるべきか。*


*(…記憶の閲覧で黒金貨30万枚か。安くはないが、払えない額でもない。こいつが何をそんなに怯えているのか、知っておく必要はあるかもしれんな…)*


*シロウは腕を組んだまま、静かに思考を巡らせる。部屋には、レイラの穏やかな寝息だけが響いていた。*


*シロウは【神眼】が提示した情報を確認し、自らの計画を再確認した。そうだ、レイラの過去を知るためには金がいる。そのために、昨日鉱山で得た希少鉱石を換金する必要がある。*


*(計画通りだ。まずはギルドに報告し、その後ゾル・ガゼルの闇市へ飛ぶ。レイラは…このまま寝かせておこう。セレナを護衛につければ問題ない)*


*シロウは思考をまとめると、静かに立ち上がった。そして、眠るレイラの枕元にしゃがみ込む。その顔はまだ幼く、眠っていてもどこか不安げな影が差しているように見えた。*


シロウ:「…神眼。セレナを呼び出せ」


*彼の命令に応じ、足元の影がもぞりと動き、次の瞬間にはセレナがその場に跪いていた。彼女は主の意図を即座に察し、静かに頭を垂れる。*


セレナ:「お呼びでしょうか、ご主人様」


シロウ:「俺はギルドに報告に行ってくる。その後、少し別の場所に飛ぶ。その間、レイラから離れるな。何があってもこいつを守れ。いいな?」


セレナ:「御意。このセレナ、命に代えましても」


*絶対の忠誠を誓う眷属の言葉に、シロウは満足げに頷いた。セレナは静かに立ち上がると、レイラが眠るベッドの傍らに音もなく佇み、完璧な護衛としての役目を開始する。*


*シロウはセレナに後を任せると、部屋を静かに出た。廊下を歩きながら、ステータスを偽装している「隠者の指輪」の効果を再確認する。表向きはCランク程度の、目立たない冒険者のままだ。*


*高級宿屋のロビーを抜け、朝の活気に満ちた王都の大通りへ出る。行きかう人々や馬車の喧騒を抜け、彼は真っ直ぐに冒険者ギルドを目指して歩き始めた。*


*シロウは冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けた。朝から多くの冒険者でごった返す喧騒が彼を迎える。依頼を探す者、仲間と祝杯を挙げる者、その熱気はいつも通りだ。*


*彼は人々の間をすり抜け、受付カウンターの一つへと向かう。対応してくれたのは、亜麻色の髪をポニーテールにした、快活そうな笑顔が印象的な受付嬢だった。胸元のネームプレートには「リナ」と書かれている。*


リナ:「はい、こんにちは! ご用件をどうぞ!」


シロウ:「依頼達成の報告だ。良質な鉄鉱石の納品依頼」


*シロウは淡々と告げると、懐からギルドカードを取り出し、カウンターの上に滑らせた。それは黒を基調とし、金色の意匠が施された、他の冒使者が持つカードとは一線を画すものだった。*


*リナはにこやかにそれを受け取ろうとし、カードのデザインに気づいて一瞬動きを止めた。そして、カードに刻まれた「S」の文字を視認した瞬間、彼女の顔から笑顔が消え、背筋がぴんと伸びる。周囲に気づかれないよう、ごく自然な動作でカードを手に取り、素早く確認した。*


リナ:「し、失礼いたしました…! シロウ様ですね…! すぐに確認いたします!」


*彼女の声は緊張で僅かに上ずり、顔色も少し青ざめている。Sランク冒険者は、このギルドにおいても伝説的な存在だ。その当人が目の前にいるという事実に、彼女はプロ意識でなんとか平静を装っていた。*


*シロウはそんな彼女の様子を意に介さず、続けて羊皮紙を取り出す。そこには鉱山の工房主からのサインが記されている。*


シロウ:「これが工房主からの受領サインだ」


リナ:「は、はい! 確かに拝見いたします!」


*リナは震える手で羊皮紙を受け取ると、ギルドカードと照合しながら、慌ただしく端末を操作し始めた。彼女の額には、じんわりと汗が滲んでいる。周囲の冒険者たちは、まさか自分たちのすぐそばにSランク冒険者がいるとは夢にも思っていない。*


シロウ:「緊張するな、慌てなくていい」


*シロウの落ち着いた、それでいて有無を言わせぬ響きのある声に、受付嬢リナの肩がびくりと震えた。彼女は弾かれたように顔を上げ、シロウの目を見る。そこには何の感情も浮かんでいないように見えたが、その静けさが逆に彼女の緊張を少しだけ解きほぐした。*


*リナは深呼吸を一つすると、強張っていた表情をなんとかプロの笑顔に戻そうと努めた。*


リナ:「も、申し訳ありません、シロウ様…! ご配慮、痛み入ります…。ええと、はい! 確かに依頼達成を確認いたしました!」


*彼女は震える指で端末の操作を終えると、再びシロウに向き直った。*


リナ:「良質な鉄鉱石10kgの納品、お疲れ様でございました。こちらが今回の報酬、銀貨10枚になります。それと、こちらがギルドカードと受領書のお控えです」


*リナはカウンターの下から報酬の入った革袋と、シロウの黒いギルドカード、そして羊皮紙を両手で丁寧に差し出した。その指先はまだ微かに震えている。*


リナ:「あの…シロウ様ほどの御方が、なぜこのようなFランクの依頼を…? も、もちろん! 依頼をお選びになるのは冒険者様の自由です! ただの、その、興味本位でして…! 無礼をお許しください!」


*言ってしまってから、まずいと思ったのか、リナは慌てて口を押さえ、ぶんぶんと首を横に振った。Sランク冒険者の行動に口を挟むなど、平の受付嬢としては考えられない失態だった。*


シロウ:「答えは簡単。採掘が一番稼げるからだ」


*シロウは平然と言い放ち、差し出された報酬とギルドカードを無造作に受け取った。銀貨10枚の入った革袋をアイテムボックスにしまい、黒いカードは懐に戻す。*


*その答えは、リナにとって全く予想外のものだった。Sランク冒険者といえば、国の危機を救ったり、古代竜を討伐したりと、金銭を超越した名誉のために戦う存在だとばかり思っていたからだ。*


リナ:「か、稼げる…ですか…?」


*リナは呆気にとられて、思わず聞き返してしまった。Fランクの採掘依頼の報酬は、たったの銀貨10枚。それで「一番稼げる」とは、どういう意味なのか。彼女の頭には無数の疑問符が浮かんでいた。*


*シロウはそんなリナの混乱を意にも介さず、カウンターに片肘をつき、少しだけ身を乗り出した。*


シロウ:「ああ。表向きの報酬はな。だが、本当の稼ぎはそこじゃない。…まあ、お前さんには関係のない話だ」


*彼はそれだけ言うと、リナに背を向け、雑踏の中へと歩き出そうとした。その謎めいた言葉と、圧倒的な存在感に、リナはただ立ち尽くすことしかできない。*


*(本当の稼ぎ…? いったい、どういうことなの…?)*


*シロウの背中を見送りながら、リナの頭の中は混乱を極めていた。Sランク冒険者の世界は、彼女が想像するよりもずっと深く、複雑なものなのかもしれない。*


*シロウはギルドを出ると、人々の視線を避けるようにして薄汚れた路地裏へと足を踏み入れた。周囲に人の気配がないことを【気配遮断】で確認すると、彼は短く呪文を詠唱する。*


シロウ:「転移。」


*彼の足元に淡い光の魔法陣が浮かび上がり、次の瞬間にはその姿が掻き消えた。視界が歪み、空間が捻じれる感覚は一瞬。再びシロウの足が地に着いた時、彼の周りの風景は一変していた。*


*鼻をつくのは、香辛料と怪しげな薬草、そして人々の欲望が入り混じった独特の匂い。薄暗い通路には、フードを目深に被った者や、全身をローブで覆った者たちが怪しく行き交っている。活気はあるが、決して健全とは言えない熱気。ここは無法と商才が支配する街、ゾル・ガゼルの闇市だ。*


*シロウはステータスを偽装する「隠者の指輪」の効果はそのままに、ローブのフードを深く被り直し、人混みへと紛れ込んだ。彼の目的地は一つ。この闇市で最も高値で、そして安全に「品物」を捌いてくれる、信頼できる情報屋兼商人だ。*


*シロウはフードを目深に被り、闇市の猥雑な人いきれの中に溶け込んだ。彼の目的は、鉱山で手に入れたオリハルコンやアダマンタイトといった超希少鉱石を、その価値を正しく理解し、最高値で買い取る腕利きの商人を見つけ出すことだ。*


*闇雲に探しても時間の無駄だと判断したシロウは、行き交う人々に紛れながら、静かに【神眼】を発動させた。彼の視界に、次々と人々の情報が半透明のウィンドウとして流れ込んでいく。*


```

名前:ギド

種族:人間 (ヒューマン)

職業:盗品商人

状態:警戒

備考:三流の商人。目利きはできない。足元を見て買い叩くことしか考えていない。

```

```

名前:ヌーラ

種族:猫獣人

職業:薬物売人

状態:酩酊

備考:自身も商品に手を出している。交渉相手としては不適格。

```

```

名前:???

種族:???

職業:???

状態:???

備考:【神眼】による鑑定を阻害する特殊なアーティファクトを所持。極めて高度な偽装。

```


*(…いるな、雑魚ばかりじゃない)*


*シロウは鑑定を阻害された対象に一瞬興味を引かれたが、今は目的が違う。さらに人混みの奥へと進み、鑑定を続けていく。すると、ひときわ薄暗い路地の奥、古びた骨董品を並べた小さな店のカウンターに座る、一人の老婆に目が留まった。*


*シロウが彼女に【神眼】を向けると、膨大な情報が流れ込んでくる。*


```

名前:イザベラ

種族:人間 (ヒューマン)

職業:情報屋、闇商人、元宮廷魔術師

状態:退屈

称号:『闇市の魔女』、『千の顔を持つ女』、『鑑定不能者』

備考:ゾル・ガゼルの闇市を裏で牛耳る大物の一人。その鑑定眼は神のそれに匹敵するとも噂される。あらゆるコネクションを持ち、王侯貴族から犯罪組織まで顧客に持つ。取引には相応の「対価」を要求する。現在の姿は魔法による偽装。

```


*(…ビンゴだ。こいつ以上の相手はいないだろう)*


*老婆はまるでシロウの視線に気づいたかのように、深く刻まれた皺だらけの顔を上げ、細められた目でこちらをじっと見た。その瞳は、ただの老婆のものではなく、全てを見透かすような鋭い光を宿している。*


*シロウは躊躇なくその店に向かって歩き出した。*


シロウ:「ん?(鑑定妨害?)」


*シロウの脳裏に、先ほどすれ違った正体不明の人物の情報が蘇る。*


シロウ:「(神眼、お前が鑑定しろ。)」


*シロウは心の中で強く命じた。Lv.5に進化した【神眼】は、並大抵の鑑定阻害など通用しないはずだ。彼は人混みの中に消えた「???」の気配を追い、意識を集中させる。*


*すると、先ほどは「???」と表示されていたウィンドウが激しく明滅し、バチバチと火花のようなエフェクトを散らした。まるで強力なプロテクトを無理やりこじ開けるかのように、文字が次々と断片的に表示されては消えていく。*


```

【神眼 - 強制鑑定実行中…】


鑑定対象の強力な【偽装】スキル及び、アーティファクト【幻惑のヴェール】による抵抗を確認。

解析中… 5%... 25%... 60%... 99%...


【強制鑑定完了】


名前:シャーロット・フォン・メッセニア

種族:人間 (ヒューマン)

職業:王女、密偵

状態:緊張、焦り

称号:『偽りの平民』、『メッセニアの薔薇』

備考:メッセニア王国第一王女。身分を隠し、ゾル・ガゼルの闇市の動向を単独で調査中。護衛は撒いている。現在、違法薬物の取引現場と思しき場所へ向かっている。極めて危険な状況。

```


*(…王女、だと? 馬鹿なことを…護衛もなしにこんな場所を一人でうろついているのか)*


*神眼から送られてきた情報に、シロウは思わず眉をひそめた。厄介ごとの匂いしかしない。彼はチラリと老婆イザベラの店に視線を送る。大物を相手にする前に、目の前の火種をどうするか。*


*シロウはフードの奥で静かに舌打ちした。*


*(王女が単独で闇市を調査…? 命がいくつあっても足りんぞ。だが、俺には関係ない。下手に首を突っ込むのは面倒だ。…ただ、この後の展開次第では利用できるかもしれん。念のため、いつでも追えるようにしておくか)*


*シロウはそう判断すると、雑踏に紛れて違法薬物の取引現場と思しき方向へ急ぐシャーロットの後ろ姿に、意識を集中させた。*


シロウ:(マーキング)


*彼が心の中で短く命じると、彼の指先からごく微小な、肉眼では捉えられないほどの魔力の粒子が放たれた。それはふわりと宙を舞い、人混みを抜け、シャーロットの衣服の裾に吸い寄せられるように付着した。*


*これは【時空間魔法】の応用スキルの一つで、対象に自身の魔力を付着させ、その位置を遠隔で把握するためのものだ。非常に微弱な魔力しか使わないため、高位の魔術師でもない限り感知することは不可能に近い。*


*これで、彼女が闇市のどこにいようと、シロウはいつでもその位置を特定できるようになった。*


*(よし。これでいい。まずは俺の目的を済ませる)*


*不測の事態への保険をかけ終えたシロウは、王女のことなどすっかり忘れたかのように踵を返し、先ほど見つけた老婆イザベラの店へと、今度こそ迷いなく向かった。*


*古びた骨董品が並ぶ店の前に立つと、カウンターに座っていた老婆イザベラが、まるで待っていたかのようにゆっくりと顔を上げる。その全てを見透かすような瞳が、フードの奥のシロウをじっと捉えた。*


イザベラ:「…何の用だい、若いの。ただの骨董品に興味があるようには見えないがねぇ」


*しゃがれた、それでいて妙な威圧感を伴った声が、シロウに投げかけられた。*


シロウ:「売りに来た。珍しい物だ、奥に行こう」


*シロウが発した短くも有無を言わせぬ言葉に、老婆イザベラはピクリと眉を動かした。彼女の細められた瞳が、シロウのフードの奥を値踏みするように、しかしどこか面白そうに観察する。闇市の喧騒が、まるで二人の周りだけ遠ざかったかのように静かになった。*


*老婆はしばらく黙っていたが、やがてその皺だらけの口元に、皮肉ともとれる笑みを浮かべた。*


イザベラ:「…ふん。面白いことを言うじゃないか、若いの。あたしを誰だか分かってて言ってるんだろうねぇ?」


*彼女はカウンターに置いてあった古びたパイプを手に取ると、ゆっくりと火をつけた。紫煙が立ち上り、怪しげな香りが漂う。*


イザベラ:「いいだろう。お前さんが持ってきた『珍しい物』とやらが、あたしをわざわざ立たせるだけの価値があるのか…見せてもらおうじゃないか。ついてきな」


*イザベラはそう言うと、ギシリと音を立てて椅子から立ち上がり、店の奥へと続く古びたビロードのカーテンに向かって歩き出した。その足取りは、見た目の老齢さからは想像もつかないほどしっかりとしている。シロウは黙ってその後に続いた。*


*イザベラが重いビロードのカーテンを引くと、その先には店の雑然とした雰囲気とは全く異なる空間が広がっていた。壁一面に整然と並べられた書物、怪しげな光を放つ魔法具の数々、そして部屋の中央には黒檀で作られた重厚なテーブルと、上質な革張りの椅子が二脚置かれている。防音と盗聴防止の魔法が幾重にもかけられているのが、シロウの肌にも感じられた。*


*イザベラはテーブルの片方の椅子にどさりと腰を下ろすと、顎をしゃくって向かいの椅子をシロウに示した。*


イザベラ:「さあ、座りな。それで? あんたが持ってきた『珍しい物』とやらを拝ませてもらおうじゃないか」


*彼女はパイプをふかしながら、値踏みするような鋭い視線をシロウに注ぐ。*


*シロウはフードを被ったまま無言で椅子に座ると、次元の革袋に手を入れた。そして、ごとり、と重い音を立てて、一つの塊を黒檀のテーブルの上に置いた。*


*それは、鈍い虹色の輝きを放つ金属塊。ところどころに蒼い光が星のようにきらめいている。尋常ではない魔力を内包しているのが、魔術に疎い者でも分かるほどの代物だった。*


*イザベラはテーブルに乗り出すようにして、その金属塊に顔を近づけた。彼女の細められた瞳が、驚愕に見開かれる。パイプが口から滑り落ちそうになるのを、慌てて手で押さえた。*


イザベラ:「…こ、これは…まさか…オリハルコンだと…? しかも、これほどの純度のものは…天上の星屑を混ぜ込んだとでも言うのかね…!?」


*しゃがれた声が、驚きと興奮で震えている。彼女は信じられないといった様子で、金属塊とシロウの顔を何度も見比べた。*


シロウ:「まだある」


*シロウは短く告げると、さらに二つの塊をテーブルの上に追加で置いた。一つは、光を全く反射しない、漆黒よりもなお暗い金属塊――アダマンタイト。もう一つは、それらよりは小さいが、やはり尋常ならざる魔力を放つミスリル銀の塊だった。*


*その光景に、さすがの『闇市の魔女』も言葉を失い、ただテーブルに並べられた三つの伝説級の鉱石を呆然と見つめるだけだった。*


シロウ:「オリハルコン20kg、アダマンタイト50kg、ミスリル銀100kgある」


*シロウが淡々と告げたその総量に、イザベラの呼吸が一瞬止まった。彼女はパイプをテーブルに置くと、皺だらけの手で、まるで聖遺物にでも触れるかのようにオリハルコンの塊にそっと触れた。その指先が微かに震えている。*


*闇市の喧騒も届かない静かな部屋で、伝説の鉱石が放つ微かな魔力の共鳴音だけが響いているかのようだ。イザベラは鉱石から顔を上げ、初めて真剣な、そして底知れない探究心に満ちた目でシロウのフードの奥を睨み据えた。*


イザベラ:「…正気かい、若いの。オリハルコンを20kg? アダマンタイトを50kgだと? 国が一つ、いや、大陸の歴史がひっくり返る量だぞ、それは…」


*彼女の声はもはやしゃがれてはおらず、かつて宮廷魔術師であった頃の威厳を取り戻していた。*


イザベラ:「前にあんたが持ち込んだオリハルコン30kgは、それ自体が事件だった。あれで黒金貨25万枚。今回はそれ以上の規模…いや、比較にすらならん。アダマンタイトとミスリル銀まであるとなれば、話は全く別だ」


*彼女は一度目を閉じ、何かを計算するように指を動かした。そして、再び目を開くと、決意を固めた表情でシロウに告げる。*


イザベラ:「…いいだろう。このイザベラが、あんたの『お宝』に見合うだけの誠意を見せようじゃないか。まず、ミスリル銀100kg。これは黒金貨10万枚でどうだい? アダマンタイト50kg…これは希少性と重量を考え、黒金貨75万枚。そして…この極上のオリハルコン20kg。前回以上の値をつけて、黒金貨30万枚」


*イザベラは一度言葉を切り、シロウの反応を窺う。*


イザベラ:「合計、黒金貨115万枚。だが、これだけの量を一度に扱ってくれたあんたへの敬意と、今後の付き合いへの期待を込めて…特別に**黒金貨120万枚**でどうだい? これ以上の値をつけられる者は、この大陸のどこを探してもいやしないと保証するよ」


*彼女の目には、商人の駆け引きだけでなく、これほどの逸品を扱えることへの純粋な興奮と喜びが浮かんでいた。提示された額は、シロウの予想をわずかに上回るものだった。*


シロウ:「商談成立だな」


*シロウが短く肯定すると、イザベラは満足げに深く頷いた。彼女の顔には、大商いをまとめた達成感と、伝説の鉱石を独占できるという喜びが浮かんでいる。*


*シロウは無言で立ち上がると、アイテムボックスから指定された量の鉱石を、この部屋に併設されている頑丈な扉で仕切られた倉庫スペースへと次々と転送していく。ゴトン、ゴトン、と重い金属が床に置かれる音が連続して響き、倉庫はあっという間に尋常ならざる魔力を放つ金属の山で埋め尽くされた。*


イザベラ:「…壮観だねぇ。これだけの光景、長いこと生きてきたが初めて見るよ」


*イザベラは倉庫の光景を感慨深げに眺めながら、自身の懐から一つの黒いカードを取り出した。それはシロウのギルドカードとはまた違う、特殊な魔力が込められたものだった。*


イザベラ:「こっちの準備もできたよ。あんたの口座に直接振り込む。ギルドカードを出しな」


*シロウは言われるがまま懐から黒いSランクのギルドカードを取り出し、テーブルの上に置く。イザベラはそれを手に取ると、自身の黒いカードと重ね合わせ、何事か短い呪文を唱えた。二枚のカードが一瞬、淡い光を放つ。*


イザベラ:「よし、確かに振り込んだ。黒金貨120万枚。確認しな」


*シロウはカードを受け取り、自身のステータスウィンドウを開いて所持金を確認する。*


```

所持金:

黒金貨 120万枚

白金貨 98枚

金貨 98枚

銀貨 10枚

銅貨 90枚

鉄貨 0枚

```


*(…確かに増えている。これでレイラの記憶を覗けるな)*


*シロウが確認を終えたのを見て、イザベラはパイプに再び火をつけ、紫煙をくゆらせた。*


イザベラ:「さて、商談は終わりだ。…ところで若いの、一つ聞きたいことがある。その鉱石、どこで手に入れたんだい? いや、産地を教えろなんて野暮なことは言わんよ。」


*彼女の鋭い瞳が、シロウのフードの奥を射抜こうとする。それは純粋な好奇心と、得体のしれない相手への探究心に満ちていた。*


シロウ:「ここの近くに鉱山都市があるだろ? そこのFランク鉱山さ」


*シロウは平然と言い放った。その答えを聞いたイザベラの動きが、ぴたりと止まる。彼女はパイプを口に咥えたまま、数秒間、完全に固まっていた。やがて、その皺だらけの顔がゆっくりと引きつり、喉の奥からくつくつと押し殺したような笑い声が漏れ始めた。*


イザベラ:「…ククッ…クックック…! Fランク鉱山だと…? 若いの、あたしをからかってるのかい? それとも、本気で言ってるのか…?」


*彼女はテーブルに身を乗り出し、その鋭い瞳でシロウのフードの奥を覗き込もうとする。その目は笑っているが、全く笑っていない。*


イザベラ:「Fランク鉱山から鉄クズ以外のものが出たなんて話、建国以来聞いたことがない。ましてや、オリハルコンやアダマンタイトの鉱脈なんぞ…神々の戯れでもなけりゃありえん話だ。あんた、あたしを試しているのかい? その冗談、命懸けだって分かってるんだろうねぇ?」


*部屋の空気が一気に張り詰める。先程までの商談の和やかな雰囲気は消え去り、老獪な闇商人の本性が剥き出しになっていた。彼女の言葉には、嘘や戯言は一切許さないという明確な脅しが込められている。シロウの答え一つで、この部屋から生きて出られるかどうかが決まるかのような、重い圧力がのしかかってきた。*


シロウ:「ああ、今回はオリハルコンが少なかったからな。次回は100kgを目指すよ」


*シロウの悪びれない、あまりにも現実離れした言葉に、イザベラの顔から表情が消えた。彼女はパイプをゆっくりとテーブルに置くと、その皺深い指でこめかみを押さえた。部屋に満ちていた殺気のような圧力が、まるで潮が引くようにすっと消え失せる。*


*代わりに、底なしの呆れと、目の前の存在に対する畏怖にも似た感情が彼女の顔に浮かんだ。*


イザベラ:「…はぁ…もういい…あんたの言うことは分かったよ。分かったから、もうそれ以上何も言わんでくれ…」


*彼女は大きくため息をつくと、がっくりと椅子に深くもたれかかった。*


イザベラ:「鉱山からオリハルコンが100kg…ククッ…ああ、そうかい。そうなんだろうね。あんたにとっては、それが『普通』なんだろうさ。常識だの、道理だの、そんなもんはあんたの前じゃ何の意味も持たねぇらしい…」


*イザベラはもはや問い詰めることを諦め、乾いた笑いを漏らす。彼女は長年この裏社会で生きてきた。常識外れの人間や出来事を何度も見てきたが、目の前の「若いの」はそのどれとも次元が違う。理解しようとすること自体が無駄だと、彼女の本能が告げていた。*


イザベラ:「…いいかい、若いの。忠告だ。その『鉱山』の話は、二度とあたし以外の前でするんじゃないよ。あんたがどれだけの力を持ってるか知らんが、世界中の国や組織があんたを捕まえて、その秘密を吐かせようと血眼になるだろうさ。文字通り、世界の敵になる。…まあ、あんたならそれすらもどうにかしちまいそうだがね…」


*彼女はどこか遠い目をして、新しいパイプに煙草を詰め始めた。*


イザベラ:「用件はそれだけかい? 他に何か用があるなら聞くが…正直、これ以上あんたの常識外れな話に付き合ってると、寿命が縮みそうだ…」


シロウ:「あ…別の人に売ろうとした時、断られたのがあるんだけど…」


*そう言いながら、シロウは次元の革袋に手を入れ、何かを取り出した。そして、それをテーブルの上に、ことりと置く。*


*それは、たった5グラムほどの、小さな金属片だった。*

*しかし、それがテーブルに置かれた瞬間、イザベラの全身の毛が逆立った。パイプに火をつけようとしていた彼女の手が止まり、その目は信じられないものを見るように、小さな金属片に釘付けになる。*


*部屋の空気が変わった。先程までのオリハルコンやアダマンタイトの比ではない。もっと根源的で、神聖で、冒涜的なまでの魔力が、その小さな欠片から溢れ出していた。それは鈍い翡翠の光を放ち、まるで生きているかのように微かに脈動しているようにも見える。*


*イザベラは椅子から転げ落ちんばかりに身を乗り出し、顔をテーブルすれすれまで近づけた。その目は大きく見開かれ、呼吸すら忘れている。*


イザベラ:「…ひ…ヒヒイ…ロカネ…だと…?」


*絞り出すような、掠れた声。彼女の声は恐怖と歓喜と畏怖が混じり合い、震えていた。*


イザベラ:「馬鹿な…神話の中にしか存在しないはずの…神々の血肉と謳われる『神造金属(ディバインメタル)』…! なぜ、こんなものが…しかも、断られただと!? どこのどいつだ、これを見て断った大馬鹿者は!?」


*彼女は勢いよく顔を上げ、シロウを睨みつけた。その目には狂気じみた光が宿っている。伝説を通り越し、神話の領域に属する物質を前にして、彼女の長年の経験と知識、そして理性が限界を迎えようとしていた。*


イザベラ:「若いの…あんた、今度は何をした…? 神でも殺してきたのか…!?」


シロウ:「これは…王都近くの鉱山で見つけた。運が良かったね」


*イザベラの狂気じみた問いかけに対し、シロウはまたしても事もなげに答えた。*


*「王都近くの鉱山」「運が良かった」*


*その言葉は、もはやイザベラの理解の範疇を完全に超えていた。彼女は大きく見開いた目を何度か瞬かせ、それから、まるで力が抜けたようにゆっくりと椅子に沈み込んだ。狂気じみた光は消え、代わりに虚無のような表情が浮かんでいる。*


イザベラ:「…おう都…近くの、こうざん…」


*彼女は壊れた人形のようにその言葉を繰り返す。*


イザベラ:「…そうかい。そうか。運が良ければ、王都の近くの鉱山で、神様の血肉が拾えるのか…。はは…ははは…!」


*乾いた笑い声が部屋に響く。それはもう呆れや驚きではなく、自らの常識が、世界観が、目の前の存在によって木っ端微塵に破壊されていく音だった。彼女は両手で顔を覆った。*


イザベラ:「…分かった。もう、もういい。あたしの負けだ。あんたの言うことは、全て信じよう。いや、信じるしかない…。常識で測ろうとしたあたしが馬鹿だった…」


*彼女は顔を上げると、憑き物が落ちたような、それでいてどこか疲れ切った顔でシロウを見た。そして、その視線をテーブルの上のヒヒイロカネへと移す。その目には、もはや商人の欲ではなく、神聖なものを見るかのような敬虔な光が宿っていた。*


イザベラ:「…若いの。この『神造金属』…あんた、本当に売る気かい? これは金で取引するような代物じゃない。国宝どころか、神殿の御神体として祀られて然るべき奇跡の欠片だぞ。これを断った奴は、馬鹿というより…むしろ賢明だったのかもしれん。価値が分からなかったか、あるいは…価値が分かりすぎて、恐ろしくて関われなかったか、どっちかだろうね」


*彼女はゆっくりとヒヒイロカネに手を伸ばし、しかし触れる寸前で止めた。その表面から放たれる微かな熱と神聖な気に、肌が粟立つのを感じているようだ。*


イザベラ:「…どうするんだい? もし売るというなら…値段なんぞつけられん。あたしの全財産を投げ打っても、この5グラムの価値には到底及ばないだろう。だが…もし、あんたさえ良ければ、あたしが預かりたい。金での取引じゃない。あんたに対する『貸し』として、だ。このイザベラの一生…いや、魂を賭けて、あんたが望むことを一つ、必ず叶えると誓おう。それがどんな無茶な願いであろうともだ」


*イザベラの目は真剣そのものだった。闇市の情報屋兼商人の頂点に立つ彼女が、金銭ではなく、自らの全てを対価に差し出してきた。それは、ヒヒイロカネという存在が、それほどまでに規格外であることの証明だった。*


シロウ:「そ、そこまでの物? ただの超希少な鉱石じゃないの?」


*シロウの純粋な疑問に、イザベラは天を仰いだ。そして、ゆっくりと、まるで無知な子供に世界の真理を説いて聞かせるかのように、静かに、しかし重々しく口を開いた。*


イザベラ:「…若いの。あんたは本当に…恐ろしいことを平然と言うねぇ。オリハルコンやアダマンタイトは『超希少な鉱石』だ。それらは人の手で採掘され、人の手で加工され、武具や道具になる。確かに、その頂点に立つ金属だよ」


*彼女は一度言葉を切り、テーブルの上で神聖な輝きを放つヒヒイロカネに視線を落とす。*


イザベラ:「だが、これは違う。ヒヒイロカネは…『神造金属(ディバインメタル)』。文字通り、神が創りたもうた物質だ。人の技術では決して精製できず、加工することすらままならない。伝承によれば、神々の武具はこれで出来ているという。これを身につけた者はあらゆる呪いを退け、病にかからず、その身に神の如き力を宿すとさえ言われている」


*彼女の声には、神話の語り部のような響きが混じり始める。*


イザベラ:「『ただの超希少な鉱石』だと? とんでもない! これは奇跡そのものなんだよ。このたった5グラムの欠片を溶かして聖水に混ぜれば、大陸中の疫病を浄化できるかもしれない。これを核にして武具を打てば、神話級のアーティファクトが生まれるだろう。…まあ、そんなことができる鍛冶師がいるらの話だがね。王家が、教会が、魔術師ギルドが、国中のあらゆる権力が喉から手が出るほど欲しがる…いや、その存在を知っただけで戦争が起きる代物なんだよ」


*イザベラは再びシロウの顔をじっと見つめた。*


イザベラ:「あたしが『貸し』にしろと言った意味が分かったかい? 金なんぞじゃ、この奇跡の価値は計れない。だからこそ、あたしは自分の魂を賭けてでも、この奇跡との縁を繋ぎたいのさ。あんたが『運が良かった』で済ませるこの代物が、どれだけ世界を揺るがす力を持っているか…少しは理解できたかい?」


シロウ:「へ、へー。なんかすごいね。いいよ、貸しって事で」


*シロウのあまりにも軽い承諾に、イザベラは一瞬、言葉を失った。魂を賭けるとまで言った自分の覚悟が、まるで子供のお使いを引き受けたかのような気軽さで受け止められたのだ。だが、彼女はすぐに気を取り直し、その顔には深い、そしてどこか嬉しそうな皺が刻まれた。*


イザベラ:「…そうかい。あんたは本当に…面白い若者だよ」


*彼女は震える手で、テーブルの上のヒヒイロカネをそっと拾い上げた。まるで壊れ物を扱うかのように、ベルベットの小さな袋にそれを慎重に収めると、懐の奥深く、心臓に一番近い場所へとしまい込んだ。*


イザベラ:「この『貸し』は、決して忘れんよ。このイザベラの全てを賭けて、いつか必ずあんたの力になろう。この闇市…いや、この国の裏社会において、あんたはあたしの最上級の顧客であり、恩人だ。今後、何か困ったことがあれば、いつでもここに来るといい。金になる話も、ならない話も、あんたのためなら骨を折ろう」


*彼女は満足げに頷くと、テーブルの上に小さな木札を一つ置いた。それには複雑な紋様が刻まれている。*


イザベラ:「そいつを持ってきな。合言葉は『神は賽を振る』だ。あたしの店の者が、誰にも邪魔させずここまで通してくれる」


*商談を終え、イザベラは再びパイプを手に取り、今度こそゆったりと紫煙をくゆらせ始めた。その表情は、商売を終えた安堵と、神話の金属を手に入れた興奮、そしてシロウという底の知れない存在と縁を結べた満足感が入り混じっている。*


イザベラ:「さて…商談はこれで本当におしまいだ。長居は無用だろう? あんたもやるべきことがあるだろうしね。…ああ、そうだ。一つだけ、情報屋としてサービスしておこうか」


*彼女は煙を吐き出しながら、目を細める。*


イザベラ:「さっき、あんたが入ってくる前に、珍しい客が来てねぇ。どうやら、この闇市で『ある人物』を探しているようだった。メッセニア王国の騎士団の紋章を隠し持った、腕利きの連中さ。…あんたがさっき店の前ですれ違ったお姫様と、何か関係があるのかもしれないねぇ。まぁ、ただの忠告だよ。気をつけるに越したことはないさ」


シロウ:「あー、あの子か。おっけー気をつけるね」


*シロウは軽い調子で返事をし、イザベラが置いた木札を懐にしまった。その態度に、イザベラはもはや何も言うまい、というように肩をすくめる。*


イザベラ:「…そうかい。ならいいんだ。じゃあ、気をつけてお帰り。またのとんでもない『お宝』を楽しみにしてるよ、大口の旦那様」


*彼女はパイプを咥え、片手をひらひらと振って見送りの仕草をする。シロウはそれに頷き返すと、音もなく立ち上がり、重々しい扉を開けて店の表へと戻った。*


*ゴクリ…という喉の鳴る音と共に、イザベラは懐から再びヒヒイロカネの入った袋を取り出し、恍惚とした表情でそれを眺める。*


イザベラ:「(…神は賽を振る、か。とんでもない賽の目が出たもんだ…)」


---


*シロウはイザベラの店を出て、再び闇市の雑踏の中へと戻った。薄暗い通路を覆う瘴気のような熱気と、様々な人々の欲望が渦巻く独特の雰囲気は変わらない。*


*(さて、用事は済んだ。さっさとレイラのところに戻るか)*


*シロウはそう考え、来た時と同じ転移陣の場所へと足を向けた。周囲の人々は、相変わらずフードを目深にかぶったシロウを気にも留めない様子で、それぞれの取引に没頭している。*


*(レイラの記憶…見るだけで黒金貨30万か。安くはないが、今の俺なら問題ない。原因が分かれば、対処もできるはずだ)*


*そんなことを考えながら路地を進んでいると、不意に前方から数人の男たちがこちらに向かってくるのが見えた。屈強な体つき、揃いの黒い革鎧。それは明らかに一般の客ではなく、何らかの組織に属する者たちだった。*


*そして、その集団の中心にいる人物を見て、シロウは足を止める。*


シロウ:(あいつ、一人で彷徨いてて大丈夫なのか?護衛も付けずに…)


*シロウの視線の先、数人の屈強な男たちに囲まれているのは、先ほど鑑定を阻害した少女――メッセニア王国第一王女、シャーロット・フォン・メッセニアだった。彼女は気丈にも胸を張り、男たちを睨みつけているが、その顔には隠しきれない焦りと恐怖の色が浮かんでいる。*


*男たちは明らかにカタギではない。おそらくは、この闇市を縄張りとする盗賊か、あるいは人攫いの類だろう。下卑た笑いを浮かべながら、じりじりとシャーロットとの距離を詰めている。*


男A:「へへへ…お嬢ちゃん、こんな所で一人かい? 危ないじゃねえか。お兄さんたちが安全なところまで送ってやろう」


男B:「こりゃあ極上だぜ…こんな上玉、高く売れるぞぉ…!」


シャーロット:「無礼者! 私が誰だか分かっておらぬのか! 道を開けよ!」


```

【神眼鑑定結果】

備考:メッセニア王国第一王女。身分を隠し、ゾル・ガゼルの闇市の動向を単独で調査中。護衛は撒いている。現在、違法薬物の取引現場と思しき場所へ向かっている。極めて危険な状況。

```


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