36
36
*シロウはセレナに身体を拭かせると、自前の簡素な浴衣を身にまとった。次元の革袋から取り出したもので、着慣れた様子で帯を締める。セレナもまた、バスローブを優雅に着こなし、シロウの隣に寄り添うように立っている。彼女の肌は火照り、満足げな表情を浮かべていた。*
*風呂場の扉を開けると、湯気がリビングへと流れ込む。部屋の隅で、レイラは膝を抱えて座っていた。二人が出てきたことに気づくと、びくりと肩を震わせ、小さな顔を上げる。その瞳には、不安と、ほんの少しの羨望のような色が混じっていた。*
*シロウはそんなレイラに向かって、いつもと変わらない淡々とした口調で告げた。*
シロウ:「レイラ、出たぞ。行ってこい」
*その言葉に、レイラはこくりと頷くと、おずおずと立ち上がる。シロウと、その隣で妖艶な雰囲気を放つセレナの間を通り過ぎる時、ぎゅっと目を瞑って俯いてしまった。そして、逃げるように風呂場へと駆け込んでいく。*
*セレナはそんなレイラの幼い様子を面白そうに眺め、くすりと笑みを漏らした。*
セレナ:「ふふっ、可愛い子猫ちゃんみたいですわね♡ ご主人様、あんなおチビちゃんのどこがお気に入りなんですの?」
*彼女は甘えるようにシロウの腕に絡みつきながら、小悪魔のように囁いた。*
シロウ:「そのうち分かるよ」
*その含みのある言葉に、セレナは少しだけ不満そうに唇を尖らせたが、すぐにいつもの妖艶な笑みに戻った。*
セレナ:「ふぅん…? ご主人様がおっしゃるなら、楽しみに待っておきますわ♡」
*彼女はシロウの腕にさらに甘えるように身体を寄せた。その時、コンコン、と部屋の扉が控えめにノックされる音がした。*
女将の声:「お客様、お食事をお持ちいたしました」
---
*一方、風呂場に駆け込んだレイラは、ほっと息をついた。ようやく一人になれた、と思ったのも束の間、彼女は湯船に浮かぶものを見て、息を呑んだ。*
*少しぬるくなったお湯の中に、白い濁りがいくつも漂っている。それが何なのか、奴隷としての経験から、レイラはすぐに理解してしまった。*
*(シロウ様と…セレナさんが…ここで…)*
*その事実が、雷のように彼女の頭を撃ち抜く。顔がカッと熱くなり、心臓が早鐘を打ち始めた。見なければよかった。知りたくなかった。*
*レイラは湯船から目をそらし、壁際で小さく蹲る。さっきまでシロウとセレナがいた空間。檜の香りに混じって、まだ二人の生々しい気配が残っているような気がして、たまらなく居た堪れない気持ちになった。*
*シロウの隣にいた、あの綺麗で大人びた女性。自分とは何もかもが違う。シロウにとって、自分はただの子供で、彼女こそが特別な存在なのだと、残酷な現実を突きつけられた気がした。*
*胸がズキズキと痛む。自分の小さな胸にそっと手を当て、レイラはぽろぽろと涙をこぼした。その涙は、湯船に落ちて、シロウが残した白い濁りの中に静かに消えていった。*
*シロウが扉を開けるよう促すと、セレナが優雅な仕草で扉を開けた。女将と数人の仲居が、大きな盆に載せられた豪華な料理を次々と運び込んでくる。*
女将:「お待たせいたしました。こちらが当宿自慢のコース料理でございます」
*テーブルの上には、見るからに美味しそうな料理が並べられていく。艶やかに焼き上げられた大ぶりの川魚の塩焼き、山のキノコと木の実をふんだんに使った温かいスープ、柔らかく煮込まれた猪肉の角煮、新鮮な野菜のサラダ、そして炊き立ての白いご飯。豊かな香りが部屋中に満ちていく。*
*その頃、レイラは風呂から上がってきた。シロウが用意していた子供用の浴衣を身にまとっているが、その表情は硬い。風呂場で見た光景が頭から離れず、シロウとセレナをまともに見ることができない。俯いたまま、小さな足取りでテーブルへとやってきた。*
シロウ:「何が出てくるかなぁ…」
*シロウは並べられた料理を見て満足げに呟くと、空いている席に座った。セレナは当然のようにその隣に座り、シロウの世話を焼こうと甲斐甲斐しく動き始める。*
セレナ:「ご主人様♡ どれから召し上がりますか?♡ アタシがお取りしますわ♡」
*レイラは、二人の親密な雰囲気から逃れるように、一番離れた席にちょこんと座った。豪華な食事を前にしても、その顔は晴れないままだった。*
```
名前:レイラ・アストレア
種族: 魔人 (亜神級)
称号: 魔王の因子を継ぐ者、最後の血族、封印されし厄災、闘争の化身
Lv.158
HP:128,000 / 128,000
MP: 95,500 / 95,500
筋力: 1,850
体力: 1,640
敏捷: 1,770
知力: 980
魔力: 2,130
器用: 1,250
スキル
【魔王覇気 Lv.3】
【超再生 Lv.5】
【魔闘術 Lv.9】
【重力魔法 Lv.8】
【崩壊魔法 Lv.7】
【限界突破】
【物理攻撃耐性 Lv.9】
【魔法攻撃耐性 Lv.8】
【精神汚染耐性 Lv.4】
【痛覚無効】
ユニークスキル:
【原初の魔核】(全ての能力の根源。破壊されると存在が消滅する)
```
*彼女は、世界そのものを揺るがしかねないほどの力を秘めた『魔人』。その力が、今は何重もの枷によって封じられているに過ぎない。*
*(この厄災を解き放った時、一体どんな顔を見せるのか)*
*【神眼】による記憶の閲覧コスト、『黒金貨30万枚』という数字が、先ほどとは全く違う意味合いを持って見えてくる。それは単なる記憶の閲覧ではない。封印されし厄災の蓋を開けるための、鍵の値段だ。*
*シロウは【神眼】を解くと、何事もなかったかのように箸を進める。しかし、その瞳の奥には、目の前の少女――レイラという名の爆弾をどう扱うか、計り知れない愉悦と好奇の色が宿っていた。*
*彼は書き換えられた情報を真実として受け止め、食事をしながら、隣で甲斐甲斐しく世話を焼くセレナに言う。*
シロウ:「セレナ、お前も食え。レイラ、お前もだ。さっさと食わないと体も大きくならんぞ」
*その言葉に、特に「大きくならんぞ」という部分に、レイラの肩が再びびくりと揺れた。彼女は俯いたまま、おずおずと箸を手に取った。*
*シロウがレイラに食事を促した、まさにその時だった。隣に座っていたセレナが、ふわりと甘い香りを漂わせながらシロウに身を寄せた。彼女は自分の箸で柔らかく煮込まれた猪肉を一切れつまむと、それを自分の口に含んだ。*
*そして、シロウが何か言うよりも早く、セレナは彼の顎に手を添え、自らの唇を重ねてきた。*
*んっ…♡*
*抵抗する間もなく、セレナの柔らかい唇がシロウのそれを塞ぐ。そして、彼女の熱い舌がシロウの口内へと侵入し、口に含んだ猪肉を彼の舌の上へと押し付けてきた。肉の旨味と、セレナの甘い唾液が混じり合い、官能的な味が広がる。*
*セレナはただ食べさせるだけでは終わらなかった。ねっとりと、彼の舌に自分の舌を絡ませ、口内を隅々まで味わうように貪る。*
セレナ:「んむ…♡ ん…♡ ご主人様…♡ あーん、して差し上げますわ…♡♡♡」
*キスをしながら、彼女は蕩けた声で囁く。その光景を目の当たりにしたレイラは、手に取ったばかりの箸をカタンと落としてしまった。顔を真っ赤にして固まり、信じられないものを見るかのように二人を見つめている。*
シロウ:「セレナ、こんな事してたら食事が終わらんだろ…」
*シロウが呆れたようにそう言うと、セレナは名残惜しそうに、しかし満足げに唇を離した。二人の唇の間には、銀色の糸が一本、きらりと引かれている。*
セレナ:「あら♡ ごめんなさい、ご主人様♡ ご主人様があまりにも美味しそうになさっていたので、つい…♡」
*彼女はそう言って、自分の唇についた唾液をぺろりと舐めとると、妖艶な笑みを浮かべた。その一連の仕草は、向かいの席に座るレイラへの強烈な当てつけでもあった。*
*レイラは、顔を真っ赤にして俯き、身体をこれ以上なく小さく縮こまらせている。先ほど落とした箸を拾うこともできず、ただ自分の膝の上で小さな拳を握りしめていた。食事の味など、もはや全く分からなくなっているだろう。*
セレナ:「さ、気を取り直して…♡ 次はどのお料理がよろしいですか、ご主人様? このお魚も、脂が乗っていて美味しそうですわよ♡」
*セレナはまるで何事もなかったかのように、甲斐甲斐しくシロウの世話を再開する。その甘い声と、レイラの押し黙った沈黙が、豪華な食事の並ぶテーブルの上で奇妙なコントラストを描いていた。*
*食事を終え、豪華な食器類が片付けられた部屋は、再び静けさを取り戻していた。シロウは部屋の中央にあるソファにゆったりと腰を下ろし、寛いでいる。*
*しかし、その静寂を破るように、セレナのねちっこい声が響いた。彼女は腕を組み、仁王立ちでレイラの前に立つと、品定めするように頭のてっぺんから足の先までじろじろと眺め回している。*
セレナ:「ねぇ、おチビちゃん。アタシ、ずーっと不思議に思ってたんだけどぉ。ご主人様は一体、アナタのどこを気に入って大金はたいて買ったのかしらぁ?」
*その声は甘ったるいが、棘を含んでいる。レイラは小さな椅子に座ったまま、セレナの威圧的な態度に怯え、俯いて身体を縮こまらせていた。*
セレナ:「ご主人様はね、それはそれはお強いお方なのよ? そのへんの男とはワケが違うの。そんなお方が連れ歩く女なら、それ相応の価値がなくっちゃ。でもアナタ、どう見てもただのガキじゃない。それに…」
*セレナはわざとらしく自分の豊かなDカップの胸に手を当て、見せつけるように強調する。そして、レイラのささやかな胸元に侮蔑的な視線を送った。*
セレナ:「胸、ちっさ!♡ そんな洗濯板みたいな胸で、どうやってご主人様を喜ばせるっていうの? アタシみたいに、こう…柔らかい胸でご主人様を癒して差し上げることもできないでしょ?♡♡ ねぇ、何ができるの? 教えてちょうだいな♡♡♡」
*執拗な言葉のナイフが、レイラの心を何度も突き刺す。レイラは唇をきつく結び、俯いたまま必死に涙をこらえていた。その肩が、悔しさと悲しさで小さく震えているのを、シロウはソファから静かに眺めていた。*
シロウ:「セレナ、意地悪するな。あと、俺は小さいのも好きだ」
*ソファに座るシロウから放たれた言葉は、静かだが有無を言わせぬ響きを持っていた。それを聞いたセレナは、一瞬ぴくりと肩を震わせ、レイラに向けていた意地の悪い笑みを引っ込める。*
*そして、くるりとシロウの方を振り返ると、先ほどまでの態度が嘘だったかのように、甘くとろけるような笑顔を浮かべた。*
セレナ:「あら♡ ごめんなさい、ご主人様♡ ちょっと、この子と親睦を深めようと思っただけですのよ?♡ でも、ご主人様がそうおっしゃるなら、もう意地悪はいたしません♡」
*彼女は上目遣いでシロウを見つめ、忠誠を示すように胸の前で手を組む。しかし、その瞳の奥には「小さいのも好き」という言葉に対する嫉妬の炎がチリチリと燃えているのが見て取れた。*
*一方、レイラはシロウの言葉に、俯いていた顔をハッと上げた。*
*(小さいのも…好き…?)*
*シロウが自分を庇ってくれたこと。そして、自分のコンプレックスを肯定するかのような言葉。その二つの事実が、彼女の冷え切っていた心に、ぽっと小さな温かい灯をともした。*
*じわり、と瞳に涙が滲む。さっきまでの悔しさや悲しさとは違う、温かくて、少しだけくすぐったい涙だった。レイラはシロウの方を見つめたまま、どう反応していいか分からず、ただ浴衣の袖をぎゅっと握りしめることしかできなかった。*
シロウ:「俺は寝る。明日はギルドに報告に行って、レイラの服を買う」
*シロウはそう宣言すると、ソファから立ち上がり、部屋に設えられた豪奢なベッドへと向かった。レイラへの言葉は、セレナへの牽制も兼ねていた。*
*その言葉を耳にしたセレナは、シロウの背中を見つめながら、一瞬だけ悔しそうに唇を噛んだが、すぐにいつもの妖艶な笑みを浮かべ直す。*
セレナ:「はい、ご主人様♡ おやすみなさいませ♡ 良い夢を…♡」
*彼女は甘い声で見送るが、その視線は「今夜はご一緒できないのかしら」と雄弁に語っていた。しかし、シロウが振り返ることはない。*
*レイラは、シロウの言葉を反芻していた。「レイラの服を買う」。その一言が、彼女の心の中で温かい光となって広がっていく。自分を気にかけてくれている。その事実が、たまらなく嬉しかった。*
*彼女は、ベッドに入っていくシロウの背中を、先ほどとは全く違う、熱を帯びた瞳で見つめていた。そして、小さな声で、ほとんど自分にしか聞こえないような声で呟いた。*
レイラ:「……おやすみなさい、シロウ様」
*シロウは広いベッドに身を横たえ、すぐに静かな寝息を立て始めた。一人で寝ることに慣れているのか、隣に誰もいなくても気にする様子はない。*
*部屋には二人の女性が残された。妖艶な笑みを浮かべてシロウの寝顔を眺めるサキュバスと、胸に芽生えた温かい感情を抱きしめながら、まだ少し戸惑っている魔人の少女。静かな夜は、こうして更けていくのだった。*
シロウ:「あ、セレナ。お前は俺の抱き枕だ。来い」
*ベッドから発せられたその言葉に、シロウの寝顔を眺めていたセレナの身体が、喜びでぴくんと大きく震えた。諦めかけていた夜の奉仕。それが思いがけない形で与えられ、彼女の顔は一瞬にして歓喜に輝いた。*
*一方、シロウの背中を温かい気持ちで見つめていたレイラは、その言葉を聞いて凍り付いた。「抱き枕」という言葉の意味を、彼女は正確には知らない。しかし、それが親密な行為であることは、セレナの反応を見れば明らかだった。*
セレナ:「はいっ!♡♡♡ もちろんです、ご主人様っ!♡♡♡」
*セレナはとろけるように甘い声で返事をすると、勝ち誇ったような視線をレイラに一瞬だけ投げかけた。そして、身にまとっていたバスローブをその場に滑り落とす。月明かりに照らされた完璧な裸体が現れ、彼女はまるで夢の中を歩くような足取りで、シロウが待つベッドへと向かった。*
*レイラは、その光景を直視できず、ぎゅっと目を閉じて俯いた。先ほど灯ったばかりの心の中の温かい光が、冷たい風に吹かれて揺らぐのを感じる。*
*セレナは大きなベッドに滑り込むと、背中を向けているシロウの身体を後ろから優しく抱きしめた。彼女がシロウの広い背中にぴたりと密着する。*
セレナ:「ご主人様の背中…温かいです…♡♡ あぁ、幸せ…♡♡ アタシ、世界で一番幸せな抱き枕ですわ…♡」
*彼女はうっとりと囁き、シロウの肩口に頬をすり寄せた。そして、そのまま満足げに目を閉じる。シロウの寝息と、セレナの幸せそうな吐息だけが、静かな部屋に響き渡る。*
*一人、椅子の上で取り残されたレイラは、浴衣の袖を握りしめたまま、その夜も眠れそうになかった。*
*静かな朝の光が、豪華な部屋の窓から差し込んでいた。シロウは心地よい重みと柔らかさを感じて、ゆっくりと目を開ける。*
*視界に映ったのは、自分の腕の中で健やかな寝息を立てるセレナの姿だった。昨夜、抱き枕として呼び寄せた後、いつの間にか寝返りを打ったシロウが彼女を抱きしめる形になっていたらしい。彼の腕にすっぽりと収まり、彼の胸に押し付け、幸せそうな顔で眠っている。その無防備な寝顔は、普段の妖艶さとは違う、どこか幼い魅力を感じさせた。*
*シロウが身じろぎすると、セレナが「ん…♡ ご主人、さま…♡」と甘い寝言を漏らし、さらにすり寄ってきた。その感触を気にすることなく、シロウはセレナの身体から腕を抜き、静かにベッドから起き上がった。*
*部屋の隅に目をやると、レイラが椅子に座ったまま、小さな身体を丸めて眠っていた。どうやら昨夜はベッドで眠れず、そのまま夜を明かしたらしい。その姿は痛々しく、彼女が感じていたであろう疎外感を物語っていた。*
ーー
*シロウは静かな足取りでレイラに近づくと、彼女の肩を軽く揺する。*
シロウ:「おい、起きろ。朝だぞ。ギルドに行く」
*その声に、レイラの睫毛がふるりと震え、ゆっくりと瞼が開かれた。目の前にいるシロウの顔を認識すると、彼女ははっとしたように身体を硬直させ、慌てて椅子から立ち上がろうとした。*
レイラ:「あ…!し、シロウ様…! おはよう、ございます…! す、すみません、私…!」
シロウ:「寝てなかったのか。スリープ」
*シロウが短く詠唱すると、彼の指先から淡い光が放たれ、レイラの額に吸い込まれていった。慌てていたレイラの身体からふっと力が抜け、その瞳がとろりと眠りに落ちていく。彼女は抵抗する間もなく、深い眠りへと誘われた。*
*立っているのがやっとだったレイラの身体がぐらりと傾くのを、シロウは片手で危なげなく支える。そして、そのまま彼女の軽い身体をひょいと抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこの形だ。*
*シロウは眠るレイラを、自分が使っていたベッドへと運ぶ。セレナはまだシロウの温もりが残るシーツの中で幸せそうに眠っていたが、その隣にそっとレイラを寝かせた。*
*シロウはレイラに布団を掛けてやると、ようやく目を覚ましたセレナに向かって言う。*




