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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*シロウは、妹の虚ろな瞳を見て顔を青ざめさせるミミの姿を【絶無】と【無影】で気配を消したまま一瞥すると、音もなく部屋を後にした。*

*計画は完璧に進んだ。リリは完全に「影のシロウ」という、暴力的で絶対的な支配者に堕ちた。表の顔である優しい「シロウ」と、裏の顔である冷酷な「影」。この二つを使い分けることで、彼女を意のままに操れるだろう。*


*(さて…リリの調教はこれで完了だ。あとはミミがどう動くかだな)*


*温泉宿の廊下を歩きながら、シロウは久しぶりに自身のステータスを確認することにした。ワイバーンロードの討伐やその後のゴブリン退治、そして眷属の強化など、自分の成長を客観的に把握しておく必要があった。*


**ピッ…**


*意識を集中させると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。*


```


名前 シロウ・ニシキ

Lv.50

種族:人間

称号(非表示)


HP 12500 / 12500

MP 9800 / 9800


筋力 850 (+50)

体力 820

敏捷 1150 (+80)

魔力 1050

器用 950

幸運 250


所持金 白金貨8枚、金貨502枚、銀貨5枚、銅貨2枚


装備

右手: 星麻毒の刃『ステラヴェノム』 (伝説級/猛毒・麻痺)

左手: 夜天の牙『ナイトファング』 (伝説級/出血・腐食)

指 隠者の指輪 (ステータス偽装)

鞄 次元の革袋 (大容量)


《スキル》

【ユニークスキル】

神眼 Lv.5 (鑑定、スキル強奪、スキルコピー)

創造 Lv.1 (魔法・スキルの創造)

世界樹の祝福 (常時HP・MP自動回復(中)、状態異常耐性(中)、植物系魔法効果増幅(大))

【パッシブスキル】

精神攻撃無効

スキル整理 Lv.5

筋力増強 Lv.5

【アクティブスキル】

剣神

弓神

体術 Lv.6

縮地 Lv.8

無影

絶無

魔力操作 Lv.8

水魔法 Lv.5

嵐魔法 Lv.1

眷属支配 Lv.1

変声魔法 Lv.1

読心術 Lv.1

アイテムボックスLv.1


【眷属】

サキュバス・クイーン "セレナ"


```


*(レベル50になったことで【創造】を習得し、さらに金で【読心術】も手に入れた。これは使い方次第でとんでもない武器になるな…)*


*シロウはステータスウィンドウを閉じ、一人静かに考える。*

*この温泉宿で、次は何をするか。シロウは静かに思考を巡らせ始めた。*


(俺は『花蝶の庵』に7日間滞在した。だが、毎日相手が違った。女将に「日替わりで最高の癒しをご用意します」とかなんとか言われて、それを受け入れた)


*脳裏に、日替わりの女たちの顔と身体が鮮明に蘇る。*


(1日目は、和装の似合う小柄な少女、しの。古風な言葉遣いと奉仕が印象的だった)

(2日目は、小悪魔的なインプのアリス。悪戯っぽい笑みを浮かべながらも、その実、経験豊富で俺を悦ばせた)

(3日目は、猫又の新人、たまき。まだ不慣れで、すぐに耳と尻尾に感情が出てしまうのが面白く、散々弄ってやった)

(そして、4日目に現れたのが、インプの姉妹、ミミとリリだった。特にリリの心の内に秘められた歪んだ欲望を【神眼】で見抜いた。そこから、この3日間は彼女たちを指名した…)


(今日で滞在7日目。冒険者ギルドへ向かい、ワイバーンロードの売却代金を受け取る。そして、その資金を元に、無法地帯『ゾル・ガザル』へ。この計画にブレはない)


(さて、どうするか。まずはチェックアウトだ。女将に挨拶を…)


*シロウは思考を完全に整理し、部屋を出て『花蝶の庵』の帳場へと向かった。滞在費は前払いだが、最後の挨拶はしておくのが筋というものだろう。*

*美しい木造の廊下を歩いていくと、帳場には女将が座っていた。シロウの姿に気づくと、にこやかに立ち上がる。*


女将:「シロウ様、ご出発のご準備でございますか? 7日間、ごゆっくりお過ごしいただけましたでしょうか」

**女将は優雅にお辞儀をする。その背後から、ミミとリリがやってきて、深々と頭を下げた。**


ミミ:「シロウ様…この度は、私共を何度もご指名いただき、誠にありがとうございました」

**ミミは感謝の言葉を述べるが、その視線は隣にいるリリへと注がれ、心配の色が隠せないでいる。**


*一方、リリは顔を伏せたまま、微かに身体を震わせていた。シロウが彼女に視線を向けると、びくん、と肩が跳ねる。しかし、彼女が顔を上げることはない。*


***(リリの心の声)***

*(ご主人様…優しい、ご主人様…)*

*(でも、わたしはもう、この方のものじゃない…)*

*(わたしは、あの人の…『本当の主人』の肉人形…♡)*

*(あの人が、迎えに来てくれるまで…わたしは、ここで待ってなきゃ…)*


*【読心術】で彼女の思考を読み取り、シロウは満足げに口元を緩めた。調教は完璧だ。*


シロウ:「ああ、世話になったな。最高の癒しだったよ。特に、そこの姉妹にはな」

**シロウはあえてミミとリリに視線を送りながら、女将に言う。**


女将:「まあ、左様でございましたか。この子たちの励みになりますわ」


シロウ:「それじゃあ、俺は行く。また王都に来ることがあれば、寄らせてもらうさ」

*シロウはひらりと手を振り、宿の出口へと向かう。その背中に、ミミの少し寂しそうな声と、女将の丁寧な挨拶が送られる。リリだけは、最後まで顔を上げることなく、小さく震え続けていた。*


*温泉街の石畳を歩き、シロウはゼノグラード冒険者ギルドの前に立つ。王都のそれよりは小規模だが、活気は負けていない。*

*ギルドの扉を開けると、カウンターの受付嬢がシロウの顔を認め、すぐに立ち上がった。彼女は興奮を隠しきれない様子で声を上げる。*


受付嬢:「シロウ様! お待ちしておりました! 例のワイバーンロードの首、無事に王都の貴族様へ売却が完了いたしました!」


*シロウはカウンターに肘をつき、にやりと笑う。*


シロウ:「それで、約束のブツは入ったんだろうな?」


*(約束では白金貨15枚。鉄貨150万枚分…日本円にして1500万円か。悪くない)*


*シロウが内心で計算していると、受付嬢は奥から厳重に封をされた革袋を緊張した面持ちで運んできた。*


受付嬢:「は、はい! こちらが売却代金の白金貨15枚になります…! ご確認ください!」


*革袋がカウンターに置かれると、ずしり、と重い音が響く。シロウはその革袋を掴むと、中身を軽く改め、満足げに頷いた。*


*シロウは白金貨15枚が入った革袋を、ずしりとした重みを感じながら【アイテムボックス】へと仕舞い込んだ。これで軍資金は十分すぎるほど手に入った。*


シロウ:「さて、金も手に入った。ゾル・ガザルに向かうか」


*シロウがそう呟くと、カウンターの受付嬢がびくりと肩を震わせ、心配そうな顔で口を開いた。*


受付嬢:「え…!? ゾ、ゾル・ガザルですか!? あそこは…その…国もギルドも管理しきれていない無法地帯ですよ! 腕利きの冒険者でも命の保証はないと聞きます。シロウ様ほどのお方でも、どうかご再考を…」

*彼女は心からシロウを心配しているようで、その瞳は真剣だった。*


*シロウはそんな彼女の忠告を鼻で笑う。*


シロウ:「忠告はありがたく受け取っておく。だが、だからこそ行くんだよ。退屈な場所には用はないんでな」


*シロウは不敵な笑みを浮かべ、カウンターに背を向けた。危険が大きければ大きいほど、得られるものも大きい。強くなるためには、ぬるま湯に浸かっているわけにはいかない。*


*ギルドを出て、ゼノグラードの街を見渡す。ゾル・ガザルへ向かうには、まずここから南西の街道を抜け、国境近くの宿場町を目指すことになるだろう。道のりは馬車を使っても数日はかかるはずだ。*


シロウ:「(まずは移動手段を確保するか…それとも、このまま街道を歩いていくか。道中の魔物も、今の俺の敵ではないだろうしな)」

*シロウはこれからの長旅に思いを馳せ、ゾル・ガザルという未知の土地への期待に胸を高鳴らせながら、街の門へと歩き出した。*


*(ユーザーからの情報で、シロウの行動目的がより明確になる。ゾル・ガザルへ向かう真の目的は、金策ではない。既にワイバーン討伐で大金を得ている。目的は、表の市場では絶対に扱えない禁制品、オリハルコン30kgを闇市で売りさばくこと)*


*シロウはゼノグラードの街門をくぐり、南西へと続く街道に足を踏み出した。受付嬢の心配そうな顔が脳裏をよぎるが、すぐに消え去る。彼女が知っているのは表向きの理由だけだ。*


*(金はワイバーンの報酬で十分すぎるほど手に入った。だが、俺が本当に売りたいのはこんなもんじゃない)*


*シロウは腰に下げた【次元の革袋】に無意識に手をやる。その中には、以前とあるダンジョンの奥深くで手に入れた、決して表沙汰にはできない代物が入っている。*


*(オリハルコン30kg…伝説級の金属だ。どこの国の王でも喉から手が出るほど欲しがるだろうが、正規のルートで売れば間違いなく足がつく。出所を問われ、最悪、国から狙われることにもなりかねん)*


*だからこそ、ゾル・ガザルなのだ。*


*(法も秩序もない無法地帯。そこにあると言われる闇市ならば、出所不問でこのオリハルコンをさばけるはずだ。まともな商人や貴族には売れんが、裏社会の大物や、国家転覆を企むような連中なら、とんでもない値をつけるだろう)*


*それは単なる金儲けではない。ゾル・ガザルの裏社会に深く食い込み、その闇の力さえも手に入れるための、最初の布石。*


*シロウの脳裏に浮かんだ、裏社会への進出という野心的な計画。しかし、彼はすぐにその思考を打ち消すように、ふっと息を吐いて笑った。*


*(…なんてな。普通の転移者なら、そう考えるのかもしれんが)*


*シロウは街道の脇に生えていた名も知らぬ草を一本引き抜くと、それを口に咥えた。ゼノグラードの街を背に、どこまでも続く青い空を見上げる。*


*(ゾル・ガザルに行くのも、オリハルコンを売るのも、全部ただの手段だ。強大な力を求めるわけでも、世界を支配したいわけでもない)*


*彼の心にあるのは、もっとシンプルで、それでいて遥かに贅沢な欲望だった。*


シロウ:「普通は考えるが、俺は違う」

独りごちるように呟いた。


シロウ:「俺は"世界を旅し、スローライフを満喫する"。これ一点に尽きる」


*そう、彼の目的はそれだけだった。*

*前世で社畜としてすり減らした人生。もうあんな生き方はごめんだ。この新しい世界で手に入れたチート能力は、誰かにこき使われるためでも、面倒な英雄譚を紡ぐためでもない。*


*ただ、気ままに旅をして、美しい景色を見て、美味いものを食い、そして―――気に入った女を好きなだけ抱く。*


*(そのためには金がいる。だからオリハルコンを売る。そのためには安全で高値がつく場所がいい。だからゾル・ガザルに行く。それだけのことだ)*


*危険な場所へ行くのも、裏社会と関わるのも、全ては究極のスローライフを実現するための準備に過ぎない。面倒な争いごとはごめんだが、自分の自由を邪魔するものは、たとえ神であろうと容赦なく叩き潰す。そのための力は、既に持っている。*


*目的が明確になったことで、シロウの足取りは軽くなった。*


シロウ:「さて、まずは馬車でも探すか。のんびり街道歩きも悪くないが、スローライフのためには、無駄な体力は使わん主義でな」


*彼はくつくつと喉を鳴らして笑い、ゼノグラードの街の馬車乗り場へと引き返すことにした。これから始まる無法地帯への旅路すら、彼にとってはスローライフへ向かうための楽しいピクニックのようなものだった。*


*シロウはゼノグラードの街門のすぐそばにある、活気のある馬車乗り場へと向かった。様々な行先の看板が掲げられ、商人や旅人、御者たちの威勢のいい声が飛び交っている。その中で、一際年季の入った頑丈そうな馬車のそばで、ふてぶてしい顔つきの髭面の中年男性が腕を組んで立っているのを見つけた。いかにも、荒っぽい街道を走り慣れていそうな雰囲気だ。*


*シロウはその男に近づき、声をかけた。*


シロウ:「すまない、ゾル・ガザル行きの馬車はあるか?」


*男はシロウの全身を値踏みするようにジロリと一瞥すると、面倒くさそうに口を開いた。*


御者:「ゾル・ガザル、だと? あんちゃん、物騒なところに行きたがるな。乗り合いなんざ、怖がって誰も行きたがらねぇよ」

**男は地面にぺっと唾を吐き、言葉を続ける。**


御者:「護衛付きの貸し切りなら出してやるが…安くはねぇぞ。ゾル・ガザル近郊の最後の宿場町『ラストホープ』までで、金貨10枚。そこから先は、あんたの脚で歩きな。ゾル・ガザルの門の中まで馬車で入るなんざ、自殺行為だからな。どうする?」

**男はシロウの懐具合を探るように、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。**


*シロウが躊躇いなく金貨10枚を差し出すと、御者の男は少し驚いたように目を見開いた。そして、その金貨をひったくるように受け取ると、一枚一枚、歯で噛んで本物かどうかを確かめる。*


御者:「へっ…! 気前がいいじゃねえか、あんちゃん。よし、契約成立だ」

**男は金貨を汚れた革袋に雑にしまい込むと、ニヤリと笑みを浮かべた。**


御者:「俺はゴードンだ。ラストホープまで、きっちり送り届けてやる。まあ、道中の野盗や魔物は別料金だがな…いや、あんちゃん相手なら心配なさそうか」

**ゴードンは再びシロウの腰に下げられた双剣を値踏みするように見て、肩をすくめる。**


ゴードン:「準備ができてるなら、さっさと乗んな。日が高いうちに少しでも距離を稼いでおきてえ。出発はすぐだ」


*そう言うと、ゴードンは御者台にひらりと飛び乗り、手綱を握った。馬車は乗り合い用だが、客はシロウ一人だけのようだ。荷台の扉が開け放たれており、中に入るように顎で示している。*


*馬車の中は干し草と埃の匂いがした。座席は硬い木製で、乗り心地はあまり期待できそうにない。まさに「スローライフ」とは程遠い、武骨な旅の始まりだった。*


*シロウは無骨な馬車の荷台に腰を下ろし、外の景色を眺めていた。ガタガタと揺れる振動は決して快適ではないが、これも旅の醍醐味だと割り切る。*


シロウ:「魔物は出てこないさ、多分な」


*シロウは意味深に呟くと、目を閉じ、意識を【神眼】の索敵機能に集中させた。広域に展開された索敵網が、周囲の魔物の気配を手に取るように伝えてくる。*


*(…いるな。進行方向、右手前方500m。ゴブリンが3体。待ち伏せか)*


*御者台のゴードンはまだ気づいていない。シロウは目を閉じたまま、指先一つ動かさない。ただ、ごく微量の魔力を練り上げた。*


*(【水魔法】―――ウォーターニードル)*


*魔法陣も詠唱もなし。シロウの魔力操作は、そんなものは必要としないレベルに達している。彼の脳内でイメージされたのは、極限まで圧縮され、針のように鋭利になった三つの水の塊。*


*次の瞬間、馬車の遥か前方、茂みに隠れていたゴブリンたちの額が、内側から弾けた。*


**プシュッ! プシュッ! プシュッ!**


*音もなく、ゴブリンたちは脳漿を撒き散らしてその場に崩れ落ちる。一瞬の出来事。彼らは自分たちが死んだことすら認識できなかっただろう。*


*御者台のゴードンは、馬が少しだけいなないたことに気づいたが、特に気にも留めずに鼻歌を続けている。*


ゴードン:「ん? どうした、どうした。…まあ、気のせいか」


*シロウは薄目を開けてその様子を確認すると、再び目を閉じた。気づかれることなく、脅威を排除する。これこそが、面倒を避けてスローライフを目指す者のやり方だった。*


*(さて、次の獲物はどこかな…)*


*シロウは索敵を続けながら、何事もなかったかのように馬車の揺れに身を任せる。ゴードンは、自分がSランク冒険者の専属護衛付きで、この街道で最も安全な旅をしていることに、まだ気づいていなかった。*


*ゼノグラードを出発してから数日。ゾル・ガザルへと続く荒れた街道は、野盗や魔物の巣窟として有名だった。しかし、ゴードンの馬車は一度も襲撃を受けることなく、信じられないほど平穏に進み続けた。*


*ゴードンは最初こそいつも通り警戒していたが、三日も経つと、その異常なほどの静けさに首を傾げ始めた。あまりにも何も起こらない。獣の遠吠えすら聞こえない日もあった。*


*そして、旅の最終日。地平線の向こうに、粗末な木の柵で囲まれた宿場町『ラストホープ』の姿が見えてきた。*


ゴードン:「…着いたぜ、あんちゃん。あれがラストホープだ」

**ゴードンは信じられないといった様子で、目的地の街と、馬車の荷台で何事もなかったかのように寛ぐシロウを交互に見やる。**


ゴードン:「おい…あんた、一体何者なんだ? この街道を走って、ゴブリンの一匹も見かけねえなんてのは、俺の御者人生で初めてだ…気味が悪いくらいにな」

**彼は額の汗を拭い、心底不思議そうにシロウに問いかける。道中、シロウが何かをした素振りは一切なかった。ただ静かに座っていただけ。それなのに、あらゆる危険が彼らを避けていったかのような、不自然なほどの幸運。ゴードンは、目の前の若者がただの旅人ではないことを確信していた。**


*シロウはゆっくりと荷台から降り立つと、肩をすくめてみせた。*


シロウ:「さあな。俺がただ運のいい男なのか、それともあんたの日頃の行いがいいのか。どっちかだろ」

**彼は悪びれもなくそう言うと、ラストホープの門へと歩き出す。**


シロウ:「世話になったな、ゴードン。いい旅だったぜ」


*その背中を見送りながら、ゴードンはしばらく呆然と立ち尽くしていた。*


ゴードン:「(運…? 馬鹿言え、あんな気配…ただもんじゃねえ…)ちくしょう、とんでもねえ客を乗せちまったぜ…」

**彼はぼやきながらも、無事に大金を稼げたことに安堵し、荒々しく馬車をUターンさせてゼノグラードへの帰路につくのだった。**


***


*シロウはラストホープの門をくぐる。その名の通り「最後の希望」というにはあまりにも寂れた、荒くれ者たちばかりが屯する宿場町だった。酒場の喧騒と、鉄の匂い、そして胡散臭い視線が四方から突き刺さる。ここから先は、無法地帯ゾル・ガザル。誰もが他人の懐を狙っている。*


*(さて…まずは情報収集と、今夜の宿の確保だな)*


*シロウは辺りを見回し、一番マシそうな宿屋兼酒場へと足を向けた。ここからが、本当の旅の始まりだった。*


*ラストホープの土埃が舞う道を歩きながら、シロウは周囲の建物を観察する。冒険者ギルドの看板は見当たらず、あるのは薄汚れた酒場、怪しげな商店、そして崩れかけた宿屋だけだった。*


シロウ:「(冒険者ギルドは無いな、宿屋を探すか。…まあ、ゾル・ガザルへの前線基地みたいなもんだ。秩序なんて期待するだけ無駄か)」

*シロウはすれ違う男たちの、品定めするような視線を意にも介さず、比較的マシに見える「鉄の猪亭」という看板が掲げられた建物に向かって歩き出す。腰に下げたダミーの財布が、わざとらしくチャリンと音を立てる。*


シロウ:「(ちなみに、財布はダミーでしかも俺から10m離れると自爆するオマケ付きだ。物騒な街ではこれくらいが丁度いい)」


*鉄の猪亭の扉を押し開けると、昼間だというのに薄暗い店内には、酒と汗の混じった臭いが充満していた。カウンターでは屈強な宿の主人が汚れた布でジョッキを拭いており、テーブル席では数組の荒くれ者たちが酒を飲みながらシロウに一瞥をくれる。*


*シロウはそんな視線を無視して、まっすぐカウンターへ向かった。*


シロウ:「主人、部屋は空いてるか? 一泊頼みたいんだが」


*宿の主人は、ギロリとシロウを頭のてっぺんからつま先まで舐めまわすように見ると、無愛想に顎をしゃくった。*


宿の主人:「ああ、空いてるぞ。一泊銅貨5枚。前払いだ。食事は別料金だが、いるか?」

*その目は、シロウが本当に金を払えるのかどうかを見極めようとしている。この宿場町では、身なりの良い旅人は格好のカモなのだろう。*


*カウンターに置かれた銀貨を見て、宿の主人の目がわずかに見開かれる。銅貨5枚の宿代に対し、その倍額の価値を持つ銀貨。しかも「釣りは取っとけ」という言葉付きだ。*


*主人は汚れた布でカウンターを拭く手を止め、無骨な指で銀貨をつまみ上げる。それをまじまじと眺め、歯で軽く噛んで本物だと確かめると、フンと鼻を鳴らした。無愛想な表情は崩さないが、その目つきは先ほどよりも少しだけ柔らかくなっている。*


宿の主人:「…へっ、威勢のいいこった。坊主、見た目より羽振りがいいらしいな」

**彼は銀貨を懐にしまい込むと、カウンターの下から古びた鍵を取り出し、ドンと音を立てて置いた。**


宿の主人:「部屋は2階の突き当りだ。ベッドと水差しがあるだけのがらんとした部屋だが、文句は言うなよ。食事はそこの席で食え。何か頼むなら今のうちだ。夜はもっと柄の悪い連中が増えるからな」

*主人はそう言って、顎で空いているテーブル席の一つを示す。金払いの良い客だと判断したのか、最低限の忠告はしてくれたようだ。*


*ラストホープの土埃が舞う道を歩きながら、シロウは周囲の建物を観察する。冒険者ギルドの看板は見当たらず、あるのは薄汚れた酒場、怪しげな商店、そして崩れかけた宿屋だけだった。*


シロウ:「(冒険者ギルドは無いな、宿屋を探すか。…まあ、ゾル・ガザルへの前線基地みたいなもんだ。秩序なんて期待するだけ無駄か)」

*シロウはすれ違う男たちの、品定めするような視線を意にも介さず、比較的マシに見える「鉄の猪亭」という看板が掲げられた建物に向かって歩き出す。腰に下げたダミーの財布が、わざとらしくチャリンと音を立てる。*


シロウ:「(ちなみに、財布はダミーでしかも俺から10m離れると自爆するオマケ付きだ。物騒な街ではこれくらいが丁度いい)」


*鉄の猪亭の扉を押し開けると、昼間だというのに薄暗い店内には、酒と汗の混じった臭いが充満していた。カウンターでは屈強な宿の主人が汚れた布でジョッキを拭いており、テーブル席では数組の荒くれ者たちが酒を飲みながらシロウに一瞥をくれる。*


*シロウはそんな視線を無視して、まっすぐカウンターへ向かった。*


シロウ:「主人、部屋は空いてるか? 一泊頼みたいんだが」


*宿の主人は、ギロリとシロウを頭のてっぺんからつま先まで舐めまわすように見ると、無愛想に顎をしゃくった。*


宿の主人:「ああ、空いてるぞ。一泊銅貨5枚。前払いだ。食事は別料金だが、いるか?」

*その目は、シロウが本当に金を払えるのかどうかを見極めようとしている。この宿場町では、身なりの良い旅人は格好のカモなのだろう。*


*カウンターに置かれた銀貨を見て、宿の主人の目がわずかに見開かれる。銅貨5枚の宿代に対し、その倍額の価値を持つ銀貨。しかも「釣りは取っとけ」という言葉付きだ。*


*主人は汚れた布でカウンターを拭く手を止め、無骨な指で銀貨をつまみ上げる。それをまじまじと眺め、歯で軽く噛んで本物だと確かめると、フンと鼻を鳴らした。無愛想な表情は崩さないが、その目つきは先ほどよりも少しだけ柔らかくなっている。*


宿の主人:「…へっ、威勢のいいこった。坊主、見た目より羽振りがいいらしいな」

**彼は銀貨を懐にしまい込むと、カウンターの下から古びた鍵を取り出し、ドンと音を立てて置いた。**


宿の主人:「部屋は2階の突き当りだ。ベッドと水差しがあるだけのがらんとした部屋だが、文句は言うなよ。食事はそこの席で食え。何か頼むなら今のうちだ。夜はもっと柄の悪い連中が増えるからな」

*主人はそう言って、顎で空いているテーブル席の一つを示す。金払いの良い客だと判断したのか、最低限の忠告はしてくれたようだ。*


*シロウの「一番美味い定食を」という注文に、宿の主人は一瞬だけ面食らったような顔をしたが、すぐにニヤリと口の端を吊り上げた。この寂れた宿場町で「一番美味いもの」などと洒落たことを言う客は珍しい。*


宿の主人:「一番美味い、だと? ハッ、威勢だけじゃなく、言うこともいっぱしだな。いいだろう、うちで一番マシな肉を使って、特別に作ってやる。だが、安くはねえぞ。銅貨8枚だ」


*主人は挑むような目でシロウを見る。足元を見ているのか、それとも単に商売人としての駆け引きか。*


シロウ:「それでいい。頼む」

*シロウが即答すると、主人は少しだけ満足そうに頷いた。*


宿の主人:「よし来た。そこの席で待ってな」

*主人は厨房の奥にいるであろう妻か誰かに「おい! 特製の猪肉定食一つ! 一番いい肉を使え!」と野太い声を張り上げると、再びカウンターでジョッキを拭き始めた。*


*シロウは指定されたテーブル席に腰を下ろし、部屋の鍵をテーブルの上で弄びながら待つ。周囲の荒くれ者たちは、銀貨を気前よく使ったシロウの様子を遠巻きに見て、ひそひそと何かを囁き合っている。明らかに、新たなカモが来たと値踏みしている空気だ。*


*(…わかりやすい。実にわかりやすい連中だ)*


*シロウは内心でため息をつきながらも、面倒事が起きるならそれもまた一興と、静かに待ち続けた。*


*しばらくして、宿の女主人らしき恰幅のいい女性が、湯気の立つ大皿を運んできた。*


女主人:「はい、おまちどう。特製の猪肉定食だよ。今日はいいボアが入ったからね、運が良かったじゃないか」


*ドン、とテーブルに置かれたのは、分厚く切られた猪肉のステーキに、黒パン、豆のスープ、そしてピクルスが添えられた、見た目にも豪快な一皿だった。肉からは香ばしい匂いが立ち上り、食欲をそそる。*


女主人:「さ、熱いうちに食べな。お代は銅貨8枚。亭主に払ってあるのかい?」

*彼女は人懐っこい笑顔でシロウに問いかけた。*


*シロウが「まだだ」と言って、きっちり銅貨8枚をテーブルに置くと、女主人はにこやかにそれを受け取った。*


女主人:「あら、そうかい。ありがとうね。さ、たくさんお食べ」

**彼女は愛想よく言うと、他の客の注文を取りにカウンターの方へ戻っていった。**


*シロウは目の前の定食に視線を落とす。厚切りの猪肉は表面がカリッと焼かれ、中はまだジューシーさを保っているようだ。立ち上る肉の焼ける香ばしい匂いと、添えられたハーブの香りが鼻腔をくすぐる。*


シロウ:「(…見た目は悪くない。味はどうかな)」

**ナイフで肉を切り分け、一切れを口に運ぶ。**


*噛みしめると、獣肉特有のしっかりとした歯ごたえと共に、力強い旨味がじゅわっと口の中に広がった。臭みは香辛料でうまく消されており、塩と胡椒だけのシンプルな味付けが、逆に肉本来の味を引き立てている。黒パンは少し硬いが噛むほどに味があり、豆のスープも塩気が効いていて冷えた体に染み渡る。*


シロウ:「…ふむ。この町にしちゃ、上出来だな」

**彼は小さく呟くと、黙々と食事を進め始めた。**


*その様子を、店内の隅のテーブル席にいた三人組の男たちが、下卑た笑みを浮かべながら見つめている。彼らの視線は、シロウの腰にある(ように見える)財布に注がれていた。*


男A:「おい、見たかよ。さっき銀貨をぽんと出しやがったぜ」

男B:「ああ。それにあの双剣…上物だ。売りさばけばいい値になる」

男C:「カモがネギ背負って歩いてるようなもんだな。夜になるのが待ちきれねえぜ…ククク」


*彼らの囁き声は、喧騒にかき消されて常人には聞こえない。だが、シロウの【聴覚強化】スキルは、その不穏な会話の内容をはっきりと捉えていた。*


シロウ:「(…早速か。まあ、そうなるよな)」

**彼は気づかないふりをしながら、食事を続ける。面倒だが、この街で波風を立てずに過ごすのは不可能だろう。ならば、最初の見せしめとして、彼らを利用するのも悪くない。**


*シロウはスープの最後の一滴を飲み干すと、満足げに息をついた。*


*シロウが満足げに声をかけると、ちょうど近くを通りかかった女主人がにこやかに振り返った。*


女主人:「おや、お口にあったかい? よかったよ。で、果実酒だね。甘いのと辛いの、どっちがいい?」

**彼女は親しげに尋ねる。金払いの良い客には、店の対応も自然と良くなるようだ。**


シロウ:「結構美味いな。あ、すまない、これに合う果実酒をくれ」


女主人:「この肉料理なら、少し辛口のベリー酒が合うだろうね。一杯、銅貨2枚だよ」

**そう言って、女主人はシロウの返事を待っている。**


*その間も、シロウは【神眼】の索敵範囲を宿屋全体に広げ、店内の客たちの様子を窺っていた。先ほどの三人組は、まだシロウから視線を外さず、何やら次の算段を練っているようだ。他の客たちも、一癖も二癖もありそうな連中ばかり。誰もが他人を警戒し、自分の利益だけを考えている。まさに弱肉強食の世界の縮図がそこにあった。*


*冒険者は弱肉強食、襲った以上、殺されても文句は言えない。それがこの世界の法則だ…*


*シロウが銅貨2枚をカウンターに置くと、女主人は「あいよ」と快活に返事をしてそれを受け取った。*


女主人:「すぐに持ってくるからね」

*彼女はカウンターに戻ると、棚から一本の瓶を取り出し、琥珀色の液体を木製のカップに注いで持ってきた。*


女主人:「はい、おまちどう。うち特製のベリー酒さ。ゆっくりしていきな」

*女主人はカップをテーブルに置くと、また忙しそうに他のテーブルへと去っていく。*


*シロウは受け取ったカップを手に取り、中身を軽く揺らす。ベリーの甘酸っぱい香りがふわりと立ち上った。*


シロウ:「(銅貨2枚か…確かに安い。ゼノグラードの半分以下だな。いや、俺の金銭感覚がバクってるだけか? 白金貨なんてものを扱うようになったからな…)」

*彼は自嘲気味に考えながら、果実酒を一口含む。ぴりっとした辛口のアルコールの中に、ベリーの豊かな風味が感じられる。脂の多い猪肉の後には、確かにちょうどいい口直しだった。*


*酒を飲みながら、彼は改めて店内を見渡す。先ほどの三人組は、シロウが酒を飲み始めたのを見て、目配せを交わしている。おそらく、彼が酔いつぶれるのを待つか、あるいは夜になって部屋に戻ったところを襲うつもりなのだろう。その手口は手に取るようにわかった。*


シロウ:「(さて、どう料理してやろうか…)」

*彼は獲物を前にした捕食者のように、静かに、そして冷徹に思考を巡らせる。面倒事は避けたいが、火の粉は払わねばならない。ならば、徹底的に、再起不能なくらいに叩き潰しておくのが、この手の輩に対する一番の礼儀だろう。*


*シロウは表情を変えることなく、ゆっくりと酒と食事の残りを楽しみ始めた。まるで、これから起こるであろう騒動を心待ちにしているかのように。*


*シロウは最後の一口で果実酒を飲み干すと、満足げに息をつき、わざとらしく大きな音を立てて席を立った。*


シロウ:「ご馳走さん。少し風に当たってくるか…」

*彼は独り言のように呟きながら、勘定を済ませた銅貨が残るテーブルを一瞥し、ゆっくりとした足取りで店の出口へ向かう。その動きは無防備そのもの。腰の(ダミーの)財布を揺らし、いかにも「酔いが回って油断している旅人」を完璧に演じている。*


*シロウが店の扉を開けて外の薄暗い通りに出ると、案の定、店内で彼を監視していた三人組の男たちが、目配せを交わして静かに席を立った。彼らは他の客に気づかれぬよう、少し間を置いてからぞろぞろとシロウの後を追って店を出ていく。*


*宿の主人はその様子に気づいていたが、見て見ぬふりを貫いている。この街では日常茶飯事の出来事なのだろう。死人が出ない限り、面倒事には関わらないのがここの流儀だ。*


*シロウは宿の裏手、人通りのない薄汚い路地へとわざとらしく迷い込む。背後からついてくる三つの足音と、下品な殺気を【神眼】で感じ取りながら、彼は路地の奥で足を止めた。*


*カツン、カツン、カツン…*


*三人の男たちが、退路を塞ぐようにして路地の入り口に姿を現す。夕暮れの逆光を背に、彼らの顔には下卑た笑みが浮かんでいた。*


男A:「よぉ、坊主。ちょっとツラ貸せや」

*リーダー格らしき男が、指の骨をポキポキと鳴らしながら一歩前に出る。*


男B:「見ての通り、俺たちは懐が寂しくてな。お前さん、羽振りがいいそうじゃねえか。少しばかし、俺たちに寄付してもらおうか」

*二人目の男がナイフを抜き、その切っ先を舐めながらいやらしく笑う。*


男C:「金と、その腰の剣を置いていきな。そうすりゃ、痛い目見なくて済むぜ? ククク…」

*三人目の男が、じりじりとシロウとの距離を詰めてくる。完全に包囲し、獲物を追い詰めたと確信している目だ。*


*シロウはゆっくりと彼らに向き直る。その顔には焦りも恐怖もなく、ただ静かな、冷たい光が宿っていた。*


シロウ:「…なるほど。忠告どうも。だが、生憎と他人にくれてやる金も剣も持ち合わせがないんでな」

*彼は肩をすくめ、挑発するように言い放った。*


*シロウの挑発的な言葉を聞いて、三人組の男たちの顔から笑みが消え、獰猛な怒りが浮かび上がった。自分たちの優位を微塵も疑っていなかった彼らにとって、獲物であるはずの若者の態度は侮辱以外の何物でもなかった。*


男A:「…ああん? てめえ、今なんつった?」

*リーダー格の男の声が、ドスを利かせて低くなる。*


男B:「ハッ、威勢がいいのも今のうちだぜ、坊主! こちとら、お前みてえなヒヨッコを何人も路地裏の肥やしにしてきたんだ!」

*ナイフを持った男が唾を吐き捨て、じりじりと距離を詰めてくる。*


男C:「後悔させてやるよ! まずは腕の一本でもへし折って、それからじっくり金目の物を剥がさせてもらうぜ!」

*三人目の男が、反対側から回り込もうとする。完全に挟み撃ちにする算段だ。*


*路地裏の空気は一触即発の緊張感に満ち、男たちの殺気が肌を刺す。彼らはもはや、シロウをただのカモではなく、叩き潰すべき生意気な小僧と見なしていた。*


男A:「やっちまえ!!」

*リーダー格の男が叫んだのを合図に、三人が同時にシロウに襲いかかった!*


*右からはナイフを逆手に持った男が突きかかり、左からは大柄な男が拳を振りかぶり、正面からはリーダーが腰の錆びた剣を抜き放ちながら突進してくる。常人であれば、この連携から逃れることは不可能だろう。*


*しかし、シロウは動かない。*


*ただ静かに、迫りくる三つの脅威を見据えている。その瞳は、まるでスローモーションの映像を見るかのように、彼らの動きのすべてを完璧に捉えていた。*


*シロウの思考は極限まで加速され、襲いかかってくる男たちの動きが、まるで止まっているかのように見えた。*


シロウ:「(遅いな。マトリックスになった気分だ…)」


*彼は迫りくる三つの凶刃を冷静に見極める。右からのナイフ、左からの拳、正面からの錆びた剣。その全てが、シロウの知覚の中では亀のように緩慢だった。*


*シロウは瞬時に腰に手を伸ばし、夜天の牙『ナイトファング』を鞘から抜き放つ。それは一筋の黒い閃光。*


**キィン!**


*金属が擦れるような甲高い音が一度だけ響いた。*


*シロウの身体は、三人の攻撃が到達するコンマ数秒前に、彼らの間をすり抜けるようにして後方へ移動していた。そして、そのすれ違いざまに振るわれた『ナイトファング』の切っ先が、三人の男たちの露出した肌を、ごく浅く、しかし的確に切り裂いていた。*


*一人は首筋を。一人は腕を。もう一人は頬を。*


*シロウが路地の奥で静かに着地した時には、既に『ナイトファング』は鞘に納められている。まるで何も起こらなかったかのように。*


*襲いかかった三人組は、勢い余って前のめりになり、互いにぶつかりそうになって体勢を崩す。自分たちの攻撃が空を切ったことに、一瞬、何が起きたのか理解できないでいた。*


男A:「なっ…!?」


*リーダー格の男が、頬に走る一筋の熱い痛みに気づき、手を当てる。指先がぬるりとした感触に濡れた。血だ。*


男B:「ぐっ…腕が…! い、いつの間に…!?」

男C:「首が…ひっ…!」


*彼らはそれぞれ斬られた箇所を押さえ、信じられないという表情でシロウを見た。あまりの速さに、斬られたことすら認識が追いつかなかったのだ。*


*だが、異変はそれだけではなかった。*


男A:「な、なんだ…これ…傷口が…う、ぐあああああっ!?」

**リーダー格の男が絶叫した。浅く斬られたはずの頬の傷口から、黒い染みが広がり、まるで肉が腐っていくかのようにジュクジュクと爛れ始めていた。激痛が彼の全身を貫く。**


男B:「あ、ああ…! 腕が、俺の腕が溶けてる!? 痛ええええええええ!!」

男C:「助け…ぎゃあああああ!!!」


*『ナイトファング』の腐食属性が発動したのだ。浅い傷は、死に至る呪いへと変貌し、彼らの肉体を内側から蝕んでいく。耐え難い激痛と、自らの肉体が腐り落ちていく恐怖に、男たちはもはや戦意などどこにもなく、ただ地面を転げまわり、苦悶の声を上げるだけだった。*


*シロウは、その地獄絵図を冷たい目で見下ろしていた。*


*シロウは、地獄の苦しみにのたうち回る男たちを冷ややかに見下ろしている。路地裏には肉の焼けるような異臭と、男たちの絶叫が響き渡っていたが、シロウが事前に展開した【結界】によって、その音は外には一切漏れていない。*


シロウ:「ちなみに、その効果は腐食だ。早く治療しないと死んじゃうよ?」


*その言葉は、慈悲ではなく、絶望を突きつける宣告だった。男たちはシロウの言葉を聞き、さらにパニックに陥る。*


男A:「ち、治療だと!? ぐあああっ! こ、こんな傷、どうやって…!?」

**リーダー格の男は、腐り落ちていく自分の頬を押さえながら、恐怖と懇願の入り混じった目でシロウを見上げた。**


男B:「た、助けてくれ! 金なら…金なら全部やる! だから、こ、この呪いを解いてくれぇ!」

**腕が黒く変色していくのを見て、男は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら命乞いをする。**


*彼らはもう、シロウに逆らおうなどという気は微塵もない。ただ、この耐え難い苦痛と死の恐怖から逃れたい一心だった。*


*シロウはそんな彼らを見下ろしたまま、無表情に口を開く。*


シロウ:「治療法か…。そうだな、腕の一本、足の一本…腐ったところを切り落とせば、あるいは助かるかもしれんな。まあ、急がないと全身に回るだろうが」


*その非情な言葉に、男たちは完全に希望を打ち砕かれた。自らの手で四肢を切り落とすなど、できるはずもない。彼らの目には、目の前の静かな若者が、悪魔そのものに映っていた。*


*シロウは冷たく言い放つと、もはや人間としての尊厳すら失い、ただの肉塊のように転がって苦しむ男たちに背を向けた。*


シロウ:「自業自得、身から出た錆だ」


*彼は男たちが落とした汚れた革袋(財布)を一つずつ拾い上げる。中身を改めると、銅貨が数枚と、運が良ければ銀貨が1枚入っている程度だった。*


シロウ:「(…まあ、こんなものか)」


*彼はそのわずかな金を、まとめて自身の【次元の革袋】へと放り込む。ゴミ拾いのような作業だが、襲ってきた相手から奪い返すことに躊躇いはない。それがこの世界のルールだ。*


*金目のものを全て奪い終えた後、シロウはまだ微かに呻き声を上げる男たちを一瞥する。このまま放置すれば、彼らは間違いなくこの路地裏で腐り果て、誰にも知られずに死んでいくだろう。*


*シロウは何も言わず、【結界】を解除すると、その場を静かに立ち去った。鉄の猪亭に戻る気にはなれず、ひとまず予約した部屋の鍵をポケットに入れたまま、ラストホープの夜の街を当てもなく歩き始める。*


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