18
**翌日、温泉地ゼノグラード冒険者ギルド。**
*シロウが昼過ぎにギルドへ足を運ぶと、そこには昨日と変わらない活気が満ちていた。依頼を探す冒険者、酒を飲む冒険者、情報交換をする者たち。その喧騒の中心、ギルドマスターの執務室へと続く階段の前で、シロウは足を止めた。*
*視線の先には、まるで昨日の消耗が嘘であったかのように、背筋を伸ばして部下に指示を飛ばしているフィオナの姿があった。その立ち姿は凛としており、声には力が漲っている。昨日、意識を失って眠りこけていた人物と同一だとは、到底信じがたい。*
フィオナ:「いいか、西の街道沿いのオークの群れは、Bランクパーティ『鋼の戦斧』を向かわせろ! 損害報告は迅速に、負傷者が出たらすぐにギルド指定の治癒院へ運べ! 遅れるなよ!」
部下A:「は、はいっ!」
*的確な指示を飛ばす彼女の横顔には、疲労の色など微塵も見えない。ただ、その身から放たれる魔力の質が、以前とは明らかに異なっている。鋭く、洗練され、まるで研ぎ澄まされた刃のようなプレッシャーを周囲に放っていた。何人かの冒険者が、遠巻きに彼女の様子を窺い、その変化に気づいて息を呑んでいる。*
*(レベルダウンの反動に耐えるとは…流石ギルマス…)*
*シロウは内心で感嘆の息を漏らす。常人ならば、あれだけの急激な魂の変革とレベルダウンに見舞われれば、数日は寝込むのが普通だろう。それを一晩で回復させ、平然と業務をこなしている彼女の精神力と肉体の強靭さは、まさに規格外と言えた。*
*シロウの視線に気づいたのか、フィオナがふっと顔をこちらに向けた。二人の視線が交錯する。彼女の翠玉の瞳が、一瞬だけ鋭く細められた。そこには昨日までの警戒心とは違う、複雑な色が宿っている。挑戦、感謝、そしてほんの少しの…畏怖。*
*彼女は部下への指示を終えると、まっすぐにシロウの方へ歩み寄ってきた。ギルド内のざわめきが、一瞬だけ静まり返る。*
フィオナ:「……来たか。何の用だ? まさか、また私のスキルで遊びに来たわけではあるまいな」
*その口調は相変わらず棘を含んでいるが、以前のような殺気立った雰囲気は消えていた。*
*シロウの軽薄な口調を聞いて、フィオナの眉がピクリと動く。彼女は腕を組み、呆れたような、それでいてどこか諦めたような溜息を一つ吐いた。ギルド内の冒険者たちは、二人のやり取りを固唾をのんで見守っている。*
フィオナ:「……てめえは、本当に変わらねえな。昨日、私に何をしたか忘れたわけでもあるまい。軽々しくそんな口を利くな」
*彼女はジロリとシロウを睨みつけるが、その瞳の奥にはもはや純粋な敵意はない。むしろ、自分を遥かに超える存在に対する、どう扱っていいか分からない戸惑いのようなものが感じられた。*
フィオナ:「で? 本当に何の用だ。まさか、私をからかいにだけ来たわけじゃないだろう。依頼ならあっちのカウンターだ。私用の依頼なら、内容によるがな」
*彼女は顎で依頼受付のカウンターを指し示す。その態度はあくまでギルドマスターとしてのものであり、昨日までの個人的な緊張感は、彼女なりに整理をつけようとしているようだった。*
*(この男の前では、下手に感情を出すだけ無駄だ。…それよりも、この力をどう活かすか…そっちの方が重要だ)*
*フィオナは内心でそう呟きながら、シロウの次の言葉を待った。彼女自身、シロウがもたらした「力」にまだ完全に順応しきれていない。体が、魂が、新しい力を求めて疼いているのを感じていた。*
*シロウの言葉は、まるでフィオナの心の内を見透かしたかのように、的確に彼女の核心を突いた。その図星を指すような一言に、フィオナの表情が初めて明確に変わる。彼女の翠玉の瞳が見開かれ、一瞬、動揺が走った。*
フィオナ:「なっ…!?」
*彼女は思わず言葉を詰まらせる。その通りだった。新しい力を得た体は、その力を振るいたくてたまらない。魂が、より高次の領域に到達したスキルを試せと叫んでいる。レベルが下がったことによる焦燥感と、神の領域のスキルを手に入れた高揚感が、彼女の中でせめぎ合っていた。*
*しかし、それをこの男に、まるで子供の癇癪を見抜くかのように指摘されるのは、彼女のプライドが許さなかった。フィオナはすぐに表情を引き締め、鋭い視線をシロウに返す。*
フィオナ:「…てめえに言われるまでもない。自分の体のことは、自分が一番よく分かっている。それで? わざわざご高説を垂れに来ただけか? 用がないなら失せろ。私は忙しい」
*彼女はフンと鼻を鳴らし、そっぽを向く。だが、その耳が微かに赤くなっているのを、シロウの『神眼』は見逃さなかった。強がってはいるが、彼の言葉が彼女を揺さぶったのは明らかだった。*
*ギルド内の冒険者たちは、ますます困惑していた。ギルドマスターをここまで手玉に取るAランク冒険者とは何者なのか、と。一部の者は、二人の間に何か特別な関係があるのではないかと、あらぬ勘繰りを始めていた。*
シロウ:「ゾル…なんとかって街に行こうと思ってな。挨拶に来た」
*シロウの口から出た地名に、フィオナの空気が一変した。先ほどまでの意地の張り合いは消え去り、彼女の顔には険しい警戒の色が浮かぶ。ギルドマスターとしての鋭い貌が、そこにはあった。*
フィオナ:「……ゾル・ガザル、だと…?」
*彼女は低い声でその名を反芻する。その響きだけで、どれほど危険な場所かを知っている者の反応だった。周囲の冒険者たちも、その名を聞いてざわめき始める。無法都市の名は、たとえこの王都であっても、悪名として広く知れ渡っていた。*
フィオナ:「てめえ…正気か? あの街がどんな場所か、分かって言っているのか? あれは街などという生易しいものじゃない。法の外にある魔物の巣窟だ。Aランクだろうが、神の領域のスキルを持っていようが、油断すれば一瞬で喰われるぞ」
*彼女の言葉は、単なる脅しではない。純粋な警告だった。シロウが持つ力の片鱗を知っているからこそ、その力を過信して命を落とすことを危惧しているのが見て取れた。*
フィオナ:「…一体、何をしに行くつもりだ。あんな場所に、まともな用事などあるはずがない」
*彼女は腕を組み、鋭い翠玉の瞳でシロウを射抜くように見つめる。その問いは、個人的な興味ではない。この王都の治安を預かるギルドマスターとして、規格外の力を持つ冒険者が、大陸で最も危険な場所で何をしようとしているのか、知っておく義務があると感じていた。*
シロウ:「レベル上げしてから行く予定だからな。問題ない。」
*シロウはフィオナの真剣な警告を、まるで天気の話でもするかのように軽く受け流した。その自信に満ちた態度に、フィオナは思わず眉をひそめる。*
*(あと4で50になる。そしたら創造の出番だ)*
*シロウの内心の算段など知る由もないフィオナは、彼の楽観的な態度に苛立ちを覚えた。*
フィオナ:「問題ない、だと? てめえ、あの街を舐めているのか。あの街では、スキルやレベルだけが強さの指標じゃない。どれだけ狡猾か、どれだけ非情になれるか…そういう人間の汚い部分が物を言う世界だ。てめえのような甘い考えの奴から、真っ先に骨までしゃぶり尽くされるぞ」
*彼女の言葉は熱を帯びる。それは、ギルドマスターとして多くの冒険者の末路を見てきた者からの、本気の忠告だった。彼女は一度言葉を切ると、少し声を落として続けた。*
フィオナ:「……もし、どうしても行くというのなら、止めはせん。お前はもうAランクだ。自分の行動には自分で責任を取れ。だが、一つだけ情報をやる」
*彼女は周囲に聞かれないように、シロウに一歩近づく。*
フィオナ:「…用はそれだけか? なら、さっさとレベル上げでも何でもしてこい。私は仕事に戻る」
*彼女はそれだけ言うと、踵を返し、自分の執務室へと続く階段を上っていく。その背中は、シロウにこれ以上関わるつもりはないという意思表示のようだったが、その足取りはどこか名残惜しげにも見えた。*
*シロウはフィオナが階段を上っていくのを見送ると、ふっと口元に笑みを浮かべた。そして、人々の視線が集まるギルドの喧騒の中で、まるでその場から掻き消えるように、その姿を周囲の景色に溶け込ませた。*
**スキル『絶無』、『無影』を発動。**
*存在そのものが希薄になり、光学的にも魔力的にも完全に観測不能となったシロウは、誰にも気づかれることなく、幽鬼のように音もなくフィオナの後を追った。冒険者たちの間をすり抜け、ギルドマスター室へと続く階段を上る。彼のスキルは完璧だった。たとえフィオナ自身であっても、今のシロウを感知することは不可能だろう。*
*執務室の重厚な扉も、彼にとっては無きに等しい。扉をすり抜けるようにして、静かに室内へと侵入する。*
**ギルドマスター執務室。**
*部屋の主であるフィオナは、机の前の椅子に深く腰掛けていた。しかし、仕事をしている様子ではない。彼女は両手で顔を覆い、その指の間から、か細い溜息が漏れていた。その背中は小さく震えている。*
フィオナ:「……っ…はぁ……」
*ギルドの喧騒から切り離された静かな室内で、彼女は一人、張り詰めていた糸が切れたかのように、弱々しい姿を晒していた。*
フィオナ:「(…何なんだ、あいつは……私の全てを、根こそぎ変えておきながら…あの態度は……)」
*彼女は覆っていた手を外し、ゆっくりと自分の手のひらを見つめた。その手には、昨日までの自分にはなかった、圧倒的な力が宿っているのを感じる。しかし、それは同時に、自分では決して抗うことのできない、シロウという存在の証明でもあった。*
フィオナ:「(…強く、なった……? ああ、間違いなく。だが、これは本当に、私が望んだ強さなのか…?)」
*彼女の翠玉の瞳が、不安げに揺れる。力への渇望と、その力の源に対する得体の知れない恐怖。そして、自分を圧倒的な力でねじ伏せた男が、次の瞬間には軽薄な態度で自分をからかい、それでいて心の奥を見透かしてくる。そのアンバランスさが、彼女の心を激しくかき乱していた。*
*力ずくでねじ伏せられる方が、まだマシだったかもしれない。しかし、シロウが与えたのは、力と、そして抗いがたい「優しさ」の欠片だった。それがフィオナのプライドを、根底から揺さぶっていた。*
*部屋の隅、影の中に完全に同化したシロウは、そんな彼女の苦悩する姿を、静かに見つめていた。*
*シロウは影の中で静かに息を潜め、苦悩するフィオナの姿を観察していた。*
*フィオナが抱えていたのは、もっと根源的で複雑なもの。自身のアイデンティティを揺るがされたことへの恐怖、与えられた力への戸惑い、そして、シロウという規格外の存在そのものに対する畏怖と反発心。それらが渦巻いているのだと、彼は理解した。*
*フィオナはしばらくの間、自分の手を見つめていたが、やがて、決意を固めたように顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの弱々しさは消え、再びギルドマスターとしての強い光が宿っていた。*
フィオナ:「……くよくよしていても仕方がない。あいつに何を思われようが、この力を得たのは事実だ」
*彼女は椅子から立ち上がると、窓際に歩み寄り、活気あふれる王都の街並みを見下ろした。*
フィオナ:「力がなければ、何も守れん。それは、昔から変わらない。…この力は、あいつから与えられたものだとしても、どう使うかは私が決める」
*彼女は自分の頬をパンと両手で叩き、気合を入れ直す。*
フィオナ:「まずは、失ったレベルを取り戻す。いや、以前よりも遥かに強くなってみせる。あいつが…シロウが、二度と私を『子供扱い』できないほどに…!」
*その言葉には、明確な闘志と、シロウに対する強烈な対抗意識が込められていた。それは恋心とは違う、好敵手として、あるいは乗り越えるべき壁として、シロウを認識した瞬間の宣言だった。*
*彼女は机に戻ると、山積みになった書類の中から、高ランクの討伐依頼書を数枚抜き出し、その内容に鋭い視線を走らせ始めた。もう彼女の中に迷いはなかった。*
*その様子を静かに見届けたシロウは、満足げに口元を歪めた。*
*(それでいい。そうでなくっちゃ、面白くない)*
*彼女が抱いた感情は、シロウが最も望んでいたもの――彼に依存するのではなく、彼を超えようとする強い意志。その輝きを確認できたことに、彼は満足感を覚えた。*
*これ以上ここにいる必要はない。シロウは音もなく、そして誰にも気づかれることなく、執務室を後にした。彼の次なる目的地は、依頼掲示板。レベルを50まで上げるための、手頃な「餌」を探すために。*
*ギルドマスター室から気配もなく戻ってきたシロウは、活気を取り戻したギルドホールの中央、依頼掲示板の前で、ふっとその姿を現した。まるで最初からそこに立っていたかのように自然な出現に、周囲の冒険者たちは誰も気づかない。*
*彼は掲示板にびっしりと貼られた羊皮紙に視線を走らせる。CランクやBランク向けのゴブリン討伐や薬草採集といった細々とした依頼には目もくれず、その視線はボードの上部に貼られた、より高難易度の依頼へと向けられた。*
*(良さげな経験値…)*
*彼の『神眼』が、依頼書の文字の奥にある情報――対象の危険度、推奨レベル、そして得られるであろう経験値の量――を瞬時に読み取っていく。*
*レベル46から50まで、あと4レベル。中途半端な依頼をこなすよりも、一発で大量の経験値が見込めるものがいい。彼の目に、いくつかの候補が留まった。*
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**【緊急討伐依頼:Aランク】**
**対象:** ワイバーン・ロードとその亜種群(最低15体以上)
**出没地:** ゼノグラード南東部、竜哭渓谷
**依頼内容:** 付近の交易路を脅かすワイバーン・ロード及びその群れの討伐。ロードの首、及び亜種の心臓が討伐証明となる。
**推奨人数:** Aランクパーティ(6名以上)または同等の戦力
**報酬:** 白金貨 5枚 + 素材買取保証
**依頼主:** 商業ギルド
**特記事項:** 飛行能力を持つ対象との戦闘。対空攻撃手段必須。ワイバーン・ロードはブレス攻撃を使用する。
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**【Aランク緊急討伐依頼】**
**依頼主:温泉地ゼノグラード ギルド本部**
**対象:地竜『アースドレイク』亜種 一体**
**場所:ゼノグラード南、大渓谷地帯**
**内容:**
**近頃、大渓谷に出没する地竜の亜種により、商業路が寸断されている。対象は通常種より大型かつ凶暴であり、複数のBランクパーティが退けられた。早急なる討伐を求む。**
**推奨ランク:Aランク(パーティ推奨)**
**報酬:白金貨 50枚 + 討伐部位**
**特記事項:対象は強力なブレスと再生能力を持つとの報告あり。万全の準備を要す。**
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**【Aランク指名依頼】**
**依頼主:ゼノグラード商業ギルド**
**対象:盗賊団『赤蠍団』の壊滅**
**場所:王都への交易路一帯**
**内容:**
**交易路を荒らし回る大規模盗賊団『赤蠍団』の討伐。頭目の首に懸賞金あり。拠点の制圧と完全な無力化が達成条件。**
**推奨ランク:Aランク(パーティ推奨)**
**報酬:白金貨 40枚 + 懸賞金**
**特記事項:頭目は元騎士団員との噂あり。組織的な連携を得意とする。**
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**【Aランク調査依頼】**
**依頼主:魔術師ギルド**
**対象:古代遺跡『忘却の螺旋』の内部調査**
**場所:ウィスパーウィンドの森 奥地**
**内容:**
**近年、魔力活動の活発化が観測されている古代遺跡の調査。内部構造の地図作成と、魔力異常の原因特定を求める。**
**推奨ランク:Aランク(探索・魔法系スキル所持者推奨)**
**報酬:白金貨 60枚**
**特記事項:内部には古代のゴーレムや未確認の魔法罠が多数存在。極めて危険。**
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*(地竜の亜種、大規模盗賊団、古代遺跡…どれも経験値は申し分なさそうだな)*
*シロウは腕を組み、三つの高難易度依頼を吟味する。ソロで、かつ迅速にレベルを上げるには、どの獲物が最も効率が良いか。彼の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。*
シロウ:「一番上のワイバーンにするか。」
*そう小さく呟くと、シロウは掲示板に貼られていた【緊急討伐依頼:ワイバーン・ロードとその亜種群】の羊皮紙に手を伸ばし、ペリッと音を立てて剥がした。Aランクの、それもパーティ推奨の緊急依頼を、なんの躊躇もなく一人で剥がしていくその姿に、周囲で様子を窺っていた冒険者たちが息を呑む。*
冒険者A:「おい、マジかよ…あいつ、竜哭渓谷の依頼を一人で…?」
冒険者B:「Aランクになったばかりの新人だろ? 無謀すぎる…」
冒険者C:「いや、あれはシロウだ…Sランク級と噂の…」
*そんな囁き声を背中に受けながら、シロウは剥がした依頼書を片手に、受付カウンターへと向かった。カウンターにいたのは、昨日シロウとフィオナのただならぬ雰囲気に固まっていたのとは別の、若い受付嬢だった。彼女はシロウの顔を見ると、少し緊張した面持ちで、しかしにこやかに対応する。*
受付嬢:「シロウ様、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
*シロウは無言で、持ってきた依頼書をカウンターの上に置いた。*
*依頼書に目を落とした受付嬢の笑顔が、一瞬で凍り付く。彼女は依頼書とシロウの顔を何度も見比べ、信じられないといった表情を浮かべた。*
受付嬢:「こ、これは…竜哭渓谷のワイバーン・ロードの緊急討伐依頼…! あの、シロウ様…こちらの依頼はAランクパーティでの遂行が推奨されておりますが…お一人で受けられるのですか…?」
*彼女の声は不安げに震えている。無理もない。過去にこの依頼を受け、手痛い損害を被ったパーティは少なくないのだ。それを、たった一人で受けようというのだから、正気の沙汰とは思えなかった。*
シロウ:「パーティメンバーいないし、ソロだな」
*そのあまりにもあっさりとした、当然だと言わんばかりの口調に、受付嬢は言葉を失った。彼女の口が半開きになり、その大きな瞳が驚きに見開かれる。周囲の冒険者たちも「おいおい…」と信じられないものを見るような視線をシロウに送っていた。*
受付嬢:「そ、ソロで…!? し、しかし、シロウ様! 相手はただのワイバーンではございません! 狡猾で強力なリーダー個体、ワイバーン・ロードと、その統率された群れです! 空からの奇襲、連携攻撃、そしてロードのブレス…! 過去に挑戦したAランクパーティですら、半壊して撤退した記録が…!」
*彼女は必死に食い下がる。これは単なるギルドの規則ではない。目の前の有望な冒使者を、無駄死にさせたくないという純粋な善意からの説得だった。*
受付嬢:「どうか、ご再考ください! 今からでもパーティを募集すれば、シロウ様の実績なら腕利きの冒険者が集まるはずです! それか、別の依頼に…」
*しかし、シロウはそんな彼女の心配を意にも介さず、ただ静かに彼女を見つめているだけだった。その揺るぎない瞳は、決定を覆すつもりが微塵もないことを雄弁に物語っている。*
*その時だった。*
*階段の上から、凛とした声が響き渡った。*
フィオナ:「――その依頼、受理しろ」
*声の主は、いつの間にか階段の途中で腕を組んで佇んでいたフィオナだった。彼女は冷徹なギルドマスターの顔で、階下の騒ぎを見下ろしている。*
受付嬢:「ぎ、ギルドマスター!? し、しかし、これはあまりにも無謀です!」
*受付嬢が慌てて反論するが、フィオナはそれを鋭い一瞥で黙らせる。*
フィオナ:「こいつが自分で決めたことだ。ギルドは冒険者の意思を尊重する。それに…」
*フィオナはシロウに視線を移す。その翠玉の瞳には、呆れと、ほんの少しの期待が入り混じった複雑な色が浮かんでいた。*
フィオナ:「…こいつに限っては、『無謀』と『可能』の境界線が、我々とは違う。…さっさと手続きを済ませてやれ。時間の無駄だ」
*ギルドマスターからの絶対的な命令に、受付嬢はもはや何も言えなかった。彼女は悔しさと不安が入り混じった表情で、しかしプロフェッショナルに徹して、依頼受理の手続きを始める。*
受付嬢:「……か、承知いたしました。では、こちらの書類にサインを…。討伐証明は、ワイバーン・ロードの首と、亜種15体分の心臓です。お気をつけて…」
*彼女は震える手で書類を差し出しながら、最後に祈るようにそう付け加えるのが精一杯だった。*
シロウ:「あいよ。」
*シロウは受付嬢から差し出された書類に、慣れた手つきでサラサラとサインを書き込む。その迷いのない動きに、受付嬢はもはや諦めたように、しかし心配そうな眼差しで見つめるしかなかった。*
*サイン済みの書類をカウンターに置くと、シロウはギルドマスターであるフィオナの方を一瞥した。階段の上から見下ろす彼女と、一瞬だけ視線が交わる。フィオナはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、その横顔には「死ぬなよ」という無言のメッセージが込められているようにも見えた。*
*シロウは小さく笑みを浮かべると、周囲の冒険者たちの驚愕と畏怖の視線を浴びながら、悠然とギルドの出口へと向かう。彼の背中は、これから死地に赴く者のそれではなく、まるで散歩にでも出かけるかのように軽やかだった。*
*重い木の扉を開け、温泉地ゼノグラードの陽光の下に出る。ギルド内の喧騒が、扉の閉まる音と共に遠ざかっていった。*
**温泉地ゼノグラード郊外、竜哭渓谷へと続く街道。**
*シロウはギルドで依頼を受けた後、宿には戻らず、そのまま街の南門を抜けていた。目的地である竜哭渓谷は、ここから馬車でも半日はかかる岩場の多い危険地帯だ。*
*(普通の足なら時間がかかるが…)*
*シロウは周囲に人影がないことを確認すると、ニヤリと口角を上げる。*
*(俺にはこいつがある)*
*次の瞬間、シロウは地面を蹴った。*
**スキル『縮地』発動。**
*彼の姿がブレたかと思うと、一瞬で数十メートル先に出現する。それを連続して行うことで、街道の景色が凄まじい速さで後ろへと流れていった。街道沿いの木々や岩が、まるで一本の線のように見える。常人ならば数時間かかる道のりを、シロウはわずかな時間で駆け抜けていく。*
*レベル4つ分の経験値。ワイバーン・ロードとその群れ。*
*(さて、手早く片付けて、さっさとレベル50になってやるとするか)*
*彼の頭の中には、すでに『創造』スキルを手に入れた後の、新たな力の使い道が思い描かれていた。竜の咆哮が聞こえるというその渓谷は、彼にとってただのレベル上げの狩場でしかなかった。*
*シロウが竜哭渓谷へ向けて、高速で街道を駆け抜けていたその時。彼の脳内に、いつもの無機質なシステムメッセージが響き渡った。*
**【スキル『縮地』の練度が上限に達しました】**
**【スキル『縮地』Lv.8 は、上位スキル『転移』Lv.1 に進化しました】**
**【『スキル整理』が発動。スキルリストを更新します】**
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名前:シロウ・ニシキ
種族:人族(転移者)
職業:冒険者
Lv.46
【称号】
鑑定士、森の再生者、呪いを浄めし者、淫魔の女王を支配せし者
【所持金】
白金貨10枚、金貨552枚、銀貨5枚、銅貨2枚
【装備】
右手:星麻毒の刃『ステラヴェノム』 (星屑鋼製、等級:伝説級/属性:猛毒・麻痺)
左手:夜天の牙『ナイトファング』 (星屑鋼・光魔石製、等級:伝説級/属性:出血・腐食)
指輪:隠者の指輪 (ステータス偽装)
鞄:次元の革袋
【ステータス】
HP: 15,200/15,200
MP: 21,800/21,800
STR: 1,250
VIT: 1,100
AGI: 2,100
INT: 1,850
DEX: 1,900
LUK: 250
【ユニークスキル】
・神眼 Lv.4
・世界樹の祝福 (常時HP・MP自動回復(中)、状態異常耐性(中)、植物系魔法効果増幅(大))
・眷属支配 Lv.1
・スキル整理 Lv.5
・精神攻撃無効
【戦闘スキル】
・剣神
・弓神
・体術 Lv.6
・無影
・絶無
【魔法スキル】
・嵐魔法 Lv.1
・水魔法 Lv.5
・転移 Lv.1 (NEW!)
【補助スキル】
・魔力操作 Lv.8
・筋力増強 Lv.5
【眷属】
・サキュバス・クイーン "セレナ"
【スキル説明】
『転移』:自身の認識している座標、またはマーキングした地点へ瞬時に移動する空間魔法。MP消費量は距離に比例する。
```
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*高速移動の最中、シロウの足がピタリと止まる。彼は自身のステータスに浮かんだ新しいスキル名を見て、満足げに口の端を吊り上げた。*
*(縮地が転移に進化したか。ただの高速移動とはワケが違う。これは便利だ)*
*これまでは視界の範囲内での高速移動が限界だったが、『転移』ならば、一度訪れた場所や、マーキングさえしておけば、どれだけ離れていても一瞬で移動できる。行動範囲が飛躍的に広がった瞬間だった。*
*(なるほどな。これもレベル上げのついでと考えれば、上々の成果だ)*
*シロウは新たな力を確認し、再び前を向く。すでに街道の先には、ごつごつとした岩肌が目立つ、渓谷地帯の入り口が見え始めていた。遠くからでも、風に乗って微かに獣の咆哮のようなものが聞こえてくる。*
*もはや『縮地』を使うまでもない。彼は軽く息を吸い込むと、渓谷の入り口に見える最も高い岩の頂上をイメージする。*
**スキル『転移』発動。**
*彼の体が淡い光に包まれたかと思うと、次の瞬間にはその場から姿を消し、数秒後、数百メートル先の岩山の頂上に、音もなく出現していた。*
*眼下には、複雑に入り組んだ巨大な渓谷――竜哭渓谷の全景が広がっていた。そして、空には依頼書通り、十数体の黒い影が旋回している。ワイバーンの群れだ。*
*その中でもひときわ大きく、威厳のある個体が、渓谷の中央にある巨大な巣の上で翼を休めている。ワイバーン・ロード。*
*シロウは頂上に吹き付ける強い風を受けながら、眼下の獲物たちを見下ろし、獰猛に笑った。*
シロウ:「さて、狩りの時間だ」
*岩山の頂上に立つシロウは、眼下に広がる渓谷と、空を旋回するワイバーンの群れを冷徹な目で見下ろした。彼は静かに右手を空へと掲げる。その手のひらに、凄まじい勢いで魔力が集束していく。*
**スキル『嵐魔法』発動。**
*彼の周囲の空気がざわめき、穏やかだった風が瞬く間に唸りを上げる暴風へと変わる。渓谷全体に、天候が急変する予兆が満ち満ちていく。*
シロウ:「嵐魔法――」
*空を旋回していたワイバーンたちが、この異常な魔力の流れに気づき、警戒の鳴き声を上げた。リーダーであるワイバーン・ロードも巣から顔を上げ、不審な魔力の源である岩山の頂上を睨みつける。*
*だが、もう遅い。*
シロウ:「――タイフーン!」
*シロウがその名を唱えた瞬間、渓谷の空に巨大な渦巻く嵐、超巨大な竜巻が出現した。それは自然現象などという生易しいものではない。シロウの魔力によって生み出された、純粋な破壊の渦だ。*
**グオオオオオオオオオッ!!**
*暴風が唸りを上げ、空を舞っていたワイバーンの亜種たちを容赦なく巻き込んでいく。彼らは自慢の翼も意味をなさず、木の葉のように嵐の中で翻弄され、その体を岩壁に叩きつけられていく。*
ワイバーン:「グギャアアアアッ!?」
ワイバーン:「ギイイイイッ!?」
*悲鳴を上げる暇もなく、次々とワイバーンが竜巻の餌食となっていく。*
*しかし、シロウの攻撃はそれだけでは終わらない。彼は掲げた右手に、今度は左手を添える。*
**スキル『水魔法』発動。**
*嵐の中の水分が急速に冷却され、無数の氷の礫――鋭く尖った氷の刃へと姿を変える。*
*シロウは獰猛に笑い、命じた。*
シロウ:「――混ざれ」
*その一言で、超巨大な竜巻は、無数の氷の刃を内包した殺戮のミキサーへと変貌した。*
**ゴリゴリゴリッ! ズダダダダダッ!!**
*嵐の中で翻弄されていたワイバーンたちに、無慈悲な氷の刃が襲いかかる。肉を裂き、鱗を砕き、翼をズタズタに引き裂いていく。渓谷には、ワイバーンの断末魔の叫びと、肉体がミンチにされていくおぞましい音だけが響き渡った。空からは、血の雨と肉片が降り注ぐ。*
*わずか数十秒。あれほど空を覆っていたワイバーンの群れは、そのほとんどが原型を留めない血肉の塊となって、嵐の中で消滅していった。*
*ただ一体、リーダーであるワイバーン・ロードだけが、強力な魔力障壁を展開し、かろうじてその猛威に耐えていた。しかし、その体も無傷ではなく、全身の鱗は剥がれ、翼は裂け、夥しい量の血を流している。*
ワイバーン・ロード:「グルオオオオオオオッ!!」
*満身創痍のロードは、怒りと苦痛に満ちた咆哮を上げ、嵐の中心からたった一人でこちらを睨みつけていた。その瞳には、明確な殺意が宿っている。*
*嵐が徐々に収まり、血と肉片の雨が止んだ渓谷。満身創痍のワイバーン・ロードは、怒りに満ちた咆哮を上げ、元凶であるシロウを岩山の頂上から睨みつけていた。次の瞬間、ブレスを放とうと大きく息を吸い込む。*
*だが、そのブレスが放たれることはなかった。*
シロウ:「転移。」
*頂上にいたはずのシロウの姿が、予兆もなく掻き消える。ワイバーン・ロードがその存在を見失い、戸惑った一瞬。*
**スキル『転移』発動。**
*シロウは、ワイバーン・ロードの巨大な背中の真上、翼の付け根部分に音もなく出現した。*
ワイバーン・ロード:「グッ!?」
*背中に現れた人の気配に、ロードが反応するよりも速く、シロウは動いた。彼は両手に握った二振りの伝説級短剣を、逆手でロードの背中に突き立てる。*
**ザシュッ!ザシュッ!**
*右手、『ステラヴェノム』。左手、『ナイトファング』。二つの刃が、傷ついた鱗の隙間を的確に捉え、その肉を深々と抉った。*
**【対象:ワイバーン・ロードに状態異常『超麻痺猛毒』を付与】**
**【対象:ワイバーン・ロードに状態異常『出血(大)』『腐食』を付与】**
*シロウは一瞬で目的を達成すると、突き刺した短剣を即座に引き抜き、ロードの背中を蹴って宙へと舞う。そして、再び『転移』を発動させ、元いた岩山の頂上へと瞬時に帰還した。*
*一連の動作は、わずか一秒にも満たない。*
ワイバーン・ロード:「グギィィィィィアアアアアアアアッッ!!!」
*背中に走る激痛と、体内を瞬く間に駆け巡る致死性の毒と呪いに、ワイバーン・ロードは今までとは比較にならないほどの絶叫を上げた。体が急激に麻痺し、力が入らない。腐食の呪いが傷口から肉を溶かし、出血が止まらない。*
*飛翔の力を失ったその巨体は、為す術もなくバランスを崩し、錐揉み状態になりながら、咆哮のこだまする渓谷の底へと真っ逆さまに墜落していく。*
**ドッゴオオオオオオオオン!!!**
*凄まじい地響きと共に、ワイバーン・ロードは渓谷の底に叩きつけられた。もはや起き上がる力も残っておらず、猛毒と呪いがその生命力を確実に削り取っていく。断末魔の痙攣を繰り返すばかりだった。*
*シロウは岩山の頂上から、その無様な姿を冷ややかに見下ろしていた。*
*シロウは岩山の頂上から、渓谷の底で痙攣を繰り返すワイバーン・ロードと、嵐によってズタズタに引き裂かれた亜種たちの亡骸を見下ろしていた。*
シロウ:「討伐部位は心臓だったな。それからロードの首だな」
*彼はそう呟くと、再び『転移』を発動。一瞬で渓谷の底、ワイバーンたちの死体が散乱する血の海へと降り立った。凄まじい血と臓物の匂いが鼻を突くが、シロウは顔色一つ変えない。*
*まずは、まだ息のあるワイバーン・ロードに近づく。その巨体は毒と呪いで完全に動けなくなっており、虚ろな瞳がシロウを映しているだけだった。シロウは躊躇なくその胸に『ナイトファング』を突き立て、心臓を抉り出す。ロードの巨体がびくんと一度大きく跳ね、完全に絶命した。ロードの巨大な首も、ついでとばかりに切り落とし、次元の革袋へと放り込む。*
*次に、彼は嵐の犠牲となった亜種たちの亡骸を物色し始めた。そのほとんどは原型を留めていない肉塊だったが、『神眼』を使えば心臓の位置など一瞬でわかる。*
*彼は血まみれの地面を歩き回り、短剣を振るっては、次々とワイバーンの心臓を摘出していく。その作業は手際が良く、まるで手慣れた解体業者のようだった。*
*ザク、ザク、と肉を断つ音が響く。一つ、また一つと、どす黒く脈動の名残を留めた心臓が、彼の次元の革袋へと収納されていく。*
*15個…いや、念の為に20個ほどの心臓を回収し終えた頃、彼の脳内に待望のメッセージが次々と流れ込んできた。*
**【ワイバーン・ロードの討伐を確認。多大な経験値を獲得しました】**
**【ワイバーン亜種の討伐を確認。経験値を獲得しました】**
**【ワイバーン亜種の討伐を確認。経験値を獲得しました】**
**...**
**...**
**【Lv.46 が Lv.47 に上がりました】**
**【Lv.47 が Lv.48 に上がりました】**
**【Lv.48 が Lv.49 に上がりました】**
**【Lv.49 が Lv.50 に上がりました】**
**【レベルが50に到達しました。条件を満たしたため、ユニークスキル『創造』を習得します】**
**【『スキル整理』が発動。スキルリストを更新します】**
*シロウは心臓まみれの手を拭いもせず、その場で立ち尽くした。レベルアップによる全回復の光が、血に濡れた彼の体を包み込む。そして、彼の魂に新たな、そして最も待ち望んだ力が刻み込まれるのを、確かに感じていた。*
*(ついに来たか…『創造』…!)*
*彼の口元に、これまでのどんな笑みよりも深く、そして愉悦に満ちた笑みが浮かんだ。血と死の匂いが満ちる渓谷の底で、シロウは世界の理を書き換えるための、新たな一歩を踏み出したのだった。*
*シロウは血塗れの渓谷の底で、静かに目を閉じた。レベルアップの光が彼の体を浄化し、ワイバーンを虐殺した際のわずかな疲労すらも消し去っていく。そして、彼の意識は内側へと向かい、脳内に自身の新たなステータスウィンドウを思い浮かべた。*
**【ステータスオープン】**
---
```
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族(転移者)
職業:冒険者
Lv.50
【称号】
鑑定士、森の再生者、呪いを浄めし者、淫魔の女王を支配せし者
【所持金】
白金貨10枚、金貨552枚、銀貨5枚、銅貨2枚
(※ワイバーン討伐報酬:白金貨5枚 未受領)
【装備】
右手:星麻毒の刃『ステラヴェノム』 (星屑鋼製、等級:伝説級/属性:超麻痺猛毒)
左手:夜天の牙『ナイトファング』 (星屑鋼・光魔石製、等級:伝説級/属性:出血・腐食)
指輪:隠者の指輪 (ステータス偽装)
鞄:次元の革袋
【ステータス】
HP: 18,500/18,500
MP: 25,000/25,000
STR: 1,450
VIT: 1,300
AGI: 2,350
INT: 2,100
DEX: 2,150
LUK: 250
【ユニークスキル】
・神眼 Lv.4
・世界樹の祝福 (常時HP・MP自動回復(中)、状態異常耐性(中)、植物系魔法効果増幅(大))
・眷属支配 Lv.1
・スキル整理 Lv.5
・精神攻撃無効
・創造 Lv.1 (NEW!)
【戦闘スキル】
・剣神
・弓神
・体術 Lv.6
・無影
・絶無
【魔法スキル】
・嵐魔法 Lv.1
・水魔法 Lv.5
・転移 Lv.1
【補助スキル】
・魔力操作 Lv.8
・筋力増強 Lv.5
【眷属】
・サキュバス・クイーン "セレナ"
【新規習得スキル説明】
『創造』Lv.1:自身の経験値または金銭を対価とし、新たなスキルや魔法を自由に創造、習得することができる。創造するスキルの難易度や威力によって、消費する対価は変動する。
```
---
*ステータスウィンドウを眺め、特に『創造』のスキル説明に目を留めたシロウは、満足げに笑みを深めた。全てのステータスが向上し、新たな称号『竜狩人』も増えている。そして何より、この『創造』スキル。これこそが、彼を本当の意味でこの世界の理の外側に立たせる力となるだろう。*
*(経験値か金…なるほどな。金でスキルが買えるなら、あのオリハルコンを売る価値がさらに上がったわけだ)*
*彼は血と死臭に満ちた渓谷を見渡し、次元の革袋に仕舞ったワイバーンたちの討伐証明を思い出す。*
*(さて、ギルドに戻って報酬を貰い、ゾル・ガザルへ出発するとしようか)*
*シロウは目的を達成し、新たな力を手に入れた満足感と共に、ギルドへの帰還を決めた。彼は再び『転移』を使い、この凄惨な狩場から一瞬で姿を消した。*
*ワイバーンたちの亡骸が転がる渓谷から、シロウは一瞬で姿を消した。そして次の瞬間、彼は温泉地ゼノグラードの南門近く、人のいない路地裏に音もなく出現していた。血なまぐさい現場から、活気のある街へと一足飛びに戻ってきたのだ。*
*彼はまず、自らのステータス、そして新たに手に入れた力――『創造』スキルについて改めて確認する。*
シロウ:「キター!金銭使用!!」
*経験値だけでなく、金でスキルを買える。これは、彼の行動の幅を無限に広げる可能性を秘めていた。金さえあれば、レベルアップを待たずして、必要なスキルを好きなだけ手に入れることができるのだ。*
*(無法都市ゾル・ガザル…あんな物騒な場所に行く前に、試しておきたいスキルがある)*
*シロウは思考を巡らせ、すぐさま決断する。*
シロウ:「とりあえず、安心安全の「結界」を創造!」
*彼がそう強く意識した瞬間、ユニークスキル『創造』が呼応する。彼の魂が世界の法則にアクセスし、新たな理を紡ぎだそうとする。そして、彼の次元の革袋の中にあった白金貨が、淡い光を放って3枚、塵のように消滅した。*
**【ユニークスキル『創造』が発動します】**
**【対価として『白金貨3枚』を消費します】**
**【指定された概念に基づき、スキルを創造します…】**
**【完了しました。補助スキル『結界』Lv.1 を習得しました】**
**【『スキル整理』が発動。スキルリストを更新します】**
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```
【ユニークスキル】
・神眼 Lv.4
・世界樹の祝福
・眷属支配 Lv.1
・スキル整理 Lv.5
・精神攻撃無効
・創造 Lv.1
【戦闘スキル】
・剣神
・弓神
・体術 Lv.6
・無影
・絶無
【魔法スキル】
・嵐魔法 Lv.1
・水魔法 Lv.5
・転移 Lv.1
【補助スキル】
・魔力操作 Lv.8
・筋力増強 Lv.5
・結界 Lv.1 (NEW!)
【スキル説明】
『結界』Lv.1:術者を中心に、指定した範囲にあらゆる物理的・魔法的干渉を遮断する不可視の結界を展開する。結界の強度と範囲は、スキルレベルと消費MPに依存する。
```
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*新たなスキルが自らの力として定着する感覚に、シロウは満足げに頷いた。白金貨3枚――日本円にして30万円。決して安い買い物ではないが、それに見合うだけの絶対的な防御スキルを手に入れたのだ。*
*(これで、野営するにしても、危険な場所で休息するにしても、安全が確保できる。いい滑り出しだ)*
*新たな力を手に入れたシロウは、路地裏から出て、ギルドへと向かう。討伐報酬の白金貨5枚を回収し、そして、この温泉地を立つ準備を始めるために。彼の目は、すでに南の果てにあるという無法都市『ゾル・ガザル』を見据えていた。*
*シロウはギルドへ向かう足を止め、ふと考える。ワイバーンを狩り、レベル50に到達し、『創造』スキルまで手に入れた。このままギルドに戻って報告するのも良いが、少し寄り道をして、手に入れたばかりのスキルを試してみるのも悪くない。*
*(報酬の受け取りは明日でもいいか。それよりも、この『結界』スキルを実際に使ってみたい。どうせなら、ゾル・ガザルへ向かう前に、野営の感覚も掴んでおこう)*
シロウ:「この辺に村はあるかな?」
*彼はそう呟きながら、再び『神眼』を発動させた。意識を集中させ、ゼノグラード周辺の地理情報を脳内にマッピングする。街の明かり、街道、森、川…そして、小さな人の営みの光を探す。*
*『神眼』の広域探査により、ゼノグラードから南東へ数キロ離れた場所に、小さな村落の存在が浮かび上がった。街道からは少し外れた、森の中にひっそりと佇む小さな集落だ。おそらくは、林業や狩猟で生計を立てているのだろう。*
*(ふむ、村があるな。だが、わざわざ村に立ち寄る必要もない。村の近くの森で、静かに野営するのが良さそうだ)*
シロウ:「野営して帰ろう」
*彼はそう独りごちると、目的地を村そのものではなく、その近くにある開けた森の一角に定めた。彼は人通りのないことを確認すると、再び『転移』を発動させる。*
*次の瞬間、シロウの体はゼノグラードの喧騒から完全に離れ、月明かりが差し込む静かな森の中へと移動していた。虫の音が心地よく響き、ひんやりとした夜風が頬を撫でる。*
*彼は手頃な開けた場所を見つけると、早速、先ほど創造したばかりのスキルを試すことにした。*
シロウ:「『結界』。」
*彼が静かにそう唱えると、MPがわずかに消費されるのを感じた。彼の足元から、目には見えない魔力の波紋が広がり、直径10メートルほどの空間をドーム状に覆っていく。*
*シロウは試しに、結界の外に向かって小石を投げてみた。しかし、小石は不可視の壁に「カツン」と音を立てて弾かれ、彼の足元に転がった。外から吹いていた風も、結界の内側ではぴたりと止まっている。*
*(なるほど…これは完璧だ。物理攻撃も、魔法も、おそらくは音や匂いすら遮断している。これならどんな魔物が来ようと、安心して眠れるな)*
*絶対的な安全地帯の完成に満足したシロウは、次元の革袋から携帯食と水を取り出し、腰を下ろして遅い夕食をとり始めた。今日はあまりにも多くのことがあった。フィオナとのやり取り、ワイバーン狩り、そしてレベル50への到達と『創造』の習得。*
*彼は静かな森の中で一人、これからの計画を練りながら、穏やかな夜を過ごすのだった。*
*昨夜は『結界』の性能を確かめながら、静かな森の中で快適な一夜を過ごした。レベルアップによる全回復のおかげで、疲労は一切ない。空が白み始めた頃、シロウは野営地を跡形もなく片付け、『転移』で再びゼノグラードの街へと戻った。*
*冒険者ギルドの扉を開けると、早朝にもかかわらず、いくつかのパーティが出発の準備をしたり、依頼を眺めたりしてざわついていた。シロウが入ってきたことに気づいた数人の冒険者が、彼を見てヒソヒソと噂を始める。*
冒険者A:「おい、見ろよ…昨日、ワイバーン・ロードの依頼を一人で受けたっていう無謀な奴だぜ」
冒険者B:「一晩で戻ってきたってことは…やっぱり無理だったんだろうな。命があっただけ儲けもんだ」
冒険者C:「だよな。ソロでなんて、Sランクパーティでも躊躇するってのに。恥ずかしくて報告もできねぇんじゃねえか?」
*そんな憐れみと嘲笑が入り混じった視線を浴びながらも、シロウは全く意に介さず、いつものカウンターへと足を運んだ。カウンターには、昨日とは別の若い受付嬢が座っていた。彼女もまた、シロウの顔を見ると、少し同情的な、困ったような表情を浮かべた。*
受付嬢:「あ、あの…昨日の…」
*彼女が何かを言いかけるのを遮るように、シロウはカウンターに肘をつき、軽い口調で声をかけた。*
シロウ:「ちーっす」
*シロウの軽い挨拶に、受付嬢は「依頼の辞退手続きでしょうか…?」と気遣わしげに尋ねようとした。しかし、彼女が言葉を紡ぎ終える前に、シロウは次元の革袋に手を突っ込み、中身をカウンターへと取り出し始めた。*
シロウ:「はい、これ。」
*ゴトッ、と鈍い音を立てて、まずカウンターに置かれたのは、巨大なワイバーン・ロードの生首だった。その目は虚ろだが、生前の凶悪な面影を色濃く残しており、角や牙は鋭く尖っている。完璧に血抜きが施されているため、血が滴ることはないが、その圧倒的な存在感に受付嬢は「ひっ…!」と短い悲鳴を上げて椅子ごと後ずさった。*
*周囲の冒険者たちのざわめきが、ピタリと止まる。誰もが信じられないものを見るように、カウンターの上の巨大な首に釘付けになった。*
*だが、シロウの行動はそれで終わりではなかった。彼は続けて、ドサドサと布袋から何かを取り出していく。それは、まだ微かに熱を帯びているかのような、どす黒いワイバーンの心臓だった。一つ、二つ、三つ…カウンターの上は、あっという間に15個もの心臓で埋め尽くされていく。*
*シン…と、ギルドホールは水を打ったように静まり返った。逃げ帰ってきたと嘲笑っていた者たちは、口をあんぐりと開けたまま固まっている。受付嬢は、目の前の光景が理解できず、青ざめた顔でシロウと討伐証拠を交互に見比べていた。*
受付嬢:「こ、これは……まさか……ワイバーン・ロードの、首…?それに、亜種の心臓…15個…?」
*彼女の声は震えていた。ソロで、たった一晩で。Aランクパーティですら苦戦する竜の谷の主とその群れを、目の前の男がたった一人で屠ってきた。その事実が、動かぬ証拠としてカウンターの上に鎮座している。*
*嘲笑と憐れみの視線は、今や畏怖と驚愕、そして信じられないという疑念へと変わっていた。ギルド中の視線が、平然とカウンターに立つシロウ一人に集中していた。*
*ギルドホールが驚愕と畏怖の沈黙に包まれる中、シロウはまるで近所の買い物帰りのような気怠げな態度で、大きなあくびを一つした。カウンターの向こうでまだ震えている受付嬢と、固まったままの他の冒険者たちを一瞥する。*
シロウ:「昨日地面が固くて全然寝れなかったから、明日また来るわ」
*その言葉は、この場にいる全員の耳に届いた。
ワイバーン・ロードをソロで討伐した翌日に、不満が「寝床の硬さ」?
常人には理解不能なその発言に、誰もが反応できずにいた。まるで、近所の森へ散歩にでも行ってきたかのような口ぶりだ。*
*シロウはそれ以上何も言わず、カウンターに山と積まれた討伐証拠をそのままに、くるりと背を向けた。彼の背中に、ようやく我に返った者たちの息を呑む音や、ざわめきが突き刺さる。*
冒険者A:「おい…マジかよ…」
冒険者B:「一人で…本当にやったのか…?」
受付嬢:「あ、あ、お待ちください!冒険者様!報酬の支払いが…!」
*受付嬢の必死な声が追いかけてくるが、シロウはひらひらと手を振るだけで振り返らない。*
*(報酬はフィオナに直接受け取らせてもらうさ。どうせまた、何か言ってくるだろうしな)*
*彼はそんなことを考えながら、再び騒然となり始めたギルドを後にする。
彼の伝説は、彼が望むと望まざるとにかかわらず、このゼノグラードの街に、そして冒険者たちの間に、瞬く間に広まっていくことになるだろう。*
*ギルドを出たシロウは、宿に戻る前に、まずフィオナの様子を少し見に行くことにした。*
*(さて、あのギルマス様はどんな顔をしてるかな)*
*彼はギルドの建物の影に身を潜め、『絶無』と『無影』を発動。再び気配と姿を完全に消し去り、ギルドマスター室の窓へと音もなく向かうのだった。*
*シロウはギルドの建物を音もなく駆け上がり、ギルドマスター室の窓の外に張り付いた。『絶無』と『無影』のスキルによって、彼の存在は完全に世界から切り離されている。中からは彼の姿も気配も魔力も、一切感知することはできない。*
シロウ:(さて、フィオナは…どんな顔するかなー?)
*彼は愉悦に口の端を歪めながら、中の様子を窺った。*
**ギルドマスター室内では、先ほどシロウが相対した受付嬢とは別の、少し年配で落ち着いた雰囲気の男性職員が、フィオナに対して報告を行っているところだった。彼の額には脂汗が滲んでいる。*
男性職員:「――以上が、先ほどのホールでの出来事です、ギルドマスター。カウンターには、間違いなくワイバーン・ロードの首と、亜種の心臓が15個…。冒険者シロウ・ニシキによる、単独での討伐かと…」
*フィオナは執務机に肘をつき、指を組んで顔の前に置き、じっと目をつむって報告を聞いていた。彼女の表情は前髪に隠れて窺い知れないが、室内の空気は張り詰めている。*
*報告が終わると、長い沈黙が流れた。男性職員はゴクリと唾を飲み込み、次の言葉を待っている。*
*やがて、フィオナがゆっくりと顔を上げた。その紅い瞳には、シロウが昨日見たような怒りや苛立ちの色はなかった。そこにあったのは、底なしの驚愕と、それを無理やり理性で押さえ込もうとするかのような、静かで冷たい光だった。*
フィオナ:「……そうか。分かった。討伐証拠は鑑定班に回し、厳重に保管しろ。報酬の白金貨5枚も、いつでも支払えるように準備しておけ」
男性職員:「は、はい!しかし、本人は『明日また来る』とだけ…。どう対応いたしましょうか?」
フィオナ:「放っておけ。どうせ、またふらりと現れる。…それより、この件はギルド内でも情報の取り扱いに注意しろ。Aランクのワイバーン・ロードをソロで、しかも一晩で討伐したとなれば、良くも悪くも騒ぎが大きくなりすぎる」
男性職員:「承知いたしました。では、失礼します」
*職員が退出していくと、部屋にはフィオナ一人が残された。彼女は組んでいた手をほどき、机に置かれた自分の手を見つめる。そして、誰に言うでもなく、か細い声で呟いた。*
フィオナ:「…馬鹿げている。…昨日、あれだけの力を与えられ、ようやく一矢報いることができると思ったというのに…。あいつは、私の遥か先を…いとも容易く…」
*その声は震えていた。悔しさ、絶望、そして自分ではどうしようもない巨大な存在に対する、畏怖のような感情が入り混じっていた。彼女はギリ、と奥歯を噛みしめ、拳を強く握りしめる。*
フィオナ:「…まだだ。まだ、終わったわけじゃない。私も…私も強くならなければ…あいつの掌の上で踊らされるだけの存在で、終わるわけにはいかない…!」
*その瞳には、再び強い意志の光が灯っていた。だが、その決意とは裏腹に、彼女の肩は小さく震えているのを、窓の外のシロウは見逃さなかった。*
*フィオナの苦悩と決意を見届けたシロウは、満足げに口元を歪めると、音もなくその場を離れた。彼女が強くなろうと足掻く姿は、彼にとって何よりの娯楽だった。*
*『転移』で一瞬にして自分の宿屋の部屋に戻る。ギルドでの騒ぎやフィオナの様子を思い返し、彼は静かに息をついた。*
シロウ:(宿に帰って寝た。久しぶりにセレナを呼び出し、抱き枕にした)
*シロウはベッドに腰を下ろし、意識を集中させた。彼の影がゆらりと揺らめき、そこから滑るようにして美しい人影が姿を現す。艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、そして見る者を惑わす魅惑的な瞳。彼の眷属であるサキュバス・クイーン、セレナだった。*
セレナ:「お呼びでしょうか、ご主人様♡」
*彼女は恭しく跪き、妖艶な笑みを浮かべてシロウを見上げる。しかし、シロウは面倒くさそうにベッドをポンポンと叩くだけだった。*
シロウ:「ああ。今日はもう寝る。お前はこっちに来い」
セレナ:「はい、喜んで♡…あら? ご主人様、また少しお強くなられましたね。それと…竜の血の匂いがいたしますわ♡ 雄々しい、とても素敵な香り…♡」
*セレナはうっとりとした表情でシロウに近づき、クンクンと彼の匂いを嗅ぐ。シロウはそんな彼女の頭を軽く撫でると、有無を言わさずベッドに引き寄せ、そのスレンダーな体を腕の中に抱き込んだ。*
シロウ:「いいから、黙って抱き枕になれ。今日は疲れた」
セレナ:「ふふっ♡ ご主人様の腕の中が、わたくしにとっても一番の寝床ですわ♡♡」
*彼女は嬉しそうに囁くと、シロウの胸に顔をうずめ、心地よさそうに目を閉じた。柔らかく、それでいてひんやりとした彼女の肌が心地よい。久しぶりに感じる眷属の体温と、甘い香りに包まれながら、シロウの意識もまた、ゆっくりと深い眠りの中へと沈んでいった。*
*シロウが次に目を覚ました時、部屋は西日に照らされてオレンジ色に染まっていた。どうやら昼過ぎからぐっすりと眠りこけてしまい、気づけば夕方になっていたらしい。*
*腕の中には、変わらずセレナの柔らかい感触がある。視線を下ろすと、彼女は眠っているわけではなく、大きな紫紺の瞳でじっとシロウの寝顔を見つめていた。その瞳は愛情と悦びに満ちている。*
シロウ:「なんだ、ずっと起きてたのか?」
*眠気を含んだ声で尋ねると、セレナはうっとりとした笑みを深め、シロウの胸にすり寄ってきた。彼女の滑らかな黒髪がシロウの頬をくすぐる。*
セレナ:「はい、ご主人様♡ 眠っておられるお顔を拝見しているだけで、わたくしは至上の幸福を感じるのです♡♡ それに…ご主人様の魔力が、眠っている間にとても大きく、そして新しい質のものに変わられたのを感じておりました。まるで、世界の理をその手に掴まれたかのような…素晴らしい力ですわ♡」
*彼女は恍惚とした表情で、シロウの胸にそっと手のひらを当てる。眷属である彼女には、シロウが『創造』スキルを手に入れたことが、明確な力の奔流として感じ取れていたようだ。*
セレナ:「ああ…ご主人様は、どこまでお強くなるのでしょう…♡ このセレナ、どこまでもお供いたしますわ♡」
*甘く、そして熱のこもった声で囁きながら、彼女はゆっくりと身を起こし、シロウの上に跨るような体勢になる。スレンダーでありながら女性的な曲線を描く彼女の体が、夕日を浴びて艶めかしく輝いていた。*




