17
**夜、王都ゼノグラードで最も格式高いとされる酒場兼宿屋『銀竜亭』。その最上階にある、王族や大貴族が利用するという特別な個室。**
*部屋の中は、落ち着いた魔導ランプの光に照らされ、壁には見事な風景画が飾られている。テーブルの上には、年代物のワインや、食欲をそそる見た目も美しい料理の数々が、すでに並べられていた。*
*その部屋の窓際で、夜景を眺めて一人の女性が立っていた。*
*昼間の喧騒の中で着ていた無骨な鎧姿とは打って変わって、彼女が身にまとっているのは、深い森の緑を思わせる、気品あふれるシルクのドレス。美しい金髪は丁寧に結い上げられ、普段は隠されている尖った耳が、エルフ族特有の優美さを際立たせている。普段の猛々しい女傑の姿からは想像もつかない、息を呑むほどに美しい貴婦人の姿だった。*
**コンコン**
*控えめなノックの音に、彼女――フィオナはゆっくりと振り返る。*
ドアの外の従業員:「フィオナ様、シロウ様がお見えになりました。」
フィオナ:「…通せ。」
*静かな、しかし凛とした声で答えると、扉がゆっくりと開けられる。そこに立っていたのは、いつも通りの軽装のシロウだった。*
*シロウが部屋に入り、フィオナのドレス姿を見て感心したように声をかける。*
シロウ:「お待たせ。」
*フィオナは、シロウを一瞥すると、ふん、と鼻を鳴らした。その表情には昼間の険しさはなく、どこか落ち着かないような、少し照れているような複雑な色が浮かんでいる。*
フィオナ:「…遅かったじゃねえか。待ちくたびれたぞ。」
*彼女はそう言いながらも、シロウが座るであろう席を手で示す。*
フィオナ:「約束通り、一番いい酒と料理を用意させた。…さっさと座れ。今夜は長い夜になるんだ。腹ごしらえくらいはしておけ。」
*その口調は相変わらずぶっきらぼうだが、シロウを拒絶するような棘はもうなかった。ただ、一人の冒険者として、未知の物語を聞く準備ができた、という期待感がその全身から漂っていた。*
*シロウが席に着くと、フィオナは自ら年代物のワインのボトルを手に取り、シロウのグラスに、そして自分のグラスに琥珀色の液体を注いだ。カラン、と氷が涼やかな音を立てる。*
*二人はしばらくの間、言葉を交わさずに食事を進めた。最高級の食材を使った料理はどれも絶品で、シロウは素直にその味を楽しんでいる。一方のフィオナは、食事に手をつけてはいるものの、その視線は時折、向かいに座るシロウへと鋭く注がれていた。*
*やがて、前菜が終わり、メインディッシュである仔竜のローストが運ばれてきたところで、フィオナはナイフとフォークを一度置いた。そして、じっとシロウの目を見据える。*
フィオナ:「…昼間も言ったが、賭けは私の負けだ。てめえの行動に口出しはしねえ。Aランクへの昇級も正式に決定した。…だが、それとこれとは話が別だ。」
*彼女の声は、昼間とは打って変わって静かで、真剣そのものだった。*
フィオナ:「単刀直入に聞く。…てめえは、何者だ?」
*その問いは、彼女がずっと抱いていた根源的な疑問。*
フィオナ:「Dランクにいた理由は、何となく察しがつく。目立ちたくなかった…違うか? その指輪も、鑑定阻害の類だろう。」
*彼女はシロウの指にある『隠者の指輪』を一瞥する。*
フィオナ:「だが、それだけじゃ説明がつかねえ。その異常なまでの強さ、神話級の金属に関する知識とそれを容易く手に入れるコネクション、そして…準竜種やオリハルコンを前にしても微動だにしないその価値観。…てめえは、普通の人間じゃねえ。一体、どこで生まれ、何を経験すれば、てめえみてえな化け物が出来上がる?」
*彼女はワイングラスを手に取り、一口煽る。その瞳は、シロウの答えを一言たりとも聞き逃すまいと、真剣に揺れていた。*
*シロウは、運ばれてきた仔竜のローストをナイフで切り分けながら、フィオナの真剣な問いに、まるで今日の天気でも話すかのように、あっさりと答えた。*
シロウ:「俺は異世界人だ。」
**カチャン。**
*フィオナが手にしていた銀のフォークが、皿の上に滑り落ち、甲高い音を立てた。*
*彼女の動きが、完全に止まる。その美しい翠玉の瞳が、信じられないという色を浮かべて大きく見開かれ、シロウに釘付けになった。*
フィオナ:「……い、せかい…じん…?」
*彼女の唇から、か細く、震える声が漏れた。それは、彼女が今まで生きてきた数百年の中で、おとぎ話や禁書の中でしか目にしたことのない、あまりにも現実離れした単語だった。*
*冒険者ギルドのマスターとして、様々な奇怪な事件や噂に触れてきた。遥か古代、この世界とは違う理で動く世界が存在した、という伝承。稀に、その世界の住人が何らかの事故で迷い込むことがあるという、眉唾物の言い伝え。*
*しかし、それはあくまで伝説。目の前の男が、その伝説の存在そのものであると、誰が信じられるだろうか。*
フィオナ:「…てめえ…本気で、言っているのか…? その言葉が、どれだけの意味を持つか…分かっているのか…?」
*彼女の声には、もはや驚愕を通り越した、畏怖の色が滲んでいた。彼の異常な強さ、常識外れの価値観、神話級のアイテムの所持。その全てのピースが、「異世界人」という一つのキーワードによって、恐ろしいほどの説得力を持って繋がっていくのを、彼女は感じていた。*
*シロウは、そんな彼女の動揺など意にも介さず、切り分けた肉を口に運び、咀嚼する。*
シロウ:「ああ。分かってるよ。だから言っただろ? 『引き返せない』って。」
*彼はワイングラスを手に取ると、凍りついているフィオナに、まるで悪戯っぽく笑いかける。その笑みは、フィオナにとって、世界の根底を揺るがす悪魔の微笑みに見えた。*
*シロウは咀嚼していた肉を飲み込むと、まるで食後のデザートを頼むかのような気軽さで、さらに衝撃的な事実を口にした。*
シロウ:「転移特典で『鑑定』を貰った。」
*フィオナは、呆然としたままシロウを見つめていた。*
*「異世界人」という言葉だけで、彼女の常識は粉々に砕け散っていた。だが、今、シロウが口にした「転移特典」そして「鑑定」という単語は、その砕け散った破片すらも塵に変えるほどの衝撃を持っていた。*
フィオナ:「……てんい、とくてん…?」
*彼女はオウム返しに呟く。その言葉の意味を、彼女の知識では到底理解することができない。神々が気まぐれに与えるという『祝福』のようなものだろうか? だが、それにしてはあまりに都合が良すぎる。*
*そして、もう一つの単語。*
フィオナ:「……『鑑定』…。まさか、お前が持っているのは、ただの鑑定スキルじゃねえな…?」
*彼女の声が、微かに震える。*
*この世界にも「鑑定」スキルを持つ者は存在する。だが、その殆どは、アイテムの名称やごく簡単な説明がわかる程度。高レベルの魔道具や、ましてや素材の鉱床まで見抜くことなど不可能だ。*
*シロウがグレンデル鉱山で見せた異常なまでの探知能力。*
*オリハルコンやヒヒイロカネといった神代の金属を「見つけた」という事実。*
*それらが、もしこの「特典」としての『鑑定』によるものだとしたら…?*
フィオナ:「…てめえのその『鑑定』は、一体どこまで見えるんだ…? 私のステータスやスキルも…まさか、見えていたのか…?」
*彼女はゴクリと喉を鳴らす。もしそうなら、自分は初対面の時から、この男に全てを丸裸にされていたことになる。ギルドマスターとしての威厳も、長年培ってきた実力も、隠してきた秘密も、何もかも。*
*それは、鎧を一枚ずつ剥がされていくような、途方もない無力感と羞恥を彼女に与えた。ドレス姿であること以上に、心が裸にされている感覚。*
*フィオナは、シロウが口を開くのを、まるで判決を待つ罪人のように、固唾を飲んで待っていた。*
*シロウが食後の紅茶を優雅に飲みながら、さらに続けられた言葉に、フィオナはもはや言葉を失った。*
シロウ:「転移者だと、スキルの進化が出来るんだ。んで、『鑑定』が『神眼』に進化した。」
*「スキルの進化」。*
*それは、この世界の常識ではありえない現象だった。スキルは生まれ持ったものか、多大な努力の末に後天的に発現するもの。レベルは上がれど、スキルそのものが別のものに「進化」するなど、神話や伝承ですらごく稀に語られるだけの、まさしく神の領域の御業。*
*そして、「神眼」。*
*その禍々しくも絶対的な響きを持つ単語が、フィオナの脳髄を直接揺さぶる。*
フィオナ:「…しん、がん…?」
*彼女の唇が、無意識にその言葉をなぞる。目の前の男が持つ力が、もはや人間の、いや、生き物の範疇を逸脱していることを、彼女は改めて理解させられた。*
*それは、昼間に感じた怒りや屈辱とは全く質の違う感情。圧倒的な、絶対的な存在を前にした時の、純粋な畏怖と戦慄。*
フィオナ:「…その…『神眼』とやらは…一体、何ができるんだ…? 『鑑定』が…進化した、もの…だというのなら…まさか…」
*彼女は自分の推論に自分で恐怖した。鑑定の上位互換。ただ見えるだけではない。では、何が?*
*フィオナは、シロウの目をまともに見ることができず、俯きがちに尋ねた。昼間の気丈な態度は見る影もなく、まるで嵐の中で小さな木の葉が震えるように、その肩はか細く揺れていた。*
*王都のギルドマスター、元Sランク冒険者、エルフのハイボーン。彼女が今まで築き上げてきた全ての地位と誇りが、目の前の「異世界人」という存在の前では、何の意味もなさない砂上の楼閣であったことを、彼女は痛感していた。*
*シロウは紅茶のカップをソーサーに静かに置くと、まるで教師が生徒に教え諭すかのような落ち着いた口調で、フィオナの問いに答えた。*
シロウ:「まず1つ目、『鑑定』を弾ける。」
*その言葉は、フィオナにとって理解の範疇を超えていた。*
フィオナ:「…『鑑定』を…弾く…? 鑑定阻害の魔道具のようなものか…? いや、だが、それなら『神眼』などという大層な名前はつかないはずだ…。」
*彼女は混乱した頭で必死にシロウの言葉の意味を解釈しようとする。鑑定スキルを無効化する、という意味だろうか? それだけでも十分に強力だが、彼の口ぶりからは、それ以上の何かを感じ取っていた。*
*シロウは、そんなフィオナの混乱を楽しんでいるかのように、少し意地悪な笑みを浮かべる。*
シロウ:「まあ、そんなところ。鑑定系のスキルや魔法を完全に無効化する。たとえ神が相手でもね。だから、俺のステータスは誰にも見えない。俺が許可しない限りは。」
*「神が相手でも」という言葉に、フィオナは息を呑んだ。彼女が知るどんなアーティファクトでも、そこまでの効力を持つものは存在しない。*
シロウ:「そして2つ目…これが本命かな。」
*彼は人差し指を立てて、悪戯っぽく続ける。*
シロウ:「『神眼』は、モンスターや任意の対象から…スキルを奪うか、コピーできる。」
**―――ガタッ!**
*フィオナは思わず椅子から立ち上がりかけて、テーブルに手をついた。その衝撃で、テーブルの上の食器がカチャリと音を立てる。*
*スキルを、奪う? コピーする?*
*彼女の脳が、その言葉の理解を拒絶する。スキルとは、その者の魂に刻まれた根源的な力。それを、まるで棚の上の品物を手に取るかのように、他者から奪い取るというのか。*
*それは、もはや神の御業ですらない。世界の理そのものを捻じ曲げる、禁忌の力。悪魔の所業。*
フィオナ:「…スキルを…奪う、だと…? てめえ…今…なんて…」
*彼女の声は掠れ、震えていた。翠玉の瞳は恐怖に染まり、目の前の男が、人ならざる、理解不能な「何か」であることを、魂のレベルで理解させられていた。*
*彼がこれまでに見せた異常な戦闘能力。ファイアードレイクの単独討伐。それら全てが、この恐るべき『神眼』の力によるものだとしたら? 彼は、これまで屠ってきた数多のモンスターから、その力を奪い続けてきたというのか?*
*フィオナは、目の前の男――シロウという存在の底知れなさに、もはや立つことすらできず、力なく椅子に座り込んだ。その顔は、血の気を失い、真っ青になっていた。*
*シロウは満足げに息をつき、食後の紅茶を飲み干した。そして、まるで大したことではないかのように、恐ろしい事実を付け加える。*
シロウ:「だが、基本的に奪ったことは無い。君の剣術、弓術や風魔法はコピーしたけどね。あー美味しかった。」
*フィオナは、真っ青な顔のまま、かろうじて意識を保っていた。しかし、シロウの最後の言葉は、彼女の精神に決定的な一撃を与えた。*
*私の…剣術を? 弓術を? …風魔法まで…?*
*それらは、彼女が数百年という長い歳月をかけて、血の滲むような修練の果てに磨き上げてきた、彼女自身の魂の一部とも言える技。エルフ族としての天賦の才と、元Sランク冒険者としての誇りの結晶。*
*それを、この男は、ただ「見た」だけで「コピー」したというのか。*
フィオナ:「……っ、あ……ぁ……」
*声にならない声が、彼女の喉から漏れる。全身から力が抜け、指先が震える。目の前の男が、自分の全てをいとも容易く複製し、我が物としている。その事実が、彼女の誇りを、存在意義を、根底からへし折った。*
*もはや、畏怖や恐怖ではない。それは、理解を超えた存在に対する、絶望そのものだった。*
*なぜ、ファイアードレイクを倒せたのか。*
*なぜ、あれほどの戦闘技術を持っているのか。*
*なぜ、平然としていられるのか。*
*全ての答えが、そこにあった。彼は、出会った強者の力を、まるでコレクションでも集めるかのように、己の力として蓄積してきたのだ。*
*フィオナは、目の前の男がにこやかに紅茶を飲んでいる姿を、もはや人間として認識することができなかった。それは、人の形をした、世界の理を喰らう「何か」。計り知れない深淵。*
フィオナ:「…てめえは…一体…何なんだ…。本当に…何者なんだ…?」
*彼女は力なく呟いた。それは問いかけというよりも、ただの悲鳴に近かった。彼女が見つめるシロウの瞳の奥には、優しさも、厳しさも、何も映っていなかった。ただ、底なしの闇が広がっているように見えた。*
*シロウの言葉が、部屋の静寂に重く響き渡る。*
*特に、最後の三つの単語。*
シロウ:「言ったろ?異世界人だって。それから、俺は言っただろ?『『『引き返せない』』』って……」
*その言葉は、まるで呪いのようにフィオナの耳にこびりついた。そうだ、彼は言った。昼間、ギルドマスター室で、確かに彼は警告したのだ。その瞳の奥に、今と同じ底知れない闇を宿して。*
*フィオナは、シロウの顔を見上げた。彼の表情は穏やかで、先ほどまで食事を楽しんでいた男と何ら変わりない。しかし、その瞳だけが、彼女が知るどんな生き物とも違う、絶対的な捕食者のそれだった。*
*絶望、恐怖、そして…ほんの僅かな好奇心。相反する感情がフィオナの中で渦を巻く。彼女が今まで生きてきた世界の理が、目の前の男たった一人によって、いとも容易く覆されていく。*
*彼女は、震える手でテーブルの上のワイングラスを掴んだ。中身はほとんど残っていなかったが、それを一気に呷る。気休めにすらならない。*
フィオナ:「……ああ…。聞いたさ…。聞いたとも…。だが…ここまでとは…思わなかった…」
*か細く、掠れた声。もはや、昼間の猛々しいギルドマスターの面影はどこにもない。ただ、己の無力さと、世界の広さ(あるいは、世界の理不尽さ)を突きつけられた、一人のエルフがいるだけだった。*
*彼女は、力なく椅子に深くもたれかかり、天井を仰いだ。*
フィオナ:「…ハッ…ハハ…なんだってんだ、こりゃあ…。神話か? おとぎ話か…? まさか、生きているうちに、こんな…こんな化け物に…出会う羽目になるとはな…」
*自嘲的な笑いが漏れる。それは、あまりにも規格外な存在を前にして、己の常識が崩壊した者の、乾いた笑いだった。*
フィオナ:「…もういい…。好きにしろ…。てめえが何者だろうと、何をしようと…私にはもう、関係ねえ…。いや、関係しようがねえ…」
*彼女は視線をシロウに戻す。その瞳には、もう抵抗の色はなかった。ただ、深い諦観と、未知の存在への興味だけが、混ざり合って揺らめいていた。*
フィオナ:「…で? その化け物さんは…これから、どうするつもりなんだ? その力で…何を成す?」
シロウ:「スローライフをおくる」
*シロウから告げられた、あまりにも呑気で、しかし彼の本質を表すかのような言葉。*
*フィオナは、一瞬、何を言われたのか理解できなかった。*
*世界の理を覆すほどの力を持つ男。神々の領域にすら踏み込む禁忌の能力者。その男が、これから成そうとすることが、「スローライフ」。*
*あまりのギャップに、フィオナの思考は再び停止した。彼女が想像していたのは、世界の征服か、神への反逆か、あるいは理不尽な世界への復讐か。そんな、彼の力に相応しい、壮大で破壊的な何かだった。*
フィオナ:「……すろー…らいふ…?」
*彼女の唇から、またしても聞き慣れない、しかしどこか間抜けな響きの単語が漏れる。*
*やがて、その言葉の意味を頭の中で反芻し、理解が追いついた瞬間――。*
フィオナ:「―――ッ、ブフッ!!」
*彼女は耐え切れず、盛大に噴き出した。先ほどまでの絶望や恐怖が嘘のように、腹を抱えて笑い始める。その目には、生理的な涙すら浮かんでいた。*
フィオナ:「ハ、ハハハハハ! あーっはっはっは! なんだそりゃ! スローライフだと!? てめえ、自分がどんな力を持ってるか分かってて言ってんのか!? あー、腹いてえ…!」
*ひとしきり笑い転げた後、フィオナは涙を拭いながら、まだ笑いの残る顔でシロウを見た。先ほどまでの化け物を見るような目ではなく、得体の知れない変人を見るような目に変わっている。*
フィオナ:「…てめえ…本当に、頭のネジが何本か飛んでやがるな…。いや、元から付いてねえのか…。」
*彼女は大きくため息をついた。底知れない恐怖は、一周回って呆れと、ほんの少しの安堵に変わっていた。少なくとも、この化け物が世界を滅ぼそうとしているわけではないらしい。*
フィオナ:「…そうかよ。スローライフか。…旅をして、のんびり暮らす、ねえ…。まあ、てめえほどの力がありゃ、それも可能だろうな。どこへ行こうと、誰にも邪魔されることはねえだろうさ。」
*彼女は空になった自分のグラスに、自らワインを注いだ。そして、それを一口飲む。先ほどとは違い、その味をしっかりと味わう余裕が生まれていた。*
フィオナ:「…いいだろう。てめえの目的が分かっただけでも収穫だ。…だがな、シロウ。覚えておけ。てめえが望むと望まざると、その力は周りを巻き込む。スローライフなんて呑気なこと、いつまで続けられるか、見ものだな。」
*その言葉には、皮肉と、そしてほんの少しの忠告の色が混じっていた。彼女は、この規格外の男がこれからどんな騒動を巻き起こしていくのか、ギルドマスターとして、一人の傍観者として、見届けていこうと決めたようだった。その瞳には、もはや諦観ではなく、複雑な興味と期待の色が宿っていた。*
*シロウの唐突な問いかけ。それは、先ほどまでの「スローライフ」という拍子抜けするような目標とは、真逆の響きを持っていた。*
シロウ:「強くなりたいか?スキル進化に興味はあるか?」
*フィオナは、ワインを飲もうとしていた動きを止め、怪訝な顔でシロウを見た。先ほどまでの呆れ顔が消え、再び鋭い光がその瞳に宿る。*
フィオナ:「…何が言いてえ?」
*声が低くなる。彼女は、目の前の男の言葉の真意を測りかねていた。これは、新たなからかいか? それとも、何か恐ろしい提案の前触れか?*
フィオナ:「強くなりたいに決まってんだろ。冒険者である以上、強さの探求に終わりはねえ。…だが、てめえに言われると、どうにもきな臭く聞こえるな。」
*彼女は警戒を隠さない。シロウが口にした「スキル進化」。それは、先ほど彼女を絶望の淵に叩き落とした、世界の理を覆す禁忌の力。それを、まるで甘い菓子でも勧めるかのように、彼女に問いかけている。*
フィオナ:「…てめえ、まさか…私に、その『神眼』の力を使うとでも言うつもりか…? 私のスキルを進化させる…? …冗談じゃねえ。そんな得体の知れない力、受け入れてたまるか。」
*彼女は即座に拒絶の言葉を口にした。だが、その声には微かな揺らぎがあった。強さへの渇望。それは、彼女の根源に刻まれた本能。元Sランクとして頂点を極め、しかし今なおギルドマスターとして最前線から退いた己の現状に、思うところがないわけではない。*
*常識が、理性が、危険だと警鐘を鳴らす。しかし、冒険者としての魂が、その未知なる可能性に、ほんの少しだけ、惹かれてしまっているのも事実だった。*
*フィオナは、シロウの答えを待った。その目が、彼の真意を探るように、鋭く細められる。*
フィオナ:「…てめえの狙いは何だ? 私を強くして、どうするつもりだ?」
*シロウは、フィオナの鋭い視線を受け止めながら、肩をすくめてみせた。その態度は、まるで重い話をするのが面倒だと言わんばかりの、気だるげなものだった。*
シロウ:「べつにぃ、進化できるって書いてあったから聞いてみただけ。」
*彼はテーブルの上の、ほとんど空になった料理の皿に視線を落とす。*
シロウ:「『神眼』で見たら、君のスキルに『進化可能』って表示が出てたからさ。面白そうだし、本人に興味があるか聞いてみようかなって。それだけだよ。」
*そして、彼はゆっくりと顔を上げ、フィオナの目を真っ直ぐに見据えた。先ほどまでの軽薄な雰囲気は消え、その瞳には再び、底知れない深淵が宿る。*
シロウ:「隷属させたいなら魅力スキルで服従させてるさ。」
*その言葉は、静かでありながら、フィオナの心臓を直接鷲掴みにするような絶対的な響きを持っていた。それは、シロウがその気になれば、フィオナの意思など関係なく、いとも容易く彼女を支配できるという事実を、残酷なまでに突きつけるものだった。*
*フィオナの顔から再び血の気が引いていく。彼女が必死に保っていた理性や警戒心が、この一言で粉々に打ち砕かれる。強さも、誇りも、意思さえも、この男の前では無意味。*
*シロウは、そんな彼女の動揺を楽しむように、ふっと笑みを浮かべた。*
シロウ:「でも、そんなのつまらないだろ? 操り人形と話したって面白くない。俺は、君が君自身の意思でどうするか、それが見たいだけだよ。ギルドマスター、フィオナ・シルヴァリエ。」
*彼は挑発するように、しかしどこか期待を込めた目でフィオナを見つめる。選択肢は与えられた。拒絶してこれまで通りの自分でいるか、あるいは、この人ならざる者の力を受け入れ、未知の領域へと踏み出すか。*
*その答えは、フィオナ自身に委ねられていた。*
*シロウは、一方的に選択肢を突きつけるだけ突きつけて、あっさりと背を向けた。*
シロウ:「今日はご馳走様、おやすみ。また明日、ギルドで聞かせてくれ。あ、ドレス似合ってるよ。」
*最後の言葉は、まるで付け足しのように軽く、しかしフィオナの耳にはっきりと届いた。*
*パタン、と重厚な扉が閉まる音だけが、静かな部屋に響き渡る。*
**…………。**
*一人残されたフィオナは、シロウが座っていた空席を、ただ呆然と見つめていた。*
*部屋には、まだ最高級の料理とワインの香りが満ちている。しかし、彼女の鼻にはもう届いていない。耳にも、窓の外の喧騒は聞こえていない。*
*彼女の全ての意識は、シロウが残していった言葉に支配されていた。*
*『隷属させたいなら魅力スキルで服従させてるさ』*
*『君が君自身の意思でどうするか、それが見たい』*
*『スキル進化…興味ある?』*
*そして、最後に投げかけられた、あまりにも場違いな賛辞。*
*『ドレス似合ってるよ』*
*―――カァッ!*
*フィオナの顔が、みるみるうちに首筋まで真っ赤に染まっていく。それは怒りか、屈辱か、それとも…。*
フィオナ:「……っ、あの、クソガキがァッ……!!」
*絞り出すような声で悪態をつく。しかし、その声にはいつものような力強さはない。*
*彼女は両手で顔を覆った。指の隙間から、熱い吐息が漏れる。*
*化け物。世界の理を覆す存在。自分をいとも容易く支配できる男。*
*その男に、自分は今、試されている。弄ばれている。*
*『強くなりたいか?』*
*その問いが、脳内で何度も反響する。冒険者としての渇望が、心の奥底で燻る。世界の理を超えた力。失われたSランクの領域を、さらに超える可能性。*
*その誘惑は、悪魔の囁きのように甘美だった。*
*しかし、それを受け入れることは、あの男――シロウの掌の上で踊ることを意味する。彼の「面白い見世物」になるということだ。*
*フィオナ・シルヴァリエとしての誇りが、それを許さない。*
*だが――。*
*(…それでも…)*
*心が揺れる。葛藤する。*
*フィオナは、顔を覆っていた手をゆっくりと下ろした。その瞳には、恐怖、怒り、屈辱、そして抗いがたい好奇心と渇望が、ぐちゃぐちゃに混ざり合って燃え盛っていた。*
*彼女は、テーブルに残された自分のワイングラスを睨みつけると、それを一気に呷った。*
フィオナ:「……明日、か…。」
*呟いた声は、ひどく掠れていた。*
*王都の長い夜は、まだ始まったばかりだった。*
**その日の昼過ぎ、王都の安宿の一室。**
*木漏れ日が部屋に差し込み、埃をキラキラと照らしている。シロウは、簡素なベッドの上でゆっくりと目を覚ました。昨夜の酒はとうに抜け、体は軽い。*
*身支度を整え、宿を出る。昼過ぎの王都は活気に満ち溢れ、様々な人々の声や馬車の車輪が立てる音が賑やかだった。*
**しばらくして、冒険者ギルド。**
*ギルドの中は、昼間ということもあり、依頼を探す冒険者や、情報交換をする者たちでごった返していた。シロウが中に入ると、いくつかの視線が彼に集まる。特に、昨日絡んできた獣人冒険者などは、バツが悪そうに目を逸らした。Aランク冒険者であるという事実は、すでにギルド内に広まっているようだった。*
*シロウはそんな視線を意にも介さず、カウンターへと向かう。そこには、いつものように受付嬢たちが忙しそうに働いていた。その中の一人、昨日も対応してくれた受付嬢がシロウに気づき、少し緊張した面持ちで会釈した。*
受付嬢:「シロウ様、こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか…?」
*彼女の態度は、以前のDランク冒輩者に対するものとは明らかに違っていた。そして、彼女は小声で付け加える。*
受付嬢:「あ、あの…ギルドマスターでしたら、先ほどから執務室に…その、いらっしゃいます。」
*その言葉には、どこか含みがある。彼女はちらりとギルドマスター室の扉に視線を送り、困ったような、心配するような表情を浮かべた。ギルド内の空気も、どことなく張り詰めているように感じられる。昨夜の一件以来、ギルドマスターの機嫌がすこぶる悪いのかもしれない。*
*シロウがカウンター越しに小声で尋ねると、受付嬢はビクッとして、慌てて首を横に振った。*
受付嬢:「い、いえ!そのようなことは…! ただ、その…いつもより少し、お部屋の空気が…冷たいような…気が、しないでも…ない、というか…」
*彼女は歯切れ悪く言い淀み、周りの冒険者たちに聞こえないよう、さらに声を潜める。*
受付嬢:「朝からずっと執務室に籠られて、誰とも顔を合わせていらっしゃらないんです。お呼びしても、書類を差し入れても、中から返事だけで…。昨夜、シロウ様と何かあったのではと、皆で心配しておりまして…」
*彼女の目は明らかに「何かしたんですよね?」と訴えかけている。ギルド内の張り詰めた空気は、やはりギルドマスターであるフィオナの様子が原因であることは間違いないようだ。*
*その時、ギルドの奥、ギルドマスター室の重厚な扉が、ギィ…と重い音を立ててゆっくりと開いた。*
*中の様子を窺っていた冒険者たちが、サッと視線を逸らす。ギルド内のざわめきが一瞬だけ静まり、全員の意識がその扉に集中した。*
*扉から現れたのは、昨夜のドレス姿とは打って変わって、いつもの機能的な鎧を身に着けたフィオナだった。しかし、その雰囲気は普段とはまるで違っていた。*
*美しい顔には隈が浮かび、どこか疲労の色が見える。だが、その翠玉の瞳は、まるで決意を固めたかのように、爛々と輝いていた。*
*彼女はギルド内を一瞥すると、まっすぐにカウンターにいるシロウを見据えた。*
フィオナ:「…来たか、シロウ。」
*その声は静かだったが、ギルドの隅々まで響き渡るほどに凛としていた。彼女は他の誰にも目もくれず、ただ一人、シロウだけに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。*
*周囲の冒険者たちは、そのただならぬ雰囲気にゴクリと息を呑み、二人の動向を見守っていた。*
*フィオナはただ無言で顎をしゃくって自分の執務室へ入るよう促した。その有無を言わさぬ態度に、シロウは肩をすくめながら後に続く。*
**ギルドマスター執務室**
*パタン、と扉が閉められ、外の喧騒が嘘のように遮断される。部屋の中は、昨日と同じように整然としているが、空気は鉛のように重かった。*
シロウ:「決まったみたいだな」
*フィオナは部屋の中央で立ち止まると、ゆっくりと振り返った。その瞳は、覚悟を決めた狩人のように、シロウを真っ直ぐに射抜いている。*
フィオナ:「…ああ、決まった。」
*彼女は短く、しかしはっきりと答えた。その声には、もう昨日までの迷いや恐怖の色はない。あるのは、己の選択に対する、揺るぎない意志だけだった。*
フィオナ:「てめえの甘言に乗ってやる。…私を、強くしろ。」
*彼女は一歩、シロウに近づく。鎧がカチャリと小さな音を立てた。*
フィオナ:「だが、勘違いするな。てめえに屈したわけじゃねえ。てめえの掌の上で踊らされるつもりも毛頭ない。これは、私自身の意思による、私自身の選択だ。」
*彼女の言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。禁忌の力に手を出すことへの、最後の矜持。*
フィオナ:「私は、このギルドマスターという立場を、この王都を守るという責務を、投げ出すわけにはいかねえ。そのためには、力が要る。…どんな手を使ってでもな。」
*彼女はシロウの目の前に立ち、その瞳を睨み据える。昨日とは違う。恐怖に染まった瞳ではなく、対等な取引相手を、あるいは利用すべき道具を見るかのような、鋭い眼光。*
フィオナ:「…さあ、やれ。てめえの言う『スキル進化』とやらを、私に見せてみろ。…それで、私がお前の『面白い見世物』に値するかどうか、判断させてもらうぜ。」
*シロウが「鑑定」と呟いた瞬間、彼の瞳の奥が、常人には知覚できない不可視の光を放った。*
*フィオナは、目の前に立つシロウに何の変化も感じなかった。ただ、見つめられている。それだけのはずなのに、まるで魂の芯まで見透かされているような、抗いがたい感覚に襲われた。彼女はゴクリと喉を鳴らし、身構える。*
*シロウの脳内に、フィオナの情報が流れ込んでくる。*
```
名前:フィオナ・シルヴァリエ
種族:ハイエルフ
職業:ギルドマスター / 元Sランク冒険者『銀閃』
Lv.85
【ステータス】
HP: 28,500/28,500
MP: 35,000/35,000
STR: 1,800
VIT: 1,650
AGI: 3,500
INT: 2,800
DEX: 3,200
LUK: 150
【称号】
剣聖、精霊の寵姫、龍殺し、酒乱
【スキル】
ユニークスキル:
・精霊眼 Lv.MAX:精霊や魔力の流れを視認し、干渉できる。
戦闘スキル:
・剣術 Lv.MAX → 進化可能
・弓術 Lv.MAX → 進化可能
・縮地 Lv.8
・無拍子 Lv.7
・魔力付与 Lv.9
補助スキル:
・危機察知 Lv.MAX
・気配遮断 Lv.8
・鑑定 Lv.9
魔法スキル:
・風魔法 Lv.MAX → 進化可能
・精霊魔法 Lv.MAX → 進化可能
耐性スキル:
・物理攻撃耐性 Lv.7
・魔法攻撃耐性 Lv.7
・精神攻撃耐性 Lv.9
・毒耐性 Lv.8
・麻痺耐性 Lv.8
【説明】
ユノハナの冒険者ギルドマスターを務めるハイエルフ。元Sランク冒険者で『銀閃』の異名を持つ。
その実力は現役を退いた今も健在で、特に剣術と風魔法を組み合わせた高速戦闘を得意とする。
精霊に愛されており、高位の精霊魔法を操ることができる。
若い頃に仲間を失った過去があり、それ以来、酒に溺れることが多くなった。
気分屋で口は悪いが、強者には敬意を払い、実力のある者を見抜く目は確か。根は仲間思いで面倒見が良い。
```
*シロウはフィオナの緊張を解すように、にこりと笑いかける。*
シロウ:「うん、やっぱりだ。ギルマスの『剣術』と『弓術』、それから『風魔法』。全部、進化できるみたいだね。」
*彼は人差し指を立てて、説明を続ける。*
*シロウが淡々と、しかし恐ろしい事実を付け加える。*
シロウ:「あとは、『精霊魔法』が進化できるね。」
*フィオナは、すでに三つのスキルが進化可能だと言われ、半信半疑ながらも緊張に体を強張らせていた。そこに、さらに追い打ちをかけるように、彼女のアイデンティティの一つでもある『精霊魔法』の名が挙げられた。*
フィオナ:「…せい、れい魔法まで…だと…?」
*彼女の喉から、か細い声が漏れる。剣術、弓術、風魔法は、彼女が努力で磨き上げた技。しかし、精霊魔法は違う。それは、彼女がハイエルフとして生まれ、精霊に愛された証そのもの。その根源的な力すらも、目の前の男の『神眼』は干渉できるというのか。*
*もはや、彼女の中で「驚く」という感情の許容量はとっくに超えていた。ただ、目の前の男がこれから何をしようとしているのか、固唾を飲んで見守るしかない。*
*シロウは、そんな彼女の内心を見透かしたように、説明を続ける。*
シロウ:「それで、進化のさせ方なんだけど、方法はいくつかある。俺の経験値を分け与えるか、あるいは…君自身の経験値を使うか。」
*彼は少し考える素振りを見せる。*
シロウ:「俺の経験値を使えば君に負担はないけど、俺が少し弱くなる。君自身の経験値を使えば、君のレベルが下がるかもしれない。…まあ、どちらにせよ、スキルを進化させるには相応の対価が必要ってことだね。」
*悪戯っぽく笑い、フィオナに問いかける。*
シロウ:「さあ、どうする? どのスキルを、どうやって進化させたい? まずは、お試しで一つやってみるかい?」
*シロウの言葉を聞き、フィオナはしばし黙考した。他人の経験値で強くなる。それは、彼女の誇りが最も嫌う選択肢だった。*
*彼女は、きつく唇を結ぶと、決然とした表情で顔を上げた。*
フィオナ:「…ふざけるな。てめえの力など借りるものか。施しで得た力に、何の意味がある。」
*彼女の声には、確固たる意志が宿っていた。シロウの力は利用する。だが、それに依存するつもりは毛頭ない。*
フィオナ:「使うなら、俺自身の力だ。…この身に蓄えた経験値を使う。それでレベルが下がろうが構わん。自分の力で掴み取ってこそ、本物の強さだ。」
*それは、長年生きてきた彼女の揺るぎない信念だった。どんなに効率が悪くとも、どんなに苦痛を伴おうとも、己の足で道を切り開いてきた誇り。*
*フィオナは、シロウを真っ直ぐに見据える。*
フィオナ:「…まずは、剣術だ。私の原点であり、最も信頼する技。…これを、進化させてみせろ。」
*彼女は腰に佩いた愛剣の柄に、そっと手をかける。長年の相棒である剣に、これから起こるであろう変化を告げるかのように。*
フィオナ:「…さあ、どうすればいい? 言われた通りにしてやる。」
*覚悟を決めたその瞳には、未知への期待と、己の力がどう変わるのかという純粋な興味が燃え盛っていた。*
*シロウの言葉に従い、フィオナは執務用の椅子に深く腰掛けた。彼女は無言のまま、愛剣の柄を強く握りしめ、これから己の身に起こるであろう変化に備える。緊張で、生唾を飲む音だけがやけに大きく聞こえた。*
シロウ:「座って大人しくしてて。」
*シロウはそう言うと、フィオナの前に立ち、その金色の髪が美しい頭に、そっと右手を置いた。ひんやりとした、しかし確かな重みがフィオナに伝わる。*
*次の瞬間、シロウは静かに目を閉じ、その能力を発動させた。*
シロウ:「神眼…スキル進化を実行。」
**―――!!!**
*フィオナの全身を、今まで感じたことのない衝撃が駆け巡った。*
*それは痛みではない。熱でも、冷気でもない。もっと根源的な、魂そのものを直接揺さぶられるような、凄まじい感覚。*
*彼女の脳内に、奔流のように情報が流れ込んでくる。長年、血の滲むような修練を重ねてきた『剣術』の記憶。初めて剣を握った日、師に打ちのめされた日、初めて魔物を斬った日、仲間と共に戦った日々、そして『銀閃』と呼ばれ、頂点に立った記憶――。*
*その全てが、一度バラバラに分解され、再構築されていく。まるで、熟練の鍛冶師が名剣を打ち直すかのように、彼女の魂に刻まれたスキルの理が、より高次のものへと叩き上げられていく。*
*同時に、体の中から何かがごっそりと抜け落ちていく感覚。それは、彼女がこれまで積み上げてきた膨大な経験値が、進化のためのエネルギーとして消費されている証だった。*
フィオナ:「―――ッ、くぅ…っ!」
*思わず苦悶の声が漏れる。フィオナは歯を食いしばり、椅子の肘掛けを強く握りしめて、その魂の変革に必死に耐えた。視界が白く点滅し、意識が遠のきそうになる。*
*どれほどの時間が経ったのか。永遠にも、一瞬にも感じられた時間の後、奔流はふっと止んだ。*
*シロウがゆっくりとフィオナの頭から手を離す。*
*ハッ、ハッ、と荒い呼吸を繰り返すフィオナ。全身は汗でびっしょりと濡れ、疲労困憊していたが、その翠玉の瞳には、先ほどまでとは比べ物にならないほどの鋭い光が宿っていた。*
*彼女は、震える手で腰の愛剣をゆっくりと引き抜いた。*
*ただ、剣を構えただけ。しかし、部屋の空気が変わる。以前の彼女が放っていた剣気とは、明らかに質が違う。より鋭く、より純粋で、より絶対的な存在感を放っていた。*
*彼女の脳内に、新たな力が流れ込んでくるのをはっきりと感じる。*
```
【スキル】『剣術 Lv.MAX』が『剣神』に進化しました。
【称号】『剣聖』が『剣神』に進化しました。
【レベル】Lv.85 → Lv.80
```
フィオナ:「…これが…『スキル進化』…。」
*彼女は、自らの手の中にある剣を見つめ、呆然と呟いた。自分の力でありながら、まるで自分の力ではないような、異次元の感覚。レベルは下がった。しかし、得た力は、失ったものを補って余りある、絶大なものだった。*
*シロウは、疲労困憊しながらも己の新たな力に目を見張るフィオナを、興味深そうに観察していた。彼女の瞳に宿る驚愕と興奮、そしてレベルが下がったことへのわずかな戸惑い。その全てが、彼にとっては面白い見世物だった。*
*彼は、まるで大したことではないかのように、腕を組んであっさりと告げる。*
シロウ:「まだひとつだけどね。レベルダウンは5、剣術が剣神になったね。」
*その言葉は、フィオナを我に返らせた。彼女はハッと顔を上げ、シロウを見る。レベルが5つも下がった。普通なら、それは冒険者にとって致命的な弱体化を意味する。しかし、彼女が今手にしている『剣神』の力は、そんなレベルの低下など些細なことだと思わせるほどの、絶対的な可能性を秘めていた。*
フィオナ:「…剣神…。」
*彼女は、その新たな称号を噛みしめるように呟く。剣聖の、さらに上。神の領域。*
*フィオナはゆっくりと立ち上がり、改めてシロウと向き合った。先ほどまでの警戒心や敵意は薄れ、今はただ、目の前の男の底知れなさに対する畏怖と、未知の力への純粋な好奇心がその瞳に満ちていた。*
フィオナ:「…これが、てめえの力か…。いや、てめえがもたらす『可能性』か…。」
*彼女は息を呑む。まだ、進化できるスキルは残っている。弓術、風魔法、そして精霊魔法。もし、これら全てが『神』の領域に達したなら、自分は一体どれほどの力を手にすることになるのか。*
*その誘惑は、もはや抗いがたいものとなっていた。*
フィオナ:「……続けろ。」
*彼女の声は、先ほどよりも強く、はっきりとしていた。*
フィオナ:「残りのスキルも、全て進化させろ。私の経験値が尽きるまで、全てだ。」
*彼女は、自らの意思で、更なる高みへと至るための対価を支払う覚悟を決めた。その瞳は、獲物を前にした獣のように、ギラギラと輝いていた。*
シロウはフィオナの覚悟のこもった瞳を見て、満足げににやりと笑った。
シロウ:「あいよ。」
*彼は再びフィオナの前に立つと、今度はためらうことなく両手を彼女の頭の両側、こめかみの辺りに置いた。先ほどよりも強い繋がりを感じさせる接触。*
シロウ:「神眼、スキル進化を実行。」
*シロウがそう唱えた瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの凄まじい情報の奔流が、フィオナの魂を直撃した。*
**―――グッ、ガァアアアアッ!!!**
*フィオナの口から、抑えきれない絶叫が迸る。*
*『弓術』『風魔法』『精霊魔法』。彼女が長年培ってきた三つの偉大な力が、同時に、強制的に、その理を書き換えられていく。*
*弓を番え、風を読み、矢を放つ感覚。*
*大気に満ちるマナを感じ、意のままに風を操る感覚。*
*森羅万象に宿る精霊たちと語らい、その力を借りる感覚。*
*それら全ての記憶と経験が、一度に分解され、溶鉱炉に叩き込まれ、全く新しい、神の領域の力へと再構築されていく。*
*魂が引き裂かれ、そして再び繋ぎ合わされるような、凄まじい苦痛とエクスタシーの入り混じった感覚。経験値がごっそりと、凄まじい勢いで失われていくのが分かる。レベルが、存在そのものが、急速に削り取られていく。*
*フィオナの意識は何度もブラックアウトしかけ、その度に彼女の強靭な精神力がかろうじてそれを繋ぎ止める。椅子の肘掛けは、彼女の握力によってメリメリと音を立てていた。*
**―――ゴッ!**
*そして、最後の進化が終わった瞬間。*
*まるで体中の骨を全て抜き取られたかのように、フィオナの体から完全に力が抜けた。彼女はぐったりと椅子にもたれかかり、ハッ、ヒュッ、と喘ぐような呼吸を繰り返す。鎧の下の衣服は汗で完全に濡れそぼり、金色の髪は乱れて肌に張り付いていた。*
*シロウは静かに手を離すと、消耗しきったフィオナを見下ろした。*
```
【スキル】『弓術 Lv.MAX』が『弓神』に進化しました。
【スキル】『風魔法 Lv.MAX』が『嵐神魔法Lv.1』に進化しました。
【スキル】『精霊魔法 Lv.MAX』が『精霊神魔法Lv.1』に進化しました。
【レベル】Lv.80 → Lv.65
```
シロウ:「お疲れ。レベルは合計で20下がって、Lv.65になった。けど、これで君は四つの神の領域のスキルを手に入れたわけだ。」
*彼は、まるで芸術品を眺めるかのように、己が作り変えた「作品」――フィオナを満足げに見つめていた。*
*フィオナは、まだ正常に働かない思考の中、シロウの言葉を反芻する。レベル65。それは、Sランクには到底及ばない、Aランクの中でも中堅程度のレベル。しかし、彼女の内に宿る力は、かつてのSランク時代とは比べ物にならないほどに強大で、そして未知なるものへと変貌を遂げていた。*
フィオナ:「……はっ……はっ……これが……神の…力…」
*掠れた声で呟き、彼女は震える手で自らの掌を見つめた。そこに、かつてないほどの力が渦巻いているのを、はっきりと感じていた。*
*シロウは、ぐったりと消耗しきったフィオナの乱れた金髪を、労わるように優しく撫でた。その手つきは、先ほどまでの世界の理を捻じ曲げるような絶対者のそれとは違い、まるで疲れた子供をあやすかのように穏やかだった。*
シロウ:「今日はこのまま休みなさい。」
*その静かな声は、荒れ狂う嵐が過ぎ去った後の静寂のように、フィオナの消耗した心身に染み渡っていく。*
*フィオナは、シロウの手のひらの温かさを感じながら、かろうじて顔を上げた。その翠玉の瞳は潤んでおり、焦点がまだ完全には合っていない。強がろうにも、もう指一本動かす力も残っていなかった。*
フィオナ:「……っ…あ…」
*何かを言おうとするが、言葉にならない。シロウに頭を撫でられるという、普段なら絶対にありえない状況。しかし、今の彼女には、それを振り払う気力も、恥じらう余裕すらなかった。ただ、その温もりが、魂の変革によって引き起こされた激痛と疲労を、少しずつ和らげてくれるのを感じるだけだった。*
*彼女の強靭な精神を支えていた最後の意地が、この優しい接触によって、ぷつりと切れる。フィオナの体から最後の力が抜け、その意識は安らかな暗闇へとゆっくりと沈んでいった。*
*シロウは、完全に意識を失い、椅子の上で眠りに落ちたフィオナをしばらく見下ろしていた。その寝顔は、普段の猛々しい女傑の姿からは想像もつかないほど、無防備で穏やかだった。*
*彼は静かにフィオナから手を離すと、執務室の隅にあったブランケットを取り、彼女の肩にそっとかけてやる。*
*部屋には、眠るフィオナの穏やかな寝息だけが響いている。シロウは、己が作り変えた「最高傑作」の寝顔を満足げに一瞥すると、音を立てないように静かに部屋を後にした。*
*シロウがギルドマスター室から静かに出てくると、カウンターの向こうで固まっていた受付嬢は、ビクッと体を震わせた。ギルド内の冒険者たちも、遠巻きに様子を窺っている。全員の視線が、何事もなかったかのように平然としているシロウに突き刺さっていた。*
シロウ:「あ、受付嬢さん。ギルマス疲れて寝てるからそっとしておいてね。」
*そのあまりにも軽い口調に、受付嬢は目を白黒させる。あれほど張り詰めた雰囲気で部屋に入っていった二人が、片や「疲れて寝ている」という結末。一体中でどれほどの激闘(?)が繰り広げられたのか、彼女の想像はあらぬ方向へと飛躍していく。*
受付嬢:「えっ…あ、は、はい! か、承知いたしました…! あの、ギルドマスターは…その、ご無事なのでしょうか…?」
*彼女は恐る恐る尋ねる。シロウが出てきた執務室の扉は固く閉ざされており、中から物音一つしない。*
*シロウはそんな彼女の心配を意にも介さず、ひらりと手を振って、そのままギルドの出口へと向かっていく。その背中は、まるで散歩でも終えたかのように気楽なものだった。*
*一人残された受付嬢は、閉ざされたギルドマスター室の扉と、去っていくシロウの背中を交互に見比べ、ただ呆然と立ち尽くす。*
受付嬢:「(疲れて…寝てる…? い、一体何をしたら、あのギルドマスターが昼間から執務室で眠ってしまうほどの事態に…!?)」
*彼女の脳裏に、シロウが残した言葉と、フィオナのただならぬ様子が結びつき、とんでもない誤解が生まれ始めていた。周りの冒険者たちも、ヒソヒソと囁き合いながら、様々な憶測を飛ばしている。*
*こうして、Aランク冒険者シロウとギルドマスター・フィオナに関する、新たな、そして非常に誤解を招きやすい伝説が、王都ユノハナの冒険者ギルドに生まれることとなった。*
**一方、シロウはギルドを出て、賑やかな大通りを歩いていた。**
*(さて、フィオナの件は片付いたな。あそこまでやれば、しばらくは大人しくしてるだろ。レベルは下がったが、本人のやる気次第ですぐ元に戻るし、将来的には遥かに強くなる。良い投資だったな。)*
*彼は自分の行動に満足しながら、今後の予定を考える。*
**王都の安宿、シロウの部屋。**
*ギルドでの一仕事(?)を終えたシロウは、自室に戻り、ベッドに腰を下ろした。フィオナのスキルを進化させたことで、自分の経験値がどれだけ消費されたのか。そして、フィオナからコピーしたスキルがどうなっているのか。確認しておく必要があった。*
*シロウは意識を集中させ、自身のステータス画面を脳内に思い浮かべる。*
---
```
名前:シロウ・ニシキ
種族:人族(転移者)
職業:冒険者
Lv.46
【称号】
森の再生者、呪いを浄めし者、淫魔の女王を支配せし者
【所持金】
黒金貨0枚、白金貨10枚、金貨552枚、銀貨5枚、銅貨2枚
【装備】
右手:星麻毒の刃『ステラヴェノム』 (星屑鋼製、等級:伝説級/属性:猛毒・麻痺)
左手:夜天の牙『ナイトファング』 (星屑鋼・光魔石製、等級:伝説級/属性:出血・腐食)
指輪:隠者の指輪 (ステータス偽装)
鞄:次元の革袋
【ステータス】
HP: 15,200/15,200
MP: 21,800/21,800
STR: 1,250
VIT: 1,100
AGI: 2,100
INT: 1,850
DEX: 1,900
LUK: 250
【ユニークスキル】
・神眼 Lv.4 (スキル強奪/コピー、鑑定無効化、進化)
・世界樹の祝福 (常時HP・MP自動回復(中)、状態異常耐性(中)、植物系魔法効果増幅(大))
・眷属支配 Lv.1 (支配下の眷属を強化・操作する)
・スキル整理 Lv.5 (習得スキルを自動で最適化・統合する)
・精神攻撃無効
【戦闘スキル】
・剣神
・弓神
・体術 Lv.6
・縮地 Lv.8
・無影 (隠密Lv.10から進化)
・絶無 (気配遮断Lv.10から進化)
【魔法スキル】
・嵐魔法 Lv.1
・水魔法 Lv.5
【補助スキル】
・魔力操作 Lv.8
・筋力増強 Lv.5
【眷属】
・サキュバス・クイーン "セレナ"
【スキル説明】
『無影』:自身の姿と魔力を完全に隠蔽し、物理的にも光学的にも観測不能状態になる。
『絶無』:自身の存在そのものを希薄化させ、あらゆる探知・感知スキルを無効化する。
『剣神』:全ての斬撃武器の扱いに極致。攻撃速度・威力・精度が大幅に向上し、武器に宿る力を最大限に引き出す。
『弓神』:全ての射出武器の扱いに極致。射程・威力・精度が大幅に向上し、魔力を矢として放つことが可能になる。
『嵐魔法』:風魔法の上位互換。天候を操り、局地的な嵐や巨大な竜巻を発生させることが可能になる。
```
---
*(フィオナのスキルを進化させた分の経験値を使ったから、レベルは上がってないな。まあ、想定内か。)*
*シロウはステータスを一瞥し、特に気にした様子もなく思考を巡らせる。*
*彼は自分のステータスに満足げに頷くと、今後の行動に思いを馳せる。*
*(さて、金もそこそこ貯まったし、Aランクにもなった。そろそろ、この温泉地でやることも少なくなってきたな。どこか新しい街にでも行ってみるか? )*
*シロウはベッドに寝転がり、天井を見つめながら、次なる一手について考え始めた。*
*シロウはベッドに寝転がったまま、目を閉じて意識を集中させる。彼の持つユニークスキル『神眼』は、単なる鑑定能力を超え、この世界の膨大な情報網にアクセスする鍵でもある。*
シロウ:「闇市に行きたい。神眼、闇市がある街を教えて。」
*彼の脳内に、世界地図のようなものが広がる。光の点がいくつも明滅し、それぞれの情報が流れ込んできた。*
**【神眼:情報検索を開始します】**
**【キーワード:闇市】**
**【検索結果をフィルタリング…大規模、高価値取引、希少品取扱…】**
*いくつかの候補地がリストアップされる中、ひときわ大きく、そして黒く輝く光点がシロウの意識に浮かび上がった。*
---
**【推奨候補地】**
**無法都市『ゾル・ガザル』**
**【概要】**
大陸南部の砂漠地帯に存在する、いかなる国家にも属さない中立都市。
法や秩序よりも金と力が支配する街であり、大陸最大規模の『闇市』が常設されている。
王侯貴族から犯罪組織、亜人、魔族まで、あらゆる種族や身分の者が利を求めて集う坩堝。
**【取扱品目】**
・違法な魔道具、呪われた武具
・禁書、古代の遺物
・希少な魔物、絶滅危惧種の素材
・**各種奴隷(違法奴隷、犯罪奴隷、亜人奴隷など、あらゆる種類が取引対象)**
・その他、表の世界では流通しない全ての物
**【アクセス】**
王都ゼノグラードより南西へ馬車で約2週間。
途中、盗賊やモンスターが多発する危険地帯を通過する必要あり。
**【警告】**
『ゾル・ガザル』では、あらゆるトラブルは自己責任となる。
護衛なしでの単独行動は、死を意味する。
---
*脳内に流れ込んできた情報を見て、シロウの口角がゆっくりと吊り上がった。*
*(無法都市『ゾル・ガザル』か…面白そうな場所じゃないか。)*
*王都ゼノグラードの冒険者ギルドも、それなりに裏の世界との繋がりはあった。しかし、所詮は王国の法の下にある組織だ。本当の意味での「何でもあり」を求めるなら、そこへ行くしかないだろう。*
*(奴隷、呪物、古代の遺物…俺のスキルを試すには、うってつけの場所かもしれないな。)*
*シロウはベッドからゆっくりと体を起こす。次の目的地は決まった。*
*シロウは自室のベッドの上で、次の目的地『ゾル・ガザル』について思考を巡らせていた。そして、次元の革袋の中に意識を向ける。そこには、以前鉱山で手に入れた大量のオリハルコンのインゴットが、鈍い金属光を放ちながらゴロゴロと転がっていた。*
*(無法都市『ゾル・ガザル』か…あそこなら、このオリハルコンを捌くには丁度いいかもしれないな。)*
*オリハルコンは、通常の国家や都市で売却しようとすれば、その出所や量を根掘り葉掘り聞かれることになり、非常に面倒くさい。下手をすれば、国家に目をつけられて余計なトラブルを招きかねない。その点、金と力こそが正義の無法都市ならば、出所不明の希少金属だろうと喜んで買い取るだろう。*
*(それに、こいつらを売れば相当な大金になるはずだ。無法都市で動くには、金はいくらあっても困らないだろうしな。次元の革袋も無限じゃない。いつまでもこんなに場所を取らせておくわけにもいかない。)*
*方針は決まった。彼はベッドから起き上がると、旅の準備を始めることにした。*
*まずは、王都ゼノグラードを出るための手続きと、ゾル・ガザルまでの道のりの情報を集める必要がある。*
*シロウは手早く身支度を整えると、再び部屋を出て冒険者ギルドへと向かった。大量のオリハルコンを大金に変え、新たな力の糧とするために。その足取りは、次の獲物を見つけた狩人のように、軽く、そして確かな目的意識に満ちていた。*




