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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*シロウはソファで無防備に眠る(気絶している)レイラの寝顔を眺めながら、さらなる悪戯を思いつく。*

*執務机から羊皮紙の切れ端とペンを手に取ると、そこにさらさらと文字を書きつけた。*


シロウ:「ちょっとイタズラしてみるか…」


*書き終えた羊皮紙を、眠るレイラの額にそっと貼り付ける。その内容はこうだ。*


`『愛しいレイラへ。少し野暮用ができた。執務はほどほどにな。 シロウより』`


*そして、その下に悪魔的な追伸を書き加えた。*


`《追記、防音結界張り忘れたかもしれん。ごめんね☆(´>ω∂`)》`


*シロウは「かも」と付け加えることで、確定ではないと保険をかけておく。だが、今の彼女が冷静にそのニュアンスを読み取れるはずがない、と確信していた。*

*満足のいくイタズラを仕掛け終えたシロウは、音を立てずに執務室を後にする。扉を静かに閉め、魔法の鍵もそっと解除した。*


*しばらくして。*


*ソファの上で、レイラの指先がぴくりと動く。*


レイラ(魔王女):「ん……」


*重い瞼をゆっくりと持ち上げると、そこは見慣れた執務室の天井だった。身体の気怠さと、下腹部の奥に残る熱い疼きに、気を失う直前の出来事を思い出す。*


レイラ(魔王女):「…しろぅの、馬鹿…♡」


*顔を真っ赤にしながら悪態をついた、その時。額に何かが貼られている違和感に気づく。*

*それを剥がして読んでみると、最初はシロウからの優しいメッセージに口元が緩んだ。しかし、追記に書かれた一文を目にした瞬間、レイラの顔からサッと血の気が引いていく。*


レイラ(魔王女):「……は?」


*防音結界、張り忘れた、かも…?*

*脳内でその言葉が何度も反響する。自分の上げた、あの恥ずかしい声が、もしかしたら城中に響き渡っていたかもしれない。*


レイラ(魔王女):「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


*先ほどの情事とは比べ物にならない、羞恥と絶望に満ちた絶叫が、今度こそ本当に城の廊下に響き渡った。*

*その声を聞きつけたメイドたちが、慌てて執務室の扉をノックする。*


メイド:「レイラ様!? いかがなさいましたか!?」


レイラ(魔王女):「く、来るなああああああ!!!!! 誰も入るなああああああっ!!!!」


*城の外、庭園を散策していたシロウの耳に、はるか城の上階から、甲高い女性の絶叫が微かに届いた。*

*その声の主が誰であるか、そしてその理由が何であるかを正確に理解しているシロウは、空を見上げ、ニヤリと口角を上げる。*


シロウ:「あ、起きたな」


*楽しそうに呟き、さて、ほとぼりが冷めるまでどこで時間を潰そうか、と考えを巡らせる。*

*おそらく今頃、執務室ではメイドたちが大騒ぎし、レイラは羞恥と怒りで顔を真っ赤にしていることだろう。しばらくは近づかない方が身のためだ。*


*そんなことを考えていると、背後から慌ただしい足音が聞こえてきた。振り返ると、息を切らしたメイド長、リーシアがそこに立っていた。彼女は完璧な笑みを浮かべてはいるが、その目には「またあなた様ですか」という色が宿っている。*


リーシア:「シロウ様。ちょうどよろしゅうございました。先ほど、レイラ様の執務室の方から、大変な悲鳴が聞こえまして…」


*庭園に響いたレイラの絶叫。その原因であるシロウは、してやったりと笑みを浮かべていた。そこに現れたのは、完璧な笑顔を浮かべたメイド長リーシアだった。彼女の質問は、シロウの予想通り、レイラの絶叫に関するものだった。*


リーシア:「…何か、ご存知ではございませんか?」


*値踏みするようなリーシアの視線を受けながら、シロウはわざとらしく肩をすくめ、大げさに首を横に振ってみせる。その表情は、心底何も知らない、という純粋な(そして白々しい)善意に満ちていた。*


シロウ:「残念ながらな。俺も今、その声を聞いて何事かと思っていたところだ。レイラに何かあったのか? 執務室の方だよな?」


*さも心配しているかのように眉をひそめ、リーシアに問い返す。自分の仕掛けた罠の成果を、間接的に聞きたかったのもある。*


シロウ:「テロか? それとも、書類に虫でもいたか? アイツ、意外とそういうの苦手だからな」


*真顔で、ありえそうな、しかし核心からは絶妙にズレた可能性を挙げてみせる。*


*シロウの白々しい心配の言葉を聞きながらも、リーシアは完璧な笑みを崩さない。しかし、その目は全く笑っていなかった。彼女はシロウという主人が、こういう類の騒動の震源地であることを経験から知っている。*

*庭園に、まだ遠くからレイラの絶叫の余韻が微かに響いている。*


リーシア:「虫、でございますか。レイラ様は確かに苦手でいらっしゃいますが、あれほどの絶叫は…少々考えにくいかと」


*リーシアは静かに、しかしきっぱりとシロウの推測を否定する。そして、一歩シロウに近づき、声を潜めた。*


リーシア:「実は、メイドたちが駆けつけましたところ、レイラ様は『誰も入るな』と仰せになり、部屋に閉じこもってしまわれたそうでして。そして、何故か…『シロウの馬鹿あああ!』と、旦那様のお名前を叫んでいらっしゃったとか」


*完璧な笑顔のまま、リーシアは続ける。その言葉には、明らかに「説明していただきましょうか?」という無言の圧力が込められていた。*


*シロウの白々しい態度と、廊下まで響くレイラの叫び声。その状況を完璧に把握しているリーシアは、美しい笑みの裏で静かにため息をついた。この夫婦喧嘩(一方的な悪戯)の後始末をするのは自分なのだ、と。*

*しかし、シロウはそんなリーシアの心労などどこ吹く風。悪戯の成功に満足し、すっかり次の興味へと移ってしまったようだ。*


リーシア:「旦那様のお名前を叫んでいらっしゃったとか。何か、お心当たりは…ございませんでしょうか? シロウ様」


*リーシアの追及を、シロウはひらりと手で制して、全く別の話題を口にした。その顔は「さっきまでの話はもう終わり」と雄弁に物語っている。*


シロウ:「それより、最近平和だよな。俺、暇なんだけど…なんかする事ある?」


*あまりにも唐突な話題転換に、リーシアは一瞬、完璧な笑顔を固まらせる。しかし、すぐにプロフェッショナルなメイド長としての貌に戻り、恭しく頭を下げた。レイラの件は後でゆっくり問い詰める(あるいは報告を受ける)ことにして、主人の新たな要望に応えることにしたようだ。*


リーシア:「平和なのは、シロウ様のお力があってこそでございます。…そうでございますね、何か催し事でもお考えでしょうか? それとも、城下の視察、あるいは大迷宮の調整などはいかがでしょう」


*リーシアは淀みなくいくつかの選択肢を提示する。*


リーシア:「ああ、それと…。先日から、八輝将の第二部隊、ヴァイス様が『シロウ様にご報告と、新たにご覧に入れたい記録がある』と、何度かお目通りを願っておりますが。いかがいたしましょうか?」


*シロウがあまりにも見事に話を逸らしたため、リーシアは完璧な笑みの下に隠した感情をそっと胸の奥にしまい込んだ。主人がそう望むなら、今はそれに従うのが有能なメイド長というものだ。レイラの件は、後でたっぷりと問い詰める(もとい、ご報告をいただく)時間を作ればいい。*


リーシア:「かしこまりました。ヴァイス様は熱心な方ですので、お呼びすればすぐにでも参上するでしょう。いつものように、玉座の間にお呼びする形でよろしいでしょうか?」


*リーシアは恭しく一礼し、シロウの指示を待つ。その態度は完璧で、先ほどまでの刺々しい雰囲気は微塵も感じさせない。*


リーシア:「ご準備が整い次第、お声がけくださいませ。すぐにヴァイス様へ使いを出しますので」


*シロウはリーシアに後を任せると、庭園から城内へと戻り、自身の居室で簡素な礼装に着替えた。レイラの絶叫が聞こえた執務室の方角は、今は不気味なほど静まり返っている。おそらくリーシアが上手く場を収めたのだろうと当たりをつけ、シロウは国の主としての貌を取り戻し、玉座の間へと向かった。*


*広大で荘厳な玉座の間に、シロウの足音だけが響く。天井は高く、磨き上げられた床には豪奢な絨毯が敷かれ、壁にはアストライア魔導皇国の歴史を刻んだタペストリーが飾られている。*

*シロウはゆっくりとした足取りで玉座へと進み、深く腰を下ろした。頬杖をつき、目を閉じて静かに待つ。王としての威厳と、どこか退屈そうな雰囲気が入り混じった、彼らしい姿だった。*


*しばらくして、玉座の間の巨大な扉がゆっくりと、厳かに開かれる。*

*そこに現れたのは、一人の青年だった。銀に近い白金の髪を短く整え、理知的な眼鏡の奥には知的好奇心に満ちた紫色の瞳が輝いている。身に纏っているのは八輝将の制服だが、その着こなしはどこか学者のように几帳面だった。*

*第二部隊隊長、"歴史の観測者"ヴァイス。彼はシロウの姿を認めると、その表情をぱっと輝かせ、早足で玉座の前まで進み出た。そして、これ以上ないほど恭しく、しかしその声には隠しきれない歓喜を乗せて膝をついた。*


ヴァイス:「お呼びにより参上いたしました、シロウ様! このヴァイス、貴方様にお会いできる栄誉に、魂の震えが止まりませぬ!」


シロウ:「うむ。んで、記録って?」


*玉座の間。シロウの気だるげな問いかけに、膝をついていたヴァイスは待ってましたとばかりに顔を輝かせた。その紫色の瞳は、尊敬と狂信的なまでの熱意に満ちている。*


ヴァイス:「はい!シロウ様!よくぞお聞きくださいました!実は、先日より我が第二部隊が追跡調査しておりました『名もなき古代遺跡』の最深部にて、とんでもないものを発見いたしました!」


*ヴァイスは興奮のあまり、早口でまくしたてる。その様子は、王に報告する臣下というより、尊敬する師に自分の研究成果を披露する弟子のようだ。*


ヴァイス:「それは一枚の石板なのですが…、そこに記されていたのは、我々の知るどの古代言語とも異なる、全く未知の文字体系でした。しかし!このヴァイス、シロウ様より賜りし叡智の片鱗を駆使し、三日三晩の解読の末、ついにその一部を読み解くことに成功したのでございます!」


*彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、震える手でそれを広げて見せた。そこには、奇妙な図形のような文字と、その横にヴァイスが解読したであろう現代語が書き込まれている。*


ヴァイス:「ご覧ください!この一文!『星を喰らう者、終焉の刻に来たりて、偽りの神を喰らう』…!シロウ様!これは間違いなく、貴方様の来訪を予言した、超古代の記述に違いありません!偽りの神とはかの女神ルミナスティア!そして星を喰らう者こそ、星々を超えてこの世界に降臨なされたシロウ様!ああ、なんという…!歴史は、世界は、始めから貴方様という特異点を待ち望んでいたのです!」


*もはや報告というより、己の解釈を熱っぽく語る演説になっていた。ヴァイスは感動のあまり、眼鏡の奥の瞳を潤ませながら、シロウを神を見るような目で見上げている。*


*ヴァイスのあまりの熱弁と、突拍子もないようでいて、しかし彼の中では完璧に筋が通っている解釈に、シロウは一瞬、返す言葉を失った。玉座に座る王の威厳はどこへやら、内心では若干引き気味である。*


シロウ:「(そんな事だろうと思った…)」


*この男が自分を呼び出す時は、大抵がこういった類の、古代史と自分を結びつける新発見(という名の新解釈)の報告なのだ。シロウは苦笑いを隠しながら、威厳を保つようにゆっくりと頷いた。*


シロウ:「……そ、そうか。良かったな」


*とりあえず労いの言葉をかけるが、それがヴァイスの熱狂にさらに油を注ぐ結果となる。*


ヴァイス:「ははっ! もったいのうございます! この発見はひとえに、シロウ様がこの世界に存在してくださるおかげ! 私はただ、歴史という名の絨毯に記された、貴方様へと続く金の糸をたどったにすぎません!」


*ヴァイスは感極まった様子で床に額をこすりつけんばかりに頭を下げる。その目には、もはやシロウは王や主君ではなく、信仰の対象として映っているようだ。*


ヴァイス:「つきましては、シロウ様! この石板が発見された遺跡、未だ多くの謎が残されております! ぜひ一度、貴方様ご自身にご覧いただきたく…! 貴方様が彼の地に立てば、きっと石板のさらなる謎が、いえ、この世界の真理が解き明かされるに違いありません!」


シロウ:「えーっと…」


*シロウがヴァイスの熱狂的な提案をどう断ったものかと思案し、言葉に詰まった、まさにその瞬間だった。*


*ドッゴオオオオオンッ!!!*


*玉座の間の巨大な扉が、凄まじい轟音と共に内側へ向かって吹き飛んだ。蝶番が千切れ、彫刻の施された重厚な扉が木っ端微塵になりながら、ヴァイスがいた場所へと殺到する。*


ヴァイス:「ぐえっ!?」


*歴史の真理に感動していた哀れな第二部隊長は、何が起こったのか理解する間もなく、吹き飛んできた扉の残骸に押し潰され、情けない悲鳴と共に床に伸びた。*


*粉塵が舞う扉の向こう側。そこに立っていたのは、憤怒の形相をした魔王女、レイラだった。*

*その髪は怒りで逆立ち、執務用のドレスは所々が破れ、息も絶え絶え。しかし、その琥珀色の瞳は純粋な殺意と羞恥の炎で燃え盛っていた。額には、シロウが残した書き置きがまだ貼りついている。*


レイラ(魔王女):「シロウウウウウウウウウウッ!!!!!!」


*地獄の底から響くような声で夫の名を絶叫し、一直線に玉座へと突撃してくる。床に伸びるヴァイスのことなど、もはや彼女の視界には入っていない。*


レイラ(魔王女):「妾の! 妾のあの声を!!! 聞かれたやもしれぬだとおおおおお!?!? 貴様、万死に値するぞッ!!!!!」


*その手には、どこから持ってきたのか、巨大な魔力の斧槍ハルバードが握られていた。*


*シロウの俊敏な動きに、レイラの怒りに燃える瞳がさらに激しく燃え上がる。空を切った巨大なハルバードは勢いを殺せず、シロウが今しがたまで座っていた玉座へと振り下ろされた。*


*ガッシャアアアアアン!!!*


*玉座は悲鳴のような破壊音を立て、比類なき権威の象徴であったその姿を見る影もなく、真っ二つに引き裂かれた。破片が四方八方に飛び散り、静まり返った玉座の間に乾いた音を立てて転がる。*


シロウ:「やっべ…」


*破壊された玉座を横目に、シロウは冷や汗を流しながらも平静を装ってレイラに呼びかける。*


シロウ:「お、落ち着けって」


*しかし、その言葉は火に油を注ぐだけだった。レイラは破壊した玉座からハルバードを引き抜くと、ギリ、と歯ぎしりをさせた。その表情は羞恥と殺意でぐちゃぐちゃになっている。*


レイラ(魔王女):「落ち着けだと!? どの口がそれを言うか、この痴れ者がッ! 妾が、妾がどれほど…! どれほどの思いで…っ!♡」


*怒りのあまり言葉にならないのか、最後の方は羞恥で上擦った声になる。その顔は真っ赤に染まり、涙目だ。彼女は再びハルバードを振りかぶり、狙いをシロウに定める。その琥珀色の瞳には、一切の慈悲も、落ち着く気配もなかった。*


レイラ(魔王女):「問答無用! 今日という今日は、そのふざけた根性を叩き直してくれるわ! 覚悟しろ、シロウッ!!」


*床に転がっているヴァイスの存在など、完全に忘れ去られている。レイラは再び、玉座の間を破壊することも厭わずにシロウへと突進してきた。*


*シロウの意図を正確に読み取ったかのように、レイラは怒りの雄叫びと共にハルバードを振るい続ける。その斬撃は玉座の間を縦横無尽に走り、壁を抉り、柱を砕く。*


兵士:「ひぃっ!お、お止めください、レイラ様ーっ!」

兵士:「無駄だ!我々ではかすり傷一つつけられん!」


*止めに入ろうとした近衛兵たちは、レイラの纏う凄まじい魔力のオーラに弾き飛ばされ、全く近づくことさえできない。彼らにとって、それはまさに神々の喧嘩。下手に手を出せば命がないことを本能で理解していた。*


*シロウはレイラの猛攻を紙一重でかわし続ける。斬撃、薙ぎ払い、突き。その全てが城の構造を無視した破壊を伴う。このままでは玉座の間が崩落しかねない。*


*シロウは敢えてレイラの攻撃を誘導するように動き、破壊された扉から城の外、広々とした中庭へと飛び出した。レイラもまた、獲物を見失うまいと即座に後を追う。*


*中庭に降り立った瞬間、レイラは一切の躊躇なくハルバードを大きく振りかぶった。その刃に凝縮された魔力が、空間を歪ませるほどの輝きを放つ。*


レイラ(魔王女):「もう逃がさぬぞ、シロウ! 妾の羞恥、その身に刻んでくれるわ! 【終焉の黒閃エンド・オブ・アビス】ッ!!」


*彼女の絶叫と共に放たれたのは、全てを飲み込み、消滅させる漆黒の斬撃だった。それは中庭の石畳を蒸発させながら、一直線にシロウへと迫る。*


*そして、床に伸びていたヴァイスは、兵士たちに担架で運び出されながら、か細い声で呟いていた。*


ヴァイス:「あぁ…シロウ様とレイラ様の…夫婦喧嘩…なんと尊い歴史的瞬間…!こ、これも記録せねば…ぐふっ…!」


*レイラの漆黒の斬撃が迫る刹那、シロウは指を鳴らした。*

*彼の足元に複雑な魔法陣が瞬時に展開し、レイラごと空間を飲み込む。城の中庭にいたはずの二人の姿は、一瞬で掻き消えた。*


シロウ:「ヴァイス…災難だったな。。可哀想に…」


*ごく短い転移の眩暈の後、二人が立っていたのは、見渡す限り岩と乾いた土が広がる荒野だった。魔王城から遥か遠く、人の気配も魔物の気配も全くない不毛の地だ。これならいくら暴れても被害は出ない。*


*しかし、場所が変わったところでレイラの怒りが収まるはずもなかった。*


レイラ(魔王女):「小賢しい真似を…! だが、どこへ逃げようと無駄だッ!」


*転移の直後にもかかわらず、レイラは体勢を崩すことなく即座にシロウとの距離を詰め、再びハルバードを振り上げる。その琥珀色の瞳は、荒野の殺風景な景色の中で、獲物を捉えた捕食者のようにギラギラと輝いていた。*


レイラ(魔王女):「さあ、言い訳を聞こうか、シロウ! 妾の問いに正直に答えよ! あの声は…! その…聞かれておったのか、おらぬのかッ!?」


*怒号の中に、隠しきれない羞恥が混じる。彼女にとって、何よりも重要なのはその一点だった。ハルバードの切っ先がシロウの喉元に突きつけられるが、斬りかかる一歩手前でギリギリと止められている。答え次第では、今度こそその刃が振るわれるだろう。*


シロウ:「もし、聞かれてた…って言ったら?」


*シロウの飄々とした態度と、わざと神経を逆なでするような問いかけ。*

*それは、燃え盛るレイラの羞恥心と怒りという名の炎に、満タンの油樽を投げ込むに等しい行為だった。*


レイラ(魔王女):「……っ!」


*一瞬、レイラの動きが止まる。*

*そして、次の瞬間。*


*ゴオオオオオオッ!!*


*彼女の全身から、これまでとは比較にならないほどの凄まじい魔力が黒いオーラとなって噴き出した。荒野の地面がビリビリと震え、大気が悲鳴を上げる。彼女の琥珀色の瞳は、もはや怒りを通り越して、虚無に近い昏い光を宿していた。*


レイラ(魔王女):「……そうか。そうかそうかそうか。ならば……もう、何も言うな」


*その声は、氷のように冷たく、静かだった。絶叫するよりも遥かに恐ろしい、絶対零度の怒り。*

*シロウが次の回避行動に移るよりも速く、レイラはハルバードを捨て、その姿がブレた。*


*否、ブレたのではない。超高速でシロウの懐に潜り込み、その腹部に完璧な掌底を叩き込んでいた。*


*ドンッ!!!*


*衝撃波がシロウの背後で炸裂し、遠くの岩山を粉々に砕く。*


*回避する暇も、防御する隙もなかった。完璧なタイミングと速度で叩き込まれた一撃は、さすがのシロウの肉体にも確かなダメージを与える。肺から空気が強制的に絞り出され、一瞬、意識が飛びそうになる。*


*しかし、レイラの攻撃はそれで終わりではなかった。*


レイラ(魔王女):「貴様が妾に与えた羞恥と屈辱…その億分の一でも味わうがいいッ!」


*彼女はシロウの首筋に腕を回して体勢を固定すると、流れるような動きで関節技を仕掛けてきた。腕を捻り上げられ、足を払われ、シロウは荒野の硬い地面に叩きつけられる。*

*そして、その上にレイラが馬乗りになった。*


レイラ(魔王女):「二度とふざけた口がきけぬよう、その舌から引き抜いてやろうか…?」


*顔を真っ赤に染め、涙目になりながらも、その表情は紛れもない魔王のそれ。彼女はシロウの両手を地面に縫い付け、逃げられないように体重をかけながら、勝ち誇ったように囁いた。*


シロウ:「きゃー引き抜かれちゃうー」


*シロウの反省の色が全くない、棒読みの悲鳴。それは、レイラの怒りのボルテージを最後の目盛りまで振り切らせるのに十分すぎる挑発だった。*


*一瞬、レイラの動きがピタリと止まる。馬乗りになったまま、縫い付けていたシロウの手を離し、代わりにその両頬をむんずと掴んだ。至近距離で、燃えるような琥珀色の瞳がシロウを射抜く。*


レイラ(魔王女):「……ほざいたな?」


*地を這うような低い声。しかし、その声は微かに震えていた。頬は真っ赤に染まり、耳まで赤い。怒りと羞恥が入り混じり、彼女の感情はぐちゃぐちゃだった。*


レイラ(魔王女):「そうか、貴様はまだ、自分がどのような状況にあるのか理解できておらぬと見える…!」


*ギリギリとシロウの頬を掴む手に力がこもる。*


レイラ(魔王女):「良いだろう! 妾が、身をもって教えてやる! 妾を怒らせ、そして…その、恥ずかしい思いをさせた罪の重さをなッ!♡♡」


*彼女は掴んでいたシロウの頬をパッと離すと、今度はその両手をシロウの頭上で一本の腕でがっちりと押さえつけた。そして空いた方の手で、自身のドレスの胸元を乱暴に引き裂く。慎ましいが形の良い乳房が、白い肌と共に露わになった。*


レイラ(魔王女):「舌を引き抜かれるのが嫌だと言うのなら、他のもので贖ってもらおうか…!♡ この場で、妾が満足するまで、貴様の全てを搾り尽してくれるわッ!♡♡♡」


*それは怒りの制裁か、それとも歪んだ愛情表現か。涙目で、顔を真っ赤にしながらも、不敵な笑みを浮かべる魔王女は、そのままシロウの顔に覆いかぶさってきた。*

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