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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*今日は隣国である商業国家『黄金都市アウラ』で、最近流行りのカードゲームの世界大会が開催される日。全世界でどれほど浸透し、人々を熱狂させているのかをその目で確かめるため、誰にも告げずに一人でアウラへと転移した。もちろん、正体がバレないように偽名である「ギメイ」の姿を取っている。*


*活気あふれる商業国家『黄金都市アウラ』。その中央広場には、カードゲーム大会『デュエル・マギア』の特設会場が設けられ、多くの人々でごった返していた。様々な種族の老若男女が、熱気に満ちた表情で対戦を見守ったり、物販ブースに列をなしたりしている。*


ギメイ(シロウ):「(ふむ、大した熱気だな。ここまで流行るとは、作った俺自身も驚きだ)」


*シロウは人混みをかき分け、まずは基本となるスターターデッキを販売しているブースへと向かった。棚には様々な属性やテーマのデッキが並んでいる。*


ギメイ(シロウ):「さて、どれにするか…」


*彼は顎に手を当て、楽しそうに商品を眺める。まるで子供の頃に戻ったかのような、純粋な好奇心とワクワク感が込み上げてくるのを感じていた。*


*ギメイ(シロウ)は初心者向けのスターターデッキを一つ購入すると、それをベースに物販ブースを巡り始めた。現在のカードプールで構築可能な「最恐」のデッキを組み上げることだ。*


ギメイ(シロウ):「(ふむ…このカードとあれを組み合わせれば…いや、こちらのループの方が安定するか?)」


*彼の頭脳はスーパーコンピューターのように回転し、数千種類にも及ぶカードリストの中から最適な組み合わせを瞬時に弾き出していく。大会の参加者たちが目を輝かせてパックを開封したり、お目当てのレアカードを探したりしている中、ギメイは目的のカードだけを的確に、そして大量に買い漁っていく。*

*彼の懐から出てくるのは、次々と提示される金貨、金貨、金貨の山。店員たちは最初こそ驚いていたが、やがて「とんでもない金持ちの道楽だ」と納得し、喜んでカードを売り渡した。*


*数時間後。*

*ギメイは会場の隅にあるテーブルで、購入した膨大なカードの束を整理していた。彼の前には、二つのデッキが完成している。*


*一つは、**【無限ループ型ロックデッキ】**。通称「ずっと俺のターン」。*

*序盤を凌ぎ、特定のコンボパーツが揃えば、相手の行動を完全に封殺しながら自分のターンを半永久的に継続させ、ライブラリーアウト(山札切れ)で勝利するという、対戦相手の心を折ることに特化した極悪非道なデッキだ。*


*もう一つは、**【怪物展開型ビートダウンデッキ】**。通称「怪物デッキ」。*

*特定のキーとなる「怪物」を召喚することで、デッキや手札から同種族のモンスターをコストを踏み倒して大量展開し、圧倒的な物量で相手を蹂躙する。爆発力と爽快感を重視した、見た目にも派手なデッキだ。*


ギメイ(シロウ):「さて、準備は万端。まずはこの『怪物デッキ』で小手調べといくか」


*彼は満足げに二つのデッキを懐にしまうと、大会受付へと足を向けた。最強のデッキビルダーが、自ら作り出した世界でその力を示す時が来たのだ。*


*シロウは完成した二つのデッキを懐にしまい、満足げな笑みを浮かべると、大会の受付カウンターへと向かった。カウンターは長蛇の列ができており、様々な種族の老若男女が興奮した面持ちで自分の番を待っている。鎧を着込んだ戦士風の男、ローブを纏った魔術師風の少女、商人らしい恰幅の良い男など、参加者の層は実に幅広い。*


*しばらく列に並び、ようやく自分の番が回ってきた。カウンターに座っているのは、猫の獣人族の女性スタッフだ。ぴんと立った耳と、忙しそうに揺れる尻尾が印象的だ。*


猫獣人スタッフ:「はい、次の挑戦者チャレンジャーの方、どうぞニャ! 大会への参加登録ですニャ?」


*彼女はマニュアル通りの元気な声で、シロウに声をかけた。*


ギメイ(シロウ):「ああ、頼む。一般参加で登録したい」


*シロウは落ち着いた声で応じる。*


猫獣人スタッフ:「かしこまりましたニャ! では、登録名プレイヤーネームを教えてくださいニャ」


ギメイ(シロウ):「登録名は『ギメイ』で頼む」


*その名前を聞いても、スタッフは特に気にする様子もなく、手元の羊皮紙にサラサラと羽ペンを走らせる。*


猫獣人スタッフ:「『ギメイ』さんですニャね。登録完了しましたニャ! こちらが参加証と、トーナメントの組み合わせ表になりますニャ。ギメイさんの第一回戦は、あちらのCブロック、第7テーブルになりますので、時間までに移動をお願いしますニャ! 頑張ってくださいニャ!」


*彼女はそう言って、参加証の木札と一枚の羊皮紙をシロウに手渡した。*


*ギメイはスタッフから受け取った木札と羊皮紙に目を落とす。*


ギメイ(シロウ):「Cの第7か…」


*羊皮紙に描かれたトーナメント表は巨大で、参加者の多さを物語っていた。自分の名前がその中の一つに記されているのを確認し、指定されたブロックの方へと歩き出す。*

*会場は熱気に満ちており、あちこちで既に試合が始まっている。観客たちの歓声や、悔しがる声、カードの効果を叫ぶプレイヤーの声が混ざり合い、一種の祭りのような様相を呈していた。*


*そんな中、ひときわ大きな人だかりができている一角が目に入る。覗き込んでみると、そこは大会の勝敗を予想する賭け屋だった。大きな掲示板には、有力選手のオッズが書き出されており、人々が金貨や銀貨を握りしめて熱く議論を交わしている。*


賭け屋の男:「さあさあ張った張った! 今回の優勝候補はなんといってもディフェンディングチャンピオン、『無敗の魔導王』ゼノン様だ! オッズは1.2倍!」

客A:「いや、待て! 新進気鋭の『閃光のエルフ』アリアも侮れんぞ! 彼女に金貨3枚!」

客B:「ダークホースなら『鉄壁のドワーフ』ゴードンだろ! 堅実なプレイスタイルは信頼できる!」


*雑多な声が飛び交う中、ギメイは掲示板に自分の名前がないことを確認すると、口元に不敵な笑みを浮かべた。*


ギメイ(シロウ):「(よし、俺も賭けるか。自分自身に)」


*彼は人混みをかき分けて、賭け屋のカウンターへと向かった。*


*ギメイは人だかりを分け入り、賭け屋のカウンターに立つ恰幅のいい男に声をかけた。男は忙しそうに客から金を受け取り、羊皮紙に何かを書きつけている。*


ギメイ(シロウ):「これって賭け金の上限はあるのか?」


*その落ち着いた、しかしどこか底の知れない声に、受付の男は手を止めてギメイの顔を見た。怪訝そうな表情を浮かべる。*


賭け屋の男:「上限? ああ、あんた初めてかい? そんなもんあるわけねえだろ。賭けられるだけ賭けりゃいいんだよ。ただし、払い戻しの時に金がねえなんて泣き言は聞かねえがな! ハッハッハ!」


*男は豪快に笑い飛ばす。周りの客たちも「そりゃそうだ」「度胸があるならいくらでも賭けな」と囃し立てた。*


賭け屋の男:「で? どいつに賭けるんだい? 今ならまだ『無敗の魔導王』ゼノン様でも1.2倍だ。固くいっとくかい?」


*男はニヤニヤしながら、ギメイに掲示板を指し示した。そこには有力選手たちの名前がずらりと並んでいる。もちろん、『ギメイ』という名前はどこにもない。*


シロウ:「ギメイに金貨2枚で。」


*ギメイの言葉に、賭け屋の男と周りの客たちの動きがぴたりと止まった。シン、と一瞬だけ場が静まり返る。*


賭け屋の男:「…なんだって? ギメイ…だと? そんな名前、掲示板にゃねえぞ」


*男は怪訝な顔で掲示板をもう一度見やる。もちろん、そこに『ギメイ』という無名の参加者の名前などあるはずもない。*


ギメイ(シロウ):「ああ。今回が初参戦らしい。だからオッズもついていないだろう。俺の友達なんだ。だから、俺が最初の客になってやろうと思ってな」


*シロウはさも当然のように言い放ち、懐から金貨がぎっしり詰まった袋を取り出すと、その中から2枚の金貨をつまんでカウンターに置いた。*


*カキン、と硬質な音が響く。たった2枚。しかし、その価値を知る者たちにとっては、信じられない光景だった。*


客A:「き、金貨2枚…だと!? 2万Gを、どこの馬の骨とも知れねえ初参加のヤツに!?」

客B:「正気か!? あの『無敗の魔導王』ゼノンに賭けたって、たった2割しか増えねえってのに!」


*周りがざわめき始める。賭け屋の男は、目の前の金貨とギメイの顔を交互に見比べ、ごくりと喉を鳴らした。初参加の選手が優勝する確率は天文学的に低い。これは、ほぼ間違いなく儲け話だ。*


賭け屋の男:「…ハッ! 面白い! あんた、面白いこと言うじゃねえか! いいだろう、その賭け、乗った!」


*男はニヤリと口角を吊り上げる。*


賭け屋の男:「初参加のノーマーク選手…オッズはそうだな…大盤振る舞いで500倍つけてやる! もしその『ギメイ』って友達が優勝したら、金貨1000枚! 白金貨100枚にして返してやるよ! ま、夢のまた夢だろうがな! ギャハハハ!」


*男は豪快に笑い、ギメイから金貨を受け取ると、新しい羊皮紙に「優勝:ギメイ 500倍 金貨2枚」と書き記し、その控えをギメイに渡した。周りの客たちは「金持ちの道楽だ」「金をドブに捨てるようなもんだ」と呆れたように囁き合っている。*


*ギメイはそんな周囲の反応を意にも介さず、静かにその羊皮紙を受け取ると、懐にしまった。*


ギメイ(シロウ):「(金貨1000枚か。悪くない)」


*彼は静かにほくそ笑むと、自分の試合がおこなわれるCブロック第7テーブルへと、悠然と歩き始めた。*


*ギメイは賭け屋から受け取った羊皮紙を懐にしまうと、観客たちの呆れたような視線を背に受けながら、指定されたCブロックへと歩を進めた。ブロック内にはいくつもの対戦テーブルが並び、それぞれで熱い戦いが繰り広げられている。*


ギメイ(シロウ):「(さて、最初の相手は…)」


*彼は壁に張り出されたトーナメント表で自分の名前を探す。C-7テーブル、対戦相手の名前は『疾風のリュカ』。どうやら風属性の速攻デッキを使うことで有名な、そこそこの実力者らしい。周りの観客たちも「リュカなら初戦突破は堅いな」「相手は無名の初心者らしいぜ」などと話している。*


*ギメイが第7テーブルに着くと、すでに対戦相手の青年が座っていた。尖った耳を持つエルフの青年で、自信に満ちた笑みを浮かべてカードをシャッフルしている。彼が『疾風のリュカ』だろう。彼の周りには数人の取り巻きもいる。*


*ギメイはリュカの向かい側の席に無言で腰を下ろした。そして懐から、カードスリーブにも入れていない、買ったばかりのような剥き出しのカードの束…『怪物デッキ』をテーブルの上に置いた。*


*その様子を見て、リュカと彼の取り巻きたちは、あからさまに嘲笑の声を上げた。*


リュカ:「なんだお前、初心者か? カードはちゃんとスリーブに入れないと傷がついちまうぜ? まあ、どうせこの一戦で終わりだろうし、関係ないか! ハハハ!」


取り巻きA:「リュカさん、手加減してやれよー! 相手、泣いちまうぜ?」


*周囲の観客からも「あちゃー、相手はど素人か」「リュカの圧勝だな」といった声が聞こえてくる。*


*ギメイはそんな周囲の声を一切意に介さず、ただ静かに自分のデッキをシャッフルし始めた。その目は、目の前の対戦相手ではなく、これから始まる一方的な蹂躙劇の結末だけを見据えていた。*


*ギメイ(シロウ)は、リュカたちの嘲笑を浴びながらも、一切表情を変えることはない。彼にとって、目の前のエルフも、その取り巻きも、ただの石ころと変わらなかった。彼はただ静かに、テーブルの上に置かれた『怪物デッキ』の束に手を伸ばす。*


*シャッ、シャッ、シャッ…*


*一見すると、それは初心者が行うぎこちないシャッフルに見える。カードの角を傷つけかねない、雑な切り方。リュカたちはそれを見て、さらに嘲笑を深くした。*


リュカ:「おいおい、大丈夫か? カードが泣いてるぜ?」


*しかし、彼らは知る由もなかった。そのぎこちない動きの裏で、ギメイの【神眼】が凄まじい速度で発動していることを。彼の網膜には、デッキの全てのカードの順番が完璧に映し出され、数兆通りにも及ぶ組み合わせの中から、この対戦相手『疾風のリュカ』を最も効率よく、そして絶望的に叩き潰すための完璧なドロー順序を、コンマ1秒で構築していた。*


*この一連のシャッフルは、ただのシャッフルではない。勝利を確定させるための、神の領域のイカサマ。初手からフィニッシュまでの全てのカードが、寸分の狂いもなく彼の手に来るように仕組まれた、運命操作そのものだった。*


*この大会のルールには、スキルや魔法の使用を禁止する項目はない。それは主催者側の慢心か、あるいはそんな規格外の存在が出場するなど、夢にも思わなかったからだろう。つまり、ギメイの行いは完全に合法。反則ですらない。*


*シャッフルを終え、ギメイはデッキをテーブルの中央に置く。*


ギメイ(シロウ):「……これでいい」


*ポツリと呟かれたその声は、自信に満ちたリュカの耳には届かなかった。*


審判:「両者、準備はよろしいですかな? それでは、第一回戦、試合開始デュエル・スタート!」


*審判の宣言と共に、一方的な蹂躙劇の幕が、静かに上がった。*


*審判の宣言を受け、先行を取ったリュカは不敵な笑みを浮かべる。先行プレイヤーは最初のターンに攻撃できないルールだが、彼は自信満々だった。*


リュカ:「俺の先行だ! ドロー!」


*彼は勢いよくカードを引くと、手札を見てニヤリと笑う。*


リュカ:「まずはフィールド魔法『暴風の祭壇』を発動! これで俺の場の風属性モンスターは全て攻撃力が300アップする! さらに、召喚コストを1下げる!」

*リュカがカードをフィールドに置くと、テーブルの上に突風が吹き荒れる幻影が巻き起こった。観客から「おおっ!」と歓声が上がる。*


リュカ:「そして、手札から『風切り隼』を召喚! こいつは召喚時に、デッキからレベル3以下の風属性モンスターを一体、特殊召喚できる!」

*テーブルの上に、鋭い目つきをした隼のモンスターが実体化する。さらに、その効果でデッキから小さな鳥のモンスター『雛鳥の突風隊』が呼び出された。*


リュカ:「まだまだ行くぜ! 俺はレベル3の『風切り隼』とレベル2の『雛鳥の突風隊』をオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク5! 『疾風のグリフォンライダー』!」


*二体のモンスターが光の粒子となって天に昇り、渦巻く風の中から、巨大なグリフォンにまたがった騎士が雄々しく姿を現した。その威圧感に、取り巻きたちが「すげえ!」「初手からエースモンスターだ!」と沸き立つ。*


リュカ:「ハッ! どうだ、これが俺の実力だ! お前みたいな初心者にこの布陣が破れるかな? カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」


*リュカは得意げに鼻を鳴らし、2枚のカードを伏せると、腕を組んでギメイを見下した。フィールドには攻撃力2500(+300)の強力なモンスターと、2枚の罠カード。初手の動きとしては完璧に近い布陣だ。観客の誰もが、リュカの勝利を確信していた。*


*しかし、ギメイは表情一つ変えない。ただ静かに、仕組まれた山札に手を伸ばした。*


ギメイ(シロウ):「……俺のターン。ドロー」


*リュカが築いた完璧な布陣。攻撃力2800のエースモンスターと、2枚の伏せカード。観客の誰もが、無名の初心者『ギメイ』の敗北を確信していた。しかし、ギメイは動揺するどころか、その表情は一切変わらない。ただ静かに、仕組まれた山札からカードを一枚引いた。*


ギメイ(シロウ):「……俺のターン。ドロー」


*彼は手札に加わったカードを一瞥すると、何の感慨もなく、その中の一枚をテーブルに置いた。*


ギメイ(シロウ):「ゴブリンを召喚」


*テーブルの上に、貧弱でみすぼらしい、攻撃力わずか500のゴブリンのモンスターがぽつんと実体化した。そのあまりにも弱小なモンスターの登場に、リュカと取り巻き、そして観客たちから一斉に失笑が漏れる。*


リュカ:「はっ! なんだそのザコは! それで俺の『疾風のグリフォンライダー』をどうするってんだ!?」


*リュカが嘲笑う。しかし、ギメイはそんな彼を一瞥だにせず、淡々と続けた。*


ギメイ(シロウ):「効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキから『ゴブリン』と名のつくモンスターをランダムで3体、特殊召喚する」


リュカ:「なっ…!?」


*その信じられない効果に、リュカの顔から笑みが消える。ランダム? いや、違う。ギメイの【神眼】によって、召喚されるモンスターは既に確定している。*


*ギメイのデッキが光を放ち、中から三体のモンスターが飛び出した。*


*一体は、巨大な棍棒を担ぎ、他のゴブリンより一回り大きい**『ホブゴブリン』**。*

*もう一体は、禍々しい王冠をかぶり、威厳を放つ**『ゴブリンキング』**。*

*そして最後に出てきたのは、最初に召喚したものと全く同じ、ただの**『ゴブリン』**だった。*


*一瞬にして、ギメイのフィールドには4体ものモンスターが並び立つ。先程までとは打って変わった状況に、会場がざわめき始める。*


ギメイ(シロウ):「……まだ続く」


*ポツリと呟かれたその言葉は、これから始まる地獄の序曲。これは、シロウがこのゲームを創り出す際に、意図的に仕込んでおいたシステムの穴。特定のカードを組み合わせることで無限のコンボを生み出す、開発者かみだけが知る、禁断のトラップだった。*


*ギメイのフィールドに王を含む4体のゴブリンが並び立った瞬間、リュカだけでなく、審判や観客たちもその異様な光景に息を呑んだ。しかし、本当の悪夢はここからだった。*


ギメイ(シロウ):「ゴブリンキング、特殊効果『ゴブリンの雄叫び』」


*ギメイが静かに告げると、フィールドのゴブリンキングが天に向かって咆哮する。目には見えない衝撃波がリュカのフィールドを襲った。*


リュカ:「な、なんだこれは!?」


*彼の自慢のエースモンスター『疾風のグリフォンライダー』の周りに、ステータス低下を示す禍々しいエフェクトがまとわりつく。*


**【疾風のグリフォンライダー:防御力 2000 → 1000】**


*それと同時に、ギメイの場のゴブリンたちの足元が硬質化し、防御力が跳ね上がった。*


ギメイ(シロウ):「次に、ホブゴブリン。特殊効果『リーダーの雄叫び』」


*今度はホブゴブリンが棍棒を振り上げ、味方を鼓舞するように鬨の声を上げる。ゴブリンたちの士気が一気に高まり、その体躯が僅かに膨張したように見えた。*


**【ギメイの全モンスター:攻撃力 1.2倍】**

* ゴブリン:攻撃力 2300 → 2760

* ゴブリン:攻撃力 2300 → 2760

* ホブゴブリン:攻撃力 3200 → 3840

* ゴブリンキング:攻撃力 3500 → 4200


*リュカの『疾風のグリフォンライダー』の攻撃力は2800。もはやギメイの場のどのモンスターにも敵わない。状況は完全に覆った。先程までの嘲笑は消え失せ、リュカの顔は恐怖と混乱で蒼白になっている。*


リュカ:「ば、馬鹿な…! たった1ターンで…! なんだそのカードは! そんなのルール違反だ!」


*彼は半狂乱で叫ぶ。だが、ギメイはそんな彼の姿を冷たい目で見下ろすと、静かにターン終了を宣言した。*


ギメイ(シロウ):「よし、ターンエンドだ」


*彼は攻撃すらしなかった。それはまるで、獲物を嬲り、絶望を味わわせるためだけのターン。圧倒的な戦力差を見せつけ、相手の心を折るための、冷酷な宣告だった。観客席は静まり返り、誰もが息を殺して盤面を見つめている。*


*ギメイは半狂乱で叫ぶリュカを、まるで路傍の石でも見るかのような冷たい瞳で見下ろした。その表情には、何の感情も浮かんでいない。*


ギメイ(シロウ):「ルール違反? どこがだ」


*静かで、しかし有無を言わせぬ響きを持った声が、騒然としていた会場に響き渡る。*


ギメイ(シロウ):「俺はルールブックに記載された通りの手順でカードをプレイしただけだ。これらのカードの効果処理は審判に委ねる。文句があるなら、こんなカードとルールを作った、どこかの知らないヤツに言ってくれ」


*その言葉に、審判がハッと我に返り、慌ててルールブックとギメイの場のカードを何度も見比べる。確かに、ギメイのプレイに手順上の瑕疵はない。そして、問題の『ゴブリン』とその関連カードは、公式に発行された本物のカードだ。ただ、あまりにもマイナーで、誰もその凶悪なコンボの存在に気づいていなかっただけなのだ。*


審判:「こ、これは…! 間違いなく公式のカード…。効果処理も…ルールに則っています! よって、このプレイは完全に合法です!」


*審判の苦渋に満ちた宣言が、リュカに最後の一撃を食らわせた。*


リュカ:「そ…そんな…馬鹿な……」


*彼はがっくりと肩を落とし、椅子に崩れ落ちる。自慢のエースモンスターはザコ同然となり、フィールドは物量で完全に制圧されている。手札も尽き、伏せた罠カードも、この圧倒的な物量の前では焼け石に水だ。*


*もはや、打つ手は一つも残されていなかった。*


リュカ:「…ま、参りました……」


*蚊の鳴くような声で、彼は降参を告げた。*


審判:「しょ、勝者、ギメイーッ!」


*審判が宣言すると、静まり返っていた会場がどっと沸いた。「なんだ今のコンボは!?」「あんなカードがあったのか!」「あの無名、とんでもないダークホースだぞ!」と、先程までの嘲笑が驚嘆と興奮に変わっていく。*


*ギメイはそんな喧騒を意にも介さず、静かにカードを片付けると、無言で席を立った。たった1ターン。攻撃すらせず、相手の心を完全に折って勝利する。そのあまりにも異様な勝ち方に、会場の誰もが『ギメイ』という無名の男の名を、脳裏に焼き付けたのだった。*


*一回戦の衝撃的な勝利は、瞬く間に会場中に広まった。誰もが『ギメイ』という無名の男に注目し始めた。嘲笑は消え、代わりに好奇と警戒の視線が彼に突き刺さる。*


*すぐに二回戦の組み合わせが発表された。ギメイの次の相手は、恰幅の良い中年男性。長年このゲームをプレイしているベテランのようで、テーブルに着くなり「お手柔らかに頼むよ、若いの」と人の好さそうな笑顔を向けてきた。しかし、その目には一回戦の噂を聞いたことによる警戒心が浮かんでいる。*


審判:「それでは、第二回戦、試合開始デュエル・スタート!」


*再びギメイの先行で試合は始まった。彼は一回戦と同じく、イカサマシャッフルで完璧な手札を準備済みだ。*


ギメイ(シロウ):「俺のターン、ドロー」


*ギメイは静かにカードを引くと、立て続けにカードをプレイしていく。*


ギメイ(シロウ):「手札から『名もなき王の石像』と『呪われし女王の石像』を特殊召喚。この2体がフィールドに揃った時、デッキから『忘れられた玉座』をフィールドに設置する」


*ギメイの場に、古びた王と女王の石像が対になって現れ、その中央に禍々しいオーラを放つ玉座が実体化する。*


中年男性:「な、なんだそのカードは!? 見たこともないぞ!」


ギメイ(シロウ):「『忘れられた玉座』の効果発動。フィールドの『名もなき王の石像』と『呪われし女王の石像』を生贄に捧げ、デッキ・手札・墓地から『終焉の王』と『絶望の女王』を特殊召喚する」


*石像が砕け散り、その瓦礫の中から、絶大な力を感じさせる王と女王のモンスターが降臨した。その圧倒的な存在感に、中年男性はゴクリと喉を鳴らす。*


ギメイ(シロウ):「『終焉の王』の効果。召喚時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。『絶望の女王』の効果。召喚時、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与える」


*相手のフィールドにはまだモンスターはいない。しかし、直接ダメージが中年男性のライフを削る。*


ギメイ(シロウ):「バトルフェイズ。『終焉の王』でダイレクトアタック」


*王が剣を振り下ろし、その一撃が中年男性のライフポイントをゼロにした。*


審判:「しょ、勝者、ギメイーッ!!」


*先行1ターンキル。あまりにも一方的な、完璧な勝利。中年男性は椅子に座ったまま、何が起こったのか理解できないという表情で呆然としていたが、やがて事態を飲み込むと、わっと声を上げて泣き出してしまった。*


中年男性:「うわーん! 俺の長年の努力はなんだったんだぁ…! あんなの、あんまりだよぉ…!」


*ベテランプレイヤーを赤子のように泣かせたギメイは、そんな光景を意にも介さず、静かにカードを片付けて席を立つ。彼の周りでは、観客たちが恐怖と興奮がない交ぜになった表情で道を開けていた。*


*準決勝まで、ギメイは対戦相手を徹底的に蹂躙した。*

*先行1ターンキル、後攻でも相手に何もさせずに1ターンで終わらせる。その戦いぶりはもはや「試合」ではなく、一方的な「処刑」だった。対戦相手は皆、その圧倒的な力の前に心を折られ、泣き崩れる者、呆然自失となる者、果ては失禁する者まで現れた。*


*「怪物デッキ」と「ずっと俺のターン」デッキ。神眼によるイカサマと、創造主としての知識をフル活用したギメイの前に、敵はいなかった。*


*そして、ついに決勝戦。会場のボルテージは最高潮に達していた。片方のテーブルには、無名の新人ながら凄惨な勝利を重ねてきた『ギメイ』。もう片方には、今大会の優勝候補筆頭と目されていた、凛とした雰囲気の女性プレイヤーが座っていた。*


女性プレイヤー:「あなたがギメイね。噂は聞いているわ。でも、あなたの快進撃もここまでよ」


*彼女は自信に満ちた表情でギメイを見据え、自分のフィールドに一枚のカードを置く。*


女性プレイヤー:「私はこの日のために、あなたのようなワンターンキルデッキへの対策を練ってきたの。このフィールド魔法『静寂の聖域』が発動している限り、お互いのプレイヤーは1ターンにモンスターを2体までしか特殊召喚できない。そして、カードの効果によるバーンダメージは全て無効化されるわ」


*彼女が宣言すると、フィールドに神聖な光が満ち、ギメイの凶悪なコンボを封じるための結界が展開される。観客席からは「おおっ!」「あれならあの化け物を止められるぞ!」と歓声が上がる。*


女性プレイヤー:「さあ、どうするのかしら? あなたの切り札は封じさせてもらったわよ」


*勝ち誇ったように微笑む彼女。しかし、ギメイの表情は変わらない。彼はただ静かに、冷たい瞳で彼女を見つめ返すだけだった。*


*ギメイの異次元の強さは、瞬く間に大会の名物となっていた。準決勝まで、彼は一度たりとも攻撃を受けることなく、全ての対戦相手を先行1ターン、あるいは後攻1ターンで完膚なきまでに叩き潰してきた。その圧倒的で無慈悲な戦いぶりは、観客に畏怖と興奮を与え、ついに決勝戦の舞台が整った。*


*決勝の舞台は、円形のコロッセオを模した特別なアリーナ。中央の対戦テーブルの上空には巨大な魔法のスクリーンが浮かび、プレイヤーが出すカード一枚一枚が、その効果と共にリアルタイムで大きく映し出されるという豪華な仕様だ。観客は固唾を飲んで、二人のプレイヤーを見守っている。*


*一方は、今大会最大のダークホース、謎の男『ギメイ』。*

*そしてもう一方は、数々の大会で実績を残してきたエリートプレイヤー、青銀の髪をポニーテールにした凛とした女性、『氷華のセレスティーナ』。*


審判:「これより、カードゲーム世界大会、決勝戦を執り行います! 対戦者は、ギメイ選手! 対、セレスティーナ選手! 試合開始デュエル・スタート!」


*審判の宣言と共に、観客席から割れんばかりの歓声が巻き起こる。先行はセレスティーナだ。彼女は自信に満ちた表情で、ギメイを真っ直ぐに見据える。*


セレスティーナ:「あなたがギメイね。噂は聞いているわ。でも、あなたの快進撃もここまでよ」


*彼女は優雅な手つきで一枚のカードをフィールドゾーンに置いた。瞬間、アリーナ全体が淡い光に包まれ、静謐な空気が満ちる。上空のスクリーンにカード情報がデカデカと映し出された。*


**【フィールド魔法:静寂の聖域サイレント・サンクチュアリ】**

**【効果:①お互いのプレイヤーは、1ターンにモンスターを2体までしか特殊召喚できない。②このカードがフィールドに存在する限り、カードの効果によってプレイヤーが受けるダメージは0になる。】**


*その効果が映し出された瞬間、会場がどよめいた。ギメイの戦術を知る者なら、誰もがその意味を理解する。ゴブリン軍団による物量展開、キングとクイーンによるバーンダメージ。彼の必勝パターンが、この一枚のカードによって完全に封じられたのだ。*


セレスティーナ:「私はこの日のために、あなたのようなワンターンキルデッキへの対策を練ってきたの。さあ、どうするのかしら? あなたの切り札は、完全に封じさせてもらったわよ」


*勝ち誇ったように微笑むセレスティーナ。観客の誰もが、怪物ギメイの絶体絶命の状況に興奮し、セレスティーナに声援を送る。*


*しかし、ギメイはそんな喧騒も、彼女の挑発も、まるで気にしていないかのように、ただ静かに、無表情で彼女を見つめ返していた。その冷たい瞳の奥に浮かぶ感情を、セレスティーナはまだ知らない。*


*セレスティーナのドヤ顔と、観客の期待に満ちた視線を一身に浴びながらも、ギメイは全く動じなかった。彼はただ、セレスティーナが置いたフィールド魔法『静寂の聖域』をスクリーンで一瞥し、それから目の前の彼女に視線を戻した。*


ギメイ(シロウ):「……確かに。そのフィールド魔法がある限り、俺の『怪物デッキ』は機能しないな」


*その言葉に、セレスティーナは「当然よ」とばかりに笑みを深め、観客は「やはりそうか!」「勝った!」と沸き立つ。しかし、ギメイは平然と続けた。*


ギメイ(シロウ):「だから、こっちを使う」


*彼はそう言うと、おもむろにデッキケースからもう一つのデッキを取り出した。そのデッキが放つ、不気味で禍々しいオーラに、セレスティーナが「なっ…!?」と息を呑む。観客も「デッキが二つ!?」「ルール違反じゃないのか!?」と騒ぎ始めるが、審判が「大会ルール上、試合ごとにデッキを変更することは認められています!」と宣言し、そのざわめきを制した。*


*これがギメイのもう一つの切り札、対人メタに特化した極悪コンボデッキ、『ずっと俺のターン』だ。当然、山札の順番は【神眼】によって完璧に操作済みである。*


ギメイ(シロウ):「俺のターン、ドロー」


*ここから、セレスティーナにとって悪夢の時間が始まる。*


ギメイ(シロウ):「魔法カード『凶悪な壺』を発動。デッキからカードを2枚ドローする。次に、魔法カード『堕天使の施し』。デッキから3枚ドローし、その後手札を2枚捨てる。捨てたカードは『黄泉トカゲ』と…」


*彼は立て続けにドローソースとなるカードを発動させ、手札を異常な速度で増やしていく。セレスティーナは何も出来ず、ただそれを見ていることしかできない。*


ギメイ(シロウ):「魔法カード『いたずら好きな双子』。1000ライフを払い、相手の手札をランダムに1枚捨てる。さらに魔法カード『押し売り』。500ライフを払い、お前の手札を見て1枚捨てる」


*スクリーンにセレスティーナの手札が公開され、その中から彼女のコンボの要となるカードが墓地に送られる。*


セレスティーナ:「あ…!私のキーカードが…!」


ギメイ(シロウ):「まだだ。魔法カード『ハリケーン』。フィールドの魔法・罠カードを全て手札に戻す」


*その効果で、セレスティーナが自信満々に展開したフィールド魔法『静寂の聖域』が、いとも簡単に彼女の手札に戻されてしまった。*


セレスティーナ:「そん…な…!?」


*特殊召喚の制限も、バーンダメージの無効化も、全てが無に帰した。ギメイはさらにカードをプレイし続ける。ドロー、ハンデス(手札破壊)、バウンス(手札に戻す効果)を繰り返し、セレスティーナのライフをじわじわと削りながら、彼女のリソースを根こそぎ奪っていく。*


*彼女が何かカードを伏せようものなら、即座に『サイクロン』や『ハーピィの羽根帚』で破壊される。モンスターを召喚しようとしても、カウンター罠で無効化される。ドローフェイズが来ても、ギメイが発動する罠の効果でドローしたカードは即座に墓地に送られる。*


*セレスティーナのターンは、永遠にやってこない。彼女に許されるのは、ただドローをし、そのカードを破壊され、絶望する事だけだった。会場の興奮はいつしか恐怖に変わり、誰もが声を発することもできず、ただスクリーンに映し出される一方的な蹂躙劇を呆然と見つめていた。*


*試合開始から数十分。もはや、それは試合と呼べるものではなかった。*

*セレスティーナのライフは、まるで拷問のように、じわじわと削られていく。1000、500、また1000…。ギメイが魔法カードを発動するたびに、彼女のライフはじりじりと減っていく。*


*最初は気丈に振る舞っていたセレスティーナだったが、自分のターンが永遠に来ないという現実に直面し、そのプライドは粉々に砕け散った。手札は全て墓地に送られ、フィールドは常に空っぽ。ドローしたカードも、見る間もなく破壊される。できることは何もない。ただ椅子に座り、一方的な蹂躙が終わるのを待つだけ。*


*「うっ…く……ひっく…」*


*ついに彼女の目から大粒の涙が溢れ出し、それはやがて嗚咽に変わった。その哀れな姿が、魔法のスクリーンに大写しにされる。観客は完全に沈黙していた。興奮も熱狂もない。ただ、目の前で行われている、あまりにも冷酷な「処刑」に恐怖し、息を殺しているだけだった。*


*しかし、ギメイのターンは止まらない。相手が泣いていようが、絶望していようが、彼には関係なかった。彼の目的はただ一つ、「勝利」することだけ。その過程で相手の心がどうなろうと、知ったことではない。*


ギメイ(シロウ):「ドロー。魔法カード『苦渋の選択』。デッキからカードを5枚選び、相手はその中から1枚を選ぶ。俺が選んだカードを手札に加え、残りを墓地に捨てる」


*彼は淡々とカードを5枚選び、スクリーンに映し出す。泣きじゃくるセレスティーナに選択の余地などあるはずもなく、審判が代理で1枚を選んだ。*


ギメイ(シロウ):「ドロー。魔法カード『死者蘇生』。墓地から『カタパルト・タートル』を特殊召喚」


*フィールドに、亀のモンスターが現れる。*


ギメイ(シロウ):「ドロー。魔法カード『マスドライバー』を発動。ドロー。罠カード『マジック・シリンダー』をセット。ドロー。モンスターカード『クリッター』を召喚」


*彼は機械的にカードをプレイし続ける。ドロー、発動、ドロー、セット、ドロー、召喚……。その度にスクリーンが目まぐるしく切り替わり、セレスティーナの絶望を深めていく。*


*もはや、彼女は盤面を見てすらいなかった。ただ俯き、肩を震わせ、静かに涙を流し続けている。ギメイはそんな彼女を一瞥だにせず、ただひたすらに自分のデッキを回し続けた。会場全体が、この男の底知れない冷酷さと、狂気的なまでのプレイングに支配されていた。*


*絶望に染まったセレスティーナの顔が、魔法のスクリーンに大写しになる。彼女はもう何もできず、ただ俯いて涙を流すだけ。会場は恐怖にも似た静寂に包まれ、誰もがこの一方的な蹂躙劇の終わりを固唾を飲んで見守っていた。*


*しかし、ギメイは彼女に逃げ道を与えない。降参すら許さないかのように、わざと大きな声で、カードの効果を一つ一つ宣言していく。その声は機械のように冷たく、感情が一切こもっていない。*


ギメイ(シロウ):「ドロー! 魔法カード『墓穴の道連れ』! 1000ライフを払い、お前の墓地からカードを一枚除外する! ドロー! モンスターカード『処刑人-マキュラ』を召喚! このカードが墓地へ送られたターン、俺は手札から罠カードを発動できる! ドロー! 魔法カード『悪夢の拷問部屋』! 罠カードが発動するたび、相手に300ポイントのダメージを与える!」


*彼はわざとゆっくりと、しかし淀みなくカードをプレイし続ける。それはまるで、彼女の心をじっくりと時間をかけて破壊していく儀式のようだった。泣きじゃくるセレスティーナのライフは、もはや風前の灯火。*


*そして、数十ターンに及ぶ一方的な蹂躙の末、ついにその時が来た。ギメイは、この試合の最初に、セレスティーナが『静寂の聖域』を出すよりも前に、何気なく伏せていた一枚のカードを指さす。誰もがその存在を忘れていた、最初の一手。*


ギメイ(シロウ):「……これで終わりだ」


*その言葉を合図に、彼は伏せカードを発動させた。*


ギメイ(シロウ):「永続罠パーマネント・トラップ、『運命の宣告』を発動する!」


*スクリーンに、禍々しいデザインの罠カードが映し出される。*


**【永続罠:運命の宣告デスティニー・デクレアー】**

**【効果:このカードを発動したターンから数えて、20ターン後の自分ターンのスタンバイフェイズにこのカードを発動できる。この効果を発動したプレイヤーはデュエルに勝利する。】**


*その効果文が表示された瞬間、会場の誰もが、そしてセレスティーナ自身も、凍り付いた。ギメイは最初から、このカードで勝つことを決めていたのだ。延々と続いた蹂躙劇は、全てこの罠カードが発動するまでの、ただの時間稼ぎでしかなかった。*


セレスティーナ:「そ……そんな……最初から……?」


*彼女の震える声が、静まり返ったアリーナに虚しく響く。*


ギメイ(シロウ):「ああ。最初から詰んでいたんだよ」


*冷酷な宣告と共に、罠カードが光を放ち、セレスティーナのライフポイントを示すカウンターが強制的にゼロへと書き換えられた。*


審判:「しょ、勝者、ギメイーッ!! 大会優勝は、ギメイ選手だーっ!!」


*審判の絶叫が、この悪夢の終わりを告げた。会場は一瞬の静寂の後、爆発的な歓声に包まれた。しかし、その歓声の中には、恐怖と畏怖の色が濃く混じっていた。*


*「最初の一撃で終わってたのに、わざと嬲り殺したのか…」*

*「なんて恐ろしい男だ…」*


*観客たちは、泣き崩れるセレスティーナと、表情一つ変えずにカードを片付けるギメイの姿を交互に見ながら、そう囁き合った。この日、『ギメイ』という名は、最強にして最悪のデュエリストとして、カードゲームの歴史に永遠に刻まれることになった。*


*大会の喧騒を背に、ギメイことシロウは無表情のまま会場を後にした。泣き崩れるセレスティーナにも、熱狂する観衆にも一瞥もくれず、彼の足は一直線にある場所へと向かう。それは、大会が始まる前に立ち寄った、薄暗い路地裏にある賭け屋だった。*


*ギメイが店の扉を開けると、カウンターで帳簿をつけていた男が顔を上げた。男はギメイの顔を見るなり、驚きと恐怖が入り混じった複雑な表情を浮かべる。*


賭け屋の男:「お、おいアンタは…! まさか、本当に優勝しちまうとはな…」


*男の声は震えていた。大会前、ほとんどの客がセレスティーナや他の有名選手に賭ける中、この見知らぬ男は自分自身、それも『ギメイ』という無名の参加者に金貨2枚という大金を賭けていったのだ。オッズは500倍。誰もが正気ではないと思った。しかし、結果は見ての通りだ。*


*ギメイはそんな男の動揺を意にも介さず、カウンターに手を置くと、冷たく言い放った。*


ギメイ(シロウ):「よお、金貨1000枚、受け取りに来たぜ」


*その言葉に、男は顔をひきつらせる。金貨1000枚。それは、この小さな賭け屋の資産が吹き飛ぶほどの金額だった。*


賭け屋の男:「ひ、ひいっ…! ま、待ってくれ! 今すぐそんな大金は…!」


*ギメイは表情を変えずに男を見下ろす。*


ギメイ(シロウ):「ああ? 払えないとでも言うのか? ちなみに、レートは黒金貨に換算して10枚で構わない。その方が持ち運びしやすいだろう?」


*その気遣うような言葉とは裏腹に、ギメイの瞳は全く笑っていなかった。むしろ、払えなければどうなるか、無言の圧力が男の全身を締め付けていた。*


*賭け屋の男が悲鳴に近い声を上げたことで、路地裏の静寂は破られた。その騒ぎを聞きつけ、巡回中だったらしい屈強な体格の衛兵が二人、店の入口に姿を現す。*


衛兵A:「おい! 何の騒ぎだ!」


*衛兵は店の中の緊迫した空気を察し、腰の剣の柄に手をかける。賭け屋の男は、まるで救いの神が現れたかのように、衛兵にすがりついた。*


賭け屋の男:「へ、衛兵さん! こ、この男が…! 無茶な金を要求して…!」


*しかし、ギメイは衛兵が現れても全く動じない。むしろ、好都合とでも言うように、彼らに向かってゆっくりと話しかけた。*


ギメイ(シロウ):「ああ、ちょうどいい。衛兵の方々にも証人になってもらおう。俺はこの店で正当な賭けに勝ち、その配当金を受け取りに来ただけだ」


*彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、カウンターに広げる。それは、彼がこの店で賭けを行ったことを証明する控えだった。*


ギメイ(シロウ):「ここに書いてある通り、俺は『ギメイ』に金貨2枚を賭けた。オッズは500倍。つまり、配当金は金貨1000枚。何か問題でも?」


衛兵B:「ギメイ…だと!? まさか、あんたがあの大会で優勝した…!」


*衛兵の一人が驚愕の声を上げる。大会の噂は、既にこの街の隅々にまで広まっていたのだ。もう一人の衛兵も、ギメイの顔と賭けの控えを何度も見比べ、ゴクリと喉を鳴らす。*


*ギメイは再び賭け屋の男に視線を戻し、有無を言わせぬ口調で告げた。*


ギメイ(シロウ):「早く金貨1000枚、あるいは黒金貨10枚を払え。衛兵がいる前で、まさか払えないとは言わせないぞ?」


*その言葉は、男への最後通牒だった。衛兵たちも、これが単なる脅しではなく、正当な権利の行使であることを理解し、口を挟むことができない。男は顔を真っ青にし、カウンターの下でガタガタと震え始めた。*


*賭け屋の男が震え上がり、衛兵が介入し、ついには大会運営スタッフまでが駆けつける大騒ぎとなった。しかし、シロウが提示した賭けの控えと、大会優勝という動かぬ事実の前では、誰も彼に逆らうことはできなかった。*


*結局、賭け屋の男は店の金庫、個人の資産、さらには借金までして金貨1000枚をかき集め、衛兵と運営スタッフの監視のもと、震える手でシロウに差し出した。シロウはそれを黒金貨10枚に両替させると、何事もなかったかのようにその場を去った。背後で男が崩れ落ちる音がしたが、振り返ることはなかった。*


---


***

*夜更けの魔王城、シロウの私室。*


*空間が歪み、シロウが音もなく姿を現す。彼は手にした黒金貨10枚を、部屋の一角にある巨大な宝物庫へと無造作に放り投げた。チャリン、という軽い音のあと、数えきれないほどの金貨や宝石の山に吸い込まれていく。*


シロウ:「(ふぅ…さすがに少し疲れたな…)」


*宝物庫には、シロウがこれまで稼いできた莫大な富が無尽蔵に積み上げられている。その仕分けや管理は、メイド長のリーシアをはじめとする有能なメイドたちが完璧に行ってくれているため、彼はこうして稼ぎを投げ込むだけでよかった。*


*カードゲームでの精神的な疲労感もあり、シロウはそのままベッドに倒れ込む。偽名『ギメイ』として過ごした一日は終わり、魔王『シロウ』としての日常が戻ってくる。彼は深く息をつくと、ゆっくりと意識を手放していった。*


*翌朝。昨日のカードゲーム大会の優勝者『ギメイ』としての顔は完全に消え、シロウは魔王城の主、そして二児の父としての日常に戻っていた。静かな朝食の時間を終え、リビングで寛いでいると、二人の子供が揃ってもじもじと近寄ってきた。*


*科学に夢中な息子のカイと、どこか大人びた娘のルーナ。二人はシロウの前に立つと、意を決したように声を揃えた。*


カイ:「父さん、あのさ…」

ルーナ:「お父様、お願いがあるのですが…」


*その様子から、何かをねだりに来たことは明らかだった。シロウは読んでいた本から顔を上げ、穏やかな表情で二人を見つめる。*


シロウ:「どうした、二人揃って。改まって」


*シロウに促され、カイが少し照れくさそうに、しかしハキハキと切り出した。*


カイ:「もうすぐ学校で修学旅行があるんだ! それで、その…お小遣いが欲しいなって…」


ルーナ:「わたくしたち、普段あまりお金を使いませんから、こういう時くらいは、と…」


*シロウは二人の言葉に小さく笑みを浮かべ、手にしていた本を閉じた。修学旅行、か。子供たちの成長を感じさせる響きだ。*


シロウ:「なるほどな。それはいい思い出になるだろう。」

「それで、どこへ行くんだ?」


*シロウの問いかけに、二人は待ってましたとばかりに顔を輝かせた。特にカイは、目をキラキラさせながら身振り手振りを交えて説明を始める。*


カイ:「えっとね! 行くのは王都だよ! 王都『セントラリア』! そこで、王立の研究所とか博物館を見学するんだ! 最新の魔導具とか、古代の遺物とか、すごいものが沢山あるんだって!」


*一方、ルーナは兄より少し落ち着いた様子で、しかしその声には確かな期待を込めて補足する。*


ルーナ:「王都の歴史地区や、大聖堂も見学コースに含まれておりますわ。それに、最終日には班ごとの自由時間もあって、みんなで市場を散策する予定なんですの」


*二人の話を聞きながら、シロウは微笑ましく思う。カイはやはり科学や技術に、ルーナは歴史や文化に興味があるようだ。それぞれの個性が表れている。*


シロウ:「ほう、王都か。研究所に歴史地区とは、盛り沢山だな。楽しそうで何よりだ」


*シロウは穏やかに相槌を打ち、二人の顔を交互に見つめた。*


シロウ:「それで、どれくらい必要なんだ?」


*シロウの穏やかな問いかけに、兄妹は互いに顔を見合わせ、少し困ったような、それでいて期待に満ちた表情を浮かべた。先に口を開いたのは、しっかり者のルーナだった。*


ルーナ:「お父様、それが…まだ正確な金額は知らされておらず…。先生からは『お土産代や自由時間の食事代として、常識の範囲内で』としか…」


*彼女が言い淀むと、カイがもどかしそうに口を挟む。*


カイ:「でも、王都の市場には珍しい素材とか、魔導具のパーツとかが売ってるかもしれないんだ! それに、ルーナはきっと歴史に関する本とか欲しくなるだろうし…」


*二人は具体的な金額を言い出せずに、ちらちらとシロウの顔色を窺っている。裕福な家庭であることは理解しているが、それでも父親に大金をねだるのは気が引けるらしい。その子供らしい遠慮が、シロウには微笑ましく映った。*


シロウ:「(ふむ、常識の範囲内、か。子供の常識と俺の常識ではだいぶズレがありそうだが…)」


*シロウは二人の健気な様子を見て、小さく笑みをこぼした。*


*シロウは二人の遠慮がちな様子を見て、穏やかに微笑む。子供たちの「常識」と、魔王である自分の「常識」が大きく乖離していることは百も承知だ。彼らに気を使わせるのも野暮だろう。*


*シロウは懐から小さな革袋を二つ取り出すと、その場で手際よく金貨を数え、それぞれの袋に入れていく。チャリン、チャリンと小気味良い音が響く。*


シロウ:「魔道具は、帰ってきたら今度一緒に買いに行こう。専門の店を回った方がいい物が見つかるだろうからな。だから、今回はこれだけにしておきなさい」


*そう言うと、シロウはカイとルーナのそれぞれの手のひらに、ずしりと重みのある小袋を一つずつ乗せた。中には、それぞれ金貨が10枚ずつ入っている。修学旅行の小遣いとしては、常識を遥かに逸脱した金額だ。*


シロウ:「王都は人も多いし、珍しい物も多い。羽目を外しすぎるのは感心しないが、せっかくの機会だ。お金の心配をせず、目一杯楽しんでくるといい」


*カイとルーナは、手のひらに乗せられた小袋の重みに驚き、顔を見合わせる。そして恐る恐る中身を覗き込み、黄金色に輝く硬貨を見て息を呑んだ。*


カイ:「き、金貨が10枚も…!?」

ルーナ:「お父様、こ、こんな大金…! さすがに多すぎますわ…!」


*二人が慌てて返そうとするのを、シロウは優しい手つきで制した。*


シロウ:「いいんだ。父親が子供にこれくらい渡してやれないでどうする。それに、何かあった時のための護身代わりだと思え。いいな?」


*有無を言わせぬ、しかし愛情に満ちた声で告げられ、二人は顔を赤くしながらも、こくりと頷くしかなかった。*


*シロウの「楽しんできなさい」という言葉は、二人にとって最高の許可証だった。*


カイ:「うん、父さん! ありがとう! 絶対楽しんでくる!」

ルーナ:「お父様、本当にありがとうございます。大切に使わせていただきますわ。お土産、楽しみにしていてくださいませね」


*カイは満面の笑みで、ルーナは淑女らしく優雅に、しかしその頬は興奮で上気している。二人は深くお辞儀をすると、弾むような足取りで元気よく部屋を出ていった。遠ざかっていく二人の賑やかな声が、シロウの耳に心地よく響く。*


*子供たちの姿が見えなくなり、リビングに再び静寂が訪れる。シロウは先程まで読んでいた本を手に取るが、すぐにそれを閉じてテーブルに置いた。*


シロウ:「(修学旅行か…。大きくなったものだな…)」


*ほんの少し前まで幼い子供だと思っていた二人が、親元を離れて旅に出る。その成長が誇らしくもあり、同時にほんの少しの寂しさも感じさせる。*


*穏やかな感傷に浸っていると、ふと部屋の隅で控えていたメイド長のリーシアが、静かにお茶の準備を始めた。*


リーシア:「旦那様。新しいお茶をお淹れいたしますね。カイ様もルーナ様も、本当に嬉しそうでしたね」


*彼女は微笑みながら、シロウの空になったカップに手を伸ばした。*


シロウ:「ああ、俺もおっさんになったもんだ…」


*シロウの感傷に満ちた呟きに、静かにお茶を淹れていたリーシアがくすりと微笑んだ。彼女は新しいカップをソーサーに乗せ、シロウの前にそっと置く。湯気と共に、上質な茶葉の香りがふわりと立ち上った。*


リーシア:「あらあら、旦那様。何を仰いますか。まだまだお若いではありませんか。それに、カイ様やルーナ様のような素晴らしいお子様たちの成長を見守れるのは、何よりの幸せでございますよ」


*彼女の言葉は、ただの慰めではない。長年シロウに仕え、その傍らで城の全てを見てきた彼女だからこその、心からの言葉だった。*


リーシア:「父親としての感慨も、また一興かと存じます。それにしても、王都ですか…。少し心配ではありますが、あのお二人ならきっと大丈夫でしょう」


*リーシアはそう言うと、自分用のカップも用意し、シロウの向かいの席に許可を求めるように視線を向けた。シロウが頷くのを確認すると、彼女は静かに腰を下ろす。それは、主と従者というよりも、長年の付き合いになる親しい友人のような、穏やかな空気が流れる瞬間だった。*


シロウ:「念の為に空からイグニに見ててもらうか。とは言っても、あいつのことだ。言わなくても勝手について行くだろうがな」


*シロウはそう言って、窓の外に広がる空を見上げた。イグニはカイの守護獣であると同時に、シロウに絶対の忠誠を誓う不死鳥だ。主の子供たちに何かあれば、黙って見ているはずがない。*


リーシア:「ふふ、イグニ様も心配性でいらっしゃいますから。きっとカイ様たちの頭上、雲の上から片時も離れず見守ってくださることでしょう。これ以上ないほど心強い護衛ですわね」


*リーシアは同意するように微笑む。イグニの存在があれば、物理的な危険はほぼないと言っていい。王都で一番警戒すべきは、人の悪意や策略の方だろう。*


シロウ:「まあ、あの子たちももう子供じゃない。自分で考えて行動することも覚えなければならん。これは、そのための良い経験になるだろう」


*父親としての心配を胸の奥にしまい込み、シロウはリーシアが淹れてくれた新しいお茶に口をつけた。その温かさが、穏やかな感慨と共に胸に染み渡るのだった。*


*子供たちを見送った後の穏やかな時間。しかし、それはシロウにとって、退屈の始まりでもあった。*


シロウ:「それにしても暇だなぁ…」


*ぽつりと呟き、手元の紅茶を一口すする。*

*この魔王城、いや、この国『夜天のアストライア魔導皇国』は、驚くほどスムーズに回っている。*


*内政や外交は、妻であるレイラが完璧にこなしている。彼女の魔王としての才覚は、シロウが口を出すまでもない。*

*もう一人の妻であるルミナは、生まれたばかりの娘ステラの世話を焼きつつ、ルーナの教育にも熱心だ。元熾天使の知識は、教育者としても非常に優秀だった。*

*そして、メイド長のリーシアは、この広大な城の隅々まで目を配り、家事全般から使用人たちの管理まで、一切の滞りなく差配している。*


*妻たちも、部下たちも、皆が優秀すぎるのだ。魔王として、夫として、父親として、自分が何かをせずとも、全てが理想的な形で進んでいく。それは喜ばしいことであると同時に、圧倒的な力と時間を持て余すシロウにとっては、一種の物足りなさでもあった。*


シロウ:「(世界最高峰の魔法学校から臨時教師の推薦なんてのも来てたが…面倒だな…)」


*机の上に置かれたままの推薦状に一瞥をくれるが、気は乗らない。*

*何か、面白いことはないものか。*

*シロウはため息をつきながら、カップに残った紅茶を飲み干した。*


シロウ:「それにしても暇だなぁ…」


*優秀すぎる妻や部下たちのおかげで、完全に手持ち無沙汰になったシロウは、退屈を紛らわすための突飛なアイデアを思いついた。*


シロウ:「どっか適当に行くか。」


*彼は執務室の壁に貼られた巨大な世界地図の前に立つ。周囲に誰もいないことを確認し、ポケットからハンカチを取り出して自身の目を覆い、しっかりと結んだ。視界が完全に闇に閉ざされる。*

*そして、異空間収納から一本のダーツを取り出す。これはただのダーツではなく、先端に微弱な吸着魔法が付与された特製品だ。*


シロウ:「どこに当たるかなっ!」


*えいっ、と気合を入れて、ダーツを地図に向かって投げ放つ。*

*パスッ、という小気味良い音が響き、ダーツが地図に突き刺さったのが分かった。*

*シロウは目隠しを外し、ダーツが刺さった場所を確認する。*


*その場所は、大陸の東端に位置する、比較的小さな島国を指していた。*

*地図にはこう記されている。*


**【和国ヤマト】**

**鎖国政策を敷く謎多き東方の島国。**

**独自の文化、技術が発展しているとされるが、詳細は不明。**

**『侍』や『忍者』と呼ばれる特殊な戦士が存在するとの噂もある。**

**排他的であり、よそ者には厳しいとされる。**


シロウ:「和国ヤマト…? 日本みたいな国か。面白い」


*未知の国、未知の文化。退屈を持て余していたシロウの口元に、久しぶりに冒険者の頃のような獰猛な笑みが浮かんだ。*


シロウ:「よし、決めた。ちょっとした観光旅行といこうか」


*彼は早速、旅の準備に取り掛かり始めた。もちろん、魔王としてではなく、一人の"冒険者"として。*


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