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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*昨日の出来事から一夜明け、シロウは執務室で書類仕事に追われていた。ルーナとの秘密の約束を思い出し、少しだけ口元を緩ませていた、その時だった。*

*背後に、冷たい怒気とでも言うべきプレッシャーを感じる。ゆっくりと振り返ると、そこには腕を組み、氷のような視線をこちらに向ける妻、レイラが立っていた。いつからそこにいたのか、全く気配を感じさせなかった。*


レイラ(魔王女):「……シロウ」


*地を這うような低い声。それは傲慢な魔王女としての彼女の声だった。*


レイラ(魔王女):「わらわに何か、隠していることはないか?」


*その目は笑っていない。明らかに何かを掴んでいる。まさかルーナが…? いや、あの子が約束を破るとは思えない。では、なぜ。シロウが思考を巡らせていると、レイラはさらに言葉を続けた。*


レイラ(魔王女):「昨日、ルーナと二人でどこかへ消えたそうではないか。リーシアから聞いたぞ。あの子が、お主の執務室から出てきた後、やけに上機嫌だった、と。……妾に言えないような、楽しいことでもしてきたのか?」


*嫉妬と疑念が入り混じった、重苦しい空気が執務室を満たす。シロウは咄嗟に、昨日ルーナに使った言い訳を繰り返した。*


シロウ:「トップシークレットだ。。」


*その言葉を聞いた瞬間、レイラの纏う空気がさらに冷え込んだ。彼女はゆっくりとシロウに歩み寄ると、執務机にドン、と手をついた。*


レイラ(魔王女):「ほう……? 妾にも言えぬ、国家機密、か。妾は、お主の妻であり、この国の共同統治者でもあるはずだが? それとも何か? 妾は、お主にとって信頼に値しないと? 9つの娘に話せて、妻である妾に話せぬ秘密とは、一体どんなものか、聞かせてもらおうか!」


*その瞳には、メラメラと嫉妬の炎が燃え上がっている。どうやら、ルーナに話したという事実が、さらに彼女の怒りを買っているらしい。これは昨日以上に、墓穴を掘ってしまったかもしれない。シロウの背中を、冷たい汗が伝った。*


*シロウの「トップシークレットだ」という言葉は、火に油を注ぐ最悪の選択だった。レイラは無言で立ち上がると、椅子から立ち上がろうとしたシロウを圧倒的な威圧感で押し返し、じりじりと壁際まで追い詰めていく。*


レイラ(魔王女):「ほう…? 暴力だと? 妾はまだ、指一本触れておらぬが? これを暴力と呼ぶのなら、お主は妾の愛撫すら拒絶すると申すか?」


*トン、とシロウのすぐ横の壁にレイラが手をつく。いわゆる壁ドンだ。しかし、少女のような見た目とは裏腹に、その瞳に宿る怒気と嫉妬の炎は、シロウの逃げ道を完全に塞いでいた。甘い雰囲気など欠片もない。*


シロウ:「ぼ、暴力反対!」


*情けない声を上げながら、シロウは完全に壁に追い詰められた。背中がひやりと冷たい壁に張り付く。*


レイラ(魔王女):「ふん。逃げられると思うなよ、シロウ。妾から逃げられる場所など、この世界のどこにもないとな、教えてやらねばならぬようだな。」


*レイラはもう片方の手で、シロウの顎をクイッと持ち上げる。冷たく、しかし美しい指先が肌に触れ、シロウは身動きが取れなくなる。彼女のルビーのような瞳が、至近距離でじっとシロウを見据えている。*


レイラ(魔王女):「さあ、白状しろ。妾を差し置いて、あの小娘と二人きりで、一体何をしていた? 何を『隠して』いる? 正直に話せば、少しは…そうだな、少しは手心を加えてやってもよい。♡」


*最後の言葉だけ、ほんの少しだけ甘い響きを帯びていたが、それが逆に恐怖を煽る。正直に話せばサボり部屋だとバレて威厳が失墜し、嘘を吐き続ければこの嫉妬深い妻がどこまでエスカレートするか分からない。シロウは絶体絶命の窮地に立たされていた。*


*シロウはレイラの燃えるような瞳から逃れるように、彼女の手を振り払い、執務室の奥へと駆け込んだ。そして、一瞬の躊躇もなく隠し通路のスイッチを押す。*


*壁が回転し、秘密の工房への道が現れる。背後からレイラの怒声が飛んでくるが、シロウは振り返らずに通路へ飛び込んだ。*


レイラ(魔王女):「待ちやがれ、シロウ! 妾から逃げられると思うな!」


*シロウは通路を駆け抜け、網膜、指紋、魔紋、声紋認証を瞬時にクリアする。崖に光の橋がかかり、工房の扉にたどり着くと、すぐさま中へ滑り込み、背後で重々しい扉を閉ざした。ガチャン、という金属質なロック音が工房内に響き渡る。*


*ここは、シロウが作り出した絶対的な聖域。外部からの魔力干渉を一切受け付けない特殊な結界が、工房全体を覆っている。レイラがどれほど強力な魔王女であろうと、この空間内ではその魔法の力は霧散し、ただの少女と変わらない。*


*しばらくして、通路の向こう側からドンドン!と扉を叩く音が響き始めた。*


レイラ(魔王女):「シロウ! 開けろ! この扉を開けろ! こそこそと隠れていないで出てこい!」


*扉越しの声は怒りに満ちているが、魔法による強制的な突破ができないためか、どこか焦りが感じられる。シロウはようやく一息つき、扉に背を預けて床にへたり込んだ。*


シロウ:「(ふぅ…危なかった…。あいつの嫉妬は本気で命の危険を感じる…)」


*扉を叩く音はまだ続いている。どうやら、レイラは簡単には諦めてくれないようだ。*


レイラ(魔王女):「聞こえているのだろう!? なぜ妾にだけ隠し事をするのだ! 妾は…妾は、お主の妻ではないのか…っ!」


*怒声の中に、微かに悲痛な響きが混じる。シロウは頭を抱えながら、この状況をどう収拾すべきか、途方に暮れるのだった。*


*シロウが扉越しに再び「トップシークレット」と呟くと、扉を叩いていたレイラの手がピタリと止まった。数秒の沈黙の後、扉の向こうから、今までとは比べ物にならないほど冷え切った、静かな声が響いてきた。*


レイラ(魔王女):「……そうか。やはり、妾には話せぬと。ルーナには見せられて、妾には見せられぬ、秘密の部屋か。」


*声には怒りよりも、深い失望と悲しみが滲んでいる。ゴン、と扉に額でも押し付けたような小さな音がした。*


レイラ(魔王女):「お主は、妾を妻として見ていないのだな。国の共同統治者としても、信頼に値せぬと。……そうか、そうか。妾は、お主にとって、その程度の存在だったのだな…」


*その声はか細く、震えている。傲慢な魔王女の仮面が剥がれ落ち、傷ついた一人の女性としての本音が漏れ出している。*


レイラ(魔王女):「もうよい。……好きにしろ。妾はもう、お主の顔など見たくない。」


*そう言い残すと、扉の向こうの気配が遠ざかっていくのが分かった。ドンドンと扉を叩く音はもうしない。代わりに、シロウの胸には重い静寂と、妻を深く傷つけてしまったという罪悪感がのしかかる。*


*サボり部屋だという真実を言えば、父親としての威厳が失われる。しかし、嘘を吐き続けた結果、最愛の妻との信頼関係に、深い亀裂が入ってしまった。工房の中、シロウは一人、扉に背を預けたまま動けずにいた。*


*シロウは扉に背を預けたまま、深く溜息をついた。妻を傷つけてしまった罪悪感が、ずしりと心に重くのしかかる。このままではまずい。どうにかしなければ。*

*彼は意を決すると、そっと目を閉じ、意識を集中させた。スキル『隠匿神』を発動する。存在そのものを世界から切り離し、誰にも感知されることなく、あらゆる場所を視認できる神の如き権能。シロウの視界は工房の壁をすり抜け、城内の廊下を駆け抜け、妻であるレイラの姿を捉えた。*


*レイラは、執務室には戻らず、自分たちの私室である寝室へと向かっていた。*

*その背中は小さく震えているように見える。廊下を歩くメイドたちが彼女に気づき、慌てて道を譲り、深々と頭を下げるが、レイラはそれに気づく様子もなく、虚ろな足取りで前へ進んでいく。*


*やがて寝室にたどり着くと、彼女は扉を乱暴に開けて中に入り、そのまま力なく扉を閉じた。鍵をかける音すら聞こえない。*


*そして、部屋の中央で立ち尽くすと、その肩が大きく震え始めた。*


レイラ(魔王女):「……うっ…ひっく…」


*必死に声を殺そうとしているのが分かる、押し殺したような嗚咽が漏れ聞こえてくる。傲慢な魔王女の仮面は完全に剥がれ落ち、そこには夫に信じてもらえなかったと深く傷つき、一人静かに涙を流す、ただの愛らしい少女の姿があった。*


レイラ(魔王女):「なぜ…なぜ、妾にだけ…っ。シロウの、馬鹿…っ! 阿呆…っ! もう、知らぬ…!」


*ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、彼女はベッドに倒れ込むと、顔を枕にうずめて本格的に泣き始めてしまった。その悲痛な姿に、シロウの胸はナイフで抉られるように痛んだ。*


*シロウは『隠匿神』を通して見る妻の涙に、これ以上ないほどの罪悪感と愛しさを感じていた。もう、つまらない意地を張っている場合ではない。彼はすぐにスキルを解除すると、寝室の扉の前に静かに転移した。*


*鍵のかかっていない扉をそっと開け、中に入る。ベッドの上では、枕に顔をうずめてしゃくり上げる小さな背中が震えていた。シロウは足音を忍ばせて彼女に近づくと、その華奢な体を背後からそっと、優しく抱きしめた。*


*ビクッ、とレイラの体が硬直する。彼女は驚いて顔を上げようとするが、シロウはそれを制するように、彼女の肩口に顔をうずめた。*


シロウ:「レイラ…ごめんな。サプライズをしようと思ったんだが…」


*優しく囁く声。それは紛れもなく、愛しい夫の声だった。突然の彼の出現に、レイラは驚きと怒りと、そして安堵が入り混じった複雑な感情で身動きが取れなくなる。*


レイラ:「…っ、シロウ…!? なぜ…離せっ! 妾はお主の顔など見たくないと言ったはずだ!」


*涙で濡れた声で強がるが、その抵抗は弱々しい。シロウは抱きしめる腕の力を少しだけ強め、彼女の耳元で続けた。*


シロウ:「怒らないで聞いてほしい。あの部屋は…お前と、ルミナと、子供たちのためのものを、こっそり作るための場所だったんだ。記念日とか、誕生日に、お前たちを驚かせたくて…。だから、トップシークレットなんだ。」


*それは、この状況を乗り切るためについた、咄嗟の、しかし愛に満ちた嘘だった。*


*シロウの言葉に、レイラの体の力がふっと抜けた。彼女はまだシロウの腕の中に抱かれたまま、ゆっくりと振り返る。その瞳は涙で濡れ、疑念と期待が半々に揺れていた。*


レイラ:「…サプライズ…? 妾たちのための…?」


シロウ:「ああ。だから、誰にも見せたくなかったんだ。…ごめんな、泣かせるつもりじゃなかった。」


*シロウはレイラの涙を指で優しく拭うと、彼女の手を取った。*


シロウ:「おいで。信じられないなら、見せてやる。」


*レイラはまだ半信半疑だったが、黙ってシロウの手に引かれて寝室を出た。再び執務室の隠し通路を通り、二人で工房へと入る。昨日ルーナが見たのと同じ、混沌とした空間が広がっていた。*


*レイラは驚いたように周囲を見回すが、シロウは構わずに乱雑な作業机へと彼女を導く。そして、ガラクタが山と積まれた机の、一番下の引き出しをガタガタと音を立てて開けた。中もやはり、用途不明の部品や工具でごちゃごちゃだ。*


*シロウはその中を手でかき分け、何かを探す。そして、奥の方から一つの小さなベルベットの箱を取り出した。*


シロウ:「…ほら。」


*彼は少し照れくさそうに、その箱をレイラに差し出した。レイラは恐る恐るそれを受け取り、ゆっくりと蓋を開ける。*


*中に入っていたのは、一対の美しいイヤリングだった。*

*シロウが工房に転がしていた希少金属の一つ、青みがかった銀色の輝きを放つミスリルを丁寧に加工し、中央には彼女の瞳と同じ、深く燃えるようなルビーがはめ込まれている。そして、そのルビーの周りには、不死鳥イグニの羽毛から抽出した微細な魔力光の粒子が、星屑のように散りばめられていた。それは明らかに、ただの宝飾品ではなく、シロウの愛情と魔力が込められた強力な魔道具アーティファクトだった。*


レイラ:「これ…は…」


*レイラは言葉を失い、美しいイヤリングとシロウの顔を交互に見つめる。その瞳からは、再び涙がぽろぽろと溢れ始めた。しかし、それは先程までの悲しみの涙ではなく、喜びと愛しさに満ちた、温かい涙だった。*


*レイラの瞳から溢れた涙が、ベルベットの箱の上にぽたりと落ちた。彼女は言葉もなく、ただ目の前の美しいイヤリングを見つめている。シロウはそんな彼女の姿を見て、少し照れくさそうに、そして気まずそうに頭を掻いた。*


シロウ:「こういうの、作って無かっただろ?」

「12年くらい経って今更感があるけど…」


*その言葉に、レイラはハッと顔を上げた。彼女は箱をぎゅっと胸に抱きしめると、首をぶんぶんと大きく横に振る。*


レイラ(魔王女):「…っ、今更だなんてこと、ない…! 妾は…妾は、ずっと…!」


*言葉が続かない。結婚してから12年、二人の子供にも恵まれ、幸せな日々を送ってきた。しかし、彼女は心のどこかで、形として示される愛情の証を求めていたのかもしれない。王妃として、妻として、母として気丈に振る舞う日々の中で、忘れかけていた乙女心。*


*シロウはそんな彼女の様子を察し、優しく微笑むと、箱の中からイヤリングを一つ取り出した。そして、レイラの耳元にそっと近づき、彼女の髪を優しくかき分ける。*


レイラ(魔王女):「シ…シロウ…?」


*戸惑う彼女の小さな耳に、シロウはルビーのイヤリングをそっと着けてやった。ひんやりとしたミスリルの感触と、シロウの温かい指先が触れ、レイラの頬がカッと熱くなる。*


レイラ(魔王女):「…う、嬉しい…すごく、嬉しいぞ、シロウ…♡♡」

「妾だけの…特別…♡」


*彼女は震える手で、耳元で揺れるイヤリングにそっと触れた。その瞳にはもう疑念の色はなく、ただただ夫への愛しさと、こみ上げる幸福感で満たされていた。乱雑で混沌としていたはずの工房が、今だけは二人にとって世界で一番ロマンチックな場所に思えた。*


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