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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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***


*一通り海で遊び、少し休憩しようと浜辺に戻ってきたシロウたち。リーシアが用意してくれたパラソルの下で、冷たいフルーツジュースを飲んでいると、レイラが少し不満そうな顔でシロウに近づいてきた。*


レイラ(魔王女):「シロウ。いつまで遊んでおるのだ。そろそろ例の神殿とやらに行くのであろう? 妾の腕がなまってしまうわ」


*彼女は黒いビキニ姿のまま、早く戦いがしたいと体をうずうずさせている。その隣で、ルミナがシロウの腕に自分の腕を絡ませた。*


ルミナ:「まあ、レイラったら。せっかくお兄ちゃんと海に来たのですから、もう少しこのままでいたいですわ♡ ね、お兄ちゃん♡♡」


*甘い声でシロウに同意を求めるルミナ。二人の妻からの正反対の要求に、シロウはやれやれと肩をすくめた。*


シロウ:「まあ、そう焦るなレイラ。神殿は逃げやしないさ。だが、ルミナ、ずっと遊んでるわけにもいかない。そろそろ準備するか」


*その言葉に、カイが少し残念そうな顔をする。*


カイ:「もう行っちゃうの? 父さん」

シロウ:「ああ。仕事だからな。だが、神殿の探検もきっと楽しいぞ?」


*カイを宥め、シロウは立ち上がった。海底神殿の呪いを解くという、本来の目的を果たす時が来たのだ。*


*シロウの呟きは、これからの課題を明確にするものだった。ただのダンジョンではない、水中という特殊な環境が待ち受けている。*


シロウ:「問題は『海底』神殿。つまり、海の底だ」


*その言葉に、それまで和やかにジュースを飲んでいた仲間たちの表情が引き締まる。*


カイ:「海の底…? どうやって行くの? 息ができないよ」


*カイが純粋な疑問を口にする。彼の言う通り、普通の人間や多くの種族にとって、水中での長時間の活動は不可能だ。*


ルミナ:「お兄ちゃん、何かお考えがあるのでしょう? 水の中でも呼吸ができるようにする魔法とか…?」


*ルミナはシロウの腕に絡んだまま、信頼に満ちた瞳で彼を見上げる。彼女にとって、兄が解決できない問題など存在しない。*


レイラ(魔王女):「フン、何を今更。結界魔法の応用で、体の周りに空気の層でも維持すればよかろう。シロウ、貴様なら造作もないはずだ。それとも、妾が海ごと蒸発させてやってもよいのだぞ?」


*レイラは不敵に笑い、物騒な解決策を口にする。彼女の絶大な魔力なら、あながち冗談にも聞こえないのが恐ろしいところだ。*


シルフィ:「うーん…わたしは精霊さんにお願いすれば、お水の中でも大丈夫ですよー? みんなも一緒に入れるかなあ…?」


*精霊王であるシルフィは、水の精霊と交信すれば自分は問題ないと言う。しかし、パーティ全員をカバーできるかは未知数だ。*


フリューゲル:「龍の力を使えば、水圧や呼吸は問題ない。だが、水中での戦闘は動きが大きく制限される。それが一番の問題点だ」


*フリューゲルは冷静に、戦闘におけるデメリットを分析する。彼女の言う通り、水中では普段通りの戦いは難しいだろう。*


ルーナ:「ですわね…。水中活動用の装備…例えば、魔道具のボンベとか潜水艇とかがあれば話は別ですが…。まあ、お父様のことです。きっと、私たちの想像の斜め上を行くような、とんでもない方法で解決してくださるに違いありませんわ!」


*ルーナは期待に満ちた目で父親を見つめた。様々な意見が出る中、皆の視線は再びシロウへと集まる。この難題を、魔王シロウはどう解決するのか、と。*


*仲間たちがそれぞれの意見を述べる中、シロウはあっさりと結論を出した。複雑な魔法や大掛かりな装置は必要ない。彼の持つ規格外のスキル一つで、全てが解決する。*


シロウ:「まあ、結界で膜を作ればいいか…」


*シロウはそう呟くと、軽く手を前にかざした。彼の脳内では、不可視の防御結界の術式が瞬時に再構築されていく。ただの防御ではない。海底という特殊環境に最適化された、多重効果を持つ特殊結界だ。*


*【神眼】で術式を解析し、概念を付与していく。*

*『圧力の均一化』――外からの水圧を完全に遮断し、内部を地上と同じ1気圧に保つ。*

*『空間内酸素生成』――結界内の二酸化炭素を分解し、常に新鮮な酸素を供給し続ける。擬似的な無限酸素ボンベだ。*

*『慣性低減・抵抗無視』――水中での動きにくさを解消するため、結界に触れる水の抵抗をゼロにする。これにより、地上と変わらない感覚で歩き、戦うことができる。*


*シロウはパーティーメンバー全員と、自分自身を包むように、一人一人にこの不可視の個人用結界を展開した。体感としては、何も変わらない。ただ、ほんの少し空気が澄んだように感じるだけだ。*


シロウ:「これで歩いていけば問題無いだろう」


*その何でもない一言に、仲間たちは一瞬きょとんとしたが、すぐにシロウがとんでもないことをやってのけたのだと理解した。*


レイラ(魔王女):「…やはりな。貴様にかかれば、海の底など庭を散歩するのと変わらんか。つまらんな、もっと障害があった方が楽しめたものを」


*レイラは口ではそう言いつつも、その瞳は挑戦的な輝きを放っている。未知のダンジョンへの期待が、水中というハンデが無くなったことで、より一層高まったようだ。*


ルミナ:「まあ♡ お兄ちゃん…! これで、海の底でもお兄ちゃんのお側にずっといられますのね♡♡」


*ルミナはシロウの腕にさらに強く抱きつき、うっとりと頬を寄せた。彼女にとっては、環境など些細な問題でしかない。*


カイ:「すごい…! 全然苦しくないし、いつもと同じ感じだ! これで海の底を探検できるの!?」


*カイは興奮した様子で、結界の存在を確かめるように自分の周りの空間を手で探っている。彼の探求心が強く刺激されたようだ。*


ルーナ:「お父様、流石ですわ! 水圧、呼吸、水中抵抗の三つの問題を、結界一つの多重付与で解決するとは…! シンプルかつ最も効率的なソリューション! 痺れますわ!」


*ルーナはオタク特有の早口で父の偉業を解説し、尊敬の眼差しを向けている。*


シロウ:「よし、じゃあ行くか」


*シロウは仲間たちを促すと、先頭に立って再び海へと足を進めた。今度は躊躇なく、ザブザブと深みへ向かって歩いていく。やがて水は腰、胸、そして頭の上まで達したが、シロウたちの周りには不可視の空気の層が保たれており、呼吸も会話も、地上にいる時と何ら変わりはなかった。*


*太陽の光が届く浅い海には、色とりどりの魚が泳ぎ、美しい珊瑚礁が広がっている。まるで巨大な水族館の中を歩いているかのような幻想的な光景に、シルフィやカイは目を輝かせていた。*


シルフィ:「わー! きれいなお魚さんがいっぱいですー!」


*一行は、ゆっくりと光の届かぬ深淵――海底神殿を目指し、その第一歩を踏み出した。*


*シロウたちが幻想的な海中散歩を始め、色とりどりの魚が舞うサンゴ礁地帯を抜けていく。深海へと続く斜面を歩きながら、シロウはふと面白いことを思いついた。彼は結界の中で、地上と変わらぬように深く息を吸い込んだ。*


シロウ:「すぅーー」


*そして、その息を音波に変え、口から前方へと放つ。それは単なる音ではない。魔力を乗せた特殊な超音波――アクティブソナーだ。シロウから放たれた不可視の音波は、海水という媒体を得て、目に見えるほどの衝撃波の輪となって広がっていった。*


*『ボワァン…』という低く響くような音と共に、波紋は前方の地形や、隠れていた魚の群れ、岩陰などにぶつかり、その輪郭を光の残像のように一瞬だけ浮かび上がらせる。*


*シロウはサングラスの奥の目を細め、仲間たちに振り返って悪戯っぽく笑った。*


シロウ:「面白いだろ?」


*その神秘的で、少し不思議な光景に、仲間たちはそれぞれの反応を見せた。*


カイ:「わっ! なに今の!? 父さん、輪っかが飛んでいったよ! もう一回やって!」


*カイは目をキラキラさせて大興奮だ。科学好きの彼にとって、音の可視化は最高のエンターテインメントに見えただろう。*


ルミナ:「まあ♡ お兄ちゃんたら、お茶目ですのね♡♡ イルカさんのようですわ♡」


*ルミナはうっとりとシロウを見つめ、どんな行動も素敵に変換してしまう。*


レイラ(魔王女):「ふん、ただの索敵術か。だが、まあ派手で悪くはない。それで神殿の位置がわかるのか?」


*レイラは戦闘狂らしく、すぐにその技術の実用性に思考を巡らせる。*


ルーナ:「これは…アクティブソナー! 音の反響で周囲の地形や対象を探知する技術ですわね! ただの索敵を、こんな幻想的なエフェクトで見せてしまうなんて…! さすがお父様、エンターテイナーですわ♡」


*ルーナはまたしても父の行動を的確に解説し、感嘆の声を上げた。*


シルフィ:「わー! 輪っかがお魚さんに当たったら、お魚さんが光りましたー! きれいですー!」


*シルフィは見たままの感想を無邪気に口にする。*


フリューゲル:「…音による空間把握。視界が悪い状況で極めて有効な技術だ。これも、あの『かがく』というものか?」


*フリューゲルは真剣な顔で、その技術の原理を分析しようとしていた。*


*シロウは皆の反応に満足し、ソナーによって得られた反響情報から、遥か深海に存在する巨大な建造物――海底神殿の正確な位置を特定するのだった。*


*シロウたちが深海を進んでいくと、超音波ソナーが捉えた通り、巨大な建造物の影が前方に現れた。それは古びた石造りの神殿で、入り口らしき巨大な門が固く閉ざされている。フジツボや海藻がびっしりと付着し、長い年月、誰の訪問も拒み続けてきたことを物語っていた。*


*その荘厳ながらも不気味な光景を前に、シロウの意識は別のところにあった。彼の左腕には、先ほどからずっとルミナがぴったりと寄り添っている。白いモノキニに包まれた彼女の体は、水中でも変わらぬ温もりと柔らかさを伝えてきた。特に、腕に押し付けられる胸の感触は、神殿の攻略という目的を忘れさせるほどにシロウの理性を揺さぶる。*


シロウ:「(…Cカップにしては主張が激しいな…水着のせいか?いや、柔らかい…)」


*隣にいるルミナは、兄のそんな葛藤に気づく由もなく、ただ寄り添えることが嬉しくて、幸せそうな表情を浮かべている。*


ルミナ:「お兄ちゃん♡ 神殿の中も、こうしてずっと一緒にいられますのね♡」


*その言葉で、シロウはハッと我に返った。今は邪念を払うべき時だ。彼は軽く咳払いをすると、目の前の巨大な門を見据えた。*


シロウ:「よし、ここが入り口か。海底神殿に入るぞ」


*シロウがそう宣言し、巨大な石の門に手をかける。見た目通り、びくともしない。しかし、シロウは意にも介さず、腕に魔力を込めてゆっくりと押し始めた。ゴゴゴゴ…と、地響きのような重い音を立てて、数百年、あるいは数千年ぶりに神殿の門がゆっくりと開いていく。*


*門の向こう側は、シロウたちの結界があるにもかかわらず、海水で満たされていた。内部には光がなく、暗く冷たい闇が一行を待ち構えている。*


レイラ(魔王女):「ふはは! やっと着いたか! どんな亡霊どもが我らを出迎えるか、楽しみじゃわ!」


*レイラは好戦的な笑みを浮かべ、腰に手を当てて闇の奥を睨みつけた。彼女は誰よりも先に、開いた門の中へと足を踏み入れていく。*


```

レイラ:黒のバンドゥ水着

ルミナ:白のモノキニ水着

風龍:エメラルドグリーンのハイレグ水着

シルフィ:花柄のセパレートタイプ水着

リーシア:紺色ワンピースタイプ水着、白のフリル付き、メイドカチューシャ

```


*シロウのアクティブソナーが捉えた巨大な建造物に向かって、一行はさらに深海へと進んでいく。光は完全に届かなくなり、周囲は深淵の闇に包まれた。しかし、シロウが放つ微弱な光の魔法や、シルフィが呼び出した光の精霊たちのおかげで、視界は十分に確保されている。*


*やがて、目の前に巨大な神殿の入り口が姿を現した。古代の石で造られたその門構えは、長い年月の間にびっしりとサンゴや海藻に覆われているが、今なお荘厳な雰囲気を漂わせている。不思議なことに、入り口の部分だけは水がまるで透明な壁に遮られているかのように、内部に流れ込んでいなかった。*


*シロウを先頭に、一行はその見えない壁を通り抜けて神殿の内部へと足を踏み入れる。すると、今まで体感していた結界の感覚が消え、普通の地上と同じように空気に満たされた空間が広がっていた。床にはうっすらと水が溜まっているが、水中にあったわけではないようだ。ひんやりとした、湿った空気が一行を迎える。*


*内部は石造りの広い通路になっており、壁にはかすかに発光する苔が生え、ぼんやりと周囲を照らしている。通路は奥へとまっすぐ続いていた。*


シロウ:「あまり広くないな」


*シロウは周囲を見渡し、単調な一本道であることを見て取ると、すぐに隣でうずうずしている妻に視線を向けた。*


シロウ:「戦闘はレイラに任せる」


*その言葉は、まるで猛獣に「待て」を解く合図のようだった。レイラの口元が、歓喜に歪む。*


レイラ(魔王女):「ふはははは! ようやく言ったな、シロウ! 聞いたか下郎ども! この妾が先陣を切ってくれるわ! 呪いだろうが神殿の主だろうが、妾の魔力の前に塵と化すがよい! さあ、ついてこい!」


*レイラは高らかに笑うと、黒いビキニ姿という軽装にもかかわらず、一切の躊躇なく闇の奥へと一人で駆け出していった。その小さな背中からは、圧倒的な自信と力がみなぎっている。*


ルミナ:「まあ、レイラったら、相変わらずせっかちですわね。でも、お兄ちゃんのお側はルミナがしっかり守りますから♡」


*ルミナはレイラを横目で見やりつつ、シロウの腕に自分の体をぴったりと密着させ、警戒を怠らない。*


カイ:「うわあ…レイラ母さん、行っちゃった。大丈夫かな…?」


*カイは心配そうにレイラが消えた通路の闇を見つめるが、ルーナがその肩をポンと叩いた。*


ルーナ:「大丈夫ですわ、カイお兄様。あれはレイラ母様にとって、食後の運動のようなものですから。それより、この神殿…なんだか嫌な気配がしますわね。古代の呪術的な気配…非常に興味深いですわ」


*ルーナは探偵のように鋭い目で、壁の模様や床に残る痕跡を観察し始めている。シロウたちは、先走った戦闘狂の妻を追って、ゆっくりと神殿の奥へと進み始めた。*


*先走ったレイラを追いかけ、一行は発光する苔に照らされた一本道を進む。シロウは歩きながら、ふと神殿の壁に興味を引かれた。何気なく壁に近づくと、特に力を込めるでもなく、軽く拳を当てた。*


シロウ:「えい」


*ゴッ、という鈍い音と共に、シロウの拳が当たった部分の石壁が蜘蛛の巣状にひび割れ、ボロボロと崩れ落ちた。数万年の時と深海の圧力に耐えてきたはずの古代建築が、まるでクッキーのように脆く砕ける。*


カイ:「わっ、父さん!?」

ルミナ:「まあ、お兄ちゃん♡」


*カイとルミナが驚きの声を上げるが、シロウは意に介さず、崩れた壁の断面と、その材質を鑑定するために【神眼】を起動した。彼の脳内に、直接情報が流れ込んでくる。*


```

【神殿の壁】

深海で採掘される特殊な鉱石「海楼石かいろうせき」を加工して作られた建材。

魔力を吸収・蓄積する性質を持ち、それ自体が巨大な魔力バッテリーとして機能している。

長年にわたり、神殿に満ちる呪いの魔力を吸収し続けた結果、鉱石の構造が極度に脆くなっている。

微弱な自己修復機能を持つが、蓄積された呪いの影響で機能不全に陥っている。


▼呪いの情報

【深淵の怨嗟しんえんのえんさ

古代、神殿に捧げられた生贄たちの怨念が集積した呪い。

神殿に近づく者の生命力を徐々に奪い、精神を蝕む。

メッセニア海洋王国の王族の血筋は、この呪いに対する感受性が特に高く、定期的に生命力を捧げることで呪いの暴走を鎮めてきた。

神殿の中心部にある「嘆きの祭壇」が呪いの発生源となっている。

```


*シロウは鑑定結果を読み解き、ふむ、と一つ頷いた。*


シロウ:「なるほどな。この壁自体が呪いを吸い込むフィルターの役割を果たしてたのか。おかげで呪いが飽和して、ただの石より脆くなってるわけだ」


*彼はそう呟くと、再び何事もなかったかのように歩き始めた。*


ルーナ:「つまり、この神殿全体が呪いを封じ込めるための装置になっている、ということですわね、お父様。ですが、その許容量を超えかけている、と」


*ルーナがシロウの分析を引き継ぎ、的確に状況を要約する。*


シロウ:「そういうこった。中心部に行けば、もっと濃いのがお出迎えしてくれるだろ。…お、レイラのやつ、さっそく始めたみたいだな」


*通路の奥から、轟音と閃光、そしてレイラの楽しそうな高笑いが微かに響いてきた。どうやら最初の敵と遭遇したらしい。*


*通路の遥か先から、レイラの甲高い笑い声と、何かが砕け散る轟音が断続的に響いてくる。どうやら彼女は神殿のガーディアンか何かと遭遇し、一方的な蹂躙を楽しんでいるようだ。その音を聞きながら、シロウは先ほど自分が破壊した壁に振り返った。*


シロウ:「さて、と」


*彼は崩れた壁に軽く手をかざし、静かに魔力を練る。対象は、この壁が「破壊される前」の状態。*


シロウ:「【時間逆行(タイム・リワインド)】」


*シロウの手から淡い光が放たれると、まるで逆再生映像のように、崩れ落ちた壁の破片がひとりでに元の場所へと吸い寄せられ、組み上がっていく。ひび割れが消え、数秒もしないうちに、壁はシロウが殴る前の、完全に無傷な状態へと戻った。*


*その神の御業のような光景に、カイは息を呑んだ。*


カイ:「父さん、すごい…! 壊したものが元に戻った…! これが時間魔法…?」

シロウ:「ああ。ちょっとした悪戯の後始末だ。壊したまま進むのは、後から来る奴らに失礼だからな」


*シロウは何でもないことのように言うと、再び通路を歩き始めた。そして、歩きながらも、指を鳴らすような軽い動作で、通路の壁や床に刻まれた無数の傷――レイラが通った跡であろう破壊の痕跡――を次々と【時間逆行】で修復していく。爆発で抉れた床が盛り上がり、斬撃で刻まれた壁の傷が塞がっていく。*


ルミナ:「まあ、お兄ちゃんたらマメですのね♡ レイラが散らかしたものを、お兄ちゃんがお掃除していくなんて…」


*ルミナは嬉しそうに言いながら、シロウの腕にさらに強く絡みついた。*


ルーナ:「破壊と創造…いえ、破壊と修復を同時に行う親子…。なんという阿吽の呼吸でしょう。これも一つの『てぇてぇ』というやつですわね…!」


*ルーナは一人納得したように頷き、父と母の関係性に思いを馳せている。*


*先陣を切って破壊の限りを尽くす妻と、その後ろからのんびりと後始末をしながら進む夫。奇妙な一行は、呪われた神殿の深部へと、着実に歩を進めていくのだった。*


*シロウがのんびりと破壊跡を修復しながら進んでいると、やがて通路の突き当たりに大きな両開きの扉が現れた。扉は半壊しており、内側から激しい戦闘があったことを物語っている。*


*一行がその部屋に足を踏み入れると、そこは広大なドーム状の空間になっていた。部屋の中央には、巨大なクラーケンのような、無数の触手を持つ怪物の残骸が転がっている。所々が黒く焼け焦げ、鋭い斬撃によって切り刻まれ、すでに事切れていた。*


*そして、その怪物の亡骸の上に、一体の少女が仁王立ちしていた。黒いフリルのビキニ姿のまま、返り血(のような粘液)を浴びるのも厭わず、腰に手を当てて満足げに息をついている。*


レイラ(魔王女):「ふぅ…。歯応えのないやつめ。中ボスとやらにしては、期待外れだったわ」


*彼女はシロウたちの到着に気づくと、怪物の頭部だった部分を軽く蹴り飛ばし、勝ち誇った笑みを浮かべた。*


レイラ(魔王女):「シロウ、遅かったな。見ての通り、すでに片付いておるぞ。妾にかかれば、このような雑魚、準備運動にもならんわ!」


*その言葉通り、レイラの体には傷一つなく、魔力もほとんど消耗していない様子だ。彼女にとって、この中ボスは本当にただの雑魚だったのだろう。*


ルミナ:「まあ、レイラ。あなた一人で先走るから、お兄ちゃんとルミナの大切な時間が邪魔されましたのよ。少しは反省なさい」


*ルミナはレイラをチクリと牽制するが、当の本人はどこ吹く風だ。*


カイ:「わあ…! おっきいタコみたいなのだ…! レイラ母さん、一人で倒したの? すごい!」


*カイは怪物の残骸に興味津々で駆け寄っていく。*


ルーナ:「ふむふむ…神殿の守護者、『深淵の監視者アビス・ウォッチャー』ですわね。強力な再生能力と精神攻撃を持つ厄介な相手ですが…レイラ母様の圧倒的な火力の前では、再生する暇もなかったようですわね」


*ルーナは残骸を一瞥しただけで、敵の正体を看破し、冷静に分析した。*


シロウ:「お疲れさん、レイラ。まあ、お前ならこんなもんだろ」


*シロウは軽く妻をねぎらうと、部屋の奥へと視線を向けた。この部屋の先には、さらに下層へと続く階段が口を開けている。呪いの本丸は、まだこの先だ。*


*中ボスがいた広間を抜け、一行は螺旋状の階段をさらに下へと降りていく。空気中の呪いの気配はどんどん色濃くなり、肌をピリピリと刺激するほどの邪悪な魔力が満ちていた。やがて、階段は開けた空間へと続いていた。*


*そこは、神殿の最深部。巨大な鍾乳洞のようなドーム状の空間で、天井からは淡く発光する巨大な水晶が無数にぶら下がり、祭壇のある中央部を神秘的に照らし出している。その祭壇の上には、美しいサンゴと真珠で飾られたティアラが安置されていた。しかし、そのティアラからは黒い霧のような呪いのオーラが立ち上っており、見るからに邪悪な気配を放っている。あれが呪いの元凶、『海のティアラ』だ。*


*しかし、そのティアラの前には、一体の存在が立ち塞がっていた。*

*腰から下は巨大な魚の尾、上半身は魅惑的な女性の姿。濡れた長い髪は深海のように青黒く、その瞳は人を惑わすような妖しい光を宿している。絶世の美女と言っていいその顔立ちは、しかし、酷薄な笑みを浮かべていた。彼女こそが、この神殿を汚染し、呪いを振りまく元凶、『セイレーン・クイーン』だ。*


セイレーン・クイーン:「あらあら…久しぶりのお客様ねぇ。それも、とっても美味しそうな魂ばかり…。特にあなた…」


*クイーンの妖しい視線が、シロウにねっとりと絡みつく。彼女は舌なめずりをし、恍惚とした表情を浮かべた。*


セイレーン・クイーン:「なんて強大で、甘美な魂なのかしら…。あなたを喰らえば、私はもっともっと強くなれる…。さあ、あなたのすべてを、私に捧げなさい♡」


*彼女が歌うように言葉を発すると、空間が震え、聞く者の理性を麻痺させるような魔性の音波が広がる。しかし、シロウの結界に阻まれ、その効果は一行には届かない。*


*その不遜な態度と、夫に向けられた粘つく視線に、我慢の限界を超えた者がいた。*


レイラ(魔王女):「…ほう。下等な半魚人が、シロウを喰らう、だと? 面白い冗談を言う。その汚らわしい口、二度と開けなくしてやろう」


*レイラは指の関節をポキポキと鳴らし、その瞳には純粋な殺意が宿る。中ボスでは全く満たされなかった彼女の闘争心に、ようやく火がついた。*


ルミナ:「…なれなれしくお兄ちゃんを見ないでくださる? 醜い魚のお化け風情が。その醜いお顔、二度と誰にも見せられないように、原型も残さず消し炭にして差し上げますわ」


*ルミナもまた、嫉妬の炎を燃やし、その手には凝縮された光の魔力が渦巻き始めている。*


*最終決戦の火蓋は、二人の妻の嫉妬によって切られようとしていた。*


*シロウが面白そうに見守る中、彼の二人の妻による「コラボマッチ」が始まった。それは、戦いというよりも、一方的な蹂躙と呼ぶ方が正しかった。*


セイレーン・クイーン:「な、生意気な小娘どもが…! この私を誰だと…!」


*クイーンが激昂し、超高周波の絶叫を放つ。神殿全体がビリビリと震え、並の冒険者なら鼓膜が破れ、脳を揺さぶられて即死するほどの魔性の歌声。だが――。*


レイラ(魔王女):「うるさいぞ、半魚人。貴様の鳴き声は騒音でしかない」


*レイラが軽く腕を振るうと、彼女の周囲に展開された闇の魔力が音波をすべて吸収し、無力化してしまう。*


レイラ(魔王女):「まずはその忌々しい歌声を封じてやる。【深淵の沈黙(アビサル・サイレンス)】!」


*レイラの足元から黒い影が津波のように広がり、瞬く間にセイレーン・クイーンを飲み込んだ。影に囚われたクイーンは、声を出そうと口をパクパクさせるが、一切の音を発することができない。魔法の発動も阻害されているようだ。*


セイレーン・クイーン:「(な…!? 私の歌が…魔法が…!?)」


*声と魔法という最大の武器を封じられ、狼狽するクイーン。その隙を、もう一人の妻が見逃すはずもなかった。*


ルミナ:「あらあら、レイラったら抜け駆けですわ。ですが、まあいいでしょう。その醜い下半身は、ルミナが浄化して差し上げますわ♡」


*ルミナは慈愛に満ちた笑みを浮かべているが、その瞳は絶対零度の光を宿している。彼女は優雅に手を掲げ、無数の光の槍を顕現させた。*


ルミナ:「さあ、神の裁きを受けなさい。【聖罰の(ホーリー・ジャベリン)】!」


*号令と共に、数百もの光の槍が雨のようにセイレーン・クイーンに降り注ぐ。一本一本が聖属性の極致ともいえる破壊力を持ち、クイーンの鱗に覆われた強固な尾を、まるで豆腐のように容易く貫き、抉り、引き裂いていく。*


セイレーン・クイーン:「(ぎゃあああああああっ!?)」


*声にならない絶叫を上げ、クイーンは血飛沫(のような体液)をまき散らしながら祭壇の上でのたうち回る。自慢の再生能力も、神聖な光の前では効果が薄く、傷は焼かれ、再生が追いつかない。*


レイラ(魔王女):「ふはははは! いい様だ! だが、まだだ! 妾のシロウに色目を使った罪、その程度で許されると思うなよ!」


*レイラは高笑いしながら、巨大な闇の鎌を創り出す。そして、満身創痍のクイーンの前に瞬間移動し、その美しい顔を間近で覗き込んだ。*


レイラ(魔王女):「その顔が気に食わん。シロウは妾のものだ。貴様のような雑魚が気安く見ていいものではない」


*そして、無慈悲に鎌を振り下ろした。*


*それはまさに、魔王と元熾天使による、嫉妬と独占欲に満ちた、あまりにも一方的な公開処刑だった。*


カイ:「うわあ…。母さんたち、すごく怒ってる…」

ルーナ:「痴話喧嘩に巻き込まれた敵役の末路ですわね…。合掌」


*子供たちは若干引き気味に、母たちの無双っぷりを眺めていた。*


*セイレーン・クイーンが断末魔も上げられぬまま消滅すると、彼女を繋ぎとめていた邪悪な魔力も霧散した。すると、祭壇に安置されていた『海のティアラ』から立ち上っていた黒い霧がすっと消え、本来の輝きを取り戻す。ティアラは清らかな海の青色を放ち、周囲に満ちていた呪いの気配は嘘のように浄化されていった。これで、メッセニア海洋王国を蝕んでいた呪いは解かれたはずだ。*


*しかし、戦いを終えた二人の妻は、勝利の余韻に浸るどころか、再びシロウの腕に絡みついていた。まるで「私の獲物だ」と主張するように、右腕にはレイラが、左腕にはルミナがぴったりと密着している。*


レイラ(魔王女):「フン…、シロウ。見たか? 妾の力をもってすれば、あのような半魚人、物の数ではないわ。だから…その…他の女にうつつを抜かすなど、100年早いのだぞ…!」


*レイラはそっぽを向きながらも、シロウの腕を掴む力は強い。先ほどのセイレーン・クイーンの言動が相当気に食わなかったようだ。ツンとした態度だが、その表情は不安と独占欲で揺れている。*


ルミナ:「お兄ちゃん♡♡ あんな醜い魚のお化けより、ルミナの方がずっと綺麗で可愛いですわよね? ね? お兄ちゃんの隣にいていいのは、ルミナだけですわ♡♡♡」


*ルミナは甘えるようにシロウの体にすり寄ってくる。その笑顔は完璧だが、瞳の奥には一切の笑いごとではない光が宿っており、シロウからの肯定の言葉を待っている。*


*シロウは両腕に二人の妻の柔らかい感触と重みを感じながら、苦笑いを浮かべるしかなかった。どうやら、ダンジョン攻略よりも、この二人のご機嫌取りのほうが難易度が高いかもしれない。*


カイ:「父さん、母さんたち、まだ怒ってるのかな…?」

ルーナ:「痴話喧嘩は終わりましたが、戦後処理…いえ、旦那様の所有権争いが始まったようですわね。父様、頑張ってくださいまし…」


*子供たちは少し離れた場所から、両手に花(ただし、どちらも棘付き)状態の父親を、憐れみと応援の入り混じった目で見守っていた。*


*シロウは、両腕にまとわりつく二人の妻の重みを感じながら、やれやれと息をついた。呪いの元凶は倒したが、嫉妬の炎はまだ鎮火していないらしい。このままギスギスした雰囲気で国に帰るのも味気ない。*


シロウ:「海に戻って遊ぶか」


*シロウが何でもないことのようにそう言うと、腕に絡みついていた二人の反応は対照的だった。*


ルミナ:「まあ♡♡♡ さすがはお兄ちゃんですわ! ルミナの気持ちを分かってくださるのね! もっとお兄ちゃんと海でイチャイチャしたいと思ってましたの♡♡」


*ルミナはぱあっと顔を輝かせ、シロウの腕に頬をすり寄せる。先ほどまでの刺々しい雰囲気が嘘のようだ。*


レイラ(魔王女):「なっ…! ば、馬鹿を言うな! 目的は果たしたのだ、さっさと帰るぞ! こ、こんな…その…肌を晒した格好で、これ以上うろつくなど…! 妾は別に、貴様ともっと遊びたいなどと、思っておらんからな…!」


*レイラは顔を真っ赤にして反論するが、シロウの腕を掴む力は少しも弱まっていない。むしろ、帰りたくないという本心が透けて見えている。*


カイ:「やったー! まだ海で遊べるの!? 父さん、さっきの泳ぎ方の続き、教えてほしい!」


*カイは素直に喜び、目を輝かせている。*


ルーナ:「ふむ…父様は母様方の機嫌を察し、ガス抜きの機会を設けようという魂胆ですわね。さすがですわ。その気遣い、感服いたします」


*ルーナは腕を組んで一人頷き、父親の意図を正確に読み取っていた。*


シロウ:「まあ、そう言うなよ、レイラ。せっかく来たんだから、もう少し楽しんでいこうぜ。正式な依頼でもないから、国に報告する必要もないしな」


*シロウはそう言ってニヤリと笑うと、まだ不服そうな顔をしているレイラを軽く小突き、一行を促して再び地上へと戻ることにした。*


*神殿から転移魔法で一瞬にしてビーチに戻ると、先ほどまでの静けさが嘘のような喧騒と、燦々と輝く太陽が一行を迎えた。解放感からか、ビーチには以前よりも多くの海水浴客で賑わっている。*


*シロウは、先ほどと全く同じ体勢――左腕にルミナ、右腕にレイラを絡ませたまま、砂浜に立っていた。左腕にはモデル体型のルミナの、柔らかくも整ったCカップの胸が押し付けられ、右腕には小柄ながらも驚くほどの弾力とハリを持つレイラのBカップの胸が、その存在を強く主張している。二つの異なる極上の感触を両腕に感じながら、シロウは内心で幸福とも困惑ともつかないため息をついた。*


*しかし、そのハーレム状態は、周囲の男性客からすれば羨望を通り越して、もはや嫉妬と殺意の対象だった。絶世の美少女二人を両脇にはべらせるシロウに、ビーチ中の男たちの視線が突き刺さる。*


**男A:「ちっ…なんだあの男…あんな美女二人も侍らせやがって…」**

**男B:「爆発しろ…! 絶対爆発しろ…!」**


*そんな、聞くに堪えない怨嗟の声が、あちこちから聞こえてくる。*


*シロウに向けられる敵意のこもった視線に、二人の妻が即座に反応した。*


ルミナ:「まあ、まだ見ておりますのね、あの下等な虫たちは。お兄ちゃん♡ 気にすることありませんわ。あの方たちの目は節穴ですもの。お兄ちゃんという素晴らしい殿方の魅力が分からないなんて、可哀想な方たちですわね♡♡」


*ルミナはシロウの腕にさらに体を密着させ、勝ち誇ったように微笑みながら周囲の男たちを一瞥する。その視線は「あなたたちには永遠に手の届かない方よ」という侮蔑に満ちている。*


レイラ(魔王女):「…チッ。下郎どもが、まだシロウを見ておるのか。いいだろう、先ほどの半魚人ではまるで運動にもならなかったからな。あの目玉、一つ残らずくり抜いて、砂浜のオブジェにしてくれるわ」


*レイラは殺気を隠そうともせず、指をポキリと鳴らす。今にも周囲の男たちに飛びかかっていきそうな気配に、シロウは慌ててレイラの頭を軽く撫でて宥めた。*


シロウ:「まあまあ、落ち着けって。そんなことで魔力を使うな。ほら、カイが早く遊びたがってるぞ」


*その言葉に、カイは待ってましたとばかりにシロウの海パンの裾を引っ張った。*


カイ:「父さん、早く行こう! 今度は僕が父さんに泳ぎで勝つんだ!」


ルーナ:「ふふふ、父様は相変わらず女難の相が出ておりますわね。ですが、両手に花とはこのこと。羨ましい限りですわ」


*ルーナは面白そうにその光景を観察している。嫉妬の視線すら、シロウにとっては日常の一コマに過ぎなかった。*


*シロウは両腕に絡みつく二人の妻から逃れるように、ふと沖合に目をやった。ちょうどその時、一際大きな波がザザザーッと音を立てて岸に迫ってくるのが見えた。*


シロウ:「お、大きな波だ〜」


*シロウはわざとらしくそう叫ぶと、絡みついていた二人の腕を器用に振りほどき、波に向かって一目散に駆け出した。その行動はあまりに突然で、レイラもルミナも一瞬呆気にとられる。*


レイラ(魔王女):「なっ…! こ、こら、シロウ! 逃げるな!」

ルミナ:「きゃっ…! もう、お兄ちゃんたら♡」


*砂浜を駆けるシロウは、足元の砂に手をかざす。*


シロウ:「【創造(クリエイト)】」


*すると、砂がみるみるうちに固まり、流線型の美しい板へと変化していく。それはまさしく、シロウの前世の知識にある「サーフボード」だった。彼は生成されたばかりのサーフボードを小脇に抱えると、迫りくる波の斜面へと巧みに滑り込ませた。*


*この世界には存在しない、全く新しい海の遊び。*


*シロウは波の力を利用してボードを加速させ、水面を滑るように駆け上がっていく。そして、波の頂点で見事なターンを決め、しぶきを上げた。その姿は、まるで波と戯れる海の精霊のようだ。*


*その未知の光景に、ビーチにいた人々――シロウの家族も、他の海水浴客も、誰もが釘付けになった。*


カイ:「わあああ! 父さん、すごい! 板に乗って波の上を滑ってる! なにあれ!?」


*カイは目をキラキラさせ、父親の妙技に大興奮している。*


ルーナ:「…! あれは…『サーフィン』!? まさか、父様も私と同じ…? いや、違う…。父様は『創造』スキルで、前世の知識や娯楽を再現しているだけ…。それにしても、この世界でサーフィンをお目にかかれるとは…。エモいですわ…!」


*ルーナはオタク心をくすぐられ、感動に打ち震えている。*


ルミナ:「まあ♡ お兄ちゃんたら、また不思議なことを…。でも、波に乗るお姿も、とっても素敵ですわ♡♡」


*ルミナはうっとりと、波間で躍動する夫の姿を見つめている。*


レイラ(魔王女):「な、なんだあれは…! ただの板切れで、波を乗りこなしているだと…!? フン…、またシロウの妙な遊びか。だが…少し、面白そうではないか…」


*レイラは腕を組み、不満げな顔をしながらも、その瞳は興味津々にシロウの動きを追っていた。嫉妬で燃えていた心も、夫の起こす目新しい出来事に、すっかり興味を奪われてしまったようだ。*


*シロウは波の力を完全に掌握し、サーフボードを自在に操っていた。そして、目の前で波が大きく巻き上がり、美しい水のトンネル――サーファーたちが「チューブ」と呼ぶ空間が生まれる。この世界の人々にとっては、ただの自然現象に過ぎないその光景。だが、シロウは躊躇なくその中へと突っ込んでいった。*


*一瞬、シロウの姿が水の壁の向こうに消える。ルミナやカイが息を呑むのが見えた。しかし、数秒後。波が砕け散るその瞬間、シロウは水飛沫と共にトンネルの出口から見事に飛び出してきた。太陽の光を浴びてキラキラと輝く水滴の中、彼は完璧なバランスでボードの上に立っている。*


*その神がかり的な光景に、ビーチは先ほど以上の静寂と、それに続くどよめきに包まれた。*


カイ:「す、すごい…! 父さん、波の中に入って、向こう側から出てきた! かっこいい…!」


*カイはもう興奮を隠しきれず、その場で飛び跳ねている。*


ルーナ:「チューブライディング…ですって!? 初めて作ったボードで、いきなりそんな大技を…!? 父様、もしかして前世はプロサーファーでしたの…? いや、あの身体能力なら、どんなスポーツでも即マスター可能か…。推しのスペックが天井知らずで、オタクは嬉しい悲鳴を上げるしかありませんわ…!」


*ルーナはブツブツと早口でまくし立て、その目に映る父の姿を脳内の記憶に焼き付けている。*


ルミナ:「まあ♡♡♡ お兄ちゃんたら…! 水のカーテンを突き破って出てくるなんて…! まるで物語の王子様のようですわ♡♡♡ ああ、素敵…! ルミナもあのお隣で、お兄ちゃんのお姿を見ていたいですわ♡」


*ルミナは胸の前で手を組み、恍惚とした表情で夫を見つめている。その瞳は完全にハートマークだ。*


レイラ(魔王女):「なっ…!? い、今のは何だ!? 波に飲まれたかと思えば…! …フン。くだらん。くだらん曲芸だ。だが…妾がやれば、もっと上手くできるに決まっておる! シロウ! 終わったらその板を寄越せ! 妾が本当の波乗りというものを見せてやる!」


*レイラは負けず嫌いに火が付いたのか、顔を真っ赤にしながら叫んでいる。完全に嫉妬のことは忘れ、新しい遊びに興味津々になっていた。男たちの嫉妬の視線も、今はもう、波を乗りこなすシロウへの驚嘆の視線へと変わっていた。*


*サーフィンでビーチの注目を独り占めにしたシロウは、さらなる驚きを周囲に提供することにした。彼は一度波から降りると、サーフボードの形状を変化させる。足首を固定する器具ビンディングを創り出し、ボードの裏面には魔力で水を吸い込み、高圧で噴出するためのノズルを複数設置した。*


*準備を終えたシロウは、海面に浮かべたボードの上に再び立つ。そして、魔力を足元のノズルに送り込んだ。*


*ゴオオオオオッ!*


*次の瞬間、ボードの裏から凄まじい勢いで海水が噴射され、シロウの体は水面から一気に空中へと浮き上がった。まるで足からジェット噴射をしているかのように、彼は水圧を推進力に変えて、海上3メートルの高さで静止する。*


シロウ:「(よし、こんなもんか)」


*彼は空中で軽くバランスを取ると、今度は体を捻り、その場で高速でスピンを始めた。きりきり舞いながら、まるでフィギュアスケーターのような華麗な回転技を空中で披露する。*


*サーフィンですら度肝を抜かれた人々にとって、それはもはや理解の範疇を超えた光景だった。人が、水の上で、空を飛んで、回っている。*


カイ:「と、父さんが、飛んでる!? 水で飛んでる! すごい! 僕もやりたい! あれやりたい!!」

*カイは興奮のあまり、ぴょんぴょんと跳ねながら絶叫している。彼の探求心と冒険心は最高潮に達していた。*


ルーナ:「フ、フライボードですって!? しかも魔力供給による自立稼働式! 本家を超えてますわ! サーフィンからのフライボードコンボとか、どんだけパリピな前世を送ってたんですの父様は!? 尊すぎて…もはや神々しい…! 映像記憶メモリに永久保存ですわ!」

*ルーナは感極まり、両手で顔を覆っている。父親の繰り出す「エモい」光景の連続に、彼女のオタク魂は完全に打ちのめされていた。*


ルミナ:「まあ♡♡♡ お兄ちゃんたら、今度は空を飛んで…♡ くるくる回って、とっても素敵♡♡ まるで、ルミナを迎えに来てくれた天の使いのようですわ♡♡♡」

*ルミナはうっとりと、空中で舞うシロウの姿に完全に心を奪われている。彼女の中では、夫の行動すべてが愛おしいものに変換される。*


レイラ(魔王女):「な、ななな、なんだあれはーっ!? 飛んだぞ!? 板から水を噴き出して飛んだぞ!? しかも回っておる! ふ、ふん! あんなもの、目回しであろう! だが…妾とて、魔王だぞ! 飛ぶくらいわけないわ! シロウ! 降りてこい! 今すぐその妙な板を妾に寄越せ! 妾の方がもっと高く、もっと速く飛べるに決まっておるわ!!」

*レイラは先ほどのサーフィンへの対抗心も忘れ、完全に新しいおもちゃに目を輝かせる子供のように、シロウに向かって大声で叫んでいた。嫉妬も、男たちの視線も、今はもう彼女の頭からは消え去っている。ただただ、夫の創り出した新しい遊びへの興味と対抗心でいっぱいだった。*


*シロウは華麗に水面に着地すると、足の固定を外し、フライボードをレイラの方へ向かって軽く投げ渡した。空を飛ぶという未知の体験に目を輝かせていたレイラは、それを慌ててキャッチする。*


シロウ:「仕方ないなー、ほら」


レイラ(魔王女):「ふん、ようやく妾に渡す気になったか。いいだろう、貴様より高く飛んで、その鼻を明かしてくれるわ!」


*レイラは意気揚々とボードの上に乗り、シロウがやっていたように、足首を固定具にはめた。そして、仁王立ちになり、魔力を込める…つもりでいた。しかし、彼女は気づいていない。シロウがボードから水を噴射させていたのは、シロウ自身の水魔法と精密な魔力操作によるものであり、ボード自体にそんな機能はないということを。*


レイラ(魔王女):「む…? なんだ…? 飛ばんぞ…? シロウ! 壊れておるではないか、これは!」


*レイラがボードの上でぴょんぴょんと跳ねてみるが、ただ水面にぷかぷかと浮かんでいるだけで、一向に飛ぶ気配はない。ただの板切れと化したそれに、レイラは騙されたと思ってシロウを睨みつけた。*


*その様子を見て、シロウはくつくつと笑う。*


シロウ:「それはただの板だぞ。俺が水魔法で無理やり飛ばしてただけだ。お前も自分でやってみろ」


レイラ(魔王女):「なっ…! は、はめおったな、シロウ! くっ…! い、言われずとも、やってやるわ!」


*レイラは顔を真っ赤にしながら、今度こそ自分の魔力でボードの裏から水を噴射させようと、悪戦苦闘を始めた。しかし、慣れない操作に、ボードはあらぬ方向へ暴走し、彼女は何度も水中に叩きつけられる。*


*その間に、シロウは隣で目をキラキラさせている息子、カイの方を向いた。*


シロウ:「カイもやってみるか?」

カイ:「うん! やりたい!」


*シロウは「はいよ」と言って、先ほどと同じように砂からもう一つ、カイ専用の小さなフライボードを【創造】する。そして、今度はカイが自分で操作しやすいように、噴射のオンオフと出力調整ができる、手のひらサイズのボタン式コントローラーも一緒に作って渡した。ボード自体に魔力を込めて、コントローラーの信号で水流を制御できるように改良した特別製だ。*


シロウ:「このボタンを押すと水が出る。押し方で強さも変えられるから、自分で調節してみな。最初は低く飛ぶ練習からだぞ」

カイ:「うん、父さん! ありがとう!」


*カイは早速コントローラーを握りしめ、恐る恐るボードに乗る。ボタンをそっと押すと、ボードから弱い水流が噴射され、彼の体がゆっくりと水面から浮き上がった。*


カイ:「うわっ! 浮いた! 浮いたよ父さん!」


*カイは歓声を上げ、少し不安定ながらも、空中に留まろうと必死にバランスを取っていた。その隣では、レイラが「ぐぬぬ…!」と唸りながら、まだ水と格闘している。母と子の微笑ましい(?)光景がビーチに広がっていた。*


*シロウは、息子のカイが楽しそうにフライボードの練習をしているのを見守りつつ、隣でいまだに悪戦苦闘している妻、レイラに視線を移した。彼女はプライドをかけて自力で飛ぼうと、膨大な魔力を無理やり制御しようとしている。その真剣な横顔が面白くて、シロウはつい悪戯心が湧いてしまった。*


*彼はそっとレイラの背後に回り込み、耳元で突然、大声を上げた。*


シロウ:「わっ!」


レイラ(魔王女):「ひゃっ!?」


*不意を突かれたレイラは、可愛らしい悲鳴を上げてビクッと体を震わせた。その瞬間、集中していた魔力の制御が一気に乱れる。*


*ゴオオオオオオオオオオッ!!!*


*次の瞬間、レイラの足元のボードから、先ほどまでとは比較にならないほどの凄まじい勢いで海水が噴射された。それはまるでロケットの発射だった。*


レイラ(魔王女):「なっ、なああああああああーーーっ!?」


*制御を失ったフライボードは、レイラを乗せたまま一直線に空へと打ち上げられる。彼女は絶叫しながら、あっという間に豆粒のようになり、青い空の彼方へと消えていった。やがて、遠くの海面で小さな水柱が上がるのが見えた。*


*そのあまりにも見事な吹っ飛びっぷりに、ビーチは一瞬静まり返り、その後、爆笑の渦に包まれた。*


カイ:「あはははは! 母さんが飛んでった! ロケットみたい!」


*カイは空を指さして大笑いしている。*


ルーナ:「なんという美しい放物線…! 花火のようですわ! 父様のナイスアシスト、しかとこの目に焼き付けました! これぞ夫婦の共同作業ですわね!」


*ルーナは興奮気味に拍手を送っている。彼女にとって、これもまた「てぇてぇ」光景の一つらしい。*


ルミナ:「まあ♡ お兄ちゃんたら、お茶目ですわね♡ でも、あんなに飛ばしてしまって…レイラ、戻って来たらカンカンですわよ? …まあ、そうなったら、今度こそお兄ちゃんはルミナだけのものになりますから、好都合ですけれど♡」


*ルミナはくすくすと笑いながら、シロウの背中にそっと抱きついた。嫉妬深いライバルが一人(物理的に)いなくなったこの状況を、彼女は最大限に活用するつもりのようだ。*


*シロウは海から上がり、灼けた砂浜を歩いて、適度な日陰を作っている大きな岩陰へと向かった。少し火照った体を休ませるのにちょうどいい場所だ。彼が岩に背を預けて一息つくと、すぐにさらさらという砂を踏む音が近づいてきた。*


*見ると、白いモノキニ姿が眩しいルミナが、嬉しそうな笑みを浮かべてこちらへ歩いてくるところだった。彼女はシロウの隣に何の躊躇もなく腰を下ろすと、自然な仕草でその肩に寄りかかる。*


ルミナ:「お兄ちゃん♡ お疲れ様ですわ♡」


*彼女はそう言うと、持っていた冷たいフルーツジュースの入ったグラスをシロウに差し出した。グラスには水滴がついており、見るからに涼しげだ。*


ルミナ:「喉が渇いたでしょう? ルミナが魔法で冷やしておきましたの♡ あーん♡♡」


*彼女は自分で飲ませてあげようと、ストローをシロウの口元へと運んでくる。その瞳は潤んでいて、夫と二人きりになれたこの状況を心から喜んでいるのが伝わってきた。少し離れた場所では、カイがフライボードの練習に夢中になっており、ルーナがその様子を「推しの幼少期…尊い…」と呟きながら熱心に観察している。空の彼方に飛んでいったレイラは、まだ戻ってきていない。*


*岩陰は、まるで世界から切り取られたかのような、静かで甘い二人だけの空間になっていた。*

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