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第9話 詠唱はプログラムコード!?発動条件は最適化出来る!

王宮の魔法研究室。


古びた書物が無造作に積まれ、壁際には魔道具の数々が整然と並ぶ。

その中央の長机の上では、今まさに“異世界の革命”が始まろうとしていた。


「——つまりだ!」


机の上にドンッと両手をつき、熱弁を振るう黒髪の青年。


「詠唱ってのは呪文じゃなくて、“プログラムコード”みたいなもんなんじゃねぇか?」


魔法士たちは一斉に沈黙した。


「……ぷろぐらむ?」


「なんじゃ、それは?」


「また勇者殿の訳の分からん理屈が始まったぞ……」


ざわ……ざわ……


室内には困惑の空気が漂う。


迅は一人、面白そうにニヤリと笑いながら、人差し指で机をトントンと叩く。


「おいおい、そこから説明しなきゃダメか?」


「ダメに決まっておるじゃろ!」


ツッコむロドリゲスに、迅は肩をすくめる。


「まぁ、そうだな。じゃあ簡単に説明してやるよ」


迅はチョークを手に取り、黒板にさらさらと何かを書き出した。


《フレア・リィス》

《エア・ブリッツ》


「これはお前らの魔法の呪文だよな?」


「……そうじゃが?」


「ここから無駄な部分を削って、もっと効率のいい形にできないかって話さ」


魔法士たちは困惑しつつも、興味を持ち始める。


「無駄な部分……?」


「つまり、短縮するということか?」


「おう、そういうこと」


迅は指を鳴らして続ける。


「魔法の詠唱は、ただの決まり文句じゃなくて、“魔力をどう動かすかを決める命令”なんだと俺は思ってる」


「命令……?」


「そう、命令だ」


迅は黒板に追加で書き込んだ。


魔法発動 = 魔力 + 詠唱(命令コード)


「要するに、詠唱ってのは『魔力をこの形で使え』っていう指示を出してるわけだ」


「む……確かに、そういう考え方もできるかもしれんのう……」


ロドリゲスが顎に手を当てて唸る。


「だったら、コードを最適化すれば、詠唱時間を短縮できるんじゃね?」


「ば、馬鹿な!」


「そんなこと……できるのか!?」


魔法士たちはどよめいた。


「今までそんな発想はなかった……!」


その時——


「……じゃあ、実際に試してみなさいよ」


静かな声が響いた。

研究室の入り口に立っていたのは、銀髪の少女。


リディア・アークライト。


彼女は腕を組みながら、じっと迅を見つめていた。


「おっ、天才魔法士様のお出ましか」


迅はニヤリと笑う。


「どうした? 俺の研究が気になっちまったか?」


「……別に」


リディアはツンと顔を背ける。

だが、心の中では——


(この人、やっぱりただの異世界人じゃない……!)


この数日で、彼女の中の迅に対する印象は大きく変わっていた。


異世界から来た“勇者”ではなく——魔法の本質を解き明かそうとする“探究者”。


「……理論だけで語るのは簡単よ。実際に、短縮できるというのなら見せてみなさい」


「へぇ……」


迅は満足そうに頷いた。


「いいねぇ。天才魔法士様に興味を持たれるとは光栄だ」


「別に、あなたに興味があるわけじゃないわ」


「……そっかそっか」


迅はニヤニヤしながら黒板をトントンと叩く。


「じゃあ、実験開始といこうか!」



王宮の魔法研究室に張り詰めた空気が漂う。

迅の「詠唱を最適化できる」という大胆な仮説を証明するため、いよいよ実験が始まろうとしていた。


部屋の中央には、ロドリゲスをはじめとする宮廷魔法士たちが、半信半疑の表情で立ち並んでいる。

そして、机を挟んで向かい合うのは、黒髪の異世界人・九条迅と、銀髪の天才魔法士・リディア・アークライト。


「さて、まずは基準となるデータを取らないとな」


迅はそう言って、手元のノートにサラサラとメモを取り始めた。


「ロドリゲスのじいさん、まずは普通の詠唱で《フレア・リィス》を発動してくれ」


「うむ……それは構わんが、本当に短縮できるのかのう?」


「それを今から証明するって話だ」


迅はニヤリと笑い、机の上に手帳を開く。


「頼むぜ、じいさん」


「ふむ……では、いくぞ」


ロドリゲスは目を閉じ、深く息を吸い込む。


「《フレア・リィス》!」


次の瞬間、彼の掌に小さな炎が灯った。

部屋の中がオレンジ色の光で淡く染まる。


「ふむ、発動時間は約1.2秒。詠唱時間0.8秒、発動ラグ0.4秒ってところか……」


迅は腕を組みながら、目を細める。


「では次に……おぬしがやってみるか?」


ロドリゲスが興味深そうに尋ねる。


「そうだな。じゃあ、やってみるか」


迅は軽く指を鳴らし、目を閉じる。


(さて、やることはシンプルだ——)


魔法の発動時に脳内で何が起こっているのかを解析する。


彼はゆっくりと呼吸を整えながら、自分の身体の内側に意識を集中させた。


(魔力を操るとき、俺の脳のどこが活性化してるのか……詠唱のどの瞬間に“魔法の起動”が発生してるのか……)


ロドリゲスと同じように、迅は詠唱を唱える。


「《フレア・リィス》」


掌にポッと炎が灯る。


「ふむ、これで基準値はOKっと」


迅は、魔法が発動した瞬間の脳内イメージを完全に記憶する。


詠唱のどの部分で、魔力の流れがどう変化しているのか。

どの言葉が、魔力を増幅させ、どの言葉がただの補助的な役割を果たしているのか。


(よし、次は削っていく)


「……じゃあ、詠唱を短くして試してみるか」


「バカな!?」


「それは無茶じゃ!」


魔法士たちがどよめいた。


「おいおい、驚くのはまだ早いぜ?」


迅はニヤリと笑い、再び掌を掲げる。


「《フレリ》」


——ぽっ。


先ほどとほぼ変わらない小さな炎が灯った。


「!?」


「で、出た!?」


「まさか、詠唱を短縮しても発動するなど……!」


魔法士たちは信じられないものを見る目で迅を見つめる。


「なるほど……短縮しても、ちゃんと魔法が発動するのね」


リディアは腕を組みながら、小さく頷いた。

だが、すぐに鋭い目つきで迅を見つめる。


「……でも、それは偶然じゃないの?」


「偶然? へぇ、じゃあもう一回やってみるか」


迅は肩をすくめながら、次の詠唱を試す。


「《フリ》」


——ぽっ。


再び、小さな炎が灯る。


「……」


リディアの紫紺の瞳が驚きで揺れる。


「な……!?」


「ま、まだ発動するだと……!?」


「勇者殿、これは一体……」


魔法士たちは騒然となった。


「……なぜ、そんなことが可能なの?」


リディアが静かに問いかける。


「まぁ、簡単な話さ」


迅は指をパチンと鳴らした。


「詠唱ってのは、魔力を制御するための“命令コード”みたいなもんだって言ったよな?」


「……ええ」


「じゃあ、その“コード”をもっと効率よく書き換えれば、余分な部分を削れるって話だ」


リディアは、じっと迅の顔を見つめる。


(偶然じゃない……彼は、本当に計算して詠唱を短縮している……?)


知らず知らずのうちに、彼女は彼の表情を凝視していた。


(まるで全てを見通しているみたいに、不敵に微笑んでいる……)


何かが、胸の奥で小さく跳ねる。


「……ま、まぐれかもしれないわよ?」


「おいおい、まだ言うか」


迅は笑いながら、最後の実験に入る。


「じゃあ、最短の詠唱で試してみるか」


「最短?」


魔法士たちはゴクリと息をのむ。


「つまり……“発音しなくてもいい部分を全て削る”ってことさ」


迅はゆっくりと掌を掲げる。

魔法が発動した時の自分の脳の状態を詳細に思い出し、それを再現しながら一言だけ発する。


「——フ」


——ポッ!


炎が灯る。


「!!??」


「な、なにぃぃぃぃっ!!?」


魔法士たちは椅子から転げ落ちそうになった。


リディアも、目を大きく見開く。


「バ……カな……」


「嘘だろ……?」


「言葉になってねぇぞ……?」


「やべぇ、勇者殿が魔法の常識をぶっ壊し始めたぞ……!」


迅はニヤリと笑いながら、指をパチンと鳴らした。


「どうだ? これが“最適化”ってやつだよ」


リディアは言葉を失いながら、彼を見つめ続ける。


その胸の奥にあるのは、驚愕と……それとは別の、得体の知れない感情。


(こんな面白い人、初めて見た……)


しかし、彼女はその気持ちにまだ気づいていなかった。


こうして——


九条迅は、魔法士たちの常識を根本から覆し始めたのだった。

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