表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜  作者: 難波一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/70

第66話 科学勇者 vs. 剣聖①――静かなる序章

 王宮の訓練場の観戦用席は、すでに人で埋め尽くされていた。


 王国の貴族、軍の将官、"賢律院けんりついん"の高官たち。 さらには、王宮に仕える魔法士たちまでもが、勇者と剣聖の決闘を一目見ようと集まっている。


 観客席には、異端排斥派の貴族たちが並び、どこか勝ち誇ったような表情を浮かべていた。



 「剣聖に挑むとは……いくら異世界の勇者とはいえ、身の程を知らぬにもほどがあるな。」


 「剣士ではなく、魔法士だという話だろう? ならば、勝負になるはずもない。」


 「勇者を英雄として祭り上げる愚行を、ここで正す好機ではないか。」



 彼らはこの決闘を、「勇者を失墜させるための見世物」 くらいにしか考えていない。



 しかし、彼らのそんな期待をよそに、王国の軍人たちは違った視線を送っていた。



 「あの勇者……たった一人で”黒の賢者”アーク・ゲオルグを退けたというが……」


 「剣聖様相手にどこまでやれるのか……正直、予想がつかん。」



 勇者・九条迅は、既に戦場で”実績”を作り上げている。


 “黒の賢者”という強敵を退けたという事実は、王国軍にとって無視できないものだった。


 その彼が、王国最強の剣士・剣聖カリム・ヴェルトール に挑む。


 その戦いの行方は、誰にも分からなかった。


 


 ◇◆◇



 

 「……勇者殿。」


 観客席の貴族たちのざわめきをよそに、ロドリゲスが迅に近づき、低く囁いた。


 「“魔力収束粒子砲マギア・コンヴァージ“は、使わぬようにな。」


 「当たり前だろ!」


 迅は即座にロドリゲスの忠告を否定した。


 「俺は剣聖と決闘するだけで、殺し合いをするわけじゃねぇんだぞ!」


 「……ならばよい。」


 ロドリゲスは深く頷く。


 それでも、その目には不安の色が滲んでいた。


 九条迅が異世界に召喚されてからの行動を見てきた彼は、迅が「やると決めたら妥協しない」ことをよく知っている。


 迅が本気を出せば、どこまで強力な技を繰り出すのか、ロドリゲスでさえ完全には把握できていなかった。


 しかし、迅はロドリゲスの心配を察したのか、笑って肩をすくめる。


 「……安心しろよ、じいさん。俺は戦いを研究するのは好きだが、戦争をするのは嫌いなんだ。」


 その言葉に、ロドリゲスはふっと息をつく。


 「ふむ……まったく、お主は危うい男じゃ。」


 「褒めてんのか、けなしてんのかどっちだよ。」


 ロドリゲスがすべての力を出し切るように言わないのは、迅が戦場ではなく決闘の場に立っているからだ。


 これは戦争ではなく、“誇り”をかけた戦い。


 迅自身も、それを理解していた。


 


 「……ふん。」


 剣聖・カリム・ヴェルトールは、ゆっくりと剣を抜いた。


 華美な装飾のない、実戦仕様の長剣。 しかし、その刃には”剣聖”の名に相応しい鋭さが宿っている。


 「異世界の勇者よ。」


 カリムは迅を見据えながら、静かに言った。


 「剣士としての実力、見せてもらおう。」


 迅は軽くレイピアを振りながら、肩をすくめる。


 「まぁ、試してみればわかるんじゃねぇの?」


 その言葉に、カリムの口元がわずかに笑みを浮かべる。


 「ならば、始めよう。」



 ◇◆◇



 決闘の合図が鳴り響いた瞬間——空気が張り詰める。


 剣聖・カリム・ヴェルトールは、無駄なく流れるような動きで長剣を構え、迅の出方を探る。


 一方の迅は、レイピアを軽く回しながら肩の力を抜いていた。


 「……。」


 カリムの瞳が、迅の一挙一動を鋭く観察する。


 剣士同士の決闘において、最初の”間合いの探り合い”がすべてを決める。


 カリムはすでに”剣聖”の域に達している。剣士としての勘も研ぎ澄まされている。


 しかし——


 (……妙だな。)


 目の前の勇者は、決闘の場に立つ剣士特有の緊張感が薄い。


 まるで、“戦場に出たばかりの新兵”のような、危なげな印象を与える。


 「やはり、異世界の勇者といえど、剣士ではないのか?」


 そんな疑念が、カリムの脳裏をよぎる。


 


 ——ヒュンッ!



 

 次の瞬間、迅が素早く動いた。


 カリムの視線がわずかに鋭さを増す。


 (剣を抜くのではなく、動きながら様子を見る……?)


 普通の剣士であれば、まずは初撃を仕掛け、相手の反応を確かめるものだ。


 だが、迅はそれをしなかった。


 相手の攻撃を待つのでもなく、牽制の一撃を打つでもなく、“フットワークの軽さ”だけでカリムの周りを動きながら、何かを測るように立ち回る。


 (……フム。)


 カリムは静かに微笑む。


 どうやら、相手は”決して戦いに素人というわけではない”らしい。



 

 「じん……。」


 観客席から見守るリディアは、手を胸元でぎゅっと握りしめた。


 (思ったより動けてる……けど、カリム相手に大丈夫なの……?)


 “剣聖”の実力は、リディアもよく知っている。


 カリムは貴族として生まれ、幼少期から徹底した剣の鍛錬を積んできた。


 彼が見せる”流水の如き剣技”は、並の剣士が決して超えられない壁だ。


 その彼を前に、迅は——


 「……いや、大丈夫ね。」


 不安とともに、リディアの中には”確信”もあった。


 彼は、どこか楽しそうに”戦いを分析している”ように見えた。


 (ジンは研究者よ……戦いすら、実験の一環として見ている。だから——)


 “彼は、簡単には負けない”


 そう思った瞬間——


 


 カリムが動いた。


 「——来るか。」


 迅の脳裏に、一瞬で”相手の意図”が走る。


 カリムは、一切の予備動作なく、まるで水が流れるように足を滑らせ、間合いを詰めてきた。


 (速い——!)


 次の瞬間——


 キィンッ!!


 乾いた金属音が鳴り響く。


 迅が間一髪でレイピアを振り、カリムの剣を弾いたのだ。


 「ほう……」


 カリムの口元に、ほんのわずかに興味の色が浮かぶ。


 彼の攻撃を、“剣で受け止めた”のではなく、“反射的に弾いた”。


 この違いは大きい。


 剣を受け止めるには、腕力と技術が必要だが、剣を弾くには”速度と反応力”が必要になる。


 つまり——


 (こいつ……)


 (普通の剣士とは、“違う”。)


 初撃を交えたその瞬間、カリムは迅に対する評価を改めていた。


 「——面白いな、異世界の勇者よ。」


 カリムの目が、好奇の色を帯びる。


 迅は軽く息をつき、笑って肩をすくめた。


 「そっちもな。」


 「では、もう少し本気を出してみるか。」


 カリムは剣を構え直し、その目に“真剣な光”を宿す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ