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第5話 迅 vs. リディア——科学と魔法の融合①

 王宮の中庭。昼下がりの陽光が石畳を照らし、心地よい風が通り抜けている。

その中央、訓練場の円形闘技場に、異世界からの勇者と王国最年少の天才魔法士が向かい合っていた。


九条迅は両手を軽く上げて、困ったような笑みを浮かべる。


「あー……悪いけど俺、たった今覚えた”炎のフレア・リィス“しか使えないんだよな。」


「……それは困ったわね。」


リディア・アークライトは、まるで貴族の社交場で会話でもするような余裕の笑みを浮かべる。しかし、その紫紺の瞳は鋭く迅を見据えていた。


「でも、それなら私も”風のエア・ブリッツ“だけで相手をしてあげるわ。」


「は?」


周囲の魔法士たちがどよめいた。


「リ、リディア様まで!?」

「いやいや、さすがにそれは……」

「そもそも勇者殿は、まだ魔法の戦闘経験がほとんどないはず……!」


しかし、リディアはさらりと言ってのける。


「おかしな話ではないでしょう? 彼はたった一つの魔法しか使えない。だったら、私も一つに制限して戦えばフェアじゃない?」


魔法士たちがざわつく中、迅は腕を組んで考える素振りを見せた。


「……なんか、お前がそこまで言うと、俺の方が舐められてる気がするんだけど。」


「ふふっ、どうかしら?」


リディアは可愛らしく笑うが、その目は全く笑っていない。


(……この女、完全に俺を試しにきてるな。)


迅は内心で苦笑しつつ、興味が湧いてくるのを感じた。


「まぁ、いいぜ。どうせ魔法戦の経験も積んでおきたかったしな。」


迅が了承すると、ロドリゲスが訓練場の端で腕を組み、満足げに頷いた。


「よし、ならば正式な模擬戦としよう!」


こうして、異世界の勇者と王国の天才魔法士の模擬戦が決まった。




訓練場は静寂に包まれていた。

王宮の魔法士たちが見守る中、迅とリディアは石畳の上に立つ。


リディアはスッと杖を構えた。


「準備はいい?」


迅は特に構えもせず、周囲をじっくりと見回していた。


(この訓練場、石畳は整備されてるが、あちこちにかなり砂や埃が溜まってるな。)

(陽の角度は……風向きは南東寄り。湿度は低め。)


「……ねぇ、何してるの?」


リディアが微かに眉をひそめた。


「いや、戦う前に環境を確認してるだけだ。」


「環境?」


「戦闘において、地形を把握するのは基本だろ?」


「……」


リディアはわずかに口角を上げる。


(言ってることは正しいわね。でも、今の彼の表情……)


まるで実験前の研究者のような、冷静で分析的な目——。


(本当に……異世界の人間なのね。)


ロドリゲスが手を上げた。


「——始め!」


その瞬間——



「うおおおお!? 逃げろおおおお!!!」


迅が訓練場を全速力で駆け出した。



「……え?」



リディアの思考が一瞬フリーズする。


(な、なにそれ!?)


「ちょ、ちょっと!?」


バタバタと地面を蹴り上げ、大げさに砂埃を巻き上げながら走り回る迅。


観客の魔法士たちも唖然としていた。


「な、なんという腰抜け戦法……!?」

「いや、これは……?」

「え、えっと……戦略的撤退?」


リディアは大きく息をついた。


「……無駄な抵抗ね。」


すっと手を上げ、“風のエア・ブリッツ“を発動。


——バシュッ!


一直線に風の刃が放たれる。しかし——


「おっと、危ねぇ!」


迅は、ギリギリのタイミングで回避した。

リディアの目が僅かに細められる。


(……まあ、今のは偶然よね。)


次の瞬間、彼女はすぐに二撃目を放つ。


「エア・ブリッツ!」


——バシュッ!


しかし——


「ほい……っと。」


迅は、それすらも余裕をもって避けた。


「えっ……?」


リディアは目を見開く。


(今のは……今のはただの偶然じゃない。)


「もう一発!」


——バシュッ!


だが、迅はまたもや紙一重で避けた。しかも、どこか確信を持った動きだった。


リディアの眉がぴくりと動く。


(まるで……魔法が発動する前に、方向を読んでいるみたい……!?)


観客の魔法士たちも、何か異変に気づき始めた。

リディアが放つ風の刃を避ける勇者の動きが、見る見るうちに洗練されていく。


「な、なんだ……? なんか勇者殿、妙に動きが洗練されてないか?」

「避けてるだけじゃなくて、余裕すら感じられるぞ……」


リディアはじっと迅を睨みながら、考え込んだ。


(おかしい……。まさか、彼は……)


迅はニヤリと笑い、指をパチンと鳴らした。


「さて、そろそろネタばらしといくか。」


リディアの心臓が、ドクンと高鳴る。


「……なんですって?」


「お前の魔法の仕組みが、だいたい分かった。」


「!?」


リディアは驚きに目を見開く。


(この男……今の短時間で、私の魔法の特性を見抜いたとでも言うの……!?)


彼女は更に、この後の迅の説明に驚愕することになる——。

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