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科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜  作者: 難波一


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第41話 胸が高鳴る、そんな夜

 リディアの浮遊魔法が、微かに揺らぎながら宙に漂っていた。


 それはまるで風に吹かれる炎のように、一定のリズムで波打ち続けている。


「これは……やっぱり、魔力には波動性があるってことだよな……」


迅は実験ノートをめくりながら、しばし沈黙する。

彼の目は鋭く、揺らめく魔法の光をじっと観察していた。


リディアもまた、その現象に息を呑んでいた。


「電磁波と魔力が……共鳴してる……」


ゆっくりと手を伸ばし、指先で魔力の光に触れる。

軽く押すと、波紋のように広がり、再び安定する。


(魔法はただのエネルギーの流れじゃない……もっと、根本的な何かが関わっている)


——そんな仮説が、リディアの脳裏を駆け巡る。


「……まさしく!」


迅が突然指を鳴らし、興奮した声を上げる。


「魔力が波動性を持ってるってことは、俺たちはこれを操作できる可能性があるってことだ!」


リディアも我に返る。


「操作……? どういうこと?」


「例えば音波を考えろ。波はお互いに干渉し合う。増幅したり、逆に打ち消し合ったりするよな?」


迅は手元の羊皮紙を指で弾きながら続ける。


「つまり魔力も同じように、適切な干渉を与えれば、自由に制御できるかもしれねぇってことだ!」


「ま、まって……つまり、魔力の“波”をうまくコントロールすれば、より強力な魔法が撃てる……?」


「そういうこと! 逆に、特定の波形をぶつければ、魔法をかき消すこともできるかもしれない!」


リディアは目を輝かせ、思わず椅子を引いた。


「もしそれが本当なら……魔法そのものの概念が変わる……!」


興奮のあまり、二人は無意識に手を取り合っていた。

しかし——


「……っ!」

リディアはハッとして、ぱっと手を引っ込めた。

「え、えっと……その……」


「お、おおう……」

迅もまた、急に気まずそうに咳払いをする。


沈黙が流れる。

——ほんの数秒間、しかしやたらと長く感じられる沈黙。


(……うわ、何やってんだ私……!!)


リディアは内心で顔を真っ赤にしながら自分を叱責する。

ついさっきまで、純粋に研究の話をしていたはずなのに、どうしてこんな妙な空気になってしまったのか。


迅もまた、視線を泳がせながら、ぎこちなくノートにペンを走らせる。


(いや、別に手を取るくらい普通だよな……うん、普通……!)


「……あー、まあ、それはともかく!」


慌てて話題を戻す迅。


「とにかく、魔力には波の性質があるってのはほぼ確定だろ! これを応用すれば、新しい魔法の形が見えてくる!」


「そ、そうね……!」


リディアも頷き、何とか平静を装う。


(落ち着け、私は魔法士……今は研究のことだけ考えるのよ!)


「……それにしても、まさか魔力が波として扱えるとはなぁ」


迅は再び考え込むように呟いた。


「俺たちの世界の科学にも似たような現象があった。光も波としての性質と粒子としての性質、どっちも持ってるんだ」


リディアは興味深そうに身を乗り出した。


「光が、波と粒……?」


「そう。波としての光は屈折や干渉を起こすし、粒としての光は物にぶつかってエネルギーを与えることもできる。まあ、量子力学の話になるから詳しく説明するとややこしくなるけど」


「じゃあ、魔力も……?」


「そうだな……魔力も波動と粒子の両方の性質を持ってると考えれば、色んなことが説明つくかもしれねぇな」


リディアはその言葉を反芻するように、そっと呟いた。


「魔法の本質に……近づいてる気がする」


「おうよ!」


迅は自信満々に頷く。


「それに、この仮説が正しければ——魔法のエネルギー効率をもっと良くする方法が見つかるかもしれねぇ!」


リディアの胸が高鳴る。

彼女の夢である「魔法の本質を解き明かす」ことに、また一歩近づいたのだ。


(もしかすると、魔力を持たない人でも魔法を使えるようになる方法が見つかるかもしれない……!)


その想いを口にしてしまいたい。

リディアの胸は高鳴った。


「それなら、すぐに次の実験を——」


そう言いかけた瞬間——


「……って、やべ、もうこんな時間か!!」


迅が時計を見て驚愕する。


「えっ!? ……あ、本当だ……!!」


リディアもまた、すっかり時間を忘れていたことに気づく。


窓の外は既に深夜。

研究に熱中しすぎて、すっかり寝る時間を過ぎていた。


「くそっ、またやっちまった! 明日の朝、ロドリゲスに怒られる!!」


「ふふっ……でも、楽しかったわね、今日も」


「お、おう……まあ、充実してたよな」


リディアは小さく微笑みながら、魔法の光をそっと掴むように指を伸ばした。


「ねえ、迅……」


「ん?」


「あなたがこの世界に来てくれて、本当に良かったと思うわ」


「……お、おう?」


突然の言葉に、迅は少し驚いたような顔をする。


「だって、あなたがいなかったら……私は、ずっとこの世界の常識に縛られたままだったかもしれない」


「……」


「魔法は変えられないものだって、どこかで諦めていたかもしれない」


「……リディア」


「でも、あなたは違った」


彼女はまっすぐに迅を見つめる。


「あなたは、この世界の誰も考えなかった方法で魔法を研究し続けてる。それが、どれほどすごいことか……あなた自身は、あまり気づいていないかもしれないけど」


「……」


迅は少しだけ目を見開いた。


リディアは、すぐにそっぽを向きながら——


「……な、なんでもない!やっぱりわたし、もうちょっと勉強してから寝るわ!」


再び迅の記したノートに目を落とす。

その耳がほんのり赤く見えるのは、蝋燭の火のせいだろうか。


「……なんだぁ? あいつ……」


ポリポリと頬をかきながら、迅は肩をすくめる。


(まあ……楽しい夜だってのは、間違いねぇよな)


そう思いながら、彼もまた、夜の静寂の中、羊皮紙にペンを走らせるのだった——。

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