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科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜  作者: 難波一


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第31話 対話か戦闘か――揺れる判断と理論の先

王宮の広間に足を踏み入れた途端、空気が張り詰めるのを感じた。


さっきまで静かだった宮廷魔法士たちは、こちらが入ってくるや否や、ざわざわと小声で話し始める。


「……本当に、魔族だったのか?」

「まさか、王宮に堂々と……」

「勇者殿とリディア様が対応したと聞いたが……」


顔を見合わせ、不安げな視線が行き交う。


リディアはその空気を断ち切るように、ズカズカと歩を進めると、鋭い声を放った。


「……ありえないわ。魔族が王宮に入り込むなんて!」


普段は冷静な彼女の怒りが露わになっているのを見て、周囲の魔法士たちも口をつぐむ。


「それも、堂々とよ? 侵入者とか、奇襲とか、そんなのじゃなく、まるで王宮に“訪問”するかのように!」


彼女の拳が小さく震えていた。


それを見たロドリゲスは、腕を組んだまま静かにため息をつく。


「……しかし、奴は明確な敵意を見せなかった」


「そんなの関係ないわ! どうして魔王軍の幹部がここに入り込めたのか、それ自体が異常なのよ!」


リディアは食い下がる。彼女の中では、戦場で相対するべき存在が、こうして王宮の廊下を堂々と歩いていたという事実が受け入れられないのだ。


「それに、あの男……アーク・ゲオルグ……ただの魔族じゃない……」


「……どういうことじゃ?」


「魔力が……異質だったのよ」


リディアは腕を抱きしめるようにしながら、静かに言った。


「普通の魔族とは違う、圧迫感がないのに、でも異常なほど研ぎ澄まされている……そんな感じだった……」


王宮魔法士たちがざわめく。


「まさか、魔族の魔法にも違う系統があるのか……?」

「いや、でも奴は魔導研究者……」

「しかし、勇者殿とリディア様がいなければ、どうなっていたか……」


言葉の端々から、彼らが強い警戒心と動揺を抱えているのがわかる。


王宮魔法士たちの議論——意見の対立


すると、一人の魔法士が前に出て、声を上げた。


「……ならば、いっそ攻撃を仕掛けるべきでは?」


それは、先日の模擬戦で迅と戦った魔法士の一人、ガルツだった。


彼は鋭い眼光を迅に向け、真剣な表情を見せる。


「勇者殿、あなたはどう思う?」


迅は、その問いに少し考え込んだ。


「……戦うのは簡単だが、それで何が変わる?」


「何が、とは?」


「俺たちが何の情報も持たないまま、いきなり刃を向けて、もしアイツが反撃してきたら、どうする?」


迅は淡々と言った。


「俺の見立てじゃ、アイツは確かに敵側だろうが、少なくとも交渉のテーブルにつこうとする余地は持ってる……今のところはな」


ガルツが眉をひそめる。


「しかし、やつが敵であることに変わりはないはずだ。いずれ戦うのなら、早めに仕掛ける方が——」


「それは単なる短絡的な決断だ」


迅は鋭く言い返す。


「科学者ってのはな、たとえ敵であっても、そいつが何を考えているかを見極めるもんだ。頭ごなしに拒否するより、どんな思惑があるかを探る方が、よっぽど有益だろ?」


王宮魔法士たちがざわめく。


「……なるほど……」

「確かに、敵と決めつける前に、情報を集めるのは重要かもしれない……」


しかし、一方で、ビネットが不安げに口を開いた。


「ですが、勇者殿……あの魔族の“研究”が、一体何を目的にしているかもわかりませんよね?」


「それも、今後探ればいい話だろ」


迅は淡々と言った。


「向こうがどう動くか、何をしようとしているのか……俺たちは今、その情報すら持っていない。だったら、戦う前にまずは知ることが重要だ」


「……知ることが、重要……」


エドガーが呟く。


「そうだ。俺は科学の視点で物事を見る。戦う前にまず、相手の理論と戦略を知る。それが戦うための“最初の一手”ってやつだ」


リディアの揺れる心


リディアは、その迅の言葉を黙って聞いていた。


普段なら、「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないわ!」と反論していただろう。


でも——


(……私も、アイツのことをもっと知りたいと思ってしまった……)


それが、少しだけ悔しい。


彼女は唇を噛みながら、そっと迅を見た。


(迅は、アークをどう分析するの……?)


彼の思考を、自分はどこまで理解できるのだろうか?


——その興味が、リディアの心を揺さぶる。


だが、それを悟られまいと、彼女は努めて冷静を装った。


「……まあ、あなたがそう言うなら、好きにすれば?」


「……お、意外とあっさり納得するんだな」


「っ……! そ、そういうわけじゃないわよ! ただ……」


リディアは言葉に詰まり、顔をそむけた。


(……私が言いたいのは、そういうことじゃない……)


彼女の中で、言葉にならない感情が渦巻いていた。


そんなリディアの様子を見て、ロドリゲスは微かに笑う。


「ふむ……まあ、しばらくは慎重に様子を見るのがよかろうな」


「そういうこと」


迅は腕を組みながら、満足そうに頷いた。


「……ただし!」


リディアが鋭い視線を向ける。


「あなた、下手にアークと接触して、危険な目に遭ったりしたら許さないわよ!」


「……ああ、気をつけるさ」


そう答えた迅の表情は、どこか楽しそうだった。

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