第26話 科学勇者、無双する。
(モブ魔法士視点)
「要するに、策士タイプなんだよな?」
アルセイア王国の宮廷魔法士の一人、ガルツは腕を組みながらそう言った。
鍛えられた体躯を誇示するように立ち、仲間であるビネットとエドガーを見回す。
「勇者殿は魔法士としてはまだ素人。リディア様との模擬戦も、機転と科学知識とやらで乗り切ったに過ぎない」
「つまり、奴は奇策頼みだ」
ビネットが顎に手を当て、慎重に考え込む。
「ならば、俺たち3人が連携を取って真正面から押し切れば勝てるはずだ。惑わされず、実力でねじ伏せればいい」
「っつーかよぉ」
エドガーが気だるそうに肩を竦める。
「そもそも異世界の知識ってのが、そんなに戦闘で役立つか? こっちはガキの頃から魔法を学んできてるんだぜ?」
「ま、これで証明してやろうぜ」
ガルツが自信満々に言い放った。
迅は3人の前に立ち、相変わらず冷静な表情を浮かべている。
◇◆◇
「よし、始めるぞ!」
開始の合図とともに、3人は迅を囲むように布陣を取った。
「出し抜かれる前に、一気に畳み掛けるぞ!」
ビネットの指示のもと、3人は即座に詠唱を開始する。
「炎の矢!」(ガルツ)
「風の刃!」(ビネット)
「土槍!」(エドガー)
「終わりだ——」
3人はそう確信した——その瞬間だった。
——ゴロゴロゴロ……!!
「……ん?」
突如、空気が変わった。
まるで、空間そのものが震えているような違和感。
皮膚にチリチリとした刺激が走る。
「な、何だ……この感じ……?」
ビネットが困惑して立ち止まる。
そして——
「"雷槌"。」
迅が低く、静かに呟いた。
——ズドォォォォン!!!
空が裂けるような轟音とともに、巨大な雷撃が降り注いだ。
「うわぁぁぁぁっ!?!?」
3人はとっさに跳び退るが、地面には巨大な焦げ跡が残っていた。
「お、おい……?」
「ちょ、マジかよ!? こんな高威力の雷魔法が撃てるのか……!?」
口々に驚愕の声を上げるが、当の勇者はと言うと、
「やっぱ、勇者が使う魔法と言えば雷魔法だよな。」
等と、よく分からない事を呟きながら、満足気にうんうんと頷いている。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
「よし、"雷槌"。」
再び迅が詠唱する。
——ズガァァァァン!!!
「ぎゃああああああ!!!!」
「待て待て待て!! こんな連発アリかよ!!?」
「ぬわーーーっ!!!」
ガルツが直撃を受け、髪がボサボサのアフロ状態になっていた。
「な、何でだ!? 何でこんなことが……!?」
ビネットは必死に分析しようとするが、考える時間すら与えられない。
「くそぉ! ならば全員で一斉に——」
「リーダー放電の調整が難しいな……。ストリーマーの発生を狙って制御すれば、もっと細かく軌道を変えられるか?」
「……は?」
エドガーは何か聞き慣れない単語を耳にした。
「ちょ、え、何?」
「ま、いいか。とりあえず試してみるか」
迅がそう呟くと同時に——
「ほい、"雷槌"。」
——ズドォォォン!!!
3人の頭上に、さらに巨大な雷光が炸裂した。
「無理ぃぃぃぃぃ!!!」
エドガーは両手を挙げ、完全降伏の姿勢を取る。
「もうダメだ! これ勝てねぇ!!」
「勇者様、すみませんでしたぁぁ!!」
3人は雷の雨に怯えながら、思わず土下座をする。
◇◆◇
「……ふぅ。」
迅は雷魔法の発動を止め、一息ついた。
試しに撃ってみた"雷槌"だったが、予想以上に制圧力が高い。
「これ、使いようによっちゃ面白いな。分岐放電を利用すれば、複数同時に雷を落とせるんじゃ……」
「もうそういうの本当やめてください!!!!!」
3人が泣きそうな顔で叫んだ。
「ま、これで分かっただろ?」
迅はニヤリと笑い、彼らを見下ろした。
「科学的に魔法を理解すれば、こうなるってことさ。」
「……ぐ、ぐぅぅぅ……!」
悔しさに唇を噛むビネットだったが、周囲を見回すと——
王宮の魔法士たち全員が、静まり返っていた。
その目は、「勇者が規格外すぎる」という色を浮かべている。
(……なんだ、この完全敗北感……)
(俺たち、なんか歴史が変わる瞬間に立ち会っちまったのか……?)
3人はぼろぼろの姿で立ち上がりながら、静かに勇者・九条迅のヤバさを実感するのだった——。




