第20話 リディアの入浴実験——驚愕の発見!
王宮の浴場に、湯気が静かに立ち込める。
青白く輝く《アークバス・フォーミュラ》の魔力粒子が、湯に溶け込みながら、ゆっくりと水面を漂っていた。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
湯浴み着に身を包んだリディアは、湯船に浸かると、ゆっくりと肩までお湯に沈み込み、ほっとため息をついた。
「はぁぁ……やっぱりお風呂はいいわね……。」
王宮にある浴場は、戦士たちや宮廷魔法士たちが使う場所ではあるものの、普段はあまり利用しない。
そもそも湯に浸かる習慣があまりないため、シャワーのように軽く体を流す程度で済ませる者が多いのだ。
だが、今の彼女は違った。
(……ふんっ。さっきは私だけ待たされて……二人で盛り上がっちゃってさ……。)
さっきまで、風呂場の外で長々と待たされたことを思い出し、ちょっとだけ拗ねる。
本当は別にそこまで怒っていたわけではないのに、なぜかモヤモヤした気持ちになった。
(……まあ、気にしないでおきましょう。)
彼女はふっと小さく息をつき、改めて湯船の中で腕を広げた。
不思議なことに、湯の中に《アークバス・フォーミュラ》が溶け込んでいるせいか、体の芯からじんわりと暖かくなる感覚があった。
(これが、迅の作った魔法薬の効果……? なんだか、魔力が心地よく流れる感じがする……。)
彼女はゆっくりと目を閉じて、意識を研ぎ澄ませる。
魔力の流れ。
それはまるで、体内を巡る見えない小川のように、彼女の中を流れていた。
(……心臓から……全身へ。)
湯の中に光の粒が舞い、リディアの肌の表面でふわりと漂う。
「……。」
実験のため、彼女は試しに魔力を込めてみる。
——すると、彼女の体の周囲に、青白い光が揺らめいた。
「……あ。」
心臓のあたりから、魔力が波のように広がっていくのが、はっきりと見えた。
(……やっぱり。魔力の発生源は、心臓にあるのね。)
今までの実験でも、魔力は心臓付近から流れていると推測されていたが、こうしてはっきりと目で見えると、納得感が違う。
「すごい……。」
彼女は感動しながら、さらに集中する。
魔力が巡る感覚をもう一度確かめる。
心臓から……身体へと広がる流れ。
それを丁寧にたどっていくと——
(……え?)
何か、おかしい。
魔力の流れは心臓から全身に広がっていたが、もう一箇所、"違う場所"からも微弱な魔力の波が発生していた。
「えっ……?」
彼女は驚き、もう一度確かめる。
心臓から流れる大きな魔力とは別に、もう一つ——
身体の“ある部分”からも、確かに魔力が発生していた。
(えっ、ちょっと待って……これ……どこ……?)
彼女の顔が一気に熱くなる。
湯気のせいではない。
(ちょ、ちょっと、ま、まさか、そんな……!?)
その瞬間、浴場の扉がドンドンと叩かれた。
「リディアー! お前の魔力の流れ、ちゃんと見えてるかー?」
迅の軽い声が響く。
リディアは一瞬で固まった。
(こ、こいつ……!!!)
「っっっ……!!!!」
一拍の沈黙の後——
「来るなーーーっっっ!!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
王宮の浴場が、突如として爆発した。
「ぐ……痛ぇ……何だよ……ノックしただけじゃん……。」
風呂上がりの廊下で、迅は額を押さえながらぶつぶつと文句を言っていた。
さっき、リディアの強烈な魔法攻撃(浴場破壊級)が炸裂し、彼は壁に叩きつけられたのだ。
ロドリゲスが楽しそうに笑う。
「まあまあ、勇者殿。単純にデリカシーが無さすぎたんじゃろ、それは。」
「納得いかねぇ……。」
「それに、勇者殿には覗きの前科もあるしの。」
「ぐっ……!そ、それを言われると……」
迅がため息をつくと、その隣でリディアが無言で頬を膨らませていた。
「……。」
「……なんだよ。」
「……別に。」
(こ、こいつ……まさか、わたしが見つけた“もう一つの魔力の発生源”に気づいたんじゃ……!?)
彼女はちらりと迅の方を見る。
しかし、迅は特に気にする様子もなく、単に爆発に巻き込まれたことに文句を言っているだけだった。
(……な、なんでもないなら、いいけど……。)
彼女は心の中でこっそり胸をなでおろした。
だが、彼女の魔力の発生源が“普通と違う”ことが、今後どんな波紋を広げるのか。
それをまだ、誰も知らなかった——。




