第16話 魔力と血流には関係がある?
「つまりだな——」
泉の中で魔力の流れを観察しながら、迅は指を立てて説明を始めた。
「魔力ってのは、体内のどこかで生み出されて、そこから全身に巡る仕組みになってる。さっきの観察結果から考えると……おそらく、その発生源は心臓付近だ。」
リディアは少し水の中をかき混ぜながら、考え込むように視線を泳がせた。
「確かに……。魔法士の訓練では、魔力を体中に巡らせることが基本だけど、その流れが”どこから始まるのか”を深く考えたことはなかったわ。」
「だろ? でも、ここで問題になるのは”魔力は何をエネルギーにしてるのか”ってことだ。」
「……魔力は自然に湧き上がるものじゃないの?」
リディアはそう言いながら、試すように小さく魔力を込めてみる。水中に小さな光の粒が広がった。
「……まあ、そう思うよな。でもさ、普通に考えりゃ”エネルギーゼロからエネルギーを生み出す”なんてのは不可能なわけで。」
「え?」
リディアはキョトンとした顔をした。
「何かを燃やせば火が出る、電気を流せば光が灯る……エネルギーってのはどこからともなく湧いてくるもんじゃねぇんだよ。何かを消費して、それをエネルギーに変換してる。」
「……っ!」
リディアの目が見開かれる。
「まさか……魔力も、何かを消費してるってこと!?」
「そういうこと。」
迅は泉の水をひとすくいして、ゆっくりと指を通して流しながら言った。
「俺の世界の理論で考えれば、体を動かすエネルギー源は”ATP”って物質を分解して作られる。食べたものを元に体の中でATPを合成して、それをエネルギーに変えてるわけだ。」
「えー……? えーてぃー……ぴー?」
リディアは頭に「???」を浮かべながら、なんとなく頷いた。
「簡単に言えば、食事をすることで体の中にエネルギーが溜まって、それを燃やすことで人間は動いてるんだ。」
「なるほど……それは分かるわ。」
リディアも少し真剣な表情になる。
「なら、魔力も同じように、何かしらのエネルギーを元にしてる……?」
「その可能性は高いな。」
迅は泉の水をそっとかき回しながら、目を細める。
「で、さっきの観察結果を思い出してくれ。魔力は心臓付近から流れ出してた。」
「……血流と関係がある……?」
「そういうことだ。」
迅は指を鳴らした。
「つまり、魔力は血液と一緒に流れてる可能性があるってことだ。」
リディアは興奮したように水面をバシャッと叩いた。
「確かに……! だとしたら、血流が良くなれば魔力の巡りも良くなるかもしれない……!」
「だろ? 例えば、運動をすると血流が良くなって体が温まるだろ? それと同じ理屈で、魔力の巡りも良くなるんじゃねぇか?」
「すごい……! それって、魔法の鍛え方にも影響するかもしれないわね!」
リディアは水の中に手を突っ込みながら、ぐっと拳を握りしめた。
「もし魔力が血流と関係してるなら、血の巡りを良くすることで魔法の発動速度が上がる……?」
「あるいは、魔力を貯めるために必要な要素があるのかもしれねぇ。」
「でも……血流と関係してるなら、魔力を増やすには”血液を増やせばいい”ってことにならない?」
リディアは顎に指を当て、じっと考え込む。
「……いや、それは違うな。」
迅は即座に否定する。
「血を増やせば魔力も増えるなら、飯をたくさん食って筋トレすれば魔力が増えることになる。でも、実際にはそんな話は聞いたことがねぇ。」
「た、確かに……。」
「だから、“血そのもの”じゃなくて、血液に含まれる何かが関係してるとか、そんなんだろうな。」
迅は泉の水面を指でなぞりながら、考え込んだ。
「エネルギーの供給源が血液だと仮定するなら、それを効率的に引き出す方法もあるはずだ。」
「魔法の発動をもっと効率的にする……?」
「そうだ。血の巡りを意識すれば、魔力をよりスムーズに扱える可能性があるってことだ。」
リディアは目を輝かせながら、身を乗り出す。
「それって、魔法士の基礎訓練にも応用できるんじゃない?」
「その通り。」
迅はニヤリと笑った。
「魔法を使うときに血の巡りを意識すれば、もっと効率的に魔力を流せるかもしれねぇ。」
「血流と魔力の関係が解明できれば、魔法の訓練方法も変わる……!」
リディアはわくわくした様子で拳を握る。
「すごいわね……! 私たち、今、魔法の根本に迫ってるのかも!」
「だな。」
二人は顔を見合わせ、またしても笑った。
「……二人とも、随分仲良くなったもんじゃのう。わし、ずっと空気だったんじゃが?」
「うお!じいさんの事忘れてた!」
「そ、そんなんじゃないわよ!?」
またしてもロドリゲスのツッコミに、二人は同時に声を張り上げるのだった。
こうして、新たな仮説が生まれた。
魔力は血流と密接な関係がある。
そして、それを活用すれば、魔法の新たな可能性が開けるかもしれない——。
しかし、それを実証するには、さらなる研究が必要だった。




