第15話 魔力はどこから生まれ出るのか？
泉のほとり。
さっきまで怒りと羞恥で大騒ぎしていたリディアだったが、今は違う。
目の前で起きている「とんでもない発見」に、興奮を抑えきれずにいた。
「すごい……！ これ、ほんの僅かな光だけど、本当に水の中で魔力の流れが見えるじゃない！！」
「だろ！？ やっぱり、魔力そのものが水に何らかの影響を与えてると考えるのが妥当だな！」
迅は水面を見ながら、目を輝かせていた。
リディアもまた、真剣な眼差しで泉を覗き込む。
「もう一度試してみるわ。」
リディアは静かに息を整え、今度は着衣のまま水の中で強めに魔力を練り上げた。
——ぽうっ
水の中に柔らかな光が灯る。
「……見えた！」
迅の声に、リディアも目を見開いた。
水の中で、小さな光の粒が揺らめいている。
それは、まるで魔力が水に染み込むように広がっていくように見えた。
「すごい……！ これ、私の魔力が水に影響を与えてる証拠よ！」
「間違いねぇな！」
二人は顔を見合わせ、まるで子供のように笑った。
——しかし、ここで迅はあることに気づく。
「……おい、リディア。ちょっと待て。」
「え？ 何よ？」
「……よく見ろ。」
迅が指をさした先、水の中では不思議な現象が起きていた。
リディアが魔力を込めるたびに、水の中で光の流れが「一定の方向」に向かっている。
まるで、魔力が体のある一点から発生し、そこから全身へと流れていくように——。
「これ……流れができてる。」
リディアも気づき、思わず息をのんだ。
「魔力が、心臓のあたりから……？」
「やっぱり……魔力ってのは、体のどこかから発生して、そこから流れていく仕組みになってるんじゃねぇか？」
迅は、水の中で広がる魔力の光を食い入るように観察しながら、興奮を隠せない様子だった。
「普通、魔法を使うときって、手や指先に意識を集中させるよな。でも実際は、魔力は心臓付近から発生して、そこから全身を巡ってるんじゃないか？」
「た、確かに……！」
リディアの目も輝き始める。
「魔法士の基本訓練でも、魔力は”身体全体に巡らせる”って言われてるけど……もしかして、それってただの感覚じゃなくて、本当に血液みたいに流れてるのかもしれない……！」
「まるで、第二の循環器みたいだな。」
「循環器……？」
「お前らの世界には馴染みがないかもしれないが、俺の世界では血液を体中に巡らせる”循環器系”ってのがあるんだよ。心臓が血液を送り出して、それが全身を巡ってエネルギーを供給する。……魔力も、同じ仕組みを持ってるんじゃねぇのか？」
「……！」
リディアは息をのんだ。
「魔力は……血液みたいに流れてる……？」
「もしそうなら、魔力を”増やす”方法もあるかもしれねぇな。」
「え！？ ど、どういうこと！？」
「血液ってのは、体の中で作られる。食べたものから栄養を取って、それを元に新しく血を作るんだ。なら、魔力も同じように“何か”を元に作られてるんじゃねぇのか？」
「まさか……！」
リディアはハッとする。
「魔力って、自然に生まれるものじゃないの！？」
「そう決めつけるのは早いな。」
迅はニヤリと笑った。
「例えば、お前らが魔法を使った後に”疲れる”のも、魔力を消費したからだよな？」
「……まあ、それはそうだけど。」
「それに、時間が経てば魔力が回復するんだろ？ ってことは、魔力は何かを消費して作られてるってことだ。」
「……確かに……！」
リディアは、ますます興奮してきた。
「つまり、魔力を作るには”エネルギー源”が必要……？」
「その可能性が高い。……で、そのエネルギー源が何なのかを突き止めれば、魔力量を増やせるかもしれねぇ。」
迅の声に、リディアは無意識のうちに身を乗り出していた。
「や、やばいわね、それ……！ もしそんな方法があったら、魔力が少ない人でも強力な魔法が使えるようになるかもしれない……！」
「だろ？」
二人は顔を見合わせ、思わずニヤリと笑った。
「リディア、もう一回魔法を撃ってみてくれ。」
「ええ！」
リディアは興奮を抑えながら、再び魔力を込める。
そして、水の中で広がる光をじっと観察した。
——確かに、魔力は心臓付近から流れ出していた。
「……これって、すごい発見なんじゃ……？」
リディアが驚きの声を漏らす。
「間違いねぇ。これは、魔法理論を根本から覆すかもしれねぇぞ……！」
迅は確信したように頷いた。
「……もっと調べる必要があるな。」
「ええ、絶対に……！」
二人は、泉の中で熱い視線を交わし合った。
ロドリゲスは、その様子を遠くから見ていた。
そして、ひとこと——
「……わしもいるってこと、忘れてない？」
「わ、忘れてねぇよ！！」
「な、なんでそんな遠くにいるの！？」
「いや、お邪魔かな、と思っての……。」
二人のツッコミが、森の中に響き渡る。
こうして、魔力の流れと発生源に関する新たな仮説が生まれた。
それは、後に魔法の常識を覆す研究へと繋がる第一歩だった。
