10話 もしかして相当愛が重い?
美波は車の後部座席に乗り込んだ。
「お疲れ様でした。お嬢様」
無表情の女性運転手がねぎらう。
「えぇお迎えご苦労様」
美波は笑顔でそう返し、運転手は無言で頷くと車を走らせた。
「やっぱり淳志くんは可愛いわ。貴方もそう思うでしょ?」
美波はそう車を動かす運転手に聞く。
「はぁ…お嬢様の男の趣味は分かりません。あんなに気弱そうな生物のどこがいいのか」
「そこがいいんじゃないの。あの子は私が守ってあげないといけないわ。必ず」
半分呆れた運転手に美波は笑顔でそう返答する。
「なるほど……」
運転手は納得したようにうなづいた。
「まぁいいわ。あなたにあの子を奪われる心配がなくなるから。あの子は私の獲物よ?」
美波は上機嫌にそう呟く。
「やっぱい私は淳史君が大好きだわ♪あの子犬のような庇護欲を刺激するあの小さな身体! 気弱な雰囲気! そしてなによりあの見る者を魅了する可愛い顔!一目ぼれしちゃったわよ」
「お嬢様……少し怖いです」
運転手は若干渋面を作る。
「そんなに好きなら屋敷に連れ帰ってしまわれては?細かいことは当家の圧力で何とでもなるでしょう」
運転手はそう美波に言う。
「ダメよ。急にそんなことをしたら」
美波は首を振る。
「そんなことをしてもあの子は偽りの愛しかくれないわ。せっかく生徒会長の私に懐いてくれてるのに嫌われたら元も子もないわよ。真綿で首を絞めるようにじわじわと私の愛を注ぎ込むの。誰にも邪魔はさせないわ」
「なるほど…お嬢様の愛は重いです」
運転手はそう呟く。
「そうね。私は重いかもしれないわ。でも淳志くんなら受け止めてくれるわ。そして会社を継いでもらうのよ」
美波は断言する。
「確かにあの子は不思議な魅力がある子ですね」
運転手も同意する。
「そうでしょ?だから私はあの子を私のモノにしたいの。誰にも渡さないわ」
美波はそう言って妖艶に微笑んだ。
「まぁ安心しなさい。あの子は元来頭は良いし、人当たりもいいから将来会社を継いでもらっても別に急に傾くようなことはないわ。もちろん私がちゃんと支えるけどね」
「なるほど……」
運転手も納得したようにうなずく。
(あの完璧主義のお嬢様がそこまでご執心とは……)
運転手は内心驚いていた。
美波は今までほとんど表情を表に出さない娘だった。日本屈指の企業の令嬢にして勉強をさせても運動をさせても期待以上の成績を収め、遂に生徒会長にまでなったのだが、常に形だけの愛嬌を振りまくだけで心から楽しそうな顔をしないのだ。長年仕える運転手はそのことを心配していたのだが、高校に入ってしばらくしてから変わった。どうやらどこかで淳志を見つけて一目ぼれしてしまったらしいのだ。それから彼女は大分楽しそうな表情を見せるようになった。(その代わり愛が重いような言動をするようにもなったのだが)
運転手はそのことを内心嬉しく思いながら、屋敷に向かって車を走らせていった。