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41.THE FINAL HEAT!

 天草が出る100m背泳ぎ決勝。青友は岡崎先輩だ、先輩は予選は敢えて4位で終えている、だけど先輩の実力はそんなものではない。

 スタート。やはり潜水泳法をやらない天草、バサロも上手い岡崎先輩、15mロープまでに、岡崎先輩は身体半分くらい先行していた。

 だけどそこからの天草の追い上げが凄かった。とにかく体格が、1ストロークごとの前進力が違う。

 圧巻はターンだ、身体も柔軟だしキック力がもの凄い、それで派手に差をつけて来る。

 奴も予選では力を抑えていたのか。

 天草は100m背泳ぎを一位で終え、表彰台の真ん中に立った。


「いいぞもっとやれ天草ァ!」「富嶽! 富嶽!」


 富嶽応援団の声援を受けた天草は、ホッとしたような顔をしていた。


―― ぬしらんおよぎんすべてばひていしちゃる


 中高一貫の青友の俺は四年生だが、富嶽の天草は一年生だ。あんなガタイでも部内では一番の下っ端扱い、先輩に「行け」と言われれば行かなきゃならない立場なのかもしれない。



 そして青友水泳祭の競技も残すところあと一つ、男子200m個人メドレー決勝のみとなった。


『4コース、天草選手、富嶽実業高校』


 天草の名が呼ばれ、富嶽の応援団が大きく盛り上がる。


『5コース、夏平選手、青友学園』


 俺も一礼をしてスタート台の前に一歩踏み出す。スタンドから拍手が湧く……俺はちらりと、天草を横目で見た。奴も俺を横目でチラ見していたが、すぐコースに目を戻した。

 ちょっとおしゃべりし過ぎたかな。第一印象では化け物というイメージしかなかった天草が、今はちょっとした仲間に見える。

 こんな事考えてて大丈夫か? 大丈夫、伊達に光流の悪友をやってない、俺はいつでも冷静に、やるべき事をやる、そういう訓練が出来ている男だ。


―― ピィィィーッ!


 長いホイッスルで、スタート台に立つ。


「用意」


―― ピッ!


 200mの戦いが始まった。


 まずはバタフライ。天草は飛び込みで前に出て俺より頭一つ分先行して行く。

 俺、一年生の時は、バタフライなんか一生出来ないんじゃないかと思ってたな……それが克服出来たのは去年の遠泳大会の時だった。

 今年の俺は遠泳大会を免除されたが、普通に海水浴に行った時に遠泳大会以上の距離を延々バタフライで泳いだ気がする。

 あの時は、あれだ……千市先輩のビキニ姿を、ついガン見しちまって……って何思い出してんだ俺!? あああ、あの時も俺、もしかして卑猥なサルの顔してたのか……?

 いや何で今そんな事思い出すんだ、忘れろッ! 忘れろーッ! 今そんな事考えて赤面してる場合じゃねええ、見ろ壁が、壁が迫って来る!


 ターンをして、次は背泳ぎ、くそ、天草の奴を見損ねた、勝ってるのか? 負けてるのか?

 バサロ、背泳ぎの潜水泳法も俺は散々練習して身に着けている、メドレーではやらない奴も多いが俺はやる。

 天草はどうした? 何だか5コースのキャビテーションが聞こえない気がする、もしかして奴はここまでやらなかったバサロを今はやっているのか? いやそんなまさか……

 駄目だ迷うな俺! 自分の泳ぎに集中しろ! 俺は15mロープを見落とさず浮上し、背泳ぎのストロークを始める。

 背泳ぎだってこの夏、嫌と言う程練習したんだ。

 この夏……

 四年生の夏。俺は生まれて初めて女の子に乳首を舐められるという経験をした。

 って何の回想をしてんだ俺ァア!? 待て待て待てあんなの絶対何かの間違いに決まってんだろ、モテない男が見た幻覚だ、冬波は小学生みたいにちっちゃくて可愛いけど真面目で勤勉な学校一の秀才だ!


―― 私、夏平さんに押し倒されてめちゃくちゃにされちゃうんです


 ぐあああああ! だけど俺の脳裏に、冬波がそんな事言うはずがない台詞が蘇る!? ウソだぁぁあの子がそんな事言うもんか、幻だまボろシだMaぼロsHiだァってあと5m!


 二度目のターン!

 次は平泳ぎ、どこだ奴は、天草は!? まだ俺がリードしてるのか!? だけど天草は平泳ぎのスペシャリストだ、50mでも下手をすると3秒は違うんだ、畜生負けたくねえ、次の自由形でもリレーでは滅茶苦茶詰め寄られてるんだ、平泳ぎで先行してターンしてないと勝ちの目は無い!

 天草は……もう並んでいる!? ウソだろ、奴はもう真横に居る、あああ、抜かれる、抜かれた!

 負けねえ! インターハイ王者だろうが負けたくねえ、俺だって頑張ったんだ、悪友活動の傍ら、水泳を頑張って来た! 光流の幼馴染の秋星……俺の憧れの美少女。光流の一番の悪友となる事で、あの子とも喋ったり、グループで遊びに行ったり出来る男になりたい。俺はそう願って来た。

 この夏はその努力が実った夏だった! 俺は光流以外では多分俺しか知らない秋星のライムアドレスをゲットした、自転車に二人乗りして駅まで走るという経験もした! 一緒にキャンプにだって行った、果報者だ、俺は果報者だ!

 他にも何かあったような気がするんだけど、競技中で酸欠気味の俺の頭では思い出せない……ってボケてる場合か!? 競技! 競技はどうなった!? ああっ……天草がもう身体半分リードしている!? そして壁はもう目の前だ!


 最後のターン!

 俺は全力で壁を蹴る、ターンは長身の天草の方が有利だ、リードはさらに広がる……最後はリレーでも詰め寄られた自由形……

 まだだ! まだ終わんねえよ! リレーの100mとは違うからな! これはメドレーの最後の50m、残った体力の勝負だからな!

 顧問は言っていた。俺の自由形はまだ粗削りだ、壁を超えた俺はまだ伸びると。

 詰めの甘さも固さも、残り50mの勝負になど出しはしない、顧問のアドバイスは短くても的確だ。俺は勝つ、きっと勝つ。

 見ろ、差が縮まりだした、俺のクロールは天草より速い! 少なくとも今は!

 だけど、このペースでは逃げ切られてしまう、畜生! もっとスピード出ないのかよ!? ……駄目だ。間に合わない。

 これが、サル顔のモブの限界か。頭二つ分の距離を残したまま、天草と俺の差は縮まらなくなった……或いは、ここからスパートを掛ける天草に置いて行かれるのか……まあ、よくやったよな、俺。


―― いいよ、代わってやるよ


 勝負を諦めかけた俺の脳裏に、光流の声が蘇る……これ、いつ言われたんだっけ? 光流……今からでも代わってくれないかな……


―― お前が俺を信じてると言うのなら、俺の言葉も信じろよ。勝てるよ元気


「ああ!」


 天草も苦しいに決まってる、前半は俺にリードを許してしまい、平泳ぎでも思った程の差をつけられなかった、そして自由形は自分の方が速いはずと思っているだろう、実際団体メドレーの時は天草の方が速かった、だけど今は前提条件が違う!


―― クロールが一番楽なんだよ、元気お前肺に空気入ってねーのか

―― ゆっくりだナツ、クラゲになったつもりでゆっくり掻いてみろ

―― 違うだろ。お前は自分は主役じゃないから勝てないと思ってる

―― 夏平さぁぁん! 頑張って!


 平泳ぎで十分なリードを作って、俺に反撃を断念させる。天草の作戦はそうだったのだろう。だけど俺は全く諦めてなかった。小学生の頃の光流、俺が入部した頃の顧問、千市先輩、冬波……勝てる見込みなどなかった俺に、たくさんの声が、戦う力をくれた。


 この夏、最後の25m。

 残りの力の全てを解放し、見えないゴール板目掛け、俺はラストスパートを掛ける……

次回!! 最終話!!

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
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是非是非見に来て下さい!
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