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SUMMER HEAT! 俺が目指すのは主人公っぽい幼馴染の一番の悪友キャラ  作者: みちなり


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36.青友水泳祭

 運命の日、8月31日はやって来た。


 青友水泳祭。ホスト校となる青友水泳部は来訪する近隣校水泳部の案内と誘導に追われていた。選手としては出ない選抜選手も記録係や案内係として全員参加する。俺も勿論、たくさんの雑用をこなすつもりで居たのだが。


「ナツ、お前は外のプールで調整して来い」


 そう言って顧問に屋内プールから追い払われた。中のプールは他校の選手の練習に使ってもらうので、青友の部員は入れない事になっているのだ。

 屋外プールでは記録係にもなっていない、青友の男子のトップ選手四人が待ち受けていた。


「急げナツ! 時間が経てばこっちにも他校の生徒が来る」

「フォームチェックとイメージトレーニングだけだ、絶対全力は出すなよ」


 四人はインターハイのリレーで全国三位になったメンバーで、間違いなくうちの看板選手だ。うち三人は五年生で、来年は本気で優勝が期待されている。


「いいぞ! 完璧に仕上がってる」

「今のお前ならインターハイでもトップクラスだ」

「俺が引退した後は、お前がリレー選手だな」

「お前は強い! お前は勝てるぞ」


 そんな四人が俺のフォームをチェックしてくれる、そしていい事しか言わない。

 解ってるさ、これから試合だっていう時に駄目出しなんかする訳がない、みんな俺が少しでも力を出せるよう、いいイメージを作ろうとしてくれているのだ。

 俺は全力を出さないよう気をつけながら、イメージトレーニングを続ける。本番で同じ事が出来るように。そして。


「ナツ、止まれ! 奴が来た!」


 先輩の一人がターンしようとしていた俺を止める。来た? 何が?



 完全に日本人離れしている。水路から奴を見上げた俺の第一印象はそうだった。身長は190cmを軽く超え2mに近い。そして手足が非常に長く、肩幅が異常に広い。だけど顔は小さい。

 腕や胸の筋肉も凄いが、とにかく背中の筋肉が広い。手もデカい、めっちゃデカい。つーか足すげえ、靴のサイズは35cmとかでは?


 何やってんだよ青友学園……この逸材をくだらない算数のテストで落としたというのか!? 一家揃って九州から引っ越して来てくれたのに?

 おまけにそいつは超イケメンだった。太い眉毛は好みが別れるかもしれないが非常に男らしい劇画調のイケメンだ。ただし頭は丸坊主である。今時のおしゃれ坊主などではない、短いバリカンでシンプルに剃り落したパーフェクト丸坊主だ。


 そしてそいつは俺の顔を真っすぐに見ていた。そいつは俺を見据えたままプールサイドに立ち、口を開いた。


「ぬしがおいとたたこうせいゆうンだいひょうか。おいはあまくさ、ふがくじつぎょうンあまくさばい」


 富嶽実業高校は隣町の男子校だ。引き算が出来れば入れる代わりに、校則は酷く厳しいと聞く。


「おいにはおよぎいがいなんもわからん。やけん、およぎでぬしらにまくるわけにはいかんとよ。おいは、ぬしらんおよぎんすべてばひていしちゃる」


 天草というらしいその男は、隣のコースに静かに入りながら、そう、力強く宣告した……俺の近くに居た先輩の一人が耳打ちして来る。


「油断するな夏平、こいつマジで手強いぞ」


 俺は一つ、深呼吸をした。そして天草の顔を見上げる。


「お前、すげえ体してるな。手も足も大きくて、それならすげえ水を掻けるよな。おまけに大層なイケメンじゃねーか。中学時代は彼女も居たんだろ」


 天草の目を見つめたまま、俺は続ける。奴は黙って俺の目を見返していた。


「こっちが共学だからって舐めんじゃねーぞ。みんながみんな、お前みたいな主人公タイプの男じゃねーんだよ。俺達の泳ぎを否定する? そう簡単にはやらせねーぞこの主人公野郎。お前にサル顔のモブに生まれた男の意地を見せてやる」



 これもそういう時代に生まれた人間の宿命だと思うが、インターハイで活躍した富嶽実業の天草選手の実力と、青友水泳部に対する因縁、その噂はSNSを通じてかなり広まっているらしい。


 青友学園の屋内プールは50m×8コースのフルサイズのプールであるというだけでなく、1400人収容のスタンド観覧席まである贅沢な施設である。客席には青友だけでなく、他校の選手の父兄や同級生なども詰め掛けている。


「天草君は青友に完全勝利出来るのかな」

「勝つでしょ、平泳ぎで全国制覇した選手だよ」

「でも、平泳ぎは出ないらしいぞ」


 そんな噂話も聞こえて来る。そうか。あいつ平泳ぎでは出ないのか。

 レースに勝つ。俺はそのイメージを繰り返し頭に浮かべる。

 完璧に水を捕まえ、完璧に水に乗る。奴より前に出る。あの野郎がでかい手と足でどんなに水を掻いても追いつけない、そんな泳ぎを見せてやる。



 開会式が行われ、校長の挨拶が始まる。


「選手の皆さま、応援の皆さま、えー、今年も六校合同親睦水泳大会にお越しいただき誠にありがとうございます。えー、今年はなぜか、例年の倍以上の応援の皆さまにお越しいただけております。地元の新聞社の方も来て下さってますし、えー、全国的に期待されている選手の方もいらっしゃるようで、地方の親睦大会と侮れない、注目度の高い大会となっているようです! 選手の皆さん、是非この状況を力に変えて! えー、最高の成績を残せるよう、頑張って下さい!」


 いや、校長であるアンタが天草を超法規的に入学させていれば何も起きなかったんじゃないかな……何であの逸材を学力テストなんかで落とした。熱海先輩だって卒業させたのにさあ。



 大会が始まった。たくさんの選手がたくさんの競技に出るせわしない大会だ。まずは予選。持ち時計の遅い者から順番に出る。

 青友水泳祭じゃないけど、俺も一年生の夏に出させてもらった大会では一番最初の組だった。結果はその中でビリだったっけ。

 あれから三年。夏も秋も冬も春も水泳に打ち込んだ俺は、あの頃よりはずっと速く泳げるようになった。


 最初の種目は自由形50m。本来はまともに息継ぎもしない過酷なスプリント競技だが青友水泳祭に於いては救済競技の意味合いもある。この競技は俺も出ないし天草も出ない。だけどのんびりしている暇はない、次はいきなり200m個人メドレーだ。俺は出るし、天草も出るだろう。


「ナツ、解ってると思うけど予選は奴に勝たせとけ、勝負は午後の決勝だ、焦る必要はない、お前なら決勝には必ず残る」


 六年の先輩が、そう耳打ちしてくれた。大丈夫っス、そのつもりっス。

 だけど楽に勝たせる訳にはいかないっスよね? いい感じに食らいついて、尻に火をつけてやるっスよ。


 招待校のうち二校は男子校なので、女子競技は男子よりだいぶ人数が少ない。なので男子より先にやる……インターハイ組の千市先輩は出ない、会場にも姿が見えない……来ていないのか、外で手伝いをしてるのか?


 ……


 やばい、意識して後回しにしようとしていた事を思い出してしまった。先輩の唇が俺の唇を完全に塞いだ時の事……柔らかかったな、先輩の唇……うおおっ、待て待て待てそんなん考えたら卑猥なサルの顔になる!


 俺はひとまずタオルに顔を埋める。何だったんだあれは本当に……


―― へへ、いただき。今度こそじゃあな、


 先輩はすぐに俺から離れてそう言って笑った、あれはやっぱり、いたずらをしてやったという顔だったよな……? 先輩にとってあれはいたずらなんだ、多分、だけど……!


―― 勝てよ、明日


 そうだ。最後に先輩はそう言った。うじうじした弱虫の後輩の俺の為に、美しい先輩は我慢して俺にあのプレゼントをくれたのだ。


 勝つぞ絶対に勝つ、俺は絶対に負けねえ!

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
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是非是非見に来て下さい!
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