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3.ギフテッド

 プールに駆け戻った俺は長机を置きシャワーブースに飛び込み、最大まで栓を開く。打ち付ける冷たい水は心地良かったが、冬波に舐められた乳首の感覚が消えない。まるで……まだここにあいつが居て俺の乳首に吸い付いているような感覚が……


「うおおおおお!」


 プールに飛び込み、俺は泳いだ。

 基礎練コースはターン時以外追い越し禁止なのですぐに前が詰まる。普段の俺は後ろの奴から足首を叩かれる事が多いが、今日は俺が前の奴の足首を叩く。


「なんだよナツ、行きたきゃ先行けよ」


 陰でエンジョイ組などと自嘲する俺達地元組の部員は普段は一日三千メートルぐらいしか泳がない。真面目にインターハイを目指している連中は時期によってはその四倍は泳ぐのだが、夏休み前の今の時期は顧問の方針で五千メートル以上の練習は禁止されている。


「先生、ナツの奴もう八千ぐらいやってますよ」

「いいじゃんエンジョイ組は。ですよね顧問?」

「……ナツ! 規則は規則だ、そのへんにしとけ!」


 いつの間にそんなに泳いだのか、俺には全く解らなかった。そして顧問に止められてやっと気づいたのだが、俺はもうへとへとだった。これ以上体が動かねえ。

 だけど……冬波に吸われた乳首の感覚は、まだ消えていない……!


「御願いします! もう少しだけやらせて下さい!」

「お前一人の水路じゃねえぞ!」


 駄目だ……顧問はエンジョイ組には何も言わないがレギュラー部員には修羅の如く恐れられている。これ以上怒らせてはいけない。



 朦朧としたまま、俺は家路に就く……今日は部活なんか早めに切り上げて、光流にウザ絡みしてやるつもりだったのになあ。


 あれは本当に、何だったんだろうな……

 あの階段の踊り場で起きた出来事の全部が、俺の妄想だったと言われた方がまだ納得は行く。そうだ。あれはきっと現実じゃなかったんだ。


「ただいまー……」

「おかえり元気、お友達が来てるわよ、あなたの部屋に案内したから」


 帰宅した俺に、母さんが台所からそう答えた。ええーマジか、光流が来てんのか、あいつの方から俺を訪ねて来るなんて珍しいな。どうしたんだろう……だけどまずいぞ、あいつ、俺の部屋を見たのか!? 俺は慌てて階段を駆け上がり、部屋に飛び込む!


「光流! これはあの、正しい夏休みを楽しむ為の準備で」


 しかしそこに居たのは俺が一方的に親友だと思っている光流ではなかった。華奢で小柄で、少し色素の薄いセミロングの髪を綺麗に揃え、縁の薄い丸眼鏡を掛けた学園屈指の美少女……


「え……あ……」


 冬波は、俺が正しい夏休みを楽しむ為に製作していた肝試し用のお化けの被り物や書き割りが散らかる部屋の真ん中に、きちんと正座していた。


 正直、この景色はそれだけ切り取って言うなら奇跡と言っていい。小柄で童顔で年齢より幼く見える冬波は、夏服の制服を着た完璧な美少女でもある……こんな可愛い子が、今、俺の部屋の真ん中にいるなんて信じられない。

 冬波は戸口に現れた俺を見ると、美しい正座から綺麗に三つ指を突き、美しく深々と、頭を下げた……


「御願いします夏平さん。乳首を吸わせて下さい」



「帰ってくれ」

「待って下さい、話だけでも聞いて下さい」

「違うでしょお!? そこはせめて昼間の事は間違いです誰にも言わないで下さいとかそういう事を言う所だろそれを何だよアンタ今何て言った!?」

「私ばかり悪いみたいな言い方しないで下さいよ! あれは校舎の階段の踊り場ですよ神聖な学び舎ですそんな場所であんな美味しそうな乳首を誇らしげに露出していた夏平さんには何の罪もないと言えるんですか!?」


 ひいいっ!? ()はそう言って俺に掴みかかって来る、体重も筋力も小さな子供並みの女なのだが、その執念は想像以上に強く、俺は危うく床に押し倒され胸に吸い付かれそうになる!


「せいいィっ!」

「きゃああ!?」


 小六まで柔道も習っていた俺は気合い一閃、冬波に巴投げを掛ける。小柄な冬波は軽々と俺の頭上を越え、俺のベッドの上に飛んで行った……!


「あっ……」


 俺は身を捻って立ち上がる。

 夏の制服……プリーツスカートに白いブラウス、それにネクタイ……冬波は俺のベッドの上で、少し怯えたような瞳で俺を見上げていた。


 俺は決して聖人君子などではない、むしろ欲望と煩悩に塗れた男だ、悪友として主人公の光流にウザ絡みをして奴のおこぼれで可愛い女の子達とバーベキューや花火をする想い出を作りたいというコバンザメ野郎でもある。


 だけど俺はただ、正しい青春を送りたいだけの小心者でもあるんだ。


「あの……帰って下さい、そしてここにはもう来ないで下さい、今日起きた事や見た事は、本当に絶対、誰にも言いません」


 その場に正座した俺は、頭を下げ返す。俺が送りたいのは主人公である光流のひっつき虫となってあいつの周りに集まる可愛い女の子達と一緒にサイクリングに行く清く正しい青春時代であり、俺のベッドの上で怯えた顔で俺を見ている変態少女に襲い掛かる爛れた青春時代ではない。


「夏平さん……貴方は御存知ですか、私が全国模試の百傑を争っている事」


 冬波はベッドの上に跪いたまま、わなわなと震える。


「そこに居るのは二種類の者だけです、生きる事の全てを受験勉強に捧げた狂人と、パラパラと教科書をめくるだけでその全てを理解してしまう神の子……それは生ける人間の純粋な狂気と、気まぐれな神のギフトとの戦いなのです……そして私は、前者に属する人間です」

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
不遇スタートから始まる、貧しさに負けず頑張る女の子の大冒険ファンタジー活劇サクセスストーリー!
是非是非見に来て下さい!
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