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22.覗き見はいけない

 八月の最初の一週間が過ぎて行く。俺は毎日部活に明け暮れていた。あーあ、これじゃ中等部の頃と一緒だよ。


 水泳の地方大会も近づいて来る……俺もその大会に出させられるらしい。嫌だなあ。それじゃ地元の花火大会行けないじゃん……

 まあ、もしインターハイに行きたいと思うなら、それが最後の切符になるんだけど……いやいや! 冗談じゃないインターハイなんて、そんなのまかり間違って行ってしまったら、夏休み最大のイベントが! 泊りがけのキャンプの予定が台無しになってしまう!


 お盆と重なるか少し後という土日。俺はキャンプ場の予約を取り付けている。もちろんそんな行楽シーズンのピークに予約を取るのは容易な事ではない、この予約は四か月も前に取ったものだ。

 花火大会と泊りがけキャンプ、そんな大きなリア充イベントを二つも、部活なんぞに潰されてなるものか。


「ナツお前、インターハイに行きたいか? 行きたいんだろう? 実際今のお前はインターハイに行けるかどうかの瀬戸際に居る」


 ある時顧問は俺をコースの端に呼んでそう言った。やべえどうしよう、いや言うしかない、何とか誤魔化すしかない。


「顧問、今の俺はインターハイは目指してません、俺の目標は月末の青友水泳祭です!」

「……何だと?」


 青友水泳祭は提携五校を招待して開催する青友学園主催の水泳大会だ。その実態は青友水泳部のエンジョイ組と近所の学校の水泳部の親睦会なのだが。


「す、水泳祭は! 俺みたいな選抜選手じゃない部員にとっては大事な大会なんです、俺はそこに照準を合わせてトレーニングをして来たんです、だから! 今年の俺はインターハイも、その予選である地方大会も目指しません」

「本当にインターハイに出られるかもしれないんだぞ? 棒に振っていいのか」

「ギリギリ出れたって意味ないッスから! 俺の目標はもっと上っス!」


 この俺の芝居は顧問にも、他の選抜選手達にも受け入れられた。皆は俺をインターハイではなく夏の終わりの親睦大会に照準を合わせている、だけどガチで記録を出したい熱血水泳部員だと思ってくれたようである。


「夏平はそんな事を考えてたのか」

「すけえなお前」


 選抜選手達もそう言って俺を見直してくれた。やれやれ……しかし。


「解った。だがナツ、地方大会には出ろ」


 顧問は冷酷な視線で俺を見て、そう宣告した。



 そんな事があった日。俺は久々に光流の家を訪れていた。帰宅部の光流はもうずっと学校に来てないのだ、いや、それが当たり前の、普通の夏休みだと思うんだけど。


「光流くーん」


 インターホンを押して俺は呟く……光流は出ない。まあいきなり来ても居ないか。ライムはいつも通り既読スルーなんだけど。


『バタバタ……夏平くん!? 久しぶり!』


 しかし。物音の後でインターホンに出てくれたのは希夢ちゃんだった!


『待って、今出るから』


 しかも今出るですとぉ!? アポなしで来た俺に会ってくれるのか!? 学園一の美少女が!?


―― ガチャ!


 出て来たぁあ!? 希夢ちゃんが、頭に手拭いを巻き部屋着っぽいTシャツとハーフパンツを着たラフな恰好で……うおおお!? 真の美少女はこんな姿でも美しい! むしろこれは普通の人間は目にする事も出来ない、希夢ちゃんの貴重なオフショットと言える!


「部活の帰りでしょう!? 光流は今居ないけど上がって、麦茶と水ようかんくらいはあるから!」


 ええええー!? 上がっていいの!? 俺は天にも舞い上がる気持ちだった、しかし。


「あ、ああいや、光流が留守ならまた今度」


 正しい悪友である俺の口からは自動的にそんなセリフが漏れた。いやまあ、主人公が居ないのにモブ悪友風情の俺がヒロインとお茶してたらおかしいわ、それじゃ俺は悪友ではなく悪役になっちまう。


「そ……そう。そうだよね!」


 ぎこちなく笑う希夢ちゃん……俺は、少しだけ気になっている事を聞いてみた。


「最近の光流、どう……? 俺、肝試し以来会ってないから」

「えっ……どうって……あはは、実は最近私もあんまり話してなくて……」


 希夢ちゃんはそう答えて視線を落とす。

 マジか……やっぱりそんな事になっていたのか。光流のヤツまだ意地張ってるのかよ、あんな可愛いイタズラされてそこまで怒るか。うーん。でもそこはモテモテ主人公光流と非モテモブ男夏平の感性の違いでしかないのか。


「……あいつ、どこ行ってるの?」

「多分駅前の方だと思うけど……もしかして夏平くん、行ってみるの!? 光流は本屋さんとか服屋さんとか好きだから、エキチカのアーケードとかかもしれないよ!?」

「え、あ、ああ、うん、いやー別にどうでもいいんだけどさ、まあ気が向いたら行ってみるわ、じゃあお邪魔したね希夢ちゃん、またねー」



 後ろ髪引かれる思いを振り切り春月家を離れた俺は、希夢ちゃん情報に従い駅前商店街の方に向かう。

 まあ、そんな都合よく光流に会える訳はない、そう思いきや。


「……えっ」


 光流は居た、地下商店街のTシャツ専門店の店頭に、だが俺が驚いたのは、そこに千市先輩が居る事だ! あのいつも不機嫌そうにしている怖い先輩が、光流の前では普通の高校二年生の美少女の顔をしている……!


 学校のなかった光流は半袖シャツにジーパン姿だが、千市先輩は学校の夏服制服を着ている、そりゃそうだ、先輩も今週はずっと部活に来てたし女子の選抜組が使う7、8コースで気合の入った練習をしていた。

 二人はTシャツ屋の前で話している、雰囲気、千市先輩が光流に声を掛け光流がそれに答えているという感じだ、ああっ、何を話してるのか近寄って聞いてみたいけど、それは出来ない……


 そうこうするうちに、先輩が手を振り、光流から離れて行く。光流も手を振り返す……え……これでお別れ?

 あの二人はいつから一緒に居たんだろう……先輩の部活が終わった以降なのは間違いないが。


 振り返りもせず去って行く先輩……光流もそんな先輩の背中を見つめる事もなく、Tシャツ屋に入って行く。ちくしょう……やっぱり主役って余裕あるよな……千市先輩と話したからと言って取り乱したりはしない。

 ていうか、あの二人、どんな関係なの?

 水泳部の五年と帰宅部の四年、家もそこまで近い訳でもなく、はっきり言って何一つ接点がないように見える二人。

 だけどやっぱりすげえな主人公。光流は当たり前のように学園で一、二を争う一つ年上の美少女と繋がりを持っていたのか。

次回から一日一回、この時間の更新となります

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作者みちなりが一番力を入れている作品です!
少女マリーと父の形見の帆船
舞台は大航海時代風の架空世界
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是非是非見に来て下さい!
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