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誰かがモブでいさせてくれない!  作者: しがないち
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「あらぁアメリア様、いったいどうなさったの?」

「実は少し風邪気味で……」

「まあ……! ご無理はなさらないでくださいね!」

「ありがとうございます」


 学校に到着し、いつも通り何事もなく自分のクラスに到着する。席に着いた私を見て、クラスメイトのモブ女子たちが声をかけてきた。

 にこりと笑って(いるつもり)彼女たちのほうを向く。朝のありきたりな会話の始まりだ。


「そういうあなたも、昨日から少々咳をしてらしたわよね?」

「そうなの。実は私も少々風邪っぽくて……この時期は困ってしまいますわね」

「まったくですわ~。メインの方々と違って、中途半端な具合の悪さですし、何よりそう簡単に休めないのがつらいところですわよ」

「わかりますわ~!!」


 私の机の周囲でモブ女子たちがきゃいきゃい声を立てる。彼女たちもモブらしく、みな顔の造詣はない。男子に文句を言う時やメインの方々を見て黄色い声をあげる時に眉が出たり、食事時に口元が描写されるくらいで、基本的には同じく無表情なのである。それでも声は各々違っているし(たまに本人かと思うくらい似ていることもあるけれど)、髪型や服装の違いもあわせて判別している。

 モブたるもの、しっかりとした個性を出してはいけない。それは男子も女子も同じこと。先生たちはお顔の造詣にばらつきがあるようだが、生徒たちから注目を浴びている存在という意味では、ある意味造詣がはっきりしてくれていたほうが良いのかもしれない。基本的には私たちモブは壁の花――いや、壁そのもののような空気感をかもし出し続けなければいけないのだ。


「あなたも咳が酷くなるようでしたらマスクをされては?」

「それもいいですわね。ふふ、普段より多くアクセサリーをつけている気分になりそうですわ」


 マスクですらもアクセサリーと認識してしまうのはモブの性質なんだろうか……。

 普段であればモブにしては目立ってしまいそうなマスクを着用しているけれど、今この学校では風邪が流行っている。他のモブの子も休んだりマスクをしているので助かった。特に何もない時期にマスクをして行こうものなら誰かしらの興味を引きかねない。授業中に具合が悪くなって保健室に向かったり、早退でもしようものならなおさらだ。


(ん……? と言うことは、別に休んでも問題ない時期だったのでは……?)


 朝から頭が混乱していてこんなことすらも抜け落ちていたとは。

 せっかくのずる休みチャンスを逃してしまった。最近忙しくてなかなか読めずにいた小説を読み進めてしまいたかったのに。

 しかし風邪が流行っているということは、メインの子たちは誰かの看病に行ったり、気になる相手と仲が進展したり、すれ違いが解消されたりと何かとイベントが起きがちな時期ということになる。

 メインに生まれると、体が極端に強かったり弱かったりすることが多いらしい。特にこういった風邪の時期は、思いっきり熱が出てしまう子も多いと聞いている。そういう意味では我々モブはかなり健康な部類かもしれない。

 ともかく、私もマスクをしてはいるが風邪ではない。この鼻をばれないようにするために必要なので装着しているが、いつまでももたせるのは無理だ。今後どうするかはお父様とお母様がああだこうだと考えていることだろう。

 マスクで隠れる程度でよかった。少しだけ大きめのマスクにしてしまったが、正面から見たときにそこまで違和感はない。実際、クラスメイトからも指摘されなかったのできっと大丈夫だろう。

 普段は食堂でクラスメイトたちと一緒に昼食をとってはいたが、さすがに今日は一緒に食べるわけにもいかない。食堂のご飯はかなり美味しいので、地味に堪える。

 メイドのアンに持たされたクッキーはあっという間になくなってしまった。私は同性のクラスメイトと比べてもよく食べるほうである。クッキー数枚では到底足りないのだが、人前で食事ができない今、帰宅してからでないと危険だ。マスクの隙間から簡単につまめるお菓子を持たせてくれたのはありがたいけれど、本当に足りない。

 仕方なく残りの昼休みは図書室で昼寝をすることにした。

 この学校の昼休みは結構長い。ゆっくりとランチを取れるようにとされているが、空腹とともに過ごすにはちょっと長い。

 年季の入った図書室はあまり人が来ない。けれど、私は知っている。ここの図書室は結構本が揃っている。私が好きな小説も多くて、学校の中でも好きな場所だ。

 昼は特に人が少なくて最高だ。図書室の本棚をいくつも越えて奥に行くと、勉強用に使われていただろう間仕切りがいくつもあらわれる。入口からかなり遠く本棚に隠れるようにしてこのスペースがあるので、私以外の人がここを使っているのを見たことがない。

 さらに奥へ行くと、本棚の隙間から人ひとりぶんかろうじて通れる隙間がある。そこを抜けると隠れ家のように一番奥のスペースにたどり着く。二人かろうじて並べそうな窓際は、小さなカウンターテーブルと椅子がある。大きな一枚板のテーブルと長いベンチの端っこで、本来のスペースからはみ出している部分がそのままになっているようだ。本来ここは使用するスペースではないのだろう。それでも居心地が良すぎてついここに来てしまう。

 窓際から入る木漏れ日が心地いい。ここがカフェだったら最高なのに。あいにくと飲み物は禁止だし、仮に飲めたとしてここまで持ってくるまでに冷めてしまいそうだ。

 今日は朝からなんだか疲れてしまった。何で私に鼻が? そもそもモブにそんなことが起こるものなのだろうか。あれこれ考えていた余計にお腹も空いてしまう。

 うーんと唸ってカウンターに突っ伏して目を瞑った

 夕飯は何だろう。肉がいいかな。たくさん食べたいし。あとデザートも。タルトでも焼いてもらおう。

 そんなことを考えているうちにいつの間にかうとうとと眠りに落ちていた。



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