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誰かがモブでいさせてくれない!  作者: しがないち
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「…………それで?」


 母だけでなく父までもが青い顔をしてすっ飛んできていた。表情はわからないけれど、たぶんそんな感じ。落ち着きない様子で、普段はしっかりとセットされている髪もあちこち乱れていたし、ボタンもひとつ掛け違えているようだった。落ち着いた声音がいつもより多少震えているようにも聞こえるが、ひとまずなんと答えたら良いものか。


「それで、と言われましても」

「あなたのことですから、何かやらかしたのではないですかアメリア?」


 娘に対する信頼度が低い母である。


「いえ、特に思い当たることはありません」

「……まさかとは思いますが、なにか陰口やら底意地の悪い企みなど考えているわけではないでしょうね!?」

「ないない! ないです! それだけは、絶対!」


 面と向かってこの母、誰かをいじめているのではないかと平然と聞いてくる。

 悪事の企みをすれば断罪系に、学園で悪口やいじめを働こうものなら、悪役令嬢やそれに連なる取り巻きになってしまう。我々が平和なモブでいるためには目立ってはいけない。過激な考えを持ってはいけない。ただひたすらに空気の読める空気感をまとった、正しきモブである必要があるのだ。

 なので、お母様が何かとやらかしがちな私のことをまず疑ってかかるようになってしまったのは、仕方ないことと言ってしまえばそうなのだが。


「ま、まあ落ち着こうかエミリア! まだアメリアが何かしでかしたと決まったわけではないのだし……」

「この子が何かしていないことのほうが考えられませんわよ!!」


 母の言葉に、父は言葉に詰まってしまった。

 私は小さな頃からちょっとドジな性格で、あれやこれやと問題を起こしてしまったことはある。


「いいですかあなた。この子は幼い頃から買い物に出かければ迷子になったり、どこかに連れ去られそうになったり、かと思えば呪われたアイテムを押し売りされそうになっていたり! 出歩かなければまだましかとも思いましたが、部屋でおとなしく宿題をやっていたかと思えば、なぜか抜け出して納屋を爆発させたり! 今年割られたティーカップとポットの数をご存知?」


 そんなにあれこれあったっけ…………あったな。


「…………いや……うん、そうだね……」


 あっ目を逸らしましたね、お父様!

 そんな感じで有り余る好奇心やらなにやらは家で発散させていたわけで、外では決して出さないようにしていた。それもこれも、安心安泰の将来のためにモブでい続けるために。


「でもアメリアは根が良い子だから、悪いことなんかしないだろう……?」

「もちろんです、お父様! そんなことしたら平和な学園生活が送れなくなってしまうじゃないですか! あと二年もあるんですよ!」


 モブの子たちの中には、やはりメインに憧れる子も一定数存在する。それはメインの子たちの見目麗しい美貌だったり、特出した能力だったり、平凡以上の暮らしを求めていたり。理由はさまざまだが、要は平凡で代わり映えのしない日常に退屈していることがほとんどだ。この平凡がいかに大事でかえがたいものなのかということを理解していない。

 だからといって、憧れを口に出したくらいではモブがどうにかなるような世界ではない。

 お金がほしいなあ~と言ったくらいで、大金がぽんと手元に転がり込むことはないし、美人のあの子と付き合いたい~とぼやいたところで、本人に話しかけたこともなければ認知すらされてないまま終わる可能性が高い。運命の強制力というものがあったとして、我々モブには影響がないのだ。……いや、もしかしたらあるのかもしれないけれど、きっとモブは抵抗力が高いんだろうなと思う。


「そうだよねぇ……うちの子に限ってそんなこと……」


 お父様は実にベタな台詞を見えない口からぽろぽろとこぼす。


「だからって油断はできませんわよ! まったくこの子は目を離すと本当にこれだから……」


 確かにいろいろあったけれど、そのぶん外では何も起こさないよう気を張っているのだからもうちょっと褒めてほしいくらいなのですがー。小さい頃は外でのあれこれもあったけど、最近は特に気をつけているので学校でも問題はまったく起こしていない。せいぜいたまにうっかり転んだり落とし物や忘れ物をしたりするくらいだけど、それは私だけじゃなくみんなもやっている。それに目立つほどの回数ではなく、あくまでモブとしてありがちな範囲内で、片手で数えられるくらいだ。


「とにかく! 私は何も思い当たることがないんです! それにもし私が大きく関わるようなことがあるんだったら、そのうちお父様やお母様にも変化が訪れるはずです!」

「それは……!」

「それに、私じゃなくて私の周りのモブの誰かの影響ということも考えられます。どうでしょうか、しばらく様子を見ては?」


 お父様とお母様は二人顔を見合わせて、しばらく考えてから「それしかない」と大きく溜息をついて言った。

 正直なところ溜息をつきたいのは私のほうである。


「……ところで、今日は学校を休むわけにはいかないでしょうか……?」

「休むほうがイレギュラーでしょう」

「……ですよねー」


 お母様にぴしゃりと言い放たれて、私はしぶしぶ学校へと向かった。


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