会合
「時間まであと30分……。急ぐか」
大雨の中を猛スピードで走る。
普通、生きている人間なら雨の日は傘を差すだろう。
もしくは合羽を着るか、外に出ないかもしれない。
しかし幽霊はそんなもの必要ない。
雨には濡れるが、体が冷えても異常が発生しないからだ。
「うぐがかああああ」
声がした方向に目線をやれば、怪に乗っ取られている人間がいた。
「あれは、手遅れだな」
助けてやらないのかって?
幽霊は主人以外を助けてはならない。
命令されない限りは基本無視。
そういうルールがある。
そもそも夜中は怪が出やすい時間だと政府も警告しているんだ。
そんな時間に出歩いている方が悪い。
昔と違って、夜の仕事はすべて機械がやってくれているのだから。
「お、おま、おまえ。のせい、死んだ。おえ、しん、だ」
怪に取り込まれた人間は、『怪物』となる。
そして無差別に人間や幽霊を襲い始めるのだ。
助けてもらえなかった憎しみを原動力にして。
【黙れ】
できたての怪物など少し力を乗せて声を出すだけで、霧散する。
消え去ったからと言って、そのままにしてはまた別の怪物が集まってくるので、浄化しなければならない。
ただ、浄化は幽霊によってやり方が違うし、担当区域以外は浄化してはならない。
あいにくここはあいつの区域だ。
報告だけしておこう。
「すまない。遅れた」
集合場所に5分遅れてしまった。
やはり無駄なことはしないほうがよかったな。
「珍しいな。大丈夫か?」
「あぁ。少し手間取っただけだ。それと、カラスのところ倒しちまった」
「気にするな。あとでやっとく」
さっき言っていたあいつとは、こいつのことで『カラス』と私は呼んでいる。
なぜなら髪も目も色が真っ黒だからだ。
「……全員集まったか。これから会合を始める」
今回の議題は3つ。
幽霊たちの担当区域の調整。
幽霊たちの主人のこと。
その主人たちが行くべき学校のこと。
「ここにいる幽霊は10人。そして三の格が2人、二の格が5人、一の格が3人で合っているか」
『格』というのは幽霊だけが持つ、戦闘力・浄化力を数値化し基準を設け、資格としたもの。
三が下級者、二が中級者、一が上級者と思っておけば良い。
「では、彼岸市を3人、此岸市を3人、三途市を4人配置する。今日の朝5時から等分で担当するように」
我々幽霊は4時までを夜と認識し、仕事をする。
日付の感覚は人間たちと変わらない。
「次にお前たちの主人だが、成人前のやつは手を上げろ。……4人だな。来週から新しく『依代』専用の学校が開校する。資料を置いておくから見ておくと良い」
やっとできたみたいだ。
これで瑠璃を縛るモノがいなくなる。
「最後に、警告だ。最近、怪が活発になっている。命を落とすやつも増えた。無理する前に主人のことを第一に考え、助けを求めてくれ。……特に雪無」
「別に無理はしていませんが」
「ほら、この調子だ。濡羽、助けてやれ」
「仰せのままに」
このボスは私のことを勘違いしているようだ。
私は別に無理などしていない。
たまに無茶をするだけだ。
「さ、解散だ。談合は程々にな」