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異世界転移した私と、我が家の同居人。

作者: まるまる


うららかな日差しの中、花に囲まれた庭で、見るからに怪しい真っ黒い人影がのっそり俯きがちに歩いているのが窓越しに見える。

その風景を眺めつつ、私は茶を淹れて一息ついていた。




唐突ですが、わたくし並田常世は転移者である。

ある日、月曜朝に寝過ごして遅刻ギリギリの時間に出社しようと急ぎドアを開けたら転移した。

就職してからというもの、ブラックギリギリの会社でたいへんハードな毎日、故に疲れか、出社するのが嫌すぎてストレスで幻覚でも見てるのかと思って踵を返そうとしたら背後はドアどころかなんもない真っ白な空間だった。


暫し佇んだ後に、おもむろに鞄を枕にして寝ていたところに(不思議空間だったけど普通に寝れた)焦りぎみの女性的な声が聴こえてきて、一回起きかけたものの二度寝をしっかり決めたあと、再度のお声掛けで仕方なしに起きて説明を頂戴した。


自称女神曰く、住んでる安アパートの両隣の住人が勇者と聖女と賢者だったそうな。

ラノベにありがちな剣と魔法のファンタジー路線が確定した。

なお、部屋割りは左隣勇者、右隣聖女&賢者とのこと。


…昨日めちゃめちゃ煩かった(詳細は割愛する)右と、めちゃめちゃ煩かった(壁ドン)左か。安アパートだけあって、軽量鉄骨で築年数もけっこうな物件。家賃は大変お安い。そして大変音が響くとだけいっておく。

なんにしても、とばっちりである。だが正直なところ顔も知らんが聖女&賢者、たぶん違くないか?ミステイクじゃないか?どっちもジョブ詐称な気がするが。

あと勇者は強く生きろ。同じパーティらしいぞ。うわあ。

平たくいうと私はお呼びではないそうなので、別途対応することとなったそうな。そこは幸いだったと思った。

とりあえず帰れない旨の解説と慰謝料代わりのチートもろもろ貰って異世界に放流された。

両隣の顔は拝みたくなかったので、適当なところに別に送ってもらった。


そんでもって、その後いろいろファンタジーして、テンプレしたりして、こんにち今日に至る。

いろいろあったよ。ほんとだよ。





現世で安アパート住まいであった私は、異世界に家を建てた。

異世界に構えた我が家には、現在、同居人がいる。



やつの印象は、分かりやすく纏めてしまえば、ぐるぐるの、もさもさの、わしゃわしゃ、である。


まず頭。癖の強い黒髪。うねりまくったロン毛が、なんだったら腰まで伸びている。さらに、前髪も分厚く眼前を覆っており『これ前みえてるのか?』状態となっている。

私は最初、こんな感じの犬を御近所さんが飼っていたのを思い出した。犬種は全く思い出せないのだが、犬の名前はモップ(人懐っこいオス5才)だった。犬種関係ない。

とにかくそんな頭に、さらに角が生えている。ヤギとかのより、ぐるっとした感じの、比較的カッコいいタイプの。

だが頭髪のやたらとしつこい曲線から、なんかぐるぐるしてる、という感が否めない。角が黒めな色味で髪に同化しそうな質感があり、余計にそんな感じ。

私からは見上げるほどの上背があるものの、基本猫背な痩せぎすの体躯をゆったりめの、ぞろっとした暗色のフードつきローブに包み、俯く様はまさに陰鬱を体現して憚らない。

御近所宅のヒキニートしてた御子息(自宅在住独身オタク39才)が極稀にコンビニに出没してたのを見た時に抱いた所感、『なんかもさっとしてる。』それに尽きる。

人のことを言えた義理じゃないが、そんな私(喪女)からみても、だいぶん、もさっとしている。

その怪しさ満点のボディに、頭に角があるオプションつきのところ、なんと追加で翼がつく。盛りすぎである。しかも皮膜タイプでなく、羽毛タイプであった。なんかもう全部もしゃもしゃなのだ。ただでさえ毛量の主張過多な所に羽毛。

かろうじて出し入れ可能なようだが一度出してみれば、もうもっしゃもしゃにシルエット増大。なかなかの絵面になる。いっそ暑苦しくないか心配になる。

放ってる気配は冷涼(暗澹とも言う)としているので温度的な釣り合いは取れてそうだが。


分厚い前髪の下は、整った顔立ちでありながら白皙通り越した蒼白い顔色に、切れ長の眼は鮮やかな青紫と金のオッドアイ。濃いめの隅が住み着いて久しい目元、瞳のカラーリングは爽やかだが浮いている。

ちなみに両方とも呪いの魔眼で、青紫色の方が混乱と眠り、金が石化と即死である。まだ制御が効いてないので、視線が合うと発動するタイプゆえ高確率で混乱と石化デバフが野放し状態。

生なかな封印だのなんだのでどうにかなるもんでもないので、自前の髪で対応したそう。

元から視力が弱く、魔眼が出たら視力は回復したものの、魔眼に耐えられずに鏡の類いは粉々になるしで大概不便。耐久が、前髪なし3秒、前髪過し7秒換算とのこと。実験したようだ。悲しい。

私のように高レベルと無効果スキルがなくては、おちおち顔も合わせられない。一般の方だと即死さえあり得るのはだいぶハードル高い。

ただでさえもともと人見知りの気があるなか、よりいっそうコミュ障が加速しそうな現状。


そんな彼は、この世界において《魔王》と呼ばれる存在であった。

なお前ジョブは町人Cとかだったそうだ。



現在、彼は大陸の果てにあった、精神がやられそうな鬱蒼とした異形の森に立つ廃墟同然の城より、我が家に拉致らr……居を我が家に移して生活している。




「…おいしいね、これ。なんの葉っぱなの?」

「シソ」

本日の昼ご飯は青ジソチャーハンである。

たまに食べたくなるんだよな。シソチャーハン。我が並田家の具は小口切のソーセージと炒り玉子、青ジソと炒りゴマとなっております。

シソは異世界では幻の薬草扱いで、なんかかっこいい名前で、エリクサーの素材だった。さすがシソ(紫蘇)。

まあうちは家の裏の庭にわさわさ生えているので、なんぼでも取れますが。


魔王は、食後のお茶も飲んで、腹ごなしに裏庭の花にゾウサン如雨露で水やってくれている。

たぶん他の人ではわからないだろうが、ウキウキと嬉しそうに見える。

彼の笑顔はひきつりぎみで、知らない人が見るとなにやら企んでいるように見える、らしい。


柔らかな色合いの花と薬草に溢れたガーデン兼畑の中に、俯きがちな真っ黒い人物が立っている姿は大変シュールだった。

ちなみに私作ゾウサン如雨露は水魔石つきの無限に水が出てくるやつである。自分で作って渡しておいて、絵面は似合わないこと請け合いだが、ほのぼのしている。色眼鏡もいいところだろうが。

なおゾウサンの色はショッキングピンクだ。素材の関係で。


暫し眺めて、私は途中になっていた魔法薬の調合を再開するべく作業部屋に向かった。

明日には仕上げておきたい。新しい魔道具の構想が立ったのでそちらにも着手したいし。

たいへん充実した毎日を生きているな、と、ふと思った。



ほんとにいろいろあったし、向こう(勇者パーティ)の方も聞く限りいろいろあったらしい。

なんでも勇者は王女に振られて踊り子と駆け落ちしたらしいし、聖女は性女で神殿の奥に幽閉、賢者はなんでも女性騎士に粉掛けて他国の皇女に刺されたそうな。

私がぼちぼちやってるあいだに、みなさん生き急ぎすぎだと思う。とりあえず女神からは同郷組は皆生きてはいると聞いているが。

関わる気は全くないので、まあいい。

こちらもさほど暇ではない。主に、不干渉を宣言したはずの女神の無茶振りとか、…あと無茶振りとか。こっちもわりと研究や製作とかあるんだけど。

勇者側からの皺寄せに、あれこれ便利に使われているような気がせんこともない。

先日流石にキレ散らかしたとこなので、暫くは静かになるだろう。

やりたいことに集中できるのは嬉しい。

全くなんの問題もないわけじゃない。だから何とかするべく動かねば。

やらされる訳じゃなく、やりたい、やるべきことをできる程よい毎日があればいいや。私は勇者だのなんだのではない。




あらためていうと、私は今日も異世界で幸せを感じて生きている。

願わくば、末長くこの幸福が続くことを祈りながら。

…出来れば、同居人にも幸せを感じられる時が増えれば、言うことはない。


並田常世 

…元社畜。まだワーカホリックが抜けていないが、やりたくないことはしない主義になった。

貰ったチートは魔法系その他と物造り系。ジョブは大魔導師になった。

僻地で不可侵浄化系の結界内にある自宅に住んでいるが、身元を明かさずに魔物討伐や自作の魔導具で結構稼ぐ。

女神に『勇者らが使い物にならないから何とかヨロ(ハートマーク)』されて半ばキレながら魔王城に向かった。

向かった先の魔王拉致、自宅連れ込みは本人の独断。会話が出来たので魔王の様子をみかねて保護した。

黒髪黒目の地味系一般人。

魔王、もしゃもしゃだけどイケメンだな関係ないがと思っている。拾ってきた以上は責任は取る所存。



魔王

…元魔国(国民全員魔力高め)の町人Cこと、引きこもり陰キャ。身内なしだが裕福な家で、顔も良かったがコミュ障で在宅で出来る魔導研究員になる。その後ジョブが魔王になってしまい魔王専用の転移で魔王城に逃亡。いずれ勇者が差し向けられるのはわかっていたので、魔王になってしまった人生終わったと絶望してたら主人公にお持ち帰りされる。

連れてかれた先ではめっちゃ大事にされて何不自由ない新生活(引きこもりで廃墟生活してたし)で、とても幸せ。

前は眼鏡だった。黒髪ロングのオッドアイは元から。ジョブ変から堕天使系魔王オプションがついて髪も伸びた。

主人公、自分の人生に舞い降りた天使だと思っている。先は長そうだがコミュニケーションを頑張りたい。



女神

…うっかりやっちまいましたわ!からの、まさかの高機能滑り止め(主人公)で土俵際ギリセーフだった駄女神。しょっちゅうやらかしている。

さすがに駄目もとで天啓お願いした翌日に単身で魔王城に凸った主人公には度肝を抜かれた。

今では『あらあら、まあまあ』と二人の様子を見守っている。もう二人ともお気に入りだし、主人公には感謝してるので。



勇者他

…生き急いでいる。だいたいお察しの通り。




異世界

…魔王は世界の淀みが長いこと堆積すると発生するジョブで、他の瘴気(淀み)を集積したり強めの魔物にしたりして消しやすくする感じ。ただ瘴気の影響である程度耐性があるがジョブがついた人が正気をなくしたり闇落ち必須なので討伐される。魔王自体が討伐されると巻き添えで瘴気が浄化されるのでだいたいそんな感じ。

主人公が踏み込むのが遅かったら従来どおりの流れになっていた。

瘴気問題が片付いていないが、きっと二人でぼちぼち何とかする予定。




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