第2幕。「魔法が使える郵便屋さんの噂について」
私は少年から預かった手紙の内容に衝撃を受けていた。
それもそうだ。いざ開いてみたら手紙の宛名に、
【魔法が使える郵便屋さんへ】
なんてことが書かれているんだ。それは驚くに決まっている。
こんな話、私しか知らないと思っていたから。
私が知らないだけで意外と有名な噂なのだろうか。少し息を置き再び私はその内容へと目をやる。
その内容は至ってシンプルなものだ。もう一通同封している手紙を届けて欲しいというものだった。
そんなもの自分で伝えればいいのに、と思うが何かしらの事情が有るのだろう。
それこそ実在するかどうか分からないような噂に。
とりあえず、読んでしまった以上下手に処分することも出来ない。明日部長にでも聞いてみよう。
きっとそうした方がいい。
そうした翌日早速私は部長のデスクに向かって手紙の話をした。
「昨日、小さな子から一通の手紙を私受け取りまして。少し中身を読んだのですがそれが、“魔法が使える郵便屋さんへ“という宛名で始まってるんですよね。どうやらウチの会社の誰かに宛ててでしょうけれど何か心当たりありますか?」
「……君は“魔法が使える郵便屋”と言う単語を知っているかい?」
「ええ。幼い頃父にそんな話を」
「そうか……」
そう言うと、少し間をあけて部長は静かに話し始めた。
「実は私もそんな噂がある。と言うことだけは知っているのだが、実際はどうなのかは僕もあまりわかっていない」
「はあ」
「ただ、僕が一つ知っていることがあって過去このオフィスにその“魔法が使える郵便屋”と言われていた人が実在したらしい。」
「……は?」
「まあ、当時の資料も何も残っていないし僕もだいぶ昔に風の噂で聞いた程度だから実際どうなのかは不明だが」
部長から放たれた言葉に少し呆気にとられ素の声が出てしまった。
でも確かに納得はいく。
父と部長はおおよそ同い年くらいであり、恐らくきっとこの噂自体が流行っていたのがそれくらいの時期だったのだろう。
だが、あまり後には続かず廃れた。そういった所だろうか。
噂としてもちょうどそれくらいがぽいだろう。
だが、それにしても、実在したらしい。なんて言うものだから面白いものだ。
「まぁとりあえず何かの縁だ。少し調べてみるといい。暫く大きな仕事もないし」
部長は微笑みを浮かべながらそう言って私に問題の手紙を渡した。
私としてはなるべく面倒くさい事は避けたいのだが。と苦い顔を部長に向けてみたが部長は顔色ひとつ変えず私に微笑みかけている。
「はあ……まあ、分かりましたよ。ひとまずやれるだけやってみます」
「うん!君ならそう言ってくれると信じていたよ」
一種のパワハラで訴えられないだろうかこれ……なんてしょうもないことを思いながら、部長から手紙を受け取った。
まあ、普段の仕事がなくなってそれの代わりによくわからない噂探しならいいか。と私は内心軽く思いながら私は早速調べる為資料室へと向かった。
部長曰く、ウチの会社の資料室に噂についてのことが示された資料がもしかしたらあるかも。と言うことらしい。
資料室はビルの地下二階にある。資料室にはこの会社が創設されてからの歴史的資料が保管されておりウチの社員であれば許可を取れば誰でも閲覧可能だ。
地下にある資料室。響きだけ言うなら少し心躍ってしまいそうになる。
なにか、宝探しに向かうような心もちだ。
「ん〜。資料室……資料室、えっとここか。初めてくるな〜」
そんなことを思いながら階段を降り、資料室の前に着く。
普段会社の歴史の資料など調べる機会もないので当たり前に初めてこんなことろにくるのだが、資料室という札がかけられただけの質素な入口から漂う雰囲気的には意外と普通だ。
事前に受付にいた警備員から許可はもらっているので中に入る。流石に会社の歴史が長いだけあって資料が多い。学校の図書室くらいの広さだろうかそのくらいの広さの中にびっしりとファイリングされた資料が規則正しく並んである。
まるで小さな図書館だ。
「一体どれほどの歴史があるんだウチの会社……」
私はその資料のあまりの多さに少し驚いてしまった。
入り口近くにあった資料に少し手を触れてみると最近の資料なのか今の社長の名前とその経歴が事細かに記されている。若干引くくらいにはびっしりと。生まれから、どこそこの学校に行き、どういう生活をしていたかまで。
流石に調べすぎなんじゃないか……
他の資料に目を移すと月毎に何が起きたかまとめてある。ウチの職場は一体なんなんだ。と思いながらも手に取り一ページずつ捲っていく。
でも確かにここまで記されているとその例の魔法が使える郵便屋さんについての噂が書かれた資料もあるだろう。
早速、噂が流行った当時、つまりは部長が若い頃の資料を探す。
大量にある資料から探すとなると時間がかかるがある程度場所の目星はついているので時間はかからなかった。
私は当時の資料を端から順番に手に取り、めくる。
「1982年……この頃はまだ噂話に関する記載は無しっと。次は1983年……この年も無しか……」
こうもなると結構途方もない作業に思えてくる。
5、6冊のファイルを一気に手に取り、併設されている資料を見る為であろうスペースに腰をかけ、中身をじっくりと読む。
意外と時間がかかるものだ。
だが、暫く資料を見ていると私は不可解な点があることに気がついた。
「……1985年から1987年の二年間に明らかに何ページか抜き取られた跡がある?」
ページが抜けていることを不思議に思った私は、他に紛れていたり順序が異なっていないかを何度か確認した。だがやはり……
「やっぱり足りない……何ページか抜き取られた跡がある!」
幾つか、その二年間の資料からページが消えていた。