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第一幕。「魔法が使える郵便屋さんが実在する可能性」


「なあ、遥香。世の中の郵便屋の中に魔法が使えるやつがいることを知ってるか?」


 これは私がまだ小さかった時に、父がよく言っていた言葉だ。

 確か幼い時の私はこの話のことを本当だと信じ込み、目を光らせて聞いていた記憶がある。

 おそらくきっと、いや絶対的にこの話はサンタは実在すると言う話と似たようなものだ。

 こう言った話は何ら信憑性はないが一種の非日常なものに対する憧れや期待を子供の頃は持つのだろう。

 なので例に漏れず私も目を輝かせて信じていたわけだ。

 だが今となっては、懐かしいなあ。なんて思うくらいで真に受けたりしない。何故なら残念なことに実際にはそんなものは存在しないことを知っているからだ。

 それこそ魔法と使える人なんているのならば今頃学会ものであろう。

 なのでそんなものは存在しない。

 そんなことを考えてしまうなんて、自分でもつまらない大人になってしまったなと時折感じる。

 もしも今の私をあの頃の父と幼かった私が見たら何を感じるのだろうだろうか。

 きっと見向きもしないだろうな。と思う。

 あの時から、二十年近くたった。私ももう二十六とそれなりな大人にもなったものだ。

 今ではあの頃の輝きなんてどこにいったのか、ただのどこにでもいる量産型の会社員として日々を過ごしている。

 平日は朝起きて電車に乗って会社に行き、夜会社から家に帰る。

 休日は家で惰性のかぎりを尽くし、時折友人と遊ぶ。

 まったく、何の変哲もないごく普通の生活だ。

 だが、きっとそれでいい。

 とうの昔に何かをするやる気や元気なんてものはどこか遠くに消えていっていた。

 

(お、これで今日の仕事も終わりか〜。やっと帰れる〜)


 本格的な寒さが肌を刺す十二月。いつも通りの残業を終え、私は浮かれた心の中時計を確認する。

 その針はまもなく八時を指そうとしていた。

 こう思うと立派な会社員になったなと思ってしまう。きちんと残業代も払われるし別にこれといった不満がある訳では無い。むしろ言うなら会社としてはだいぶ優遇されていると思う。私自身はただの郵便会社の一般社員であるけれども。

 信じてはいないとはいえども、やはり幼い頃の父からの言葉が心に残っていたのかこうして郵便会社に務める道を選んだのだろう。

 最も、はじめの方に父が言ってた言葉をふと思い出し少し調べた事については内緒だが。

 が、勿論そんなものある訳なく少しガッカリしたのを覚えている。

 そんな調子でいつも通り窓口の人に挨拶をし会社を出て帰ろうとした時だった。

 

「ん……?こんな時間に誰だ?」

 

 いつも店舗の方から回って帰るのだが、八時を過ぎた今閉まっている店舗の前に誰か立っている影が見える。

 しかもそれも子どものような少し小さい影だ。

 少し疑問に思った私は事務員であるが少し尋ねてみる事にした。


「こんな時間にどうしたの?もう郵便局は閉まっちゃってるけど。私ここで働いているからなにか用事があったら聞くよ?」


 やはり私の予想通り子どもだった。おおよそ10歳くらいだろうか。

 私が話しかけるのもどうかと思うが警察沙汰になったら尚のこと面倒くさい。

 なるべく怖がらせないよう注意しながらゆっくりと優しく話しかけた。

 

「…………」


 どうやら少年はこちらを警戒しているのか少し強ばっているらしい。

 まぁ、誰かも分からないような人から話しかけられるのだ。当たり前か。


「あぁ。ごめん。怖がらせちゃったかな?ただ困ってるか聞いただけなんだ。困っていなかったらいいんだけど」


「……」


「えっと、とりあえず困ってるってことでいいのかな?」


 私に悪意がないのが分かったのか少し安堵の表情見せ、頷いた。

 ひとまずは伝わってくれて良かった。


「とりあえず何に困ってるか私に教えてくれいない?」


「……」


「これを私に……?」


 私はその少年に話しかけるが、少年は未だに言葉を発しようとはしない。

 ただその少年は私に対して一通手紙を差し出してきた。

 少し戸惑いながらも、尚も手紙を差し出すので受け取ると、少年は嬉しそうににこやかな笑顔をうかべ、何事も無かったかのようにその場を去っていってしまった。

 なんだったのだろうか。

 ひとまず人違いということもあるだろう、どちらにせよこのままだと何か問題事になった時に面倒だ。

 私は社員用の入口から再び先程まで居たオフィスへ戻った。


「さて。どうしたものか」


 私は先程少年に貰った手紙をデスクの上に起き悩んでいる。

 困ったものだ。

 あの少年、私の知り合いにはいないので少なくとも私宛では無いことは確かなのだが、宛名も無いので誰宛かも分からない。

 一旦置いておくか?というのがきっと定石だろう。社内の誰かに渡して欲しくて私に預けた可能性が高い。だが、それにしても渡す相手が不明だと渡しようがないのが正直いったところだ。

 明日にでも社員に確認したいものだが、いかんせん社員が多いので確認するのも一苦労だ。

 少しくらいなら内容を見ても大丈夫だろうか。私の心に少し邪な気持ちが走る。

 本当は見るのはよくないだろうが、見ないことには渡す相手の想像すらできない。

 少し悩んだ結果結局申し訳なさ半分、私は少年から預かった手紙を開く事にした。


「は……?」


 開くと同時に目に入ってきた言葉に私は言葉を失う。

 そこに書かれていた言葉によって。


【魔法が使える郵便屋さんへ】


 と、ただその一文だけが私の目に入ってきた。

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