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虜囚 1-2

「神魔 2-2」で登場した、謎の集団の正体に迫ります。






 □





 虜囚となったガブリエールは、謎の城で、謎の状況で、謎の人物と相対する。

 どのような姿かもわからぬほど大量のヴェールを頭からかぶった姿は、しかし、異様さのわりに警戒心や敵愾心(てきがいしん)というものを(いだ)きにくい。

 最高級の寝台で半身を起こす銀髪の令嬢は、言葉を繰り返すほかにない。


「あ……あなたは、いったい」


 何者かという問いの前に、扉をノックする音が令嬢の怯懦(きょうだ)を呼び起こし、両の肩をビクつかせる。

 純白の誰かは、暢気(のんき)にも『どうぞ』と(のたま)った。


「失礼いたします、我が“神”」

「──ッ」


 ガブリエールは本気で恐怖の念を覚えた。

 というより、思い出したのだ。

 自分が王城の一室で襲撃を受けたこと、クロワ第二王子が守ろうとしてくれたこと、そして竜に乗った全身鎧を身に纏った騎手の声を。


『フゥですか。どうかしましたか?』

「は。我等の第一軍が、まもなく「第一の壁」を捕捉。「六ヵ国連合軍」と戦闘に入ります」

『わかりました。前線の指揮はテールに、そのまま任せます』

「御意のままに」


 現れたのは、鎧を纏う騎士だった。

 ただし、人間という形状からは逸脱して余りある。

 頭には山羊のように捩じれた、鋭利すぎる角。黒白の髪色から覗く顔面は、色黒な貴公子然としているが、歪な紋様が入れ墨のように肌の上を這いまわり、その眼は漆黒と火の色に輝いている。両腕の先に着く手指は巨大な鍵爪状をなし、手甲は冷えた溶岩のごとき無骨なありさまで、人間を撲殺圧殺刺殺絞殺することも容易(たやす)いように思える。腰の剣帯に吊るされた大剣は灼熱色の鞘に収まり、その全貌はようとして知れない。

 一言で言えば、悪魔の騎士、といった具合である。

 ガブリエールは想い起こす──『作戦目標、捕捉──全部隊、帰還せよ』──あの声の主は間違いなく、目の前の悪魔騎士であると確信できた。

 警戒心を深めるガブリエール。

 彼女は自分がかどわかされた事実に思い至り、寝台から這い出ようとして、


「ねぇねぇ。あんたが例の“婚約者”様」

「ひっ」


 まったく未知の声に行く手を阻まれ、寝台の中央に戻される。

 その声は純白の存在でもなければ、悪魔騎士のそれではない。

 だが、それ以外の姿は、部屋の中にはどこにも見当たらない。


「そうでしょ、そうだね、そうだよね?」

「だ、誰?」


 ガブリエールには、その少年なのか少女なのかもわからない中性的な声の主を見つけられない。まるで透明人間に耳元で叫ばれてるような心境だった。

 令嬢のおびえた様子に、悪魔騎士が諫言(かんげん)を飛ばす。 


「こらヴァン。御客人の御前(ごぜん)だぞ。姿を見せて、発言するように」

「えー、フゥは相変わらず堅いね、それで本当に火の悪魔なの?」


 応えた声の主は、微風の竜巻を発生させながら現れた。

 その姿は、小人と称されるドワーフよりもさらに矮小──人の掌の上で踊れるサイズ感であった。

 緑がかった全身に、新緑色の長髪。グローブとブーツを身に纏う以外は全裸に近いが、乳首も局部も存在していない。そして、特徴的なのは虫のそれを思わせる透明な二対の(はね)

 ガブリエールは、物語に語られる存在を思い出す。


「よ、妖精?」

「ピンポーン! 大正解! 10ポイント、ゲッツ!」

「じゅ、10ぽいんと?」

「気にしない気にしない。ボクは風妖精のヴァン! よっろしくねー、お嬢さま?」


 華麗かつ軽妙に一礼しておどけてみせる妖精は、ガブリエールの掌の上で踊りだしそうなところを、悪魔騎士・フゥに翅を掴まれ、強制的に止められる。


「……御客人の前だと言ったはずだ」

「えぇえー、せめて一曲くらいさー」


 唇を尖らせるヴァンに対し、悪魔の騎士は翅を離そうとしない。


「わかったよ。わかった。わかりましたってばよー」


 その一言でようやく風の妖精は自由を得て宙を舞う。


「あ、あのぅ……」


 ガブリエールを含む部屋の中の全員が、出入り口の扉に注目する。

 開いた扉の陰から、こちらをのぞき見る何者かの粘液質な水色の指が、とろけて、流れて、またとろける。


「ふひぃ……あの、えっと、お、お邪魔でしたら、またあとで」

『構いませんよ。あなたも入りなさいな。──オー』


 主人然とした口調に手を引かれるように、その存在は扉の奥から全身を(あら)わにした。

 ガブリエールは動揺よりも感銘に近い衝撃を受ける。


「ふひぃ、あの、はじめまして──おじょうさま──えと、あの」

「相変わらず、人見知りが激しいねぇ、オーってば」

「御客人の前でくらいハキハキできんのか、オー?」

「……オー、さん?」

「は、はい。私の、な、名前……ふへ、我が主から賜った、お、贈り物、です!」


 指を恥ずかし気に組み合わせたり、もじもじさせたりする人物──ではない。

 そこにいたのは、優美な面貌の人魚であった。

 ただし、長い髪を含む全身が水流の青色に染まり、浮遊する泡に腰掛ける姿は異様と言えば異様。

 だが、すでに人外じみた三者との対面を終えているガブリエールにはささいなことのようにも感じられ、それが彼女自身も状況に適応している──慣れてきていることの証左と言えた。


『あと一人、紹介したい子がいたのですが、それはまた今度ですね』

「……はぁ……」


 ガブリエールは感嘆とも共感ともつかない生返事を返してしまうが、事態の変容ぶりを考えれば無理もない反応である。

 なにしろ王城で第二王子と話し合った直後にドラゴンと悪魔によって拉致され、このような城の一糸に閉じ込められるなど、想像だにしない事態と言える。

 ここであと一人二人、物語の中のバケモノが登場しようと、驚愕する余裕すら尽きてしまっているというのが実際のところだ。

 ガブリエールは自分の服が寝間着に着替えさせられていることを確認すると同時に、足枷や手錠などの類がないことも認め眉をひそめた。


「あの、失礼ですけど……屋敷に、我が家に帰らせていただけませんか?」


 銀髪の令嬢がそう言うと、四人のうちは三人は失笑の忍び笑いを漏らし、最後の一人は残念そうに頭を振る。純白のヴェールは静かに告げた。


『残念ながらガブリエールさん。あなたを国に帰すことは、今はまだ出来ません』

「……今は?」


 その言葉を受け、ガブリエールは疑問符を頭上に浮かべるしかない。

 何かしらの時間的条件や誓約の類を感じるが、それよりも気になる言葉を、純白の存在は言い放つ。


『一から説明しましょう。我々は“神魔国”と呼ばれる国家、魔族魔獣による多民族国家です。我等の目的はただひとつ──人間世界の根絶にあります』

「こん、ぜ……え?」

『人の時代に終わりを告げる時が来たのです。それが魔族たちを統べ治める私の役儀であり、“神”としての権能そのものなのです』

「あなたが……神?」


 信じがたい話のオンパレードで、頭が完全についていけないガブリエール。

 さらに、自ら“神”と名乗り、配下から“神”と呼ばれる存在は、純白のヴェールを少しあげて口元の微笑みをチラつかせる。

 神は、わずか十五歳の令嬢に語りだす。


『ガブリエールさんは考えたことはありませんか? 何故、ご自分が王国王太子と、偽装ながら婚約することができたのか』

「……………………どう、して、そのことを?」


 知っているのか。

 にわかには信じがたい思いだった。

 偽装婚約の件については、国王にすら秘密を護ってみせたガブリエールであったが、“神”たる存在は事も無げに真相を語る。


『何故なら。すべては我々が手配したことだからですよ──ガブリエール・ド・モルターニュさん』








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