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序章 2‐2 エミール・ガニアン・ド・シャルティエ②






 □






 外見上には一切の変化がないのは、王族としての教養・訓練による賜物である。

 だが内心では、初恋を経験する少年めいた想いで、心臓がはじけそうになっていた。

 そしてダンスの終わりに婚約の申し出をしている自分がいることに気づいて、自分は表面上こそ感情らしい感情は現さなかったが、心の内でいろいろな事柄が爆発していた!



(何をやっているんだ自分は!)



 と思ったし、何より婚約の偽装まで申し出てからは、訳が分からなかった。



(婚約の偽装とか、非常識にも程があるだろう!?)



 そう思ったが、抗えなかった。自分の中にいる何者かが、彼女を決して離すなと、そう命令しているような気さえした。

 そんな非常識極まりない申し出を、貧乏貴族の娘は、承諾したようにコクンと頷いてくれた。それだけが救いとなった。



(た、助かった)



 正直、断られたらどうしようと思った。

 心臓が張り裂けそうなほど脈打っていた。顔から火が出そうなほどの焦りを感じていた。

 少女がジョルジュに──パーティーの主催者たる公爵に「お(いとま)」をいただくのを聞いて、そのまま去るのに任せた。

 ガブリエールはパーティ会場をひとりで辞した。

 自分はそれを追いかけたい衝動を何とか抑え込み、ジョルジュの私室へと避難した。来客や従卒の目から逃れ、二人きりとなる従兄(いとこ)従弟(いとこ)


「いやはや。いきなりの婚約発表とは、王太子殿下は何を考えておいでなのです?」


 実直に、だが内心ではおもしろおかしそうに話す、リッシュ公オーギュスト。

 椅子に座って項垂れ、顔面を両手で覆う自分(エミール)の姿を咎めるでもない友人の様子に、王太子は語りだす。


「リッシュ公、……俺は何という罪を」

「──罪? え、何? なんの話だ?」


 自分はジョルジュに対し、すべてを打ち明けた。


「婚約の、偽装? なんのために、そんな?」

「わからん。ああ、だが、あの時は、そうでも言わないといけない気がして!」

「歳の差でも気にしたのか? それとも断られるのが惜しかったか? それにしても、よくそんな非常識なことを相手が承諾したな?」


 ああ自分でもそう思う、と告解するエミール。


「で、どうするんだ?」

「どうって?」

「あんな大勢の前で婚約発表しておいて、偽装でした、なんて言えると思うか?」

「あああああああああああああああああああ、そうだよなああああああああっ!」


 全力で頷くことしかできない自分がなさけない。

 そんな友の恥態(ちたい)ぶりに、オーギュストは提案する。


「一応、地位と資産は保証するとか言ったんだろ? なら後は流れに任せるしかないだろ?」

「流れって言っても……」

「なんだったら、俺の方から正式に婚約の破談の話を取り次いで」

「いや、それはしなくていい」


 キッパリとした口調で返す王太子に、リッシュ公は肩をすくめて嘆息する。


「おまえ……今自分が最低な人間だって、気づいてる?」

「気づいてるよおおおお、もおおおおおおおおおおお!」


 婚約を偽装した王太子と、その話を受けた貧乏貴族の娘。


「さて──どうなることやら」


 ソファに寄り掛かるジョルジュの言葉に、エミールは反論もできず頭をかかえ黒髪をガシガシかき回すしかなかった。









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