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魔女 1-3






 □






「いやはや。“女王陛下”も御人(おひと)が悪い」


 何とか死守されたガブリエールの屋敷にて、談笑するエミール王太子。

 王太子は婚約者の無事な姿に心から安堵すると共に、魔女の国からの来訪者(予定外の人物)に苦言を呈する。

 それに対し、老婆の(なり)を完全にひそめた亜麻色の髪に黒いローブ姿の女性──“女王”が微笑みつつ答える。


「ごめんなさいね。貴国の……エミール王太子殿下の婚約者殿には、以前から興味がつきなかったもので」


 ガブリエールは恐縮しつつ、王太子の婚約者として臨席する。だが、まさか、嵐の夜に来訪した老婆が、『魔女の国の女王陛下』だったなどと、想像の埒外(らちがい)である。


「ガブリエールさんもすっかり驚かせてしまって、ごめんなさい」

「い、いえ」

「けれどジュリエットさん──魔法使いのメイドさんは、私に気が付いていたんじゃないかしら?」


 三者が見据える先で、“女王”の治癒を受けて全快した三人のメイドの一人が頷きを返す。

 ジュリエットは進言した。


「この近隣諸国で、青薔薇をあれだけ携えられる人物は限られておりますので。何より、青薔薇は魔女の国の象徴のひとつ。それでも、まさか女王陛下御自身が「変身」した姿だったとは……御見それいたしました」


 感服したように一礼するジュリエット。

 悪戯に成功したような陽気にすぎる微苦笑をたてながら、魔女の女王は今後のことについて明言する。


「今回は私がいたがために、魔獣の侵攻は抑え込めました。ですが、今後は」

「ええ。同じ轍を踏まないよう、ガブリエールには安全な地、我等が王宮付近への避難を考えております」

「……え?」

「ガブリエール。君がこの屋敷を大切に思っていることはわかるが、さすがに今回の事態の規模を考えると」

「いや、でも、私なんかが殿下のお傍になんて──そんな、畏れ多いこと」


 難色を示すガブリエール。

 だが、自分がここに留まることで、ジュリエットたちにも迷惑をかけた……それどころか、王太子が率いる部隊の出動にまで、ことは発展してしまった。

 犯人の動機はいまだ不明。王太子の婚約者を誘拐しての身代金目的か。はたまた、王族に対する怨恨か。

 女王が捕縛もとい氷結させた魔獣を早急に調べ、下手人を割り出す必要もあるが──


「……やはり、住み慣れたこの地を去るのは、しのびないか?」

「──」


 これが我がままに類するものだと分かっていても、ガブリエールは首を縦には振れなかった。

 自分たちはあくまで『偽装』の婚約者。

 それが王宮の世話になるなど、途方もない不忠に思えて足がすくむ。

 いずれは行儀見習いなどで赴く機会もあるだろうが、それまでは屋敷に留まりたい──エミールの負担になりたくないのである。

 そんな彼女の様子を見ていた女王は己の脳内に閃いた妙案を口にした。


「ならば、ガブリエールさん。この地に、(わたくし)女王の守護『青薔薇の守り』を授けましょう」

「それって?」

「最高位の魔獣除けじゃないですか!」


 容量を得ずに首を傾げるガブリエールに対し、ジュリエットが歓声に近い声をあげる。これで、少なくとも魔獣による奇襲などの脅威は打ち払われることになる。


「友好国であるユーグ王国の、未来の親王妃の土地ですし、何より一晩の宿を借りた恩義もある。これぐらいのことは、お安い御用よ?」


 女王が見つめる先で、王太子とその婚約者はテーブルの下で手を握り合い、彼女の申し出を受諾した。







 ■






 大陸のどこか。

 漆黒の空間で密議を交わす声が響く。


「〈魔犬〉部隊がやられた」

「馬鹿な。あれだけの数を揃えて、小娘の屋敷ひとつ墜とせなかっただと?」

「どうやら客人が来ていたようだ。王宮に来ていた魔女の国の使者とは、まったく別の、な」

「しかし、魔女ひとりでも対応するは困難な戦力だったはず、それが何故!」

「原因はいい。それよりも、必要なのは対応だ」


 代表者の言い分に、全員が首肯を落とした。


「より強大な魔獣を送り込むか?」

「いや、それも難しくなるだろう。今回の件を看過する王太子ではない」

「ガブリエール・ド・モルターニュ──奴は王国に対する最上の切り札となるはず」

「是が非でも、我等の手中におさめねばなるまい」

「然様。あのユーグ王国の破滅のために」


 大陸のどこかで、王太子の婚約者を狙う不埒な企みは進行している。

 王国にそれと気づかれることなく、水面下で、ことは進んでいる──














第二章 終了

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