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国賓 1-2







 □






「おはようございます、お嬢様」

「おはようございます──ジュリエットさん」


 ガブリエール邸は、いつもの朝を迎えていた。

 魔物魔獣の残骸は跡形もなく処理され、令嬢に気づかせることは絶対にありえなかった。


「そういえば、昨晩来客があったとクレマンスさんが」

「そのことであれば、私とシャリーヌが丁重におかえり願いましたので、どうかご安心を」

「はぁ……?」


 生返事を返すしかないガブリエール。

 彼女は彼女で、いまや重責を担う身──王太子殿下の婚約者として必要な行儀作法や学問の類にも習熟せねばならない。ようするに、習い事で大変多忙な身なのである。

 王宮から贈られてくるそれぞれの分野に精通した女家庭教師(ガヴァネス)のおかげで、ガブリエールはてんてこまいな日々を送り始めて久しい。

 ガブリエールは朝の身支度と朝食を軽く済ませると、今日予定されているダンスステップの予習を行っていたが、


「お嬢様! すぐに来客の御準備を!」


 教師役が到着するよりも先に、変事が起こった。


「ど、どうかされたのです? ジュリエットさん?」

「帝国の第一皇女殿下が、こちらに向かっておられます!」

「帝国、……え……はい?」


 そして。

 ほどなくして。


「本当に申し訳ない」


 そう言って頭を下げる王太子殿下と、その随従たち。

 いったいどうしたことだと目を白黒させているうちに、




「はじめまして」




 その人物は帝国式の格調高い黄金細工を施した馬車から降りて現れた。

 黄金を思わせる長い金髪。

 ルビーを連想させる紅の瞳。

 そして、優美極まる美貌の主。

 だが、


「随分と安っぽいお屋敷にお住まいですのね?」


 その美しい桜色の唇から紡がれるのは、毒にまみれた侮蔑と恥辱の言葉だった。


「家も狭い、庭も狭い、調度品などは必要最小限度といったところかしら? とても大国であるユーグの王太子の婚約者の屋敷とは、思えないわね?」

「…………」


 あまりにも瞭然とした事実を羅列されて、ガブリエールは固まった。

 その毒言を聞いたメイド三人が敵意の視線を向け、王太子が詰問しようと肩に手を伸ばしかけた。

 が。


「はい。おっしゃるとおりです」


 ガブリエールは笑みすら浮かべて肯定の意を示した。


「ですが、私程度にはこれが分相応かと」

「あなた程度? 王太子と婚約したあなたが?」


 その婚約は偽装だ、とは口が裂けても言えぬガブリエール。

 だが、それでも、令嬢は微苦笑を口元に刻む。


「殿下と婚約したとはいえ、私の身分は変わりありませんから」

「ならばエミールに請願すればいいじゃない? 自分の身分を、王太子の婚約者たるにふさわしい地位につけてください、とか」

「それはできません」

「あら、何故?」


 第一皇女は本気で理解不能という風に眉根を寄せた。


「私には、祖父母が残してくれた屋敷がある──それで十分だと(はん)じているからです。」

「……祖父母、ねえ」


 皇女は挑戦的な態度を軟化させる。


「わかった。わかりました。私が(わる)うございました」


 マリィ・ピオニエ・ランブランは、謝罪の言葉を尽くした。


「それじゃあ案内してもらえるかしら? 貴女の、エミールの婚約者様の屋敷を」


 挑戦的な笑みすらも薔薇が咲き誇るような美しい笑顔だった。

 ガブリエールは一も二もなく頷きを返し、第一皇女殿下を邸内の庭へ案内した。









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