第5話 【Red Carpet】
『何これ!?凄い・・・』
車窓に広がるTimes Squareは想像を絶する光景だった。
そこでは、ありとあらゆるビルに巨大な広告スクリーンが取り付けられており、世界中の一流企業の広告やブロードウェイミュージカルの有名作品の広告が、24時間休む事無く映し出されている。
これほどの煌びやかな光景は世界中でもTimes Squareにしか存在しないだろう。
私の目の前に、アメリカ資本主義の繁栄を象徴するような光景が展開していた。
目がクラクラするような電飾の嵐の中を、リムジンはゆっくりと進んでいく。
やがて進行方向に群衆が見えてくると、車はスピードを落とす。
『まさかあそこに止まるつもり!?』
私の予感は的中し、リムジンは群衆が待つ会場前に停車した。
会場前で待機していたドアマンがリムジンの後部ドアを開けると、目の前に現れたのは汚れ一つないレッドカーペットだ。
叔母がリムジンから降りると同時にフラッシュが一斉に焚かれる。
『嘘・・・』
歓声、拍手、口笛・・・それは全く非現実的な光景だった。
他に選択肢の無い私は、やむを得ず叔母に続いて車から降りる。
叔母から借りた振り袖を着た私に対して、見物人から一際大きな歓声が上がった。
追い打ちをかけるように、フラッシュの砲火が、普通の女子大生である私に向けて容赦なく浴びせられる。
叔母はレッドカーペットの両側に並んだカメラマンや見物人に向かって、余裕の表情で手を振っているが、後ろを歩く私は今すぐ逃げ出したい気分だ。
足元が歩き慣れない草履である私は緊張でガチガチになりながら、レッドカーペットの上で転ばない事だけに集中していた。
笑顔を見せる余裕など当然ゼロであり、私は強張った表情のまま逃げる様に会場に入っていった。
次回は7月2日(金)20時に公開予定です。