第1話 【不安だらけの入学式】
『何で私がこの大学に入れたんだ・・・?』
創立150周年を記念する真新しい大講堂を見つめながら、私は未だに現実感が湧かないでいた。
大講堂からは入学式を終えた新入生とその家族が続々と姿を現す。
同級生である新入生達は一様に笑顔で、これから始まる大学生活への希望に満ち溢れている。
そんな眩しい光景の中、私は一人取り残された気分だった。
私がこれから通う麗央大学は、日本人なら誰もが知る名門大学である。
学生数が3万人を超えるこの大学は受験偏差値が高いだけでなく、名家の子弟が多い事でも知られている。
一方の私は生まれも育ちも東京下町であり、同じ東京とは言っても山の手文化とは無縁の暮らしをしていた。
今は下町にもタワーマンションが立ち並ぶようになり、山の手文化が流入するようになったが、私が住んでいる界隈は、昔ながらの下町の風情が色濃く残されている。
私は生粋の下町育ちでありながら、小さい頃から山の手文化に対して憧れの気持ちを抱いていた。
そんな事もあって、分不相応とは思いながら、進路選択で麗央大学を第一志望校にしたのだ。
とは言え麗央は国内屈指の難関大学である。
地元の高校では学年トップの成績に位置する私ですら、受験直前の全国模試の合格判定はC判定であり、麗央受験は無謀とは言えないまでも、合格は五分五分だった。
そして幸か不幸か、私は麗央大学に合格してしまう。
だが合格の喜びも束の間、麗央の事を調べれば調べる程、私を不安にさせる材料が次々と出てくる。
何より驚いたのは、本物の麗央大学生と呼ばれるのは、単に附属高校出身というだけでは駄目で、初等部から麗央という、ほんの一握りの生徒のみなのだそうだ。
そうであれば附属高校出身ですらなく、大学受験で何とか引っかかった私なんかは、ニセモノもいいところだろう。
私は打ちのめされた気分だった。
おまけに地元の高校から麗央大学に進学した友達は一人もいない。
そのため私は不安を共有する相手が全くいないまま、大学に入学する事になった。
『この先やっていけるんだろうか、私』
入学早々、私は自分の選択を後悔し始めていた。
次回は6月4日(金)20時に公開予定です。