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最終話

『――聞こえていますか。皆さん、聞こえていますか?』


 その映像は街中へと流れていた。頭部に赤いラインの入った全身黒タイツ。それを纏った男がそこには映っていた。テレビだけではない。ラジオや避難誘導用のスピーカーからまで音声が発信されている。

 声は、青年とも老人とも判別がつかない。端々に若さが見られるにも関わらず、酷くしゃがれていた。男は独白する。


『正義と悪の違いを知っているか?』


『正義は理由で、悪とは結果だ』


『だからこの世には悪しか残らない』


『俺が成してきた事を知っている者も多いだろう。俺もまた、悪である』


『悪は駆逐されなければならない』


『悪を滅ぼすのはヒーローの義務だ』


『……そう、思っていた』


『だが本当に必要なのは、悪を滅ぼす為にさらなる巨悪として君臨するヒーローではない』


『隣人を助けられる一般人だ』


『誰かたった一人にとっての、たった一人だけのヒーローだった』


『その行為だけが唯一の善だ』


『ヒーローにもいくつも種類がある』


『良いヒーローもいれば、それこそ悪いヒーローだって』


『皆にお願いだ。隣にいる誰かを救ってくれ』


『皆が苦しいだろう。だが、苦境の中で弱肉強食を生んではならない』


『悪で弱者から命を吸い上げる行為をしてはならない』


『無法を免罪符にしてはならない』


『罪には罰を』


『もし誰かがそれをするならば……俺は巨悪としてその者を討とう。この街で唯一にして絶対の悪として』


『そして最後に、感染者やその家族を責めてはいけない』


『彼等は皆が被害者だ。相手を恨んではならない』


『俺に出来るのは彼等を止める事だけだ。彼等を救う事は皆に任せる』


『あばよ、未来のヒーロー』


 そして画面の中の男はゆっくりと、まるでスローモーションみたいな動きで、傍に置いていたコーヒー缶を手に取り、そして煽った。


『やっぱ、苦ぇ……』


 その言葉を最後に、彼は完全に停止した。


 そして世界は変わる。


 感染者が一斉に停止する。まるで時が止まったかのようだったと、当時の光景を見ていた者は言う。それがこの街に生まれた一人のヒーローの終わりであり、そして。

 災害の終わりだった。


   *  *  *


「ツバキちゃん社長、この書類についてなんだけど」


「それに関しては開発部の――」


 執務室に声が響く。やがてツバキが大きく息を吐いた。


「業務内容自体は社長になる前と変わりませんが、流石に辛いですね。肩が凝って仕方ありません」


「……やっぱ、それ外すわけにはいかないんスか?」


 シュウはツバキの姿を見て言う。ツバキの全身は拘束具で覆われていた。自分では椅子に座る事すらできない。当然、歩く事も、書類にサインする事すらできない。


「そうですね。あれからもう1ヶ月経ちますが、今でも気を抜くと死んでしまいそうになります。夜眠る時も監視や猿轡は必須です。一生このままの可能性も高いでしょうね」


「……そうっスか」


「でも、意外と悪くないかもしれませんよ。この外見、ウケは良いようですから」


 ツバキが視線をテレビにやると、そこでは日本パブリックカメラの社長にまだ10代の少女が就任したという話題が取り上げられていた。しかも容姿が良い上、奇抜な格好。話題がさらに話題を呼び、良い宣伝になっている。


 ぼんやりとニュースを眺めていると、話題はひと月前の災害へと移っていた。


『被害者の遺族は連日、慰霊碑を訪れ……』


 キャスターが次々と情報を口に出す。災者の現在や、関与していたと思われる少女や覆面の行方、一斉に眠りについた感染者、それから……ヒロミの事。


 ツバキはあの、最後の戦いの事を思い出す。ヒロミがあの映像を介して何をしたのか、テレビやネットでは憶測が飛び交っているがツバキにははっきりとわかっていた。あれは彼の能力だ。


 彼の能力には二週類ある。一つは思考の加速、もう一つは思考の”減速”だ。そして、その振れ幅は次第に肥大化していたらしい。彼は時折ぼうっとしていたのは、それが原因だったのだろう。

 そして彼は、自分の能力を減速の方で暴走させた。今までなるべくニュートラルを保とうとしていたそれを、解き放った。この街にいた感染者のほぼ全てを巻き込んで。


 アイコは言っていた。能力に距離は関係ない、と。


「倉谷ヒロミさん……」


 ツバキはぽつり呟いた。


「貴方はやっぱり、私の……」


 ぼうと窓の外を見ていると、「あぁ、そういえば」とシュウが声を発した。


「あの少女に関する追加報告が上がってきてるっス」


「真野アイコについてですか? それでなんと」


「いや、真野アイコっつうかなんつうかですね……それがその」


 歯切れ悪く、シュウは言った。


「彼女、真野アイコではなかったそうっス」


「……なんですって?」


「当時の彼女を知ってる同級生とかに聞き込みしたらしいんっスけど、全員が彼女は真野アイコとは別人だって答えたみていで。DNA鑑定もしたけど、血液型すら一致しなかったみたいっスね」


「じゃあ一体、彼女は……」


 何者だったのか。それがわかる事はもうないだろう。彼女が目覚める事は二度とない。目覚めさせてはならない。彼女は厳重な監視下で、永遠に目覚める事なく、感染者を救う研究に役立てられる事だろう。


「さて、これからどうしましょうかね」


「んな事言って、決まってるんじゃないっスか? 倉谷さんの代わりに街を守るんっスよね」


「別に、彼の為ではありません。ただ私が一人で、やりたいからそうするだけ」


「全く、二人ともほんっとに、似た者同士というかなんというか……素直じゃないっスね」


 ツバキは、自分が今までヒロミに背負わせてきた罪の重さを知った。彼のやり方が間違っていたわけじゃないのはわかる。でも、それはツバキのヒーロー像とは違う。ツバキはツバキの理想でもって街を救ってみせるつもりだった。

 彼が目を覚ました時、もう彼が悪を為さなくて済むように。


「そういえばもう一つ、報告があったスね」


「なんです?」


「名前が決まったようですよ、倉谷さんの。ネット上で色々と議論されてたみたいっスけど、ようやく」


「へぇ」


 言われてツバキは、シュウが見せてきたノートPCの画面を覗き込んだ。なるほど。


「ふふっ、意外とピッタリですね」


 そしてツバキは口にした。


 私が愛したヒーローの名前は――


 危うくエタりかけましたが、なんとか完結……。


 この作品ですが今月末で一旦非公開にするかもしれません。

 理由は、改稿してどこかの賞に出す為です。前作の「完全犯罪-パーフェクト・オ○ニー-」も賞の応募に出したのですが、意外と応募するのって面白くて……。


 ただそれによって今まで追ってくれていた人が読めなくなってしまう可能性があるのだけは、非常に心苦しく思います。作品を保存しておくか、あるいは応募期間が終わればまた公開に切り替える予定ですのでその時にお読みいただければと思います。


 もし作品が伸びてくれていれば、もう少し文章を追加してHJネット小説大賞への応募でよかったのですけれどね、中々そう上手くはいきませんね……。

 そちらなら、なろうサイト内からタグ付けで応募できるのですけれど……。


 最後の最後で謝罪になってしまいましたが、これにて「ヒーロー・イン・ザ・ダーク」の完結とさせていただきたく思います。

 短い間でしたが、読んでくださった方、本当にありがとうございました!


 ※7/1追記……応募する賞の関係で現状では非公開にする必要がなくなりました。今後は不明ですが当面はこのまま公開でいこうと思います。

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