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製図錬金術師と三種の神器  作者: にるぽ77
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012 卒業発表会 作品お披露目

「どう? 結構頑張ったんだからね」

 卒業発表会の為に製図錬金術で装飾された学園の門を目の前に悠理が自慢している。

 昨日の帰りに門を出た時に振り向かなかったから、こんな装飾がされているなんて全く気が付かなかったんだが。

「まぁ、頑張ったな」

「えー、ちゃんと見てよぉ~。こことか~、こことか」

 悠理の指さす方向に目を向けると、確かに製図錬金術で作成するには面倒臭いデザインの装飾が多く飾られていた。

「うん、頑張ったな」

「もぅ。さっきと言ってる事が同じじゃない」

「まぁ、頑張りは認めているんだが」

「そうじゃないの、そうじゃないのよぉ~」

 ん? 何が言いたいんだが……。

「モタモタしてると、遅刻するぞ」

 何か言いたげな悠理を放置し、教室へ向かう事にする。

「ちょ、ちょっと、待ってよ」


 教室に入ると全員が揃っており、担任の山下も普段着ではないスーツを着てスタンバイしている。

 まだ、始業のチャイムは鳴っていないが、この場の雰囲気を察知し素早く着席する事にした。

「よし、揃ったか」

 着席とほぼ同時に始業のチャイムが鳴り響く。


 山下はチャイムが止まった所を見計らって周りを見渡し、確認の声掛けを行う。

「今日は卒業発表会だ。展示される作品はここにいる全員が12年間の成果と思いを込めて作った作品だ。見るだけでなくそれを実感してほしい。そしてその思いが下級生に伝わり、繋がっていく事を心より祈っている。じゃ、準備開始だ!」

「ハイッ!!」

 山下の号令に全員が返事をして、展示場へ向かう。


 展示場に着いた後、各々ブースのところに行き、ビルドを行う。

 展示場となっているホールには12学年生の『ビルド』という声があちらこちらから聞こえてくる。

「皆、気合い入ってるね」

「そ、そうだな」

 掛け声の中を進むと悠理が声を掛けてきた。

「私も負けられないわ」

 悠理もこの状況を楽しむように、気合いを入れる。

「優斗もわかってるわよね!」

「ああ、勿論さ」

「何を余裕ぶっこいてるのよ! 大丈夫なんでしょうね!?」

「だ、大丈夫だよ!」

「ほんと、信じてるから……」

 いきなりトーンダウンした悠理を見て心が痛む。

 悠理の態度を見て、成り行きでクリスとの勝負を受けた事を少し後悔したが、勝てば問題なしだ。絶対に負けられないとはこの事か。


 ホールの奥へと進み、悠理のブースが近づいてきた。

「せっかくだし、作品見て行ってよ」

「あ、そうだな」

「うん、優斗に最初に見てもらいたかったし」

「そ、そうか……。それは光栄だな」

「べ、別に変な意味は無いわよ。じゃ、ビルド」

 悠理の掛け声と同時に、持っていた図面から作品が構築されていく。

 まずは土台が構築され、その上に作品となる顕微鏡が姿を現す。

 見た所、普通の顕微鏡より一回り大きい程度の顕微鏡というイメージだ。

「見ただけでは変わった所はわからないな」

「まぁーね。見た目はちょっと大きい顕微鏡ってところ」

「そうだな。で、ビックリするってのは?」

「そうそう、そうよ。そこね」

 悠理の自慢げな顔が近づいてくる。


「まず、この顕微鏡、何かわかる?」

「何かって? 顕微鏡だろう?」

「何言ってるのよ! 顕微鏡の種類、しゅ・る・い・だよ?」

「種類? 電子顕微鏡とか?」

「まぁ、ちょっと違うけどね。実は、この顕微鏡の種類は『紫外線顕微鏡』って言うの」

「紫外線? 知らないなぁ」

「人が見える可視光線を利用した普通の光学顕微鏡が一般的だけど、これは見えない紫外線を利用した顕微鏡なの」

「どうすごいの?」

「顕微鏡って倍率ばっかり目が行くと思うけど、実は分解能が重要なのよね。分解能って簡単に言うと、『二つの点がちゃんと点として認識できる最短距離』の数値の事ね。勿論、数値が小さいほど性能が良いわよ。倍率がどんだけ上げることが出来ても分解能が悪ければ結局は何が映っているかわからないの。その分解能の性能が紫外線顕微鏡はいいのよ」

「電子顕微鏡より?」

「さすがにそれは無理。あくまで光学式の顕微鏡の中でって事。一般的には0.1マイクロメールが分解能の限界って言われているんだけど、紫外線顕微鏡ならその2~3倍、0.05から0.03マイクロメートルくらい。そしてこれの分解能は0.02マイクロメートルよ」

 自慢げに話す悠理は気持ちが良くなって来たのか大きく胸を張って堂々と説明する。

「へー」

「へー、じゃないわよ! それだけ?」

「え、あぁ、まぁ、既存のものより性能が良いなんて、そうあるわけじゃないしな、やるなぁ」

「でしょー。頑張ったんだからね」

 作品の説明が終わると、悠理はプレートとケースを物質化しブースを完成させた。


「これで、完成っと。じゃあ、優斗の所に行くわよ」

「え、なんでだよ~。後で見れるじゃねーか」

「何言ってるのよ。私が最初に見せたんだから、私が優斗の作品を最初に見る権利があるわよね!」

 ったく、これが目当てだったんじゃないのか? 本当に……。

「へいへい」

「そうそう、さっさと行くわよ」

 張り切る悠理の後ろを歩き、クリスのブースの前を通過する。

 まだ、クリスはブースに来ていない様だ。

 そのまま、無人のブースを素通りし、部屋の一番奥のブースへと到着する。

「早く見せてよぉ」

「せかすなって。ビルド」

 昨日、設置した通りに作品が物質化されていく。

 土台と作品の物質化が完了した所で、悠理が不機嫌な様子で声を荒げる。

「ちょ、ちょっと! 何よ! ただの懐中時計じゃない?!」

「そうだけど?」

「『そうだけど』じゃないわよ! こんなんじゃ、クリスに勝てないわよ!」

「そんな事ないって、結構大変だったんだぞ!」

「何言ってるの! 確かに綺麗だし、複雑そうな仕掛けがありそうだけど……。でもね、これじゃあ勝てないでしょ!」

「大丈夫だって」

「『大丈夫、大丈夫』って、もう聞き飽きた! ふん! もういいわ!」

「お、おい」

 悠理はこちらの話も聞かず、足を踏み鳴らしながら自分のブースへと戻っていった。

 とりあえず、残りのプレートとケースを物質化し、ブースを完成させる事にする。


 ブースが仕上がった頃に遅れてクリスが向かってくるのがわかる。

「やぁ、ユウト。もうブースの準備は終わったかい?」

「あぁ、今終わった所だ」

「そうか……。ユリがなんか騒がしかったような気がするが?」

「あ、あぁ、ちょっとご機嫌ナナメになったようだ……」

「ユウト、乙女心は丁寧に扱わないと……」

「そ、そうだな……はは」

「では、後でゆっくり見させてもらうよ。それじゃ、こちらはブースの準備があるのでね」

「こっちも楽しみにしてるぜ」

 軽いやり取り後、クリスは踵を返し自分のブースへと向かった。

 さてと、後は始業のチャイムが鳴るのを待つのみだな。

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